Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

273 / 297
こんにちは。

FGOではオーディール・コールがもうすぐ始まりますね。
最初はどんな物語になるのか。新たな英霊は誰なのか。
気になりまくりです。
それはそれとして送られて来たフォウ君や聖杯の数にびっくりしました。


さて、ではこっちの物語をどうぞ。




余裕がない

909

 

 

お饅頭とお茶。

これはおやつの時間や飲茶の定番セットだ。口にもぐりと放り込んでお茶で流し込むと旨さが広がる。

 

「ふむふむ。蜀にいる陳宮さんと同じ名前なだけの陳宮さんなんですね」

「ええ」

「しかも呂布も同じ名前。面白い偶然ですね~」

 

飲茶をしているのは呉の軍師陣と藤丸立香とカルデアの陳宮である。

呉の軍師陣と言っても冥琳を抜いた穏、包、亞莎の3人だ。冥琳はまだ仕事中である。

 

「まあ、蜀の陳宮さんと目の前にいる陳宮さんの違いなんて全然知らないですけどね」

 

蜀の陳宮の事はよく知らないのでカルデアの陳宮と比較は出来ない。話の始まりが蜀に呂布奉先とその軍師である陳宮がいると知っていたからこそカルデアの呂布奉先と陳宮が現れた時に「おや?」と思った程度なのだ。

 

「性格は全く違うよ」

「そりゃ同じ名前なだけで別人なんですから性格が違うのは当然じゃないですか」

「そうなんだけど…実際に会って比較したらきっと分かる」

「そうなんですね~」

 

同じ名前だからと言って共通点は同じとは限らない。きっと蜀の陳宮(音々音)とカルデアの陳宮を見比べたら、驚くとはいかなくともギャップはある。

 

「ち、陳宮さんも軍師なんですよね…同じ軍師として色々とお話してみたいです」

「これはこれは亞莎殿。私も同じですよ」

 

陳宮も異世界の軍師と言葉を交わすのは興味深い体験だ。蜀では朱里や雛里たちと言葉を交わし、今は呉の亞莎たちと交わしている。

カルデアでは様々な国の軍師や参謀と言葉を交わす事は探求心を刺激する。異世界も同じで英霊となる前では絶対に体験できない状況だ。

 

「陳宮さんはどのような策がお得意ですか~?」

「やはり自爆ですね」

「「「え?」」」

 

やはりブレない陳宮。藤丸立香も横で苦笑い。

 

「え、えーっと自爆ですか?」

「はい。兵1人を犠牲に…敵軍に突撃さえすれば、一網打尽にします」

 

良い笑顔で残酷な事を言う陳宮に対して穏と亞莎は何とも言えない表情をしていた。しかし包は陳宮の自爆特攻に理解を示した。

 

「おお~良いですね。仲間を犠牲にするのはどうかと思いますが少ない犠牲で敵軍を大きく崩すのは理に適っていると思います」

 

戦争は合戦でもある。戦えば少なくない数の命が消えるのならば最初から少ない犠牲で敵を多く屠る方法があれば有効だ。それが非人道的であっても。

 

「あとは圧倒的な超人を突っ込ませ、暴れるだけ暴れさせて自爆させるのも良いですよ?」

 

チラリと李書文(槍)と試合をしている呂布奉先を見る陳宮。

 

(あの~立香さん?)

(なに穏?)

(この人本当に軍師ですか? なんか策が自爆しかなさそうなんですけど…)

(バッチシ軍師。超軍師)

 

陳宮も様々な策を張り巡らせる事は出来る。

 

(な、何と言うか想像よりも斜め上の内容ですね…)

 

亞莎としてはどのような陣、指揮系統とかの内容かと思っていたが、まさかの「突っ込んで暴れて合図したら自爆しなさい」とは予想外過ぎたのである。

この反応は朱里や詠も同じであった。しかし陳宮はその策で戦に勝ってきたので誰にも文句は言わせない。実際に戦ったら相手は地獄を見る。

 

「いや~このパオを持ってしてもそのような策は思いつきませんね」

「包ちゃん。そのような策は私たちの軍では使えませんよ~。そもそも蓮華様がそんな策を許すとは思いませんし」

「ひゃわわ…そうですよね」

 

蓮華は優しい性格だ。最初から犠牲ありきの策を有用しない。

 

