Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

316 / 377
こんにちは。

FGOでは
『新霊長後継戦アーキタイプ・インセプション』の後半がついに配信されましたね。

まだ私は中編をプレイ中ですが…結末が凄く楽しみです。
藤丸立香が、岸波白野たちが、マシュが、BBがどのような活躍をするか気になります!!
徐福ちゃんとテノチが気になるなあ。前半と中編ではまだ2人は活躍してないですし。


三国怪異乱戦⑥

1052

 

 

無双の塔 最上階にて。

武田信虎は三国の王と共に目下に広がる戦を見渡していた。

 

「貴様らの臣下共が我が軍と善戦している。背水の陣とは馬鹿に出来ないものだな」

 

圧倒的な戦力差を物ともしないで三国は武田信虎軍にくいかかる。

ギロリと三国の戦場を見る。背水の陣の勢いか、王を必ず救いたいという大きな忠義の影響か。分かる事は三国の王たちは臣下たちに堅い忠義を得られていた事だ。

武田信虎軍と三国同盟軍の戦いはこの大陸で最大の戦いだ。赤壁の戦いと同等になるくらいだ。外史世界とはいえ、この戦いは歴史に刻まれる。

 

「我が魏軍は屈強よ。鬼なぞ屠る」

「呉軍もよ。屈強で熱血。鬼なぞ斬り捨てる」

「わ、わたしの蜀だって強い人はたくさんいるよ!!」

 

王たちを救う為に臣下たちが命がけで戦ってくれている。王として、この忠義は嬉しく思うものだ。だからこそ捕縛されている王たちは簡単に死ぬわけにはいかない。

 

「そうだな。流石は三国の戦力だ。しかし我が軍も負けていないだろう?」

 

三国同盟軍は武田信虎軍にくいかかっている。しかし武田信虎軍の強さと恐怖が三国を苦しめているのも事実。

ギロリと武田信虎はもう一度、戦場を見渡す。現状の優劣を確認する。

 

(大百足は何故か俵藤太を執拗に狙っている。やはりそういう縁故か?)

 

大百足が敵味方関係無く戦場で暴れれば、戦いは一瞬で終わる。しかし何故か大百足の意識は俵藤太に向けられており、戦場への被害を少なくしていた。

 

(ふむ、八鬼将がやられている…哭闇鬼が口寄せした怪異共も切り捨てられているな。しかしまだ包屍鬼が残っている。奴ならば戦況を変えられる。そして…)

 

武田信虎は無双の塔の下の気を探る。下階では既に戦闘が始まっていた。

 

(騙妖鬼のやつめ剣気がここまで届いているぞ。白川は…む、何か妙な事になっている。そして百々目鬼は既に形態変化している…奴が表に出てくるな)

 

武田信虎は思案しており、三国の王たちに向けていた意識が薄れた。その瞬間が好機だと思って仕掛ける。

 

(今よ)

 

無双の塔 最上階は壁や天井がなく、360度 外の景色が見渡せるビルの屋上のようなもの。武田信虎は思案しており、外を見ているため視線は曹操たちから外れている。

武田信虎に体当たりすれば無双の塔から落下させる事が出来る可能性は高い。屈強な武将であれど3人で体当たりすれば態勢を崩せるものだ。曹操たちは腕を縄で縛られているとはいえ、走る事は出来る。

 

3人は声を出さず目配せで合図を送って駆け出し、武田信虎目掛けて体当たりを仕掛けた。ただ殺されるだけなんて許されない。臣下たちは自分たちを助ける為に命がけで戦っている。

ならば曹操たちも生き残る為に戦う。

 

(この高さなら鬼とはいえ、落ちたら終わりよ)

「浅はかな考えだな」

「っ!?」

 

武田信虎は3人を蹴り飛ばす。手加減しているため、逆に3人が塔から落とされる事はない。

 

「くっ…」

「我が油断していると思ったか?」

 

武田信虎は剣を抜き、ゆらりと3人に近づく。

 

「我を塔から落とそうとする気概は認めよう。だが我は油断も慢心もせん。どんな相手であろうが全力で殺すと決めたのだ」

 

