Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
FGOではついにハロウィンが始まりましたね。
まさかチェイテピラミッド姫路城が飛ぶとは…そこまで至ったのに驚きしかありませんね。

そして今まで謎だった三首竜の謎がついに分かるんですよね。
……プレイしてその正体を知って呆然とした作者です。そして想像以上にヤバイ存在だったのも知ってまた驚きました。
今後はどういう展開になるのか気になります!!


江東の虎物語-朝廷内で迷う①-

1999

 

 

朝廷迷宮内の何処か。

 

「何とか逃げ切れたな…」

「黄飛虎と哪吒とは逸れちゃいましたね」

 

朝廷内の何処かの部屋に太公望と炎蓮たちは一時的に避難していた。しかし永遠と隠れられているわけではない。

 

「なんなんじゃアレは!?」

「あれは共工。龍であり神ですよ」

「神!?」

 

祭の疑問に太公望は冷静に答える。

共工は四罪の一柱であり、司る力は洪水。

中国神話で登場する強大で格上の存在だ。今の韓暹は龍であり神。

まともに戦って勝てるわけがない。閉じ込められた迷宮には禍々しい黒き龍が蠢きまわる。

炎蓮たちは黒い龍の狩場(餌場)に迷い込んだ憐れな草食動物だ。

 

「どうするんじゃ!?」

「どうするって言われても考え付かんわ!!」

 

雷火や祭も今回ばかりは想像を絶する状況に喚いてしまう。

 

「この朝廷で何が起きてるの…」

 

冷静沈着である風鈴も考えが纏まらないのか頭を抱えていた。

これが普通の状況かもしれない。龍なんて最強生物を前に人間は何も出来ないのが普通だ。

龍は天災であり自然災害のようなもの。人間は自然災害に対して何も出来ず、ただただ過ぎ去るのを待つしかないのが普通である。

 

(おいおい海賊防衛戦と同じ…いや、それ以上の危機的状況じゃねえか?)

 

炎蓮も冷静でいようとしているが韓暹(共工)の黒き龍の姿を見て解決案が全くもって思いつかなくて焦りが滲んでいる。

逃げ道が分からない空間にいて危険すぎる黒い龍がうろついている。狂った虎なんて言われている彼女でも本当に何も思いつかない。

海賊防衛戦の時は何とか策は思いついた。しかし今回は本当に何も思いつかない。

 

(本当に危機的状況じゃねえか!?)

 

韓暹(共工)は今までの己が策を潰したと言っていたが全くもって身に覚えのない炎蓮だ。海賊や雷火が投獄された事、粋怜が襲われた事件がそうなのだとしたら逆恨みも甚だしい。

訳も分からず命を狙われて、正当防衛で撃退したのだから。これで今度は黒幕自らが炎蓮を殺しに来たとか逆に怒りたくなるものだ。

 

(逆にあの龍をぶっ飛ばしたいくらいだぜ。ぶっとばしたいがあの巨体をどうやって倒せばいいのか思いつかねえ)

 

まともな武器もない。龍を倒す策も思いつかない。

 

(どうするか…張昭も盧植も龍相手じゃ知恵も策も出て来ねえんじゃねえか。オレだって何も思いつかねえし)

「皆さん」

「なんだよ太公望?」

「まずは皆と合流しましょう。黄くんやマスターたちと合流するのが先決です」

 

 

2000

 

 

朝廷迷宮内の何処か。

 

「ここって何処だ。いや、朝廷のはずだけど朝廷じゃない気がするぞ!?」

 

郭雄は朝廷迷宮で迷って叫んだ。

彼は朝廷に今まで呉やその付近で起きた事件の報告をしに粋怜と共に訪れていた。しかし小さい事件のようなものまで報告するのに朝廷まで足を赴きのは不思議なものだ。

海賊防衛戦に関しては報告しても変ではない類だ。しかし雷火が投獄された事や炎蓮が投獄された事まで報告するのは変である。

 

「そもそも孫堅が投獄されたと聞いた時はついにかと思った…いやいや、今はそれどころではない!!」

(この感じ…呉の地下牢と似ている気がする)

 

粋怜は今の異常事態をすぐに理解出来た。恐らく何かに狙われるかもしれないと思って周囲を見渡す。

 

「どどどどど、どうする!?」

「郭雄殿、落ち着いてください」

「そ、そそそそそうだな」

「全然、落ちついてません。取り合えず進みましょう」

 

