Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
FGOではバレンタインイベントを頑張ってます。
今年も甘い甘い!!
いやあ、ほんとに甘すぎますね。
987
夏口にて。
「孫権さんお久しぶりです」
「ええ、久しぶりね」
江陵から長江を下ることしばらく。
ほぼ東の端にある夏口で桃香たちを迎えてくれたのは蓮華たちだ。
「よっ立香」
「ちょいとぶりだね一刀」
拳をコツンとする藤丸立香と北郷一刀。
「いきなり立香が誘拐された時は驚いたぞ?」
「ああー…オレも驚いたよ」
小蓮と思春が有無を言わさず藤丸立香を引き摺って行った時は「え、何々。身代金でも要求されるのか?」と思ってしまったくらいである。
「折檻でも受けたのか?」
「受けてないよ。でも蓮華から説教を受けた」
「何て?」
「私の傍から離れないでって怒られた」
「「へえぇぇ」」
北郷一刀と桃香がニヨニヨしながら蓮華を見る。
「ゴホン!!」
大きく咳をする蓮華。そしてすぐに平然な顔に戻す。
「劉備…色々あったけどこの間は残念だったわね」
話を変えるために三面同時侵攻作戦の事を口にするのであった。
「はい。あ、長沙の件はお返事が遅れてすいません。紫苑さんとも話しましたけど、落ち着いてからで大丈夫だそうです」
「了解。でも次は魏に一矢報いるわ」
「そうですね。曹操さんにわたしたちを認めてもらうためにも」
桃香はそう答えて、差し出された蓮華の手をそっと握り返してみせる。
蓮華と桃香では曹操との戦いに違うものとして視ているのだ。蓮華は曹操を倒したい。桃香は曹操と手を取り合いたい。しかし、その違いで仲違いする事はない。
別に合わせるつもりは無く、お互いに自分の国を守り、平和になれば良いのだから。
「馴染まなくてもいいというやつだ。そういう考えだと割り切るだけさ」
「ぶっちゃけるなぁ」
国が違い、王が違い、人間が違えば考えは異なるものだ。
「今さら取り繕っても仕方なかろう。なあ劉備?」
冥琳の言葉に頷く桃香。
「はい、今はそれで構いません。ですが、力を合わせられる所は…」
「ええ。その点に関しては此方も同じよ。詳しい話もしたいし、場所を変えましょう」
蓮華はにこやかな雰囲気を変え、王の表情へとなる。その表情を見て桃香も真剣になるのであった。
「……話は聞いていましたけど合肥はそんなに呉が優勢なんですね」
桃香たちは港の近くにあった天幕に場所を移し、広げた荊州の地図を前にお互いの現状を確認する。
「いやぁ。蓮華様とシャオちゃんの息がぴったりでさぁ。凄いよ」
梨晏は忖度なしに褒めちぎる。
「とはいえ、あくまでも張遼たち将単位の戦力に対して、という話だがな。向こうが本気を出して来ればどうなるかは想像もつかん」
「魏の本気か」
大陸でもいわゆる「都会」に分類される河北や都周辺は全部魏の領土だ。
土地の面積だけで言えば蜀も呉もそれなりに良い勝負をしているが人口や技術レベル、流通の規模までのトータルで考えれば魏は三歩も四歩も先を行っている。
「本気を出した曹操は、どのくらいの戦力を出してくるのかしら…」
「涼州に攻め込んできた時でさえ十万を超えていましたが、その頃の話はもう参考にもなりませんね」
「そうですね、今の魏で防衛に回す以外の全戦力を集めれば、三十万か四十万か…」
「十万二十万って単位は聞いた事があるけど、ざっくりその倍か」
曹操が本気を出したら蜀と呉を相手取るはずだと判断する。大陸のほぼ半分を手中に治めている相手はそういう力の持ち主でもあるのだ。
「前に朱里ちゃんたちと試算した事がありますが…最悪、五十万を超える可能性があります」
「五十万か…現実味のない数字ね」
「だがそこまでの兵を動かすなら、陸路での進軍は厳しかろう。小さな国なら輜重だけでも傾く規模だしな」
「やはり、漢水ですか」
