Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

355 / 377
こんにちは
また投稿が遅れました。
もう暑さでバテバテ状態です。夏バテ気を付けないと…

FGOもうすぐFES!!
しかしなんか台風が近づいているとかなんとか。
台風よ進路変更してくれー!!


江東の虎物語-九つの顔を持つ妖魔-

1168

 

 

陶謙の城の地下牢にて。

 

「な、何じゃ…お主は」

 

目の前に現れた化け物に雷火は怖気が止まらない。

 

「オレの名前ハ相柳」

「な、何を言っておる。お主の名前は…」

「おレの名前は相柳だ。以前の名前は捨てタ!!」

 

相柳を名乗る男は顔が九つになっていた。その姿は人間ではなく、妖魔そのものであった。

彼は雷火の恨みを晴らす為に妖魔を取り込んだ。自分の身体が妖魔に変化しようが、顔が九つになろうが関係無い。

順風満帆であった県令生活を全て台無しにした雷火が許せない。台無しにされなければ今も県令として権力を振舞っていた。もしくは県令よりも上の立場である太守や州刺史になっていたかもしれないのだ。

 

「キサマが私を県令カラ降ろさなければ今ゴロ太守ヤ州刺史ニなってイタぞ!!」

「それはない」

 

怖気が走るが雷火は相柳の言葉を強く否定する。

彼の県令として働きをみていたからこそ怖気を振り払って言い切ったのだ。民を省みず、賊たちと手を組んで苦しめる行為をするような県令が太守や州刺史になるのは無い。

もっとも彼のような悪人が県令になっていた時点で朝廷が腐敗し始めている証拠であるのだが。

 

「おのレ減らず口ヲ…まあイイ。貴様はココで死ぬノだからナ!!」

「うっ…」

 

相柳の両手からヌルリと粘液が垂れだす。その粘液は見ていて嫌悪感と忌避感を同時に感じさせるほどの嫌なものであった。

そして触れれば死ぬと理解してしまう。その粘液は毒だと嫌でも理解出来たのである。

 

「最初ハこの城デどうヤって貴様ヲ殺そうかト考えたガ…陶謙ノ奴ガイイ仕事ヲしてくれたものダ」

 

相柳の目の前は地下牢に投獄された雷火姿が視界に入れ、ニヤリと凶悪な笑顔を晒す。

毒の粘液を垂らす両手で勢いよく牢屋の柵に掴んだ。その急な行動に雷火は恐怖してしまう。

 

「こうヤッテ簡単に張昭ヲ殺シやすくシテクレたのだからナ」

 

雷火は牢屋に投獄されており、逃げ場はない。相柳からしてみれば拷問や殺害がし放題の状況であるのだ。

 

「クククくく…どうシテヤロウカ」

 

掴んだ牢屋の柵から毒の粘液がドロリと垂れる。垂れた毒粘液は牢屋内にゆっくりと浸透していく。

 

「う……」

 

雷火は牢屋の柵から後ずさる。しかし後ろは壁があって逃げ場はない。そして牢屋内は広くはない。

 

「逃げ場ハ無イぞ。クくくク…何と愉快ナものダナ」

 

牢屋の柵を掴んだ両手からとめどなく、ゆっくりと垂れていく毒粘液。柵から垂れた毒粘液は地面に広がって雷火のいる牢屋内へと浸透する。

ゆっくりと毒粘液が浸透しているのがより恐怖を増長させていく。今の雷火は処刑が徐々に近づく恐怖を味わっているようなものだ。

 

「ドウヤッテ貴様を殺そうカトずっと考えてイタ。簡単に殺スノハ面白くナイ……だから拷問や強姦シテカラとも考えタ。考ヌイタ結果、ジワジワと恐怖を味合わせ、苦シマセテ殺すコトにシタノダ!!」

「お主…そこまで性根が腐って負ったか」

「ソレニ貴様を犯シテモ気持チヨク無サソウだシな。身体が貧相すぎて女トシテ魅力も無イ」

「女性に対して屑な発言じゃな!!」

「オレの好ミはモットふくよかナ女ダ。貴様ナンぞガキではないカ。欲情もセン。もっと飯クエ」

 

相柳を名乗る男は最低な男であった。

 

「ダカラ貴様を恐怖サセ、苦痛ヲ与エ、絶望サセテ死んデイク姿を見て楽しむノだ」

「こ奴……」

 

