Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
まほよコラボ クリアしました!!
とても楽しかったです…次のコラボ作品が楽しみですね。

そして次はアンケート復刻版。カリブの海の水着イベントもおもろしかったのでまた遊べて嬉しいです。
リリムハーロットも控えてますし…いかん、石が足りない!!




鬼の凶刃

1015

 

 

大百足の背にて武田信虎に白川、百々目鬼を名乗る者たちが乗っている。そして武田八鬼将に三国の王たちもだ。

赤壁より北上して、目指す先は彼女たちの根城である無双の塔。

 

「策ガ見事ニ成功ダノ」

「兄者ノ活躍ノオカゲダ!!」

「弟ノオカゲデモアルゾ!!」

 

隋身鬼は気分が良くなって俳句を詠みたくなる。

 

「ソレヨリモ2人ホド足ラヌガ?」

 

武田八鬼将が8体中6体しかいない。凍女鬼と闇生鬼の2体が居ないのだ。

 

「凍女鬼は敗北した」

「…死ンダノカ。マア清々スルデオジャル。ダッテ アイツ弟マデ凍ラセルカラノウ」

 

凍女鬼の評価はあまり良くないようだ。

意思疎通があまり出来ず、暴走して敵味方関係無く凍らせるのだからしょうがない。

 

「何デア奴ヲ八鬼将ニ入レタデゴジャル」

「強かったからだ」

 

確かに凍女鬼は強かった。鬼や人を凍らせ、天候を変えて雪すらも降らせる。

 

「意思疎通は難しかったが…それも強さの1つだ」

 

狂暴で暴走する鬼女。近づく者敵味方関係無く襲い、凍らせる。

そういう意味では誰彼関係無く畏れされるという点では抜擢された存在である。恐怖を与えるというのは強さであるのだ。

 

「ああいう奴は軍に1人くらいいた方が良い。下の者共を恐れさせ、抑えになる。更に敵のへの特攻兵になるからな」

「デモ暴走スルデオジャル」

「要らなくなったらすぐに斬るつもりだった」

 

鉄砲玉もしくは蜥蜴の尻尾切りに最初からするつもりだったのだ。

 

「オオ…大将ハ恐ロシイ。ソシテア奴モ憐レダッタノウ」

 

隋身鬼は懐から短冊を取り出す。

 

「麻呂ガ代ワリニ辞世ノ句デモ詠ンデヤルデオジャル」

「兄者。モウ凍女鬼ハ死ンデル」

 

辞世の句は死ぬ前に詠むものだが隋身鬼にとって関係無い。

 

「ンデ、闇生鬼ハドウシタ?」

 

もう1体居ない武田八鬼将は闇生鬼。

彼もまた死んだのかと聞くのは狂射鬼である。別段、仲が良いわけでもなく、心配しているわけではないが気になったから聞いただけだ。

 

「奴には暇を与えた」

「ホウ?」

「どうせ奴は今回の策以降でもう言う事を聞かない。また独断行動するだろうからな」

 

人斬りの闇生鬼。自分の欲望のままに殺人衝動を開放し、刀を振るう悪鬼である。

しかし今回ばかりは異なり、彼は復讐に囚われている。己に恥をかかせた者に必ず惨殺させると誓って動き出しているのだ。

今まで我慢していた彼は今回の戦で解放され、藤丸立香たちを殺すまで止まらない。

 

「奴はカルデアのマスターと黄忠を殺すまで帰ってこんさ」

「ナルホドナ。帰ッテキタラ マタ罰カ?」

「暇を与えたと言っただろう。帰ってきたら次の戦で好きなだけ欲望のままに人間共を斬らしてやる」

(何ダカ戻ッテコヨウガ来マイガ ドチラデモ良イヨウダナ)

 

武田信虎にとって次の戦に闇生鬼が居ても居まいが王の居ない三国との戦に支障はない。

チラリと気絶している三国の王たちを見る。相変わらず意識はないが包屍鬼が傷の処置をしていた。

 

「包屍鬼よ。王どもの容体は?」

「無事ダ。気絶シテイルダケ」

 

テキパキと処置をしていく包屍鬼。

彼は見た目とは裏腹に冷静で知略に長け、武田八鬼将の中でも膂力はトップ。そして医療にも長けていた。

武田信虎としては決戦には残しておきたい鬼の1体である。

 