決戦場所の予想。それに対して北郷一刀は「あれ?」っと心の中で思う。
「ああ。船戦なら、我らにも付け入る隙はある」
三面同時侵攻作戦でも漢水ルートでは、艦隊戦はだいぶ有利に進めていた。
「それにこの辺りは北方の山岳地帯とは風土がまるで違う。強行軍ならば病、食あたりの蔓延もあり得るだろう」
「…そんなのがあるのか。俺たち別に気にしたことなかったよな?」
地元出身の蓮華たちは問題ないにしても桃香たちだって元々は河北の民だ。風土病が厳しいのであれば条件は同じである。
「徐州から逃げてくる時に通ったのは揚州の北端に近いところでしたし、荊州についてからはゆっくりと馴染む時間がありましたから」
「まあ、向こうも漢水の戦いはくぐり抜けているから期待出来るか怪しい所だが…五十万を削る足しくらいにはなるだろう」
「一割削るだけでも五万ですしね…」
そう考えると恋や愛紗たちが無双するよりも威力がある事にある。風土病とは怖いものだ。
(いや、本当にとんでもないのは…そんな大量の人員を動かす事の出来る魏、曹操か)
「風土病に関しては置いておくとして、具体的にはどうするのかしら?」
風土病が宛てになるとは思わない。最終的には兵を動かし、戦わなければならないのだから。
「基本、この夏口で連中を迎撃しようと思う」
「長江に入れる前に叩くって事ね」
「……赤壁じゃないのか」
ポツリと呟く北郷一刀。藤丸立香もまた呟きそうになったものだ。
「わざわざそこまで追い込む意味が無いだろう。何かあるのか赤壁に?」
「いや、何でもない。ちょっと地名に目が付いただけだから」
「ふむ…」
北郷一刀や藤丸立香の知っている歴史なら、この大決戦の舞台は夏口よりももっと上流の赤壁になるはずだ。今の長江は全域が呉と力の勢力下にある。
そもそも赤壁の戦いは劉備が蜀に入る前の戦であり、発生条件の前提からしてズレが起きている。
この異世界は三国志の外史ということで正史とは異なるのだ。であれば、決戦が赤壁とは限らない。
(そうなのかな…赤壁の戦いはターニングポイントだと思うんだけど)
現段階で赤壁で戦いは起こらないという予想だ。実際のところはどうなるかなんて分からない。
「船戦とはいえ、それで魏の大軍を叩けるの?」
「無理だな」
その問いに冥琳はびっくりするほどあっさりと答えていた。
「故に前段階として、蜀の皆には魏の補給線を叩いて欲しい」
「補給線って…襄陽から船を使うんじゃ?」
「その前だ。魏の各地から襄陽までは陸路を使う所も多いだろう」
「集め終わるまでに各個撃破という事ですか?」
「そういうことだ。具体的には…このあたり」
「ここって」
冥琳が指したその場所は襄陽よりもほんの少し北。それこそ、曹操のいる陳留へのライン上にある1つの街。
「新野経由での補給線を断って欲しい」
「…新野かぁ」
「そっか。みんなが前にいたのは…」
新野という場所に桃香たちは思い入れがある。
「気にしないで。まさか、こういう戻り方をするとは思ってなかったけど」
そう言う意味では土地勘があるのは良い事なのか悪い事なのか。
「新野の補給線を断つのは理想だけど、かなり厳しいな。襄陽が抑えられてる今、敵陣のまっただ中じゃないか」
「だからこそ、挑む価値はあると思います」
「だよね…」
確かにそういう地形なら警備もそこまでではない。ほとんどの物資は新野を経由するか集積地にするはずだ。
ここで叩ければ五十万の大軍に大打撃を与えられる。まともに五十万と戦っても数の暴力で敗北するのであれば出来る限り削りたいものだ。
「糧食や物資が滞れば士気に直撃するしねぇ」
「なら…そのお役目、私たち馬家に任せてください。前に大陸を周っていた頃、姉さんたちと新野のあの辺りにも行きましたし」
鶸が手を挙げて立候補する。
「そういえば鶸たち、前に社会勉強で各地を回ってたっけ」