こんな最低な男に殺されるのなんて真っ平ご免だが逃げ場が無い。雷火自身が牢屋の柵を破壊できる程の力を持っているわけでもない。

儒者として目の前の相柳に何を言っても響かない。彼はただ雷火を殺す事だけを考えているのだから説得しても火に油だ。

 

「儒者トハ非力ダナ。こういう時に何モ出来ナイ。役にも立タナイ」

「くっ……」

「見張りノ兵士ガ巡回デ来るなどトイウ希望は持たない事ダ。見張りガ来ナイように手筈ハしているのでな」

 

相柳の両手は毒粘液が限りなくヌルリ、ドロリと垂れる。そして毒粘液が徐々に牢屋内に浸透していく。

 

「くくくククくくくクくく。私の毒ハどんな大地モ穢す。人間ガ浴びレバ命はナイ!!」

 

もう既に雷火のいる牢屋内は半分が毒粘液が侵食している。

 

「貴様が徐々ニ恐怖ニ飲マレテイルのが分かるゾ。ククくくくくハハハハハははははハ!!」

(まずい、本当に逃げ場が無い。わしはここで死ぬのか。こんな奴に殺されるのか)

 

本当に死を覚悟する雷火。それほどまでに逃げ場が無く、打開策が何も思いつかないのだ。

 

「させるかこの化け物が!!」

 

その発言と共に力強く放たれた矢が相柳の腕に突き刺さった。

 

「アがァ!?」

 

矢が突き刺さった痛みで相柳は牢屋の柵から手を放してしまう。

 

「だ、誰ダ!?」

「貴様こそ何者じゃ。貴様も陶謙の部下だというのなら、本当に陶謙はヤバい奴じゃのう」

「雷火さん無事か!?」

 

地下牢に現れるは祭と藤丸立香であった。

 

 

1169

 

 

地下牢に藤丸立香と祭が見たものは九つの顔を生やし、両手から毒粘液を垂らしている男であった。

その男の名前は相柳。彼は牢屋に投獄されている雷火に毒粘液を向けて垂らしている姿を見て祭は危険と判断して矢を放ったのだ。

 

「ぐウおぉ…オレの腕ニよくモ矢を射ったナァ。そして楽しみヲ邪魔シヤガッて」

 

相柳は片腕に刺さった矢を抜く。抜けば血がダラリと垂れて地面に広がる。

九つの顔が祭と藤丸立香に向けられる。

 

((うわっ…))

 

九つの顔全てが向けられると怖い。しかしそんな事よりも雷火の無事か否かが問題である。

 

「雷火さん大丈夫!?」

「わしは大丈夫じゃ!!」

 

雷火は大丈夫だと言っているが毒粘液が足元に広がっている。早く牢屋から出して安全な場所まで避難させなければ危険だ。

 

「おい張昭。こ奴は何じゃ!?」

「こ奴は昔の呉の県令。郭雄の前任者じゃ」

「こ奴が郭雄殿の前任者じゃと…人間には見えんが」

「人間のはずじゃが…どうやら人間を辞めたようじゃな」

 

頭が九つあるのは普通ではない。

 

「そ奴の名は…」

「オレの名ハ相柳だ。言ったダロウ張昭。以前の名前ハ捨てたト!!」

 

相柳。

古代中国神話に登場する怪物の一つ。九つの人間の頭を持つ大蛇の姿をしているとされる。

九つの頭で九つの山のものを食べつくすといい、また相柳の通過したあとは谷や沢に変貌してしまったともいう。

共工に仕えており、体から毒水を出し、周囲の大地を汚染し天下を困らせた伝説もある。

また、その血液は非常になまぐさく、英雄・禹に退治された時に流された大量の血液が広範囲の土地を汚染し農業などを不能にしたという。

 

「オレの復讐ヲ邪魔スルナ!!」

 

九つの頭がギョロっと藤丸立香と祭を睨む。

 

「張昭さんに復讐だって?」

「ただの逆恨みじゃ」

 

罪を犯したら裁かれた。

全て悪いのは彼だ。悪い事をすればいずれ自分に返ってくる。それを彼は全て雷火のせいにしている。

確かに彼女が何もしなければ元呉の県令は投獄されずに済んだのかもしれない。しかし雷火がやらなかったとしても他の誰かが彼を罰したはずだ。

例えば炎蓮などような人物が彼を罰したはずである。

 

