Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
更新が止まっていたので頑張ってまた長く止まらないように!!
目指せ6月中には江東の虎物語編の完結を!!

FGOでの新イベント!!
頑張って楽しくプレイ中。なのでクリアしていない奏章Ⅳは一旦ストっプしてます。
奏章Ⅳも今いいとこなんですけどね
テュフォン・エフェメロス…お迎えするぞ!!


江東の虎物語-海賊-

1141

 

 

前回までのあらすじ。

もうすぐ海賊が呉の港町に攻めてくるかもしれない。

 

「張昭先生、本日もありがとうございました」

「うむ」

「まっこと勉強になりました」

「この年寄りの耳にもためになるお言葉ばかり」

「なんの。わしはただ、偉大な先人たちが残された言葉を皆々方にお伝えしているに過ぎませぬ。それをする事によって、わしも新たに学び、気付きを得ることができますゆえ」

 

雷火は役人や商人、はたまた町民たちから感謝される。彼女は己の持つ儒学を皆に与えていたのだ。

 

「人生とは生涯、学びでございますな」

「ごもっとも」

「次回もよろしくお頼み申します」

「うむ。次の講義は三日後に行うゆえ、ぜひお知り合いにも声をかけてくだされ」

「はい」

 

雷火の講義は好評だ。役人や商人たちも彼女の講義を聞きに来るのが良い証拠である。

 

「…さてと、そろそろ昼にするかの」

 

昼飯は何にしようかと考えていると声を掛けられる。声を掛けられるというか、勝手に絡んできたというべきかもしれない。

 

「呉の街には物好きが多いんだなァ」

「なんじゃお主か。今のはいかなる意味じゃ?」

 

雷火の目の前に炎蓮が顔を出す。

 

「暇な奴が多いって話だよ。わざわざ時間を割いてテメーの眠たい話を聞きに来やがるんだからよ」

「お主、わしの講義を覗いておったのか?」

 

感想はどうあれ、雷火の講義が眠たくなるというのであれば聞いていたという事だ。

 

「ああ? ンなわきゃねーだろ」

「聞いてもおらんのに、何ゆえ眠たい話だと分かるのじゃ?」

「へっ、儒者の話なんぞ眠たいに決まってんだろ」

 

何とも言えない言い訳だ。しかし雷火は敢えてツッコミを入れない事にする。

 

「それはお主に教養が欠けておるからじゃ」

「ハッ、口の減らねえ餓鬼だぜ」

 

その言葉をそのまま返したいと思う雷火であった。

 

「わしは餓鬼ではない。して…わしに用でもあるのか?」

「テメーに用なんぞあるわけねえだろ。たまたま通りがかっただけだよ。ふん、オレはもう行くぜ。じゃあな」

「なんじゃアレは?」

 

聞く人が聞けば今のはツンデレと言うかもしれない。

 

「今のはツンデレだね」

 

言う人が近くに居た。

 

「む、お主は…藤丸と太歳星君か」

「はんなまー!!」

 

元気な挨拶に「うむ」と返す雷火。

素直で元気な人物には好感が持てるというものだ。炎蓮も太歳星君のように素直であれば雷火の対応は別であったはずだ。

 

「久しぶり…というわけではないか」

 

彼らの事は記憶に新しい。特に「太歳星君」という名前は簡単に忘れないものだ。

 

「張昭さんのおかげで仲間と合流出来ました。ありがとうございます」

「なぁに。わしは噂話を口にしたに過ぎん」

 

彼女の情報提供で太公望たちと合流出来たのは確かだ。感謝をしても変ではない。

 

「ところで…つんでれとは?」

「素直じゃないって事かな」

「アレがのう…」

 

何となくだが炎蓮にツンデレは似合わない気がすると思う雷火であった。

 

「本当にあ奴は何しにきたんじゃか」

「多分だけど知恵を借りに来たんだと思う」

「なに?」

 

炎蓮が雷火に知恵を借りに来たと聞いて怪訝そうな顔をした。

あのような態度と会話内容で知恵を借りに来たとは思えないからだ。

 

