Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
遅れましたがやっとこさ更新です。
FGOでは塔イベントをまだゆっくりと攻略中です。
……残り時間でクリアできるだろうか。
来週ではついにFGOが8周年。
どのような情報があるのか気になりますね!!
924
大切な家族が亡くなった時、残された肉親は悲しみに沈むものだ。
また家族に会いたいと思うが死んだ者が蘇る事は無い。それが自然の摂理だ。しかし奇跡ともいえる事が起きれば自然の摂理を超える事があるかもしれない。
「母様…姉様」
蓮華の視界には信じられない光景が写っていた。亡くなった母親と姉が目の前にいるのだから。
「母様、姉様…生きていたのですね」
涙で視界がよく見えない。悲しみの涙は我慢できても嬉しい涙は我慢できない。
蓮華の視界に映る2人は穏やかな笑顔を浮かべていた。
「母様、姉様…私は、私は王にはなれません。その資格がない…器がない」
彼女は蹲りながら懺悔するように炎蓮と雪蓮に心の奥底を吐露していく。
「私じゃ呉の民を導くことが出来ない。私には力が無いの母様、姉様」
蓮華は炎蓮や雪蓮のようにはなれない。2人のように勇敢になれない。2人のように強い武人ではない。
弱い自分では呉王になれなく、そもそも民も臣下も付いて来てくれない。このように弱い王に誰も付いてくるはずがない。
「私じゃダメなの。やっぱり王は母様か姉様じゃないとダメなの!!」
声を荒げてしまう。不甲斐ない自分では王になれない。自分では呉を潰してしまう。
その彼女の本音に2人は穏やかな顔をしながら『理想の廊下』を歩いて次の部屋へと行く。
「待って母様、姉様!?」
蓮華は慌てて転びそうになりながらも2人を追いかける。次の部屋は『貝の部屋』。
『理想の廊下』に残るのは藤丸立香ただ1人だけ。彼は目が虚ろになりながらも遠くを見つめていた。
「あはは、完全にボクの術中だ。あの孫権は良い夢を見てる。そしてカルデアとか言う奴らの首領もボクの術中だ」
ゆらりと現れたのは浮雲。最後の八傑衆として彼は呉を潰す。
「こんな簡単に術中に嵌ったけど、そこまで警戒する程の奴なのか?」
于吉はカルデアなる者たちには警戒しろと言っていたが、こうも簡単に浮雲の術に嵌ってしまっては呆気ないと思われるのは仕方がない。しかし彼はそれでも油断しない。
八傑衆は浮雲以外、全員が敗北した。その敗北の理由にカルデアなる者たちが含まれていたのだ。
「術に嵌ってるけど不本意にボクは近づかない。ボクの目的は孫権さえ殺せればいいんだから」
ゆらりと浮雲の背後に現れるのは2体の鬼。
「下級の鬼だけど今のこいつにはコレらで十分だ」
唸り声を上げながら2体の下級鬼は藤丸立香に近づく。
「おい、不用意に近づくな。様子見しろ。何も起きなければ食い殺せ」
下級鬼に指示を出し、浮雲は『理想の廊下』から『貝の部屋』へと歩いて行く。
「こいつがどんな夢…理想を見てるか知らないけどさ。夢は覚めるものだ。酷い現実にね」
ニヤリと笑う浮雲。
「孫権も良い夢が見れただろう。そろそろ現実を見せてあげよう。君は呉の王にふさわしく無かったから死ぬんだ」
彼は孫権の後をゆっくりと追うように『貝の部屋』へと入って行った。
『理想の廊下』に残るは藤丸立香と下級鬼2体のみとなった。
「ろ………だ……し……ま……オレは……」
彼は浮雲の術に嵌ってしまっていた。蓮華が理想を見ていたように今の彼も自分が思う理想を見ているのだ。
もしも自分がカルデアのマスターでなければ別の未来があったかもしれない。もしもAチームが無事だったら未来は今より良かったかもしれない。
汎人類史を救う旅の中でもっと良い最善策があったかもしれない。もっと多くを救えたかもしれない。犠牲なく全てを救えたかもしれない。
「………もっと良い方法があったかもしれないんだ。もっと救えたかもしれないんだ」
最善ではなく最良を掴んできたが、最善を尽くす事も出来たかもしれないのだ。