その時に幽州にも寄って、初めて北郷一刀たちと出会ったのだ。
「船戦で騎馬は役に立てませんが、この手の遊撃戦なら得意分野ですから。きっと姉さんも存分に力を振るってくれると思います」
「確かにそうだけど、危ないよ?」
「逃げるにも、騎馬の方が歩兵より有利ですし、何よりこの戦いで危なくない立ち位置なんかありませんよね?」
「それは…」
戦をする時点でも危険も何も無いのだ。戦が始まれば死ぬか生き残るかのどちらかだ。
「だったら帰ったら翠ちゃんにも聞いてみてくれる?」
「ならば、そちらは任せる。全ての補給路を断つことはかなわずとも、大きな所をいくつか使えなくするだけでも効果は大きいだろう」
「分かりました」
その時だった。天幕の外から悲鳴にも似たいくつもの声が聞こえてきたのは。
「これ、そんなに慌てるでないわ」
外で祭が誰か2人を宥めている様子が聞こえてくる。その誰か2人の声は桃香たちにとってよく知った声だ。
「何、なんの騒ぎ?」
そして天幕に跳び込んできたのは雷々と電々だった。
「桃香様ー!!」
「ご主人様ー!!」
「どうしたの2人とも!?」
「どうしたんだそんなに慌てて。っていうか2人とも江陵にいたはずじゃ!?」
桃香たちが夏口に出発する時に2人は江陵に残っていたはずだ。
「そうだけど、あぅぅ…」
「ぐすっ。桃香さまぁ…どうしよう」
「どうしようって、何があったの?」
2人はそう言って泣くばかりで状況はさっぱり分からない。ここまで来たってことはただ事ではないはずだ。
「祭さん。何かあったの?」
「立香か…どうやら江陵が攻められたらしい」
大事件だった。
988
雷々と電々の報告は桃香を凍り付かせるものであった。それは江陵が夏侯惇と夏侯淵によって落とされた事である。
彼女たちは紫苑たちによって逃がされ、夏口にいる桃香たちに急ぎ報告に来たのだ。
「夏侯淵と夏侯惇が…」
夏侯淵は定軍山で戦ったばかりであり、夏侯惇は漢水では散々な目に遭っていた。魏の中で一番蜀にリベンジしたい二大看板だ。
その2人が本気で攻めてきているとなれば悪夢以外の何物でもない。
早く助けに行きたいと思うのが桃香であるが、もう遅い。江陵は既に落とされている。
幸いな事に紫苑たちは江陵から脱出している。紫苑たちにとって一番まずいと思う事は捕縛されるか、殺されてしまう事だ。それが桃香にとって一番悲しませる事だと分かっているからだ。
「江陵のみんなも大丈夫かな……」
「大丈夫なはずだ。魏にとって江陵は喉から手が出るほど欲しい、長江の橋頭堡だからな。うかつに焼いたりはせんよ」
「はい。その心配は薄いですが…完全に分断されてしまいましたね」
桃香の心配事であるが冥琳も朱里も否定してくれる。そのおかげで幾分か安心できるものだ。
それでもまず、一番の問題がある。雛里が言ったように分断されてしまった事だ。
呉と蜀の連絡はほぼ長江で成り立っていると言っても良い。その状況で中流にある江陵をまるまる魏に抑えられたら、どうなるかなんて考えるまでもない。
「夏侯惇は此方まで攻めてくるかしら?」
「そこまでは無いな。江陵の船団を掌握した後は襄陽から来る曹操の本隊と連携して動くつもりだろう」
「なるほどね。一番美味しい所は曹操に…か」
いずれにしても新野を攻める前に課題が増えてしまった。何としても江陵を取り戻せねばならないと強く思う桃香たちであるが、まだ別の問題がある。
それは成都までどうやって戻るかである。江陵を魏に抑えられた事で水路を使えなくなったのだ。陸路を進めば曹操軍の真っ只中を通る事になる。
この問題に直面した時、桃香たちは全員で「「「あ…」」」と口にしたくらいだ。
「どうしよう…」
結果的にどうするかとなった時、まさかの救世主が現れたのだ。その救世主とは南蛮の美以たちだ。
彼女たちは物珍しさにより蜀の領土を探検したり、船に密航して江陵や夏口まで訪れていたのだ。