「蓮華殿ですか。私はまだ言葉を交わしてませんがマスターはどうです?」

「実はまだ。忙しいのか会話する暇もないんだ」

 

新たな呉王となり、こなす仕事が増えた。まだまだ一息をつける暇もないのかもしれない。

 

「私はまだ彼女の事をよく知りませんが…」

「陳宮さん?」

「なんというか王として余裕がなさそうですね」

 

今の言葉は不敬だが穏は否定できなかった。呉王となった蓮華は王として相応しいように振舞っているが、それが重りとなっているのか以前と比べて気を張り過ぎているのだ。

本人はそう思っていなくとも周囲からしてみれば余裕が無いように見える。やはり王として炎蓮や雪蓮と同じように、もしくはそれ以上になろうと焦っているからかもしれない。

 

「余計な言葉かもしれませんが、アレでは勝手に潰れてしまいますよ?」

 

陳宮の言葉に誰も否定できなかった。

 

 

910

 

 

雷火からの呼び出しがあった。

また怒られるのかと思っていたが、実際は謝罪である。その謝罪とは藤丸立香が呉に戻ってきた際に頭ごなしに怒りをぶつけてしまった件である。

冥琳も言っていた事が的中したという事だ。

 

「すまぬな立香」

「構いません。雷火の気持ちも分かりますから」

「そう言ってくれると助かる」

 

雷火も藤丸立香が居なかったのが悪いとは思っていない。所詮は「もしも」で考えたしまった事である。

 

「お主は悪くはない…ただもしもと考えてな」

 

「もしも」という言葉は後悔する言葉であり、望んでしまう言葉である。

 

「ほら雷火先生。立香くんも気にしてないって言ったでしょ」

「うむ。こ奴はそこまで小さい男ではない」

 

雷火だけでなく他にも粋怜や祭もいた。2人は謁見室での雷火の後が気になり様子を見に行っていたのだ。

実際に雷火は後で自己嫌悪に陥っていた。普段の自分らしからぬ姿で、理不尽に人に怒りをぶつけていた事を反省していたのである。

 

「雷火先生ったら珍しく落ち込んでいたのよ?」

「五月蠅いわい」

 

雷火が粋怜を黙らせようと叩こうとするが余裕で避けられる。

 

「また理不尽に怒られるかと思ってつい付いてきちゃいましたけど、大丈夫だったみたいですね」

「姉さん心配しすぎ」

「あはは…2人には心配かけちゃってたね」

 

藤丸立香だけでなく、実は徵姉妹も付いて来ていた。

 

「ごめんねうちの雷火先生が」

「だから五月蠅い。もう言うな」

「お主らは確か…」

「はい、私は徵側です」

「徴弐」

 

2人はせっかくだという事で出されたお酒をチビチビ飲んでた。

謝罪だけでは、という事でせっかくだから仲直りという意味でも飲みにそのまま誘われたのだ。そして徴姉妹とはそのまま交流である。

 

「だからと言って儂の部屋でせんでも…どこか良い店でも」

「今の気分は店というよりも自分の部屋で飲んだ方がいいんですよ」

「む…粋怜の言う通りか」

 

雷火はチビチビと酒を飲むのであった。

人にもよるが酒を飲むのは嫌な事を払拭するためでもある。酒飲んで暗くなるより、気分良く酔った方がこれからにも良いのだ。

 

「ほれ立香も飲めぃ」

「いや、オレはお茶で」

「頑なだのう」

「色々とあるんです」

 

ツマミを咀嚼してお茶を流し込む。

 

「……そうだ。蓮華様とは何か話したか?」

「それ冥琳にも聞かれたよ。実はまだなんだ」

「そうか…なら時間があれば蓮華様と話して欲しい。きっと今の蓮華様は誰かの助けが必要じゃ」

 

今の蓮華は呉王になったばかりだ。王として立派になろうと無茶をしている。1人だけで何とかしようと考え込み、周りを見えなくなっている可能性もあるのだ。

それこそ誰の言葉にも耳を傾けようとしなくなり、諌言しても逆に怒りを買ってしまうかもしれない。粋怜が特に恐れている事の1つだ。

だからこそ誰かが接しなければならない。ただそれがなんて事のない会話をするだけでも変化があるのだから。

 

「蓮華様は立派に王として職務を全うしていると思うがのう」

「確かに立派にお役目を果たそうとしているわ。ただお役目を果たす為に無茶し過ぎるのもマズイのよ」

 

