Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
早く書けたので、早めの更新です。
今回も現在の孫呉sideです。


甘寧救出戦

134

 

 

哪吒は飛びながら地上を見渡す。建業を奪還する数刻前に連れ出されたというのならばまだ甘寧は黄祖の元には到着していない。

まだ兵馬妖に連れられて黄祖の元へと向かっている途中のはずである。哪吒の機動力があるからこそ空から探せるなんて芸当ができるのだ。

この時代で空から探す方法はまだできない。だからこそ諸葛孔明は哪吒を行かせたのだ。それに彼女の力は今現代に残っている英霊の中でも戦闘向きである。

兵馬妖と戦いになっても十分に戦える。

 

「いた!!」

 

哪吒の目に映った兵馬妖の集団。

あの兵馬妖たちは甘寧を黄祖の元へ自動で連れて行く用である。そのため禍斗の指揮権が消えても自立型のため土くれにならないのだ。

哪吒は狙いをつけていっきに急降下。そして着弾した。

バラバラに破壊された全ての兵馬妖が空中に飛散して崩れ落ちる。なかなか思い切った突撃だが捕まっていた甘寧は無事であった。

 

「な、何が起きたんだ?」

「お前が甘寧?」

「だ、誰だ!?」

 

甘寧はすぐさまは距離を取る。

 

「安心しろ 敵じゃない」

 

敵ではないと言われても、捕まっていたらいきなり兵馬妖たちが飛散しながらバラバラに破壊され、その余波で甘寧も少し飛ばされた身である。

そもそもどうやって兵馬妖をこんなバラバラにしたのか読めない相手を警戒しないというのは無理な話である。

 

「どうやって…」

「上から 急降下」

「は?」

 

指で空を差す哪吒。

ますます分からない。

 

(今の奴の言葉が本当なら空から降ってきたって事か。いや、そんなことが…)

 

そんな事が正解である。

 

「孫権 頼まれた」

「孫権様が!?」

 

すぐに顔色が変わる甘寧。

 

「孫権様は無事なのか!?」

「無事 建業も取り戻した 張昭も程普も周泰も陸遜も孫尚香も無事」

 

哪吒の言葉が嘘か本当か分からない。だが彼女の言葉からは嘘という感じは感じられないというのは伝わる。

 

「お前は誰だ?」

「名乗るの遅れた 哪吒 今は仲間」

 

仲間と言われても警戒は解けない。しかし甘寧は兵馬妖によって黄祖の元へと連れていかれる途中であった。

その兵馬妖を破壊したのが目の前の哪吒と言う人物だ。少なくとも黄祖の仲間ではない事は理解した。

 

「戻るぞ 甘寧」

「……まだ信用できないが敵ではなさそうだな」

 

甘寧が立ち上がり、哪吒に近づこうとした時にここには居なかった者の声が響く。

 

「おいおい兵馬妖がやられてるじゃないか。所詮は土人形ってか」

「「!?」」

 

声が聞こえた方を見ると1人の男が立っていた。装備品を見ると黄祖軍の兵士だ。

 

「誰だ!?」

「言えないねえ」

「妖魔か」

 

哪吒はすぐさま正体が分かった。それは黄祖の兵士から人間ではなく妖怪の気配しかしないから哪吒はすぐさま分かったのである。

外側は人間だが中身は妖怪。それが目の前にいる存在だ。

 

「おおっと、よく分かったな。こりゃますます言えない。名前を言うとバレちまうからな…弱点やあれやそれが」

「妖怪だと…妖怪がなぜ黄祖の兵士なんかに?」

「そりゃあこれでも一応、黄祖の部下やってるからな」

 

妖怪が黄祖軍に所属している。それを聞いて甘寧は信じられなかった。

この外史という世界では妖怪や龍と言った存在が認知されている。まだ幻想種が存在しているのだ。

それを信じるか信じないかは人それぞれである。甘寧は信じていない派であった。だから目の前にいる黄祖軍の兵士が妖怪だとは信じられなかった。

 

(いや、動く土人形が存在するくらいだからな。それに前に遭遇したあの大きな…)

「取り合えず甘寧って人間は逃がすわけにはいかないから」

 

