Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
今回は現在sideに戻ります。
藤丸立香たちが過去の呉に行っていた間に貂蝉たちは何をしていたかの話ですね。
現在sideはオリジナルストーリーになっています。


建業奪還戦

130

 

 

揚州の建業へと到着。そこで孫尚香たちが見たものは兵馬妖によって制圧されていた建業であった。

その状況を見て孫尚香たちは拳を握り、悔しそうな顔をするしかない。自分たちの守るべき建業が制圧されているのを見れば誰だって彼女たちの反応をする。

 

「やはり黄祖が仕掛けていましたか…」

「予想はしていましたけど…できれば外れていてほしかったですね」

 

周泰の言葉に陸遜も頷く。だがこの予想は誰だって考えていたものだ。

黄祖のことは諸葛孔明たちには分からないが、黄祖を知る者ならば建業を攻めるのは当たり前だと判断する。

 

「雷火が心配だよ!!」

「ええ、分かっています小蓮様。ですがこのまま何も考えずに突撃するのは危険です」

「うう、それは分かってるわよ」

 

このまま突撃しても戦いにはなるかもしれないが無駄に孫呉の戦力が削られる。来るべき黄祖との戦いまでにはできるだけ戦力は残しておきたいのが本音である。

 

「ここからだと黄祖の兵士たちは見えない。兵馬妖だけだな」

 

俵藤太が目を細めて建業の様子を確認する。

建業を制圧しているのは見たところ兵馬妖だけ。そうなると気になる誰が兵馬妖を指揮をしているかだ。

普通に考えれば于吉か黄祖になる。

 

「貂蝉よ、兵馬妖は自動で動く兵隊のようだが…あのように統率の取れる動きができるものなのか?」

「いえ、あそこまで統率の取れた動きをするには指揮する者が必要よ。簡単な指示なら自動で動くけど…ああいう風に町を制圧し、治めるように動かすには近くに指揮者がいるはずよん」

「なるほど 敵将が建業にいるということか」

 

建業に黄祖がいるか、于吉がいるか。はたまた別の誰かがいるか。

 

「その指揮者を無力化すれば兵馬妖は止まるか?」

「止まるわん」

 

そこまで分かればやる事は決まったという顔をする諸葛孔明。

 

「今から建業に潜入して敵将を討ち取る」

「討ち取るって…戦力的にはこっちの兵は数少ないわよ」

「戦は数が基本ですからね~」

「敵将を討ち取るのに数で攻めるだけではないだろう?」

「あ~もしかして」

 

陸遜は分かったようだが程普と孫尚香はまだ分かっていない。

 

「暗殺ですよ~」

「陸遜の言う通りだ」

 

その答えに理解する2人。

兵馬妖がより繊細な動きをするのは上に指揮する者がいるから。ならばその者さえ打ち取れば兵馬妖は機能しなくなる。

いちいち、全ての兵馬妖と戦う必要が無いのだ。

 

「暗殺潜入なら私が」

 

周泰が立候補する。確かに彼女向けの作戦である。

 

「暗殺と言ってもこんなゾロゾロと潜入は無理ですね~。陽動班と暗殺班で分けないといけないですね~」

 

陸遜の言葉に諸葛孔明は頷く。こんな大所帯で建業に侵入したらすぐさま見つかる。

そのため敵の目を引き付ける陽動班が必要なのである。その隙に暗殺班が実行を移すということだ。

 

「陽動班は私が引き受けるわ」

 

陽動班に程普が立候補する。

陽動は何をするかと言えば簡単だ。ただ兵馬妖に向かって暴れれば良いだけである。

 

「あまり兵の数は減らしたくないんだけどね」

「まともに戦う必要が無いと言っただろう。ただ敵の目を引き付けてくれれば良いだけだからな」

 