無茶し、変に焦って自分を壊しては元も子もない。

 

「王という立場が蓮華様を苦しめておるのかもしれんな…」

「王としての立場…か。蓮華様は姉である雪蓮様のようになろうとしておるのかもしれん。尊敬し、好きであった姉をこれからずっと支えていくと思っていたからな。まさか姉である雪蓮様がお亡くなりになり、自分が後を継ぐとは思わなかったのじゃろう」

 

『王としての立場』という言葉に徴側は苦笑いで同意してしまう。そして姉を亡くしたという気持ちは徴弐が同意する。

 

「だいす…尊敬する姉を亡くすというのは心に大きな穴が空くものだ。彼女の気持ちは分からないでもないね」

「弐っちゃん…そうだね。……王となって民たちを臣たちを導くというのはとっても大変ですよ。王のたった一言で運命も未来も決まってしまうのですから」

 

王は国の頂点だ。王の言葉で国に住まう民たちの運命を決め、豊かにするし、狂わせもする。王であるだけで人の未来を決めてしまう力があるという事だ。

だから王は普通の者ではなれないし、耐えられない。徴側も徴王と名乗って反乱勢力を率いた旗頭時代ではとても辛かったのだ。

穏やかながら沈着冷静になろうと努力していた。冷静に着いて来てくれた部下の報告を聞き、全てにおいて冷静な判断を下して導いてきた。しかしそれは表向きの顔であり、信頼できる妹の徴弐の前では、つい弱音を吐いてしまうものだった。

 

「彼女には親身になって相談に乗ってくれる人が必要かもしれません」

「雪蓮様の場合が冥琳だったからな」

 

炎蓮の場合は誰だ、になると3人が喧嘩になりそうだから口を閉じる藤丸立香。

 

「仲謀殿の横には誰か居ないのですか?」

「そうさな…蓮華様の場合だと思春じゃな。しかし今は任務で居ない」

 

思春であっても今の蓮華は誰も近寄らず雰囲気を出すかもしれない。2人は良いコンビだが雪蓮と冥琳程の絆の強さはまだないのだ。

 

「もしくは立香じゃろう」

「マスターが?」

「炎蓮様も雪蓮様も蓮華様の横に立香を付けようかと考えていたそうじゃからな」

 

蓮華は孫家の中でも少しだけ異質だ。異質という言い方では彼女を非難してそうに思えるが、そうではない。

彼女には炎蓮や雪蓮、更には小蓮とは違って荒々しい気だけでなく、冷静な気も持っているという事。武術で言うならば動と静の気の両方を持っているようなものである。

 

「だからこそ立香には蓮華の横に居て欲しいのじゃ」

「そうね。最悪だと…私たちの言葉を聞かなくなるかもしれない。でも立香なら大丈夫だとお姉さん思うのよね」

「まあ、マスターならそういうのは得意だし…大丈夫じゃない?」

 

人生相談もといメンタルケアよろしくお願いしますと言われたようなものであった。

 

「簡単に言ってくれるね。徴弐も」

「百、二百以上を優に超えるくらいの相談をしてきたマスターでしょ」

「それは否定しないけど…寧ろ誇るところかな?」

「なら大丈夫だよ。たぶんだけど…彼女にはマスターが横に居た方がいいと思う」

 

 

911

 

 

呉は天下統一に向けて立て直しを始めるが順調に進んでいるとは言えない。

家督相続後の争いはこの世の常と言うものなのかもしれない。雪蓮というカリスマ、圧倒的な武力をもって揚州統一を果たした彼女が世を去った事で、やはり不穏な空気が流れ始めた。

その火種が灯ったのは会稽南部や盧陵郡などのいわゆる山越族と呼ばれる異民族の支配地域だった。

 

「蓮華様」

「冥琳。待っていたぞ。山越の王たちからの返書は届いたか?」

「ハッ。しかし、残念ながら」

「そうか」

 

山越族。

揚州南部や交州に暮らす異民族の総称であり、集落は数多く存在する。その力は侮れなく、冥琳も警戒している。

 

「山越族は亡き大殿の代から刺史の劉耀様ではなく、我ら孫呉と盟約を結んでおった。雪蓮様の代においてもそれは形としてどうにか続いておったのじゃが…」

「ええ。此度、雪蓮の死によってあの者たちもとうとう、我らとの盟約を破棄するに至ったのだ」

「つまり孫呉に愛想を尽かしたんですねー。…ひゃわわ!?」

 