黄祖の兵士が地面に手を置いた瞬間に甘寧の周囲に土塀が出現した。更に四方を取り囲んで甘寧を脱出不可能にしたのだ。

 

「何だこれは!?」

「これでよし。後は…」

 

ジロリと哪吒を見る。

 

「もう1人の方は食べてもいいよな」

 

腹を空かせていて獲物を見つけたかのようにニンマリと笑う黄祖の兵士。それに対して哪吒は冷めた目で相手を見ている。

妖怪、妖、妖魔。どれも同じ意味の言葉であるが、それらは哪吒が倒してきた存在たちだ。

相手が妖魔で敵ならば特に遠慮なんてものは最初から無い。

 

「その身体どうした」

「この身体はもらったのさ。あのよく分からない道士からな。禍斗のやつは人間の方に取り込まれたがオレは取り込まれてたまるかってんだ。このとおりこの身体の持ち主の人格は消したから、この身体はもうオレのもんさ」

 

禍斗は確か俵藤太と周泰たちが倒した妖怪だ。話によると身体に妖怪を取り込んでいたが人格は人間の方だったらしい。しかし目の前にいる黄祖の兵士は完全に妖怪に人格を奪われたようである。

本当に人間の皮を被った妖怪というわけだ。

 

「倒す」

「食われるの間違いさ」

 

また手を地面に置いたら哪吒の四方に土塀が出現して囲む。

 

「逃げ場は無いぞ。飛び越えようとしても無駄だ。よじ登ろうとしても無駄だ」

 

哪吒を囲む土塀はどんどん高く盛りあがって上まで蓋をしてしまう。

これで逃げられないと確信した黄祖軍の兵士の皮を被った妖怪。ニヤリと笑うのが我慢出来ない。

 

「これでもう掌の中ってことだ。早速食っちまうのも悪くないが少しは楽しませてくれ」

 

モコモコと土が盛り上がって黄祖軍の兵士の皮を被った妖怪を飲み込むように纏わり着いて怪物のような姿になる。見た目はまさに土の怪物だ。その土はまるで増えていくように盛り上がっている。

土で出来た怪物の腕は太く大きく硬い。こんな物で殴られたらただでは済まない。

狙うは土塀で囲まれて逃げ場の無い哪吒。

 

「1発で終わったら食ってやる。耐えたら何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返してやるからな!!」

 

土で出来た大きく太く硬い腕が振り上げられ、殴りかかった。

グシャリと潰され、壊された音が響いた。

 

「おい、大丈夫なのか!?」

 

四方を土塀で囲まれた甘寧には外の様子が分からない。だが何かが崩れて壊れた音が響いたのは嫌な程まで聞こえた。

想像してしまうのは最悪の結果。知らない人物であったが助けてくれた恩人がむざむざ殺されてしまうのは武人として何もできないのが我慢できない。

 

「くそっ、剣さえあれば!?」

 

拳では硬い土塀は壊せない。よじ登ろうとしても土塀が動いて登るの邪魔してくる。

土塀は自由自在に作られ、動かすことが可能。よじ登ろうとしても脱出させないように邪魔してくるのだ。

 

「おのれ!!」

 

甘寧が拳を土塀に叩き込む。

 

「問題無い 甘寧」

「なに?」

 

最悪の結果を考えていたが、その予想は大外れであると分かる声が聞こえた。

 

「無事か!?」

「無事 すぐに終わらせる ちょっと待ってて」

 

潰されたかと思っていた哪吒は傷一つ無く無事。逆に土で出来た大きく太く硬い腕が破壊されたのだ。

 

「なんだと!?」

「正体分かった 鬼打牆だな」

「オレの正体を!?」

「それに息壌 土の怪物 その身体に2つ 妖魔がいる」

 

正体は鬼打牆という妖怪と息壌という土の怪物が混ざった存在。

中国妖怪で土塀を作るというのですぐに正体が分かったのだ。そして鬼打牆が纏っている土を見て、その土が自ら増殖する土の怪物とすぐに分かったのである。

哪吒の記憶にはどちらも知っていた妖怪である。

 

「正体 分かった あとは倒すだけ!!」

 