陽動班は程普を始めに陸遜、呂布奉先、哪吒、貂蝉、卑弥呼に屈強な呉の兵士たちに決定。

残りが暗殺班となる。孫尚香に周泰、諸葛孔明、武則天、玄奘三蔵、俵藤太たち6名。

 

「六名でも少し多いか?」

「大丈夫だろう。敵将も兵馬妖をいくつか護衛で残しているはずだ。その相手もしないとけいないからな」

「くっふっふー。妾が簡単に仕留めてみせよう」

「あんた何かができるの?」

「出来るわ。お主よりもな」

「何をー!!」

 

ちょっとした武則天と孫尚香の言い合いにヤレヤレと言った一同。

ポカポカと童女同士が喧嘩しているのを余所に諸葛孔明は周泰に作戦について話し合う。

 

「城への隠し通路とかあったりするか?」

「あります」

「なら助かる。これで潜入しやすいと言うものだ」

 

隠し通路があるのならばすぐに敵将の元へと向かうことが出来る。

 

「作戦決行よ」

 

 

131

 

 

「ここが隠し通路か」

「はい。もしもの時のために用意された隠し通路です」

 

建業の城内部へと続く隠し通路を順調に進む周泰たち。当たり前というか、あまり人が通らない道なので埃臭い。

気を付けないと喉を傷めそうな場所である。

 

「埃臭い」

「ぎゃてえ」

「我慢しろ武則天、三蔵」

 

文句を言う2人に我慢しろと言う俵藤太。多少長い隠し通路だが、こんなものだろうと思う。

城から安全な外へと向かう通路ならば長いのは仕方ない。

 

「恐らく敵将は玉座にいるだろう。城に付いたらすぐに玉座に向かうぞ」

「あ、それと牢屋の方も確認したいです。誰か捕まっていたら助けないといけませんし」

「それもそうだな。張昭が捕まっているか…もしくは散り散りになった呉の者たちが捕まった可能性もある」

 

そうなるとまた城で二手に分かれるか、どちらか先を優先するということになる。

 

「…まずは指揮官を打ち取るのが優先だ」

「着きましたよ」

 

隠し扉が開かれ、建業の城に潜入成功した。

 

「人の気配が無いな」

「城内も制圧されているから…牢屋にでも放り込まれておるのやもしれぬな」

「武則天の言う通りかもしれん。おっと気を付けろ。兵馬妖が巡回しているようだぞ」

 

壁の端に隠れる。今ここで見つかるわけにはいかないのだ。

 

「玉座の間まで案内してくれ周泰。慎重にな」

「はい」

 

周泰は慎重に玉座の間まで進む。

 

「うーむ、吾としてはやはり潜入には向かんな」

「藤太はでっかいしね」

 

この中で一番見つかりやすいのが俵藤太。コソコソするのは彼的に性に合わないが文句は言っていられない。

城の中の案内は周泰に任せておけば良い。彼女ほど城内を熟知している人物はいないのだから。

 

「兵馬妖に関しては見つからなければ大丈夫そうだな」

「そうね。たぶん兵馬妖には正面から見られなければ襲われないと思う」

 

巡回している兵馬妖は恐らく城に居なかった者を敵として捕まえるように指示がされている。

もう既にこの城は黄祖軍に乗っ取られている。城の中には黄祖軍の者しかいない。そんな城の中に誰か居ればそれは侵入者くらいのもの。

そういう人物がいないか警戒するために兵馬妖が巡回しているのだ。その兵馬妖は気配なんてものは察知できない。

正面に見えた者だけに反応する。背後を取っていれば見つからない。

 

「兵馬妖の前に出なければいいだけね」

「そうですね三蔵殿。玉座の間まではあと少しなので最後まで気を抜かずに」

「まるで潜入作戦だな。いや、間違ってないか…前に似たようなゲームをやったがCQCは使えないぞ」

「げえむ、しいきゅうしいって何よ孔明?」

「こちらの話しだ孫尚香」

 

こういうのは専門外な諸葛孔明なのだがちょっとだけノっている自分がいることを内緒にしていた。

 

