Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
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「ではでは、よ~く聞いていてくださいね~」
「はい」
孫呉の地で生活することになった藤丸立香たち。
これからお城で暮らさせていただく上で、主だった人たちの仕事の説明を受けることになった。
教えてくれる先生は雷火と穏である。
「まずは軍事じゃが、戦に関することは概ね冥琳が取り仕切っておる。他にはーー」
実際に戦場で将軍として兵を府聞いているのが祭に粋怜、雪蓮たち。彼女たち呉の猛将たちは史実でも有名な将だ。
穏も冥琳と同じ軍師で彼女の補佐をしているようだ。
軍師のトップが冥琳でナンバー2が穏であるということ。
「政に関しては、こちらの雷火さまが全て仕切っていらっしゃいます」
「そうは申しても、冥琳の手は借りておるがな」
「冥琳さまの智謀を軍事のみに向けられるのはあまりに勿体ないですから~」
「まだまだ若いがの。まあ、他の将に比べれば冥琳もいくらかは政というものを分かっておるようじゃが」
冥琳はこの孫呉でも重宝されている人材のようだ。穏も内政に関わっているようだが雷火の目からしてみればまだまだヒヨッコレベルらしい。
彼女の評価は厳しいというのは分かった。
「ふむふむ。穏さんも軍師であり内政も行っていると」
「はい~そうなんです」
「わしとしては穏には内政面で力を発揮してもらいたいがの」
だが人材の面から考えると冥琳に代わって軍師を務められるのは穏くらいのものらしい。
雷火としては内政面で活躍してもらいたいが、冥琳としては軍師として成長してもらいたいとのこと。
穏は人材面として引っ張りだこのようだ。
「みんなから大人気だね」
「非才の身でありますが~」
「代わりがおらんだけじゃ」
「もう~」
軍事は冥琳、政治は雷火がトップ。その下で穏が2人を補佐するという形になっている。
「おそらく立香さんも~、私と同じようなお役目をすることになると思いますよ~」
「俺が?」
急に近づいてくる。彼女も人との距離が近い。
それは吐息が顔に掛かって、胸と胸がくっつきそうなくらい。
「穏、立香との距離が近すぎじゃ」
「そうですか~?」
彼女も今のが素なのだろう。
「立香よ改めて申すが…お主の役目は天の血を我が呉に入れる事じゃ」
「………それってやっぱり本気なの?」
「大殿様が決めたことじゃ」
それに関しては本気で悩んでいる。正直、雷火だって最初は反対していたのに今では肯定してしまっている。
「…まあ、わしもお主が言いたいことは分かる」
「なら雷火先生…撤廃してください」
「炎蓮様が許さんじゃろうて」
「はあ…まあ、それは置いておこう。取り合えず俺のもう1つの役目は俺の出来る範囲でみんなのお役目を手伝えばいいってことかな?」
穏が言っていた事とはそういうことだ。
「うむ、そうじゃ」
「立香さんのことは、わたしが優しく面倒見て差し上げますからね~。うふふふふふ、な・ん・で・も」
また近い。
「何か分からないことがあれば尋ねるのじゃぞ」
「はい、どんどん尋ねてください~」
分からないことがあれば聞く。それが当たり前だ。
穏なら性格的にも雰囲気的にも話しかけやすい。彼女が面倒見役の1人で正解というのは良かったものだ。
「や~ん、困りますぅお天道様がまだ高いのに、熱いまなざしを向けられてしまっても~」
「発情期の猫じゃな」
「でもぉ…やっぱり仲謀さまたちのこともありますしいぃ。順番は考えた方がいいんでしょうかねぇ~」
「わしは知らん」
「立香さんはどう思います~?」
「俺も知らん」
グイグイ近づいてくる。彼女は天然そうで積極的な感じだ。
「まったく、穏。いきなりか?」
「何のことですかぁ?」
「とぼけるな。ふん、最近の若い者は…穏、お主はもう少し女子としての恥じらいを知れ」
「知ってますよぉ。立香さんに見られてさっきからもうずっと恥ずかしくって仕方ないです」
その割には距離が本当に近い。
(てか、俺ってそんなに露骨に穏さんのこと見てたかな)
