Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
FGOではなんとかワンジナ・ワールドツアーをクリアできました。
素材は全部回収できなかったのが残念です。
ワンジナちゃんもお迎え出来なかったし…まあ、しょうがない。
次のイベントまでゆっくりと待ちます。
恋姫では白月の灯火のオープニングムービーが公開されてますね。
いやあ、とても気になります!!
936
呉の城の廊下を普通に歩いている藤丸立香。今日は何をしようかと考えながらの散策でもある。
つい最近だと雷火と包、張角を含めた4人で街で買い物をした。その際に健康談義に花が咲いたものだ。ただ藤丸立香の肉体的にも精神的にも心配されかけたのは焦ったものだ。
雷火が本気で「大丈夫か?」と真顔で言われた時は話を変えるのに苦労したものである。途中まで腰についての話だったのだが藤丸立香の身体と心の話になると気まずい。特に心の方。
(自分的には大丈夫なんだけどなあ)
ここにある英霊がいたら「本当に?」とか言われそうである。
(そう言えば陳宮たちとは大変だったなあ)
別日だと陳宮が冥琳たちと軍師談義で花を咲かせていたというか戦慄させていた。
やはり下種テラ戦法が衝撃的であったのだ。その威力は認めるが人道的ではないと戦では冷徹な冥琳も冷や汗を垂らしていた。
(オレも最初は引いたからなー…)
その割には陳宮システムを考えて一緒にパカパカ撃ち出していたマスターである。
実際に呂布奉先を撃ち出す『飛将軍(ミサイル)』は恐ろしいものだ。その日に実践しようとしかけたのは全力で止めた。
(何処に撃ち出すかは知らないけどきっと蜀にも魏にも情報が届くから迷惑が掛かりそうだ…)
恐らく「呉の宣戦布告か!?」だったり「呉の御乱心!?」とか思われるかもしれない。大変だったが面白くもあったのは内緒だ。
「立香~~~!!」
急に後ろから名前を叫ばれる。声からして小蓮というのはすぐに理解できる。
「がぶーーー」
「な、なんだシャオ。いきなりだな」
後ろから飛び掛かって来た小蓮は藤丸立香の腰に腕と足を回してしがみついている。というよりもぶら下がっている状態である。
「どうしたのシャオ?」
「ん、ぶら下がってる」
見れば分かる。
肘を当てないように振り返ると彼女は満面の笑顔だった。
「暇だから遊んで欲しいのかな」
「ぶぅ、子供扱いして」
子供ではないが子供な小蓮。
「ごめんごめん。んん、ご一緒しますかお姫様?」
「お姫様なんて~、とっくに立香の妃でしょう?」
「いつの間に…」
自称妃が出来た。どうも藤丸立香の周りには自称する者が多い。
「ふふ。そういう照れ屋さんなところがシャオのお・き・に・い・り」
「照れてないんだけど」
そのまま彼女をおぶったまま歩き出す。
「せっかくだからお茶にしよ。丁度、おなかが減ってたんだよね」
「うん。いいよ」
「………殺気!!」
「え、嘘」
刺客が現れたとか物騒だ。
小蓮はしがみついたままで、ぶんぶん首を振って左右を見回している。
「暗殺者でもいたの?」
「う~ん、シャオの女の直感にピピっときたんだけど…気のせいだったかな」
周囲を見渡しても人影はない。
「ま、いいや。行こ行こ」
2人はそのままその場を後にした。
「…………」
遠くから2人を覗いていたのは蓮華である。
「立香…」
2人は蓮華に気付かずに飲茶しに行くのであった。
「あ、立香さ~~~~ん」
小蓮との飲茶終わりに出てくるのを待ち構えてたようなタイミングで穏と出会う。
木陰の休憩所で本を開いていた穏がぶんぶんと此方に向かって手を振っていた。
「お散歩ですか~。今日はとっても良い陽気ですものねぇ」
何となくだが穏と会話するだけで平和な気持ちになる気がする。
「もしかしなくても読書?」
「もしかしなくてもです~。わけあって何度も読んだ本以外は冥琳さまに禁止されているのですがぁ。真の名作とは百度読み返しても…はぁ」
