Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
1154
前回までのあらすじ。
炎蓮と早い再会になりそう。
「孫堅さん!!」
「孫堅ちゃん!!」
「よう、久しぶりだな。オレがしばらく留守にしている間にまた馬鹿どもが湧いちまったか?」
炎蓮が呉の街に帰って来た。
それだけで呉の民たちは嬉しさ爆発だ。それだけ彼女が民たちから慕われているという事だ。
「そ、そうなんだよ。アイツら鉄弓党っていうんだ。本当にタチの悪い連中でさぁ」
「鉄弓党か」
鉄弓党。
その言葉に聞き覚えが無い。三国志を知る藤丸立香も記憶にない単語だ。
「孫堅さん早く逃げたほうがいいよ。あいつらの大将はとんでもなく強いんだ」
「お頭ってヤツか?」
「そいつとはまた別に姐さんってのがいるんだ。その女が恐ろしい強さなんだよ」
話を少し聞くに侠客たちに大将はいるようだが、実質的な実権を握っている者が他にいる。
「ほ~う、そりゃあぜひとも一度、姐さんとやらの顔を拝んでおきてえなァ」
「孫堅さん!!」
「本当に呑気なんだから…アンタがいくら強くたって、向こうは人数もいるんだし」
「何匹集まろうが猿は猿だよ」
大きな海賊団程でなければ今の炎蓮だけでも解決出来ると自信満々に言っている。
「姐さんこっちだ」
「お?」
「おら、早速おいでなすった!!」
追い払った侠客たちがもう戻って来た。
先ほどまで話題に挙がった「姐さん」という人物を引き連れて。
「おい、テメーらは離れていろ。ちぃと面倒なコトになるかもしれねえからよ」
「孫堅ちゃん、気を付けてね。姐さんってのは本当に強いから」
「ああ」
呉の民たち誰もが「強い」というのであれば警戒するに越したことはない。
世の中には予想外な強さを持つ者はいくらでもいる。それこそ最近だと出会った旅人の中には予想以上の実力者がいたのだから。
「姐さん、アイツです!!」
「おい、そこの女!!」
「よう。アンタが姐さんかい?」
「ああ?」
「ハッハッ、こいつはケッサクだぜ。猿共の大将が酔っ払いのババアとはな」
民たちが「強い強い」と話題に上げる「姐さん」を見て炎蓮は笑う。そして遠くで見ていた藤丸立香はその「姐さん」を見て「あ」と呟いた。
その「姐さん」の正体が祭であったのだから。
「あの人は祭さんだ」
若い頃の祭。
彼女はもともと荊州零陵の出身で実家で兵学を修めた後、役人として呉県に赴任していたのだ。
「鉄弓党って祭さんが結成させたんだ」
何はともあれ探していた人物を意外な状況で発見するのであった。
「な、なんじゃあ。おい小娘、誰に向かって口をきいておるのじゃ」
「テメーだよ酔っ払いババア」
「ババアと申すな。儂はまだそんな歳ではないわ。酒は飲んどるが酔っ払っておらん」
酒を飲むには飲んでいるようだ。
「昼間から真っ赤な顔してよく言うぜ」
「ぐぬぬ…おい、貴様。うちの若い者を可愛がってくれたらしいの?」
「貴様貴様って、テメーは何様なんだよ?」
「儂の名は黄蓋じゃ。県令様の腹心にして、この街を仕切っておる。いわば呉の顔役よ!!」
「県令の腹心? なんだ郭雄のオッサンの部下だったのか」
またも知り合いの名前が出た。心の中で「懐かしいなぁおい」と呟く。そして炎蓮は祭の脅威度を下げていた。
祭の姿を見て炎蓮は「あ、コイツには勝てるな」と思ったからだ。祭の実力は周囲にいる侠客たちよりも圧倒的に上だが炎蓮にとって脅威では無かった。
そもそもこれから喧嘩が起こるかもしれないという状況で酒飲んで顔を真っ赤にしてくる奴は脅威でも何も無い。まだ海賊頭領の方が恐ろしいと思えるものだ。
「貴様、郭雄殿を存じておるのか?」
「はぁぁ…しょーがねえな」
ガシガシと頭を掻く炎蓮。
「分かったよ。あのオッサンに免じて今日のところは勘弁してやる。ほら、去ね。さっさと消えてなくなれ」
シッシッと手を振る。