「もっと……もっと…オレが上手くやれてれば…」
藤丸立香の視界に映るのは思い描いた『理想』だ。
「……………これは理想だ。理想なんだな」
彼の視界に映るのは所詮ただの『理想』だ。
理想とは考えうる最も完全なモノであり、己の心の中に描き続けるモノだ。それは空想でしかなく、現実にはなりえないモノである。
「こうだったら…本当に良かったよ。でもこれは理想なんだ。現実じゃないんだ」
理想だからこそ藤丸立香は現実ではないと気付いてしまったのだ。理想は思い描くだけで現実には叶えられない。
叶えられるというのであれば『今の自分とはきっと違う』のだから。しかし今の自分はきっともう戻れないのだ。
「これは…幻だ」
優しい嘘に飲み込まれたままだったら楽になれたかもしれない。しかし彼は楽になるわけにはいかなかった。逃げるわけにはいかないのだ。
虚ろな眼は光を取り戻し、強く開く。手に刻まれた令呪が光り輝く。拳を強く握りしめる。
「グルルル!?」
「グロロロ!?」
まさかの事態に下級鬼2体は藤丸立香を食い殺そうと動いてしまう。
「令呪を持って命じる。来てくれ!!」
925
『貝の部屋』で懺悔するように膝をついているのは蓮華。彼女の目の先には母親と姉が写っている。
亡くなったと思っていた大切な家族が実は生きていた。これほど嬉しい事は無い。そして彼女は家族だからこそ吐露出来る本音を言ってしまう。
「母様、姉様。私は王にはなれないのです。母様か姉様が王になるべきなのです」
自分では王にはなれない。自分より王にふさわしい者がいるのであれば、譲るべきなのだ。
炎蓮も雪蓮も蓮華よりも王にふさわしい。生きていたというのであれば彼女たちが王に返り咲くべきである。
「私では頼りないのです。力不足なのです。民も臣下も皆、母様か姉様が良いと思ってます」
これは本音である。自分では王として頼りなく、炎蓮と雪蓮の方が王としての資格がある。民も臣下も2人が帰って来たら民と臣下も喜ぶはずだ。
きっと蓮華よりも炎蓮や雪蓮の方が良いと言うはずなのだ。
「2人もそう思っているはずです」
不甲斐ない自分に対して拳を強く握ってしまう。そして2人が生きていて王から降りられる事に安堵してしまう。
「2人の書き置きを読みました。母様も姉様も私は王ではなく将としての方が才能があると…」
謎の楼閣内で通った2つの部屋にて見つけた書簡。
内容は蓮華に対してのモノであり、評価である。内容は簡単に要約すると彼女が言った通り、『王としては器不足であるが将としてならば有能である』といったモノだ。
この評価に関しては納得してしまっている。自分は王として民や臣下を導くよりも将として王を補佐する方が性に合っているし、己も母や姉を補佐していくものだと思っていたのだから。
「私が王では呉を滅ぼしてしまう。曹操に負けてしまう。でも母様と姉様なら…!!」
自分ではなく炎蓮と雪蓮であれば呉を発展させられる。曹操にも負けないはずであると思っている。
「こんな…愚かな事を言っている私を罰しても構いません。でも…呉を守るには私が王よりも母様と姉様が王であるべきなのです!!」
こんな弱弱しく、情けない姿を晒しているのが呉王だ。その姿に憐れみしか感じない。
「ま、こんな姿にさせてるのがボクなんだけどね」
ゆらりと『貝の部屋』に佇んでいるのは八傑衆最後の1人である浮雲。
「良い夢を見させてあげたのに、まさかこんな姿を見るとは思わなかったよ」
こんな弱そうな彼女が呉王とは逆に笑えないものだ。
「于吉さんの言っていた事がよぉく分かったよ」
前に今の孫呉は潰しやすいと言っていた意味がここでカッチリと理解できた。
国の頂点たる王がここまで精神的に弱まっていたというのであればつけ込みやすいものだ。そして浮雲の能力が異常なほど効くという意味もだ。
「今の呉…というよりも孫権にはボクの能力がとても効いている。だって今の彼女は周りが全く見えていない。今見えているのはそこにいる2匹の鬼なんだから。まあ、鬼じゃなくて母親と姉に見えているようだけど」
