Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。

もう11月も終わって12月になりますね。
もうすぐ12月になりますけど、なんだかんだで年末は一直線な気がします。

FGOも終章が近づいております。これから2部完結に向けてどのような展開になるのかめちゃくちゃ気になります!!


江東の虎物語-共工-

2005

 

 

韓暹(共工)は朝廷迷宮で漂っていた。しかしただ漂っているだけでなく、雨を降らしていた。

洪水神であるのだから雨を降らせるのは不可能ではない。そもそも龍が空を舞う時は嵐が吹き荒れるものだ。

故に韓暹(共工)が朝廷迷宮を雨を降らしながら漂わせるのはおかしなことではない。

 

「ほっほっほっほ。鼠のように逃げ回るのは止めたのかの?」

 

韓暹(共工)の視線の先には炎蓮と藤丸立香がいた。

 

「この糞蜥蜴。今からテメェをぶっ殺してやる。テメエの〇〇を斬ってソレをテメエの口で〇〇してやるから覚悟しやがれーーー!!」

「ちょっ、酷い…酷い挑発なんだけど」

「なんと下品な」

 

炎蓮が挑発するが、その内容に藤丸立香と韓暹(共工)は顔を顰めた。

 

「立香も何か言ってやれ。オレ様のように」

「いや、オレはそんな挑発言えない…」

「下品すぎるでおじゃるぞ。聞くに堪えん」

 

ゆっくりと韓暹(共工)は炎蓮と藤丸立香に近づいて行く。

 

「孫堅、カルデアのマスターよ。近くに仲間が隠れておるな?」

 

逃げ回っていた藤丸立香たちが急に現れて、強気に挑発してきたという事は戦う準備が出来たという事だ。そしてたった藤丸立香と炎蓮の2人だけで戦いにきたわけではない。

必ず何処か近くに他の仲間が居ると踏んでいた。そうでなければ今まで逃げ回っていた行動に意味が無いのだから。

 

「さあ、どうかな?」

「分かりやすいぞ」

 

炎蓮と藤丸立香の顔は特に変化はない。

 

「まあ、隠れているのであれば無理やりこの場に引っ張り出しておじゃる!!」

 

多量の水球を生成し、辺り一面に放った。当然、藤丸立香と炎蓮に向けても放っている。

一瞬で朝廷迷宮は多量の水球によって崩壊していく。

 

「ほっほっほ。まずは1匹出てきたの」

「やれやれ、水浸しですよ」

 

藤丸立香と炎蓮の前には太公望が現れ、打神鞭で水球を防いでいた。

 

「しかし……他は鼠のように出て来ぬ。もしかして瓦礫で潰れて死んだかの?」

 

小さき生物は瓦礫に埋もれて死ぬ。あってもおかしくない事象だが韓暹(共工)はそんな予想はしない。

今までの策が全て潰されてきているのだからしぶとく生き残って、反撃してくる可能性が大いにあるのだ。

 

「ふんっ、どうせ隠れておるのでおじゃろう。さっさと出て来ぬか鼠共めが!!」

 

龍の尾で辺り一面を薙ぎ払う。そして藤丸立香たちのへし折り潰す勢いで狙う。

 

「あ、マズそうですね。回避しますよ!!」

 

太公望は土遁の術の応用で瓦礫を足場に浮かして、龍の尾の薙ぎ払いを回避する。

 

「うおっ。太公望お前こんな事出来ンのかよ!!」

「はい」

 

浮かす瓦礫は自分たちだけのものでなく、周囲の瓦礫も浮かした。これは多くの足場を用意したのだ。

 

「マスター僕に魔力を」

「任せて。魔力を送る!!」

 

藤丸立香は太公望に魔力を送り、瓦礫の足場を多く作り出し、保持する。

 

「ええい、うっとおしい石ころを浮かすでない!!」

 

わずわらしいのか浮かんだ瓦礫を弾き落としてく。

 

「ああ、せっかく作った足場なのに…まあ、貴方が周囲を破壊してくれたおかげでいくらでも瓦礫はありますけどね」

 

弾き落とされようがいくらでも瓦礫の足場を浮かしていく太公望。

 

「さて、作戦開始です」

 

各瓦礫の足場にはいつの間にか黄飛虎たちが配置されていた。

 

「行くぞ!!」

「何か策を講じようとも神たる妾に意味はなぁいっ!!」

 

藤丸立香は魔術礼装を起動し、手に魔力を込める。

 

「マスター回り込みますよ!!」

「お願い太公望!!」

 

瓦礫の足場を操作し、攻撃を回避して間合いへと入っていく。

 

「今だ、ガンド!!」

 

放たれたガンドが韓暹(共工)に向かっていく。

 

「なんじゃ、そんな豆粒攻撃は。そんなもので妾の玉体に傷がつくとで…も!?」

 

ガンドが韓暹(共工)に直撃した瞬間に身体が動かなくなる。

 

「確かにオレのガンドじゃアンタを倒せない。でも一瞬だけでも動きを封じる事はできる!!」

「こんな豆粒攻撃で妾の動きを封じれるとかおかしすぎるじゃろ!?」

「礼装だけど今まで鍛えに鍛えたガンドだ。年季が違う!!」

 

藤丸立香のガンドは礼装頼みであるが今までの旅路で英霊や神霊、幻想種でさえ一時的に動きを封じる。

魔術礼装が凄いのか藤丸立香が凄いのか分からないが効果は確実にある。

 

「封じられるのは一瞬だけだ。今のうちに!!」

「うむ、任せよ!!」

 

五色神牛は黄飛虎と風鈴を背に乗せ、瓦礫の足場を走って、韓暹(共工)の背中に乗り移った。

 

「むおっ、妾の背中に畜生が!?」

 

五色神牛は速度を落とさず韓暹(共工)の背中を走る。目指す先は頭部である。

 

「畜生如きが神聖なる妾の背中を踏みつけるでない!!」

 

ガンドの効果が切れたのか動けるようになる。龍の尾をしならせ、己の背中を走る五色神牛目掛けて放った。

 

「させない」

「むお!?」

 

哪吒は風火輪を最高出力で噴射させ、全力全速で龍の尾に向けて突撃した。

最高速に達した突撃により龍の尾は逸れ、五色神牛に直撃する事はなかった。

 

「おのれ羽虫がぁ!!」

「五色神牛。全力で走れ!!」

「いつまでも妾の背中を踏みつけるでないわ!!」

 

水球が生成され、五色神牛目掛けて放たれた。

 

「黄飛虎殿また狙われます!!」

「問題ない。天化、天禄、天爵、天祥!!」

 

