Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
ついにFGO終章が近づいてきました。もう1週間もありませんね。
ワクワクが止まらず、楽しみで仕方がありません。
終章PVも公開され、最後の舞台が…謎が残っていたあの特異点!!
どんな展開になるか気になりまくりです!!
2012
気が付いたら藤丸立香たちは過去の呉へと転移する前の部屋に戻っていた。
「帰って来たのか?」
「おかえり であであのマスター」
「太歳星君!!」
帰還した彼らを第一声で迎えたのは太歳星君であった。
「ほら。すぐに再会できただろー」
「うん。そうだね!!」
藤丸立香は太歳星君を抱き抱えてくるくると回るのであった。
「わはー、目が回っちゃうぞー」
笑顔の太歳星君。土の中で何年、何十年、何百年眠る事は彼にとって苦でも何でもない。ただのお昼寝感覚なのだから。
「いやあ。元の時代に戻ってこれて、太歳星君とも合流できて万事解決ですね」
「そうだな。そしていっきに疲れが出たぞ」
「疲労困憊」
元の時代では1日も1分も経過していない気がする。しかし過去の時代では何日も何週間も経過したような感覚だ。
これはこれで時間間隔が狂うというものだ。時間旅行というものは肉体への負担も大きいのかもしれない。
尤も藤丸立香たちの疲労は時間旅行をしたわけではなく、つい先ほどまで悪神と戦っていたものだ。そういう意味では確かに疲労困憊である。
このまま布団にダイブしたいが最後の最後に確認したい事がある。
「マスター」
「なに太公望?」
「炎蓮殿たちに会いに行きましょうか。約束したんでしょう?」
2013
孫呉の城の庭にて。
「…んな事があったんだよ」
「えっ。そこで、その人達ともう会う事はなくなったの?」
「ああ。最後の最後でオレらを置いていきやがって」
炎蓮は悪神黒龍という怪物との戦いの話を終えた。そして昔に出会った謎の仲間たちとの話も終えた。
「あの後は朝廷から脱出するのに必死だったな」
「そうじゃの。朝廷が水浸しで…更にボロボロの黒龍が朝廷から飛び去ったのじゃから」
朝廷の水浸し事件も相当なものだが、それよりも朝廷からボロボロの黒龍が飛び去ったという方が問題だった。
そんなものは不吉や凶兆のようなものでしかない。
「朝廷でそんな事件があったなんて知らなかったわ」
「私もです」
「私も聞いた事ないわ。朝廷での記録を見た事あるけど、そんな情報何処にもなかったわよ」
朝廷でそのような大事件があったなんて初耳だった蓮華と冥琳、華琳。それほどの大事件であれば記録に残っていてもおかしくないはずだ。
「記録には残していないのよ。そもそも情報の隠蔽をしたからね」
風鈴が華琳に大事件の記録が無い事を説明する。
「隠蔽か…まあ、朝廷からしてみれば凶兆を大陸や民たちに広めたくないわよね」
朝廷の凶兆。当たり前のように朝廷の悪い部分を易々と広めるわけがない。朝廷の権威が地に墜ちる。そうなれば反乱・乱世の時代が来る。
「ま、遅かれ早かれの問題だったと思うけど。既に朝廷の地が堕ちた事で乱世が来たんだからね」
「…そうね。あの黒龍が朝廷から飛び去ったのは大陸の世が乱れる予兆だったのかもしれません」
遅かれ早かれ朝廷は地に墜ちた。各地方の太守や豪族たちが徐々に独立を進め、反董卓連合の戦いで朝廷はほぼ権威は消えた。
華琳という魏の力に守られて首の皮一枚で朝廷の権威が残っているようなものだ。何せ今の大陸は魏、蜀、呉の三国で成り立っているようなものなのだから。
本当は孫呉の戦力を弱体化させるという五胡の暗躍であったのが、まさか朝廷の権威失墜の予兆となるとは誰もが思わなかったはずだ。
「朝廷も混乱していたわ……その混乱に乗じて宦官が何名か行方不明になったりしたけど」
皆が「「「あ」」」と小さく呟いた。風鈴の言った事がどういう意味かすぐに理解できた。
「混乱に乗じてか…」
どのような状況でも混乱中に悪事を働くと意外に気付かれないものだ。