「アッパレ アッパレ。オ主ハ医療ニモ長ケテオッタトハ意外ダナ」

「コウイウ肉体ダ。嫌デモ医学ニ触レル」

 

人間の頃から病に侵されていた包屍鬼は治す為に様々な医療や医学に手を出した。なれば医療について身に付くというものだ。

 

「処置ハ完了シタ。イズレ起キル」

「そうか。縛っておけ」

「分カッタ」

 

今ここで曹操達が起きて暴れ、大百足の背から落下死でもされたら面倒という事で縛り上げる。

 

「ドウセ殺スノダカラ傷ノ処置ハ必要ダッタノカ?」

 

今さらながら天晴鬼は疑問を口にする。

曹操たちは処刑が確定しているのだかたわざわざ応急処置なんて意味が無い。勝手に転がせておけばいいという判断だ。

 

「我の手で傷つけておいてなんだが彼女たちには儀式まで生きてもらわねばならぬ。全く…手加減したつもりだが軟すぎだ」

 

慣れない繊細な仕事を終えたかのようなため息を吐く。

 

「儀式カ…タダ処刑スルダケダロウ?」

「大切な儀式だ。王たちの生贄によって神が顕現する」

 

神の顕現と聞いて五胡に君臨する女神を思い出す天晴鬼。

 

「モウ顕現シテイルガ…」

「この大陸に神が顕現する…それは歴史に残る程のものだ。それを創りたいのだ」

 

歴史的な偉業。歴史のターニングポイントを作るという事だ。

 

「三国の王たちがその身を捧げ、神を大陸に顕現。そして悪鬼の群れを浄化し、人々を救う……らしい神話になるだろう?」

「エ…吾輩ラ浄化サレルノカ?」

 

悪鬼が浄化されるという部分は初耳の天晴鬼。

 

「浄化という名の元の世界に戻らせるという事だ。本当に浄化されるわけではない。そういう契約だ」

「焦ッタゾ」

 

せっかく鬼となり、欲望のままに生きられるのに神に浄化されてはたまったものではない。

天晴鬼にとってこれから人生が再スタートするのだから。

 

「ソンナ儀式ガ必要トハ神モ面倒ダナ」

「世界を変えるには大きな起点を起こす必要があるのだ」

 

歴史的変化には必ず大きな事件や偉業が発生する。そして新たな時代が紡がれる。

 

「先ほど言ったらしい神話から三国時代は終え、神代へと変わる。それこそが女神と于吉の狙いだ」

「ホーウ。ソノタメノ生贄カ」

「ああ、下準備は出来ている」

 

三国の王を攫えば救いに来るために軍を率いてくる。その三国の軍を鬼の力でねじ伏せ、大陸中に恐怖を蔓延させる。

鬼に恐怖する人々は救いを求めるはずだ。その救いを叶えるのが神である。

 

三国の王たちを生贄に捧げ、神を顕現させて大陸に恐怖を蔓延させる鬼を消化させ、人々を救う。三国の王たちは神に身を捧げた偉人として語り継がれ、顕現した神による神代が到来。

 

大陸に真なる平和が訪れるという救世神話の完成である。

 

「出来過ギテルナ」

「そういうものだ」

 

マッチポンプされた神話であっても、本当に起きた出来事という事が大事である。

頭の中の妄想神話とマッチポンプとはいえ、実際に起きた神話では全く違う。

 

「現実に起これば嫌でも人や世界からも認知されるのだ」

「第一段階ガ王タチノ捕獲。第二段階ガ三国ノ残党共トノ戦カ?」

「そうだ。王を救いに来る残党共も蹂躙する。なれば大陸中に我らの恐ろしさが広がる」

「モシモ王タチヲ 救出ニ来ナカッタラ ドウスルツモリダッタンダ?」

 

王を奪われた事により、残党たちは戦意を失う可能性もあった。大百足と鬼の力に恐怖し、逃げ出す可能性もある。

そうなれば第二段階の三国の残党たちを蹂躙する事が出来なくなる。

 

「忘れたのか。もしも王たちを助けに来なかったら順々に国を陥落させに行くと言っただろう」

「ア、言ッテタ」

 