朝廷内は異界化した。このまま立ち往生は出来ず、進むしかないと判断した。

結局の所、立ち止まっても待っていても何かが起きる保証はない。故に自ら動くしかないのだ。

 

「進むしかないのか…」

「はい、周囲に気を付けて進みましょう。私が先に進みますので後ろから付いてきてください」

「頼もしいな程普は」

 

近くに偶然あった槍を構えて朝廷内迷宮を進んでいく粋怜と郭雄。

 

「む?」

 

朝廷が異界となった通路は何処かおかしい気がする。

 

「寒い…」

 

まるで寒い廊下を進んでいるかのようである。

異界化しているとはいえ、先ほどまで適温であったはずなのに今は肌を摩りたくなる。

 

「何でこんなに寒いの?」

「凄い寒い…というか怖い感じがするんだが」

「っ、こっちです郭雄殿」

 

何か嫌な予感がする。粋怜は郭雄を引っ張って建物内の陰に隠れた。

ゆっくりと視線を上の方へと向けると巨大な黒い物体が頭上をゆっくりと蠢きながら通過した。それは黒龍でだった。

2人が寒気を感じたのは生物が本能的に危険だと感じたからだ。

 

「えっむぐ!?」

「なぁっむぐ!?」

 

黒い龍に驚いて悲鳴をあげそうになった2人の口を誰かが塞ぐ。

 

「静かに」

「見つかる」

 

2人の口を塞いだのは黄飛虎と哪吒であった。

 

「黄飛虎殿に…」

「哪吒殿?」

 

粋怜たちは黄飛虎と合流。

お互いに今までの経緯を話し合う。

 

「妖術によって迷宮となった朝廷に閉じ込められただと!?」

「しかも龍…というか神だが何だがか私たちを狙ってきてるですって?」

 

黄飛虎が説明する内容に郭雄と粋怜は信じられないといった顔だ。しかし哪吒が静かに黒い龍となった韓暹(共工)に指をさす。

 

「うむむ…」

 

今の状況が証拠である。自分の目で見たモノが正解だのだから。

 

「な、ならこれからどうするんだ?」

「丞相殿とマスターと合流しよう」

 

現状では韓暹(共工)をどうにかする方法はなく、朝廷迷宮からも脱出出来ない。

 

「だ、誰だ?」

「太公望と立香」

 

聞きなれない呼称なので名前をちゃんと言う哪吒。

 

「おお、太公望殿と藤丸に会えばいいのか」

「立香に」

 

呉での地下牢の事件を思い出す粋怜。確かに藤丸立香や黄飛虎たちと一緒なら何か解決策があるかもしれない。

 

「マスター探しにゴー」

 

韓暹(共工)に見つからないように朝廷迷宮を進み、藤丸立香たちと合流するしかない。

 

「見つけたぞ!!」

 

見つからないようにと言っておきながら早速見つかった。

 

「ひいいいいい!?」

「走れ!!」

「逃がすか。羽虫共!!」

 

韓暹(共工)が見つけたのは黄飛虎や粋怜。仕留めるターゲットである為に口を大きく開ける。

 

「噛み殺してやる!!」

「ひえええええええ!?」

 

郭雄が情けない悲鳴をあげた。

 

「郭雄殿もっと早く走ってください!!」

「無茶言うな程普。これが精一杯だ!!」

「妾の神力を見せてやろう」

 

韓暹(共工)が開いた口に水球が生成される。

 

「妾は洪水の力を司る。即ち水の力じゃ。水に圧し潰され、溺死するがいい!!」

 

水球が吐き出され、黄飛虎たちに迫る。

 

「来た来た来た!?」

「郭雄殿。某の手を掴め」

「こ、黄飛虎殿」

「横の部屋に入り込むのだ!!」

 

黄飛虎たちは扉を蹴り飛ばして一斉に張り込むのであった。水球はターゲットを外し、朝廷迷宮の一角を押し潰すのであった。

 

「ひぃひぃ…助かったぁ」

 

郭雄はへたり込む。

 

「ここは安全なのか?」

「安全ではないだろう。早くここから離れた方がいい」

 

ここは異界となった朝廷迷宮であり、入った部屋自体も異界。

部屋に入れば別の空間に移動する。これは黄飛虎が確認済みである。

韓暹(共工)から逃げるには何処でもいいから部屋に入ればいい。巨体の韓暹(共工)は扉を潜れないのだから。

 

