Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
8月ももう終わりですね。それは夏休みの終わりであり、夏の終わりでもある。
FGOの水着イベントももう終わりますね。
今回の水着イベントも面白かったです!!
今回も夏らしい展開で素晴らしかったです。
来年もまたFGOの夏が来て欲しいものです。
夏ももうすぐ終わりですが…暑さは続きそうだなあ。
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過去の呉での異変が終わりに近づく。
太歳星君に組み込まれた謎転移の術式は回数が限られている。太公望の解析によると残り1回との事。
誰が太歳星君に転移の術式を組み込んだかは一向に謎だが全ての異変が解決すれば自ずと、その誰かが分かるかもしれない。
「で、気が付いたら転移が完了していた」
「賑やかな場所に来ましたね。ここ呉じゃないですよ」
周囲を見渡すと呉とは違った賑やかさを感じる。そして発展度合いが呉とは違う。
「もしかしてここって都?」
都、すなわち洛陽。
「その可能性は高いな。いや、正解か」
黄飛虎も周囲を見渡して、今いる場が洛陽だと当たりをつける。
藤丸立香も黄飛虎たちも少し先の未来の洛陽を知っている。少し先の洛陽と過去の洛陽で少し風景が違う程度だ。
「過去の孫呉の事件も恐らくここで最後か」
「よりによって洛陽というのがまた…」
洛陽と言うよりも朝廷内部の腐敗が進んでいる状況。何が起きてもおかしくない。
敵の韓暹は元官軍で朝廷に紛れ込んでいる可能性もある。そして既に洛陽が敵の掌の可能性もあるのだ。
それは藤丸立香たちが洛陽に転移した瞬間、もう敵の口元という事でもある。
「最初から警戒」
洛陽の街中は人で賑やかだ。しかし刺客が紛れ込んでいてもおかしくない。
「敵はやっぱ朝廷に潜り込んでいるかな」
「可能性はありますね」
「危険だけど…そうなるとオレらも朝廷に乗り込むしかない?」
「危険すぎますね。何も理由なく朝廷に潜り込んだらお縄です。例え敵が朝廷に潜り込んでいても」
朝廷に凶悪な人物が潜り込んでいると正直に話しても信じてくれるはずがない。
朝廷に入れるちゃんとした理由がなければ藤丸立香たちはただの不審者なのだから。
「どうにか正式には入れる理由を……ん?」
ここで藤丸立香は見知った顔を見つけた。それも複数人だ。
「あ、炎蓮さんたちだ」
「それと向こうは郭雄殿に粋怜殿じゃないですか?」
太公望の視線の先には粋怜たちを見つける。
「あ、黄黄を見つけたぞ。どうやら朝廷の方に向かってるぽい」
太歳星君は紫苑を見つけたようだ。
「おいおい…全員集結じゃないか」
もう既に敵の策が仕掛けられているんじゃないかというくらいだ。
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天下の都 洛陽。
「おっ、おっ……おおおおおおおおっっ!!」
感嘆の声をあげたのは祭。
「ほ~う…」
炎蓮も初めて洛陽に足を踏み込んで、その発展具合と賑やかさを素直に驚いていた。
曲阿と洛陽では発展度や文化レベルが圧倒的だ。曲阿を洛陽に住む者から「田舎」と言われても反論できない。
「いやぁ、たまげた。これが天下の都か!!」
周囲の者が祭を見たら「お上りさんかな?」と思うかもしれない。
「なんたる建物の多さ、高さ。それに道の広さ!!」
「田舎者のようにきょろきょろするでないわ」
実際に行動が田舎者だからしょうがない。
「流石は天下の都だぜ」
炎蓮たちが洛陽に来たのは特に理由はないと思われる。彼女が言うには一度、天下の洛陽を見ておきたいというだけだ。もしかしたら何か考えているかもしれないが祭自身は彼女の真意はまだ分からない。