「ねえねえ母様たちは朝廷から無事に逃げ出したんでしょ」
「ああ、あん時は必至だったぜ。あれほどの逃げは人生一の必死だったなあ」
「そうじゃの。あんな満身創痍で朝廷から抜け出すのはカッコ悪かったわい」
「いやいや、しょうがないでしょ。でも私も過去一とっても泥まみれでの撤退だったかもねー」
炎蓮が笑うのにつられて祭と粋怜も笑っていた。
「ふふ、それは私もね」
「まったく人生の中で最悪の筋肉痛になったものじゃ」
紫苑と雷火も笑っていた。
「でもでも風鈴先生は朝廷に務めてたんでしょ。それに狙われたって…大丈夫だったんですか!?」
桃香が「はっ!?」と気付いた。
無事に風鈴が朝廷から逃げ出しても彼女の勤め先は朝廷。そして朝廷のある宦官に狙われていたのだ。
「ああ、それも大丈夫よ。さっき行方不明になったと言った宦官たちにその宦官も含まれたの」
「ああ…そうなんだ」
苦笑いの桃香。
「オレらを暗殺しようとした宦官共は消えたのか?」
「ええ。恐らく徐栄殿が動いたんだと思います」
「アイツか」
徐栄と聞いて神妙な顔つきに一瞬なった。
「…話がちと変わるがアイツが戦死したなんてな」
「戦場とはどうなるか分かりませんから」
「…それもそうか」
炎蓮は己の額をツンツンと突く。
粋怜や雪蓮は渋い顔をした。戦場では予測不可能な事が発生してもおかしくない。
(徐栄…)
そんな中で華琳は「徐栄」という名を思い出す。
(確か彼は…)
実は華琳もまた徐栄の事を知っていた。何せ彼は漢帝国の中で武力として活躍していたからだ。
「そう言えば母様たちのその後は大丈夫だったの。確か朱貢に狙われてたんじゃなかったの?」
「それな。オレもなるべく猫を被っていたんだが太守の朱貢は目ざとい野郎でな。何度もオレを始末しようと裏で動いてやがった」
朝廷での大事件後、炎蓮は朱貢に狙われ続けていた。しかし、目の前に本人が生きている時点で結果は分かり切っている。
「ま、最後は朱貢を追い落としてオレが呉郡太守におさまったんだけどよ」
「え、どうやって?」
炎蓮は視線を雷火たちに向ける。
「どうだったかな。朱貢を嵌めて潰したのは雷火だったからよ」
「そうなんだ!?」
「祭や粋怜もよく働いてくれたぜ。オレは特に何もしちゃいねえよ」
「ま、色々とあったの」
どうやって朱貢を潰したかまでは語らない。雷火や祭は笑うだけだった。
「ところで」
ここで雪蓮が話題を変える。
「そう言えば郭雄とやらはどうなったの?」
「話を聞いてるとただの小物かと思ってたけど意外に悪い人じゃなかったみたい」
郭雄。炎蓮の元上司で小物感がハンパなかった人物だが、朝廷での大事件では活躍を魅せた漢。
炎蓮や粋怜たちの話を聞いているとそこまで悪い人物じゃないと再評価されていた。
「郭雄殿ならその後、県令として仕事を頑張ってたわね。見ちがえる程だったわよ」
「ああ。朝廷での事件を皮切りに郭雄は覚醒した……と思ってたんだけどなあ」
炎蓮がため息を吐いた。
「ったく、郭雄の奴もなんで商人なんかになっちまったんだか」
「え、郭雄って商人になったの!?」
まさかの未来にちょっと驚いた蓮華。
「ああ、そうだ。郭雄の奴は自分の器では県令以上になれないだなんて弱音を吐きやがった」
郭雄は炎蓮のような人物こそが上に登って頂点に立てると言ったのだ。そして自分は身の丈にあう生き方があると言って商人になったのである。
「えー意外だわ。そんな活躍したのに勿体ない」
「その後の郭雄殿の県令の評判が良かったのにのう」
「そうね。でも郭雄殿には郭雄殿の進み方があったみたい。実際に商人として稼いでるみたいよ」
意外にも郭雄は商人として活躍しているようだ。
「せっかく大殿が誘ったのに断りおって。せっかく儂も認めたのにのう」
「あ、祭がいるから断ったって言ってたぞ郭雄の奴」
「なぬう!?」
「はっはっはっは冗談だ」
「大殿ぉ!!」
大笑いする炎蓮。
「郭雄も母様の誘いを断るなんてある意味大物ね」
「何でもオレと一緒にいると気苦労するからと断りやがったんだぜ」