「黙れい。餓鬼が偉そうに申すでないわ。何故貴様は郭雄殿を知っておるのか。貴様が何者か名を名乗ってみい!!」
「オレは孫堅だよ。名前くらいは聞いたことあンだろ?」
「なっ!?」
炎蓮の名前を聞いて祭は酔いが覚めたかのように目を見開いた。
「そ、孫堅って」
「呉の狂った虎…」
「ほ…ほ、ほう……貴様が孫堅であったか」
彼女たちの動揺を見るになかなか恐ろしく広まっている「狂った虎」という武勇。尤も炎蓮の成した事は尾ひれが付いているとはいえ、ほぼ噂通りだ。
「だったらどうなんだ?」
「けッ…孫堅だろうとなんだろうと姐さんの敵じゃねえぜ」
「おう、姐さん。いっちょやったってください!!」
恐れている侠客たちだが逃げ出さない。彼らには祭がついているからだ。
それほど頼りにされている証拠から祭は侠客たちを本当にまとめているようだ。
「ふ、ふん…やっても良いのじゃがな。一応、孫堅は県令殿の前の部下じゃ。いわば儂の先輩に当たる……まあ、今日のところはそこに免じて」
「ハーッハッハッハ!!」
「な、何がおかしいのじゃ?」
「いいや、なんでもねえよ。んじゃ、気を付けて帰りな」
ニヤニヤと笑う炎蓮。
彼女は完全に祭に負けないと判断。戦っても勝てると確実に思った。
祭は隠しているようだが炎蓮を恐れているのが分かったからである。
「クッ……おい、行くぞ!!」
「へい!!」
「おい孫堅、命拾いしたなぁ?」
「姐さんの気が変わらないうちに早く街を出た方がいいぜ?」
侠客たちは炎蓮の実力を認識出来ていない。祭だけが炎蓮の実力を見抜いてる。
「つまらんことを申すでない…!!」
小さくそう言って祭と侠客達は去って行った。
「アレが今の郭雄殿の部下なのか。確かに実力はあるようだが………ん?」
炎蓮の視界に藤丸立香と太歳星君を捉えた。
「あ」
藤丸立香も炎蓮が己を捉えたと理解した。
「イェンイェン~!!」
太歳星君が手を振ったと同時に炎蓮が駆け出した。
片腕に力を込めて彼女は藤丸立香にラリアットを食らわせたのであった。
「テメーは今まで何処に行ってやがった!!」
「やっぱ親子だっ!?」
「あンだって!?」
孫家との再会はラリアットが常識だと思いたくない今日この頃。
1155
視界に広がるは青い空。
青い空は何故かずっと見ていられる。大きな変化があるわけではないが落ち着くのだ。
そんな考えをしているがヒョイと炎蓮の顔が現れる。
「久しぶりだな」
「久しぶりです炎蓮さん」
藤丸立香は炎蓮にラリアットを喰らい仰向けで倒れている状況だ。
「ますたー大丈夫か?」
「大丈夫。出会いがしらのラリアットは慣れてる」
「それは大丈夫じゃない気がするぞ」
出会いがしらラリアットは慣れるものではない。
「太歳星君も久しぶりだな」
「イェンイェン久しぶりー!!」
太歳星君はニコニコ笑顔。その元気さに炎蓮は彼の頭を優しく撫でる。
未来では小蓮に甘いというが子供に優しいのかもしれない。
「ほれ」
炎蓮が手を差し出してくれたで、その手を掴んで立ち上がる。
「お前には言いたい事が山ほどあるぞ」
「え、なに?」
「勝手に何処かに消えやがって…海賊退治の功績が全部オレに回って来たんだぞ」
「良い事じゃないの?」
「テメーらの活躍もあってこそだろうが。オレだけの活躍にさせんな」
海賊防衛戦は炎蓮だけの活躍で勝ったわけではない。
藤丸立香や太歳星君たちのおかげも含めてこそだ。しかし藤丸立香たちは勝手に消えて、強制的に功績が全て炎蓮のものとなった。
それが炎蓮にとって許せなかったのだ。
「でも炎蓮さんの目標の為には功績もとい昇進が必要でしょ?」
「そうだが功績を独り占めしたみてえで嫌なんだよ」
炎蓮には炎蓮のやり方があるという事だ。
「太公望や他の2人もいるか?」
「いるけど今は近くにいない」
「そいつらにも一言いわねえと気が済まねえ」
丁度良くいない太公望た黄飛虎たち。
「………気が済まないなら海賊の件は貸しって事でいい?」