そんなこんなで炎蓮は祭と雷火を誘ったのだ。尤も雷火は幾度か洛陽を訪れているので、ついでに案内人をさせようという魂胆もある。
「こいつは噂に聞いた以上だ。曲阿の田舎町とは大違いだぜ」
炎蓮たちは知らないかもしれないが既に有名人となりつつある。
何でも洛陽(朝廷)では「呉の狂った虎が都見物にやって来る」と噂になっているのだから。もしも雷火がその噂を聞いていれば「喜んでいいのかどうなのか…」呟くはずだ。
「こうして通りに立っているだけでも何やら身震いがしてくるの!!」
祭は興奮が治まらない。炎蓮は顔には出さないが心の中では興奮している。
「して姉貴よ。これからどうするのじゃ?」
「まずは宿を決めねえとな。洛陽城へ行くのは明日だ。張昭、手紙は送ってあるんだろ?」
洛陽に来ようと思えばいくらでも行けるが朝廷に入るには理由がある。
その為にわずかなコネを使って朝廷に入れる準備を用意したのだ。
「うむ。盧植殿と会う約束を取り付けた。お主は盧植殿を知っておるのじゃったな?」
「まっ、少しな」
炎蓮は風鈴とはちょっとした知り合いだ。
「天子様にはお会いできんかの?」
「たわけが、身の程をわきまえい。たかが県令とその家来風情が天子様に謁見など出来ようはずがないわ」
天子は大陸の人間からしてみれば天上の存在だ。簡単に顔を拝見できるはずが無い。
現代のどの国でも王族に簡単に拝見できるはずがないのだから。
「はん、せっかく都へ来たのじゃから、お顔を見るくらいは良かろう」
「今の都は宦官どもが牛耳っているんだよ。桓帝陛下に謁見したかったら連中にたんまりと賄賂を積むしかねえ」
「ふー…嘆かわしい話じゃ」
この時代から既に宦官の力は強かった。
桓帝の時代では梁冀という将軍が実権を握っていた。桓帝はそれに対抗するため、宦官たちの力を借りて梁冀将軍を誅殺した事件がある。
そうして桓帝は梁冀からの傀儡を脱したのだが、次なる敵は力を貸してもらった宦官たちだった。ただ実権が梁冀から宦官に移行しただけである。
桓帝からしてみれば変わらない結果に歯ぎしりしたかもしれない。
「それにしてもじゃ。孫堅よ、お主は正気か?」
「あん?」
「お主はその出で立ちで洛陽城へ行く気か?」
雷火は炎蓮の服装を注意する。何せいつも通り山賊風の恰好なのだから。
「何か問題でもあるか?」
「何故無いと思えるのじゃ!!」
「ううむ…儂も少々、心配じゃな」
祭も炎蓮の恰好にはマズイと思う。
ここは天下の都で、これから赴く先は大陸の心臓。流石にちゃんとそた恰好が良いと祭でも思うものだ。
「お主は仮にも県令なのじゃぞ。県令としての正装というものがあろう」
炎蓮にも県令としての正式な服装は持っている。しかし今この場に持ってきていない。
「別にいいだろ。オレが合うのは盧植だぜ。下っ端の官吏と会うのに何でいちいち正装なんざしなきゃならねーんだ」
こんな事を言っているが炎蓮は風鈴を見下しているわけではない。彼女ほどの人間は寧ろ評価している。
先ほどの言葉は理由があって言っている。
「そういう問題ではないわ!!」
「姉貴よ、そこいらの店で何か着物でも買っていかんか?」
「オレはこれでいいンだよ。文句があるならテメーらは街の見物でもしてろ。明日はオレ一人で洛陽城へ行くからよ」
手をフリフリしながら宿を探しに行く。朝廷に行くのは明日である。
今日は宿を見つけて洛陽の街を観光するだけだ。
「んあ?」
炎蓮の視線がある人物たちを見つける。
「あ」
藤丸立香も炎蓮の視線に気付く。
「「あ」」
雷火と祭も藤丸立香を見つけて走り出した。何故か片腕を振り上げて。
「え、2人も!?」
祭と雷火が藤丸立香に何をしようとしているかすぐに理解出来た。
「張昭さんはそんな事する人じゃないでしょ!?」