「「「それはそう」」」
「おい、お前ら」
雷火を筆頭に雪蓮や紫苑は郭雄の言い分に同意した。
「郭雄の言う通りじゃろが」
「そうよ母様の行動全てが無茶苦茶なんだから」
「炎蓮殿はとても破天荒な人ですしね。昔あった時もそうでしたし」
何故か郭雄の言い訳に同意する雷火たちであった。特に気苦労させられている雷火はとても納得がいくのか深く頷いている。
「久しぶりに郭雄にあった時は何故か叱られたぜ。この歳になっても郭雄から叱られるとか意味分かんねえ」
「あの時もっと怒られればよかったんじゃ。というかわしはもっと説教したかったぞ」
「勘弁してくれ」
あの時とは炎蓮が実は生存していたという知らせを呉が公開した時である。
武田信虎との戦後に炎蓮と雪蓮の生存がバレ、雷火たちの大説教があったのだ。しかしそれで終わらず、まさかの郭雄が参戦したという裏話があった。
「あの時、母様に不敬にも説教してた人って郭雄だったの!?」
「そうだぜ」
「そうだったんだ。母様にあんな怒鳴ってたから不敬だと思って私、良い顔しなかったわね」
呉王の母に対して怒鳴っていた商人を見れば誰もが不敬だと思うのは当然だ。場合によっては処罰されてもおかしくない。
「母様自身が気にしてなかったから特に処罰しなかったけど」
「まあ…蓮華様の反応が当然ですぞ。ただ大殿と郭雄殿の仲でしたから、わしや粋怜も何も言わなかったのじゃ」
寧ろ雷火たちは郭雄の味方で「もっと言ってやって」と思っていた。
「ま、それほど大殿を心配しておったのじゃ郭雄殿も」
「そうね。郭雄殿は大殿が亡くなったと報せを聞いてとても悲しんでたみたいですよ」
粋怜や祭くらいしか知らないが郭雄は炎蓮の墓の前で大粒の涙を流したほどだったのだ。
「それに郭雄殿は商人なってから大殿の援助を惜しまなかったぞ。まだまだ商人として軌道が乗らなかった時でもたくさん援助していたわい」
「ああ。アイツもオレの元上司だかなんだかの見栄があったのか無茶して援助してたな。いらん気遣いしやがって」
「まあ、実際に助かってたじゃないですか」
炎蓮が祭や粋怜、雷火を仲間にして本格的に動こうとした時に自ら援助していたという裏話があったのだ。勿論、援助してもらったからには炎蓮も郭雄の商会とは契約を結んでいる。
その結果、孫呉と郭雄の商会は長く続いているのだ。炎蓮は郭雄を信用し、郭雄もまた炎蓮を信用している。
「それに郭雄殿は雪蓮様が王になった時や蓮華様が王になった時、いの一番に援助を申し出てくれたのじゃぞ」
「「そうなの!?」」
炎蓮が崩御した時や雪蓮が崩御した時は国が不安定になってしまった状況。その時、郭雄はすぐに城へ駆け込み援助を惜しまなかった。
それだけ郭雄は孫呉を信頼しているという事だ。他の商会が孫呉から離れても彼は孫呉が天下を手にすると信じてやまず、援助し続けたのである。
「そうだったんだ…私ってば郭雄の商会をそこまで重宝しなかったかも」
「私も…そもそも母様を怒鳴った商人として不敬と思って契約を切ろうかとも思っちゃってた」
「まあ、郭雄殿だけを特別視して雪蓮様や蓮華様に報告するわけにもいかなかったしね。ある意味、知らなかったのはしょうがないかも」
まさかの事実を聞いて驚く雪蓮と蓮華。そして郭雄をそこまで深く見なかった自分が恥ずかしいと思っていた。
何せ、孫呉を少なからず裏から支えていたのだから。彼もまた呉という国を建国させた功労者なのだ。
「郭雄も功労者というのは違くねえか?」
「大殿は厳しいですな」
「蓮華。気が向いたら郭雄の商会をからどかんと商品を買ってやれ」
「はい、母様」
「ま、良い商品があればの話だがな。アイツの商会は当たり外れがあるからよ」
そう言う炎蓮は笑っていた。
郭雄は炎蓮が少なからず認める意外とガッツある人間なのだ。
「ねえねえ母様」
「なんだ?」
「話しをちょっと戻すんだけど、本当に謎の協力者たちとはもう再会できなかったの?」
「ああ。もう再会する事は無かったな」