黄飛虎は4人の名前を呼ぶと五色神牛の周囲に呼ばれた4人が召喚された。

 

「え、誰ですか!?」

「自慢の息子たちだ!!」

「え、黄飛虎殿って結婚されて…じゃなくて何処から現れたんですか!?」

「某の中から!!」

「どういう意味なんですか!?」

 

風鈴には分からない事だが今大事なのは水球から身を守る事が先決だ。

 

「任せてください!!」

「任せな。あらよっと!!」

「はあ!!」

「ええい!!」

 

黄飛虎の息子たちは水球を叩き潰していく。

直撃は免れ、五色神牛は速度を落とさず走り続ける。目指す先は以前変わらず韓暹(共工)の頭部である。

悪神を、黒龍を倒すのであれば尻尾や胴体を狙うよりも頭を狙うべきだ。どのような生物であっても頭が弱点なのは同じだ。

共工がORTのような存在でなければの話だが。尤もORTのような存在がポンポンいても困る。

 

「ぬう、いつまでも妾の背中を踏みつけるで……ん?」

 

ここで韓暹(共工)は風鈴の手元に何かあるのを視認した。それは武器のような道具のような物であった。

 

(なんじゃアレ。武器なのかの…しかし、何か嫌な感じもする。ぬ、この神たる妾が嫌な予感がするじゃと?)

 

最強の存在となった韓暹(共工)が風鈴の手に持つ物に嫌な予感を感じた。それが異常だとすぐに気付く。

 

(なるほど…この神たる妾に対して孫堅があれだけ強気だったのはアレが切り札というわけかの。どういう物か分からんが直撃は避けねばの)

 

黄飛虎が五色神牛に風鈴を乗せて全力で守るように戦っているのも必ず韓暹(共工)に直撃させる為にだ。

先ほどから龍の尾を哪吒が防いでいるのも風鈴を守るためであると予測した。

 

(奴らの考えはは読めたわ。ならばもう妾の勝ちじゃ)

 

大きく口を開き、水を集約していく。

 

「カアアアアアアア!!」

 

洪水とも言える水鉄砲が放たれようとしていた。しかし誰もが指を咥えて見ているだけではない。

 

「今じゃ黄忠!!」

「うん!!」

 

祭と紫苑が矢を力の限り引いて放った。矢の狙い先は韓暹(共工)の片目である。

巨大な龍の目に矢が2本刺さった程度では失明はせずにゴミが入った程度。しかし痛みが走り、片目を閉じてしまって狙いが逸れる程度には効き目があった。

 

「があっ!?」

「よし、移動するぞ黄忠」

「うん。黄蓋さんもやるじゃん」

「お主もガキのくせにやるではないか」

 

2人はすぐさま今いる場所から移動し、潜伏する。

 

「鼠共がぁ!!」

 

龍の目は普通の矢では潰せないが韓暹(共工)の邪魔をするくらいの事は出来る。

何が何でも黄飛虎と風鈴を頭部へと到達させようと孫堅たち全員が力を合わせているのだ。

 

「鼠共が…妾の苛つく事ばかりしおって!!」

 

一点集中で黄飛虎と風鈴を狙っていたが韓暹(共工)は考えを改める。各方面から邪魔してくるのであれば周囲全てを一掃すればよい。

妖気を練り上げて周囲に巨大な水球を「これでもか」というくらいに生成していく。

 

「足場も鼠も何もかも押し潰れて溺れ死ねい!!」

「さ、さささ、させんぞ!!」

 

瓦礫の陰から出てくるは恐怖しながらも勇気を振り絞った郭雄。その手に持つは鞭のような、綱のような物であった。

 

「でええええい!!」

 

まるでヤケクソになったように郭雄は鞭のような、綱のような物を投げつける。そのままポトリと床に落ちた。

 

「……………………」

「何じゃ。何も起きんではないか」

 

郭雄は無視してもいいと判断して目線を戻す。多くの巨大水球を周囲に落下させようとした時、角に何かが巻き付いた。

 

「ぬ!?」

 

巻き付いた何かとは先ほど郭雄が投げた鞭のような、綱のような物であった。

 

「何じゃ…むぬう!?」

 

急に練り上げた妖気が霧散するかのように力が抜けていく。多量に生成した巨大水球が保てず徐々に破裂していった。

間違いなく原因は角に巻き付いた鞭のような、綱のような物が原因だ。すぐさま目線を郭雄の方へと戻す。

 

「貴様、高貴な妾に何をし…って居ないでおじゃる!?」

 

既に郭雄は先ほどの場所から消えていた。

 

(郭雄殿が投げた物は縛妖索。哪吒が彼に貸した宝貝が1つです)

 

縛妖索。

妲己を捕らえるための強力な捕縛武器とされている。能力は妖魔を縛り、捕縛し、封じ込める。

対妲己にも有効な宝貝であるため、共工にも少なからず効果があるはずと予測して使用したのだ。

実際に効果はあり、共工の角に巻き付いた事で妖力を完全ではないが封じ込めている。

 

(宝貝は使える者が限られます。郭雄殿にまさか適正があったのは予想外でしたよ)

 

意外であったのは確かだがおかげで役割分担が出来たというものだ。

今回の作戦で哪吒が複数持つ宝貝があって良かったと心底思っている太公望。そして意外にも宝貝が使える適正がある人材もいた事にも驚いている。

風鈴が持つ物も宝貝であり、他の者にも宝貝を貸しているのだ。やはり悪神を倒すには普通の武器では不可能故に、宝貝を複数持つ哪吒がいて大いに助かったのである。

 

(さあ、今のところ作戦は順調です。しかし一時も気が抜けませんからね皆さん)

 

太公望は集中して土遁の術を展開し、瓦礫の浮き場を作り続けて移動させていく。

 

(孫堅殿はあの剣を持って移動。そしてマスターも次の作戦のために移動完了です)

 

視線の先にいる藤丸立香は祭と紫苑と合流していた。

 

「祭さん、黄忠さん」

「来たな立香」

「待ってたよ藤丸のお兄さん!!」

 

3人はそのまま瓦礫の影に隠れてながら移動していく。

 

「厄介な武器を持っておるの。しかしこの程度で妾を封じられると思うてか!!」

 

縛妖索で妖気を封じ込めているといっても完全に封じ込めたわけではない。

水を操る力は未だに健在で気が付けば周囲に水球が生成されていた。

 

「喰らえい!!」

「させないよ!!」

「させん!!」

 

紫苑と祭が矢をまた敵の片目に向けて放つ。

 