この外史世界に来てから孫呉の関係者と再会する時はラリアットが常識とは思いたくないものだ。
「ダブルラリアットぉ!?」
孫呉の関係者は野蛮といわれてもおかしくない。尤も藤丸立香限定かもしれないが。
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藤丸立香は再会に雷火と祭からダブルラリアットを食らわされた。そして何故か炎蓮からも軽めのラリアットを食らわされた。
「酷くない?」
「お主が勝手に居なくなるからじゃぞ!!」
「そうじゃぞ。儂らはあの後、探し回ったんじゃからな!!」
相柳との戦いの後、藤丸立香たちはすぐに転移した。故に祭と雷火に「無事だ」と何も言えなかったのだ。
今まで同じような事ばかりで学習しない藤丸立香も藤丸立香もなのだが。
「ま、そこまでにしとけ」
炎蓮が祭と雷火を宥める。
「いーや。まだまだ言い足りんぞ」
「姉貴の言葉でも儂は止まらんぞ。それだけ心配をかけたのじゃからな!!」
何度も体験したが、こういう時はしっかりと耐えるしかない。
彼女たちが言うようにそれほどに心配をかけたという事だ。
「それと孫堅!!」
「何だよ?」
「以前、呉に来た時に藤丸たちと再会していたのを知っておったんじゃな!!」
「姉貴。それなら曲阿に返って来た時に話してくれても良かったではないか。如何に姉貴といえど酷いぞ」
当時、祭は曲阿で仕事を全うしていた。雷火は依頼があって呉を離れていた。
炎蓮だけが先に藤丸立香たちと再会していたのだ。その為、今回のラリアットは軽めだった。
「オレだって立香たちと食事をするはずだったのに、勝手に帰られたんだぞ」
「勝手に帰ったわけじゃないんだけど…だって炎蓮さんが投獄されたんだし」
「それはわしも知っておる。郭雄殿と一緒に何をやっておるんじゃと呆れたぞ」
粋怜の手によって炎蓮は牢屋に投獄された。原因は調子に乗って迷惑行為をしていた呉の県丞の副官と喧嘩した事である。
「はあ…しかし、無事でよかったぞ。命の恩人が生きててな」
「おう。この借りはちゃんと返すぞ立香。大船に乗っておれ」
炎蓮だけでなく、雷火や祭とも借りを作った藤丸立香。その借りがいずれ返す時が来るかもしれない。
「太公望に黄飛虎も無事だったか。いや、あの時に2人は居たっけか?」
「実は僕近くにいましたよ?」
「某は居なかったな」
「太歳星君と哪吒殿はいたの」
「ワガハイはイェンイェンと一緒にいたぞ」
「僕 相柳を花火」
何はともあれ何度目かの再会を喜ぶのであった。
「あ、文台様。それに立香だ」
「おお、程普じゃねえか」
「程普?」
粋怜と合流する事は予想できていた。何せ炎蓮たちと発見した時と同じように洛陽の街中で見たからだ。
「おい、お主はなんじゃ」
「アンタこそ誰なによ?」
粋怜と祭が視線がバチっとぶつかる。
「儂は曲阿の県令・孫堅殿にお仕えする家臣の黄蓋じゃ」
「黄蓋…どこかで聞いたことのある名前ね」
「次はお主が名乗る番じゃぞ?」
「私は程普よ。呉の役人をしているわ」
「ほう?」
粋怜は祭の後釜だ。
「おお、程普ではないか」
「あ、張昭先生。呉から離れているかと思えば洛陽に訪れていたんですね」
「うむ。コイツらに連れられてな」
雷火は炎蓮と祭に親指を向ける。
「張昭先生…無理やり連れられてきました?」
「一応、わしの判断じゃ。だからまた孫堅を牢屋に入れんでいい」
「あはは。分かりました」
呉の役人なのだから粋怜が雷火と知り合いなのは不思議ではない。
「おう、この程普はオレが太守となった暁に片腕を務める女だよ」
「ぬあ…な、なんじゃと!?」
祭は粋怜が炎蓮の臣下(予約済み)をまだ知らなかった。そして雷火もまた知らなかった。
「はい、文台様。早く太守に出世して仕官させてくださいね?」
「待てい待てい。待て待て待てい!!」