「これだけ昔話をしたけど、思い出せそうにない?」
「それが不思議な事にな」
炎蓮だけでなく、雷火や祭たちもだ。
「まあ、うろ覚えてるのは炎の槍を持った女の武人にとんでもねえ剣を使う男の武人、頭がめちゃくちゃ切れる軍師。可愛い顔してる癖に恐ろしいガキ。そしてオレが今まで会ってきた男の中でも上位に位置する気概のある男だな」
炎蓮も彼らを探さなかったわけではない。朝廷での大事件後に捜索したのだ。
彼女は郭雄とも協力し、様々な伝手を使って捜索したが見つからなかった。本当に謎の仲間であり、協力者であったのだ。
「ま、様々な所を旅してるっつってたからな。あのムカつく龍をアイツらが討伐して大陸を出てったのかもな」
朝廷での大事件後、炎蓮たちが戦った悪神黒龍は表舞台に出てこない。きっと討伐されたのだろうと炎蓮たちが判断している。
討伐されてなければ炎蓮たちがまた襲撃されていた可能性があるのだから。
「アイツら何処に行ったんだか。もう会えないなら最後くらい別れの挨拶くらいさせろって」
一瞬だけ寂しそうな顔をした炎蓮であった。
「母様の初恋の人だしねー」
「馬鹿。そのネタまだ引っ張ってんのかよ」
雪蓮が勝手に炎蓮の初恋だとほざくので拳骨を入れた。
「虐待だ!?」
「テメエが馬鹿言ってるからだ」
「でも母様が認めた気概がある男なんでしょー」
「それを言うなら他にいた男の武人や細目の軍師も気概のある男だ。テメエの言い分だとオレが気概のある男に惚れやすい女になるだろが」
「ぶーぶー」
「豚かテメエ」
己の母親を弄っても面白くないのか雪蓮は狙いを変える。自分の母親を弄る娘も良い性格をしている。
「祭は~?」
「うむむ…どうかのう」
「粋怜は~?」
「まあ、何故かずっと心に残ってるんだよね。顔が思い出せないのに」
「雷火は~?」
「な、ななななな何を言うのじゃ雪蓮様は!?」
「え、意外。3人共?」
まさかの反応にキョトンとしてしまう雪蓮だった。
「特に雷火は意外だわ」
「どういう意味じゃ雪蓮様!?」
もしも惚れるとしたら達人の男武人か天才軍師かと思っていたのだ。
「男の武人は世帯持ちだしのう」
「軍師の方は何か胡散臭いし。ま、悪人じゃないんだけど」
何故か分からないが手の甲に刺青があった青年に惹かれたのだ。普通では男も女も容姿端麗であったり、才能があったり、力強かったり、大きな活躍があった者に惹かれるはずだ。
彼は武人の力強さや軍師のような圧倒的な才能は無かった。それでも彼は何か泥臭さのような熱い何かを持っていた。もしかしたらソレに惹かれたのかもしれない。
(……粋怜さんの言う通りかもしれないわね。何故かあのお兄さんに惹かれたのよね。ふふふ、お兄さんか)
心の中で紫苑が微笑した。何故か惹かれた青年がうろ覚えだが心に残っているというか燻っている。
(ふふ…あれが初恋だったのかしらね)
もう会えないであろう青年を思い出すが、やはり靄が掛かってしまうのであった。
「さて、昔話は終わりだ」
「シャオはもっと聞きたーい」
「いや、もう無いんだよシャオ。ここで話は終わりだよ」
「え、そうなの?」
昔話は終了。炎蓮達が悪神黒龍である共工を朝廷から追い出した時点で昔話は終わりだ。
「せっかく集まったんだ。この後、酒盛りでもしようぜ」
「あら、母様にしちゃ良い提案ね」
「母様と姉様が集まれば酒盛りが当たり前じゃない」
蓮華が酒盛りと聞いてヤレヤレとこめかみをツンツンとした。
酒盛りが好きな人は三国で当たり前のように存在するが特に孫呉が多い気がすると蓮華は思っていた。
「さあ、ちと早いが酒盛りするか」
「ちょっと今からするの。まだ早いわよ」
「良いじゃねえか華琳」
「まったく豪快ね炎蓮殿は」
「はっはっはっは!!」
大笑いする炎蓮。まだ夕方にもなっておらず、昼から酒盛りというものだ。
「おーい」
「ん?」
声が聞こえた方に視線を向けると5人ほど歩いてくる。その5人とは藤丸立香、太公望、黄飛虎、哪吒。そして太歳星君。
「おお、立香に太歳星君たちじゃねえ……か」