その恍惚とした表情と熱い吐息に胸がざわつく。しかし名作本は何度読み返しても飽きないというのは分かるものだ。
「…いいところにいらっしゃいましたね。くす」
「落ち着こうか」
彼女の性癖というか衝動は知っている。このままでは色々と危ない。なんならつい先日も元気になるモノを食べて危なかった気がしたものだ。
穏の手が藤丸立香の太もも当たりを掴んだ瞬間に茂みから音が聞こえた。
「んう、どなたかいらっしゃいましたかね~?」
「フォウ君かな」
本当にいたら驚く。そして「ふぉ~うふぉふぉう?(またなのかい?)」とか言いそうである。
「たまの休みなんだから読書ゆっくりと楽しんで」
「あ……」
触らぬ神になんとやら。彼女は神ではないが。
「んう…残念」
穏も不自然に鳴った茂みも気にしないで去るのであった。
「………ふぅ。何をしているのかしら私は」
茂みの方にいたのは蓮華であった。廊下の時から藤丸立香の事を付けてきたのだ。
「ただ、声をかければ済む事よ。誰も…穏もおかしくは思ったりしない。何を恐れて私は声をかけるのを躊躇うの?」
彼女は藤丸立香に声を掛けたいのだが掛けられない。
「立香が他の誰かと楽しそうにしている時にばかり居合わせるのが悪いわ」
間が悪いというのは大事な時によく起こるものだ。
「酷い気分…何故、私がこんな……決めた。次会った時は気軽に声をかける」
気軽に声を掛けるのは簡単で難しい。しかしそれは個人的な問題だ。
理由はなんでもいい。例え誰と一緒にいても変に思われたりはしない。会話をしたいのであれば勇気を出すしかない。
「邪魔に思われたりも…しないわよね。この考えが嫌なのよ。要らないことばかり…本当にどうしてしまったの私は」
彼女は少しだけ変になってしまっている。決して『悪い変』ではないが、その熱は時と場合によって己を苦しめる。
「蓮華さま~~」
「きゃあっ、よ、楊貴妃?」
にゅっと同じ茂みから現れたのは楊貴妃であった。
「気配を感じなかったわ」
「これでも不夜奶奶にバレないように頑張ってますから」
頑張っている(悪戯)である。
「………貴女もなんですね」
「楊貴妃、貴女の目が怖いんだけれど」
蓮華から楊貴妃の目が黒でぐちゃぐちゃに塗りつぶされたような感じに見えたのは気のせいだと思いたい。
「マスターは本当に…もう!!」
ワザとではないのだが藤丸立香の周りには男女構わず集まる。これも人誑しゆえなのかもしれない。
特に色々とクセのある女性が多く感じるが気のせいである。妻や姉を自称する者とか。
「ついさっきも自称妃が増えましたし」
(自称妃…ああ、シャオの事ね)
「これ以上増えたらマズイんです。だから目を光らせていたのに…全く意味がない!!」
「はあ…」
「もう妻が2人いますし、恋人が1人、姉が1人に妹1人、母が2人、家が1軒…他にも色々と」
「ちょっと待って立香には妻が2人もいるの!?」
楊貴妃から衝撃な単語が飛びだして目をクワっとさせる蓮華。何なら心も乱されている。
姉と妹が1人いるは良いとする。母も2人いるというのも気になるが何となく分かる。しかし妻2人いて恋人1人は良く分からない。家が1軒いるというのも分からない。
取り合えず藤丸立香に妻が2人いるというのは初耳である。
「よ、楊貴妃。立香に妻がいるの!?」
「はい。自称ですけど」
「え…自称?」
「はい自称です」
自称と言葉を聞いて真顔になる蓮華。そして冷静に自称について考える。
「自称なのよね?」
「はい」
「その人たち大丈夫?」
「狂ってはいます」
先ほど挙げた中にバーサーカークラスが3騎いる。
「あと家がいるってどういう事かしら。ある、の言い間違えじゃなくて?」
「いるんです」
正確には家ではなく都市。
「え、え、え?」
楊貴妃は間違った事は言っていないのだが理解が出来ない蓮華であった。
「それはともかく!!」
「たぶんともかくと置いていい話じゃないと思うんだけれど」
「このまま追跡しますよ。マスターを守らないといけません!!」
「追跡するの!?」
937