どんな妖怪か分からなかったから迂闊に出ることが出来なかったが、分かればこっちのものだ。

妖怪によっては倒し方が存在する。普通に戦っても倒せない妖怪が存在するので相手の出方と正体を見極める時間が必要だったのだ。

だがもう分かったので容赦はしなくてもいい。火尖槍を構えて相手を鋭く見る。

 

「正体が分かったからって有利になったと思うな!!」

 

土が増幅するように盛り上がって鬼打牆の身体により纏わりついて、より大きな土の怪物になる。それはまるでゴーレムのような姿である。

 

「息壌 土の怪物 無限増殖する」

「おおおおおお!!」

「鬼打牆 土塀を作り 行く手を阻む」

「死ね!!」

 

迫りくる土の腕を躱して身軽にその土の腕に乗る。そのまま走り、土の怪物の顔に埋まっている鬼打牆に火尖槍を叩き込んだ。

打ち込んだ反動でくるくると華麗に回転しながら地面に着地する。

 

「甘寧 武器無くて 脱出できない?」

 

甘寧が閉じ込まれている土塀に声をかける。

 

「あ、ああ」

「鬼打牆の土塀 小便かければ破れる」

「出来るかぁ!?」

 

鬼打牆の土塀は小便をかければ破る事が出来ると言われている。だが甘寧がそんな事を出来るわけがない。

 

「ならやっぱり待ってろ すぐ終わる」

「おのれ人間ごときが。妖怪に食われる餌に過ぎない矮小な存在のくせにぃ!!」

 

鬼打牆が息壌をより増殖させて土砂の流れの如く襲い掛かる。

そんな状況でも冷静なままの哪吒。目を開いてある一点を見通す。

 

「そこか」

 

風火輪を全開にして放出と同時に突撃。火尖槍を突き出し、回転しながら突貫した。

 

「てええええええい!!」

 

土砂の流れの中に突貫して鬼打牆を土砂の中から外へと突き出して貫いた。

 

「ぐおおおおおああああああああ!?」

「一応言っておく 人間じゃない」

「な、何だそ…れ。お前…人間じゃな…い?」

 

火尖槍に貫かれた鬼打牆は意味も分からず塵となって消えた。

完全に消滅したのを確認して火尖槍を下ろした。

 

「終わった 甘寧」

 

鬼打牆が消えた事により甘寧を閉じ込めていた土塀は崩れた。

 

「な、何があったんだ?」

 

どんな戦いがあったか分からないが目の前にいる哪吒が無事でおり、鬼打牆がいない事から危機は去ったというのだけは分かった。

 

「建業 戻る 甘寧」

「…状況がいまいち整理できん」

「その前に 息壌片づける 骨が折れる」

 

散らばった息壌を見て「ふう」っとため息を吐きながらせっせと片付ける哪吒であった。

 

「片づけ 終わったら 飛ぶ」

「飛ぶ!?」

 

 

135

 

 

建業にて。

 

「帰った」

 

建業に帰ってきた哪吒と甘寧。哪吒によって空中散歩ではなく空中滑走の如く帰って来たので甘寧はちょっと疲れ気味。

今まで人生で体験しない事ばかりで肉体的にも精神的にも疲れが出てしまうが主である孫権を見て全て忘れた。

 

「思春!!」

「蓮華様!!」

 

孫呉の中でも一、二を争う程の主従関係の2人。孫権は甘寧を心配し、甘寧は孫権を心配し合う2人である。

 

「無事で良かった」

「この思春…蓮華様を守れず連れ去られてしまうという失態。情けない限りです」

「ううん。思春が無事で本当に良かったわ」

 

着々と孫呉に必要な重要人物たちが集まりつつある。孫尚香は全員無事と言っていたが、まさにその通りになりつつある。

それが一番である。

 

「さて、感動の再会も良いが…此方の紹介もしておきたいのだが良いかね?」

 

諸葛孔明が前に出ると甘寧が孫権の前に出る。

 

「甘寧殿はまだ拙者たちの事は分からんからな」

 

甘寧以外は既に諸葛孔明たちとの紹介は終えている。

 