その行動を知っていたがまさか夏口まで来ていた事には驚くべきか、怒るべきか、呆れるべきかと混乱しそうになるくらいだった。しかし、そんな彼女たちが救世主なのだ。
彼女たちには特別な能力が備わっていた。それは知っている目的地であれば必ず戻る事が出来るというもの。ある種の帰巣本能のような能力である。
実際に美以たちは南蛮から成都まで迷わずに安全なルートで行き来している。試しに夏口から成都まで帰れるかと聞いた時、方角を確実に当てていた。
桃香たちの現状で何も出来ない状況に美以たちは選択肢を与えてくれたのである。そうなれば判断は早かった。美以たちに案内してもらいながら陸路で帰還する事が決定した。
直接成都まで戻るのではなく、まずは夷陵を目指せば紫苑たちと合流できる可能性が高い。そしてある程度の兵力は確保出来るからだ。
「ふふん、まかせるにゃ」
「……だ、大丈夫なの?」
蓮華は不安だと思うが美以たちは思いの他、強かである。
「森のなかで、みぃよりすごいやつはいないにゃ!!」
「雛里にも確かめてもらったんだけど、どうやら美以たち、方角がいつどこでも分かるらしい」
「ほう」
この能力に関しては冥琳も素直に驚く。
「…気を付けてね劉備」
「ありがとうございます。なんとしても蜀に戻って、作戦を始めますから」
989
江陵にて。
「……劉備たちが夏口にいる?」
「はい。こちらに投降した江陵の官から、そういう情報がありました」
劉備と聞いてピクリと反応する。
「だとしたら、連中は何としてでも蜀に戻ろうとするだろうな。どうする姉者?」
瞬時に夏侯淵は劉備たちの状況を理解する。蜀の王が本拠地から孤立しているというのは魏にとってチャンスである。
「どうもこうもない。捕まえるに決まっているだろう」
「良いのですか。お姉様は劉備との決着をお望みなのでは?」
「そうだろうな。だが華琳様は、以前の漢中で劉備に会えなかったとぼやいておられたではないか。決着の前に陳留で顔を合わせるのも一興だろうよ」
「ふむ…そういう考え方もあるか」
時たま夏侯惇は粋な計らいをする。
「その後でどうなさるかは、華琳様の御心次第だ。柳琳、警戒網を強めるようにするんだ。街道を封鎖して何としてでも劉備を捕えるのだ!!」
「はい!!」
夏侯惇が劉備包囲網を張る。
そんな包囲網の中で桃香たちはまず成都ではなく夷陵へと向かっていた。
「ご主人様たちこっちだよ!!」
「こっちこっちー!!」
「はいはい。あんまり大きな声で騒ぐなよ2人とも」
「「はーい」」
桃香たちは街道を離れ、江陵付近の森の中を西へ西へと進んでいた。
「なんだか気合が入ってるね2人とも」
「当たり前だよ。急いで成都に戻らなきゃいけないでしょ。成都までまだまだ遠いもん」
「そうそう。それに護衛は雷々たちだけだからね」
「…私もいますけど」
「あ…そっか」
「美以たちもいるにゃ!!」
「「「にゃー!!」」」
「ふふっ。お二人は主力ですから、よろしくお願いします」
「うん、任せといて」
実際、美以たち南蛮勢は正規軍ではない。美花は護衛と考えると頼りになるのは電々たちだけだ。
更に護衛は他にもいる。
「オレらも一応護衛なんだけど…魏から守るというよりも鬼たちからだからな」
今までの傾向からすると鬼の襲撃があってもおかしくないため、同行しているのだ。しかし夏侯惇たちと接触した場合は悩みどころである。
藤丸立香たちが護衛しているのは鬼の襲撃から守る為である。三国の戦いには手を出さないと決めているから相手が夏侯惇たちであった場合は何も出来ないのだ。
「それも…なんだかなぁ」
そういうように決めておきながら自分でも今の立場を微妙に感じてしまうのであった。
「それはしょうがないよ。俺らは気にしないさ」
「そう言ってもらえると助かるよ一刀」