「もうすぐです!!」

 

 

132

 

 

建業の城。その玉座に座る男がいる。彼はこの城の本当の主ではない。彼の正体は黄祖軍の将が一人である。

彼こそが建業に攻め入り、制圧した兵馬妖の指揮官でもあるのだ。

 

「その玉座は貴様が座る場所ではない!!」

 

玉座の間にいるのは彼だけではない。彼を守るように配置されている兵馬妖に黄祖軍の兵士が数人。そして捕縛された呉の重鎮であり、声を荒げた張昭だ。

 

「分かっている張昭。私に玉座を座る資格なんてないのはな。ここに座るのは黄祖様だ」

「違う。その玉座に座るのは孫家の者じゃ!!」

「それはない。孫呉は我々、黄祖軍に負けたのだからな。それと資格が無いのに私が玉座に座ってるのはお前に対しての見せしめだ。もうこの玉座は孫家の者が座ること無いというのな」

 

ニヤリと笑う黄祖軍の将。

 

「まだじゃ。まだ孫家は滅んではおらん!!」

「確かに孫家の血筋は消えていないか。この建業を取り戻そうとして我らに破れ去った孫権がまだ生きているからな」

「ぐぬ…」

「だが、明日には処刑する。この建業がもう誰のものかを民に教え込むためにな」

「そんなことさせるものか!!」

「張昭。お前がそんなことを言っても決定事項だ」

 

孫権の処刑。それは呉を治める孫家の血筋が途絶えたという現実を民に教え込むためのものだ。もう孫家はいない。これからは黄祖が呉を治めるという事実が浸透されていく。

 

「そのために孫権はまだ生かしているだけだ」

「禍斗様。甘寧はどうしますか?」

「甘寧は殺さん。黄祖様がご所望だからな。お前らも絶対に手を出すことは許さんからな」

「わ、わかっております」

 

ギロリと釘を指すように自分の部下に睨む。甘寧は黄祖が手に入れたい人材なのだ。その執着ぶりは誰よりも深い。人材を集めている曹操よりも執念深い程である。

 

(禍斗。奴の名か…)

「禍斗様!!」

「どうした?」

黄祖軍の兵士が急いで玉座の間に入ってくる。

 

「孫呉の残党が攻めてきました!!」

「ここを取り戻すために攻めてきたか。無駄な努力するな。誰が将を務めている?」

「孫呉の両翼が将である程普です!!」

「生きていたか」

(粋怜!!)

 

程普が生きていた。その事が張昭の心に少しだけ不安感を和らげる。

 

「よく生きていたものだ。追撃させた兵馬妖の数が少なかったかもしれん。今はどうしている?」

「城門の前で暴れているようです」

「兵馬妖を城門に集結させて迎え討たせるか」

「それと、もう1つ報告があります。どうやら前の戦で見かけぬ戦士もいるようです」

 

見かけぬ戦士と聞いて首を傾ける。

 

「何処かで引き入れたか?」

「その戦士たちが程普と肩を並べる程の強さでして…」

「関係無いな。兵馬妖の数に勝るものなぞ無い。あるとしたら私のように力がある者だけだ」

 

禍斗と呼ばれた黄祖の将の体が熱を帯びる。

 

(こ、こやつは?)

 

彼を見て人間なのかと疑問を抱く。確信なんて無いがそう思ってしまう。

 

「もし、兵馬妖が足らないのなら私が出ようじゃないか。この道士から貰った力を試すのも悪くないからな」

(道士から貰った力?)