「チッ、それでいいだろ」
炎蓮として借りを作りっぱなしは御免被る。故に藤丸立香から「貸し1つ」という言葉を聞きたかっただけである。
既に功績を強制的に独り占めさせられ、昇進させられた。もうどうしたって元には戻せないのなら藤丸立香たちに「貸し」を渡さないと気が済まないだけである。
「立香。何か困ったら助けてやるよ」
「その時が来たら頼むよ」
ニッと笑う炎蓮に藤丸立香も笑うのであった。
「ところで立香。お前はどうしてここにいんだ。旅は終えたのか?」
「いや、旅はまだまだ続く。また呉に足を運んだだけだよ」
「ふーん。で、何しに来たんだ?」
「近くを寄ったから炎蓮さんや張昭さんに顔でも出そうかと」
「なんだ。オレと同じか」
炎蓮もまた雷火に会いに来たのだ。
それならと藤丸立香と太歳星君は炎蓮について行って雷火の屋敷に向かうのであった。
「おーい、邪魔するぞ」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔するぞー!!」
3人仲良く雷火の屋敷に突撃。
「そ、孫堅!?」
「なんじゃ。何故お主がここにおる?」
「それと藤丸に太歳星君ではないか。あの時は急に居なくなったから探したのだぞ」
「おお、2人とも久しぶりだな」
雷火の屋敷にいるは本人と郭雄であった。
「よう、張昭。郭雄殿もいたのか。こいつは丁度良かったぜ」
「お久しぶりです。張昭さん、郭雄さん」
「はんなまー!!」
2人は3人の再会に驚くしかなかった。
藤丸立香と太歳星君たちとは久々の再会で積もる話もある。しかし驚いたのは炎蓮がここにいる理由だ。
その疑問を投げかけたのは郭雄であった。
「孫堅…お前、塩城で県丞を務めているのではなかったのか?」
海賊防衛戦での功績含めて塩城の県丞となっていたのだ。
「ああ。ありゃあクビになっちまったよ」
「クビ!?」
「クビだと? お主何をやらかしたのじゃ?」
「県令を殴っちまったんだ。ついカーッとなってな」
「なっ……」
せっかく昇進したのに自らクビになったのだ。
藤丸立香は「まさか独り占めの功績が嫌だから自らクビになったのか?」と言ったが炎蓮は首を振って否定した。
「県令を殴ったと…お、お主は阿呆か。せっかく出世して少しはまともな大人になったかと思うたのに」
「ろくでもねえ野郎だったんだよ。あんなクソは滅多にいねえぜ」
クビにさせられたのではなく、自らクビになったのだ。ソコを間違えてはいけない。
「いや、しかし殴るとは…」
「アンタさえ殴らなかったオレが手を出したんだ。どれほどのクソ野郎かおのずと分かんだろ?」
「ぐぐッ…それはどういう意味だ!?」
「ハッハッハッハ!!」
郭雄は色々と言い返したいが炎蓮がクビになった理由を察した。彼だけでなく、雷火や藤丸立香も察した。
この時代であっても腐敗している役人がいるという事である。
「やれやれ、成長しておらんのぉ。して、わしの屋敷に何の用で参ったのじゃ?」
「ああ、呉の街の近状が聞きたくてな。ついさっき市場でごろつきと揉めたんだよ。鉄弓党とかいったな」
「うっ…」
「ふん、あ奴らか」
「鉄弓党」という単語を聞いて郭雄は苦虫を嚙み潰したような顔し、雷火はため息を吐いた。
「郭雄殿。あの黄蓋ってぇのはアンタの部下なんスか?」
「あ、ああ。そうだ」
「今、そのことで郭雄殿からも相談を受けておったのじゃ。孫堅、お主は黄蓋にあったのじゃな?」
2人のたった少しの会話で「鉄弓党」が問題集団というのは理解できた。そもそも実物を見ていたので問題集団なのは明らかである。
「ああ。役人どころかカタギにも見えねえ。酔っ払いのババアだったぜ」
「それはお主とて同じじゃろうが」
「ハッハ、違いねえ」
「炎蓮さんと黄蓋さんは同類か」
「一緒にすんじゃねえ立香」
「今お主自分で認めたではないか」
「で、黄蓋はどういうヤツなんだ?」