「というかここは何の部屋だ?」

 

韓暹(共工)から逃げる為に適当に入った部屋を見渡す。部屋中には金銀財宝が置いてあった。

 

「おおおおおおおおお!!」

 

目を輝かせる郭雄。

金銀財宝は特別な魔力があり、人を惑わせるという魔力だ。

その魔力は欲が強く、権力を欲する人間ほど効き目が抜群である。

 

「おおおおお!!」

「郭雄殿」

「おっふ!?」

 

粋怜に注意されて我に返る郭雄。

 

「ここは朝廷での金庫室のような場所か?」

 

朝廷に金銀財宝や骨董品を保管する部屋くらいあるはずだ。朝廷迷宮に飲み込まれた金庫室にたまたま黄飛虎たちが入り込んだのである。

 

「金銀財宝か」

 

生活していくには金は必要だ。誰もが金はあるだけあった方がいいと思う。

金に興味がないと言う人間はいない。

 

「停止」

 

哪吒が全員を動きを止まるように促す。

 

「どうした哪吒殿?」

「敵」

「む」

 

黄飛虎は槍を構える。金銀財宝がある部屋内を警戒していると、金銀財宝が動き出し、浮き、クロス型に形成していった。

 

「な、なんだアレ!?」

「金銀が動いた?」

「アレは……ダンシングコイン」

「だ…だんしぐ?」

 

ダンシングコイン。コイン型のエネミーだ。

頑張って倒すとQPがたくさん貰える。QPが足りないマスターは頑張って周回をするものだがストームポッドが必要なのでたくさんは回れない。

よくセイバークラスの英霊か即死スキルや宝具のある英霊が駆り出されている。

 

「アレはなんなの黄飛虎殿?」

「そうさな…金の妖魔みたいなものだ」

「倒せば金落とす」

「金の妖魔ね…縁起が良いのか悪いのか」

 

粋怜がダンシングコインについて説明を求むと簡単に説明する。

 

「金を落とすと?」

 

何故か郭雄が食いついた。

 

「肯定。まあまあ落とす」

「ほほぉ…」

 

考えこむ郭雄だが意気揚々と剣を構える。

 

「妖魔は朝廷のものではないからな。そして妖魔が落とす金も朝廷のものではないだろう。うむ、そうだな。ヨシ」

「何がヨシですが郭雄殿」

 

郭雄の持論にツッコミを入れる粋怜であった。

 

「倒すぞ程普!!」

「まあ、妖魔で襲ってくるなら倒さないといけないんですけど」

 

目の前にダンシングコインは複数現れている。

 

「気を付けろ。アイツらは」

「アイツらは何ですかな黄飛虎殿。いっぱい金を落とす奴がいるのですかな」

「ぶっとい閃光(レーザー)を撃って来るぞ」

 

ダンシングコインたちがレーザーを放つ。

 

「何でだ!?」

 

郭雄が必死でレーザーを回避。

 

「金銀財宝が襲って来るって初めての経験なんですけど」

 

お金で身を滅ぼすと比喩される事はあるが物理的に滅ぼされるのは嫌なものだ。

 

「某や哪吒殿はあまり戦う事はなかったが蘭陵王や微姉妹が言っていたな。まあまあ厄介だと」

「厄介どころではないぞ黄飛虎殿ぉ!!」

「はっ!!」

「てい!!」

 

粋怜と哪吒がダンシングコインを薙ぎ払う。

 

「倒せなくはないぞ」

「ううんむ…」

 

まあまあ厄介なだけで倒せなくはないエネミーである。

ダンシングコインを倒すとチャリンチャリンと金銀を落としていく。

 

「おおおおお。程普、哪吒殿いいぞー!!」

 

ガッツポーズを取る郭雄であった。

 

(拾ってもかさばるから郭雄殿にはダンシングコインが落とした金銀は置いてってもらおう)

 

そんな事を言えば郭雄は渋る事を予想していた。

 

「そ、そんな…少しだけでも持って行ってはいかんのか?」

 

予想通り郭雄は渋った。

 

 

2001

 

 

朝廷迷宮の何処か。

 

「アレは色々とマズイぞ。ワガハイでもヤバいって思う」

 

祟り神である太歳星君でさえ最大に警戒する。

彼がそんなに警戒する存在とは黒い龍である韓暹(共工)。

 

「黒い…龍」

(あれがきっと今回の黒幕…)

 