「思春、彼らは私たちの仲間よ」

「そうなのですか蓮華様。まあ、あの者が私を助けてくれた事は感謝しています」

「名前 哪吒 よろしく」

「ああ、よろしく頼む」

 

哪吒を始めに自己紹介をしていく。

思春には孫権から諸葛孔明たちについて簡単に説明される。彼らの目的は太平妖術の書を追っている集団だ。

その追っている最中、彼らは兵馬妖や禍斗に鬼打牆などの妖魔と戦うスペシャリストであるとも説明した。今の黄祖軍と戦うとして頼もしい仲間を孫呉は手にいれたのだ。

 

「今の黄祖軍は普通では無いわ。ならあなたたちのような者たちが必要よ」

「シャオが見つけて引き込んだんだよ!!」

「見つけたというよりかは遭遇したの間違いじゃがな」

 

孫尚香の言葉に追加で武則天が言っておくのであった。

 

「太平妖術の書…それを持つ道士。それが于吉だ」

「それは知ってるわ。それにしても貴方たち本当に天の御遣いと関係無いの?」

「無いな」

 

嘘であり、嘘ではない。

この外史の『天の御遣い』に関して言えば本当に関係は無い。だが何故か天の御遣いになってしまった藤丸立香は知っている。

諸葛孔明は天の御遣いと藤丸立香を一緒にしないで答えたのだ。今この場で関係無いと言ったのは本来の『天の御遣い』に対してである。

 

「天の御遣いは大陸の混乱を鎮めるとか言うが、その天の御遣いの目的と我らの目的が似ていたというだけだろう」

「そ、そうなのね」

 

孫権は少し残念そうな顔を一瞬だけした。

 

「敵が同じ場所にいる。だから手を組んだと言うことか」

 

すぐさま甘寧は理解する。彼女はキレ者だから把握が早いのである。

 

「思春、疲れているところ悪いけど早速これからについて話をしようと思ってるわ。大丈夫かしら。疲れているなら休んでもーー」

「いえ、私は大丈夫です。これからの孫呉に大事な軍議に出席しないわけにはいきませんので」

「助かるわ。この軍議が終わったらゆっくり休んでね」

 

軍議が始まる。内容は黄祖軍打倒である。

この段階でやっとまともに黄祖軍及び于吉打倒への道も見えてきた。

今までは仲間との合流がメインであって黄祖との戦いはまだ先の話であった。しかし、今は孫呉の将たちは集まり、兵士たちも集まってきている。

孫呉もバラバラだったピースが1つになろうとしているのだ。

 

「戦力もまだ少ないですが戦えない程ではありませんね」

「まともに正面から戦うのは得策ではありませんね~」

 

黄祖軍には精鋭の黄祖の兵士たちに兵馬妖。更に于吉の手で妖怪まで使っている。もう黄祖軍は魑魅魍魎の軍団になっているのだ。黄祖は孫権たちからしていれば仇敵だが魑魅魍魎の軍団になったのが信じられない。

確かに黄祖を知る者からすれば妖怪と言った怪しいモノまで手を出したなんて考えられない。だが魑魅魍魎の軍団にしたのは間違いなく于吉だ。

 

「正直に申しますと黄祖の奴が妖怪なんて怪しげなのに手を出すとは思えません」

 

この中で黄祖の事をよく知るのは甘寧だ。彼女の知る黄祖には妖怪なんてモノを利用するなんて思えない。

 

「まあ、于吉ちゃんが黄祖ちゃんを唆したってのが一番考えられるわねぇん」

 

もしかしたら黄祖は利用できるモノは何でも利用する人物かもしれない。しかし違うと言うのならば于吉の口車に乗らされた可能性も大いにある。

于吉は言葉巧みに人を操る技術も持っているし、さらに人には無い力も操れる。そういう人物ならどんな狡猾な人物でも口車に乗せられそうである。

 

(于吉は油断できんからな。こちらが油断しなくともあ奴はその隙間を掻い潜ってくるような人物だからのう)

 

卑弥呼は于吉を敵として高く警戒しながら評価している。だからこそ細心の注意を払って于吉がどういう行動を起こすか予測し続けているのだ。

 