「このガキ共ガ。オレの復讐ノ邪魔ヲすルナ!!」

 

相柳は身体を変化させ、八つの顔が身体中を移動していく。

背中に一つ、両肩に計二つ、胸と腹部に計三つ、両膝に計2つ。片手に剣を構えて毒粘液を纏わせる。更に下半身を蛇へと変化させていく。

これこそが相柳の戦闘妖魔人型形態。どんな敵の攻撃も九つ顔もとい18個の目で捉え、どんな敵も毒粘液の剣で斬り、毒殺する。

 

「復讐ノ邪魔スルヤツはオレの毒デ苦しんデ死ね!!」

 

相柳は蛇の動きでヌリリと這いずりながら接近。毒粘液の剣を振るう。

 

「躱して黄蓋さん!!」

「言われんでも分かっておるわ!!」

 

毒粘液の剣から回避する。剣は空を斬るだけではなかった。刀身から毒粘液が飛散したのだ。

 

「うわ!?」

「あぶなっ!?」

 

這いずり回った跡には毒粘液が広がって地下牢をより侵食していく。振るった毒粘液の剣は回避されたとしても毒粘液が周囲に飛び散る。

 

「気持ち悪いし、最悪じゃな!?」

 

毒使いの敵は容易に近づいてはならないのが鉄則だ。

祭は接近戦でも戦えるが得意なのは弓であり、後方戦闘である。相柳が毒粘液をまき散らしながら剣を振るうのならばと彼女は距離を取って戦うだけである。

 

(しかし長くは戦っておれんぞ)

 

地下牢はそれほど広くない。戦いが長引けば長引く程、毒粘液が地下牢を全て侵食する。

ならばと地下牢から出て戦えばいいだけかもしれないが、それは雷火を救出してからの話だ。

嫌らしくも相柳は雷火を牢屋から出さないよう番人のように戦っている。彼は祭たちを殺す為に地下牢から出て追う事まではしなかった。

相柳の目的は雷火への復讐だ。祭たちを無視して雷火を殺すことが出来ればよいのである。

 

(ここで儂らが逃げたら張昭のやつが殺されてしまう。最悪の状況で戦うしかないの。ったく…最悪すぎる展開じゃ!!)

 

矢を射って相柳を狙う。

彼女は若いが弓矢の腕は達人の域に近づいている。矢はあらぬ方向に飛ばず、必ず敵目掛けて飛ぶが敵も人間の動きや反射では無かった。

 

「ええい、蛇のような動きをしおって!!」

「くククくクククッハハハははハハハハハハハ。きさマの矢なぞキカヌわ。そノ矢の腕にはは驚嘆するガどうという事ハなイ!!」

 

蛇の変則的な動き。そして九つの頭があるので計18個の視覚により驚異的な矢の攻撃を回避に成功させていた。

 

「くそっ」

 

時間が経過すれば経過するほど毒粘液が地下牢全体に広がっていく。相柳は身体から毒粘液を随時滲み出しているのだ。

更に毒粘液だけでなく、地下牢に異臭が充満していく。

 

「ゴホッ、ゴホゴホッ…何じゃこの臭いは!?」

 

異臭によって鼻が潰れそうになる。更に臭過ぎて咽り、吐き気も催しそうになる。

 

「どウやらオれノ血がやっと効いてキタようだ」

「貴様の血じゃと…うえっ」

「オレの血ハとても臭い。更に血自体ガ土地ヲ汚染するホドの毒デモあるぞ?」

「な、何じゃ…ごほごほっ。息するのもキツ…」

「貴様ガ射ッタ矢のせいダ。自分デ自分の首ヲ絞めルとは愚かナ小娘メ」

 

毒粘液と非情に生臭い悪臭と毒の血。最悪の3コンボである。

 

「臭イというのも馬鹿ニハ出来ないものダ」

 

長期的な悪臭への曝露は慢性的な呼吸器疾患、免疫機能の低下、疲労感、頭痛など様々な健康被害を引き起こす可能性がある。

臭いだけなんて我慢すれば大丈夫とは言っていられないのだ。

 

「この…ゴホッ」

 

悪臭によって咽る。咽ては矢の集中に支障をきたす。更には隙だってみせてしまう。

無いよりマシと祭は己の衣服を切り取ってマスク代わりに口と鼻を塞ぐ。

 