藤丸立香と太歳星君は紫苑と合流した後、そのまま朝廷迷宮に囚われた。

これからどうするかと考えていた矢先に韓暹(共工)を視認してすぐに隠れたのである。

 

「どうしよう。早く盧植様に孫堅お姉さんが刺客に狙われてると報告しに行かないといけないのに」

 

紫苑が思い出しているのは呉での地下牢事件だ。規模は今回が大きいが似たような事象と理解している。

 

「たぶんだけど炎蓮さん…孫堅さんもここにいると思う」

「え」

「孫堅さんが狙われているのはオレも知っていた。だから朝廷まで来たんだ」

「それで朝廷に侵入して来たって…藤丸のお兄さん危険すぎと言うか無謀じゃないの?」

 

紫苑には既に藤丸立香たちが朝廷に来た理由を大体聞かされていた。その理由に紫苑は呆れていた。

 

「一歩間違ったら朝廷への侵入罪や皇帝暗殺とかの容疑で処刑されてもおかしくないよ」

「それを言われると何も言い返せない……それでも孫堅さんを見殺しには出来ないからね」

「まあ、その心意気は悪いとは言わないよ。それよりもあの黒い龍だよ」

「ああ。たぶんあの黒い龍がこの異常事態の原因であり、孫堅さんを狙っているかもしれない」

「何で龍が孫堅お姉さんを狙うのさ」

「……それは黒幕にとって孫堅さんが邪魔だと思っているからかもしれない」

 

孫堅が邪魔と言われて紫苑は宦官たちが言っていた言葉を思い出す。それは「自分たちの地位を脅かす」というものだ。

それ程までに炎蓮は危険視されているのかと思うのであった。しかし今は早く風鈴や炎蓮たちと合流せねばならない。

 

「合流したくてもあの黒い龍に見つからないようにしなきゃ」

「むむむ?」

 

ギョロリと黒い龍の目が紫苑を見つけた。彼女だけではなく、藤丸立香と太歳星君もだ。

 

「見ぃつけたぞ羽虫共!!」

「見つかった!?」

 

黒い龍である韓暹(共工)が龍の尾で周囲の建物を薙ぎ払う。

 

「見つけたぞ黄忠。カルデアのマスター!!」

 

韓暹(共工)は周囲に水球を生成する。

 

「カルデアのマスターも殺す。今後の計画が楽になるじゃろう」

「藤丸のお兄さんを狙ってる!?」

「黄忠もついでに殺すでおじゃる!!」

「私はついで!?」

 

ギロリと狙いを定める。

 

「逃げるぞであであのマスター、黄黄!!」

「逃がさんでおじゃる。水の力を思い知れい!!」

 

巨大な水球が降り注ぐ。

 

「何処か部屋に入って避難だ!!」

 

巨大な水球が降り注ぐ前に部屋に張り込むのであった。

 

「また逃がしたでおじゃる!?」

 

炎蓮たちを逃がさないために朝廷迷宮に捕えたが、逆に迷宮朝廷が炎蓮や藤丸立香たちを韓暹(共工)から逃がす手立てになっている。

 

「ぬう…異界化の能力を早く使いこなせておらんあ奴のせいでおじゃる。奴らが逃げられん方法を考えるかの」

 

韓暹(共工)が炎蓮や藤丸立香たちを逃がさない方法を考えながら朝廷迷宮を漂い始める。

 

「……何とか撒いたのか?」

 

退避の為に急いで近くあった扉を開けて謎の部屋に入り込んだ。

部屋の外から何かしらの攻撃が来ない事から韓暹(共工)は藤丸立香たちを見失ったという事である。

異空間となった朝廷は入る部屋が別の空間(部屋)に繋がっているようだ。また韓暹(共工)に見つかったら急いで部屋に入り込めばやり過ごせる可能性は高い。

しかし確実に退避できるとは限らない。敵も馬鹿ではないので何かしら対策を打ってくるに違いないのだ。

 

(今は何とか逃げられるけどどうにか対策を練らないといけない)

 

逃げているだけでは何も解決しない。朝廷迷宮から脱出するには韓暹(共工)と戦って倒すしかないのだ。

 

「藤丸のお兄さん。これからどうするの…?」

 

紫苑が不安そうな声をかけてくる。

現在、勝ち気で自信家・生意気盛りな彼女でも韓暹(共工)である黒き龍を見てしまっては心を折られそうになったようだ。

普通は彼女のように龍を見れば恐怖に負けてしまってもおかしくはない。特に相手は悪神でもあるのだから恐怖しても何ら恥ずかしい事ではないのだ。

 