「喰らうと思うてか。二度目は効かぬわ!!」

 

韓暹(共工)の目に水膜が形成され、2人の放った矢が阻まれた。

 

「ほっほっほっほ。妾が同じ手を喰らう馬鹿ではないぞ」

 

龍の目に矢の二本なんて、人間でいうところの目にゴミが入った程度。

それでも目にゴミが入れば痛いので目を保護するために韓暹(共工)は水膜を形成したのだ。

これで祭と紫苑の矢は無意味だと笑いながら韓暹(共工)は知らしめた。

 

「祭さん、黄忠さん。一旦避難だ!!」

 

矢が効かないと理解し、紫苑たちはすぐさま隠れる。

 

「ほっほっほ。鼠のように逃げ隠れるがいい。尤も逃がさずに溺れ殺してやるわ。だがその前に…」

 

ギョロンと視線を移すは己の背中を走る五色神牛に乗る黄飛虎と風鈴である。

特に風鈴が手に持つ武器が嫌だと感じるからこそ優先的に倒すなら彼女だ。

 

「家畜ごと溺れ死ねい!!」

 

水球を黄飛虎たちを放つ。

 

「ぬ、はあああああああああ!!」

 

黄飛虎は放たれた水球を弾いていく。

 

「天化、天禄、天爵、天祥!!」

 

黄飛虎の息子4人が複数の水球を弾き潰していく。

 

「ははは、水浸しになっちまうな!!」

「盧植殿を守るのだ!!」

「はい、父上!!」

 

水球を弾き潰していきながら五色神牛を走らせ、頭部へと徐々に近づく。

 

「ええい、鼠が。さっさと妾の背中から落ちろ!!」

 

背中から落ちない黄飛虎たちに苛つくが、それでも冷静でいようとする。

藤丸立香たちは特別な武器や工夫して韓暹(共工)を倒そうとしているが、力は以前に韓暹(共工)の方が上だ。

冷静に、確実に、藤丸立香たちを殺せばいいと頭の中で反芻する。確実に殺せる方法を考え、実行する。

 

「水よ集まれい!!」

 

大きく口を開き、水を集約させる。

先ほどは紫苑と祭に邪魔されたが二度目は無い。既に矢の対策は施され、邪魔される事は無い。

まず先に仕留めるは黄飛虎と風鈴。特に風鈴の持つ謎の武器が危険だと判断したので優先順位は彼女だ。

 

「今度こそ死ぬでおじゃぁああああるぁあああああああ!!」

 

洪水とも言える水鉄砲が黄飛虎と風鈴に向けて放たれた。

 

「宝具を開放するぞ。天化、天禄、天爵、天祥。力を貸してくれ!!」

「勿論!!」

「当然!!」

「御意に!!」

「はい!!」

 

4人の息子が光となり、黄飛虎の握る剣に集約する。

 

「是なるは青峰山の至宝、形なき断頭の光なり。莫邪宝剣!!」

 

宝貝『黄飛虎反五関・天化莫耶宝剣(こうひこはんごかん・てんかばくやほうけん)』。

黄飛虎が殷を見限り周へ降るにあたり、途中の五関を突破した名高いエピソードが部分的に具象化したもの。

莫耶の宝剣より放たれる光が人の頭を撃ち落とすという力であり、黄飛虎によって出力はより上がっている。

 

「ぬお!?」

 

渾身の洪水水鉄砲が莫邪宝剣によって阻まれる。

 

「拮抗してるじゃとう!?」

「五色神牛よ。進め!!」

 

五色神牛は力強く進み、莫邪宝剣の出力も上げる。

 

「ぬおおおおう!?」

「はああああああああ!!」

「図に乗るでなあああああああい!!」

 

韓暹(共工)も同じように洪水水鉄砲の出力を上げた。

 

「概念礼装起動」

 

ポツリと誰かが呟いた。

その誰かとは藤丸立香である。しかしその呟きは韓暹(共工)には聞こえなかったが視界には映った。

 

「む、カルデアのマスター…それに黄蓋と黄忠め。また妾の目を狙うか。しかし妾の目は水の力で守られておる。意味のない馬鹿の一つ覚えよ」

 

韓暹(共工)の目には水の膜が張られる。これで矢の攻撃は効かない。効かないと韓暹(共工)は思っていた。

 

「付与完了だよ黄忠さん、祭さん!!」

「いくよ!!」

「喰らえええい!!」

 

紫苑と祭の渾身の矢がまた放たれる。今度は龍の目を撃ち潰す気概で矢を射った。

 

「がああああああああああ!?」

 

韓暹(共工)の片目に矢が突き刺さる。一度目に刺さった時よりも激痛が走った。

 

「な、何でじゃあああああ!?」

 

水の膜によって目は守られていた。しかし何故か2本の矢が水の膜を貫通したのである。

 

「概念礼装 神秘の解体」

「何故じゃ何故じゃ。あ奴らが妾の水膜を破れるはずかないのに!?」

 

片方の目に激痛が走り、視界が片目だけになる。更に撃たれた矢によって攻撃の軌道がされてしまって莫邪宝剣の出力が勝った。

 

「ぬああああああああああああ!?」

 

莫邪宝剣の光が韓暹(共工)の頭部に直撃した。

直撃したはずだが頭部は消し飛んでいなかった。悪神の頑丈さは伊達ではないという事だ。

 

「あ、がが…あがが」

 

一瞬の隙があれば五色神牛は一気に距離を詰めた。

 

「間合いに入ったぞ盧植殿!!」

「はい!!」

 

風鈴が持つ武器とは宝貝。その宝貝名は『降魔杵』。

魔を退治するという意味合いを持つ法具であり宝貝だ。韓暹(共工)が危険と直感が訴えたのは「魔を退治する、滅する」からである。

 

「あ、あがぁっ!?」

 

莫邪宝剣の直撃から意識を取り戻した韓暹(共工)。しかし風鈴たちに間合いに入られていた。

 

「い、いかんでおじゃる!?」

「はああああああ!!」

 

風鈴は降魔杵を韓暹(共工)の眉間目掛けて投擲した。

 

「か、回避せねば…」

「回避させるわけないでしょ!!」

 

粋怜が飛び出し、手に持つ武器を展開する。その武器もまた宝貝であり、銘は『砍妖刀』。

妖魔(魔の存在)を斬るための刀だ。相手が悪神であっても効果はある。

 

「元来得物は槍だけど…剣も振るえるわ。はああああああああ!!」

「こんの鼠如きがあああああ!?」

 

砍妖刀の斬撃によって回避出来なかった韓暹(共工)は眉間に降魔杵が直撃する。

 