 

何やら不穏な言葉が聞こえてきた。『道士』という言葉は前にある人物たちから聞いたことがあるのだ。

今、彼らがどうなったか分からないが、道士を追っていると言っていたのを覚えている。

 

(確か道士の名前は于吉とか…)

「兵馬妖だけでなく、何なら私も出るか。やはり力を試したいしな」

 

玉座から立ち上がった黄祖の将は剣を腰に携えて歩き出す。向かう先は小癪にも生き残った程普がいる戦場。

これから、いざ戦いに出ようとするがそれは出来なかった。

出撃出来なかった出来事が起こったからである。

 

「む!?」

 

豪快に扉が開かれ、俵藤太と周泰が全力で駆け抜けてきた。狙いは兵馬妖を指揮する黄祖軍の将ただ1人。

2人の目に映った将らしき人物。らしき、ではなく確実に敵将である。

 

「成敗!!」

 

周泰と俵藤太が剣を抜き、敵将に斬りかかる。

 

「貴様らは!?」

「しゅ、周泰!?」

 

敵将だけでなく、張昭も驚いていた。

周泰の掛け声と共に二本の剣が交差した。

 

「ぐおおおおお!?」

「禍斗様!?」

 

黄祖軍の兵士は禍斗と呼ばれた将に向かうが倒れた。

彼らの脚には酷吏の手によって掴まれていたからだ。

 

「お主らもお終いじゃ」

 

武則天の手により黄祖の兵士たちも仕留められる。

 

「雷火!!」

「小蓮様ご無事でしたか!!」

 

孫尚香が張昭の縄を解く。

 

「ごめん。遅くなっちゃった」

「いえ、帰ってきてくださり心から安心しました小蓮様」

「他に誰か戻ってきてないの?」

「それなら…」

 

張昭が大切な話をしようとした時、殺気が部屋を支配する。

 

「貴様ら…!!」

「そんな!?」

「どういう事だ?」

 

周泰と俵藤太が武器を構え直す。

切り捨てたはずの黄祖軍の将がゆっくりと立ち上がる。確かに致命傷を与えたはずだと周泰は己の剣を見る。

あの致命傷で立つことは不可能。だが黄祖軍の将は立ち上がった。

 

「おのれぇ…孫呉の敗走者ごときが」

 

ポタポタと血が落ちる。確かに傷は負っている。

 

「まさか仲間を引き連れて城に侵入してくるとは…くそ。私の読みが甘かったか」

「傷が…治っている?」

 

斬った傷が徐々に修復されていく。

 

「黄祖様のために出し惜しみはしていられない。ぐぐぐぐぐああああああ!!」

 

黄祖軍の将の身体が変形していく。もう人の形を保っていない。その姿は巨大な犬のような獣であった。

 

「なーー!?」

「こやつ物の怪の類だったのか!?」

「どういうことだ。黄祖の部下に魔物の類がいたなんて聞いたことが無いぞ」

 

孫呉の面々や諸葛孔明たちだってまさかの状況に遭遇した。目の前にいる男が物の怪に変身したのだ。

 

「私の名は禍斗。黄祖様のためにこの身に物の怪を宿した者!!」

「禍斗…禍斗ってあの禍斗!?」

 

玄奘三蔵が「あっ」という感じに何かに気付く。

 

「知っておるのか三蔵?」

「うん。禍斗…中国妖怪の一種よ。もちろん襲われたから覚えているわ!!」

「それは胸を張って言うことではないと思うぞ」

「え、そうなのトータ。でも倒したわよ。悟空が!!」

 

襲われかけて肝を食われかけたのは確かに威張って言う事ではない。

 

「火を吐く獣か」

「燃え死ね!!」

 

禍斗が口から灼熱の火を吐く。

 

「この城を燃やしてしまうのは惜しいが黄祖様の障害は消すのが最優先。私は黄祖様のためにこの身に物の怪を宿し、元の名も捨てたのだ。あんな道士に唆されていると分かってなおな!!」

 

灼熱の炎を吐き続ける禍斗。その灼熱の炎は兵馬妖さえ崩れていく。

この怪物となった彼は自ら肉体に妖怪を宿した。切っ掛けは道士の胡散臭い言葉巧みからであるが、それでも構わなかった。

道士はある事情により黄祖の命の恩人。胡散臭くて信頼できないが道士としての腕は確かである。だからこそ今の姿が禍斗という妖怪の姿になったのだ。

 