藤丸立香は穏と別れた(退散)後も他に何人かと出会っては談話し、別れるのを繰り返した。
何故かたまたまなのか出会った者たちは全員女性であったのだ。徴姉妹たちとは象の話で盛り上がり、粋怜や祭とは今度賭博をしようと約束させられたり、包とは昇進できる方法を一緒に考えさせられたりとあった。
「マスター…天然とはいえ、こうも色々な女性と。これもう魔性の男レベルじゃないんですか?」
藤丸立香はそれを全力で否定する。
(立香…何でかしら。他の女性と楽しく話しているのを見ると胸がちくちくするというか。でも悪い事じゃないのに)
他の女性というのは蓮華にとって大切な家族であり、臣下たち。そして藤丸立香の仲間たち。悪い人たちではない。だからこそ今の心境に嫌な気持ちになる。
彼女はまだ自覚していない。しかしもうすぐ自覚するかもしれない。
(声を掛けたいだけだったのに何でいつの間にか楊貴妃と追跡する真似なんかを…)
始めの印象は「何だコイツ?」だ。母親が『天の御遣い』と言って孫呉に組み込もうとした事からが出会いである。
怪しくて認めるつもりは無かったが共に過ごし、戦っていく事で段々と認められるようになったのだ。
母親や姉から茶々を入れられるのは少し恥ずかしかったが友として、仲間として認め絆が育めた。
(でも…アレ以降は)
八傑衆の浮雲が起こした襲撃以降は前と同じようには接するのが難しくなったのだ。今まで普通に話しかける事が出来たのに今では声を掛けるのは一苦労である。
彼女にとって彼はより特別な人になっているのだ。
「また誰かと」
「あ、思春」
どうやら藤丸立香は思春と会話をしているようだ。
「おい」
「何かな思春さん?」
ジロリと見られる。
「なに?」
「蓮華様にため息をつかせておいて、よくものほほんとしていられる」
「蓮華さんが?」
ため息をついているという事は悩んでいるか疲れているかのどちらかだ。もしくは両方である。
ここ最近は色々と忙しい事が続いているのだからしょうがない。
「何で剣を抜いたのさ」
何故か抜刀した思春。
「私を不愉快にさせたからだ」
「何もしてないんですけど」
理不尽すぎる。
「冗談だ」
分かりづらい冗談だった。
「我慢ならない事がいくつかあるがな」
「なんでしょうか」
「貴様の、その軽薄でふしだらな態度だ」
「失礼じゃない?」
流石に彼女の言い分には否定したい。
「女性と見れば誰彼構わず恰好を崩し、胸や尻ばかり見ているような事をふしだらな態度と言う」
「そんな事は無い」
しかし否定できない部分はある。男の性かな、どうしても視線がいってしまう。
「ふん」
やっと剣を退いてくれた。
「百歩譲って認めるとして…オレがそういう目でいるのが我慢ならないっていうのはどうして?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ、うすのろ」
だんだん、ただの悪口になっていく。そこまで言われる程の悪い事はしてないはずだ。
彼女が藤丸立香の一挙一投足に神経質になる理由は何か。
「分からない…」
藤丸立香は時には知性高く、時には知性が低くなる。
「………理解しかねる。このような者の中に蓮華様は何を見たと仰るのか」
「蓮華さんが何だって?」
「その様子では蓮華様の想いには本当に気付いていないと見える」
剣は鞘に収まっても鋭く細められた瞳は刃の光をたたえたまま。
「貴様がその通りの鈍感で物の役にも立たぬ癖に下心だけは全開に城中に性欲をまき散らして歩いている輩であっても」
「酷くない?」
「蓮華様が貴様を憎からず思っているのならば想いを全うして頂くべくお力添えをするのみ」
「え、蓮華さんがなんだって?」
蓮華が藤丸立香を憎からず想っている。
「え…何を根拠に」
「知ったな」
「思春さんが言ったんだけど」
「知った以上、貴様には男としてふさわしい振る舞いを求めさせてもらおう」
「強制!?」
「万が一にも蓮華様を泣かせるような事があれば鈴の音が黄泉路へと誘うだろう」
「怖ッ」
彼女の眼は本気であった。