きっと2人は相性が良く仲良くなれる。尤も藤丸立香は未来で炎蓮と祭の仲が良いのは知っているので当然なのだが。
「ああ見えて黄蓋は古今無双の達人での。おまけにゴロツキどもを惹き付ける不思議な魅力を持った女子なのじゃ」
「確かに侠客達に本当に慕われてたね」
祭もある種のカリスマ性があるという事である。
「お主が塩城へ栄転した後、呉の街にはまた多くのならず者が入ってきての。郭雄殿にはそれを抑えられなかった」
「面目次第もございません」
またも苦虫を嚙み潰したような顔をする郭雄。己の武力と威厳の無さに自分自身で嫌になるというものだ。
「呉の街は荒れ放題じゃ。しかし、あの黄蓋が呉に赴任してからは状況が一変した」
「あのババアが侠や賊共の上に君臨したってぇのか?」
「黄蓋さんって強いのかー?」
「やるなあ黄蓋さん」
たった1人で賊や侠客達をぶちのめして己の部下にする。ちょっと腕に覚えがある程度では出来ない。
「そういうことじゃな。かつてお主はならず者を一人残らず呉の街から追い払ったが……あの黄蓋は全て自分の部下としおった。ある意味、お主よりも賢いやり方と言えよう」
炎蓮は個人の武で賊たちを潰したかが、祭は逆に部下にして勢力を拡大した。
「個」と「集団」で、どちらが恐れられるかと言われれば数の暴力がある集団だ。
炎蓮が強くでも賊や侠客達はたった1人なら何とかなると思うはずだ。しかし祭のように「鉄弓党」という大きな集団を結成していれば賊や侠客達も簡単には手を出さない。
「ふ~む、確かになぁ……追放しようがブチ殺そうが、ちょっと目を離しゃあハエはいくらでも湧いてきやがるもんな」
「正直なところ、あれがゴロツキをまとめたので街の治安は一時に比べるとマシになっておる」
街にうろつくゴロツキをバラバラにしているよりは誰かが纏め上げた方が問題が起こりにくいという事だ。
「されど黄蓋は商店からみかじめ料を集めたり、堂々と賭場を開いたりと己が役人であることを忘れ、侠の大将として街を牛耳っておるのじゃ」
祭が役人として侠客達を纏め上げているのであれば問題無かったのだが、役人ではなく侠客の大将になってしまったのが問題なのだ。
「そ、そうなのだ。県令の私などもはや名前だけの飾りだ。実権は黄蓋にすべて奪われている…!!」
「そんなに…」
郭雄は悲壮感を漂わせるのに藤丸立香が心配するが炎蓮は特に可哀相と思わず、ピシャリと一言呟く。
「オレの頃からそうじゃねえスか」
「孫堅ぶっとばすぞ!!」
流石にムカついたのか郭雄が炎蓮に対して怒った。実はちょっとだけ笑った雷火と藤丸立香。
「なんスか? 黄蓋はアンタの部下だろ。オレの知ったことじゃねえよ」
「いや…ここでお前と再会したのも何かの縁だ。孫堅なら黄蓋に勝てると思うのだが」
「おう、勝てるぞ。絶対に勝てる」
炎蓮は祭の実力を見抜いているので、もしも戦えば勝つ自信はあった。
「私のために一肌脱いでくれるのなら県丞をクビになった県で私が上の人間に掛け合ってやっても良いぞ?」
「はぁぁぁ……ンなことをする必要はねえスよ」
炎蓮は郭雄が何を言いたいのか察した。「これは面倒な事になるな」と思うしかなかった。
「た、頼む。この通りだ。孫堅よ、黄蓋をどうにかしてくれい!!」
頭を下げる郭雄。本当に祭や「鉄弓党」がよほど問題となっているようである。
「まあ、郭雄殿個人の話は置いておくとして、わしも黄蓋に灸を据えねばならんと思うておる」
「だったらテメーが据えてやれよ?」
「無論、わしは動いておる。刺史や太守に話を通しているのじゃ…まあ、それには時間がかかるでの」
雷火も太守や刺史との繋がりを利用して「鉄弓党」をどうにかしようと動いているが、恐らく太守や刺史もすぐには動いてくれないと理解しているのだ。
「つまり張昭もオレに黄蓋をどうにかしろって言ってんのか?」
「お主を育てたのはこの呉の街じゃろう。その町に恩を返すのは至極、当然の話じゃ」
「…ったく。分かったよ」