男の本能とは怖いものだ。
というよりも話が物凄く脱線している。
「話を戻すけど…俺のやることは冥琳さんや雷火さん、穏さんの手伝いってので良いのかな?」
「ま、そうじゃな」
藤丸立香の孫呉での仕事は内政面や軍師の手伝い。手伝いと言っても限られたことしかできないだろう。
いくら諸葛孔明や他の英霊から勉強させてもらったことがあると言っても藤丸立香が全てを吸収して何でも出来るようなスーパーマンになったわけではないのだから。
だから孫呉でも自分の出来る範囲で最善を尽くすしかない。
「頑張ります」
「ああ、頑張れ。もうお前たちの護衛は既に仕事をしておるからな」
李書文に燕青、荊軻。この3人の仕事は藤丸立香の護衛が本業だが、孫呉に住まわせているのだから孫呉に対して利になる仕事をせねばならない。
李書文は、その強さからよく調練に繰り出されている。本人はガラではないが仕事だからと妥協して一緒に調練に出ているのだ。
体を動かさないと鈍るから丁度良いのかもしれない。本来ならば賊討伐とか荒事の鎮圧が本人としてはまだマシとのこと。
「李書文は武骨な奴じゃが、与えられた仕事はこなしてくれる」
「ですね~。賊や暴徒たちを鎮圧してくれますから祭さまや粋怜さまに別の仕事を任せられますからね~」
「あ奴はああいうのを任せるのが良い…まあ大殿様とちと性格が似ている気がするが」
「雪蓮さまともですよね~。強者と戦うのに一直線というところとか」
確かに李書文とあの親子はどこか似ている部分があるのは分からなくもない。そのうち調練で剣の打ち合いをするのではないだろうか。
いずれ知ることになるが、血気盛んで猛り狂う姿は確かに似ている部分がある。
「次に燕青じゃが、奴ほど諜報に適した者はおらんな。あの変装術は驚かされたぞ」
「みんなびっくりしてましたよね」
「いきなり大殿様に呼ばれたかと思えば2人いるのじゃからな…しかもわしらが見分けもつかぬほどに」
「ですね~。更にあの後みなさん全員に変装した時はもっと驚きましたよ~」
その驚く顔が見たかったのだろう炎蓮は。そして燕青の運用も分からせるためもあっただろう。
だからこそ燕青は孫呉で諜報の仕事が任された。そのおかげで彼はよく外に出ることができるのでカルデア側の仕事も同時に出来るということだ。
黄祖などの情報は着々と集まっているのだ。于吉に関しては未だに出てこないが。
「あの変装術ならばどこに行っても足がつかぬからな。本当に諜報には適任じゃ……まあちと自由過ぎるがの」
「侠客だし……てかそれ炎蓮さんにも言ってるの?」
「…確かにの」
「ですよね~」
燕青もまた炎蓮と性格的に相性が良い。
「次に荊軻じゃが彼女は賊退治も諜報もどっちもしてくれる。じゃがお主の護衛の方が多いな」
藤丸立香の護衛は最低でも1人がついている。その護衛で多いのが荊軻だ。
よく仕事で駆り出されるのが燕青と李書文だからという消去法もあるが。
「話が一番通じるのは荊軻なのじゃがな。たまに祭や粋怜と酒盛りしておるが」
「荊軻さんが来てから祭さまと粋怜さまの酒盛りが増えましたよね~」
「それは控えてもらいたいのじゃ」
それもあってか彼女も炎蓮と相性が良い。そもそも今回の英霊たち3人とも炎蓮とも相性が良い気がする。
これは宴会なんかやった時は凄いことになりそうだ。
「うーむ、お主の護衛はそういうのしかおらんのか。できれば内政面に強い奴もいてほしかったが…これは我儘じゃな」
「いるよ」
「なんと!?」
「あ、でも今はいない。てか別行動してるからね」
「なんじゃ…」
期待させおってみたいな顔をしている雷火。
居ないものはしょうがない。というよりも時間軸的にいるが、ややこしくなるので呼ぶというのはできない。
「仕方ないからお主が頑張れよ」
「うん。俺は俺の出来ることをやるよ」
「その意気ですよ~」
自分は英霊たちみたいにいきなり活躍なんてできない。でもきっと自分にできることがある。
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自分の出来る範囲のことに最善を尽くす。