浮雲の能力は于吉より与えられたモノが2つ与えられているのだ。
1つは于吉より教わった幻術。そしてもう1つは植え付けられたのは妖魔『蜃』である。
「幻術と蜃の力の合わせ技。強力な攻撃性は無いけどいいんだ。人を惑わすだけで人は壊れるんだから。幻で感じた思い込みって怖いよね」
藤丸立香たちが迷っている謎の楼閣は幻術と蜃の力を合わせて展開したものだ。呉の城を豪華絢爛の楼閣に見せているだけだ。
ここは謎の楼閣という景色を張り付けた呉の城である。藤丸立香たちは一瞬で謎の楼閣に転移したというわけでなく、視界を騙されているだけで呉の城内を迷っているだけである。
「ボクは獲物を騙す。獲物を殺すは鬼」
今や呉の城内は浮雲の狩場である。彼が狩場に得物を誘い込み、鬼が獲物を仕留めるという構図なのだ。
「呉の臣下共やカルデアの奴らもボクの術中。ちょっと悪戯心が芽生えちゃったけど……面白かったからいっか」
思い込みとは本当に怖いものだ。ちょっとした切り傷でも幻で大きな傷だと見えてしまえば脳が勘違いして身体が本当に大きな傷を負ったとして反応する時がある。ある意味、プラシーボ効果のようなものだ。
例えばマッチ棒程度の火でも幻で大火事レベルに見えてしまえば、その熱さが本当に大火事に感じてしまうかもしれないのだ。
藤丸立香たちは幻に掛かって勝手に大きな思い込みをして道化を演じていたのである。
「さて、そろそろ鬼に食い殺されてるころかな」
以前に張燕に渡した鬼は下級鬼だ。今回、浮雲が連れてきた鬼は下級鬼よりも出来の良い上位の鬼たちである。
出来の良い鬼や特別製や進化した鬼の強さは下級鬼に足元にも及ばないのだ。
「さてと…そろそろ孫権には夢から覚めてもらおうか。今の孫権を見ても面白くないし憐れなだけだ」
今の蓮華は母親と姉に懺悔と弱音しか吐いていない。最も本当は母親と姉でなく鬼であり、その部分に関しては笑えると思う浮雲である。
「死んだ人間が蘇るはずが無いんだよ孫権。でも…良い夢は見れたかい孫権?」
蓮華が幻で見ている炎蓮と雪蓮の正体は鬼であり、更にただの鬼ではなく特別な鬼でもある。
「黄巾鬼…いや黒山鬼。孫権を食い殺せ」
蓮華に穏やかな顔を向ける炎蓮と雪蓮の正体は黒い布を纏った盗賊風の鬼。
元々は黄巾鬼と言うらしいが浮雲の好みで黄色い布から黒い布に変えて黒山鬼と名付けただけである。
「母様…姉様」
今の蓮華には炎蓮と雪蓮が穏やかな顔で手を差し伸べている姿しか見えない。しかし実際は黒山鬼が食らおうと手を伸ばしているだけだ。
「じゃあね孫権。君は終わりだ。そして呉も終わりだ」
黒山鬼が蓮華を喰らおうと捕まえようとした時、誰かが彼女に向かって体当たりするように抱き抱えて跳んだ。
「は?」
まさかの事態にポカンとする浮雲。
「な、なに?」
「蓮華さん無事!?」
蓮華を黒山鬼の手から助けたのは藤丸立香であった。
926
『貝の部屋』にて藤丸立香は蓮華を黒山鬼から救った。しかし彼女は救われたと思っていない。寧ろ何故、母親と姉の手から遠ざけたのかと憤慨するくらいだ。
2人は見えているものが違うのだから当然であるが、今はその違いが亀裂を生じさせる。
「な、何するのよ立香」
「何するって…助けたんだけど」
「助けるも何も私は大丈夫よ。それよりも母様と姉様が…」
「炎蓮さんと雪蓮が?」
藤丸立香の目には炎蓮と雪蓮は何処にも見えない。見えるのは黒山鬼が2体いるだけである。
「……蓮華さん。炎蓮さんと雪蓮はここには居ないよ」
「何言ってるのよ立香、そこに2人がいるじゃない」
蓮華の視線の先には黒山鬼がいるだけで炎蓮と雪蓮は居ない。彼女は黒山鬼が母親と姉に見えているのだ。
(やっぱり彼女も幻を見ている)
現在、この空間は幻術にかけられている。藤丸立香も先ほどまで幻術に掛けられていたのだ。
その幻術を発動している張本人こそ八傑衆の浮雲である。
(な、何でだ。何でアイツ、ボクの幻術から解かれているんだ!?)