彼女は「忌々しい過去」より慢心はしないと決めている。強大な戦力を保有しようが確実に勝つ為の手段を選ぶ。

武田信虎軍と三国同盟軍の戦いは大陸の天下を掴む戦いではない。この戦の目的は女神降臨神話を創る事である。

非情に冷徹になって戦の楽しみを二の次にし、作業に取り掛かる。

 

「そろそろ始めるか」

 

三国同盟軍は武田八鬼将が指揮する鬼の大群が食って掛かっている。無双の塔に侵入した者たちは騙妖鬼たちが足止めしている。懸念のカルデアは大百足が相手をしている。

女神降臨神話を創るための作業を邪魔される可能性は低いと予測。ギラリと太刀を鈍く光らせて、武田信虎は3人を冷酷な目で睨む。

 

「生贄の刻だ」

「え、もう!?」

 

桃香は顔が青くなる。

 

「何を驚いている。我がいちいち貴様らの臣下が来るのを待つものか」

 

三国の王たちは捕虜でも何でもなく女神降臨神話の材料だ。元々、生かすつもりはない。

 

「そうでしょうね」

 

曹操は最初から分かっていた。自分たちは神話の材料であり、捕虜の価値はなかった。

この戦いに勝ち負けはなく、三国同盟軍が武田信虎軍と開戦した時点で3人の王の命はいつでも斬っても良かったのだ。

 

「女神が降臨できればいい。勝とうが負けようが大事なのは女神が降臨したという事実を神話に出来ればいいのよね」

「その通りだ。これから創る神話なぞ最悪、後からいくらでも修正すればいい」

 

太刀に気を纏わせる。

 

「せめての情けで痛みなく首を斬り落としてやる」

 

ゆらりと近づく武田信虎に対して動けなくなる3人。

 

「まずはそうだな……孫権からにするか」

 

最初の生贄は孫権。その言葉を聞いて彼女は恐怖と悔しさが全身を巡る。

 

「3人の首を刎ねて戦場に落とせば三国同盟軍は終わりだ」

 

戦う意味が無くなった三国同盟軍は鬼の大群の食い殺されて終わり。そして大陸を救う女神が降臨するのだ。

 

「安心しろ。痛みなく死ねる」

「私は最後まで諦めない!!」

 

何も思いつかない。打開の策は無い。

それでも蓮華はただ首を斬り落とされるのを待つだけにいかなかった。孫呉の戦士として最後まで敵に食らい尽くす。

立ち上がってがむしゃらに立ち向かう。腕が縛られているのであれば脚で、歯で立ち向かう。彼女にも炎蓮や雪蓮が持つ苛烈な気が受け継がれているのだ。

 

「その心意気や良し。貴様はただの材料としてではなく、武人として斬ってやろう!!」

 

武田信虎は蓮華を首を狙って太刀を振るった。しかしいつまで経っても蓮華の首は落とされなかったのだ。

 

「嘘…」

 

蓮華の目の前には二度と会えないはずの2人が立っていた。

 

 

1053

 

 

呉陣営にて。

屍食鬼の襲撃を李書文(殺)が止める。

 

「キュルアアアア!!」

「ふむ…屍食鬼の上位種か。何度も素材狩りした相手だ」

 

悍ましい叫び声を無視しながら李書文(殺)は八極拳を撃ち込む。

 

「川掌。冲捶。連環腿」

 

掌撃。足を踏み出すと同時に突き。蹴り。3連続攻撃。

 

「キュラ!?」

「まだまだ。寸勁」

 

ゼロ距離からの突き。屍食鬼の内部を拳撃が貫く。

 

「キュラァァ…」

 

屍食鬼は地面に倒れる。そしてギョロリと視線を李書文(殺)から別の方向に移した。その先には人や鬼の死体。

 

「キュルルララ!!」

 

死体の元へ駆けより、貪り喰らう。

李書文(殺)を食い殺すには、まだ力が足りない。故に屍食鬼は死体を喰らって力を付けようとする。

喰って食って喰って、力を付けて李書文(殺)を貪り喰らうつもりだ。しかし李書文(殺)が待つわけがないない。

 