「お、おお、孫堅!!」
炎蓮が仕方なく了承する。
「うむ、よくぞ決断した。して、黄蓋をいかに懲らしめるつもりか?」
「決闘だよ。一対一で黄蓋を叩き潰す」
初対面で分かった事だが黄蓋は孫堅(炎蓮)の名を恐れた。しかし侠客たちの大将として炎蓮が怖いと言えるわけがない。そして手下たちの手前、孫堅(炎蓮)が決闘を申し込めば断ることは出来ないのだ。
手下の前で黄蓋を決闘で倒せば万事解決。祭や侠客達はそういう方法が一番効くのだ。
「よし立香と太歳星君もついてこい。見届け人だ」
「あ、はい」
「いいぞー」
1156
炎蓮と祭の決闘当日。
依頼を受けた炎蓮は早速、祭に対して決闘を申し出た。それも多くの手下のいる前でだ。
予想通り、祭は多くの手下の前では決闘を断る事が出来なかった。逃げ出さないように決闘は早速本日の夜に行われる事になったのだ。
「ほほう、逃げずに参ったの」
「クックッ、そりゃあこっちの台詞だぜ。手下の前だからって無い勇気を振り絞って決闘を受けたのか?」
周囲には明かりが多く点灯されおり、決闘には問題ない明るさだ。
祭の後ろには多くの侠客たち。炎蓮の後ろには藤丸立香と太歳星君。
「ふん…小娘が。抜かしておれ」
「ひひ、馬鹿め。姐さんは強いぞ。めちゃくちゃ強いぞ!!」
「オレたちはもとは別々の侠や賊だった。だが、姐さんは全部の頭を一人でぶちのめしたんだ!!」
「おう、だからオレたちはその腕に惚れて、生涯、姐さんについていくって決めたんだ!!」
「姐さんが負けるもんか。頑張れ姐さん!!」
「応!!」
本当に祭は侠客たちから慕われていた。そのカリスマ性と纏め上げる能力は炎蓮も今ので認める事になった。
(張昭の言う通りだな。アイツ中々な引率力だ)
「おい。そっちの小僧2人は誰じゃ?」
「ああ、ただの見届け人だよ。オレが勝った証拠を見てもらわねぇとな」
「藤丸立香です」
「太歳星君だぞ!!」
「ふん…」
決闘が早速始まる。
「ククククッ…」
「ぐっ…」
炎蓮は余裕綽々に微笑を浮かべる。祭は炎蓮の闘気を感じ取って冷や汗をタラリと垂らす。
(孫堅か……狂った虎の噂は聞いておる。儂はこれまで喧嘩に負けたことはないが孫堅の噂はどれもこれもぶっ飛んでおる)
祭の耳にも炎蓮の活躍は届いている。そもそも己の前任者でもある彼女の活躍は聞かなくても勝手に耳に入ってくるものである。
(山賊、盗賊、海賊……たった一人で相手を皆殺しにしたという噂はいくつも聞いた。さすがに尾ひれがついておろうが)
確かに尾ひれは付いているが賊たちを叩き潰してきたのは本当だ。海賊防衛戦で海賊団をたった1人で潰したのかと聞かれたら、流石にそれは否定するが。
「おい、どうした。今さらビビッてんじゃねぞ?」
「び、ビビッてなどおらぬわ!!」
侠客たちにはバレていないが炎蓮にはバレバレだ。祭は炎蓮を恐れているのは確かである。
「だったら速く来いよ」
(噂は所詮噂…いや、しかし、こいつの凄まじい殺気は何なのじゃ…やはり、こやつは何かが違う!!)
「クックック」
(この殺気…に、人間とは思えん!?)
勝手に盛り上がるというか誤解していく祭。炎蓮は祭をビビらせる為に殺気を出してはいるが、人間ではない殺気は出していないし、凄まじい殺気も出していない。
(速く掛かってこねえのかアイツは?)
中々、殴りかかってこない祭に対してあくびが出てきそうだ。そして藤丸立香と太歳星君は待ちぼうけである。
「やるんなら早くやろうぜ。テメーからこねえなら、こっちから行くぞ?」
(ぐ…ここまできたらやるしかない。この世に儂より強い者などおるはずがない!!)
全力の一撃を叩きだす為に祭は気を練る。炎蓮が狂った虎と言われていようとも彼女は人間なのだ。
人間は無敵ではないし、不死でもない。殴れば痛がるし、剣で斬れば死ぬ。絶対に勝てないというわけではない。
(そう、儂は勝つ。手下の前で無様な姿は見せられん。儂は絶対に勝つのじゃあ!!)