「がああああああああああああ!?」

 

直撃した眉間よりビシリと亀裂が走り、妖力が噴出した。

 

「やった!?」

「こ、この程度で妾が負けるわけないでおじゃろうがあああああああああ!!」

 

絶叫と共に韓暹(共工)は眉間に刺さった降魔杵を振り払い、妖力が噴き出さないように眉間の亀裂を自己修復する。

 

「そんな!?」

「これで貴様ら鼠共の万策尽きたでおじゃろう!!」

 

口を大きく開き、水を集約する。また洪水水鉄砲を放とうとしているのだ。

 

「鼠如きがよくも妾を虚仮にしおってからに。もう許さんぞ!!」

「こっちだって許すつもりなねえよ」

「なぬ?」

「概念礼装起動 アトラスの嬰児の魂は、今も月の海の底に……アトラスの嬰児!!」

 

顎下から声が響いてきた。その数2人。

その正体は炎蓮と藤丸立香である。

 

「よし。2人を奴の顎下(喉元)に気付かせずに移動できましたね」

 

ニヤっと笑う太公望。

本命は炎蓮と藤丸立香たちだ。彼らを如何に気付かせずに韓暹(共工)の顎下に向かわすかであった。

その為に黄飛虎や黄忠たちの攻撃は全て陽動にしたのだ。

 

「立香頼むぜ」

「任せて炎蓮さん」

 

韓暹(共工)の顎下には逆鱗が存在する。龍の逆鱗である。

龍にとって逆鱗部分はとてもデリケートな部分であり、触れられる事すら極端に嫌がる。

幻想生物であり、最強生物である龍にとって脳や心臓と同じくらいに重要というのだから、それは魔術的・妖術的観点から見て重要部分でもある。

逆鱗を傷つけられれば韓暹(共工)も弱体化する。龍の力が、悪神の力が無くなればただの韓暹に戻れば勝ち筋はいくらでもある。

 

「い、いつの間に妾の喉元に!?」

「ぶっ刺してやる!!」

 

炎蓮の手に持つは『斬妖剣』。これもまた哪吒から借り受けた宝貝である。

その名の通り妖魔を斬る剣だ。能力は『砍妖刀』と同じであるが龍の逆鱗を突き刺すには十分な剣である。

更に概念礼装『アトラスの嬰児』の効果によって龍の鱗という硬さを貫く。

 

「行け炎蓮さん!!」

「うおぅらああああああああああああああああ!!」

「や、辞めっ!?」

 

炎蓮は斬妖剣を韓暹(共工)の逆鱗に突き刺した。

 

「ぐぎゃああああああああああああああああああ!?」

 

逆鱗に突き刺さった斬妖剣が韓暹(共工)が苦しませる。

 

「どーだ糞トカゲがっ!!」

 

のたうち回る韓暹(共工)。その姿は演技ではなく本気でダメージが通っているのだ。

ダメージが効いているがまだ完全に倒したわけではない。ここで安心してはいけない。

 

「糞鼠共があああああああ!!」

 

韓暹(共工)は倒れない。のたうち回る動きをそのまま周囲を破壊するように大きく動いた。

 

「な、倒れねえのか!?」

「わ、妾は神なるぞ。逆鱗を貫かれたくらいで敗北はありえんわあ!!」

 

悪神黒龍が身体を大きく動かす。簡単に言ってしまえばただジタバタしただけでも朝廷内を破壊するのだ。

 

「チッ。まさか剣の刺さりが甘かったか!?」

「げ、逆鱗は確かに龍にとって触れられるのは嫌がる部分じゃ。しかしこの言葉を知らないわけではなかろう…『逆鱗に触れる』とな!!」

 

逆鱗に触れる。

上の存在を激しく怒らせるという意味である。天子の怒りとも言われるくらい激しいのだ

 

「龍の逆鱗に触れた者は…龍の怒りを買い必ず殺されるというものじゃ!!」

 

長く太い悪神黒龍の胴体を暴れさせる。

 

「まずい!?」

 

太公望はすぐさま土遁の術で浮かした瓦礫を操作して藤丸立香や炎蓮たちを避難させようとする。

 

「意味のない事をするでなああああああい!!」

 

韓暹(共工)は浮かんでいた瓦礫諸共破壊する。

朝廷迷宮は悪神黒龍が激しく暴れた事で崩壊していった。

 

「うわああああああああ!?」

「きゃああああああああ!?」

「うおおおおおおおおお!?」

 

藤丸立香や紫苑、炎蓮たちが絶叫しながら朝廷迷宮の崩壊に巻き込まれていった。

 

「こンの…糞トカゲが!!」

 

炎蓮は視界が真っ暗になる。

 

 

2006

 

 

パチっと目が覚める。

身体中に痛みが走り、少しでも動かせばより痛みが実感させられる。しかし痛みを感じられるのは生きている証拠だ。

韓暹(共工)が周囲ごと崩壊させるように全身を動かし、暴れ回ってせいで炎蓮たちは巻き込まれた。朝廷迷宮の崩壊にも巻き込まれたというのに生きていた事から運が良かったとしか言いようがない。

 

「他の奴らは無事なのか…」

 

身体中の痛みを我慢しながら立ち上がろうとした時に、自分の下に誰かいる事に気付く。

 

「り、立香っ」

 

炎蓮は藤丸立香を下敷きにしていた。正確には藤丸立香が炎蓮を助けようと庇ったのだ。

 

「馬鹿野郎」

 

すぐに容体を確認すると呼吸はしている。ただ気を失っているだけだ。

 

「ったく、二度も助けられたじゃねえか」

 

心配は藤丸立香だけでなく祭や雷火たちも無事なのかと周囲を確認しようとした時、背後から殺気を感じた。

動けなかった。しかしゆっくりと背を向けた時、韓暹(共工)の顔が目の前に接近していた。

 

「孫堅……よくも妾の逆鱗に触れたものだの」

「こ、この蜥蜴野郎」

「まだ軽口が叩けたか」

 

韓暹(共工)と炎蓮の距離はもう間近。炎蓮は何か武器でもないかと空いた片手で密かに探すが瓦礫程度しかない。

 

「その掴んだ瓦礫で妾を倒せるのかの?」

(やっぱバレてたか)

 

目と鼻の先レベルであれば誰であろうとも動きはバレてしまう。

 

「下敷きにしている男はカルデアのマスターか。ほっほっほ。死んだか?」

「どうだかな」

 

取りあえずは状況打破するために考えなければならない。更にその為に時間を稼がなければならない。

炎蓮はしたくもない韓暹(共工)との会話を続けるしかなかった。

 

「カルデアのマスターを殺せたのなら御の字じゃ。これで邪魔な英霊共だって消えたはずじゃしな」

(英霊?)