頭を守るように両手で覆う包。

 

「何じゃ?」

「い、いえ、またお師さんの鉄拳が飛んでくるかと思って…」

「もういい加減に慣れたわ」

「おお、それは良い傾向ですね。歳を取ると誰しも気が短くなるものですが」

「たわけ!!」

「ひゃわーっ!?」

 

やはり一言多いのであった。狙って言っていないのだから質が悪い。カルナは言葉が一言足りないが包の場合は一言多い。

 

「……おほん。とにかく一方的な向こうの言い分に対してこちらが何度も使者を送り、交渉を進めるよう努力して参りましたが今のところ色良い返事は戻って参りません。それどころか我らと一戦交える気配のようで」

「ふむ」

 

蓮華は冥琳の言葉の意味を理解する。それはこれから戦が始まるかもしれないという事だ。

 

「だったら即、戦ですね」

 

ピシャリと包が蓮華の思っていた事を口にするのであった。戦をするかは置いておいて。

 

「何を申すか。蓮華様は家督を継がれたばかりぞ。やるべきことは山ほどある。今は戦などしておる余裕はない」

「でもー、この動きを見過ごしたら、雪蓮様が家督を継がれた時みたいにまた揚州全土で大規模な叛乱が起きるかもしれませんよ?」

「そうならんよう豪族共には手を打ってある。第一、かような時に国内で戦を始めてみよ。雪蓮様亡き後の孫呉が乱れておることを他国に対して宣言するようなものじゃ」

 

何かを言おうとしていた蓮華は黙る。確かに彼女は王になったばかりで戦をしている暇がないとも言える。

 

「は、はい。私も戦には反対です。あくまで話し合いでことを進めるべきかと」

「そうですね~。曹操さんだっていつまた呉へ矛先を向けるかもしれませんし~」

 

亞莎と穏も雷火に賛同した。

 

「えええっ、そろいもそろって呉の軍師の皆さんはなんでそんなに弱腰なんですか」

「冷静に現状を見据えておるだけじゃ」

「パオだってそうですよ」

「私も包に賛成だな」

 

冥琳は包に賛同した。てっきり戦はしないものかと思っていた蓮華であったが冥琳の言葉に意外を感じてしまった。

 

「え、冥琳?」

「雷火殿の御懸念はもっとも。しかし包の意見にも一理ございます。今は大人しく豪族どもも従っておりますが、山越族が公然と孫呉に戦を挑めばそれに呼応する輩が必ずや出るでしょう。乱の拡大を防ぐためにも…また、家督を継がれた蓮華様のお力を示す為にも此度は力攻めをもって山越賊を従えるのが上策かと存じます」

「んっ…あ、ああ」

 

蓮華はやや緊張した返事をしてしまう。まさか冥琳が雷火と意見が対立するとは思っていなかったのだ。

本当に戦うのであれば、これが家督を継いで初めての戦となる。

 

「ん~…確かにそう言われますと」

「ちょっとー。パオが言っても聞かないのに、何で冥琳様の意見だとみんな素直に聞いちゃうんですか!!」

「いいや、わしは戦に反対じゃ」

「おお、流石は雷火様。それこそパオのお師さんなのです」

 

何か逆になっている気がしなくもないが誰もツッコまない。

 

「まあ、あくまでご決断をされるのは蓮華様でございますが」

「これで意見は出そろったか。蓮華様のご判断は如何に?」

「ああ………う、うむ」

 

蓮華はしばし、俯いて考え込む。てっきり多数意見の戦はしないかと思っていたが意見が割れてしまったのだ。

彼女はどちらが正解か考えてしまい迷ってしまっている。その表情は母と姉であれば、そう判断するかを考えているようにも見える。

 

「蓮華様、如何されたか?」

「戦ですか。それとも話し合いですか?」

「ん………んん」

 

蓮華は決められない。悩んでしまうだけだった。自分の判断1つで戦争が起きるのだ。普通だったら即決できるものではない。蓮華は国を背負い、孫呉の民の命を背負っているのだ。

だからこそ慎重に決めねばならないのだが、上手く決められなかった。

 

「蓮華様?」

 

臣下たちは王の判断を待つしかない。

 

 

912

 

 

城の庭にて。

時刻は既に夕方で空はオレンジ色になっていた。

 