「ソンな布切れデおれの血の臭いヲ防げるカ?」

「多少マシにはなったわ!!」

 

それでも決定打を打てるようになったわけではない。そして時間もかけられない。

牢屋の方からも雷火の咽る音が聞こえてくる。更に毒粘液も広がっており、牢屋内にいる彼女に目と鼻の先状態だ。

 

「クククくくく。張昭もモウスグおれの毒で苦シミ死ぬ。愉快愉悦ダ!!」

「く……」

 

早く相柳を倒して雷火を救わねばならない。しかし打つ手が無い。

敵は急いで祭たちを殺す必要はなく、時間さえかければ確実に殺せると理解している。

陶謙や見張りの兵士たちにも異変を気付かせないように手配は済ませている。もしもバレたところで相柳の毒で全て殺してしまえばいいとも思っている。

 

「に、逃げろ黄蓋、藤丸!!」

「何を言うておる!?」

「こ奴はわしが狙いじゃ。お主らが死ぬことはない。それと陶謙殿に伝えるのじゃ…何でお主らがここにいるのかは敢えて聞かんが非常事態だとなれば陶謙殿は聞いてくれる」

「そんな事したらお主はその間に死ぬじゃろが!!」

「しかしこれでは全員死ぬぞ!!」

 

このままでは全員が時間切れで死ぬ事になる。

 

「貴様ラはオレが本気を出した時点デ死ヌ事が決マってオったのダ!!」

(くそ…どうすれば。姉貴だったら何か良い手を考えるかもしれんが儂では何も思いつかん)

 

チラリと後方を見ると藤丸立香が鼻と口を塞ぎながら周囲を見ているだけだった。

 

(く…藤丸の小僧も役に立たん。どうする…どうすればいいのじゃ!?)

 

考えても考えても時間が過ぎるだけであった。ただ雷火が毒粘液で死ぬ時が近づくだけである。

 

(どうする…本当にこの場から逃げるしかないのか。しかし張昭のやつを見殺しにするわけにも……本当にどうすればいいんじゃ!?)

「黄蓋さん」

 

自分の名前を呼ばれた。名を呼んだのは藤丸立香である。

 

「オレが張昭さんを助けに行ってくる。そして急いで外に出よう」

「何を言っておる。そうしたいが出来んじゃろうが!!」

 

こいつは何を言っているんだという顔をして叱る。打開策が思いつかないからこそ、簡単に言ってくれる事に対して苛ついてしまう。しかし藤丸立香は臆することなく真剣な顔のままだ。

 

「オレなら出来る。でも黄蓋さんの力も必要なんだ」

「なに?」

 

藤丸立香は本気で雷火を救う手段を考えた。その方法をこれから祭に話し出す。

 

「オレがこの毒粘液に侵食された牢屋内を進む。黄蓋さんは相柳をオレと張昭さんに近づけさせないように矢で牽制して欲しいんだ」

「何言っておる!?」

 

毒粘液が侵食された牢屋を突っ切ると言っているのだ。

もはや牢屋内は毒粘液によって毒沼状態で脚を突っ込めば毒に侵さるのは確実。藤丸立香が言っているのは自殺しに行くと言っているようなものだ。

 

「オレは大丈夫。だから…頼む黄蓋さん!!」

 

そう言って藤丸立香は毒粘液の牢屋を駆け出した。

 

「馬鹿!?」

「来るな藤丸!?」

 

祭と雷火は藤丸立香を制止するように叫んでも彼は止まらずに駆け出す。

 

「ああ、もう!!」

 

祭は矢を構えて相柳に向けて放った。

 

「ウオっ…馬鹿な小僧メ自ら死ニ行くトハナ。オレの毒粘液ハ猛毒だ。足ガ浸かレバ激痛がハシリ、腐……ラナイ!?」

「うおおおおおお!!」

 

藤丸立香は猛ダッシュで雷火の牢屋まで駆け抜いた。

 

「何故平気ナノダ!?」

 

相柳の毒は猛毒。足が浸かれば激痛によって駆けるのを辞め、その後は足が腐って毒粘液に倒れて死ぬ予想であった。しかし藤丸立香は難なく雷火のいる牢屋まで到達した。

 

「何故ダ!?」

「ふ、藤丸の小僧…」

 