三国の王たちを救いに来なくとも、此方から国を陥落させにいけば大陸に鬼の恐ろしさを蔓延する。

どちらにしろ第二段階の計画は遂行されるのだ。

 

「大陸に恐怖が蔓延した時に女神の顕現だ。それが最終段階だ」

 

計画が成功すれば晴れて武田信虎たちの契約は満了。彼女たちの願いは叶われる。

元の世界に戻り、己の野望や復讐、欲望を開放するのだ。

 

「見エテキタゾ」

 

騙妖鬼がポツリと呟く。

目の前には天を貫く程の建築物が視界に入る。それこそが無双の塔である。

そのような建築物が建っていたら大陸中に知れ渡るが、今まで噂にもならなかった。原因は無双の塔の周辺に幻術や人避けの結界が張られていただけの事。

今回の計画が始まるまで見つかるわけにはいかなかっただけだ。大百足も同じである。

 

「外カラ見レバイツモ圧巻ダナ。アッパレアッパレ」

 

無双の塔の高さに圧巻される。武田信虎でさえ、その完成度に文句のつけようがない。

更に無双の塔の周りにはおびただしい数の鬼たちが跋扈している。三国を喰らい尽くし、大陸に恐怖を蔓延させるほどの暴力である。

 

「決戦日までが楽しみだ」

「マタ待ツノカ」

「十日と五日なぞすぐだ」

 

天晴鬼はチラリと三国の王たちを見る。誰がどう見ても美少女たちだ。

 

「ナア、大将。チョット味見シテイイカ?」

「駄目に決まっているだろう。斬られたいのか?」

「ソンナ!? 褒賞ニ王タチノ 味見クライ駄目ナノカ!?」

「仮にも神の供物だ。穢すな」

 

本気で落ち込む天晴鬼。

 

「セメテ匂イダケデモ……ムムゥ!?」

「どうした?」

「コ、コノ王共ノ中に 生娘ジャナイノガ イルダトォォ!?」

「は?」

 

言っている意味は分かるが、「何言ってんだこいつ?」という感じの「は?」が出た。

 

「グオオオ。吾輩ガッカリダ!!」

「天晴鬼。貴様分かるのか?」

「無論ダ。鬼ニナッテ鼻ガ良クナッテイルカラナ。金ノ匂イ、美食ノ匂イ、美女ノ匂イガ ヨリ分カルヨウニ ナッタゾ。生娘カドウカ 分カルマデニナ」

 

鼻をスンスンと動かす。

 

(何だこいつ……)

 

普通に引いた武田信虎。彼女だけでなく他の武田八鬼将も同じく引いた。

 

「ウヌウ。生娘ジャナイノガ二人…ハッ!!」

「どうした?」

「モウ生娘ジャナイノナラ吾輩ガ味見シテモ問題ナイノデハ!?」

「腹切れ。介錯してやる」

 

本気で太刀を抜刀しようかと考え始める武田信虎。

 

「何故!? 生贄ノ女ハ生娘ト決マッテル。生娘ジャナキャ吾輩ガ少シクライ良イダロウ?」

「生贄に生娘かどうかなんて関係無い」

「少女ノ生贄ハ生娘ガ決マリ デハナイノカ!?」

 

確かに生贄には美少女で生娘でなくてはならないという決まりがあるが、今回の儀式には関係無い。

 

(そもそもそんな儀式も誰が決めた事やら)

 

生贄・人柱。本当に効果があったか分からないが意味はあったのかもしれない。現代からしてみればおぞましいものでしかないが。

 

「王たちが生娘かどうか関係無い。これから神に捧げる供物であるのだからこれ以上穢すなと言っているのだ」

「残念スギル…」

(八鬼将あと一体くらい減っても構わんか?)