「あの道士は信用できないが力を与えてくれたことに感謝している。こうやって邪魔者を消せるからな」

 

燃える玉座の間。全てが燃える。このままでは孫尚香たち取り戻すべき建業の城が燃える。

 

「全員燃え死ね!!」

「死ねるか!!」

 

燃え上がる火の中から出てくるのは周泰。熱き火の中を駆け抜けて剣を振るう。

 

「覚悟!!」

「そんな脆い剣が効くものか!!」

 

鋭い爪が周泰が襲う前に俵藤太が刀で防ぐ。

 

「ふん!!」

「俵殿!!」

「いいからそのまま斬れ!!」

「はい。てやああああああ!!」

 

一閃。禍斗の片目を切り裂く。

 

「ぐおっ、片目を。この負け犬が!!」

 

もう一度、火を吐こうとするが顎の部分から重い衝撃が走る。

 

「んぐあ!?」

 

顎の下から長い棒が伸びて当たっていた。

 

「な、何だこれは?」

「如意金箍棒よ。妖怪退治ならいくらでもやってきたから慣れてる。こんな熱い火だって食らいなれてるわ!!」

「火を食らいなれてるって部分は絶対に誇るところじゃないでしょ」

「じゃよな」

 

孫尚香と武則天はこんな状況でも玄奘三蔵にツッコミを入れた。

 

「張昭殿は無事か?」

「う、うむ。お主は?」

「諸葛孔明だ。この戦いは私たち案件でもある。力を貸す」

「お前たちの案件でもある?」

「そこの部分はこの戦いが終わったら説明する」

 

羽扇を持って真横に思いっきり振るって風を起こして周囲の炎を消す。だがまだ全ては消えていない。

全て炎を消したとしても禍斗を倒さないと意味がないのだ。

 

「マスターがいないから代わりに指示は私が出す。武則天は張昭と孫尚香を守っていてくれ」

「しょうがないのう」

 

指パッチンして酷吏を数体呼び出して張昭たちを囲むように守る。

 

「アタシだって戦えるわよ」

「なら孫尚香も張昭を守っていてくれ。ついでに私も」

「アンタも!?」

「ついでだ。ついでで構わん。隠さず言うが私は戦闘向けではないからな」

 

戦えなくはないが諸葛孔明は戦闘向きではない。それは自分自身が嫌と言う程分かっている。

それならば自分が軍師として策を考えて戦い向きな者に策を授けて戦ってもらった方が効率が良いのだ。

 

「お前より小さい子に守られてる奴もいるくらいだからな」

「誰よそれ?」

(お前らが種馬認定した男だよ。まあ、その小さい子たちはどいつもこいつもとんでもないけどな)

 

冗談な本気は置いておいて戦いに集中する。

相手は妖怪を取り込んだ存在。だがここに怪異殺しの侍と妖怪退治をしてきた僧がいる。

俵藤太と玄奘三蔵ならば戦い方を知っている。

 

「戦いは俵藤太と玄奘三蔵に周泰を主軸にするぞ」

「この私を倒せると思うな敗北者ども!!」

「俵藤太は前衛を頼む。玄奘三蔵は援護しろ。周泰はあいつを攪乱させるように斬り続けろ」

 

任されたとばかりに3人は動く。

玄奘三蔵がスキル『妖惹の紅顔』を発動してさっそく目を付けられた。

 

「ぎゃてえーー!?」

「な、何で三蔵殿を?」

「相手が妖怪を取り込んでるから効き目バッチシだな」

 

完全に囮になってしまったが彼女であるが天竺を目指していた時は日常茶飯事なのでいつもの事である。

 

「周泰殿。行くぞ!!」

「三蔵殿はいいのですか!?」

「慣れてるから大丈夫だ!!」

「あれも慣れてるんですか!?」

 