「アンタうるさいわね」
まさかの登場に祭は驚く。
「おい程普」
「何ですか張昭先生?」
「孫堅に何か脅迫でもされてるのか?」
「されてませんって」
本当に雷火は粋怜を心配していた。彼女の真面目さは雷火も評価している。
「待て待て、姉貴の片腕ならば既にこの黄蓋がおるわ!!」
「黄蓋はオレの右腕よ。程普は左腕だ」
この言葉は本心だ。
2人は己の両翼になると確信している。
「えー、私が左腕なの。右腕の方がいいんですけどー」
右腕、左腕云々は人それぞれである。
「いったい貴様は何なのじゃ?」
「だから程普よ。呉の役人」
「それはもう聞いた。じゃが、何故木っ端役人ごときが孫堅殿にそこまで見込まれておるのか?」
祭は粋怜に敵意マシマシだ。何せ尊敬する炎蓮が粋怜を期待しているからだ。
今の彼女が粋怜に向けているのは嫉妬である。
「そんなこと私に聞かれても知らないわよ」
「ハッハッ、ひがむんじゃねえよ。まー徳謀とも色々とあったんでな」
「ねー、文台様」
地下牢での口説き文句に誘い文句。あの時の出会いは粋怜にとって良き思い出だ。
「ぐぬぬぬぬぬ!!」
「程普はオレが見込んだ武人だ。黄蓋、テメーはそれに文句をつけんのか?」
「ッ……いや、姉貴がそう言うなら儂も文句は無いが…」
流石に炎蓮から咎められると祭は何も言えなくなる。
「黄蓋……あ、思い出した」
「んん?」
ここで何かポンっと手を叩くような感じの粋怜。
「黄蓋って私の前任者でしょ。侠や賊と手を組んで呉の街を好き放題に荒らし回っていたっていう……そう、鉄弓党の首領だわ」
「ぬ……まあ、そうじゃ」
顔が歪む祭。当時は確かに粋がっていたが今は黒歴史である。
「へええ……アンタが黄蓋だったのね。ふふふ、噂は聞いているわよ?」
「どんな噂じゃ?」
「さんざん粋がって暴れていたのに文台様に殴られて一発でのびたんでしょ。口だけって、まさにアンタのことね」
「姉貴!!」
ここで祭は炎蓮に「勘弁してくれ」という顔をしていた。
「オレは何も言っちゃいねえよ。だが、鉄弓党の首領が孫堅にのされたってのは呉だと有名な話らしいぜ?」
「まあ、当時は鉄弓党は呉で有名だったね。炎蓮さんと祭さんの決闘はすぐに広まったと思う」
「うぐ…藤丸まで」
ただでさえ当時の呉では祭を恐れ、炎蓮は人気者だった。2人の有名人が決闘なんて噂がすぐに広まる。
「そっかー、それで文台様の子分をやっているのね」
「子分とはなんじゃ。儂はれっきとした孫堅殿の家臣じゃ!!」
「文台様ももう少し家来は選ばないと」
「しょうがねえだろ。勝手にオレを姉貴と呼んで家来にしねえと死ぬまで言われたんだぜ?」
祭が炎蓮にほぼほぼ脅迫に近い形で臣下になったのだ。
家来してくれないと死ぬなんて脅迫は炎蓮にとって初めてだ。ある意味、祭も炎蓮を驚かせる人物の1人である。
「迷惑な話ですよねえ」
「くーーーーッ!!」
(まあ、確かに昔の祭さんの行動は未来と違う……と思う)
(仲間にはぶっ飛んだ人がいるものです。仙境にも軍にもいましたね。特に崑崙には)
(そうだな。某もぶっ飛んだ仲間がいたものだ)
良くも悪くも仲間は個性的という事だ。
「今じゃあコイツの根性と気合を買っているがな。何より黄蓋には下の者を惹き付ける妙な人徳がある。こんな馬鹿でもしっかりとオレの右腕よ」
「姉貴…!!」
最初は厄介な奴かと思っていたが今では立派な炎蓮の右腕である。
「へえ」
炎蓮が認めているという事で粋怜は祭が少なくとも臣下として本物だという事だ。
「頼んだぜ粋怜?」
「っ!!」
「すいれい?」
「……私の真名よ」
「なっ…」
まさか真名まで交換しているとは思わなかったようだ。
「炎蓮様がそうおっしゃるなら私お黄蓋を受け入れるしかありませんね」
「……ふん、祭じゃ」
「あら、無理をしなくてもいいのに」