動揺したがすぐに深呼吸して冷静になる。
(アイツが無事だって事は下級鬼はやられたか。やっぱ于吉さんの言う通り油断できないヤツだ)
幻術を解き、下級鬼も倒している。警戒度をより上げる。
(だが、まだボクの術中だ。何せ孫権がボクの掌だしね。きっと奴らはそれどころじゃなくなる)
正常な者と幻覚に掛けられた者とでは会話は上手く噛み合わないものだ。
「蓮華さん落ち着いて聞いて。そこにいるのは炎蓮さんと雪蓮じゃない」
「何言ってるの立香。母様と姉様よ。何でそんな事を言うのよ!!」
「だって2人は」
「死んでない。母様と姉様はそこにいる!!」
彼女の目には炎蓮と雪蓮が写っている。だからこそ2人が死んでいると認めないのだ。
目に見えているのに何故、死んだと言えるのかということである。しかしソレは蓮華の頭の中だけである。
「母様と姉様がいるなら全て上手くいくのよ!!」
「蓮華…さん?」
「私が王よりも母様と姉様の方が良いに決まっている!!」
急な本音の吐露に一瞬だけ圧された。しかし藤丸立香は彼女の本音を受け止め、辛い現実を言うしかない。
「蓮華さん。2人は居ないんだ」
「居るじゃない。何で嘘を言うのよ。言って良い事と悪い事があるわ!!」
やはり彼女は見えていない。幻術によって別のものが見えている。
「何で蓮華さんが王じゃダメなんだ。今の王は蓮華さんだ」
「私じゃ駄目なのよ。私は王としての器が無い…」
心の奥底に隠していた本音がボロボロと口から出ていく。
自分は王としての器が無い。自分は母親や姉よりも弱く、威厳もない。弱い王では国も臣下も民も滅ぼしてしまう。
こんな自分では呉王としてふさわしくない。であれば呉王にふさわしい炎蓮か雪蓮がなるべきだ。
「母様と姉様がいるなら私よりも2人が王になるべきなのよ。だって、それなら間違いが無い!!」
蓮華の中では2人こそが理想の王なのだ。理想は理想であって彼女では2人のようにはなれない。
「私よりも母様と姉様が王になるべきなの。だって皆は私を王として認めてないんだから!!」
「そんな事ない。皆、蓮華さんを認めてるよ」
冥琳たちが彼女を王として認めてないわけがない。
だからこそ彼女を支えていこうと心に決めている。しかし蓮華はその気持ちに気付いていない。
「認めてないわよ。だって言っていたわ。私は頼りない王だと!!」
以前に耳に入ってしまった冥琳たちの会話。確かに今の彼女は未熟だからこそ支えていかねばならないと言っていたが王として認めていないわけではない。しかし蓮華は自分が認められていないと思ってしまったのだ。
「冥琳や梨晏は姉様の方が良いに決まっている。祭たちだって母様の方が良いに決まっている。私は王よりも…将程度が合ってるのよ!!」
「何でそんな…」
「母様と姉様だって私は王の器ではないと考えていたわ。王よりも将の方が身の丈に合っていると!!」
「2人がそんな事を言うはずがないだろ」
炎蓮も雪蓮も蓮華は王として器があると言っていた。寧ろ王の質は2人よりも上だとも言っていた。
(炎蓮さんと雪蓮は言っていた。自分たちでは戦って国は大きく出来るかもしれないが安定させるのは難しいと。でも蓮華さんはそっちの方面では自分たちよりも上だと)
「そんな事あるのよ。書状に書いてあった!!」
「書状?」
その書状は本当に2人が書いた物なのか。
「姉様は…最後の最後まで私を頼りない妹だと思っていたわ」
「そんな事ない」
「あるわ。冥琳…祭や粋怜、穏も。あの雷火でさえ私には必要以上に気を遣っている」
蓮華は自分の不甲斐なさを嘆くように首を振りながらまた本音を吐き出していく。
「それは普通だよ。蓮華さんはまだ当主になったばかりだろ。なら皆も気を遣うよ」
「姉様の時は違ったわ。雪蓮姉様だって、お母さまが突然亡くなられて急遽、家督を継がれる事になった。袁術に国は奪わてたけど…それでも姉様は家督を継がれた時点で立派な王だったわ。それに引き換え私は…」
彼女は気付いていなかったのか、今の自分で精一杯すぎて忘れてしまったのか。家督を継いだ時の雪蓮も明らかに自信を喪失して無気力になっていた時期があったのだ。それこそ皆に心配されるくらいに。
もしかしたら雪蓮は妹の前だけではそんな姿を見せないように気丈に振舞っていたかもしれない。