「奮破!!」

 

拳を突くが屍食鬼は回避し、逆に突き殺そうとするが同じく回避される。そして蹴りを撃ち込まれた。

 

「グギュア!?」

 

まだ李書文(殺)を食い殺すには力が足りない。

もっともっと死体を食わねばならない。死体だけでなく生者すらも食らわないといけない。

屍食鬼(グール)が次に目を付けたのは亞莎たちだ。生者の心臓と肉を喰らう。

 

「キュルルルルアアアア!!」

「わわ、亞莎さん危ないです!?」

 

包の叫び声に亞莎は反応。そして構える。

深呼吸して冷静に、そして冷徹に屍食鬼に体術を撃ち込む。

 

「はあああああああ!!」

「キュララララ!?」

 

屍食鬼は人間ではないが人型だ。急所も同じかもしれないと思って彼女は連続で撃ち込んでいく。

 

「あ、亞莎さん?」

 

同僚の攻撃に呆ける包。何故なら軍師であるはずの彼女が戦えるとは思わなかったからだ。

腕に手甲を装着し、敵をこれでもかと殴り、蹴り込んでいる。

 

「えーっと…亞莎さんってあんなに戦えたんですか?」

「なんじゃ同僚のくせに知らんかったのか?」

 

雷火は簡単に亞莎の才能を包に説明する。

 

「亞莎のやつは武人としての才能もある」

 

実は細い身体でありながら筋力がある。そして体捌きもそこらの武人よりも上だ。

目が悪いが故に戦場では敵の位置を気配で察知しているため気の運用も行えるのだ。

武術の才能は鍛え上げれば思春と同格と言われている。その思春本人も亞莎が武将にならなかったのが残念だと溢した事があるとかないとか。

 

「嘘ぉ」

「本当じゃ。亞莎が大人しい性格で良かったの。手が出る気質の者じゃったらお主殴られておったぞ」

 

包は余計な一言を言ってしまうタイプの人間だ。同僚である亞莎をライバル視して、ついつい皮肉を言ってしまう事もあった。

故に包は顔がちょっと青くなる。これからは言い方を改めようと思うのであった。

 

(亞莎の気質的に軍師向けだった故に武将には抜擢されなかったのだがな。しかし覚醒すれば軍師から呉の新たな将に変えても良いかもしれん)

 

「せえぇい!!」

 

気を拳に練り込み、「覚醒の一撃」と言っても過言ではない突きを屍食鬼に食らわせた。

 

「キュアアア!?」

 

ただの餌としか思わなかった者からの反撃。屍食鬼は目をギョロギョロと瞬きする。

 

「お主なかなかの腕前だな」

「ろ、老書文さま程じゃありません。私なんて全然です」

「そんな事はない。鍛え上げれば良い武人となる」

 

李書文(殺)も認める才能を持つ程だ。

 

「キュラアアアアアアアアア!!」

「む」

 

屍食鬼はもう一度「狂乱の叫び」を発動。

身体が軋み、動けなくなる。しかし2人は歯を噛みしめて無理やりにでも動き出す。

 

「一撃必殺!!」

「鉄山靠!!」

 

亞莎は正面から、李書文(殺)は背後から同時に撃つ。その威力は本当に腹部と背中をくっ付くかせる程で内臓を潰す。

 

「ギョボッ!?」

 

屍食鬼は深海魚のような口から血反吐を吐き出し、絶命した。

 

「よし!!」

 

敵将を討ち取った。今度こそ粋怜たちの援軍へと向かおうとした時、竜巻が亞莎たちを襲った。亞莎たちだけではなく、呉本陣すらも竜巻は襲う。

 

「きゃあああ!?」

「掴まれ!!」

 

李書文(殺)は亞莎の手を掴み、助け出す。

 

「これはいかんな。呉の陣営が崩れるぞ」

 

 

1054

 

 

竜巻が呉の受け持つ戦場を蹂躙する。その域はどんどんと広がっていき、呉の陣営だけでなく味方であるはずの鬼の大群も巻き込んでいる。

鬼の大群が百万もいるとはいえ、兵力は無限ではない。天晴鬼はそれが分かっていないのか、それとも簡単に味方を捨て石にしたとしても呉に勝利出来ると思っているのかもしれない。