「で、これからどーするの?」

 

これからの方針について。玄奘三蔵があっさりと聞く。

 

「黄祖の打倒を目指したいけど…姉様たちが無事か気になるわ」

 

まだ合流できていない孫呉の将は孫策に周瑜、黄蓋に太史慈の4人だ。この4人が無事ならば救出したいところである。

 

「その孫策たちは?」

「私たちを逃がすために殿を…」

 

本来ならば孫策が殿をするべきではない。だが殿を志願し孫権を逃がしたのだ。

どんな考えをしたか分からないが、孫策は自分よりも孫権を逃がしたと言うのが重要だ。孫権が生き残るべきと考えたのだ。

 

「最悪の考えだと討ち取られたか」

「ちょっと!!」

「最悪な結果の場合だ。他に可能性があるなら…孫策は黄祖に捕らえられたというのがある。もしくは何とか戦場から抜け出せたが戻れない理由があるとかだろう」

 

まだ孫策達がどうなったか分からない。分からないからこそ、まだ孫策たちは無事かもしれないという希望が出てくるのだ。

だからこそ孫権たちがすべきことは孫策たちを助けることだ。

 

「孫策たちの捜索及び救出。そして黄祖の打倒。これは同時進行だな」

 

孫策たちがいる可能性が高い場所は黄祖がいる場所。

これから戦いの準備が出来次第向かうのは決まっている。それは誰もが考えていることだ。

 

「まずどう戦うかが問題よね。普通に戦っても勝てないし…」

 

何度も言うが黄祖軍の戦力は精鋭の兵士たちに兵馬妖の軍団。そして妖怪の力まで操る道士。まさに魑魅魍魎の軍団である。

対する孫呉の軍はやっと将と兵士たちが合流したばかりであり、最高戦力と言えない。

比べてもどちらが勝ちが見えてるなんて誰でも分かる。

 

「小蓮様が引きいれてくれた諸葛孔明さんたちのおかげで質のある戦士は増えてました~。そこが新たな強みでもありますね」

「だが戦は数が基本だ」

「分かってますよ孔明さんったら。そんなの基本中の基本なんですから言われなくても分かってます~」

「質が良くても数で押されれば不利だわ。そこをどうするかが問題ね」

 

程普の言った事が黄祖打倒の問題点である。

 

「そこで考えたのがこの建業を奪還した時と同じように黄祖を暗殺するのが一番可能性がありますね~」

「暗殺か」

「暗殺と言ってもコソコソしながらではありません。私たちの今ある戦力を投入しての暗殺です」

「どういうこと?」

 

陸遜の暗殺作戦とは大がかりな作戦だ。

黄祖を暗殺するチームと暗殺するための囮役のため兵馬妖と黄祖軍の兵士を相手するチームに分かれる。

兵馬妖と黄祖の兵士たちの軍と戦っている隙に暗殺チームが黄祖の元に潜り込んで叩くという作戦だ。

まるで正面から暗殺するような作戦である。だがこれが黄祖軍に勝てる可能性のある作戦なのだ。

 

「確かに大がかりだ。黄祖の暗殺のためだけに孫呉の全軍を囮にするなんてな」

「…だけどそれが今の私たちに出来る策なんですね」

 

戦力を補充してまともに戦いたくとも時間が無いのだ。逆に黄祖に時間を与えてしまえば向こうから攻めてくるのは間違いない。

この作戦は先手を打たねば勝利できない。守りではなく攻めに転じなければならないのだ。

 

「恐らく建業を奪還されたのはすぐに黄祖の耳に入る。そうなれば黄祖がどう出るか…無論、こちらの息の根を止めに攻めてくるじゃろうな」

 

仕留めたと思っていた獣がまだ生きていた。そうなれば憂いを無くすためにすぐに仕留めに動くのが定石だ。

 

「だから此方から攻めるわ」

 

方針は決まる。

 

「だけどやはり兵の数が心もとなさすぎるわよね」

「……当てがない事が無くはないけどですけども~」

 

陸遜が「う~ん。どうしようかな…」みたいな感じで歯切れの悪い提案を出そうとしていた。それに程普たちはすぐに彼女が何を考えたかすぐに理解。

 