拳を強く握りしめる。
「参るぞ孫堅!!」
「やっとかよ。眠くなっちまうところだったぜ?」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
祭は雄叫びを上げながら拳を振り上げた。
「喰らえい。数多の屈強な男どもを打ち倒してきたこの黄蓋の拳を!!」
彼女の実力は本物だ。後ろで応援してくれる侠客たちがその証拠である。
「ゆくぞ、必殺……!!」
「うるぁあああああああああああああ!!」
「ぐわぁあああああああああああああ!?」
祭が必殺技を繰り出す前に炎蓮の見事なアッパーが決まった。
重力無視で祭は殴り飛ばされて地面に落下する。
「ああああああッ!?」
「ね、姐さーーーーーん!?」
「ひいいいい!?」
「バケモンだ!?」
まさかの結果に驚愕するしかない侠客たち。
「終わったのかー?」
「どんな必殺技か見たかったな」
祭の必殺技がどのようなものだったのか見てみたかった。そして必殺技名も知りたかった藤丸立香であった。
「あー、つまんねえ。おいおい一発で終わりかよ?」
「虎だ、悪鬼羅刹だぁあ!?」
驚愕して動揺する侠客たちを余所に炎蓮は祭に近づいてツンツンと木の枝で突く。
「おーい、黄蓋。本当にもう終いかァ?」
「うぅっ……う、うう……」
「お、まだ立てるじゃねえか。手下の見てる前だ。これじゃあ終われねえよなァ?」
何とか立ち上がる祭に炎蓮はちょっと評価を上げる。先ほどのアッパーは並みの者では立ち上がれない威力だ。
それでも立ち上がったという事は彼女は並みの武人ではないという事である。
「そ、孫堅殿!!」
「ああ?」
何か文句でも言ってくるのかと予想していたが待っていたのは全くの別のものであった。
「この黄蓋。孫堅殿に惚れ申した!!」
「は?」
何を言ってるのか一瞬分からなかった。
「惚れたと申しました!!」
「な、なに言ってンだテメー。オレは女に興味はねえぞ!?」
少し距離を取った炎蓮。逆に距離を詰める祭。
「どうか今日から孫堅殿を姉貴と呼ばせてください!!」
「姉貴だぁ?」
「儂は生まれて初めて喧嘩に負け申した。それも一発…たった一発の拳で…孫堅殿の拳はまっこと天下の拳にござる!!」
「…………はぁ?」
チラリと藤丸立香と太歳星君を見る炎蓮。ある意味、助けを求めている視線であった。
炎蓮の人柄に好意を寄せる人物たちはいくらかいた。しかし祭のような好意を飛ばしてくる人物は初であった。
「やったね炎蓮さん!!」
「イェンイェンの勝ちなのだー!!」
グッと親指を立てる2人。
「いや、コイツどうにかしてくんねえか?」
「者共、儂は今日限りで鉄弓党を抜けるぞ」
祭の言葉は本気だ。「鉄弓党」から脱退と解散を宣言したのだから。
「え、えええ!?」
「そんな…姐さんが抜けたらオレたちゃどうすりゃいいんですか!?」
鉄弓党の者達はより動揺が広がる。祭が敗北したのもそうだが「鉄弓党」が急遽解散する事になったのだからだ。
「鉄弓党を抜け、役人も今日限りで辞める。儂は一人の武人として姉貴にお仕えするのじゃ!!」
「お、おい、ンなこと勝手に決めンじゃねえ!!」
まさか役人まで辞める宣言もするとは思わなかった。本気の本気で祭は炎蓮に惚れたようだ。
「いいや、儂は決めたぞ。この先、何があっても儂は姉貴についていく。黄蓋は死んでも姉貴から離れませんぞォッ!!」
「っっっ……!?」
こればかりは本気で炎蓮も引いた。
「これで問題解決だね」
「いや、新しい問題が増えたんだが」
読んでくださってありがとうございました。
次回の更新はこのあと。
1154~1156
英雄譚4 祭との話ですね。
今回も流れはほぼ同じ。
オリジナル展開が始まるのがそろそろかな。
藤丸立香、炎蓮からラリアットを受ける。
オリジナル展開ですけど雪蓮もラリアットをする。
親子だよ。