「素直じゃないってやつだな」

 

太歳星君もツンデレだと言う。

 

「もしそうじゃとしても何の知恵を借りにきたのやら」

「海賊についてだと思う」

 

海賊という言葉が出て雷火は真顔になる。

 

「…詳しく話してみよ」

 

呉の近海で勢力を拡大する海賊。

既に船は大小含めて五十隻は有している。船が五十隻もあるのなら海賊の数も自ずと多い。

呉の港町はまだ穏やかだが海賊が攻めてくれば地獄と化す。

 

(くそっ、オレは何やってんだよ)

 

炎蓮は雷火と勝手に別れてから港に足を延ばす。

 

(海賊の対策を立てなきゃならねえって時に、あんな餓鬼のことを気にするなんざ…しかしあの餓鬼、オレがこれまで会ったどの役人よりも骨がありそうなんだよな)

 

炎蓮の言い方はどうあれ、実は心の中で雷火を認めている。ただ本人は気付いていないだけだ。

 

(講義の内容もなかなかのモンだった。つい感心して聞き入っちまったぜ。っ、畜生。オレもヤキが回っちまったか。儒者の話に感心してどうするんだよ。口では偉そうに言っても、あの連中は自分じゃ何もしねーんだ)

 

認めているのに認めていないような言い方。やはり素直じゃないと言われてもおかしくない。

 

「ふーーー。よし、あんな餓鬼の戯言は忘れよう。それよりも海賊をどうするかだ」

 

炎蓮が雷火に思うところに関しては一旦置いておく。今、彼女がすべき事は海賊の解決なのだ。

そんな時に元気に、好意の籠った挨拶が放たれた。

 

「孫堅様!!」

「おう、荷の積み込みは順調みてえだな。せっかく雇ってやったんだ。真面目に働けよ」

「孫堅殿のおかげで本当に助かったぜ」

「孫堅ちゃんありがとうね。新しい仕事に住む家まで手配してもらっちゃって」

「ふっ、気にすんな。その分、働いて帰してもらうからよ」

 

彼らは海賊に物資を奪われた者たちだ。明日からどう生きればいいか分からないと思っていたところを炎蓮に助けられた者たちでもある。

 

「孫堅殿は良い品を扱っておりますなぁ。いったいどこから仕入れた品なんで?」

「海の向こうの島からだよ」

「海の向こう…蓬莱ですか?」

「ああ、蓬莱やはるか南の島からな」

 

本当に蓬莱から商品を仕入れているわけではないが、彼女には彼女の特別な仕入れルートがある。

 

「へええ。我らの漢の他にも海の向こうには人の住む土地があるんですな」

「おうよ。天下ってのは広いぜ。これからの時代は海に目を向けんとな」

「いやはやまことに…お役人にしておくのは惜しいお方じゃ」

 

炎蓮には商才がある。でなければ貿易で成功しているわけがないのだ。しかし彼女は商業で成り上がるつもりではない。

 

「ハッハッ。今は木っ端役人に過ぎんがオレはそのうち天下に立つ人間だからなァ」

「て、天下だって!?」

「あはは。孫堅ちゃん、またそんな大ボラを吹いちゃって」

(大ボラか。まあ確かになぁ…たかが海賊風情に頭をなやましてるようじゃな)

 

天下を獲る。炎蓮の目標であるが海賊に悩まされている程度では夢のまた夢という事だ。

 

(オレはこれまで民の暮らしを脅かす賊どもをオレ一人の力で片っ端から潰してきた。だが今回ばかりはそうもいかねえな。相手は五十隻の船を擁する海賊だ)

 

炎蓮の個の武は強い。しかしたった1人でも多すぎる群なる敵を倒すのは出来ない。

 

(奴らを潰すとなったらこれはもう戦だ。しかしオレは未だに大勢の兵を率いた経験がねえ。そもそも、そういう立場じゃねえし)

 