玄奘三蔵が禍斗に追いかけられている間に俵藤太が周泰を投げ飛ばして背中に剣を突き刺す。

 

「ぐ、この!!」

 

周泰を振り払って口を開き炎を彼女に向けて吐こうとするが出来なかった。

 

「させるか」

 

諸葛孔明が指をパチン鳴らすと爆発が起こる。その爆発により禍斗が傾いたのだ。

チャンスだとばかりに俵藤太は弓を連続で射る。鋭い矢が複数も突き刺さるが大きな躯体の禍斗に効くかと言われれば効く。なんせ1本1本の矢の威力が重い。

 

「何だこの矢は…私の身体に矢なんて普通は効かぬ。だがこの矢の一撃が重い!?」

「てやああああ!!」

「こっちだっていくわよ!!」

「邪魔だ女ども!!」

 

周泰と玄奘三蔵の攪乱してくる攻撃も目障りだと思っている禍斗。踏みつぶせば終わりだと分かっているのになかなか潰れない相手に苛立ちを感じているのだ。

躍起になって潰そうと前足で何度も踏みつぶそうとする。そして床を踏み抜いた瞬間に爆発が起きる。

 

「ぐおああ!?」

「私が設置した罠に引っかかってくれたな」

 

葉巻に火をつける。今は周囲が燃えているから火に困る事はない。

 

「今ので片手が吹き飛んだだろう」

 

諸葛孔明により禍斗の片腕は爆発により吹き飛んだ。だが相手は妖怪を取り込んだ存在である。

片手が吹き飛んだ程度では気にしない。

 

「この程度!!」

 

吹き飛んだ片手が再生する。

 

「む、やはりもっと威力を上げた方が良かったか」

「いい加減しろこの敗北者どもが!!」

 

禍斗が真上を向いて大きな火球を生み出す。

 

「これで一網打尽だ。ここで滅べ孫呉の者ども!!」

「孫呉は滅びないわ!!」

「なに?」

 

孫尚香は声を荒げた。今言った禍斗の言葉は絶対に否定しなければならない。

まだ孫呉は滅びない。これは孫尚香や周泰、張昭たちも禍斗の言葉を否定する。

 

「孫呉は滅びない。わたしがいる。程普がいる。周泰がいる。張昭がいる。陸遜がいる。頼もしい呉の兵士たちがいる。まだ滅びてない!!」

「そんなのは今ここで死ぬ!!」

「滅びないわ!!」

 

孫尚香の目は死んでいない。青い目だが燃え上がるような煌めきがある。

 

「ぐ!?」

 

彼女の目の力はとても強く、真っすぐに禍斗を射抜く。その目は禍斗をたじろかせた。

 

(な、なんだ。あんな小娘に私が臆されてるのか。そんなはずはない!!)

「孫呉は誇り高き戦士。最後まで戦う!!」

 

巨大な火球が迫ろうとも彼女は逃げない。

 

「その志よし!!」

 

俵藤太は弓を構えて矢を張る。

 

「そうだ諦めるな。拙者はどんな絶望的な状況でも諦めなかった男を知っている。諦めなければどうにかなるってもんだ!!」

 

何もしないより抗がえば何かが変わる。流れの変化なんてものは少し何か違ければ変わるものなのだ。可能性はゼロではない。

孫尚香が今ここで叫んだだけでも何かが変わったのだ。

 

「お主の心意気に応えよう!!」

「なぬ!?」

 

禍斗が見たのは俵藤太が張った弓矢の鏃部分に水が集中する。

 

「南無八幡大菩薩……願わくば、この矢を届け給え。八幡祈願・大妖射貫!!」

 

水に包まれ、龍をかたどった一矢が玉座の間に放たれた。そしてその先は禍斗だ。

 

「なーー!?」

 