当時の雪蓮は冥琳や梨晏たちが支えてくれたからこそ立ち直ったのだ。自分1人だけでは潰れていたかもしれなかったのだ。その事を藤丸立香は聞いていた。
「雪蓮だって…」
「雪蓮姉様はご立派だったわ。重臣の誰もが姉様の事を認めていた」
「蓮華さんだって皆、認めてるよ」
「そうは思えない。いえ、認めてなんかいないわ!!」
ヒステリックに蓮華は声を荒げてしまう。
「だって…私は戦をするかどうかも判断できなかったのよ!!」
山越族が反旗を翻した対処をどうするかの話で彼女は悩んだ。そして答えが出なかった。
「私は安堵してしまったわ……こんな異常事態が起きたなのに。だって答えを先延ばしにできたのだから」
その事がとても情けなかった。
「これが私。こんなのが王だなんて器じゃない。ふさわしくない。情けないだけじゃない」
これでは臣下だけでなく民からも情けないと侮られてしまう。情けないと思っている彼女だが藤丸立香は情けないとは思わない。
戦争をするか否かを選択するのは恐ろしいものだ。誰であれ、簡単に答えを出せるはずがない。
選択次第で大勢の人が死ぬ判断を下すのは簡単ではないのだ。
「蓮華さん。それは誰だって難しい選択だよ」
「そんなことない。王であれば最善の選択が出来るのよ!!」
「蓮華さん…」
「貴方には分からないでしょうね。王になった者の気持ちが、王としての重圧が、王としての責任が!!」
彼女は声をまたヒステリックに荒げてしまう。王として重み。確かに藤丸立香は分からない。
「王の一言で大勢の臣下が、民が死ぬかもしれないのよ。この気持ちが分かるはずがない。貴方と私じゃ背負っている重みが違うのよ!!」
「うん。オレじゃ王としての重みは分からない。でも蓮華さんの気持ちは少しは分かるつもりだよ」
「矛盾な事言わないでよ。絶対に私の気持ちなんて分からないわよ。そんな事を言わないで!!」
「分かるよ。大きな犠牲を伴う選択はとても辛いよな」
大きな犠牲を選ぶ。それは精伸に大きな傷を残す所業だ。
「蓮華さん」
「な、何よ…」
藤丸立香は真っすぐに蓮華を見る。
「オレは最初ただの一般人だったんだ。ただの民ってやつ。剣を握った事もなければ、人を斬ったこともない」
「急に何の話よ」
「でもある時さ、自分の人生を変える切っ掛けがあったんだ」
レイシフト適性100パーセントだった自分。スカウトされたか誘拐されたかうろ覚えだが気が付いたらカルデアに訪れて廊下で寝ていた。
目が覚めたら運命の後輩と出会ってからが彼の物語の始まりだった。
「何が言いたいのよ?」
「オレはある時、普通とは程遠い旅が始まったんだ。言うなれば国を救う旅かな。でも本当だったらオレよりも適任な人がたくさんいた。その人たちだったらもっと上手くやれたかもしれない」
藤丸立香は始まりを思い出す。
「でも適任者たちは事故で動けなくなってしまったんだ。たくさんいたけど皆が動けなかった。その中でオレがたまたま無事だったんだ。オレしかいなかったんだ」
たまたま無事で、彼しか居なかった。だから彼が特異点攻略をするしかなかった。
「とても大変で辛い旅になる事は決まっていた。途中で命を落とす可能性だって高かった」
彼しか居なかったから断れない。世界を救うなんて一般人だった彼には荷が重すぎる責任だった。
「オレしかいなかったから。だからやるしかなかった。途中で諦めるわけにはいかなかったんだ」
「り、立香?」
一度は世界を救った。しかしまた世界は危機に陥った。
彼の眼は嘘をついていない。真っすぐに彼は蓮華と目を合わせた。
「死にそうになった事もあった。大切な仲間を失った事もある。自分が壊れそうになった時もあった。オレの選んだ選択で大きな犠牲も出した事もある」
嘘は言っていない。特に異聞帯では汎人類史を救う為に異聞帯の人間を殺したようなものだ。
「だから分かるんだ。選択する事は簡単な事じゃないのは」
呉王としての蓮華とカルデアのマスターとしての藤丸立香。立場は違うが大きな選択を迫られるという点では同じだ。
選択次第で大きな救いにもなり、大きな犠牲にもなる。
「大きな犠牲を出した事がある…」
「ああ。救う為に大きな犠牲が伴ったんだ」
異聞帯の攻略は肉体より精神の方が辛かったとも言える。
「嘘よ。そんな…私の気持ちが分かると言いたいだけでしょう。ただそう言いたいだけでしょ!!」
「嘘じゃない。オレは自分の国を救う為に7つの国を滅ぼしたんだ」