軍を動かす権力も無いのに悔しく思う。こういう時こそ郭雄が言う出世こそが必要だったのかもしれない。

 

「このオレに肩を並べて戦ができるような仲間ってのもいねえしな」

 

今までたった1人だけで問題を解決してきた。しかし今回ばかりは己だけではどうにも出来ないかもしれない。

 

「んん?」

「お、おい、大変だぞ」

 

考え事をしているとざわめきが急に聞こえてくる。

 

「どうかしたのか?」

「孫堅殿、沖に海賊が!!」

「なに!?」

 

ついにその時が来てしまった。

 

 

1142

 

 

港町の漁民たちが忙しなく船の物資を地上へと運んでいく。

 

「そ、孫堅。これは何の騒ぎだ!?」

「今、沖に海賊船が集まってんだ」

「海賊だと!?」

 

港町に異常なほどの動きが起きている事に県令である郭雄が何事かと慌てるのも当然だ。しかし原因が海賊と聞いてすぐに理解する。

 

「明日の朝には襲ってくんだろう。だから今の内に積み荷をまとめておくんスよ」

「お、お前はまた勝手な判断で」

 

勝手な判断をする副官に困ったものであるが今だけは迅速な判断が最善であった。

 

「海賊は海から来るんだぜ。港にそのまま置いておくよりマシだろう?」

「いや、待て。積み荷を役場にまとめて置いていたら海賊はここに押し寄せてくるではないか」

「それを守るのがオレたちの役目じゃねえか。郭雄殿もぼんやりしてねえで兵士に召集かけな。明日は殺し合いだぜ?」

 

海賊が攻めてくるのは確定だ。殺し合いになるのも確定だ。

これから海賊との戦が始まるのだ。

 

「う…どうする気だ?」

「どうするって、兵を指揮するのはアンタだろうが」

「海賊は…て、敵は何人なのだ?」

「船は五十隻だ。人数は…まあ五、六百人くらいだろうな」

 

海賊はもはや大海賊といっていい規模である。現実的に考えて呉の街に常駐する兵士たちだけでは足らない。

 

「無理だ。呉の街に兵士は百人しかおらんのだぞ!?」

「ンなことは分かってるよ。少なかろうが何だろうが、やるしかねえだろ!!」

 

役人として街を、民を守るのが仕事だ。この状況では戦うか逃げるかの二択。

 

「っ…そ、孫堅。お前が指揮をするか?」

「はあ?」

「この際、白状するが私には戦の経験がない。兵を指揮して戦ったことがないのだ…」

「はあ…」

 

郭雄は戦の経験がない。県令という立場であっても戦をしたことが無いのも珍しくない。そして意外にも炎蓮もこの時点ではまだ無かった。

 

(戦の経験なんか、オレにだってねえよ。けど…このオッサンが指揮するよりはオレの方がマシか?)

 

荒事を知っている炎蓮の方がまだ戦えるかもしれないと思ってしまう。海賊は正規の軍ではない。荒くれ者の集団だ。

荒くれ者の対処方法は炎蓮も知っているが敵は大きすぎるのが難点だ。

 

「よし、孫堅。お前は五十の兵を連れて港を死守するのだ。私は残り五十と共にこの役場を守る!!」

「う~ん…」

 

一瞬だけ郭雄の案で良いかと思ったが冷静に戻ると無謀すぎると思って否定。すぐに言い返そうとしたが第三者が先に否定した。

 

「たわけっ!!」

「張昭先生?」

 

郭雄の案を否定したのは雷火であった。

 

「ただでさえ少ない兵をふたつに分けていかがする。郭雄殿、お主は兵法というものを知らんのか?」

「へッ、餓鬼の出る幕じゃねーよ。テメーは大人しく屋敷に篭ってな」

「わしは餓鬼ではない」

「張昭先生…どうすればよろしいでしょうか?」

 

良い案が思いつかない状況で雷火の登場は郭雄にとって助けであった。そして炎蓮にとってもだ。

 