早速出来ることだが事務的な手伝い。はっきり言ってお使いレベルのようなものだ。
いきなり孫呉の内政面や軍事に関わらされたら、それはそれでどうかと思うが。
こういう小さな事から手伝えれば良いのだ。
「えーと祭さんと粋怜は…」
実は穏から直近の戦闘についての報告書の回収をお願いされたのだ。その回収も残りは祭と粋怜の2人のみ。
探しているが見つからない。今日は2人とも非番とのことで城内にはいないのかもしれない。
だが、そんな時にやっと見つけたのだ。なんせ賑やかな声が聞こえてきたのだから。
その場に行ってみると祭と粋怜はいた。しかも荊軻もだ。
「うむうむ、厨房から提供されたこのつまみも大変美味じゃ」
「やっぱ魚は干物よね。まあ、提供されたんじゃなくてかっぱらってきたんだけど」
「うむ、本当に美味な酒だな」
3人が仲良く酒盛りしていた。この光景はまだ新しいのに、既に日常的な光景となりつつある。
「昼間から酒盛りですか」
「む、なんじゃ小僧か。驚かせおって」
「やあ立香くん」
「あ、主ではないか」
昼間っから庭で酒盛りをしている美女3人の構図だ。既に酔いは少し回ってるようである。
祭曰く、非番で快晴なのだから昼間から酒盛りをしていたようだ。酒盛りに天気は関係ないと思う。
「部屋の中で内々に飲むならば普段は話せぬ己の事を酒の力を借りて語り合うこともあるじゃろう。そしてこのように晴れ渡った空の下で飲む酒は言わずもがな最高じゃ」
もう既に空いた酒瓶が数本転がっているし台所からくすねてきたつまみは量が多い。
「と、いうわけで最高のお酒、立香くんもいっちゃわない?」
「何度も言いますが飲めません」
嬉しい誘いではあるが、今は仕事中である。
「主は何をやっているのだ?」
「この前の戦闘の報告書を将のみんなから回収する仕事」
「あー…そんなことを頼まれておったのう」
「あー書きはしたけど今は流石に持ってないわね」
2人は報告書を終わらせてから酒を楽しんでいるようだ。
「今ないものを今出すことは出来ぬ。というわけでお主も付き合え」
「主も酒は飲めぬがつまみは食えるだろう?」
「荊軻まで…仕事中です」
「堅いことを言うな。この黄蓋と程普が飲めと言っておるのじゃぞ」
「そうそう。実際に私と祭から誘われたって言えば、昼間からお酒を飲んでても怒る人なんかいないわよ」
「…冥琳や雷火先生も?」
そっぽを向く2人。
その2人は例外のようだ。
「取り合えず席につきなって」
粋怜に席を着かされると同時に新たな声が聞こえてきた。
「おやおや、将軍2人で城に飲み屋でも開くつもりか?」
件の雷火であった。
「まったく、若いのを捕まえて昼間っから酒盛りとは良い身分じゃの」
「あらー雷火先生」
あちゃあ、という感じの顔だ。できれば見つかりたくなかった人物の1人。
「雷火先生。私たち今日は非番よ?」
「じゃが非番でない者を酒に誘うのは宿老としてどうなのじゃ。まったくお主らときたらーー」
雷火の説教が始まる。何故か荊軻も説教されている始末だ。
(3人とも全然気にしてないように見える)
それにしても前に聞いたが雷火は祭や粋怜より全然年上だと言う。正直言って信じられない。
こういうのがあるから女性とは謎な部分がある。カルデアだとやはりエレナくらい年齢の謎があるのだ。
この話に関してはきっといつまで経っても分からないから考えるのを止めた。そうこうしていると雷火の説教は終わりを迎えていた。
「はいはい雷火先生。場所を変えて続きをしますよ」
「うむ、非番なのじゃから部屋でやれ。こんな真昼間から庭で酒盛りなんて他の兵士たちに面目がつかんじゃろうて」
雷火だって非番の者に酒を飲むなと言わない。だが酒盛りをするなら場所を考えろと言っているのだ。
こればかりは正論なので誰も反論しない。
「じゃあ、場所を変えて続きをやりましょうか祭、荊軻」
「じゃのう」
「やれやれ」
最後に一口酒を飲んで席から立つ3人。
「あ、片づけるの手伝って立香くん」
「自分たちでせんか」
「えー」
「えーじゃない」
藤丸立香としては手伝っても良いがまだ自分の仕事を片付けていない。
「じゃあ立香くん。仕事が終わったら来てね」