「やる気だけで全ての想いが叶うわけではない。貴様はまず蓮華様以外の女に対して色目を使う悪癖を改めるべきだ」
「そんな事してないけど」
「無意識か、それは厄介だな」
いちいち、剣を抜いたり収めたりして威嚇するのは止めて欲しいものだ。
「ならば他の女を見るな。夕暮れに出歩くのでも、なるべく日陰を選んで歩くといい」
「それ、どこかで聞いたような」
「以後、お前の命は蓮華様の為にあると知れ。万が一、他の女を孕ませでもすれば」
「すれば?」
「斬り落とすか」
「だから怖ッ」
何処を斬り落とすのか分かってしまうからより怖い。
「待って、ぐいぐい来すぎだ思春さん」
「約束はできないと言うのか」
「まずは冷静になろうか」
冷静そうでいて思春は暴走しているのかもしれない。
「まさか思春さまもですか」
「珍しい組み合わせで盛り上がっているのね」
「あ」
現れるは楊貴妃と件の蓮華であった。
「何の話をしていたの?」
「はっ。隊の編成案について天の御遣い殿の知識を頼りに意見を求めており……なんだ楊貴妃」
ズズイと楊貴妃が思春に詰め寄る。
「まさか思春様もですか」
「さ、さっきから何だ」
楊貴妃の黒く塗りつぶしたような目に見られてちょっとだけ引く思春。
「ごほん。ねえ立香、私はこれから街へ出る用事があってな」
「うん」
「立香もよければ同行してはもらえないだろうか」
「いいよ」
勇気を振り絞り、声を掛ける。何故かこれだけで大戦での鼓舞をやったかのような緊張感であった。
2人はそのまま町へと歩き出すのであった。
「しまった、出し抜かれました!?」
「まあ、待て。私も同行しよう」
938
街並みを見ながら歩く藤丸立香と蓮華。何処か雰囲気が堅いように感じる藤丸立香であったが彼女の用事を優先する。
「待って立香。ここよ」
連れられてきたところで、まず蓮華が足を止めたのは服屋の軒先であった。
「服を選びに来たんだ」
「身に付ける物全般よ。皆、私が身だしなみに気を遣わないでいると怒るくせに、私が自分で服を選ぶのも邪魔するのだから腹立たしいわ」
怒りながらも目線は店の軒先へ。
「自分が身に付けるものくらい、たまには自分で選びたいと思って」
「蓮華さんもこういうものを買いに来たりするんだ」
「な、何、おかしいの?」
「ううん、凄くいいと思うよ」
個人的な感想だが高貴な者たちは部下たちに装飾品とかを買わせに行っているイメージがある。それこそ彼女が言っていたように臣下たちが王の服を選ぶように。
王であるのならば。王らしい服を着るべきだという事だろう。しかし自分の着る服くらいは自分で選びたいものだ。
こだわりが無いのなら任せるのが一番だが、こだわりや自分の好きな服が良いというのであれば自分で選ぶべきなのである。
「蓮華さんも少し息を抜くつもりで服を選んでみたら良いと思う」
「ふふ、そうさせてもらうわ」
蓮華は微笑んでだ。
「と、ところで立香」
「なにかな?」
気になる事を聞く。これは彼女にとって重要な事なのだ。
「立香はこうやって…シャオ達を街に連れてきたりするの?」
「うん、たまには」
「服や、身に付けるものを選んであげたりも?」
「いつもってわけじゃないけど選ぶ事もあるかな」
買い物に付き合うついでで装飾品や服選びをする時はある。
カルデア側だと武則天や秦良玉たちだったりする。此方側では月や何姉妹たちだったり、今いる呉では小蓮はもちろん雪蓮ともしていたものだ。
「そ、そう…」
「何で?」
「もし選んだりしているのなら私もお願いしてみようかと思ったの」
「いいよ」
蓮華の息抜きに付き合うのならば賛成だ。
「せいぜい、意見を求めるくらいのものよ。構えなくてもいいわ」
服選びが始まり、服を選んでいる彼女の姿は呉王ではなく、普通の女の子であった。
やはり王という責務は重いものだ。こういう時くらい王の責務を忘れてもいいのかもしれない。
「これなんてどうかしら?」
蓮華が胸に当てたのは濃紺のチャイナドレス。
「少し丈が短いかも」
「立香はそういうところにしか目がいかないのね」