 

悪戯に兵を捨てているのであれば指揮官である包屍鬼は許さない。天晴鬼から指揮権が剥奪されるのは時間の問題だ。しかし彼は気にしない。

今の彼は強大な力を持っているのだ。それこそが『芭蕉扇』。自然災害如くの力があれば兵力はいらない。彼の目的は三国の美女を手に入れば良いだけだ。

その目的が近づいている。もう少しで呉を手に入れられると思っているのだ。

 

「ダッテ 呉ハ王ガ 二代続ケテ 敵国ニ殺サレテルジャナイカ」

 

天晴鬼は呉の者たちの心を折ろうとしている。

どんなに力や技能がある強者であろうとも心が折られれば敗北するものだ。

 

「何ですって…!!」

 

粋怜から怒りが天晴鬼に向けられる。その怒りを受ける天晴鬼は涼しい顔だ。

 

「ムム、吾輩 間違ッタ事ヲ 言ッタカ。間違ッテナイ。ソシテ貴様ラハ 弱イ王ヲ 守レナカッタ 家臣共ダロウ?」

 

呉の頂点であった孫堅と孫策が敵に殺されたというのは嘘ではない。そして守れなかったという部分も嘘ではない。

 

「ぐっ…」

 

ギシリと歯を食いしばる。事実である為、粋怜は叫びそうになったが我慢する。それは梨晏も同じだ。

 

「ダガ安心シロ。守レナカッタノハ 貴様ラノセイデハナイ。弱イ王ノセイダ」

 

孫堅と孫策は弱い王。この言葉がより2人を、呉の臣下たちを怒らせる。

 

「吾輩ニ鞍替エシロ。吾輩ハ強イ。貴様ラヲ 弱キ者カラ 強キ者ニ 出来ル」

 

強くなれば守れる事が出来る。強き王であれば死ぬことも無い。

 

「吾輩ニ鞍替エスレバ 良キ思イモデキルゾ?」

「ふざけんじゃないわよ!!」

「ふざけるな!!」

 

粋怜と梨晏の斬撃を芭蕉扇で受け止める。

 

「アッパレ。マダ戦エルカ。強ク美シキ 美女ハ素晴ラシイ」

「はああああ!!」

「てえええい!!」

 

怒りの攻撃が天晴鬼を襲うが全て受け止められる。怒りを力に変えて攻撃に転ずるのは良いが、怒りのあまり技が鈍るのであれば意味が無い。

それに気付かない粋怜と梨晏ではないはずだが、今は怒りの方が勝ってしまっているのだ。彼女たちにとって孫堅と孫策を侮辱されるのは絶対に許せないのだ。

 

「無駄ダ。芭蕉扇!!」

 

風撃が2人を襲う。

 

「ホレ、オカワリダ」

 

もう一度、芭蕉扇を振るって竜巻を発生させる。

敵味方関係無く竜巻が巻き込み、吹き飛ばす。

 

「圧倒的ダ 圧倒的スギル」

 

竜巻の力は誰も抗えない。

 

「コレデモ手加減 シテイルノダゾ。全力デ ヤッタラ セッカクノ 美シサガ ボロ雑巾トナルカラナ」

 

吹き飛ばされた2人の元に歩み寄る天晴鬼。

 

「力ノ差ガ分カッタダロウ。早ク 吾輩ニ降レ。悪イヨウニハセン」

「誰がアンタなんかに降るものですか!!」

「フーム…ドウヤッタラ吾輩ニ降ルノダ」

 

圧倒的な力を見せつけようが、言葉の刃で斬り付けてもまだ折れない粋怜たち。

これ以上、圧倒的な力を見せたら本当にボロ雑巾になるので芭蕉扇は使えない。ならば言葉の刃でズタズタにするしかない。

故に天晴鬼はある秘密を喋る。

 