「太公望たちと…仲間ち合流しよう」

 

藤丸立香も韓暹(共工)を見た時は恐怖した。しかし今までの旅路で相対した存在たちがいたからこそ恐怖を早い段階で払拭が出来たのだ。

この場にいる全員が恐怖で動けなくなるよりは、恐怖を払拭した者が皆を鼓舞し、引っ張て行くしかない。

 

「大丈夫だよ黄忠さん。オレらはこれ以上の困難を乗り越えてるんだ。これくらい何とかなるよ」

「大丈夫だぞ。ワガハイは悪神にも負けないぞ」

 

藤丸立香と太歳星君が不安がる紫苑を励ます。

 

「太歳星君は本当にとっても強いんだ。だから大丈夫だよ黄忠さん」

「ええー本当?」

「オレだっているし」

 

グっと親指を立てる藤丸立香。

 

「頼り無いよ2人ともー」

「酷くない?」

「えへ」

 

2人の励ましに幾分か恐怖が緩和する紫苑。おかげで少しばかり軽口が叩けるようになる。

 

「さてと、さっき言ったけどまずは太公望たちと合流しよう。彼なら何か打開策を思いつくかもしれない」

 

餅は餅屋。中国神話に関する事は太公望たちが一番理解があるはずだ。

敵の力の源である共工について互いに話しておきたい。

 

「ところでこの部屋には本がいっぱいだぞ」

「もしかしなくても朝廷の書庫部屋かな」

 

よくよく部屋内を見ると本棚に大量に本が収納されていた。

 

「絶対に書庫部屋。朝廷の貴重な本だよ!!」

 

ここに保管されている本は資料的や歴史的にも貴重すぎる。

知識欲や探求心が強い人は朝廷が保管している本を読んでみたいと思うはずだ。特に穏であれば発狂するくらい嬉しさが爆発するかもしれない。

 

「ちょっと読んでみたいかも」

 

紫苑も気になるのか読んでみたいようだ。しかし今は緊急事態であり、読んでいる暇は無い。

 

「でもダメダメ。今はダメ」

 

自制する紫苑は朝廷の貴重な本と言う誘惑を断ち切る。

まずは藤丸立香の言う通り仲間たちと合流する事が先決である。書庫部屋には入って来た扉とは別の扉がある。

その扉を開けば別の空間に繋がっているはずだ。

 

「部屋を出たら周囲に気を付けて太公望たちを探そう」

 

扉を開けて「はい。韓暹(共工)です」なんて事にならないように注意せねばならない。

書庫部屋から出る為に扉に近づこうとした瞬間に本棚に収納されていた本が急に落下した。

 

「え、なになに?」

 

誰だって急に物が落ちたらつい反応してしまうものだ。3人とも本棚から落下した本に視線が向かう。

落下した本は1つではない。各本棚から複数の本が落下していた。

 

「何で落下したんだー?」

 

物が勝手に落下することは無い。

地震が発生したとか、本棚の建付けが悪いとか、そういった要因があれば考えられなくもない。しかし地震もなければ本棚の建付けが悪そうには見えない。

オカルト観点だとこういう場合はついついポルターガイスト現象だと考えてしまう。

 

「え、幽霊?」

「いや…」

 

藤丸立香も物が勝手に落下したり動いたりするとオカルト的観点から幽霊かもしれないと昔は思う事はある。しかし今は違う。

本は勝手に動くし、何なら攻撃してくる。

 

「スペルブックだ」

「すぺるぶっく?」

 

落下した複数の本が急に浮き上がり、舞い上がる。

 

「本が浮いた!?」

「あれは本だけど本じゃない。妖魔だ!!」

 

舞い上がった複数のスペルブックは開き、妖力を集中させて放出する。

 

「回避ーー!!」

「きゃっ!?」

 

藤丸立香は紫苑の腕を掴んで右へ跳ぶ。太歳星君は逆に左へと跳んで回避。

 

「本が攻撃してきた!?」

「本は襲ってくるものなんだ」

「そーなの!?」

 

本は読むものであって襲ってくるような物ではない。

 

「いやいや、そんな事ないよ!?」

「でも実際にめっちゃ撃ってきてる」

「そーだけどさ!?」

 

バカスカ妖力弾を撃ってくるスペルブック。

書庫部屋から出るにはスペルブックを倒さねばいけなくなる。

 