鬼が襲撃してきた場合は三国の戦いどころではない。相手は人ではなく鬼という怪異であればカルデアの力は必要だ。
このような状況で鬼の襲撃が無い事を願うしかない。
「成都は最終目標地だけど、その前に夷陵を目指す」
江陵周辺の状況が分からないから何とも言えないが、差し当たって目的地は江陵の上流にある夷陵の街だ。
夷陵で紫苑たちと合流し、その後はいつも通りの水路を使って成都に戻るのが理想の展開である。
「頑張らないと!!」」
「うん。気を付けないとね電々」
「うん」
パンパンと己の頬を叩いて気合を入れる。
「桃香さまー、次はこっちだって」
「あ、そっちじゃないにゃ。そっちはイヤなにおいが…」
美以が止めようとしたが遅かった。
「「………あっ」」
夏侯惇が現れた。
「待てぇぇぇぇぇぇ!!」
「逃げろー!!」
静かな森にビリビリと響き渡るのは夏侯惇の殺気混じりの叫び声だった。
「うぅ、やっちゃったよぉ。ごめんなさぁぁい!!」
「ううん、電々ちゃんたちのせいじゃないよ!!」
「そうだよ。今はそれよりも逃げ切る事を考えよう!!」
全力ダッシュで夏侯惇から逃げる。
「何でお前らもいるんだ藤丸、司馬ぁ懿ぃ!!」
「ははは。まあ、色々とね?」
「うん。色々とあって一緒なんだ!!」
夏侯惇は劉備たちと一緒にいる藤丸立香たちに疑問を思うが、一緒に捕まえれば問題無しと考えた。
「こっちにゃ!!」
美以が指したのは森の中からも見えていた長江の支流だ。
「こっちって…飛び込めってことか!?」
「覚悟を決めるしかありません。ここは美以ちゃんを信じましょう!!」
この状況で夏侯惇から逃げ切るには、確かにそのくらいしないと無理かもしれない。
北郷一刀たちは覚悟を決めて駆け出す。
「しょうがないな…雛里!!」
「あ、はい!!」
北郷一刀は優しく雛里を抱き寄せる。こんな状況でも雛里は顔を赤くした。
「桃香さまは私が!!」
「美花さんお願い。ご主人様も気を付けてね!!」
「ああ、みんな後で会おう!!」
そして北郷一刀たちは近くにいた仲間たちと手を握りあうと長江の支流へと飛び込んだ。
「………」
「春姉ぇ、いたっすかー!!」
「華侖か。連中、この川に飛び込みおった」
「ふぇっ、大丈夫なんすか?」
「その確信があったからああしたのだろうが…よほど追い詰められた上での動きにも見えたな。取り合えず兵を下流に展開しろ」
川に飛び込んだから同じく飛び込んで追おうとは思わない。
「わかったっす」
「劉備め。手勢は残らず捕まえてくれる」
絶対に逃がしはしないという気迫が漏れ出ていた。
「で、お前ら何で川に飛び込まなかったのだ?」
チラリと夏侯惇の視線は藤丸立香と司馬懿(ライネス)たちに向けられた。
「まあ、話したい事があったから」
「ならお前らは逃げる必要は無かっただろうが」
川の前で残ったのは藤丸立香と司馬懿、秦良玉であった。
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魏兵が河に飛び込んだ劉備たちを捜索している間で、藤丸立香たちは魏の天幕でお茶をご馳走になっていた。
「美味しい」
「美味しい…ではない」
「え、曹純さんの淹れてくれたお茶美味しいよ?」
「違う。そういう話ではなく、話とは何だという事だ」
夏侯惇が机をドンと叩く。
さっさと桃香(劉備)を捕獲しに行きたいが藤丸立香や司馬懿(ライネス)たちの話は無視できない。
彼らは主人である曹操が懇意にしているが故に重要な話があると言われれば聞くしかないのだ。
「曹操さんの事だから既に情報を集めているかもしれないけど…三国の戦いの裏で別勢力が暗躍しているんだ」
ピクリと反応する夏侯惇と夏侯淵。
「別の勢力は言わずもがな…于吉たちだ」
曹操たちも于吉たちによる暗躍で被害を受けている。蜀や呉とは別に警戒している勢力だ。