「それに朝廷の崩壊と共に黄蓋や張昭共も死んだじゃろうて。優雅にとは言えぬが…にこれで妾の仕事は終わりじゃ。帰って良い酒が呑めそうじゃ」

「はん。祭も張昭も誰も死んでねえよ」

 

死んでいないと信じたい。炎蓮や藤丸立香だって無事だったのだから

 

「ほっほっほ。この状況で黄蓋共が生きているとでも?」

 

周囲は無残に崩壊した朝廷迷宮が見られる。

 

「間違いなく瓦礫に埋もれて死んでおろうて」

「はっ。祭や粋怜はテメエが思ってる以上にしぶてえぜ?」

「ああ言えばこう言うのお」

「事実だからな」

 

炎蓮は視線を韓暹(共工)の喉元に移す。今だに斬妖剣が突き刺さったままだ。

もしも斬妖剣の刺さりが甘いのであればより深く突き刺せば倒せるかもしれないと判断。

 

(チッ。オレの失敗のせいか…何とか奴の喉元に潜り込めば)

 

何をすればいいかは考えたが実行が出来るかどうかは別問題だ。

身体中は未だに痛みが走る。痛みを我慢して動けはするが韓暹(共工)が簡単に喉元に潜り込ませてくれるわけがない。

 

(こうして近くまで来てくれたのは…オレもヤバいが好機でもある)

 

タイミングを計って一か八かで実行するしかないと炎蓮は覚悟を決める。

 

「仕事は終えた。ここからは妾の憂さ晴らしじゃ」

「あん?」

「逆鱗に触れるという言葉を忘れておらんな孫堅」

 

牙をギラリと見せつける。

 

「貴様を殺す気はないが憂さ晴らしはするなと言われておらんからな。腕や足の1本でももらうぞ」

(ったく、コイツは何でオレを狙ってくるんだが。そして殺さないとか訳が分からん事をほざくし)

 

しかし祭や藤丸立香たちは殺せれば殺すと言っていた。行動原理が意味不明だ。

意味不明過ぎて怒りが湧き出るくらいだ。敵が炎蓮を腕や足を貰おうって言うのであれば、彼女は腕や足を失ってでも逆鱗に斬妖剣を抉るように突き刺し直す。

 

(動けよオレの身体!!)

 

チャンスは一瞬。それも一か八かの勝負だ。痛みと恐怖を歯を食いしばって嚙み千切る。

藤丸立香は生きているのだから祭や雷火たちも生きていると信じている。ここで絶望して自暴自棄にはならない。恐怖に我を忘れない。

炎蓮は何が何でも韓暹(共工)を倒すと覚悟を決める。

 

「ほっほっほ、何をしようと無駄じゃぞ」

 

ギョロリと片目が炎蓮を睨む。もう片方の目は祭と紫苑の放った矢で未だに閉じられているが再生はそのうちされる。

 

「貴様は憐れな人間。仲間も死んだ。しかしこれから先、まあまあやっていけるじゃろうて」

「意味分からねえ事を言ってんじゃねえよ!!」

「確定事項じゃ。黄蓋や張昭、程普は死んだ。貴様に両翼は無いが地を這う事を許したのじゃ。そこは妾を感謝してほしいもんじゃ」

「ぶっ殺すぞ!!」

 

韓暹(共工)の言いように怒りしか湧かない。

 

「祭や粋怜たちは生きてるに決まってんだろが!!」

「この状況でよく言うものじゃの。どう見ても死んでも…」

「生きとるわっ。姉貴から離れろ!!」

「ええ、炎蓮様は未来の私の主になると約束したんですよ。ここで殺されたら困るわね。そして私もここで死ぬわけにはいかないのよ!!」

 

瓦礫の中から這い出てきた祭と粋怜。その姿を見て炎蓮は「やっぱ生きてんじゃねえか」と小さく呟いた。

祭や矢を構え、粋怜は砍妖刀を構えて韓暹(共工)を睨む。

 

「ほほう。あれの崩壊から生き延びたか。孫堅の言う通りしぶといのお。まさに鼠じゃな」

「いいから姉貴から離れろ!!」

「ほっほっほっほ。威勢だけは良いが動けんじゃろが」

「「……ッ」」

 

韓暹(共工)の言葉に苦虫を嚙み潰したような顔をした2人。その通りで2人は全身の痛みを我慢して立っているのだ。

すぐに行動を移せると言われれば自信はない。それでも炎蓮を守る為に命を賭ける。

 

「間に合うかどうか試してみるがいい」

「辞めろと言っておろうが!!」

「遅い」

 

韓暹(共工)が口を開いた。そしてグジュリと嫌な音が響き、血が飛び散った。

 

 

2007

 

 

郭雄。

彼は呉の県令であり、夢はどんどんと出世して州刺史になり、果ては太守になる事だ。

太守になりないのは簡単だ。楽したいし、ちやほやされたいし、贅沢したいし、気持ちよくなりたいという俗物的な理由である。

 

人間なんて俗物的な夢を願うものだ。郭雄の夢が小さいとかそういうわけではない。人間贅沢したいという欲はおかしくないのだから。

その為に彼は世渡り上手にならなければならないと判断した。出世は簡単に出来るものではない。

出世するために最初に覚えたのは賄賂であった。調べると都では当たり前のように横行しているからだ。

 

最初は夢多い洛陽でそんな事が起きているなんて「え、嘘」とか落胆した記憶がある。しかし彼はすぐに順応した。

大きいものに巻かれて悪いことは無いと思っているからだ。洛陽が、朝廷がそういう事をやっているのであれば郭雄も同じようにする。

 

それこそが出世に早く繋がると理解したからである。結果的に彼はコネを作り、少なくない投資(賄賂)をし、呉の県令になったのだから間違ってはなかった。

順調に呉の県令になった彼が次に目指すは州刺史だ。その為によりコネを作らなければならなかった。

より権力のある上役と繋がりを作るにはやはり金が必要だった。そして己を紹介してくれる人や評価を広めてくれる人に渡す金ももっと必要であったのだ。

 

ただ彼は入念に調べ、準備していたのにいつからか出世から遠のいていた。

 

(私は呉の県令になるまでは順調だった。しかしいつから私は出世に伸び悩んでいた。いつからだったか……そうだ、孫堅が私の部下になってからだったな)

 