「孫堅殿…炎蓮殿が真名を預けた相手ならば儂としてお主に真名を名乗らねばなるまい」
炎蓮が真名を預けているという事で信用出来る仲間というのは分かった。しかし嫉妬は消えない。
「祭ね。ふふふ、よろしく」
「はんっ。儂はお主を認めたわけではないからの」
「はいはい」
お互いに炎蓮の器の大きさを誰よりも知っている2人。今は仲良くはないかもしれないが未来では互いに信用出来る仲間(孫呉の両翼)となる。
未来を知っている藤丸立香だから思える事である。尤も喧嘩は無くならないが。
「おい程普。勝手に何処かに行く…む、張昭先生に孫堅か。それに…黄蓋か?」
「え、郭雄殿スか?」
「おお、それに藤丸たちまでいるのか」
「郭雄さん。お久しぶりです」
次から次へと呉の関係者が集まる。
そもそも粋怜が洛陽に居るのも不思議だ。その理由は郭雄が知っている。
「郭雄殿。何故、程普と共に洛陽に?」
「うむ。朝廷に呉での報告だ。ここ最近、事件が多かったからな」
ここ最近の事件とは海賊防衛戦や地下牢での怪異事件などだ。
彼としては朝廷が何故、呉での事件を直接での報告が欲しいのか不思議でならない。
「ふーん。そうなんスか」
「というか孫堅は何故洛陽にいるんだ?」
「一度は天下の都である洛陽に来てみたかったから。勿論、朝廷にもな」
「……その恰好でか?」
郭雄は炎蓮の山賊のような恰好にツッコミを入れる。
「ああ」
どや顔の炎蓮。
「この大うつけが今では曲阿の県令とはのぉ。世も末とはこのことじゃな」
「全くです……しかし、驚くべき程の出世の速さでございます。やはり孫堅はただ者ではありませんな」
(お、郭雄がオレを褒めたのか?)
まさか褒められるとは思わなかったのでつい一瞬キョトンとしてしまった。
「それよりも郭雄殿。アンタまだ県令をやってたんスか。いい加減、太守でにも出世したらどうだよ?」
「い、いや…お前の出世が早過ぎるのだ」
炎蓮の出世の速さは郭雄だけでなく、他の県令たちも知っている。
それだけ規格外で器が大きいという現れかもしれない。
「流石は姉貴じゃ」
「ぬう…黄蓋か」
祭を視界に入れて顔を顰める郭雄。
「郭雄殿。いつぞやは迷惑をおかけしましたな。されど今は心を改め、孫堅殿の家臣をこうして立派に務めておりまするぞ」
謝罪をする祭だが郭雄は顰めた顔のまま。
「っ……おい孫堅、よく黄蓋の仕官など許したな?」
「ふふっ、ホントにね」
「ハッハッ、郭雄殿。アンタも黄蓋には苦労しただろうが、まあ過去のことは水に流してくれよ」
「簡単に言うでないわっ。この者にどれほどの辛酸を舐めさせられたか!!」
ビシっと指を祭に突き刺す。どうやら郭雄は祭に対して怒りが残っているようだ。
それ程までに郭雄の部下だった時の祭が問題児だったという事である。
「申し訳ござらんかったの」
「反省している声色ではないぞ!!」
「郭雄殿、しつこいぜ。済んだ事はもういいじゃねえスか」
「いかに孫堅の頼みであろうと私は許さんからな!!」
「そうなのか?」
祭が鉄弓党時代に郭雄に迷惑をかけたのは本当である。当時は炎蓮に頼んで成敗してもらったがそれでも怒りは簡単には治まらないものだ。
しかし彼女自身がどうしようもない悪人というわけではない。彼女には彼女の良い所があり、悪人ではなく善人なのだ。その事を炎蓮はよく理解している。
「張昭先生。私はこれにて失礼いたします」
「うむ…」
「藤丸たちとも話がしたかったがまたな」
「あ、はい」
郭雄は藤丸立香たちとも久しぶりに飲茶でもしながら談笑でもしたかったようだが祭が居たから諦めたようだ。
「おい程普、私は街をブラついている。お前が孫堅と旧知の仲は聞いているから私に付き合わなくていい。その代わり明日の朝廷に行く時は遅刻するなよ」
「はい」
そう言って郭雄殿は洛陽の街へと進んでいった。