「諦メタ方ガ 身ノタメダゾ。コノ戦ハ貴様ラニトッテ 意味ガナイノダカラ」

「なんですって」

「貴様ラノ王 孫権ハ最初カラ死ヌ運命ダカラダ」

「勝手に我らが王の運命を決めるな!!」

「ダッテ モウ孫権ハ 死ンデイル!!」

 

いきなり天晴鬼は大声で叫んだ。それこそ呉の者たち全員に聞こえる様に。

「孫権が既に死んでいる」。この言葉が響いた瞬間に時が止まった感覚が呉を襲った。

 

「え…」

 

梨晏は言葉を失った。呉の本陣にも聞こえ、冥琳や小蓮たちも言葉を失った。

 

「嘘を付くなぁっ!!」

 

粋怜は怒声をあげる。

 

「嘘デハナイ。吾輩ラノ 目的モ 教エテヤロウ!!」

 

徹底的に呉を折るために天晴鬼は声を戦場に響かせる。

三国の王を攫った目的は新たな神話誕生の為。女神を降臨させるための生贄。この戦は所詮 神話創成のための土台に過ぎない。

武田信虎の目的は三国の壊滅ではない。女神降臨こそが大本命なのだ。戦の勝ち負けは元々無い。

 

「女神降臨神話ハ 既ニ創ラレ始メテイル!!」

 

女神降臨神話の第一章は大陸が悪鬼によって恐怖に包まれる。

 

女神降臨神話の第二章は悪鬼に対抗するために三国が総勢で対抗する。

 

女神降臨神話の第三章は三国が敗北し、最後の望みで三国の王たちが自ら生贄となって女

神を降臨させる。

 

女神降臨神話の第四章は降臨した女神によって悪鬼は祓われる。

 

女神降臨神話の最終章は女神によって大陸は永遠の平和が訪れる。

 

五部編成によって語られる女神降臨神話。現在は第二章まで完成している。

 

「三国ノ王ハ 生贄ニ 必要ダ」

「ふざけないで。神が降臨なんてするわけないでしょ!!」

「否。女神ハ降臨スル。いや…既ニ降臨シテイルガナ」

「は?」

「シカシ 神話ハ 女神ニトッテ 必要ダ。神話ノ 語ラレナイ女神 ナンテ箔ガ 付カンカラナ」

 

神にも様々な神が存在する。その中で神話が広く人々に語られる神こそ強く大きく偉大な神だ。

武田信虎が創る神話は救世の女神。完成すれば大陸に永遠と語られる神話となるのだ。

 

「現段階ダト 第二章ダ。シカシ 本当ハ イツデモ 第四章ニ 移行デキル」

 

生贄なんて実際は必要ない。ただ神話創りの為に素材として必要なだけだ。

素材として生贄が必要で女神が既に降臨しているのならば順番通りに移行しなくてもいい。形だけ成れば構わない。

 

「三国ノ王ヲ 攫ッタノハ 女神降臨神話ノ 第二章ヲ創ル為。既ニ実現シテイル以上 王タチノ命ハ モウ用無シナノダ。第三章ノ為ニ モウ殺シテイル!!」

「な……っ」

「ダカラ 言ッタノダ。コノ戦ハ 貴様ラニトッテ モウ意味ガナイ」

 

助け出す主君がもう死んでいる。

粋怜たちにとって、この戦の目的は王を救う事。救うべき王が死んでいるのであれば戦っている意味が無くなる。

 

「嘘よ!!」

 

粋怜は敵の戯言だと言わんばかりに叫ぶ。

 

「嘘デハナイ。王タチハ 神話創成ニ 必要ナダケ。ソノ役目ガ 終ワレバ 捕虜ノ価値スラ 無イノダゾ?」

 

武田信虎軍の戦力は百万の鬼の大群、龍食いの大百足、怪異の群れ。圧倒的な戦力だ。

目的は三国を倒す事ではなく、女神降臨の神話を創る事。既に女神は降臨しており、神話の素材が揃っていれば簡単に創る事が可能。

三国の王たちを誘拐し、三国が武田信虎軍と戦になった段階で三国の王たちはもう殺すだけ。戦っている三国に交渉の材料として生かす事も無い。

 