出世から遠のき始めたのは炎蓮が部下になってからだ。しかし炎蓮が出世の遠のいた原因ではない。

 

(アイツは生意気な奴だ。なのに民たちから人気だよな…何なら県令である私よりも)

 

炎蓮は生意気な奴でムカつく事はあるが悪い奴ではない。ちょくちょく言い合う事はあるが何だかんだで良くも悪くもない上司部下の関係だった。

 

(ただ何故か孫堅の方が私よりも出世が早いんだよな。おかしいだろ…県丞に出世したかと思えば自らクビになった。そしてまた役人になって県令になるとか)

 

炎蓮の出世は郭雄からしてみれば異常であった。特に賄賂をしたわけでもなく、上役と大きな繋がりもあるわけではなかった。

 

(実力と運で成り上がったかのようだ)

 

郭雄も順調にいけば早く出世したいたはず。

遠のいたのは孫堅が部下になってからだ。次により出世が遅くなったのは時期は雷火に賄賂を渡すのを失敗してからである。

先に言っておくと雷火が郭雄の出世を邪魔したわけでは無い。

 

(張昭先生は何と言うか芯のあるお人だ)

 

普通であれば金を渡されたら悪い顔をしない。何せ金は生活に無くてはならない物であり、あればあるだけ困らないからだ。

他の上役たちはお金(賄賂)を喜んで受け取るというのに雷火は違った。最初「なんだコイツは」と思ったが雷火の芯のある人間だとあとから理解した。

 

(ああいう人間もいるのだな…)

 

雷火はある意味、曲がった事を許さない人間なのかもしれない。今の朝廷に所属する一部の上役からしてみれば馬鹿な事をしていると思われるはずだ。

最初は郭雄も賄賂を黙って受け取ればいいと思っていた。しかし受け取らない彼女に敬意を表した自分もいたのだ。

 

(あーあ…私は何だかなあ。孫堅と張昭先生に比べるとな)

 

郭雄にとって大きな事件が起きた。それは海賊が攻めてきた事件だ。

 

(あの時は終わったと思ったな)

 

海賊の戦力と呉の港に含む戦力ではどうしようもなかった。郭雄はすぐに逃げたいという気持ちと何とかしなければという気持ちに圧し潰されそうであったのだ。

そんな時に炎蓮と雷火は海賊を本気でどうにかしようと思っていた。何とか解決しようとしていたのだ。

 

(私は逃げようとしていた。しかし孫堅や張昭先生は違った……)

 

海賊防衛戦で作戦が決まった時、郭雄は逃げた。

 

(私は結局逃げた…援軍を呼ぶと言っておきながら)

 

郭雄は逃げたが、ただ逃げたわけではない。実際に援軍を呼ぶために奔走していたのだ。

本当に援軍をかき集めて戻ったが既に良い意味で終わっていた。炎蓮たちが海賊たちを撃退したのだ。

 

(きっと孫堅が世間に認められ始めたというか…動き出したのがその時だろうな。逆に私が停滞し始めたその時かもしれない)

 

街を守る為に海賊と戦った者と逃げた者。何方に運命が微笑むかは分かるはずだ。

 

(そりゃ海賊を撃退した孫堅が出世するのが当たり前だよな。それに奴は強いし、貿易の商才もある。そして慕われている)

 

いつの間にか炎蓮を羨ましいと思ったし、認めたくないが憧れがあったのかもしれない。

 

(そんな私は小物だよなあ)

 

小物な自分だと嫌だが思ってしまったからこそ、炎蓮の代わりに部下となった祭に舐められるのだ。

祭が部下になった時は最悪であった。県令である郭雄のいう事を全く聞かず好き放題。鉄弓党なんて徒党を組んで、呉の街を牛耳っていた。

部下の祭がゴロツキのように牛耳っていたおかげで上司である郭雄の面子は丸潰れである。呉の民からの評価は下がり、上役にも良い印象は与えられない。

 

(黄蓋を部下にしてから…ゴロツキや賊の被害が少なくなったのは事実だが逆に黄蓋がゴロツキや賊の真似事をされてはたまったもんではないわ)

 

腕っぷしは強く、ゴロツキたちを纏め上げる能力は確かであり、評価できるが上司である郭雄に迷惑をかけるのは最悪であった。

 

(悪い奴ではないんだよな……うん、悪い奴ではないはず。いや、ムカつく)

 

上司である郭雄をないがしろにした祭はムカつく奴だと思っているが悪人ではない。彼女もまた芯のある人間だ。

そんな祭を懲らしめたというかぶちのめしたのが炎蓮であった。

 

(あの時は孫堅に感謝したな。まあ、黄蓋の奴が孫堅の部下になったのは予想外であったが)

 

祭という部下を炎蓮に取られた事に関しては特に思う事はなかった。これからも郭雄の下に祭がいても彼女を制御できないと思ったからだ。

ある意味、厄介払いが出来て良かったと思っている。しかしそんな厄介な祭の忠誠を勝ち取った炎蓮にはまた驚かされた。

 

(あの黄蓋が認めた孫堅はやはり私とは違うんだよなあ。だって、その時の孫堅は役人をクビになったって言うのにその後すぐに役人戻って県令になったからな。異常な昇進だ)

 

祭の代わりに新しく入った部下は粋怜だ。

 

(彼女は私が思うに過去一番優れた部下だ。ちゃんと私を上司として敬ってるし、仕事も孫堅や黄蓋よりもちゃんとやってるしな)

 

やっと郭雄の下にもまともで優秀な部下が入って来た時は嬉しかったものだ。しかしまたも炎蓮がやらかしたというかやってくれた。

それは炎蓮が粋怜をいつの間にか口説いて未来の臣下として確約させたのだ。

 

(いや、本当にいつの間にって思ったよ。まあ、未来にって言うから今すぐ程普を取られたわけではないが)

 

粋怜は祭のように勝手に役人を辞めて炎蓮について行くような真似をしないので助かった。

 

(それでも…あの黄蓋や程普までもが孫堅に惹かれるか。そして張昭先生も文句や愚痴を言いながらも孫堅の事をよく見ている)

 

様々な人材が強く、魅力ある炎蓮に惹かれて集まってくる。それに対して郭雄は強くもなく、様々な人材が集まるような魅力はない。

 

(私と孫堅とは何が違うんだ……)

 

大物と小物。強者と弱者。好機を掴める者と掴めない者。

 

(ははは…私には何もないな)

 

炎蓮と比べると自分は如何に弱く、情けなく、小物だと思い知る事になる。

 

(そんな浅ましいく小物な私だからこんな目に遭ってるのかもしれないな)

 