(はー…私は何をやっているの)

 

庭の道を歩くは蓮華である。その足取りは重く、ため息も重い。

 

(孫家の当主だというのに、あんな大事な事をその場で決められず、先延ばしにするなんて)

 

山越賊との戦をするか否かだが彼女はは答えを出す事は出来ずに終わった。一日考えると言って執務室を出ていってしまったのだ。

今の彼女ではっきりと答えは出ない。考える言ったが実はあの場から逃げたいという本音があったのだ。

 

(戦か…私の命令で多くの兵が死ぬ。民は家を、田畑を失う)

 

彼女は王だ。彼女の一言次第で呉の運命は決まる。

その覚悟は出来ていたはずだった。姉である雪蓮かた南海覇王を受け取った時から。

 

(母様に皖城を任された時だって私は何度も1人で戦を経験している。思春とも戦った……でも、今は)

 

今の自分では前みたいに勇敢に戦えるのか。山越賊と戦って勝利できるのか。このまま戦ったら負けてしまうのではないか。

頭の中は負のイメージでパンクしそうになりそうになる。これが当主となった者の重圧。戦場の兵や民の命だけではなく彼女の決断が孫呉の将来を大きく左右する。

 

(姉様はどうやってこれを乗り越えたの?)

 

偉大で尊敬する姉。姉である雪蓮が王として孫呉を導き、蓮華がそんな偉大な姉を支えるものかと思っていたのだ。

 

「ふー…」

(ん?)

 

誰かのため息が聞こえてきた。その誰かとは冥琳であり、更に彼女の横には穏もいる。2人は蓮華の気配には気付いていなかった。

 

「……性急過ぎたか」

「性急?」

(あれは…集まって私の話をしているのか?)

 

蓮華はつい見つからないように隠れて聞き耳を立ててしまう。

 

「雷火殿のおっしゃる通り、此度は戦などせずに話し合いで進めるのが道理に適っている」

「え、でも」

「蓮華様には早く戦を経験していただきたいのだ」

「あ~」

 

納得した顔の穏。

 

「内政手腕に関しては率直に言って蓮華様は雪蓮よりも優れた才覚をお持ちだ。だが、戦に関してはまだ分からん。この乱世、いくら国を豊かに繁栄させようとつまるところ、戦に勝てぬ、戦に弱い君主では国は滅びるしかないのだ」

 

冥琳らしい厳しい意見である。蓮華の事を認めているが戦に関してはまだ頼りない部分があるという事である。

そう考えれば異民族討伐は蓮華の腕試しには丁度いい戦なのだ。初戦がいきなり最大の敵である曹操では圧倒的に経験値の差がありすぎる。

要は肩慣らしが必要なのである。

 

「おう。どうしたのじゃ」

「あら何の悪だくみ?」

(祭に粋怜まで)

 

冥琳と穏の話合いに祭と粋怜も加わる。

 

「実はですね…」

 

冥琳は蓮華についての事を祭たちに話す。

 

「なんじゃ、左様なことであったか」

「蓮華様はそれほどお悩みなのね」

「まあ、蓮華様には大殿や策殿と比べて優しげなところがおありじゃからな」

「戦に慎重なのは悪いことではないわ」

 

やはり炎蓮や雪蓮と比べて蓮華の戦はまだ頼りないというイメージはあるようだ。しかし認めていないというわけではない。

 

「されど、策殿は家督を継がれた時から勇んで戦に臨んでおったの」

「あの時は次々と叛乱が起こって戦以外の選択がありませんでしたからね」

 

尤も雪蓮は家督を継ぐ前から戦好きであった。そして粋怜が言うように雪蓮の時と蓮華の時では状況が違う。

 

「炎蓮様と同じで雪蓮様は戦の化身のようなお方でした」

「蓮華様も将として優秀なお方だ。だが、主君として呉軍全体を指揮するとなったらまるで勝手が違う」

「どうであろうな。儂は問題ないと思うが」

「ご決断ができるかよね。私たち家臣は想像するしかないけれど。国を背負って戦をするかどうか…それを決めることは並大抵の心構えじゃできないと思うわ」

 

将として軍を指揮するのではなく、王として国を指揮し、戦う。それは全くもって異なり、重圧は比較できない。

 

「ふ~む…蓮華様は孫家の血筋にしては、いささか控え目なお方じゃからな。姉上を支え、姉上をずっと立ててこられた」

 