炎蓮は5人を見た時、頭の中の靄が急に晴れた。彼女たちだけでなく、雷火や紫苑たちも同じであった。
「あ…」
「え、嘘」
「な、なな」
「紫苑殿…もしかして」
「はい風鈴殿信じられないけど。そういう事…」
どれだけ昔話をして思い出そうとしても靄がかかって顔も名前も思い出せなかった。しかし5人を見た時すべて思い出したのだ。
「はっ。不思議なもんだな天の御遣いってのはよ」
炎蓮は瞬時に移動して藤丸立香にラリアットした。
「何で!?」
「確かにまた会えたな立香!!」
「おおー。イェンイェン アグレッシブだな」
「久しぶりじゃねえか太歳星君」
ニヤっと笑う炎蓮。
「それにお前らもな」
太公望たちを見ると、彼らも笑っていた。
「早い再会ですね」
「こっちはだいぶ待ったぜ」
「炎蓮さん首極まってます…極まってます」
ラリアットからの首絞め。気を失いそうな藤丸立香。
「言う事あんだろ立香」
「久しぶり…じゃなくて、ただいま…かな」
「おう。おかえりだ」
藤丸立香の頭をガシガシする炎蓮であった。
2014
早い再会とだいぶ待った再会をした藤丸立香と炎蓮たち。
分かる者にしか分からない物語なのだから雪蓮や蓮華には分からない。特に太歳星君は誰なのか分かるはずが無いのだ。
「わはー。はんなまー!!」
元気いっぱいで挨拶する太歳星君。
「え、誰この子?」
「コイツは太歳星君つーんだ。ガキだからって甘くみんなよ。怖い怖ぁいガキだからな」
「フーン…って、何で母様は知ってんの?」
「昔馴染みだからな」
「この子何歳よ!?」
「「さあ?」」
「母様もこの子自身も知らないのおかしくない?」
太歳星君との始めましては急すぎて混乱しそうになる。
「ま、立香の仲間だ。それだけでいいだろ」
「まー…確かに。それでいっか。よろしくね太歳星君ちゃん。私は雪蓮よ」
炎蓮が真名を預けているので雪蓮たちもまた太歳星君が信頼できる人物だと判断して真名を交換していく。
「よろしくだぞーシェレシェレ!!」
「しぇ、れしぇれ?」
太歳星君は仲間や友達になった者を愛称で呼ぶ。
「コイツなりの親愛の呼び方みてえなもんだよ」
「へー…じゃあ、蓮華だったら?」
「レンレン」
「桃香だったら?」
「トウトウ」
「華琳だったら?」
「カリカリ」
「ぶふっ」
華琳の愛称の時だけ噴き出した雪蓮。
「ちょっと雪蓮…?」
「ごめんごめん華琳。ちょっと面白くて…カリカリ。ぷふっ」
「雪蓮?」
ちょっとツボったようだ。
これは面白いと他の人の名前を呼ばせてみようと企み始める。
「冥琳は?」
「メイメイ」
「わ、めっちゃ可愛くなった」
「どういう意味だ雪蓮?」
「あ、実際はとても怖いわねー」
恐らく彼女は許されるのなら全員分の真名を太歳星君に聞いて回るだろう。
「紫苑は?」
「コウコウじゃなくて、シオシオ!!」
「しおしお……萎れて」
「雪蓮殿?」
「あ、何か凄く怖いんだけど」
笑顔の紫苑だけど怖い笑顔であった。これには雪蓮も頬がヒクつく。
それでも面白いので雪蓮は太歳星君を連れて仲間たちの元へと向かうはずだ。
「さて」
炎蓮がおもむろに立ち上がる。
「どーしたの母様?」
「立香!!」
「なに!?」
急に声を挙げて藤丸立香の襟を掴む。急過ぎで藤丸立香も雪蓮も驚く。
「今から遠乗りに行くぞ」
「今から!?」
「今から」
まさかの急な遠乗り発言に驚く。
「いいから来い!!」
「急だね!?」
何でまた急に遠乗り何かする羽目になったかは分からない。炎蓮も気分屋な所があるので考えても無駄だ。
「大殿。今宵はこの場の皆で酒宴をするんでしたな。遅くならないでくだされ」
「おう、分かってる。じゃあ立香、それまではこのオレに付き合え!!」
「本当に行くの!?」
「いいから来いってんだよ」
藤丸立香は炎蓮にそのまま連れていかれるのであった。
「大殿も立香の奴と色々と話したい事があるんじゃろうな」
「ま、それは私たちも何だけど…やっぱ大殿が一番最初よね」