郭雄は朝廷に呼び出されて今までの事件を直接報告していた。報告が終わったら洛陽の街で観光して帰るつもりだったが、まさかまさかの異変に巻き込まれてしまったのだ。

異変というのが悪神黒龍という名の化け物に狙われるのだから前世の自分は余程悪い事をしたのではないかと自問自答した。

 

(そんでもって何故、私が化け物と戦う羽目に…)

 

最初は悪神黒龍と戦うと聞いた時は耳を疑った。勝てるはずが無く、ただ死ぬだけだと。しかし何もしなくても殺されるだけなら抵抗するしかない。

それでも郭雄は戦いたくなかった。凶悪で巨大な悪神黒龍を目にしたら戦う気力が恐怖で消え去るのだから。

 

(でも私は勇気を出して戦った)

 

最初は戦わない気だった。しかし戦う気力が湧いたのは郭雄にも才能があると言われた事が嬉しかったからだ。

宝貝だが宝具だか分からないが特別な武器を渡された。何でもその宝貝という武器は才能ある者しか扱えないと聞く。

 

(私にも扱えると言われ、才能があると言われた時は嬉しかった。こんな小物でも出来る事があると、力があると分かって私は勇気が出たんだ)

 

実際は足をガクガクしながら宝貝を使った。その後は隠れるだけであった。

たった数秒の戦いだったが郭雄としては今までの人生の中で一番勇気を出したのだ。炎蓮のようにはと言えないが強大な敵に立ち向かったのだ。

 

(後は任せるだけだった。まあ、こんな考えをしている私はやっぱり小物だけど)

 

自分の役目を果たしたから後は任せて隠れているだけ。それはそれでモヤっとする自分がいるが、もうこれ以上は何も出来ないからしょうがないと諦めていた。

 

(これ以上、私に出来る事はない。私は頑張ったんだ……でも、でもでもっ、まだ何か出来るかもしれないんだ!!)

 

郭雄の目の前には韓暹(共工)の逆鱗に刺さった斬妖剣がある。

 

(孫堅は剣の刺さりが甘かったと言っていた)

 

仕留めきれなかったからこそ悪神黒龍の逆鱗に触れて朝廷迷宮の崩壊に巻き込まれた。韓暹(共工)が怒りのあまり暴れた結果が瓦礫に埋もれかけた今の郭雄だ。

 

(最初は瓦礫に埋もれ死ぬかと思った。しかし太公望殿の妖術かなんかで助かった)

 

崩壊して落下してきた瓦礫が郭雄を避ける様に動き、助ける様に動いたのだ。太公望の術には驚かされ、助けられた。

 

(太公望殿には感謝しかない。しかし今は目の前の剣だ)

 

郭雄はたまたま運よく韓暹(共工)に見つかっていない。そして運よく逆鱗に刺さった斬妖剣が目の前にあるのだ。

今なら韓暹(共工)にバレていない。勇気を出して飛び出して剣を深く突き刺し直せば倒させるかもしれないのだ。

 

(怖い…ここで動かず息を潜めてたら見つからないし助かる。しかしこのままでは孫堅と藤丸の命が危ない)

 

身体が恐怖で振るえる。このまま隠れていない。

 

(私は……小物で終わりたくない。最後の最後くらいは!!)

 

韓暹(共工)が大きく口を開き、牙をギラつかせる。炎蓮の足でも腕も噛み千切ろうとしている。

 

(動け私。動け動け…動け今ここで!!)

 

グジュリと嫌な音が響き、血が飛び散った。

 

「は?」

 

誰かが呆けた声を出した。炎蓮かもしれないし、祭や粋怜かもしれない。はたまた韓暹(共工)かもしれない。

誰もが予想外の状況に出くわしたのだからこその呆けた声だったのだ。その予想外の状況とは郭雄が韓暹(共工)の逆鱗に斬妖剣を強く抉るように突き刺しているのだから。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

郭雄が雄叫びを上げながら斬妖剣を突き刺し直す。斬妖剣を郭雄は扱えないが逆鱗に深く突き刺す事くらいは気合で何とかできるものだ。

 

「え、は、う、ええ、は、はあ!?」

 

韓暹(共工)は自分の身に何が起きたか分かっていない。混乱して目を白黒させて喉元の逆鱗から血を流す。

意味が分からないと混乱と動揺している。何せ勝ち確定している状況で背中からナイフを突き刺されたようなものだ。正確には喉元の逆鱗に斬妖剣を突き刺し直されているのだが。

 

「どーだ化け物め。私はこれでやるんだぞ!!」

「か、郭雄のオッサン?」

「孫堅!!」

「お、おう?」

「お前は言う事を聞かない可愛くない部下だった!!」

「いきなりなんだよ」

「だがお前は力強く、商才もあり、民に慕われる奴だ。それだけ魅力ある人間だ!!」

「え、お、おう」

 

馬鹿にされたかと思えば褒められた。

 

「私はお前が羨ましいと憧れた時もあったぞ!!」

「え、そーなのか」

 

まさかのカミングアウトに炎蓮はちょっと虚を突かれた。

 

「次に黄蓋!!」

「わ、儂か?」

 

郭雄の口のダムは決壊した。恐怖と興奮で何でも言えるようになる。

 

「貴様は厄介な部下でろくでもない部下だった!!」

「何じゃと!?」

「県令である私を蔑ろにし、呉の街で好き勝手に牛耳っていたおかげで私の評価は最悪だったぞ!!」

「んなもんお主が弱いからじゃろうが。じゃが儂もこれでも反省はして…」

「ああ、そうだ!!」

「え」

「私が弱く小物だから貴様は言う事を聞かんのも納得している。しかしそれでもムカツクのはムカつくのだ!!」

 

腕っぷしのある強者はより強い者に惹かれる。それは乱世の世であれば猶更だ。

郭雄は祭の考えを否定しないがムカつくものはムカつく。

 

「貴様はろくでもないクソ女だ!!」

「このオッサンめ。言い過ぎじゃろうが!!」

「貴様のやった事を考えれば当然だ!!」

「こんの…」

「しかし貴様の見る目は確かだ!!」

「え?」

「私よりも孫堅の方が良いに決まっている。孫堅の家臣になれて良かったな!!」

 

グルンと郭雄は首を粋怜の方に回した。

 

「程普!!」

「あ、はい」

「お前は腕っぷしが強く優秀な部下だ。私の人生の中で一番の部下だ。なんなら上役に口ぎきして昇進させたかった!!」

「あ、ありがとうございます……そんなに評価してくれたんだー」

「だがな。いつの間にか孫堅と未来の臣下になる約束をいつの間にかしたのはどうかと思ったぞ!!」

「え、すみません」

 