自分の国とは汎人類史の事。7つの国とは異聞帯の事。言葉は違えど嘘は言っていない。
蓮華は信じられなかった。嘘かと思ったが彼の目は嘘をついていないと見て分かってしまった。
(嘘よ。ただ私を慰めるだけに言っただけの作り話…そのはずよ)
目の前にいるのは本当に藤丸立香なのかと思ってしまった。明るくお人好しな人間ではなく、何処か闇を抱える印象を覚えてしまう。
「選ぶってのはそういう事なんだ。何も失わずにいられるってのは稀だよ」
蓮華は藤丸立香の目の奥に悲しい光を見てしまった。
彼は何も知らない愚か者ではない。彼は蓮華よりも多くの大きな選択肢に迫られ選んできた。
選ぶ責任の重さは知っているのだ。彼の歩いた道には多くの犠牲が積み重なっているのだ。
「選ぶのは難しいよな」
「…………………選ぶのは」
王としての『選ぶ』はとても難しく、とても重みがあるものだ。慣れるものではなく、覚悟を持つ事が大事なのだ。
蓮華にとって藤丸立香は己の気持ちが分からない者のはずだった。しかし今なら己の悩みが分かっているのだと思ってしまう。
「雪蓮だって悩んだって言ってたよ。それと自分と炎蓮さんを比較してずっと悩んでいたんだ。今ならそれが分かるはずだと思う」
「ええ、でも…姉様は私よりもご立派に当主を務めていらしたように思える」
「雪蓮は自分のやり方を見つけたからさ。蓮華さんだって蓮華さんのやり方があるよ」
「そんなの分からない!!」
王は国によって様々だ。良い王、強い王、賢い王になろうと己の合ったやり方で王への道を進んでいるのだ。
この大陸で言うならば曹操は曹操のやり方で、劉備は劉備のやり方で、孫策は孫策のやり方で王になったのだ。
「炎蓮さんや雪蓮のやり方を真似たって上手く出来るはずがない。蓮華さんは蓮華さんだから」
参考にするのは良いのかもしれない。しかし炎蓮や雪蓮のような王にはなれない。彼女がなる王は蓮華としての呉王だ。
「その人にはその人の合ったやり方があるって話だよ。分からなくていいんだ。勝手に自分のやり方が出来ていくものだよ」
蓮華は孫家の当主であり、孫呉の王。自分のやりたい事を表現できる王であるのだ。
誰かの真似ではなくて彼女らしく自分のやりたい事を目指すものを表現すれば良いのだ。
「………王とはそういうものなの?」
「うん」
王とは己のやりたい事をやるものだ。それこそが王の目指す目標にもなる。であれば蓮華の目指す目標は何か。まだ分からないのであればこれから決めていけばいい。
己のやりたい事が目指す目標となるのだから。
「色んな王や皇帝を見てきたんだ。皆が皆、自分の思い描くやり方で王・皇帝として体現していたよ」
「……でも私は、情けない王だ。未熟すぎる」
「最初から完璧な王なんていないよ。これから蓮華さんが思う王になっていけばいい」
生れた時から完璧な王はいない。期待はされても赤ん坊の時から王として完成されているわけがないのだ。王なる者は最初から良い王と言われる事はない。
未熟であれば臣下を頼りになればいい。藤丸立香も1人で特異点や異聞帯を攻略したわけではなく、頼りになる仲間がいたからこそここまで来れたのである。
「蓮華さんにも頼りになる皆がいる。オレだっているじゃないか」
「立香が?」
「ああ。オレに出来る事は限られてるけど蓮華さんの力になれる」
1人では力不足であるのならば信頼できる仲間を頼ればいい。
「オレなんかいつも頼ってばかりだよ」
「頼る…」
「炎蓮さんや雪蓮だって何も1人でやってきたわけじゃない」
「母様と姉様も?」
「ああ。炎蓮さんには雷火さんや祭さん、粋怜が。雪蓮には冥琳や梨晏たちがいた」
炎蓮にとって、雪蓮にとって頼る仲間がいたからこそ2人は強くなれたのだ。
「ならオレが蓮華の頼りになる者になる。オレが支える。だから自分は駄目な王と言わないでくれ」
「でも私は…駄目で」
「辛いならオレが話を聞くよ。溜め込むより吐き出した方が楽になるんだってさ」
「え?」
「立場は違うけどオレも蓮華さんと同じ大きな選択を選ぶ者だ。だから話を聞ける」
同じ気持ちが分かるからこそ話せる。話せれば楽になるかもしれない。弱音だって吐いたって良い。臣下たちに言えないなら、言える者に言えばいい。
それが傷のなめ合いになっても構わない。1人で不幸でいるよりも2人で不幸で居た方が気が楽になる事もあるものだ。