「あ、報告書…」
「それ今話すとややこしくなるから。後で絶対に出すからね。ね、祭?」
「う、うむ」
「余計な説教がまた始まりそうだな」
スタコラサッサと消える3人なのであった。
「して、報告書とは?」
「まあ、後で説教だよね」
本当に説教になったかどうかは知らない。
「はあ、孫呉の両翼がだらしない…というよりもお主の護衛も何をしておるんじゃ」
「酒盛り」
「それは見りゃ分かるわ」
「まあ、毎日気を張っていたら心が持たないってことだよ。気が抜ける時は抜いてゆっくりしたいということだと思う」
この言葉に間違いではない。どんな強者だろうが知恵がある者だろうが休みが欲しいというものだ。
そうしないと過労でポックリと死んでしまった賢王を思い出す。蘇ったけれども。
「…そうかもしれぬな。だからと言ってあんな庭で酒盛りは宿老として示しがつかぬがな」
雷火と話していて分かったことがある。頑固というのもあるが、伝統を重んじる性格のようだ。
伝統を重んじるというのは悪い事ではない。だけどそれが原因で若い者とぶつかるというのもある。
彼女はきっとそういう問題にぶつかり合うだろう。それはどの時代でもあることだ。
「報告書とやらは祭と粋怜のだけか?」
「うん、そうだね。あとは穏さんに提出するだけ」
「ふむ、なら今回収したものだけを提出しておけ。穏にはあとで2人から提出させるように言っておく。お主もそう伝えておけ」
「分かった。じゃあその後は…雷火先生このあと空いてる?」
「空いておる。また勉強を見てやる」
「お願いします先生」
実は雷火から勉強を教わっているのだ。勉強と言っても学校をイメージするようなものではない。
藤丸立香は軍師として冥琳や穏から面倒を見られているだけでない。内政面での手伝いで雷火からも教わっているのだ。
はっきり言って内政面の方はからっきしだ。そんなのやったことも無い藤丸立香なのだから当然だ。
正直に言って軍師の真似事よりも呉では役に立てない気がする。
「俺は内政面はからっきし」
「じゃな」
肯定される。だが事実なのだからショックは無い。
「人それぞれには本分というものがある。祭たちは戦、冥琳たちは軍師、わしは治政というようにな。お主にも何かしら出来る本分が見つかろう」
藤丸立香の出来ること。彼の本分。
確かにあるかもしれないが自分自身ではよく分からない。自分にとっての本分がピンと来ない。
だがここに至るまで多くの事を経験し、多くの事をこなしてきた。そうなるとやはり今の藤丸立香の本分はカルデアのマスターとして前に進むだけだ。
「で、立香よ。天の御遣いとしての役目は果たしておるのか?」
「役目?」
「そんなのは孫呉に血を入れることじゃ」
「そっちの役目は果たしておりません」
孫呉のみんなとは仲良くはなっているが、そこまでは深く男女の仲にはなっていない。そもそも何度も思っているがその役目は果たす気は無い。
藤丸立香は天の御遣いではない。天の血なんて大層なモノは流れていないのだ。
炎蓮はどんどんヤッちまえ的な勢いで指示してくるが藤丸立香は逆である。天の御遣いでないのに天の御遣いとして孫呉の将たち、雪蓮たちを孕ますなんて考えただけでもダメな気がする。
雪蓮たちが女性として魅力が無いというわけではない。寧ろ凄く魅力的で良い女性たちばかりだ。彼女たちならば多くの男性から好意を持たれるはずである。
何故ダメかと言われれば、ただ彼女たちを騙しているような感じがしてならない。それと可愛い後輩であるマシュの顔がチラつくのだ。そして溶岩水泳部たちも。
騙しているという罪悪感とよく分からない命の危機を感じているからこそ炎蓮の与えられた役目を果たす気になれないのだ。
「何故しないのじゃ?」
「何故って言われても…逆に聞きますけど天の御遣いを名乗るわけの分からない男の子供を生むなんて普通は嫌でしょ?」
「質問を質問で返すな。だが答えてやろう。確かに普通に考えて嫌だ…しかし、お主は悪い奴ではないし、容姿も悪くない。そういう面で考えて絶対に無理と言うことは無いのじゃ。そこは炎蓮様も考えておるだろうな」