 

武田八鬼将が1体減った場合の事を本気で真剣に考えようかと思うのであった。

 

 

1016

 

 

鬼の凶刃が藤丸立香と紫苑に迫る。

 

「斬リ刻メ鬼門左文字!!」

 

人間を簡単に惨殺する凶刃が迫るが魔術礼装の起動。緊急回避により難を逃れる。

すぐさま間合いをとって敵の姿を視認する。

 

「お前は…!!」

 

藤丸立香と紫苑にとって因縁のある鬼。野武士分の鬼である闇生鬼。

紫苑にとっては娘の命を狙った怨敵だ。彼女の顔が怒りに満ちる。

 

「見ツケタゾ小僧、弓女ァ!!」

 

闇生鬼もまた怒りに満ちた顔をしていた。その身体からは大きな妖気も放出している。

彼にとっては藤丸立香と紫苑は苦渋と屈辱を味わされた存在だ。

人であった時、鬼になっても斬ると決めた者は全て斬って来た。だが今回ばかりはその決めた事が崩された。

斬ろうとした者は斬れず、逆に此方側が撃退され、撤退する事を余儀なくされたのだ。

 

「貴様ラヲ斬ル為ニ某ハ我慢シタ。今ココデ必ズ斬ル!!」

 

武田信虎より謹慎を受け、やっと解放された。闇生鬼は2人を斬り殺すまで止まらない。

 

「小僧ト弓女ヲ斬ル。最後ニ弓女ノ娘ヲ斬ッテ終ワリデゴザル!!」

 

璃々を斬ると聞いて紫苑の怒りはより燃える。身体は傷ついているが精神だけは強く燃え上がる。

 

「そんな事させるわけ…うっ」

「紫苑さんあまり動かないで。骨が折れてるかもしれないんだ」

「それでも…あいつが璃々を狙うならここで仕留める」

 

紫苑は自分の身体を確認する。身体を強く打ったようだが骨は折れていない。

近くに落ちていた弓矢をを拾って構える。

 

「貴様ラハ一太刀デ殺サン。細切レニシテ殺シテクレル!!」

 

闇生鬼は跳び、刀を振るう。

 

「この!!」

 

紫苑は矢を放つが斬撃により斬り落とされる。

 

「緊急回避!!」

 

紫苑を抱えてもう一度回避する。

 

「チョコマカト…鼠カ!!」

 

安い挑発には耳を傾けない。それよりも観察して分かったのが闇生鬼の能力についてだ。

彼は怪異の煙々羅を喰らって身体を煙にし、物理無効を得た。しかし先ほどは矢を刀で斬り落とした。

先の戦いで概念礼装『起源弾』が効いており、煙々羅の能力が封じられているようだ。

能力が封じられていなければ矢を斬り落とすという行為はしなかったはずだ。

 

(あいつは煙になる能力は使えなくなってるかもしれない)

(そうね。でも油断は出来ないわ)

 

もしかしたら使えない振りをしている可能性がある。その答え合わせは闇生鬼に攻撃を当てれば分かる事だ。

 

「ならもう一度…」

 

紫苑は弓矢を構える。拾った矢は2本だけで先ほど1本使ってしまったのでたった1本しか矢が残ってない。

周囲状況を確認する。現在彼らは転覆した船を足場にしており、周囲は長江の河。

河に落下したら逃げ場は無いので絶対に落ちてはならない。逆に闇生鬼を河に落とすつもりでないといけない。

 

「薙ギ払エ鬼門左文字!!」

 

刀を振るった時に斬撃が飛ぶ。

 

「うわっ!?」

 

斬撃は転覆した船を切断した。

 

「まるで鎌鼬…」

「ソノ通リダ。貴様ラノ妖術ニヨッテ煙々鑼ノ力ガ使エナクナッタ。ダカラ新タナ怪異ヲ喰ラッテ異能ヲエタデゴザル。全テ貴様ラヲ殺ス為ダ!!」

 

鎌鼬の能力により飛ぶ斬撃へと強化した。闇生鬼にとって鎌鼬を喰らったのは飛ぶ斬撃を得て、より殺傷能力が欲しかったからだ。

 

「斬リ刻ミ、薙ギ払エ鬼門左文字!!」

 

刀を振るって斬撃を連続で放つ。

 

「まずいっ。紫苑さんゴメン」

「え、きゃっ!?」

 

藤丸立香は紫苑を抱えて魔術礼装を起動し、『緊急回避』と『瞬間強化』を連続発動。

転覆した船を足場に藤丸立香は紫苑を抱えたまま跳び、斬撃を避け、闇生鬼から離れる。現状では闇生鬼を倒す術は難しい。

仲間のいる場へと誘き出し、倒す算段を考えなければならない。

 

「紫苑さん。しっかりと掴まっててください!!」

「はいっ」

 

残骸となった船を足場に藤丸立香は跳ぶ。

 