「コノ戦ハ 勝チ負ケガ 重要デハナイ。神話ヲ作レルカドウカ」

「う…そ…よ」

「故ニ 開戦シタ段階デ 王タチノ処刑ハ 終ワッテイルノダ」

 

粋怜と梨晏は絶望色に顔が染まる。

また守れなかったと心がグチャグチャになる。特に粋怜は酷く心をグチャグチャにされる。孫堅を救えず、孫策も救えなかった事を誰よりも後悔していた。孫権こそは守ると誓っていたのにまた守れなかったと絶望が支配する。

天晴鬼の非情な言葉は2人だけでなく呉全体に広まり、心を折っていく。己の王を三度も失うなんてあってはならないのに。

 

「嘘だよ…姉様がもう死んでるなんて」

「嘘です。奴の嘘です小蓮様…!!」

 

絶望した小蓮を持ち直そうと隣にいる冥琳は声を掛ける。しかし小蓮には聞こえていない。

何故なら天晴鬼の言葉が合理的な部分があった。敵の目的に誘拐した王たちを生かす理由が既に無い。敵の言葉を理解できる者であれば本当に王たちを殺している可能性は高いのだ。

冥琳であってもそうだ。敵の言う通り王たちをもう生かす理由は無いと納得してしまったのだ。しかし信じたくないと納得した事実を振り払おうとする。

 

「敵の……嘘です!!」

「嘘デハナァイ!!」

 

天晴鬼は剣を天に掲げる。その剣は南海覇王。

 

「形見ダ。受ケ取レ」

 

カランと南海覇王が地面に転がる。

 

「あ……ああああ…」

 

粋怜は、梨晏は、小蓮は、冥琳は、雷火たちの心が折られていく。

もしかしたら南海覇王は形見ではなく、ただ奪ったものかもしれない。呉の陣営を陥れるための作戦かもしれない。しかし既に呉は天晴鬼の言葉の刃に斬られていた。

 

「私は…また守れなかった。また救えなかった…」

「私は雪蓮と約束したのだ…誓ったのだ。蓮華様を呉の王にし、天下を捧げると……なのに」

「姉様…やだやだやだ。母様と雪蓮姉様に続いて蓮華姉様も失うなんて…」

 

絶望が孫呉に広がっていく。

 

「モウ一度言ウ。吾輩ニ降レ。降レバ殺シハセン。ソシテ良キ思イモ 出来ルゾ?」

 

天晴鬼の魔の手が呉に伸びる。もう呉の心は折った。

 

「終ワリダ。コレデ呉ハ 吾輩ノ物」

 

ニヤニヤと笑いながら天晴鬼は粋怜に手を伸ばした。

 

「だらしねぇなぁ」

「ほんと。それでも屈強な呉の戦士たちなの?」

「え?」

 

呉の戦場に2人の声が響く。周囲はまるで時が止まったような状況であった為、2人の声は異様に浸透した。

その2人の声はもう二度と聞けないと思っていたもの。小蓮たちが願った奇跡であるが叶わない奇跡だと諦めもの。

叶わない奇跡が起きた事で折られていた心は元に戻っていく。

 

「ちょっと、魏も蜀も活躍してるわよ。その中で呉が全然活躍してないじゃない。確かにあいつなんかに呉が三国の中で弱いと言われてもしょうがないわよ」

 

1人は小蓮と冥琳の後ろから。もう1人は粋怜と梨晏の前から。

 

「キ、貴様ハ!?」

「オラァアア!!」

 

その人物は南海覇王を拾って天晴鬼の片腕を切断した。

 

「グギャアアアアアアアア!?」

 

強力な武器である「芭蕉扇」は地面に落ちた。そして拾われないように蹴り飛ばす。

 

「片腕ガ、芭蕉扇ガ!?」

「オラァアア!!」

 

その人物は天晴鬼を蹴り飛ばす。

 

「こんな野郎に苦戦してたのか。腕が落ちたんじゃねえか粋怜」

「嘘…」

 

奇跡が2回も起きたというべき状況だ。二度と会えないと思っていた人物が2人も目の前にいるのだから。

 