毒粘液にひるまず彼は覚悟を決めて走り抜いた。その雄姿に祭は彼を役立たずとは言えない。

その雄姿に炎蓮が彼を気に入った理由が分かった気がした。

 

「おらあああああ!!」

 

レオニダスブートキャンプの成果を牢屋に叩きこむ。

 

「牢屋開錠成功!!」

 

バスター(筋肉)は全てを解決する。

 

「ふ、藤丸お主平気なのか…」

「うん。オレって毒は平気なんだよ」

「う、嘘を言うでない」

「ゴメン張昭さん失礼するよ」

「お、おお!?」

 

藤丸立香は雷火を抱き抱えた。雷火を毒粘液の床を走らせるわけにはいかないからだ。

 

「走るよ!!」

「う、うむ」

 

藤丸立香はしっかりと雷火を抱き抱える。こんな状況だが男性に抱き抱えるという体験は初めてであった。

 

「サセルカ!!」

 

まさか毒粘液を駆け抜けたのは想像も出来なかった。猛毒が効かないのも想像出来なかった。

このままでは復讐相手である雷火も殺せない。相柳は逃がさないと雷火を抱き抱えた藤丸立香を急いで狙う。

 

「こっちこそさせん!!」

 

祭は弓矢を構えて矢を連続で放つ。

 

「邪魔ヲするナアアアアアアア!!」

 

相柳は両手に毒粘液を纏わせて力の限り投げ飛ばした。

 

「毒粘液の雨ニ浴びテ全員死ネィ!!」

 

雷火個人を狙ったのではなく、全員を仕留める為に放った毒雨。

雨とは人間が回避する事は出来ない。回避出来ないのであれば防ぐしかない。しかし今この場に傘のように雨を防ぐ道具は無い。

 

「コンナ方法デ殺すツモリは無かったガ…逃がすクライならばこの場デ死ね!!」

 

毒の雨が3人に降り注ぐ。

 

「マズイ!?」

「藤丸、わしの事はいいから」

「ゴメン張昭さん、黄蓋さん。出来るだけ小さく小さく身体を縮ませて!!」

「え、うわ!?」

「お、おお!?」

 

藤丸立香は雷火を祭にいきなり渡した。

いきなりすぎて2人はそのまま倒れ込み、藤丸立香は2人を押し倒すように覆った。

 

「藤丸お主!?」

「ふ、藤丸の小僧…」

 

毒が効かない藤丸立香だから出来る荒業である。

 

「へ、平気かな2人とも?」

「それよりもお主は!?」

「オレは大丈夫だよ。毒は効かないから」

 

安心させるために無理やり笑う。

 

「お主という男は…」

 

藤丸立香の強さと覚悟を視認し、感じ取った瞬間である。

 

「何故効カヌノダ!?」

「毒が効かないから」

 

理由はそれだけだ。

 

 

「オノレ」

 

あと少しで相柳の計画通りで雷火を殺せるはずだった。しかし藤丸立香がいたせいで計画が全て台無しとなった。

 

「許センゾ小僧ォ!!」

 

相柳が完全体へと変化していく。首に九つの頭。身体は完全に蛇。

「貴様ラ全員ヲ喰ライ付クシテヤル!!」

 

完全体となった相柳。その妖気は凄まじく恐ろしい。

 

「間に合った」

 

地下牢の扉が破壊されて誰かが飛び込んできた。そのまま相柳目掛けて蹴りを叩き込み、爆発させた。

 

「ゴアアアア!?」

「妖魔討伐!!」

 

地下牢に飛び込んできたのは哪吒であった。

 

「哪吒!!」

「マスター遅くなった……」

 

哪吒は藤丸立香の状況を視認して状況を察した。

毒が効かないとはいえ、マスターに危険な目に遭わせてしまった。その事が哪吒は不甲斐ないと思ってしまう。

 

「マスター…」

「オレは大丈夫だよ。ただオレが勝手に無茶しただけだから気にしないで。哪吒あとは頼んでもいいかな」

「うん。任せて」

 

哪吒は火尖槍を構えて相柳を見据える。

 

「グオオオォォォ貴様ハァナンダァァァ」

「お前を倒す者」

 

相柳の様子がおかしい。それはここにいる者全てが思った事だ。

 

「藤丸よ…あの者は」

「オレの頼れる仲間だよ」

 