「何だアテがあるのか。それを使うべきだぞ。こんな状況なら使えるモノは使っていくべきだ」

「いや…ちょっとねえ」

「何だ?」

 

諸葛孔明たちの方はよく分かっていない。

彼女たちの方とはいうと、「どうするか。大丈夫かな?」みたいに目配せをしている始末だ。

何をそんなに迷っているというのか本当に分からない。

 

「どうしたのよ?」

「そうじゃそうじゃ。黙ってないでどんなアテか言ってみよ」

 

武則天と玄奘三蔵も気になるのか、彼女たちの言うアテの説明を求めた。それは諸葛孔明たちもそうである。

しかし貂蝉と卑弥呼はそのアテとやら知っているのか「もしかしてぇん」みたいな顔をしていた。

 

「そのアテってのは袁術の事なんだよねー」

「袁術」

 

その名前も三国志で登場する武将の1人である。

 

「袁術か」

「□□(袁術には蜂蜜でも与えてろ)」

 

袁家の袁術。

名家というステータスは伊達ではない。財力があり、集まる人の数は馬鹿に出来ない。

財力に兵の数だけなら孫呉にも負けないほどである。

 

「兵の数は揃ってるけど兵の質はまったく無いけどね。まあ上の人間がアレじゃね」

「ただの我儘な小さな餓鬼よね」

「あれでよく南陽を治められるものじゃ」

「頭悪い癖に悪知恵だけは天賦の才を発揮しますよね~」

「その袁術の我儘をよく聞いてたものですよね…」

(こいつら袁術に対してボロクソ言うな…)

 

袁術が彼女たちに恨み事をさせるようなことでもしたのだろうと取り合えず思っておく。

だがそんな袁術の手でも借りないといけない状況なのだから文句は置いておいてもらいたい。

 

「力を貸してもらえるかしら?」

「そこは大丈夫だと思いますよ~。黄祖がもしも私たちを倒せば次の狙いはおのずと袁術に定まりますから」

 

交渉の材料としては袁術にとっての憂いを消す事。

もし力を貸さなかったら孫呉は黄祖に滅ぼされ、次に狙われるのは袁術だと伝えるのだ。これはもはや交渉というよりかは脅しに近いかもしれない。

断ろうと袁術がしたとしても黄祖が力を拡大するのならばいずれ袁術の南陽を狙うのは確かである。その部分をより強く袁術に伝えれば国を治める者ならば分かるはずである。

 

「袁術に黄祖に対して危機感を募らせ、同じ敵として認識させて兵を出してもらう魂胆か」

「はい。袁術さんのところにはある程度は黄祖についての情報は流れてると思いますし多少は危機感はあると思います」

 

今の黄祖はおそらくこの大陸でも異様な軍隊になりつつある。この異様で危険性は誰もが分かるはずだ。

 

「流石の袁術も今の黄祖の脅威は分かってると思いたいわね」

「思ってなかったらただの馬鹿でしょ」

「でも袁術ですし…」

「「「はあ…」」」

(本当に袁術に対してボロクソ言うなこいつら…)

 

何故ここまで袁術の評価が低いのか分からないがきっと彼女たちと袁術の間には色々と因縁があるのだろうと思っておくのであった。

 

「…まあ、袁術がどんな奴か知らんが交渉には私も立ち会っても構わないか?」

「もちろんです~。孔明さんも来ていただけると助かりますから」

 

今回の戦いに関してはよく知るカルデア側も孫呉側も説明すれば袁術もよく分かるはずだ。この交渉で力を貸してもらう事は絶対に必要である。

それが因縁のある袁術相手であろうとも。

 

(因縁というか嫌ってるというか…袁術は本当に彼女たちに何をしたんだ?)

 

袁術との交渉はどうなるかと考え込む諸葛孔明。相手は陸遜たちが頭を悩ませるような人物である。

もしかしたら難しい交渉になるかもしれないと考えて向かおうと決めた。だが、違う意味で諸葛孔明も頭を悩ませる人物であると後日知ることになる。

 

(袁術ちゃんね。こっちの袁術ちゃんは元気かしらん?)