「スペルブックの数は全部で何冊ありそう?」

 

紫苑は本棚に隠れながらスペルブックの数を確認する。

 

「数は全部で5冊」

「ワガハイが全部撃ち落とすぞ」

「私にも任せて。ああいう飛んでる獲物を狙うのは得意だよ」

 

紫苑は弓矢を構える。太歳星君も銅鐸を持ち、藤丸立香はガンドを放てるように魔術礼装を起動する。

 

「むむ、なんかアイツら妖力の質が変わったぞ」

「え」

「視認出来るぞ。妖力の色が変わってる。な~んか嫌な感じ」

 

5冊のスペルブックは妖力弾を放つのを止めて、妖力を練り込んでいる。太歳星君が言うように妖力が視認出来るくらい色が見える。

赤色、青色、紫色、桃色、黒色。各スペルブックによって妖力の色質が異なる。

 

「……確かに何か嫌な感じがするな」

 

直撃したら何か嫌な目に遭いそうだと危険を察知する。勿論、直撃したら危険なのは当たり前なのだが別の何か嫌な予感がするのだ。

 

「さっさと倒すぞ」

「太歳星君の言う通りだな」

「よし、散開!!」

 

藤丸立香たちは本棚を壁にしながら散開。狙い撃ちされているのであれば一か所に纏まるより、別々に動いてスペルブックを倒した方がいい。

散開すれば5冊のスペルブックもそれぞれ狙いを定めてくる。

 

「魔術礼装起動!!」

 

手に魔力を集中させて、ガンドを放つ準備を完了させる。

 

「うわっ!?」

 

ガンドを放とうとした瞬間にスペルブックから妖力弾を放たれる。その色は黒。

 

「あの黒いスペルブックか」

 

放たれた黒い妖力弾はとても痛そうなイメージがした。

 

「うわあああああああ!?」

「この声は太歳星君!?」

 

太歳星君の悲鳴が聞こえた。すぐに視線を向けると彼はうなだれていた。

 

「太歳星君!?」

「うう…ワガハイは貝になりたいぞ」

「何で?」

 

何故か太歳星君は攻撃を受けたのに無事そうだ。しかし何故かとても落ち込んでいた。

 

「大丈夫か太歳星君!?」

「貝になりたいぞ。希望はホンビノス貝。だって美味しいから」

「…大丈夫じゃないけど大丈夫な感じがする」

 

無事そうだが太歳星君の様子がおかしい。

太歳星君を攻撃したのは青いスペルブック。藤丸立香はよく観察すると青いスペルブックにタイトルが記載があった。

 

「なになに…『私は美味しくない貝になりたい』。どういう内容の本だよ…」

 

太歳星君が落ち込んでいるから恐らく暗い内容の本かもしれない。

 

「そう言えばオレを狙っている黒いスペルブックは…」

 

黒いスペルブックのタイトルは『尋問・拷問特集-どんな事も聞き出しちゃう-』と記載されていた。

 

「黒いスペルブックの攻撃に当たったら絶対苦しいほど痛いやつじゃん!?」

 

恐らくスペルブックのタイトルによって妖力弾の効果が変化する可能性が高い。

青いスペルブックは人を落ち込ませ、黒いスペルブックは恐らく呪いレベルで激痛を与える効果だ。

残りの赤、紫、桃色のスペルブックもタイトルが読めればどのような効果を持つか予想できるかもしれない。

ただ特別な妖力弾に直撃すれば何かしらの状態異常になる可能性は高い。

 

「黄忠さん。今の奴らが放つ特別な妖力弾には…」

「きゃあああ!?」

「黄忠さん!?」

 

注意を促す前に紫苑は赤いスペルブックの赤い妖力弾に被弾してしまった。

すぐさま駆けつけようとしたが紫苑は倒れることなく踏みとどまる。

 

「黄忠さん大丈…」

「よくもやったわね。こっちも負けないわ。気合よ気合。元気があればどんな敵も倒せる。私が持つ全ての力を発揮するわ!!」

「あれ、なんか黄忠さんガッツでも発動した?」

 

赤い妖力弾を受けた黄忠は何故か熱くファイト一発的な活力に漲っていた。

気になって赤いスペルブックのタイトルを見ると『何故、最善尽くさないのか』。

良く分からないがとんでもなくガッツがある何処かの大学教授が書いた本な気がすると思ってしまった。

 