「そうね。私も色々と話たい事があるけど今回は炎蓮殿が先ね」
炎蓮だけでなく祭や粋怜、雷火や紫苑も色々と話したい事がある。しかし今回は炎蓮がいの一番。
「後でまた話しましょうね立香さん。いえ、立香お兄さん…なんちゃってね」
「え、なに紫苑?」
「何でもないわ粋怜殿」
軽く笑う紫苑であった。
2015
パッカラパッカラと馬を走らせる炎蓮と藤丸立香。
「本当に炎蓮さんは強引だよ」
「いいじゃねえか。オレと立香の仲じゃねえか」
「そうだけどさ」
強引に連れられたが悪い気はしない。
「おい立香、そろそろ飛ばすぞ」
「え」
「今夜は酒宴だ。日暮れ前には城へ戻らねえとな。よし、あの山の麓まで競争だ」
酒宴を提案した本人が遅れるわけには行かないので、必ず間に合うようにしなければならない。
尤も遅れないようにするなら山まで遠乗りなんてしなければいいのだが。
「競争って、オレはまともに馬を操った事ないんだけど」
UMAの背や狼王の背に乗って駆け抜けた事はあるが。ただ乗ったというよりも乗せられた感が強い。
心の中の赤兎馬が「私ってば最強の呂布奉先ですから。馬ではありませんから」と言ってくる。心の中の赤兎馬まで己が呂布奉先だと言ってくる。
「うるせえ。テメーが負けたらケツをぶっ叩くからな」
「酷くない?」
「なら立香が勝ったらオレのケツをぶっ叩けばいいぞ。いや、叩くよりもブチ込む方がいいか?」
「何言ってんの炎蓮!?」
まさかの下ネタに噴く藤丸立香。しかし2人の仲にそういう遠慮はいらない。
「よーし、そうするか。勝った方が負けたヤツのケツにブチ込む」
「何を!?」
「うるぁああ、行くぞ!!」
「ちょ」
炎蓮は馬で駆け出していく。
「ねえ、何をブチ込むつもりなのさ。本当に怖いんだけど!?」
藤丸立香も慌てて追いかけるしかない。本気で赤兎馬を呼び出して追いかけようか悩むほどであった。
2人は山の麓まで一直線で向かうのであった。
「ふー、良い運動になったぜ。やっぱり城に籠ってばかりじゃ身体に毒ってもんよ。なあ立香?」
「馬に…あんま…乗った事ない人に…勝負しかけないでよ。……ちょっと待って、息整えさせて」
頑張って馬を操作した藤丸立香を褒めて欲しいものだ。これで一度も乗った事もない人であったならば落馬してもおかしくない。
「おい、ずっと馬に乗ってたくせに何でそんなに息が上がってるんだよ?」
「炎蓮さん…に頑張って…ついて行こうとしたからだよ」
「夜のテメエはもっと体力あんだろ」
「やめてくんない?」
「ま、ずいぶん馬も上達したんじゃねえか。オレについてくるとは大したもんだぜ」
「あ、ありがと」
息を整える。心臓がバクバクしているが徐々に落ち着いてきた。
炎蓮は「ついて来れて大したもんだ」と言っているが、だいぶ手加減していた事は理解している。
「ふー…」
立っているのも疲れるので藤丸立香は岩に座り込む。特異点や異聞帯の旅ではこの程度で疲れはしないのだが気持ちの問題かもしれない。
「なあ、立香」
「なに?」
炎蓮が藤丸立香が座っている石に同じく座り、彼女は真剣なトーンで喋りかける。
「オレらって昔に会ってるよな?」
「昔って…まあ、オレが流星に呉に落ちてきたっていう時の話」
「じゃねえよ」
炎蓮が藤丸立香と出会ったのは雪蓮が彼を見つけて城い連れてきた時ではない。もっと前の話で、炎蓮がまだ未熟な頃で孫呉の礎を築く前の話だ。
「そんな前だとオレと炎蓮さんとの歳と見た目がおかしくなるけど」
「そこは確かにそうだが、それでもオレとお前は昔に会ってる。嘘付くな」
「…………そうだね」
隠せないと思って藤丸立香は正直に言った。
「どういう理屈なんだ?」
藤丸立香たちの歳や見た目は変わっていない。
「天の御遣いだからかな」
理由は誤魔化した。流石に過去を渡って来たなんて言えない。しかしここで炎蓮が折れなければ、やはり正直に話すしかないと思っている。
「天の御遣いだからか…あれだけ天の御遣いじゃねえって言ってたくせによ」
「あはは…」