俵藤太の宝具。八幡祈願・大妖射貫。

その一撃の余波で燃え上がる火球が鎮火され、そのまま禍斗を貫く。更に玉座の間に広がる炎さえ消える。

 

「トドメは周泰よ、お主が決めろ!!」

「はい俵殿!!」

 

周泰が走り抜けて跳躍し、禍斗の額目掛けて剣を深く突き刺した。

 

「てやあああああああ!!」

「ぐおおおおおおおお!?」

「やったか!?」

 

周泰の剣は禍斗の生命を突き刺した手応えがある。

 

「……も、申し訳ありません黄祖様。不甲斐ない部下で…」

 

禍斗は崩れながら塵となって消えた。

 

「ふぅー…間一髪だったな」

 

鎮火した中から一番に出てきたのは俵藤太。

 

「あっつーいわ!?」

 

次に三蔵玄奘である。その後に孫尚香たちも無事に鎮火した中から出てくる。

 

「これで建業に配置された兵馬妖は全て機能停止しただろう」

 

諸葛孔明の言葉は正解である。

建業の外では程普たちが兵馬妖相手に暴れていた。全ては諸葛孔明たちの黄祖の将の暗殺の陽動のためである。

 

「兵馬妖が急に動かなくなった?」

「ということは小蓮様たちは上手くいったんですね~」

 

兵馬妖がボロボロと土くれになる。

 

「勝利 呂布 それもう土くれ」

「□□□」

 

呂布奉先は土くれとなった兵馬妖を踏みつぶして戦を終了させた。

 

「ならば急いで建業に戻るわよ」

 

建業の奪還は成功した。孫呉の運命は変わっていく。

 

 

133

 

 

建業に配置された兵馬妖は全て崩れ去った。これで黄祖の支配から一旦開放されたが油断はできない。今は解放されたが、また攻めてくる可能性があるのだ。

程普たちは町の様子を見ながら城へと向かう。すると前から建業に残っていた呉の兵士たちは出てきた。

 

「程普様!!」

「無事だったのね貴方たち。良かった」

「それはこちら台詞です。程普様に陸遜様が無事で本当に良かったです。早くお城へ。張昭様に孫尚香様たちが待っています」

「では、町の様子は頼んだわよ」

 

町の様子は兵士たちに任せて急いで城へと駆け抜ける。

 

「小蓮様!!」

「あ、粋怜!!」

「粋怜に穏も無事であったか!!」

「雷火先生も無事で良かった」

「良かったです~」

 

孫呉の仲間も着々に集まりつつある。

残り集まっていない孫呉の将は孫策に周瑜に黄蓋に太史慈たち。

そして孫権と甘寧はどうやら孫尚香たちが建業に来る前に帰還しており、負傷していたところを禍斗たちに捕まったというのだ。

彼女たちは今、建業の独房に捕まっている。それを周泰は解放しに行っている。

 

「みんな!!」

 

そしてその件の孫権が周泰に連れられて顔を出した。

 

「姉様!!」

「孫権様!!」

 

無事であった孫権。孫尚香にとって大切な姉である家族。程普達にとって守るべき孫家の一族で血がつながらなくと大事な家族。

 

「良かった。本当に良かった…」

 

確実にバラバラになった孫呉は元に戻りつつある。

 

「彼女がこの外史の孫権か」

(アタシたちがこの揚州に訪れた時は孫家が滅んだなんて事になってたけど…だいぶ元に戻りつつあるのかしらね?)