哪吒がこの場に来てくれたのは偶然ではない。

この場に居ない太公望が道術で徐州に向かっていた哪吒に連絡を取って急遽戻ってくるように伝えたのだ。

 

「おい、あの化け物おかしくないか?」

「うん。まるで精神が汚染されているような…」

 

藤丸立香の予想はほぼ正解。どちらかと言えば汚染というよりも侵食である。

目の前にいる彼は身体に埋め込まれている『相柳』に精神を侵食され始めているのだ。

 

「当然な結果」

 

哪吒は来たばかりだが敵の状況は察した。

目の前の彼は元々特別な力を持った人間ではなく普通の一般人である。

そんな彼が『相柳』という巨大な妖魔を取り込んで正常でいられるはずが無い。

精神に異常をきたして当然な結果である。

 

「一人増エタところデ変わらン。全員喰らい尽くス!!」

「スキル解放。道術起動!!」

 

スキルである『道術』を起動した事で火尖槍と風火輪の稼働を極限まで上昇させる。

相柳という妖魔はとても巨大な力を持つ怪物だ。それこそ神話級の怪物なのだから妖魔退治専門である哪吒であっても油断ならない相手である。

油断ならない相手であっても今の段階であれば哪吒は相柳を倒しやすいと判断していた。

 

「ガアアアアアアアアア!!」

「風火輪噴射準備完了。火尖槍能力解放完了」

 

相柳を倒しやすいと判断したのは人間の身体に埋め込まれ、理性がまだ元呉の県令だからだ。

強大な妖魔の力を手にしたと言っても完全に扱えるわけではない。元呉の県令も相柳を身体に埋め込まれて日が浅い。全ての力を掌握出来ているわけでもない。

故にまだ倒しやすいと判断したのだ。曹操暗殺計画で戦った飛燕という相手もそうで、彼も『無支祁』という妖魔を完全には掌握しきれていなかった。

強大な妖魔の力であっても掌握しきれなければ手に余るというもの。更に目の前にいる元呉の県令は飛燕と違って武人でも何でもない。

素人が特別な剣や槍を持っても武人と渡り合えるとは限らないというわけだ。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ボクは禹じゃない。でも同じよう倒す」

 

風火輪をロケットが如く噴射させて相柳に突撃。火尖槍を突いて、そのまま地下牢を破って空へと飛び出した。

 

「グガガガガガガガガガガガ!?」

「相柳の血は臭い。なら違う場所で倒す」

 

相柳の血は非常になまぐさく、土地を汚染するレベル。

 

「血も残さず焼却!!」

 

火尖槍の火力を最大まで上昇させて相柳を燃やし尽くし、貫いた。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

夜空に大きな火の大輪が咲くのであった。

 

 

1170

 

 

地下牢にて。

 

「張昭無事かー?」

「チョウチョウいるー?」

「って何があったんだ!?」

 

地下牢の惨状に驚く炎蓮。

毒沼状態の地下牢に毒粘液に侵されいるように見える藤丸立香。

 

「本当に何があった?」

「全て解決したから問題ないよ」

「問題あるだろが」

「であであのマスター大丈夫か?」

 

太歳星君が心配そうに藤丸立香の顔を覗く。

 

「大丈夫だよ太歳星君」

「そっか。でもべたべただぞ」

「これはシャワー浴びたい」

 

毒粘液まみれのままではいられない。

 

「藤丸よ」

「何かな張昭さん?」

「助けてくれた事を感謝するぞ」

「オレも張昭さんが無事でよかったよ」

「ん、んむ…」

 

安心させるために笑顔を作る。

ニコリと笑う姿を見てちょっと照れる雷火。

 

「おい藤丸」

 

今度は祭に声を掛けられる。

 

「お主は大した男じゃ。儂が今まで見てきた男の中で上位に入るぞ」

「はは、黄蓋さんに認められるなんて光栄だ」

「祭じゃ」

「え?」

「儂はお主を認めた。真名を預ける」

「そっか。ありがとう祭さん」

 

祭に認められた事が嬉しく思う。

 

「詳しく聞きたいが上が騒がしくなってきた。さっさと逃げるぞ」

 

太歳星君のコンたちの騒動に、相柳の事件。流石に陶謙も異変だと気付くのは当然だ。

 