「ふむ…まずは州刺史殿に援軍の要請じゃ」

「刺史に援軍だぁ? ここから建業まで何日かかると思ってんだよ」

 

援軍の案は既に考えていた事だ。しかし現実的に考えて間に合わないのだ。

 

「狼煙を使えば左様に日にちはかかるまい」

「それでも援軍が到着する頃には、海賊どもはとっくにお宝を奪って海の上だぜ」

「そこを持ち堪えるのがお主の役目であろう。違うのか?」

「…ケッ」

 

雷火の言い分に否定は出来ない。援軍が来るまでの時間稼ぎをしろと言われても、その通りすぎる。

 

「また、今日のうちに近隣の街や村からも可能な限りの人数を集めておくのじゃ」

「そう簡単に行くかよ。誰が好き好んでテメーと関係ねえ街まで海賊退治に来てくれるってんだ?」

 

自分の街じゃないのだから関係無いと言う者たちはいる。そうなると手を借りられないのもある。

 

「お主は文句だけじゃのぉ。人の意見に口を挟むばかりで己の頭では何も考えられるのか?」

「ああン?」

 

心の中で「こっちだって考えてるっつーの」と思ってしまう。

 

「さすがは張昭先生。妙案にございます。よし孫堅…ここはお前に任せた!!」

「任せた?」

「私はただちに馬を飛ばして近隣の町や村を回る。明日の朝までには兵を集めて来るゆえ!!」

「ああ?」

 

いそいそと郭雄は呉の港町から出る準備をし始める。

 

「待てい。郭雄殿。何も自らの脚で行く必要はあるまい。使いの者を送れば済むことではないか」

「い、いえ。ここはやはり県令の私が自ら出向いた方が説得力も増しましょう。というわけで…孫堅よ、戦の支度は任せた!!」

「あ、待て。待たんか!!」

 

郭雄は制止を振り切って走り出してしまうのであった。

 

「な、何たる奴か。逃げおった」

「ま、別にいいけどよ。郭雄殿なんてハナからアテにしてねえぜ」

 

本当は何か手伝ってくれないかと思っていたがしょうがない。

 

「お主、兵を指揮できるのか?」

「さあね」

「さあ?」

「オフクロに兵法はみっちり仕込まれたが、オレも戦をした経験なんかねーからよ。もちろん兵士を指揮したこともねえ」

 

いつもやってる賊退治と今回の海賊からの防衛戦は全く異なる。

 

「駄目ではないか」

「やるだけやってみるさ。県令様は尻尾を巻いて逃げ出しちまったから、代わりに副官のオレが呉の街を守らねえとな」

 

郭雄は逃げ出した。しかし炎蓮は残って戦う事を選んでいる。それだけでも彼女の志は強い。

そんな彼女に雷火は評価しているが無謀な戦は評価できない。

 

「むう…こちらは百人、海賊は五百人以上じゃそ。いかにして戦うつもりか?」

「なあ張昭。あんたは兵法を知ってんのか?」

「いや、先ほどは偉そうに申したが、兵法書の類はさほど読んではおらん」

 

専門分野が違うという事だ。

 

「なんだよ。役に立たねえな」

「ん? 今、わしに助言を求めておったのか?」

「あぁ? そんなんじゃねーよ」

 

雰囲気的に助言を求めていたようにしか聞こえなかった雷火。これが藤丸立香と太歳星君でいっていたツンデレかと思った。尤も違うが。

しかし素直ではないというのは納得出来た。

 

「………わしが海賊と交渉しても良いぞ?」

「交渉だぁ?」

「うむ。無謀な戦は避けるべきじゃ。それはいくらか街の財物を差し出すことになろうが、賊としても血を流さずにそれが手に入るのなら話に乗ってくるであろう」

 

賊としては簡単に資源が手に入るのであれば越したことは無い。しかし欲とは次から次へと出るものだ。

戦力差は確実に海賊の方が上なのだから交渉を無視して力づくで奪った方が早いのだ。

 