「逃ガサンゾ!!」

 

闇生鬼も残骸となった船を足場に藤丸立香と紫苑を追う。

 

「死ネェェェ!!」

 

追いかけながら闇生鬼は斬撃を飛ばしていく。

 

「立香さん右に跳んで!!」

「はい!!」

「次は左に。また左に!!」

「はい!!」

 

闇生鬼の斬撃を紫苑の指示のもと回避していく。

抱きかかえた紫音が闇生鬼を警戒し、指示を出してくれると藤丸立香は前だけを見て駆け抜ける事が出来る。

 

「右から回り込んで来るわ」

「了解!!」

「逃ゲルナァッマテ!!!!」

 

逃げないでいたら斬り殺されるのだから待つわけがない。

まずは陸地を目指さなければならない。転覆した船での足場は悪く、逃げ場も少ない。

戦うにしろ陸地が一番だ。そして仲間も呼ばなければならない。

 

「タダノ人ガコウモ早イトハナ」

「ヘラクレスとの追いかけっこをした自慢の脚だ!!」

 

魔術による強化や援護もあったが自分の回避力には自信がついている。

 

「逃ゲ足ヲ自慢スルナ。滑稽ダゾ!!」

「滑稽なもんか!!」

 

逃げ足が速いのは滑稽でも何でもない。生き残る力の1つだ。

 

「立香さん大丈夫?」

 

大人1人を抱えての回避行動は簡単なものではない。

紫苑自身の体重は重くないと思っているが大人1人の女性を抱えるのは負荷がかかるものだ。

大人にしろ子供にしろ、人を抱えるのは枷の1つ。

 

「問題ないよ。誰かを抱えて逃げるのは体験済み。それに紫苑さんは羽のよう軽いから大丈夫」

「ちょ」

 

そういう事を言うのが藤丸立香である。

 

「鼠ノヨウニチョコマカト…ナラバ!!」

 

闇生鬼は刀を鞘に納めて、抜刀の構えを取る。

 

「荒ブレ鎌鼬 鬼門左文字ィィィ!!」

 

全力の抜刀で巨大な斬撃が放たれる。船の残骸を真っ二つにしていき藤丸立香と紫音に迫る。

 

「真ッ二ツデゴザルァァァ!!」

「概念礼装起動。堅く聳えしもの。何人も通ること能わず。断絶!!」

 

概念礼装『断絶』が展開。一時的に藤丸立香と闇生鬼の間に壁が出現される。

巨大な斬撃と断絶が接触し、波が発生。

 

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

 

発生した波に態勢を崩し、河へと落下。

 

「隙アリダァァァァァ!!」

 

ついに見せた隙に闇生鬼は嬉々として跳んで刀を振り上げる。

河に落ちれば回避は困難で、動きも遅くなる。闇生鬼の斬撃は河に落ちた人間を外すほど腕が悪いわけではない。

ついに屈辱の人間2人を斬り殺せる快感を得られると口元が歪んだ。この感覚こそが人であった時からいつも求めていたもの。

 

「死ネェエエエ!!」

「死ぬのはてめぇだよ!!」

「アガゴゴッ!?」

 

闇生鬼の右から蹴りが顔面に押し込まれる。

マスターの命を狙った怒りを込めて、燕青による渾身の蹴りが放たれたのだ。

蹴り飛ばされた闇生鬼は河へと落下し、沈む。

 

「ま、間に合った」

 

回避し、逃亡した先は仲間の元。

陸地まであと少しであったが、仲間が駆けつけてくれる近くまでは到達した事で危機は脱出したのだ。

 

「ほれ、マスターに姐さん」

 

燕青が藤丸立香と紫音を河から引き上げる。

 

「助かったよ燕青」

「ありがとう…姐さんって、もう」

「蜀の姐さんみたいなもんだろ」

 

どちらかといえば蜀のお母さん的な。

燕青は2人を抱えて、ひとっ跳びで陸地に着地。

 

「さて、一息つきたいところだが…」

 

河から跳び出すは闇生鬼。

 

「クソガアアアアアアアア!!」

 

怒りが有頂天であり、見えるのは藤丸立香たちのみ。

 

「防衛線では逃がしたからな。ここで仕留める」

「何!?」

 