苦笑い。前々から自分は天の御遣いではないと言っておきながら、説明しずらい事象に関して天の御遣いだと認めてしまう。
「ま、確かに天の御遣いじゃなきゃ説明がつかねえか」
炎蓮も天の御遣いという理由だけで納得した。『天の御遣い』という言葉は便利であった。
そもそも天の御遣いも普通の存在ではないのだから、ある意味普通では説明できないものを納得させられる。
「…あの糞トカゲは倒したんだよな?」
「倒したよ」
「何でまた会いに来なかった」
「……また再会出来るまでに色々あったんだ」
「色々ってなんだよ」
「色々だよ」
「言えない事か」
「天の御遣いにも色々あるから」
とても便利な言葉である『天の御遣い』。
「…ったく、お前らが居れば孫呉をもっと簡単に国に興せたかもしれなかったぜ?」
「そんな事ないよ。オレらが居ても建国させるのは大変だよ」
建国させる事は簡単には出来ない。どれだけ優秀な人材が多くいても簡単には建国なんて不可能だ。
「それもそうだな。簡単に建国できたら今頃大陸は独立国ばかりか」
そうなれば戦争はもっと酷いものになっていたかもしれない。
「いや、案外今と変わらねえか?」
大陸も漢帝国が腐敗し、各州が独立し始めて戦が始まった。州の呼び方が国になるかどうかの話だ。
「なあ、立香」
「何かな」
「オレんとこに…孫呉に来ねえか?」
「もう居るんじゃないの?」
流星で孫呉の地に落ちて雪蓮に保護された時から藤丸立香は孫呉の所属になっている。
「本気の話だ。昔だったら祭や雷火たちと一緒にオレを支えてくれって言ったかもしれねえが……今は蓮華を支えてくれ」
炎蓮は本気で藤丸立香たちを孫呉に組み込もうとしている。昔の自分は本気で藤丸立香を仲間にして大陸の頂点を目指そうとしていたのだ。
自分が活躍する時代は終わったので今は娘の為に支えてやりたい。その為に藤丸立香は必要だと思っている。
話しを聞くに彼は既に蓮華の支えになっている。
(まあ、話しを聞いてると蓮華のやつ立香に依存気味と聞いてるのがちょっと思うところがあるが…)
蓮華自身は自覚していないが周囲から見ると依存している気が見え隠れしているのだ。
(それにオレも本気で立香たちが本気で欲しいと思ってるしな)
藤丸立香の返事を待つ炎蓮。これは真面目に返さないといけないと判断した。
ただ藤丸立香の答えはもう決まっている。
「…せっかくの誘いだけどオレにはやるべき事があるんだ。オレの旅はまだ終わってないから」
「そうか」
前にも言っていた台詞だ。炎蓮は知らない事だからしょうがないが彼には大きな目的がある。
世界を救うという大きな目的が。今、藤丸立香たちがこの外史世界にいるのも究極を言ってしまえば寄り道みたいなものである。
「今は力を貸しているけど…いずれはまた別れる事になる」
「そうか…前の時のようにか」
「うん」
彼の真剣な返事に真剣な目に嘘は無いと判断出来た。
「その旅は長いか?」
「長いよ。でも…やっと目的地は見えてきたんだ」
特異点や異聞帯を周って、ついに世界を救える方法や目的地が見えてきたのだ。
これには炎蓮は口説けないと判断してしまった。何せ彼は覚悟を決めた男なのだから。
「じゃあ、その旅が終えたら必ずオレらんとこに戻ってこい。絶対だ」
「それは…勿論」
また炎蓮たちに会えるか分からない。しかし藤丸立香はまた再会できるのであれば再会したいと本気で思っている。
本気で思っているからこそ藤丸立香は炎蓮に再会を約束するのだ。
「ったく、また振られちまったぜ」
「でも約束は本気だよ」
「ああ」
何だかんだで話していたら時間は過ぎていく。炎蓮の提案した酒宴も近づいてくる。
きっと戻ったら今の炎蓮のように雷火や祭たちに色々と詰め寄られるかもしれない。しかしある意味久しぶりの再会なのだからいくらでも詰め寄られても良いと思っている。
藤丸立香だってもう会えないと思っていた人物と再会できたら色々と話したい事がいくらでもあるのだから。
「もう戻る炎蓮さん?」
「まだちと時間はあると思うが…そうだな。そろそろ戻るか」