「やめとけやめとけ。テメーみたいな餓鬼じゃあ話し合いにならねえよ。だいたい賊相手に話し合いなんぞ無用だ。クソどもは一人残らずオレが叩き斬ってやるぜ」

「賊といえども揚州の民ぞ?」

「あン?」

「敵はただ殺めればいいというものではない。五十の船と五百人を数える兵。何の理もない者たちが左様に大きな集団となることはないであろう」

「クソみたいな賊どもに理があるってェのか?」」

 

炎蓮からしてみれば海賊は人さまから物を奪う屑でしかない。

 

「それが見極められる者が人の上に立てるのじゃ。今のお主には難しきことのようじゃが」

「ちっ、相変わらず講釈ばかり垂れやがって」

 

難しい事は分からない。しかし知識が無い者に、人の上に立つ資格はないのだ。

どの時代であっても頭が回る者が上に立って行く。

 

「孫堅よ。ここはわしに任せてみんか?」

「テメー、本気かよ?」

「無論じゃ。船は一隻、船頭を一人つけてくれれば護衛の兵士など必要ない。例え交渉に失敗に終わっても、賊に斬られるのはわし一人じゃ。お主やお主の部下に迷惑はかけぬ」

(こいつ…儒者なんぞ口だけの連中だと思っていたが…この餓鬼、大したクソ度胸じゃねえか)

 

一人で海賊の船に乗って交渉をする。それは並大抵の覚悟では不可能だ。

最悪な場合を考えれば殺されるか、凌辱されるか。雷火はそれを理解してなお海賊に交渉しに行くと言うのだ。

 

「どうじゃ?」

「駄目だ。認めねえ」

 

雷火の覚悟は買うが、本当に海賊の所へと行かせられない。

ここで炎蓮が首を縦に振れば一生後悔する事になると理解したからだ。

 

「なぜじゃ?」

「ここはオレのやり方でいく」

「この石頭め」

「ハハハ。儒者に石頭呼ばわりさせるとはな」

 

儒者に石頭と言われて面白くて笑いが出てしまう。

 

「巷ではお主のことを狂った虎などと呼んでおるそうじゃが、やはりその通りなのか?」

 

勝手に呼ばれているが自分としては狂っているつもりはない。

 

「どれほどその腕に自信があるか知らぬが。仮に海賊を撃退出来たとしても兵や民に大きな犠牲が出てもよいのか?」

「そうはならねえよ。オレを信じな」

「何か考えがあるのか?」

「テメーと話していて、ひとつ策を思いついたぜ」

 

ニヤリと笑う炎蓮。

 

「策じゃと?」

 

五十隻の船を持つ海賊と真っ向から戦っても勝つ可能性は低すぎる。しかし策を講じて戦えば勝つ可能性は上がる。

 

「ああ。テメーはすぐに州刺史殿に報せを送ってくれ」

「うむ、援軍の要請じゃな。しかし、いかにして時を稼ぐのか?」

「クックッ。オレが本当に狂った虎かどうか。張昭、その目でよく見ておくんだな」

「ふむ…」

 

雷火は考え込む。

 

「藤丸の言う通りなったな」

「あん?」

 

何故ここで藤丸立香の名前が出てくるのかと炎蓮は思った。

 

「何、あやつが言っておったのじゃ。孫堅なら海賊をどうにかする策が思いつくとな」

「アイツそんな事をテメーに言ってたのかよ」

「そして準備しておくと言っておったぞ」

「は?」

 

藤丸立香たちには海賊が呉の港町に襲ってきた場合に民たちの避難等をしてほしいと頼んでいた。しかし準備をしておくとは一体何の事なのか炎蓮は首を傾ける。

 

(準備って何だ?)

「何やら港の方で船の準備をしておくと言っておったがのう」

(アイツ…まさかオレが思いついた策と同じのを思いついたのか?)