「さっさと逃げるぞ」

「そうだね。外で落ち合おう」

 

地下牢を抜け出して城外へと逃げ出す藤丸立香と炎蓮であった。

 

 

1171

 

 

陶謙の城。その屋上にて。

 

「ふむ…こういうのを確か汚い花火と言うのであったかの?」

 

韓暹は夜空にて相柳もとい元呉の県令が花火となったのを見ていた。

 

「風流でも何でもないの。優雅でも何でもない」

「そうですね」

「おじゃ?」

 

韓暹に声を掛ける人物は太公望。

 

「やっと姿を現しましたね」

 

太公望の手には打神鞭が握られていた。

いつでも戦闘に移行しても準備万端という事だ。

 

「巧く姿を隠してましたね。そのおかげでマスターの元に行けませんでしたよ」

 

打神鞭をペン回しのようにクルクルと遊ばせる。マスターを危険な目に遭わせてしまった事に自分自身に苛ついてしまうが冷静であろうとする。

藤丸立香たちが相柳と戦っていた時、哪吒を呼ぶよりも彼が助けに行った方が早いと誰もが思うはずだ。しかし太公望が向かえなかったのは韓暹が隠れていたからである。

もしも太公望が相柳を退治しに向かったら炎蓮が襲われていた可能性が高かったからだ。炎蓮には太歳星君がついているとはいえ、韓暹という人物を無視できなかった理由がある。

 

「貴方はよくそんなものを身体に取り込んで平気でいられますね?」

「ほっほっほ。妾は元呉の県令のような下賤な人間ではない。妾は選ばれた人間でおじゃるぞ?」

 

ジワリと韓暹の身体から異様な妖気を滲み出させる。太公望が迂闊に動けなかったのは彼が取り込んだ妖魔が原因だ。

 

「いえ、妖魔ではないですね。ソレはもう神霊レベル…だから相柳なんて怪物がいるのも納得出来ます」

 

太公望が本気で対処しなくてはいけない案件が目の前の韓暹もとい、彼に埋め込まれている神霊だ。

元呉の県令のように相柳に精神が侵食されておらず、韓暹は正常のままだ。

 

(本当によく正常でいられますね。彼がどのような人物であろうともアレを埋め込まれればただでは済まないはずです)

「ほっほっほっほっほ」

 

韓暹は不気味に笑う。

 

「さて、ここで片付けます。恐らく貴方を倒せばこのタイムスリップ事件も一気に解決出来そうですからね」

 

太公望は今回の異変の黒幕は韓暹だと当たりを付けた。

魔力を開放し、スキルを開放する。

 

「封神執…あっ」

「時間でおじゃる。またの」

 

太公望と韓暹はその場から同時に消えた。2人とも次の時間軸へと飛んだのである。

彼らが次の時間軸に飛んだという事は藤丸立香や太歳星君たちも飛んだという事だ。




読んでくださってありがとうございます
次回の更新は未定。しかし8月中には江東の虎物語編は完結したいです
何度も言ってるのにまだ終わらないんですけど


1168~1169
相柳
中国妖怪でも有名だと思います。
顔もとい頭が九つの蛇。ヤマタノオロチと関係があったり…しないか

相柳は身体から毒水を出すといいます。
ここでは毒粘液とさせていただきました。
更に血は悪臭が強いという能力。悪臭って咽ますよね。
更に土壌汚染するから毒の血。デバフモンスターです。

毒といったら藤丸立香。
毒沼を突き進み、毒雨から2人を守るという漢を魅せました。
それにしても本当に藤丸立香の毒耐性能力は一体なんでしょうね。
いまだにどうやって獲得できたか明かされていないんですよね。気になります。

安定の哪吒
彼女(彼?)は本当に強い英霊です。
妖魔討伐のプロでもあるので相柳相手でも勝利しま。
まあ、本編にも書きましたが相柳の力を使いこなせていない&精神が精神が侵食されている相手に哪吒は負けない。


1170
炎蓮と太歳星君おくれてやってくる。
今回2人は出番なし。ごめんなさい。


1171
汚ねえ花火だ。小ネタです。

今回の黒幕である韓暹。
彼は八傑衆よりも強いです。出オチキャラでもなく、ちゃんと強い。
そんな彼が内に取り込んだ妖魔もとい神霊(凶神)は…相柳がヒントですね。

なので太公望も真剣モード。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。