気配を消していた荊軻が現れ、刀を持っている手首を匕首で切り落とす。

 

「鬼門左文字ガ!?」

「最後は譲ろう。どうやら其方の方が因縁があるようだからな」

 

荊軻は闇生鬼に対して言ったわけではない。その言葉を送ったのは紫音である。

 

「概念礼装起動。グラデーション・エア…投影魔術」

 

自己のイメージからオリジナルの鏡像を魔力によって複製する魔術。

一瞬だけでも相手を討伐する武器が出現すればいい。そして敵に当たれば、消えても構わない。

ただ倒すために出現させただけなのだから。

 

「貴方に私や璃々は殺せないわ!!」

 

概念礼装『投影魔術』により一瞬だけ紫苑の得物である『颶鵬』を創り上げる。

愛用の武器であればイメージはしやすい。創り上げた幻想の『颶鵬』を放つ。放たれた矢は闇生鬼の眉間に刺さり、脳へと貫通した。

 

「アガァッ!?」

 

脳を貫かれ、闇生鬼は身体が崩れていく。

 

「ソ、某ハ……コ、コンナ終ワリナノ…カ。マダ某ハ……」

 

闇生鬼が人であった時は辻斬りだ。鬼になっても辻斬りは変わらない。

人を斬る快感が好きだった。自分がろくでなしの人斬りであるも理解している。斬れば斬るほど己が強者だという優越感が沸き上がる。

 

その感覚を求めて闇生鬼は残忍になっていった。しかし辻斬り、人斬りは一生続かない。危険人物と指定されたら討伐される運命だ。

 

人であった時の彼は、その悪事の清算によって討伐されかけたのだ。しかし鬼となる魔薬を喰らって難を逃れた。

難を逃れた先が異世界だったのは流石の辻斬りの彼も驚愕したものだ。

 

彼はこの異世界で契約を果たせば元の世界へと戻り、鬼の力で欲望のままに辻斬りをするつもりだった。彼は元の世界で将軍を斬り殺し、己の名を歴史に残すと決めたのだ。

 

知名度の無い人を斬るだけじゃ満足できなくなった。だからこそ己の名を歴史に残す偉業を達成させるために大物を斬る夢が出来たのである。

 

「某ノ…イ、偉業ガ……」

 

彼は辻斬り、人斬りだ。己の最期がろくでもないのも理解していた。

人であった時の最期が延長しただけにすぎない。彼は大物を斬る事も偉業を残す事も出来ない。

 

ただの残忍な罪人は処刑しか待っていない。闇生鬼は崩れ去って異世界の河へと消えた。

 

 

1017

 

 

闇生鬼の脅威は去った。

ペタリと地面に腰を落として張っていた緊張を緩ませた。いっきに疲労が押し寄せて口から息を吐く。

紫苑も同じなのかしゃがみ込んで呼吸を整えていた。彼女は元より大百足という天災に巻き込まれていたのだ。すぐにでも休ませなければならない。

 

(……あっ)

 

河に落ちたのだから水浸しになるのは当然だ。服に水が染み込み、身体の線に沿って張り付くと艶めかしい。

紫苑自身がそもそも色気があり、魅力的な女性なので一層、艶めかしく感じてしまう。こんな状況でも反応してしまう男の性が恨めしい。

すぐに『万能布ハッサン』を取り出して彼女を包む。

 

「ありがとう」

「冷えると体力を奪われるから」

(あらあら。立香さんてカッコいい所もあれば可愛い所もあるわね)

 

こんな状況でも男の視線と反応に女性は丸分かりだ。人にもよるが彼の反応に嬉しく感じてしまう紫苑。

 

「それにしても大変な事になったわ」

「ああ…」

 

赤壁の戦いは武田信虎によって崩壊させられた。

三国の王たちは奪われ、各国の軍部はほぼ壊滅。三国の歴史の名を遺す事件だ。

本来のターニングポイントは崩され、別の歴史が始まる。まさに特異点案件である。

カルデア側では特異点。外史の管理者から見れば新たな外史の始まり。

 

「守れなかった…」

 

ぽつりと呟く藤丸立香。そんな彼の横には気が付けば貂蝉が立っていた。

 