知らないうち粋怜が孫堅に口説かれた。そして未来の部下になると確約されては驚きである。

その事を聞いた時、心の中で「程普を孫堅獲られた!?」と叫んだくらいである。

 

「ったく…しかしその判断は間違いではない。お前は私の下で働くより孫堅の下で働くべきだ!!」

 

自分の部下にならなかった孫堅や祭、粋怜たち。

彼女は自分のような小物の所で燻るには惜しい存在だ。彼女たちは郭雄の下から飛び立って上に目指すべきなのだ。

 

「黄蓋、程普。お前らは孫堅を支えるんだぞ!!」

 

郭雄の本気の言葉に2人は真剣な顔で頷いた。

 

「孫堅!!」

「またオレ!?」

「お前はここで死ぬな!!」

「っ」

「お前はいずれ天下を獲る人間だ。ならここで死ぬな。ここで死ぬのは小物の私で十分だ!!」

「か、郭雄のオッサン」

 

郭雄は今もなお斬妖剣の柄から手を放さず、逆鱗に突き刺したままだ。

 

「しかし私は小物のままで死なんぞ。私も孫堅のように凄いって最後くらい見せてやる!!」

 

より抉るように斬妖剣を逆鱗に突き刺す。

 

「き、きききき、貴様は何をしておるんじゃあああああああああああ!?」

「小物が未来の大物の為に化け物を倒す…いや、こんな小物の私でもやる時はやるっての証明するんだ!!」

 

最後の最後まで小物な人間で終わりたくない。最後には大きな華を咲かすくらいの大仕事をするのだ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「や、辞め、やめるのじゃああああああああああ!?」

 

ズクズクと斬妖剣が喉元の逆鱗に刺さっていく。

 

「こ、この…小物以下の糞鼠がああああああああ!!」

 

韓暹(共工)は水の槍を形成して郭雄を突き殺そうとする。

 

「死ねい糞鼠があ!!」

「そんな水の槍なんぞ怖くない。覚悟を決めた私に怖いものはないのだ!!」

「死ね!!」

 

水の槍が郭雄に放たれた。

 

「郭雄殿は小物ではない。立派な武人だ!!」

 

瓦礫の山から黄飛虎が飛び出し、莫邪宝剣を光らす。

 

「ぬお、貴様は生きてたのか!?」

「郭雄殿は立派な武人だ。彼を侮辱するな!!」

 

黄飛虎は莫邪宝剣で水の槍を切り裂く。

 

「郭雄殿。そのまま剣を突き刺すのだ。某も手伝う!!」

 

黄飛虎も斬妖剣の柄を掴んだ。

 

「や、辞め…っ」

「こっちこそ邪魔させませんよ」

「抵抗!!」

「貴様ら!?」

 

瓦礫から飛び出した哪吒は突撃し、太公望は瓦礫を操作して投下させる。

 

「マスター!!」

「ゴメン、目ぇ覚めた!!」

 

覚醒した藤丸立香。

魔術礼装を起動し、瞬間強化を黄飛虎と郭雄に纏わせる。

 

「力が出てきたぞ!!」

「郭雄殿。このまま力の限り押し込むのだ!!」

「は、はい!!」

 

郭雄と黄飛虎は斬妖剣を韓暹(共工)の逆鱗に深く深く突き刺した。それこそ喉を貫通するぐらいに。

 

「ぎゅ、ぐ、ぎゅごぎょがあああああああああああああああああ!?」

 

斬妖剣によって貫かれた韓暹(共工)は血と泡を噴きながら倒れた。

 

「た、倒した…?」

「うむ、郭雄殿。大手柄だぞ!!」

「私の手柄?」

「ああ、お主は小物ではない。某が保証しよう」

 

認められた。それが何より嬉しかった郭雄。

 

「わ、私は…」

「やるじゃねえか郭雄のオッサン」

「凄いですよ郭雄殿!!」

「…なんじゃ郭雄殿も漢ではないか。そんな覚悟があるなら儂が部下だった頃にも見せい」

 

炎蓮や粋怜、祭が郭雄を褒めた讃えてくれる。

 

「凄いよ郭雄さん」

「藤丸まで」

 

感極まりそうで涙が出そうな郭雄であった。

県令になった時や上役に褒められた時よりも嬉しいと感じる。

 

「私は…はっ、そうだ盧植殿は?」

「彼女無事。太公望の傍に避難」

「そーいや、張昭と太歳星君も居ねえけど何処に…」

 

強烈な殺気が朝廷迷宮を支配した。

 

「ま、まさか…」

「まだ生きて!?」

 

韓暹(共工)が幽鬼のように立ち上がっていた。

 

「よくも…よくもやってくれたの…」

 

怒鳴るくらいの怒りはしない。しかし怖いくらいに静かな殺意が充満していた。

 

「ここまでやるとは…思わんかったの……」

 

ゆらりと韓暹(共工)は浮き上がる。そして充血した殺意の目を炎蓮たちに向けた。

 

「実は…の……朝廷を逃げ回るお主らを捕まえる為に……用意した策があ…るのでの」

 

何処からか水の音が聞こえる。水が流れてくる音だ。

 

「……捕ま…える策が……切り札と……なるとは…の」

 

どんどんと水の流れる都音が聞こえてくる。

 

「わ、らわ……は…共工…は…洪水神。洪水を…起こ…す…カミぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

洪水が朝廷迷宮を炎蓮や藤丸立香達ごと飲み込んだ。

 

「もう…どうでもいいぃぃぃぃ。孫堅も誰も彼も死ねぇええええええい!!」

 

洪水神としての本領を開放した。




読んでくださってありがとうございました。
次回の更新は二週間後を予定してます。
というか年内で江東の虎物語編を完結させます。あと二話で完結予定です。

2005
ついに韓暹(共工)と戦いが始まります。
強大な敵とどうやって戦うのか…それは貝宝だったり策だったり。
色々と工夫して戦います。


2006
色々と工夫して戦ったがやはり神霊は強いです。
敵を倒しそこなった時こそ一番の危険です。


2007
郭雄視点
作者の個人的な感想みたいなもんになってしまったけど郭雄ってこんな事を炎蓮たちに思っていても違和感ないかなー。
彼も自分を小物って思っているけど、悪い人ではないんですよね。
そして郭雄は漢を見せました。

そしてそして最後にどうなってしまうのか。
それは次回までゆっくりとお待ちください。
ところで太歳星君と雷火は…?
それも次回までお待ちください。
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