「小蓮 頑張ったわね。でもまだ頑張るわよ」

「しぇれ…ねえ…」

 

優しい声色が妹を奮い立たせる。小蓮は声を大きくして出したいが上手く出せない。

目から涙が大量に溢れ出して視界が霞む。それでも後ろから姿を現す人物をしっかりと見ようとする。

 

「冥琳ってば無茶し過ぎ。身体壊してまで頑張れなんて私言ってないわよー」

 

親友の冥琳には軽く接するような声色で言葉をかける。言葉をかけられた冥琳もまた目から涙が溢れ出した。

 

「お前…何で」

「いやー…母様も私も死にきれなかったみたいな?」

「な…馬鹿な…事を言…うな。笑え…ないぞ」

 

彼女は冥琳の横まで歩き、肩に手を置く。もう片手は小蓮の頭を優しく撫でる。

 

「小蓮。貴女は呉の大将としてドンっと構えなさい。冥琳。貴女は奴らを倒す策を考えなさい。冥琳なら出来るでしょ?」

「うん……うん!!」

「簡単に言ってくれるな。こっちの気も知らないで…」

「出来ないの冥琳?」

「出来るに決まっているだろう」

 

小蓮と冥琳は涙を腕で拭き取り、まっすぐに前を見通す。その顔に絶望の色は消えていた。

 

「生きておられた…生きておられたのじゃ」

「雪蓮様…炎蓮様…」

「何で…嘘でしょ。でも嘘でもいいですよね師匠」

「うむ…うむ!!」

 

呉の戦場に現れたのは炎蓮と雪蓮である。

死んだと言われていた呉の英雄2人。彼女たちは戦場に現れ、呉全体に聞こえる様に声を張り上げていく。

 

「みんな ここは任せたわよ。私と母様は蓮華を、曹操と劉備を助けに行く。まだ我らが王は生きている!!」

 

蓮華は生きている。雪蓮の言葉は天晴鬼の言葉を消し飛ばす。

雪蓮は駆け出して炎蓮の横に立つ。

 

「梨晏。まだ戦えるわよね?」

「雪蓮……と、当然だよ!!」

 

梨晏は武器を持って立ち上がる。

 

「おい、粋怜。お前はその程度か?」

「大殿様……いえ、いえっ。私はまだ戦えます!!」

 

粋怜も立ちあがる。彼女たちだけではない。

雪蓮と炎蓮が戦場に現れた事で呉軍の士気が、勇気が、希望が膨れ上がる。

 

「てめえらっ 呉の戦士はこんな奴らに負ける程 弱いのか!!」

「そんなわけないわよね。我らは強い。負けるはずがない。王である孫仲謀を救い出せる!!」

 

炎蓮と雪蓮の鼓舞が広く広く浸透し、呉の戦士たちは心を燃やし、別人とも言えるくらいになる。

もはや鬼や怪異なぞ怖くない。敵を叩き斬り、勝利を掴む気概をこれでもかと滲み出す。

鬼を殺す呉の戦士なり。

 

「この戦場は任せたぞ粋怜」

「はっ。必ず勝利を!!」

 

もう呉に怖いものは無い。

 

「反撃よ!!」

 

雪蓮の号令によって呉軍が突撃した。




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新はまた2週間以内を目指します。

無双の塔編も次回で後半に突入します。
もう少しで5章も終わりが見えてきました。頑張ります。

1052
三国の王の生贄の刻。
しかし三国の王を救う為に現れた人物は…!!

1053
屍食鬼を見事に倒す老書文と亞莎でした。
設定だけだと亞莎ってば体術なら思春と張り合えう才能の持ち主なんですよね。
(前にも書いたような気がするな)

1054
やっと…やっと炎蓮と雪蓮が孫呉に戻ってきましたー!!
長かったなあ。ここから孫呉は反撃開始です。

もっと感動的に書けた気がしますが…今の私ではこれが精一杯。
これも外史の1つの展開ですね。

今回の流れですが、実は1053→1054→1052という流れなんですよね。
なので蓮華たちのピンチを救った2人の正体はそういう事です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。