 

本当に準備していたら不気味なくらい要領が良すぎるものだ。しかし今は願ってもいない状況だ。

すぐさま藤丸立香と合流して、己の思いついた策と同じかどうか確認して精査しなければならない。

 

 

1143

 

 

呉県の沖にて。

 

「お頭。船は全部、集まったぜ」

「うむ、これだけの船があれば呉の港なんぞは半日で落とせるな」

 

海賊の頭領は自慢の戦力を見て鼻息を荒くする。

大小含めて計五十隻の船を有する海賊団。その全戦力を投じればどのような港町も簡単に制圧できる。

その戦力こそが頭領の誇るべき自慢なのだ。

 

「ああ、楽勝だぜ頭領」

「間者の報せじゃあ県令の郭雄は真っ先に呉の街から逃げ出したそうだぜ?」

「ハッハッ。県令が民を置き去りとはな」

 

臆病な県令に頭領が笑いだせば、副頭領や部下たちも釣られて笑いだす。

 

「けど、残った兵を指揮しているのはあの孫堅らしいな」

 

部下の1人が不安要素を吐き出す。狂った虎の孫堅は賊たちの間では有名だ。

彼女によって潰された盗賊・山賊は数知れず。しかし潰された賊たちは海賊たちよりも規模は小さい。

ここにいる海賊は炎蓮が今まで潰してきた賊よりも大きいのだ。

 

「呉の狂った虎か。ふん、腕は立つそうだが所詮は一匹の虎だろう」

 

腕っぷしに自信があろうとも五十隻に五百人もいる部下たちには、たった1人の炎蓮ではどうしようもない。

本当に炎蓮が怪物並みに一騎当千で無双できる武人であれば話は別だが。

 

「それとあいつの助言もある」

「頭領…あのおかしな口調の奴を信じるんですかい?」

 

部下が言う「おかしな口調の奴」とはつい最近に海賊たちに助言を伝えに来た者だ。

その者いわく、孫堅(炎蓮)の策に騙されるなとの事。何が起きようとも港に向かって進むが良しとの事だ。

 

「怪しく不気味な奴ですぜ。どうやってウチらの船に乗ったかも分からねえですし、気が付けば消えている奴です」

「官軍の手先やもしれませんぜ」

「官軍にあんな怪しい奴はおらん。それに官軍だったとしても、同じ役人仲間である孫堅に騙されるなと助言するのもおかしいだろう」

「それが罠だったり…」

 

怪しい奴の助言を信じるのは普通しない。部下の言葉も正しい。しかし海賊の頭領は変に怪しい奴の助言を信じた。

 

「あいつはロクデナシだ。そして狙いは孫堅だろう」

 

海賊の頭領も己自身がロクデナシだと自覚している。ロクデナシ同士だからこそ考えも大体察せるというのだ。

怪しい者の目的は孫堅だ。そして県令の郭雄が逃げたのは間者からの確かな情報を得ている。

孫堅(炎蓮)を殺して欲しいのか、役人としての評価を落としたいのか。

 

「官軍…というよりも役人って奴らは仲間を蹴落として上に成りあがる奴が多いんだよ」

 

海賊頭領は孫堅(炎蓮)が役人として邪魔だと思った役人仲間が己たちに助言しに来たか何かだと予想した。

ロクデナシな考えだがらこそ妙に信じられるのだ。仲間を蹴落としててでも出世するという欲は分かりやすいのだ。

 

「明日は日の出とともに街へ攻めかかるぞ。皆、今夜はよく眠っておくのだ!!」

「「「おう!!」」」

 

海賊の脅威は呉の港町と目と鼻の先であった。




読んでくださってありがとうございます。
次回の更新は6月中…江東の虎物語編を6月中に完結させる勢いで!!


1141~1142
英雄譚4の流れですが徐々にオリジナル展開になっていきます。

そして未来を大体知っている藤丸立香達が既に手を打ち始めてます。
炎蓮からしてみれば普通に「何で準備が良いんだよ」と疑問に思うのは当然だよなあ。
逆に怪しむのも否定できません。

1143
海賊の方でも本来の歴史の流れに変化が起きてます。
ロクデナシ…まあ、彼ですね。
もう言っちゃうと白波三鬼衆の…

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