「はああああ!!」

 

紫苑の渾身の矢が赤いスペルブックのど真ん中を撃ち抜いた。

見事な正確さで、威力も申し分なさすぎるもの。矢に撃ち抜かれた赤いスペルブックはボトリと床に落ちるのであった。

 

「最善を尽くす!!」

「めっちゃ熱いんだけど黄忠さん」

「貝になりたいぞ…ハマグリでも可」

「逆に太歳星君はめっちゃ落ち込んでる…ってうわ!?」

 

黒い妖力弾が藤丸立香を掠る。

 

「うぐ!?」

 

掠っただけで痛みが身体中に走る。

たった掠っただけで強い痛みが走った。直撃すれば、どれほどの痛みか想像を絶する。

 

「負けるか」

 

歯を食いしばって痛みを我慢し、魔術礼装を再起動。ガンドを黒いスペルブックに放った。

ガンドに直撃した黒いスペルブックは動きが止まる。

 

「黄忠さん黒いスペルブックを攻撃して!!」

「任せて。最善を尽くせー!!」

「あ、まだ効果が切れてない」

 

紫苑のベストを尽くした矢が黒いスペルブックを撃ち抜き、床に落ちる。

 

「よし、太歳星君!!」

「貝に…」

「魔術礼装起動。イシスの雨」

「貝に…ワガハイ何で貝になりたいと思ったんだ?」

 

太歳星君がかかった効果はイシスの雨で解除出来たようだ。

 

「よくもやったなー!!」

 

銅鑼を投げつけて青いスペルブックを押し潰した。

3冊のスペルブックを撃破。残りは2冊。

 

「残りは紫色のスペルブックと桃色のスペルブックだ」

「どこ行ったんだ?」

「最善を尽くして探すわ!!」

「コウコウどうした?」

「今、彼女はベストウーマンなんだ」

 

未だに紫苑の付属された効果は消えていない。ただ活力が漲っているので無理に効果を解除をする必要もないと判断した。

時たまにエネミー中にはデバフではなく、バフを付与してくる時がある。赤いスペルブックはソレだったのかもしれない。

 

「それにしても残り2冊は紫色と桃色か」

 

藤丸立香が紫色と桃色のデバフイメージは毒と魅了だ。

何方も厄介であり、直撃は免れたい。周囲を警戒し、残り2冊の動向を探る。

 

「あ」

「「え」」

 

残り2冊は藤丸立香と紫苑の背後に音も無く接近していた。

浮いている本であり、音も気配も無く2人の背後に近づいたわけだ。

 

「2人とも危ないぞ!!」

「「しまっわあああああああ!?」」」

 

紫色と桃色のスペルブックの妖力弾が放たれた。紫色の妖力弾は藤丸立香に直撃し、桃色の妖力弾は紫苑に直撃した。

妖力弾を喰らった瞬間に2冊のタイトルが見えた。紫色のスペルブックは『押忍、乱れ狂う漢女の肉体美-熱くなる肉体-』。

 

「その本この時代にもあったの!?」

 

やはりシリーズ化されていた。そして桃色のスペルブックは『疼く身体 イケナイ関係』と記載されていた。

 

「桃色ってそっち方向だった!?」

 

そもそも朝廷の書庫にそういう本が何故あるのか。尤も拷問やら貝やらベスト(最善)やらもラインナップもバラバラ過ぎる。

 

「くっ…身体が熱い。なんだがムズムズもする」

 

紫色のスペルブックの妖力弾を受けた藤丸立香は身体に異常をきたす。身体が疼き、変に熱を持ってしまっている。

死ぬわけではなさそうだがある意味、苦しく感じる。それは紫苑も似たようなものであった。

 

「な、何かな…身体が変。疼くというか熱いというか…うううぅぅ」

 

身体が熱くなる。目がトロンとなる。身体からムズムズムラムラと形容しがたい何かが内から滲み出る。

死にはしないがどうにかしたい。発散したい。スッキリしたい。

 

「うく…」

「ううう…」

 

何故か紫色のスペルブックと桃色のスペルブックが攻撃せずに2人の周りをグルグル回る。まるでこれから起こるであろう何かを待っているかのようだ。

 

「大丈夫かであであのマスター、黄黄!!」

 

太歳星君の声が遠くなる。

今の藤丸立香は身体が熱くなっている。熱いから服を脱ぎたくなる。

 

「もう駄目だ…我慢出来ない」

 