「オレだって自分が駄目と思う時があったし、オレよりも適任がいると思っていたさ。変わった方が良いと思った。でも、もうオレがやるしかない。そうなってしまったんだ。もう戻れないから」
「立香…」
蓮華はいつの間にか彼の言葉を聞き逃さないように耳を傾けていた。
ここ最近は誰の言葉も入らなかったのに今だけは彼の言葉が耳に、心に入ってくるのだ。彼の言葉の重みが違う。
普通であれば彼の方が冥琳たちよりも付き合いは短い方なのに、彼の言葉が入ってくる。分からないけどそれが良いと思ってしまっている自分がいるのも事実であった。
「蓮華さんは王だ。きっと炎蓮さんや雪蓮とは違う王になれる。そして2人を超えられる」
「何よそれ。そんなの無理よ」
理想である2人を超えられるなんてあり得ない。そう思う蓮華は卑屈そうに笑った。しかし心の迷いは薄れているような気もした。
「立香は私より母様と姉様を理解していたのね」
「蓮華さんよりってことはないよ。蓮華さんの知らない一面を知っていた事はあるけど全部を理解しているわけじゃない」
誰か1人の人間を完全理解する事は簡単ではない。
「そうね。良く言えば天真爛漫、天衣無縫。でも悪く言えば…」
「「自分勝手で我儘」」
「ふふふ」
今度こそ彼女は普通に笑った。きっと久しぶりに笑ったのだ。
「ええ。だけどそんな母様と姉様を私は心から愛していたわ。ううん、私だけじゃない。母様と姉様は皆に心から愛されていた。決してあんな死に方をする人じゃなかったのに」
「蓮華さん?」
彼女は涙を流す。己の不甲斐なさに涙が流れる程に悔しいのだ。
「大丈夫。私はもう恨みや悲しみに囚われる事は無いわ。ただ自分の不甲斐なさが辛いだけ」
「蓮華さんは立派にやってるさ」
「そうなのかしら」
「そうだよ。それはオレが否定させない」
彼女は真面目で努力家だ。であれば、彼女の努力を否定出来るはずがない。
真面目な人ほど馬鹿を見る・損をするなんて言葉があるが、そんな事はない。努力は報われるべきなのだ。
「蓮華さんは駄目な王じゃない。これから良い王になる」
「……立香、ありがとう」
蓮華はうなだれる。
「立香」
「何?」
「母様と姉様はいないのね?」
「ああ。いない」
「私は未熟な王なのね?」
「まだ未熟なだけだ。これから蓮華さんは炎蓮さんと雪蓮にも負けない王になれる」
「私は王でいいのね?」
「ああ。蓮華さんの思う王になっていけばいい」
彼女は藤丸立香に対して問い続ける。そして藤丸立香は答え続ける。
「私は……己の妄想に囚われていたのね。母様と姉様はいない。呉王は私しかいない。未熟で不甲斐なくても私が王なんだ」
王にふさわしくない。だから逃げたいと思っていた、背けていた。しかし今は背けるわけにはいかない。
己の欠点が分かったのならば反省・改善すればいい。一歩ずつ前進していけばいい。
「ねえ、立香」
「何かな蓮華さん?」
「私は未熟だ。支えてくれるか?」
「勿論だ」
藤丸立香は蓮華の手をしっかりと握った。
「オレが支える。オレに出来る事は限られてるけど…オレが力になる」
もう一度言う。藤丸立香は蓮華の力になると。
「…何だか目が覚めた気がするわ」
不甲斐なさで臣下に心配をかけている蓮華はもう終わりだ。これからは立派な孫呉の王を魅せていこうと決めた。
呉のために。己を支え、信じてくれる人達の為にも。炎蓮と雪蓮の意志を継いだのだから。
「私は呉王だ」
蓮華の顔には、先ほどまでの弱い表情は消え、強い決意が浮かんでいた。
927
幻術が破られた。
藤丸立香と蓮華は理想という名の幻から目が覚めた。
「あんなのが母様と姉様に見えていたなんて恥ずかしいわ」
蓮華は黒山鬼をしっかりと警戒しながら見ていた。幻だったとはいえ、母親と姉だと思っていたのが鬼だった時は驚いたものだ。
静かに南海覇王を抜き、構える。幻術から解放されたとはいえ、『鬼』というのは人間よりも強く恐ろしい存在だ。油断してはいけない。
「幻術は破ったけど…まだ敵は姿を見していない。でも近くにいると思う」
「分かるの?」
「ああ。何となくだけど分かる。だって似たような経験があるから」
黒山鬼は見えるが敵の黒幕はまだ見えない。しかし見つける手立てはある。最もとても強引なやり方ではあるが。
(孫権までボクの幻術から解放されただと…!?)