 

その袁術を知ってる貂蝉は特に諸葛孔明には説明しないのであった。

 

 

136

 

 

「黄祖様、報告です」

 

1人の男が黄祖に跪きながら報告を始める。

 

「あいつが…禍斗と鬼打牆がやられました」

「…そうか」

 

どこか悲しげに報告を聞いて呟いた黄祖。

 

「禍斗は…あいつはお前と同じ我が軍の将として長く働いてくれた。彼が抜けるのは痛いな。そして鬼打牆に肉体を渡した彼も無念だろう」

「彼らの仇は私がとります」

 

男は黄祖軍の将である。禍斗を名乗る前の人間は彼と同じ黄祖軍の将であり、一緒に黄祖に仕えてきた戦友だ。

そして鬼打牆に肉体を奪われた人間は彼の部下である。男は戦友と部下を亡き者とした生き残りの孫呉の者たちを許さない。

 

「ああ、頼むぞ…そうだ、于吉は何処だ?」

「いえ、私は見ておりません」

「奴に文句でも言わなければ気が済まない。私の部下を唆し、妖魔の器にさせたくせに…何が誰にも負けない力を与えてやったというのだ」

 

黄祖に静かな怒りが見える。彼女は不気味で侮れなく、不思議な魅力のある人物だ。

そんな彼女に黄祖軍の兵士たちは忠誠を誓っているので部下たちからの人望も相当高い。ついてきてくれる部下に黄祖も感謝している。

だからこそ于吉によって妖魔の器にされた部下の死は悲しいのだ。そしてその怒りの矛先は孫呉の者たちと于吉だ。

 

「于吉が私を救ってくれた事は感謝している…まあ、この身体に関しては言いたい事はあるがな。しかし私が生死の境を彷徨っている間に部下を好き勝手に弄繰り回したのは許せない」

 

于吉はある事情で黄祖の命を救った。そしてその間に于吉は黄祖の部下たちを唆して妖魔を人間の身体に植え込み実験を行っていたのだ。

 

「ですが私は力を得ました。黄祖様のために」

「それは構わない。お前たちの忠誠には私は誇れるものだ。だが于吉などと言う道士に部下を好き勝手にされるのが癪なのだ。私の軍を魑魅魍魎の軍団にするつもりか…まったく」

 

救ってくれたことに感謝しているが、だからと言って軍を、部下を好き勝手にするのは許した覚えは無いのだ。

 

「見つけ次第、私の元に呼び出せ」

「はっ!!」

 

男はその場から出ていく。その場に残ったのは黄祖。だがこの場にいたのは黄祖と部下の男だけではなかった。

 

「……どうやら孫家はまだ死んでいないようだな。なあ孫策よ」

 

黄祖の視線の先には縛られた孫策はいる。彼女は死んでいなかったのだ。

彼女の目は猛獣のように黄祖を睨みつける。

 

「どれだけ痛めつけようが目は死なないな。やはり孫堅の娘だけはある」

「黄祖…!!」

「情報によると呉の重鎮や将たちは生き残ったようだぞ。今のお前たちのようにな。いや、お前たちに関しては生かしているの間違いか…太史慈の約束でな」

 

孫策の他に周瑜に黄蓋も生きているのだ。

 

「だが他の奴らは殺す。何せ生き残った奴らがやることなぞ分かってるからな」

「…っ」

「お前たちを助け出し、私を殺そうとしているだろうなぁ…そこで待っていろ孫策。お前の妹たちの首を持ってくるからな」

 

ニヤァと不気味そうな顔で笑って孫策を見る黄祖であった。




読んでくれてありがとうございました。
次回は2週間後くらいの更新予定です。早く更新できたらします。

さて、今回も敵キャラで妖怪と組み合わせたオリジナルキャラを出しました。
これからもちょくちょくと出していこうと思います。
現在の孫呉sideも徐々に力を取り戻していってます。現在sideの決着も近づいてきた感じですね。
ですが、ここでまた過去の孫呉sideに戻ります。
次回は恋姫革命『孫呉の血脈』の見どころの1つである孫権と甘寧の戦いの物語になります。

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