「立香ちゃんが悪いと思っちゃダメよ。私が頼んで頑張ってくれたんだから…守れなかったからって自分を責めないで」

「貂蝉…うん」

「本当ね? まさかこの結果が自分のせいだなんて思わないで。そうだったら怒るわよ」

 

赤壁の戦いを守るために戦った。

貂蝉は外史の管理者として、藤丸立香たちに応援を頼んだのだ。失敗したからと言って藤丸立香を責めない。そして藤丸立香が自分のせいだとも思わせない。

 

「この世界は立香ちゃんのものじゃないのよ。だから自分のせいだと思わないでね。それでも自分のせいだと思うなら…愛のヴェーゼで目を覚まさせるわよん」

「分かった」

 

確かにこのままウジウジしていたら英霊たちに怒られる。そしてその過程は既に特異点や異聞帯で何度も通っている。

やるべき事は解決するために何をするかだ。その方法も分かっている。

 

「蓮華たちを助けないと」

 

三国の王を助け出す。この答えは他の者たちも思っている事だ。

北郷一刀も、愛紗も、思春も夏侯惇たちも同じ気持ちのはずである。

 

「まずは皆の元に戻らないと」

 

王たちを助け出したいのはやまやまだが軍部は崩壊している。ここからどう立て直すかだ。

恐らく立て直しが終わっても魏、呉、蜀が単体で戦っても勝てない可能性はある。

 

(崩壊したとはいえ、先ほどまで魏と蜀呉は闘っていた。流石に協力して助けに行くというのは無理だろうか?)

 

武田信虎たちの戦力は未知数だ。武田八鬼将と大百足という力はあるのは知ったが配下の鬼たちが多くいるに違いないが、どれほどの数かまでは分からない。

傷だらけの三国が単体で戦うのは無謀だ。ならば力を合わせて戦った方が助け出す可能性はマシになる。

 

(この崩壊度だ。現実を見れば誰だって難しいのは分かるはず…)

「立香ちゃん。また力を貸してもらうわ」

 

貂蝉が呟く。今回の事は他の外史でも見ない事件だ。

ターニングポイントを崩され、この外史は別の流れを辿り始めた。

 

(これからこの外史がどうなるか私でも分からない。もしも軌道修正するのなら桃香ちゃんたちを助けないといけないわ)

 

蜀ルートの外史は天下三分の計が成功する世界線。軌道修正するならば桃香たちを救出し、武田信虎を倒し、天下三分の計を成立させれば可能性はある。

元の外史に戻す行動をこれから取らねばならない。異常事態に貂蝉たちも動けるようになったが、藤丸立香たちが動いた方がスムーズに進められるかもしれない。

 

貂蝉の頭の中には順序が逆だが先に三国を1つにまとめる事を考えていた。天下三分の計とは言わずとも一時的な同盟を成す事。

怪我の功名というわけではないが同盟を組ませる材料はある。そこにほぼ中立で動いていた藤丸立香たちであれば上手く立ち回ってくれれば可能性はある。

 

「外史の歴史にはあまり関わらない約束だけど…ここからは大きく関わってもらうわ」

「分かった。どうすればいい?」

「立香ちゃんも思ってる事だけど…力を合わせる事よ」

 

仮でも構わないから三国同盟を結束させる事だ。

 




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新もまた未定。
上手く行けば2週間以内かな


1015
武田信虎の言う儀式とは救世神話。
人の世に神が顕現し、神代が再来する為の儀式です。

無双の塔…天下統一伝であった設定です。

武田信虎も鬼になったとはいえ、人の子です。
気持ち悪いと思うものは思います。

今回ので天晴鬼の評価が…

鬼たちもオリジナル設定とはいえ、様々なキャラ付けをしていきたいですね。


1016
闇生鬼との決着。
彼は人であった時は人斬りの侍です。
例えると…結界師の火黒をよりロクデナシにした感じかな。
特に信念もなく人を斬り、強者だという優越感を得たいだけの人物。


1017
「赤壁の戦い編」は終了。次は「無双の塔編」に入ります。

王たちを奪われ、これからどうなっていくのか…。
この物語の外史は蜀ルート。貂蝉として軌道修正するには天下三分の計に持って行くことなので三国を協力させて王たちの救出する事になります。

なので藤丸立香たちは貂蝉の依頼でここから深く関わっていきます。
まあ、中立と言っておきながら結構関わってきましたけどね。



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