「ここ最近じゃ鬼による襲撃がある。蜀も呉も被害を受けてる」
鬼の襲撃と聞いて曹純は過去の襲撃を思い出す。当時は本当にまずかった程である。
得体の知れない勢力として、ある意味二国よりも警戒していると言ってもいいくらいだ。それは蜀と呉も同じであるが。
「…ああ。我ら魏も情報は集めている。蜀と呉の同盟時も鬼の襲撃があったというのは得ている」
曹操は三国の戦いに于吉たちの勢力が動くのではないかと予想している。それも含めて動いているのだ。
「流石は魏だね。第4勢力の事を話さなくとも既に集めていたか」
「司馬懿か。曹孟徳様はいつでも其方を歓迎しているぞ?」
「嬉しい誘いだが遠慮しておくよ」
「ふっ、そうか」
司馬懿(ライネス)の答えが分かっていたのか軽く笑う夏侯淵であった。
一方、曹操の誘いを断る事に関してジロリと睨む夏侯惇。
「于吉なる者どもに蜀と呉との戦いを邪魔される事は曹孟徳様も許せないとおっしゃっていた。もしも邪魔すれば先に潰すつもりだ」
大陸の覇権を手に入れる戦を邪魔される事は曹操にとって許されない事だ。夏侯淵が言ったように于吉たちが邪魔するのであれば全力をもって叩き潰すと決めている。
その答えに警告は必要なかったかもしれないと思う司馬懿(ライネス)であった。しかし相手は得体の知れない力を持つ者たちだ。
藤丸立香たちも一緒に戦う旨を伝える。
「それは心強い。我らも其方たちの力は必要だと思っているからな」
官渡の戦い、曹操暗殺計画、鬼の襲撃。いずれもカルデアの力を貸してもらえなければ危なかった部分があると夏侯淵は理解している。
主人である曹操も必要だと思っているからこそ藤丸立香や司馬懿(ライネス)たちを引き込みたいと思っているのだ。勿論、好みの女性がいるからというのもあるが。
(華琳様は司馬懿殿や秦良玉殿が良いと仰っていたからな)
主人が目移りしてしまう事に嫉妬してしまうが、それもまた好きな所である。夏侯惇や荀彧がとても嫉妬するものだが。
実際に曹操が司馬懿(ライネス)や秦良玉に目移りしていた時は、その2人に嫉妬の目で睨んでいたくらいである。秦良玉曰く「ちょっと殺気を感じました」との事。
「…一応聞いておきたいが、藤丸殿たちは我ら魏と蜀呉の戦いに関わるつもりか?」
簡単に言えばカルデアが蜀と呉に力を貸し、魏と戦うという事だ。
「それは無いよ。三国の戦いにオレらは関わらない」
三国の戦いに関わらない事はこれは絶対である。最初は孫呉の皆も難色を示した時は困ったものだ。
「蜀の天の御遣いは手を貸してるのに」と言われた時はどうしたものかと考えたが、役目が違うという事で何とか納得してもらったのだ。
その代わりに「呉の種馬としてもっと励んで」と言われた時も困ったものであったが。
「それなら良いさ。心置きなく蜀と呉を倒せる」
「ふん、もしも貴様らが蜀と呉に手を貸すなら一緒に叩っ斬るだけだがな」
「夏侯惇は相変わらずだね」
「それが姉者の良いところさ」
「私はいつも通りだが?」
良くも悪くも夏侯惇は真っすぐという事である。
「警告はした。じゃあ私たちは戻るとするよ」
「曹孟徳様に会っていかないのか?」
「遠いじゃないか」
「はは、そうか」
鬼の情報を伝え、藤丸立香たちは戻ろうかとした時に魏兵の1人が天幕に入ってくる。
「夏侯惇様ご報告です」
「どうした?」
「天候が悪くなってきました。雪です」
「ゆきぃ?」
天幕から外へ出ると確かに雪が降っていた。
読んでくださってありがとうございました。
次回の更新は2週間以内をまた目指します。
987~989
ほぼ流れは原作と同じですね。
はい…特に変化はあまりないかもです。
990
こっからオリジナル展開です。
魏も于吉たちの情報は探しています。
まあ、やはり三国の決戦に対して、気になりますからね第4勢力。
そして急な雪。まあ、予告はしてましたし。