 

貂蝉は孫呉の者たちを見る。この地で重要な人物たちが無事である事はまだ本来の道筋に修正出来るレベルだ。

ちょいと空気になっている貂蝉と諸葛孔明たちは孫権たちが今の状況を説明している内に此方側も状況を説明していた。

 

「妖怪の力を埋め込まれた人間だと!?」

「ああ。于吉はそういうのもやってのけるのか?」

「恐らく出来るだろう。だが今までそんな事はしなかったはずなのだがな」

「なら今回で試したのだろう」

 

妖怪の力まで利用しだした于吉。この外史にも実は幻想種に近い存在がいるらしい事は分かっていたが本格的に戦う事なる。

だがそういう魔物、妖怪との戦いは慣れている。いつもの戦いだ。

 

「でも于吉がどんな妖怪を用意しているかも気になるわねえ」

「怪異退治専門がいるとは言え、妖怪や魔物ってのは特別な力を持ってる奴が多いから気を付けねばな」

「妖怪なら任せて。これでも多くの妖怪に襲われては退治してきたから!!」

 

物凄く説得力のある玄奘三蔵である。

 

「あらん?」

「どうした貂蝉?」

「甘寧ちゃんがいないわね?」

「甘寧?」

 

その言葉は孫尚香たちも疑問に思っている。

 

「そうだよ姉様。思春は?」

 

張昭の話だと孫権と甘寧は禍斗に捕まっていたはずである。それなのに居ないというのはおかしい話である。

その言葉を聞くと孫権は暗い顔をする。

 

「思春は連れ去られたわ」

「ええー!?」

「黄祖は思春を異常なまでに欲しがっていたからのう。捕まえてすぐに黄祖の元に送ったか!?」

「ええ。今日、あの土人形によって連れていかれたわ」

「なら、すぐに追いかけないと!!」

「ええ、分かっているわシャオ」

 

すぐにでも追いかけたいが実際は難しい。たった今この建業は禍斗たちから解放されたばかりなのだ。

甘寧を助けに行きたいが救出隊を編成するのも時間が掛かる。

これでは甘寧は黄祖の元に連れていかれてしまう。

 

「ぐ、確かに…今から助けに行くにも」

「なら私が行くわ。忠誠を誓われた主人である私が助けに行かずして何とする」

「駄目です。危険すぎますよ~」

「思春を見捨てろと言うのか!!」

「そんなつもりで言ったわけではありませんよ~。私だってすぐにでも助けに行きたいです。しかしすぐに動ける者がいないんですよ」

 

陸遜だってすぐにでも助けに行きたい。しかし皆分かっているのがたった今、建業が開放されたばかりということだ。

解放されたばかりで動ける者は少ないということだ。程普達も周泰たちも強敵と戦ったばかりでまともには動けないというのが現実である。

 

「ならその役目は我々が承る」

 

ここで諸葛孔明が彼女たちの話に加わる。

 

「そう言えばあなた方は?」

 

孫権は諸葛孔明たちを見て警戒する。先ほどから居たが孫尚香たちが警戒していないから少なくとも敵ではないが油断はできない。

 

「待って待って姉様。この人たちは仲間だよ。あの怪しい筋肉の人たちも仲間なの」

「シャオ…いや、あの筋肉たちは怪しすぎるでしょ」

「「失礼な」」

「……色々と自己紹介は後にしようか孫権。まずは甘寧を助けにいくのだろう?」

「え、ええ。そうよ」

「ならばすぐに動ける適任がいる。哪吒」

 

諸葛孔明が哪吒を見る。そのまま全員の視線が集まる。

すると哪吒は「自分?」という感じに自分自身に指を差す。

 

「彼女がこの中では一番機動性があるからな。哪吒よ頼めるか?」

「了解」

 

哪吒はそのまま部屋から外へ走り抜けて文字通り飛んだ。

目指す先は捕縛され、連れていかれた甘寧の元。まだまだ戦いは終わらない。




読んでくれてありがとうございました。
次回は1週間後に更新予定です。

今回はオリジナルの敵を登場させてみました。
原作でも黄祖の将はモブで登場していましたので、そんな彼らを妖怪と組み合わせてみた所存です。
恋姫は于吉のような道士や兵馬妖、妖術書、さらに龍なんて存在もいますから妖怪という存在が登場しても違和感が無いと思ってます。
現在sideではまだ孫呉側は負けていますがこれから活躍していきますよ!!

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