「……郭雄殿は未だに黄蓋を恨んでおるか」
辛辣を舐めさせられた相手を簡単に許せるわけがない。ただでさえ、郭雄は祭の良い所をまだ知らないのだから。
「はん。いつまでも昔のことを。腹の細かい男じゃ」
「ちょっとアンタ、郭雄殿の悪口は部下の私が許さないわよ」
「ああ?」
「郭雄殿を差し置いて、ゴロツキと一緒に呉の街を牛耳っていたのはアンタでしょ。恨まれて当然よ。少しくらいは反省したらどうなの?」
先ほど、真名を交換し合った粋怜と祭。しかし祭の郭雄に対しての態度に粋怜は癇に障ったようだ。
「何を抜かすか。儂は儂のやり方で民をまとめておったのじゃ。現にこの儂が呉におった頃、ごろつきどもは一つにまとまり。街の治安とて今よりも良かったのじゃぞ」
確かに祭が鉄弓党を率いていた頃は治安が良かったというのは本当であった。しかしやり方が問題だったというしかない。
「よく言うわね。今の呉を知らないくせに」
今の呉も治安は良い。粋怜も呉の役人として真面目に仕事をしているし、郭雄も県令として真面目に任をこなしている。
郭雄はそこらの県令よりも真面目で呉の民からも信頼を得ているのだ。
「それにアンタ、民からお金を巻き上げていたんでしょ?」
「そ、それは…確かにそこは儂も分別がなかったが…」
粋怜の今の言葉は祭も反論できなかった。確かに彼女自身もやり過ぎていたというのは理解していた。特に炎蓮に成敗させられた後はより一層に。
「私が当時、呉に務めていたらアンタのことなんか叩き斬っていたわね」
「何をぉっ。貴様、儂に喧嘩を売っておるのか!?」
「ええ、喧嘩を売っているのよ」
険悪な空気が立ち込める。
これはマズイと思って藤丸立香と黄飛虎が目配せをして止めようとした時、我先にと怒鳴る人物がいた。
「餓鬼め。やれるもんならやってみい!!」
「アンタって怒鳴ってばかりね。粋がる暇があったら掛かってきなさいよ。私のことが怖いの鉄弓党の首領さん?」
「貴様ああああ!!」
「やめんかあっ!!」
2人を止める為に怒鳴った人物は雷火である。
「このたわけどもが。左様に喧嘩がしたくば都の外でやれい!!」
ここは呉でも曲阿でもない。都のど真ん中で喧嘩なんて恥でしかない。
「ハッハー。おう、やれやれー!!」
「炎蓮さん。ここは炎蓮さんが止めるとこだよ」
「オレは喧嘩させてやってもいいんだがな」
何故か喧嘩を推奨させる炎蓮。
「何でさ……喧嘩した方が互いに腹の内を曝け出させる為的な?」
「分かってんじゃねえか立香」
「時と場合によるよそれは」
未来でも粋怜は祭とよく喧嘩をしていたと言っていた。まさか出会ったばかりからでも喧嘩が起こるとは思わなかった。
仲が良いのか悪いのか分からないものだ。しかし喧嘩する程仲が良いという言葉もあるので2人はその言葉に当てはまっているのかもしれない。
「ふんっ!!」
「……張昭先生、申し訳ございません。ついカッとなってしまって」
「ああ、なんだよやらねえのかよ」
「孫堅、お主も少しは注意せんか」
「喧嘩なんぞやらしときゃーいいじゃねえか」
「まったく…やはり微塵も成長しておらん」
洛陽で全員集合したが空気が悪い状況だ。
(これも敵の策略だったりするかな太公望?)
(これは……たぶん関係無いですね)
敵の策略と関係無いようだが一抹の不安はある気がするのであった。
読んでくださってありがとうございました。
次回の更新もまた未定。
1186
江東の虎物語編の最後の舞台は洛陽(朝廷)。
今回の黒幕である韓暹が動き出します。
オリジナル展開がまたも広がりますね。
1187~1188
ここいらの流れは英雄譚4や英雄譚の後日談の話です。
オリジナル展開にもなっているので朝廷に今回の主要人物たちが朝廷に全員集合。
朝廷で立香や炎蓮たちが活躍していきます。