まさか雪蓮が亡くなり、自分が当主になるとは思ってもみなかったのだ。

 

「大殿も後継は雪蓮と決められていた。雪蓮さえ生きていたら今のようなご苦労もなく、一門衆の筆頭として雪蓮にお仕えできたであろうな」

「そんなこと言ってもしょうがないわよ。現実に今のご当主は蓮華様なんだから。至らない部分があれば我らが支えればいいだけ。そのために私たち家臣がいるんでしょ?」

 

冥琳達は蓮華に対して不満を言っているわけではないが今の蓮華にとってソレは不満にしか聞こえなかった。

彼女は気付かれないようにその場を後にする。

 

(……そうか。やはり、私はそんな風に…家臣たちからも頼りない君主だと思われていたのか)

 

 

913

 

 

八傑衆。響きはカッコいいが中身はならず者が8人集まったにすぎない。

八傑衆という組織名は、その集まった8人が決めたわけではなく、于吉が勝手に付けた名だ。

 

そもそも彼らの正体は山賊で『黒山賊』という名だったのだ。黄巾の乱の時期と同じくらいに結成し、膨れ上がった山賊で順調にいけば黄巾党よりも大きな組織になるはずだった。しかし于吉によって五胡にスカウトされ、黒山賊は大陸に名が広まる前に黄巾の乱が鎮圧される頃には消えたのだ。

 

「嘘かどうか分かりませんが黒山賊の最盛期は100万も集まったそうですよ」

「それが本当だったら別世界のボクらは凄いね。だというのにこっちのボクらときたら…まあいいや。そっちでは誰が首領だったの?」

「張牛角で…その後は張燕が首領になってましたね。一大勢力までに膨れ上がらせたのは張燕のおかげでもありましたね」

「張燕か。なんか納得。こっちでもあいつが一番頭が良かったというか世渡りが上手かったし」

 

お茶をズズズっと啜り、杏仁酥餅を齧る。

于吉と飲茶をしているのは八傑衆の1人である浮雲。

 

「別世界のボクらはこっちよりも凄かったんだ」

「凄いかどうかと思うのは人によりますよ」

 

浮雲は別世界が存在する事を于吉より知らされていた。最初はそんな事を信じられなかったが「ある術」にから信憑性を得たので信じたのである。

 

「こっちのボクらは何というか小物だよ。まあ、あっちのボクらよりかはだいぶマシとは思う。でも負けたら変わらないんだ。負け犬なんだよ」

 

八傑衆は浮雲以外全員敗北した。

 

「あっちのボクらより強い力を得たのに負けるなんて。しかも張牛角のやつは因縁の趙雲に結局負けたから未来は変わらなかった」

 

やるせない気持ちになりながらため息を吐く。

 

「ボクらはどの世界でも小物なんだなー…最悪だ」

 

自分の数ある未来はどれも反吐を吐くほど最悪だ。だからこそ浮雲はより良い未来のために暗躍する。

 

「このボクは他のボクとも違う。他の八傑衆とも違う。このボクは強いんだ。国だって亡ぼせる力を持ってるんだ」

「ええ。貴方に与えた力は使い方によっては国を亡ぼせます。そもそも他の方にも国を亡ぼせる力を与えたんですけどね」

「使い方がなってないんだよ。でもボクは違う。上手く使いこなしてみせる。この僕は未来を変える。あんな糞みたいな未来なんて嫌だからな」

 

彼の周囲に霧なのか靄のようなモノが発生していた。

 

「だいぶ使えるようになってますね。この私でさえ術中に嵌りそうですよ」

「またまた」

「さらに私の教えた術も組み合わさればエグイでしょうね」

「うん。他の八傑衆が出来なかった国堕としをしてやる。ボクが呉を潰してやる」

 

浮雲はその場から消えていた。

 

「頼みますよ浮雲。今の呉ほど潰しやすい国はありませんよ」




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新はまた2週間以内を目指します。


909~910
カルデアと孫呉とのちょっとした交流。
そして今の蓮華についての話。大体、同じ意見になってます。


911~912
ここは原作と同じ流れになります。
蓮華が王としての重圧に悩まされ、心も弱まっているというのが分かる話でしたね。


913
八傑衆最後の1人が動き出します。
彼はある術や于吉によって別世界やもしもの未来を知っています。
そんな未来が嫌だからこそ彼は未来に逆らいます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。