藤丸立香は上半身の服を脱ぎ捨て、何故かポーズを取った。

 

「アブドミナル アンド サイ!!」

「どーしたであであのマスター」

 

良く分からないけどレオニダスブートキャンプで鍛えた肉体を魅せたい欲求が爆発した藤丸立香であった。

 

「むん、ふん、はっ!!」

 

次々とポーズを取っていく藤丸立香。しかしまだまだ身体の熱は治まらない。

 

「これがレオニダスブートキャンプで鍛えた肉体だ!!」

「その筋肉オリュンポス山だぞー」

 

太歳星君が適当に藤丸立香の筋肉を褒める。そして変なテンションのままポージングを続ける。

 

「はあはあ…」

 

身体が熱く、モジモジムズムズする。

内側からの熱を発散したい。紫苑は自分がどうすれば楽になるか本能的には理解しているが理性がソレを推し留める。

理性というダムが決壊がした時、紫苑は自分が制御できないかもしれない。

 

「藤丸のお兄さん…」

 

紫苑の視線はずっと藤丸立香に向けられている。自分の身体に燃え上がる熱を発散させるために必要な人物が彼だと本能がガンガンと叫んでいる。

藤丸立香の鍛え上げられた筋肉が妙に艶やかに見えてしまう。ごくりと生唾を飲んでしまった自分に「え」と思うが、もうどうでもよくなる。

理性がどんどんと薄まり、本能が暴れる。そんな葛藤を勝手にしていると紫苑の視線が藤丸立香に気付かれる。

2人の視線が交わった時、1人の漢と1人の女が会合した時、始まるのは1つ。

 

「こっちにおいで。僕の可愛い子猫ちゃん」

「藤丸のお兄さん…」」

 

変なテンションになっているので2人とも普段は喋らない台詞を口にする。

尤も藤丸立香は場面場面ではキザっぽい台詞を言ったりするのだが。

紫苑が心臓をバクバクさせながら藤丸立香に近づき、彼の筋肉に指でツイーっと触る。

 

「ああ、なんて逞しい筋肉なの」

「君も素晴らしい良い肢体だ。細いながらも美しく、艶やかだ」

 

紫苑は紅潮させながら藤丸立香に跨る。藤丸立香は紫苑の服を脱がそうとする。

 

「怖がることは無いんだよ。さあ、力を抜いて」

「藤丸のお兄さん。私を…」

 

紫桃色空間が展開しようとした時、空気をぶち壊すは祟り神。

 

「なーにやってんだぞー」

 

太歳星君が銅鐸を鳴らして邪念波で紫と桃色のスペルブック2冊を潰し破いた。

スペルブックが消滅した瞬間に藤丸立香と紫苑は段々と冷静になって、我を取り戻す。

 

「「…………」」

 

藤丸立香は紫苑の服を脱がせようとしていた手を止めた。紫苑は藤丸立香の下半身に伸ばしていた手を止めた。

 

「…………黄忠さん」

「…………な、何かな藤丸のお兄さん」

「何も起きなかった。それでいいね?」

「そ、そうだね。うん、本当に何も起きてないし」

 

そんな事を言う2人であるが紫苑には刺激が強い一時であったのは間違いない。

 

(うう…私ったら藤丸のお兄さんに何しようとしてのよー!!)

(危なかった…ある意味危なかった。あんなスペルブックがいるとは思わなかった)

 

スペルブックには様々な種類が存在する事を改めて実感するのであった。

 

(ところで朝廷に何であんな本があるんだ?)

 

朝廷にもそういう系の本を読む者たちがいるからである。




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新は2週間以内を目指します。


1999
敵は共工。
普通に戦っても勝てない相手です。流石の炎蓮も真正面からじゃ勝てない。
仲間と合流し、作戦を立て、色々と仕掛けないと難しい。
まずは仲間と合流しないといけませんね。

2000
黄飛虎や粋怜側。
朝廷迷宮では各グループが迷って話が展開していきます。
今回から郭雄も少しは活躍するかも?

ダンシングコイン。
金策で頑張って倒してます。セイバークラスが活躍するかと思えば即死が効いたりするんですよね。ニトクリスや道満とか。

2001
藤丸立香や紫苑たち側
アダルトだったり、ギャグ展開だったり。

『私は美味しくない貝になりたい』元ネタは分かる人は分かります。
『何故、最善尽くさないのか』こっちも元ネタは分かる人は分かります。
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