酒宴に遅れて酒が呑めなくなったら炎蓮は文句でも言って荒れる。
「汗かいたから臭いが気になるな。ちょっと水浴びしたいかも」
汗臭いのはいただけない。気にしない人もいれば気にする人もいる。
「おう、そいつはいいな」
「……え?」
「おい立香。水浴びをするぞ」
炎蓮は羞恥心を感じさせないくらい豪快に衣服を脱いだ。しかし彼女も誰が相手でも目の前で衣服を脱ぐはずが無い。相手が藤丸立香だからこそだ。
「ちょっ、急に脱がないでよ!?」
水浴びはしたいと言ったが今この場で水浴びをするつもりまでは無かった。せめて帰ってから水浴びをしようと思っていたくらいである。
「そこの滝つぼがいい。オラ、テメーもさっさと脱げ」
「ちょ、え、いやあぁ!?」
「なーに生娘みてえな声だしてんだ。最近はしょっちゅうハメてる仲じゃねえか」
「言い方ぁ!?」
普通に豪快な女武人が青年の衣服を引ん剝く構図になった。
「お前の旅路は止めねえがせめてテメエの役割は果たしていけよ」
「え、役割?」
「種を孫呉に入れろってやつだよ」
そう言えば最初にそんな役割を言われたと思い出す。いつも忘れては炎蓮に言われている。
「つーか、まだそんなに種を孫呉に入れてねえだろ。早くしろ。いつも言ってんだろオレは許可してんだから蓮華たちを襲って孕ませろ」
「襲っ!?」
とんでもない事を言っている。認めている男だとしても孫呉の礎を築いた人物が孫呉の女性たちを襲いまくれとは非常識すぎる。
「テメエからしねえならこっちから襲うぞ?」
ニヤリと笑う炎蓮だった。
「じゃあ時間も少しあるし、早速オレから襲うか」
「え、本気!?」
「はっはっは。オレとテメエの仲じゃねえか」
冗談なのか本気なのか。
「このままだとオレが蓮華や雪蓮の先を越しちまうかもなあ。はっはっはっはっは!!」
藤丸立香と炎蓮との絆は深まっていくのであった。絆が深まるのは良い事だ。
「炎蓮さんの絆礼装ってどんなのだろ」
「何言ってんだ」
読んでくださってありがとうございます。
ついに江東の虎物語編も終了しました。
いやあ、まさか半年かけて書く事になろうとは…本来だったら6月中に完結させるはずだったのに。
これも作者である私の見込みの甘さよ…。
次回の更新は未定です。残り年内に更新できるのか…それとも来年になるのか。
次の話は四季時期関係無く、七夕の話か水着回にする予定です。
2012~2013
エピローグ的な話しになります。
藤丸立香たちもやっと元の時代に戻り、炎蓮たちは朝廷での大事件後の話しをします。
郭雄。
今回で活躍は終わりましたが…もしかしたらまたちょろっと登場出来たらするかも。
小物な彼でも悪い男ではなく、筋は通す男。こういうキャラも私は好きですね。
藤丸立香と炎蓮の再会。
この物語だけのネタだけど…再会はやはりラリアット。
2014
太歳星君がやっと雪蓮たちと顔合わせ。
彼が仲間や友人と認識すると愛称を付けてくれる。
実際に彼がカルデアの英霊たち全てを愛称で呼ぶときがあるならまとめを作って欲しいですね。
まあ、中には愛称をつけずに警戒する英霊もいるらしいですけど。
祭や紫苑たちが藤丸立香を意識し始める。
黄飛虎や太公望よりも立香を意識するのは物語の主人公だからって言ってしまえばどうしようもないんだけど……意外にもある設定で『天の御遣い。主人公だから』っていうのが理由としてあるんですよねー。
その理由を説明したいけど…それは7章で明かされます。
2015
藤丸立香と炎蓮のちょっとした絆話かな。
彼が炎蓮たちとまた再会できるかは分からない。もしかしたらもう会えないかもしれない。それでも「また会いたい。再会したい」という気持ちは本物。
だから叶わぬ約束であっても、しないよりはいいと思います。
まあ、最後の最後で下ネタオチみたいなもんだけど。
炎蓮に藤丸立香が本当に襲われたかどうかはご想像にお任せします。
この物語では気が付けば立香は蓮華や雪蓮よりも炎蓮の方と色んな意味で絆深めてるなあ。