藤丸立香は幻術を自力で解き、蓮華までも解いた。この流れは浮雲が予想していなかったものだ。
特に蓮華が勝手に精神を病んでいたのに、今この瞬間に精神を持ち直すなんて想像もできなかった。
(あの男の言葉程度で精神を持ち直すなんてそんな簡単な事なのか!?)
心の問題とは難解で不思議なものだ。別々の人によって、心に刺さる重みは違う。
(しかもアイツはボクの力が分かるだって!?)
蜃の力を発動中の浮雲。
そろりと彼は2人の背後に移動するが気付かれている様子はない。気付いているなら視線が浮雲に向けられるはずだが全くなく、2人の視線は黒山鬼だけに向けられていた。
(何だ、なにが分かるだ。ボクを追えていないじゃないか)
幻術を破られたが蜃の力はまだ破られていない。まだ有利な状況なのは浮雲である。
(まだボクの方が有利だ。そのはずなんだ。ボクが呉を滅ぼす)
手を翳すと黒山鬼が景色に溶け込むように消えた。
「消えた!?」
(見えない敵に恐れろ。そして何も出来ずに死んでいけ)
蜃の力で鬼を景色に溶け込ませる。正確には蜃気楼で覆っているような状況だ。
(大丈夫だ。見えない敵が一番強くで恐ろしいんだ。孫権たちだけじゃない。今頃、他の奴らも喰われてる頃だね)
見えない鬼に孫呉とカルデアは喰われるのだ。
(ボクは負けない。ボクはあっちのボクのようにはならない。ボクは糞な未来を変えるんだ!!)
消えた黒山鬼が狙うは藤丸立香と蓮華。2人が気付かないうちに頭から食い破られるはずだった。
「大丈夫だよ蓮華さん」
「だ、大丈夫なの?」
「うん。対処法はもう実践済みだから」
藤丸立香の手の甲に刻まれた令呪の一角は消えている。
「オレだけじゃない。他の皆もこの状況の仕組みに気付いているはずだ」
何も見えないが、そこに居るだろうと思って手をかざす。
「陳宮がやり過ぎない事が心配だけど…オレも大概かな」
藤丸立香と蓮華の周囲を何か大きなモノが2つ飛んで来て回転運動をしながら近づいてくる。
「え、なになに!?」
(何だアレは!?)
蓮華も浮雲も飛んで来た2つの大きなモノに驚いていた。
「鬼も黒幕も無理やり表に出す。潮干狩りだ」
飛んで来た大きな2つのモノは金属製の大きな爪であった。
それは反撃の狼煙でもある。
読んでくださってありがとうございました。
次回の更新も未定です…(いや、ほんと最近、忙しいです)
すいませんが、ゆっくりと気長にお待ちください。
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今回の話はまとめると、精神的に病んでいた蓮華を立香が助ける構図です。
原作でもこの時期の彼女は相当、追い詰められてましたからね。
でも助けるというよりも実はただの傷のなめ合い的な感じです。
立香も蓮華も自分には重すぎる役割を背負ってしまっているので。
お互いに不幸自慢しているわけではありませんが、同じ気持ち人がいると勝手に満足して安心するのです。これも人間の心なんですよね。自分だけじゃないっていう。
なので蓮華の設定にある『依存心』が後々、出てくるかも。
浮雲の能力は幻術と妖魔の蜃。
何処かに移動したのではなくて、幻術と蜃気楼に惑わされて別の場所に移動したと錯覚しているだけです。
今までの部屋や通路、現象も幻術によって脳がそう見せてる、感じてるだけです。
金色のガ〇シュのキャンチョメの術って強いですよね。
黒山鬼
戦国†恋姫オンラインの黄巾鬼のアレンジ版。
黒山鬼はこの作品のオリジナルです。
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やっと反撃です。
次回ではカルデアのターン。どのように反撃するかはゆっくりとお待ちください。
まあ…ごり押しだったり、スキルだったりと色々と。
蜃の力の攻略法は既にFGOでも出されてますからね。
飛んで来た大きな金属製の爪。
誰(英霊)の爪か分かっちゃいますね。