炎蓮も天の血を孫呉に入れるのに何が何でもというわけではない。天の血を持つ男がいるなら絶対に自分も含めて孫呉の女に子を産ませるなんて無茶な事をさせない。
この孫呉に天の血を入れると決めたのは藤丸立香という男が信頼に値する人間だと可能性があったから決めたのだ。その後は藤丸立香と子を産む女たちの問題だ。
「立香よ。お主が天の御遣いだからと言って孫呉の女たちと子作りがすぐ出来るというわけではない。ちゃんと考えられて選ばれたからなのじゃぞ」
「な、なるほど…」
『天の御遣い』というステータスだけで種馬になれるわけではなかった。
「で、お主は何で子作りせんのじゃ?」
「…もう信じてもらえないと思いますけど俺は天の御遣いなんて大層な人じゃないからですよ。そんな俺の子を産んでもらうっていうのは相手の女性に失礼以前の問題だからです」
「そうか?」
「何でそこで首を傾けるんですか」
雷火は「何言っているんだ?」くらいの感じで首を傾けた。
「え、いやいや。俺ってそこで疑問顔になるような事って言いました!?」
「お主の言いたい事は分かる。だが炎蓮様がお主の天の血を孫呉に入れる事を決めた。炎蓮様が決めたのだから間違いはないじゃろうて」
「炎蓮さんを信頼しているのは分かりますけど!?」
「それとも立香よ。お主は天の血を入れる役目になったからと言って無責任に無理矢理に孫呉の女に手を出すような屑か?」
「そんな事は絶対にしません!!」
「そこじゃ。お主はそんな屑な真似はしない男だと分かっている。お主は良い奴だと今日までに多くの者が知った。もしかしたらお主なら…という女がもうおるかもしれんぞ」
「え」
ちょっと赤くなる。
「案外、お主を良く思っている女たちはいるぞ」
「そ、そうなんだ」
まさかの情報につい照れてしまう。
「うむ。炎蓮様や雪蓮様たちも結構褒めておったぞ」
「ど、どんな風に?」
「どうしようもないくらいのお人好し」
「褒めてんの?」
褒めてるのか褒めてないのか分からない評価である。
だが雷火の発せられる声質からだと悪いような意味ではない。お人好しな藤丸立香だからこそ雪蓮たちは信じられるのだ。
それは契約した英霊たちも思うこと。藤丸立香がマスターで、彼の横に立ち、一緒に歩めたことで良いと思えるのだ。
「悪い男ではないことは分かったのだ。それだけでも良い前進じゃ」
夫婦になる。子を産む。そうなる前は男女の仲が良い進展をしなければならない。
男だろうが女だろうが、どっちも相手の事を『良い人』思わなければならない。そうしないと男女の仲は進展しないのだ。
孫呉の女性からしてみればここ最近で藤丸立香という男は『悪い男』ではないと浸透しつつある。これは孫呉に天の血を入れるという目的を考える炎蓮からしてみれば良い傾向であるのだ。
別の外史の天の御遣いだって孫呉の女性たちに悪い男ではないと判断され、少しずつ絆を深めて男女の仲を深めたからこそ役目を果たしというもの。
「これからも頑張れと言うことじゃ」
「軍師どうこうの方は頑張るけど、孫呉に血を入れる方は…」
「まだ言うかこの小僧は…こんのヘタレめが!!」
雷火の一喝が響き渡る。まだ、ぐだぐだ言う藤丸立香にイラついてしまったからだ。
だが藤丸立香の気持ちも察してほしい。普通に考えればハーレムで男の夢だが冷静になって考えてみると本当にいいのかっと思うはずだ。
「もしかしたら孫呉の女の中にはその気になっておる奴もおるかもしれんのじゃぞ。男をみせい」
今だに役目を撤廃したい藤丸立香。ヘタレと言われようが自分はそんな役目を果たせないのだ。
「わしもお主の事を良い男と思っておるんじゃから胸を張れい」
彼は素直な男性であり、生徒気質で教える身としては良い気分である。たまに寝るが。
「うん?」
「い、言っとくが、ワシがお主の子を産むとは限らんからな!!」
顔が徐々に真っ赤になる雷火。余計な事を言って変に意識してしまったゆえの結果である。
「く、いきなりの照れがカワイイ…」
「何を言っておるんじゃ!?」
あーだこーだ言おうが藤丸立香はこの孫呉で上手く過ごしているということである。