「そんな目で見ないでほしい」
「楊貴妃のよりは短くないと思うのだけれど」
「確かに」
楊貴妃と言わずカルデアではギリギリを攻めてる服装があったりするので彼の感覚も少しはズレてるかもしれない。
「なら、これは?」
店の中に入っていく背中を追いかけると蓮華はまた目当てのドレスを見つける。
「うん、それは似合うかも。爽やかな色使いが蓮華の気取らない印象によくあってると思う」
「私は気取りたい時に着る服を探しに来たの」
「そっか。じゃあオレも探すよ」
「あ」
肩と肩が偶然に触れた。
「…………」
横顔から察するに彼女は気にしているようだ。
(本当にどうしたのかしら私は…ちょっと肩が触れたくらいで)
一緒にいるだけでドキドキする。しかし嫌な動悸ではない。一緒に居る時は苦しいようで気持ちが良い意味で昂る。
今この瞬間の服選びもとても楽しいのだ。逆に彼が他の女性と一緒にいると胸がチクチクする。大切な仲間であり、家族であっても嫌な気持ちになってしまう。己はこのような性格だったかと自分で不思議に思うくらいである。
(何なのよ…さっきまで普通に喋れたのに。このままじゃ上手く喋れないかも)
今の自分が変なのは理解している。その事を藤丸立香に悟られないように平然を装うとする。
(今は彼が服を選んでくれる。ならちゃんと選んでくれた服を私も見なきゃ)
「これなんてどうかな」
「そうね……だいたいはいいけど、裾の形が少し気に入らないわ」
「じゃあ、こっちは?」
「少しは学習が見えるわね。素敵だけど欲を言えばもう少し肌が見えないものが好み」
「う~ん…」
なかなか服選びとは難しいものだ。その人のセンスや好みがあるのだから千差万別。
「それとも、立香は私にこういう服を着せたいの?」
「本気で似合う服を選んでるつもりだよ」
女性に服を選び、贈るというのは簡単にしてはならない行為だ。真剣に本気で選ばなければならない。
「…なら、それに決めようかしら」
「妥協はしない。だんだん見えてきた」
相手の好みやセンスが分かってくれば答えが自ずと見えてくる。
「ええ、分かったわ。なら任せる」
そのような調子で服を見繕っては戻すを繰り返す。
「これならどうかな?」
「そうね…」
光沢のある白い素材に、花の刺繍をあしらった高貴な中にも嫌味がないチャイナドレスは超がつく自信のチョイス。
「ええ、気に入ったわ。ふふ、本当は次に立香が何を持ってきてもそれに決めるつもりでいたの」
「妥協駄目」
「違うの。とても嬉しく思っていたからということよ」
藤丸立香が選んだドレスを胸に蓮華は頬を染めて微笑んでいた。
「こんなに一生懸命に選んでくれた服が私に似合わないはずがないでしょう。そう思っていたら今までに一番気に入るものを貴方は持ってきてくれたわ」
この気持ちは世辞でも何でもない。本心の気持ちだ。
藤丸立香が選んでくれたというのが重要だ。とても嬉しいという感情が彼女の心を溢れさせる。
他愛のない服選びなのに何故、こんな気持ちになるのか分からないが嫌ではない。
(この気持ちが…分からない?)
今の自分の気持ちが分からないと思う彼女だが本当はすぐ答えに辿り着けるのだ。ただはっきりと答えを自覚していいのかと思っている。
自覚したらきっと自分は前の自分と変わる。今でさえ自分は前と違うと自覚しているのだから。
(それでも私は…)
この気持ちを背け続けるのは難しい。
「気に入ってくれてよかった」
ニコリと微笑する藤丸立香。
(私はやっぱり彼の事が)
もう自覚しているようなものだ。彼の傍にいたい。彼を傍にいさせたい。
彼女の気持ちはどんどんと強くなる一方だ。その気持ちは悪いとは言わないが、ただちょっと危ない部分もあるかもしれない。
「これはマズイ気がします」
「何がマズイんだ?」
そんな2人を影から覗く楊貴妃と思春。
楊貴妃は蓮華の気質を何となく察しているが思春は分からない。忠誠は変わりはしないが主の変化には驚くかもしれない。
(分かります…彼女はヤバイです!!)