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張角に張宝、張梁たち張三姉妹が死んだ事により黄巾党の勢いは急激に消えた。
本当は彼女たち姉妹は死んでいないが、藤丸立香たちの策によって死んだということになっている。この真実は藤丸立香たちしか知らない。
ならば張三姉妹を崇拝する黄巾党たちは本当に死んだと思っている。そうなるように講じたのだからカルデア御一行の策は上手く成功したのだ。それは天和たちを生かすため必要な策だった。
だがその策は天和たちを救うだけで、その後の余計な後始末が出来てしまった事を藤丸立香たちは気付きはしなかった。
まさかこんなにも余計な力を付けるとは思わなかったのだ。
「張角様…」
黄巾の乱の始まりは張三姉妹たちの一言。それがまさか朝廷を倒すというのまで発展したのだから恐ろしい。
だが、その一言が全ての原因というわけではない。黄巾党は張三姉妹のファンが多く占めていたが、その中には今の朝廷に不満を持つ者もいた。その者たちが張三姉妹たちの言葉を利用して朝廷を倒すというように流れを導いたものをある。
そのおかげで黄巾党が今の漢に剣を向けてしまったのだ。結果としては官軍や各諸侯たちの奮力によって鎮められたので、今の腐敗した漢に不満を持つ者たちの野心は瓦解した。
「どうして死んでしまったのですか」
今の漢に不満を持つ者たちは牙を折られてもう奮起することはできない。だが、張三姉妹のファンだった者たちは違う。
ファンだった者たちは漢に不満を持っていたかもしれないが優先度は張三姉妹の方だ。漢を倒す事が出来なかった事よりも張三姉妹が死んだ事の方に落胆したのである。
「張角様たちは本当に死んだのですか?」
黄巾党にとって張三姉妹たちはまさに崇拝する程の存在だ。だから張三姉妹たちが死んだという嘘の結果でも偶像となってしまう。それが藤丸立香たちが解決するのを忘れてしまった後始末。
この後始末は必ずしも藤丸立香たちは解決しなければならないというわけではない。これは誰であるとも起こるだろうというもの。
藤丸立香たちではなく、曹操だろうが劉備だろうが孫策たち諸侯たちだろうが張角たちを仕留めれば起こりえる結果だ。誰かが張角たちを手にかければ起こる黄巾党のその後の可能性。
これは正実でも外史でも歴史に埋もれた1つの出来事。あったかどうか分からないが可能性はある出来事。もし、あったとしても正史では表に出てこずに人知れずに解決された出来事。
それは張角たちの意志を勝手に解釈して継ぐ者だ。
「張角は死にました」
「あなたは?」
「ですが、張角たちは蘇ります」
「張角様が!?」
「ええ。その為には張角を蘇らせる場所が必要です」
崇拝は時に大きな宗教を生み出す。それがどんな宗教であろうとも関係無い。
よって深く、狂気的なまでの崇拝は最悪な邪教を生み出す場合もある。そうなるとどう信仰し、どういう活動をするのも内容が第三者の目から見れば異端や禁忌を感じる。
「張角たちは多くの信者をお求めです。多くの声をお求めです。またこの大地に歌を広めたいと思っています」
その言葉は落胆した者には危険で甘美なものだ。
「死んだ者は何もできません。だから待っているのです」
「張角様が待っている…」
「ならば分かるでしょう?」
「そ、それは…」
「貴方がやるのです」
渡されたのは太平要術の書。これは張角たちが持っていた書物。
「貴方が選ばれたのです。貴方が張角を蘇らせるのです」
「わ、私が…」
「貴方は張角たちの意志を継ぐ者です」
「張角様の意志を…!!」
「これから貴方は大賢良師と名乗りなさい。その名は張角を継いだ証拠です」
于吉の甘言が二代目大賢良師を惑わす。
読んでくれてありがとうございました。
次回は今月中。早く更新出来たらします。
さて、今回も立香だったらこんな感じになるかなって思って書きました。
孫呉での彼の評価はまあ、悪い男じゃないよねって感じです。
絆を深めるていく彼なら孫呉の人も悪い男ではないと判断すると思いました。
そして最後の方は次回から本編に戻る予告のようなものです。
オリジナルですけどあるルートでは起こりえる可能性の話です。それを書いていきます。