この場にBBがいれば「貴女もヤバイ女ですよ?」とツッコミを入れるはずだ。
(マズイです。ここでもマスターを中心に色々と集まってます。本当に獲られてしまいます。それにしても…)
何か引っかかる気がした楊貴妃であったが今は藤丸立香と蓮華の尾行に専念するのであった。
939
ある荒野にて。
「ふう…こんなものか」
ある男の周囲には倒れた複数の傀儡姫たち。
「嘘でしょ。今回の傀儡姫は以前のものよりも完成度が高いはずなのだけれど」
そんな男を見るのは骸骨仮面を被った怪人。その正体は曹操(暗影)。
(傀儡姫を連れて今の魏で遊んでこようと思ったのだけれど邪魔されちゃったわね)
今の魏は呉との戦争で露見した内部の裏切りで再編成をしている。そんな状況で自分ソックリの傀儡姫が魏に入り込めば色々と面白いかもしれないと思ったのが始まりである。
ちょっとした愉悦を期待したが魏に侵入する前から計画は瓦解した。目の前の男に遭遇し、より精度が増した傀儡姫の性能を試そうとしたのが運の尽きだった。
「しょうがないわね。これは帰るしかないわ」
「帰すつもりはない。其方は丞相殿に捕まえられるならば捕まえて欲しいと言われている人物の1人だ」
「悪いわね。貴方が綺麗な女性だったらお誘いは受けたわ」
カチャリとお互いに得物を構え、交差させた。
「うーむ。逃げられた」
結果的に言えば曹操(暗影)に逃げられた。
「残念でしたね黄様」
「姜維殿か。丞相殿に捕まえて欲しいと言われた手前恥ずかしいな」
「いえ、捕まえられたらと言っていました。それに本来の目的は達成済みです」
「姜維の言う通りです。管輅殿に頼まれた鍵を手に入れたのです」
ヒョコリと岩陰から現れたのは姜維と法正。
3人は管輅から頼まれた依頼を受け、魏に赴いていたのである。その依頼とは鍵を見つける事。
「これで桃仙郷へ向かえます」
その鍵とは桃仙郷へと開くものだ。
曹操はある時期、妖術関連の物を多く集めていた。管輅は曹操が桃源郷への鍵を持っていると踏んで3人を向かわせたのである。
その予想は的中し、3人は色々とあって曹操から鍵を手に入れたのだ。
「曹操殿はこの鍵が何なのかまで分からなかったのが幸いでした。もしも桃源郷へと向かう鍵だと知っていたら渡していただけなかったかもしれません」
「そうだろうな。それにしても此方の曹操も中々の傑物だった」
「今の大陸で一番の傑物は曹操と言われてますから」
そんな曹操の覇気に負けずと堂々としていたのが2人の目の前にいる男である。
「黄様、曹操殿に勧誘されてましたね」
「断ったらその場にいた2人の女性に怒鳴られたんだが」
「あの2人は相当、曹操殿に入れ込んでいましたから…」
「なんならその2人と一緒に疑似幽世に迷い込んで一緒に脱出しましたからね」
魏では鍵を手に入れる為に色々とあった。
「何はともあれ丞相殿たちの所へ戻ろう」
「はいお父…黄様」
ごほんごほんと咳をしながら顔を赤に染める姜維。そんな彼女を優しく見る法正。
「管輅殿が言うにはそろそろ大きな転機が来ると言っていたからな」
大きな転機。それは赤壁。
読んでくださってありがとうございました。
次回の更新はまた未定。
今回で呉の日常編は終了です。
実はもう少し呉での日常編を書きたかったですがカット。
(本編にあった張角と雷火や陳宮や冥琳の話とか)
更に呉では『南海の山越王編』や魏では『桃源郷の鍵編』や『魏内部分裂編』とか考えてましたが泣く泣くカット。
次回からは赤壁編に突入…の手前。蜀と呉の話になります。
936~938
蓮華の幕間の話を元にした物語です。
賛否両論かもしれませんが、まあ…カップリングぽい話ではあります。
八傑衆の浮雲との戦いから蓮華がより意識し始めました。ただちょっと依存方向になりそうです。(元々、公式でも依存の質があるそうなので)
小蓮…自称妃
この世界でも自称する者は現れる。
FGOでももっとこれから自称する者は現れるかもしれませんね。しかし次は何なのか。だって自称家が出てくるですもん。
939
新キャラ。姜維に黄様と呼ばれた人物。
もうバレバレですね。
本当は魏でこの3人を活躍させるはずだったんですけどカット。
(本編でもちょこっと書いた桃源郷の鍵回収の話や傀儡姫で魏をかき乱す話)
なのでこっちに結果だけの話ちょっとです。
道士たちが合流するのもそろそろ(赤壁編にて)