Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
またまた早めに書けたので更新です。



錦帆賊

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藤丸立香と孫権は月あかりの下、小舟で長江へ漕ぎだした。小舟の向かう先は錦帆賊の根城。

だが彼らが甘寧の元に向かう前に先客がいたのだ。

 

「黄祖殿…我が答えは変わらぬと何度もお伝えしたはず」

「そう言うな甘寧。今は孫呉の小娘がそなたの庭を荒らしに参っているようだな。望むならば兵を出すぞ?」

「黄祖殿から援助を受ける謂れはない」

「左様か。まあ、あのような小娘が何隻率いてこようと、そなたの敵ではあるまいが…」

「はー…どうかお引き取りを。劉表殿に仕える気はない」

「フフ、さもあろう。あのような腐れ儒者、私もほとほと愛想が尽きかけておるからな。甘寧、そなたを欲しておるのはこの私よ」

「黄祖殿?」

 

甘寧が黄祖の本心を聞かされ始めた頃、孫権たちは甘寧の部下たちに接触していた。

 

「怪しいヤツってのはこいつらか」

「あの孫堅の娘だとよ。信じられるかそんな話」

「貴様が信じずとも私は呉群太守孫堅が次女、孫仲謀だ」

「俺は藤丸立香です」

「お前の名前は聞いてねえ」

 

彼らの注意は孫権に向けられている。孫堅の娘と信じられなくとも彼女の普通の者には無い覇気には気付いているのだ。

 

「錦帆賊頭目、甘寧殿への目通りを願いたい」

「お頭に会わせろだぁ?」

「孫家のご令嬢がたった2人で乗り込んできたってのがやっぱ信じられねーな。あと、そっちの男はなんだよ」

「さっき藤丸立香っていった」

「うるせえ。魚の餌になりたくなきゃ、とっとと帰るんだな。もちろん身ぐるみは全てもらっていくがな!!」

 

錦帆賊の見た目はよく漫画や映画に出てきそうなタチの悪い海賊である。

彼らは既に剣を抜いて威嚇している。彼らの心情からしてみれば自分たちを討伐しに来た奴らが来ればこういう対応なんて当然かもしれない。

特徴的に気づいたのは、彼らは身体のどこかに鈴を振ら下げていた。

 

「話の分からん連中だな…とにかく甘寧殿にお伝えしろ。孫仲謀が話し合いに参ったと」

 

どう話してもどちら側も一方通行でなかなか話が進まない。

恐ろしい江賊相手に囲まれても孫権は怯えずに「甘寧と話をさせろ」と堂々と言い続ける。

藤丸立香も冷静さは欠けていない。盗賊たちに襲われる状況なんて慣れっこになっている。そして対応の準備も出来ている。

 

「えー、駄目なの?」

「悪いが、お頭は大事なお客と会ってなさるんだ……おい、今馴れ馴れしくなかったか?」

「お客、誰?」

「教えるかよ。つーかやっぱ馴れ馴れしいなお前」

「そうかな。まあ、自分でもどんな状況でもよくこんな事を言ったなーって事は多々あるけど」

「何を言ったんだよ?」

 

例えばある海洋油田基地にて危機的な状況でも「年上お断り」なんて普通は言えないが彼は言った。

一歩間違えれば一瞬で溶かされる状況であるのにだ。

藤丸立香はシリアスな場面で「怖くないのか?」という状況でも堂々とした態度ではっきりと言いたい事は言い、空気の読めない事を言ったりする事が多々あるのだ。

 

「どんな状況だよ!?」

「本当は年上も年下もイケるけどね」

「俺は年下派だな」

「な、普通は年上だろ」

 

何故か話の流れが妙な方に変わっているが孫権は先客が誰かという部分に考えが集中していた。

 

(甘寧の元に客…いったい誰が?)

 

彼女はどこかの勢力が使者を送っているのではないかと考えたのだ。

 

「おい」

「あん、何だよ。俺はこの男に年下の良さを…」

「そんな下らない事は後にしろ。例え来客中であろうと孫仲謀が参った事を伝えることは出来よう!!」

 

彼女からしてみれば下らない話をして、甘寧になかなか話を取り合わせない彼らに威厳と怒気を込めた言葉で委縮させた。

一方的と言われても構わない。今の状況は先に折れた方の負けなのだから。

彼女の威厳に江賊たちは気圧されてしまった。警戒はしていたが、まさかここまでとは思わなかったのだ。

 

「あっ…!」

「お、客人が出てきたぞ。もう済んだようだな」

 

一軒の家から女性が出てきた。

 

「誰なのだ?」

「いや、流石に言えねえよ」

 

出てきた女性は此方を見ると薄らと笑みを浮かべた。暗くて見にくいが彼女からはただならぬ気配を感じてしまったのだ。

それは藤丸立香だけでなく、孫権も感じたのだ。そのただならぬ気配は藤丸立香がこの外史に来て初めての感覚である。

女性は孫権らから目を離すと闇夜に消えていった。

 

「…うん?」

「あ、お頭!!」

「なんだ、その者たちは…」

「久しぶりだな興覇」

「仲謀か…貴様らはもういい。下がれ」

 

甘寧がそう言うと江賊たちは素直に引き下がった。

 

「隣の男は誰か?」

「藤丸立香です」

「何者だ?」

「孫家で厄介になってる1人です」

「…まさか天の御遣いか?」

 

ピタリと言い当てられた。

その風評が広がっているなら炎蓮の目的は順調ということだ。

そして一発で言い当てたということが穏の言う通り、独自の情報網を持っていたが故に正解まで到達させた。

 

「興覇、流石の眼力ね」

「噂に聞いていたからな。まあいい、二人とも中に入れ」

「ああ、お邪魔させてもらおう」

 

甘寧の家に2人は案内された。

 

「茶だ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 

まさかお茶を淹れてくれるとは思わなかった。しかも甘寧自身でだ。

江賊なのだから甘寧も荒くれ者かと思えば、寡黙な武人というイメージが思いつく。

 

「…して、如何なる用で参った?」

「此度は我が母、孫堅の代理として参った。興覇、お前の力を孫呉に貸してほしい」

 

孫権の言葉に「またか」みたいな顔をした。

 

「我ら以外からも誘いを受けているのか?」

「お前に話す義理はない」

 

この事から先ほどの女性はどこかの勢力ではないかと思ってしまう。うんざりとした甘寧の表情から嫌でも分かってしまうものだ。

 

「では、改めて私の要件を申す。興覇、お前が漢王朝を憎んでいるのは知っている。しかし我ら孫家とて、今の世を良しとはしていない。それを変えるためにもお前の力が必要なのだ」

「書簡で何度も解かれた話だな。私の答えが返書にしたためているはずだ」

 

一瞬で断られた。

 

「ならば話は終わりだ」

「そうはいかない。一度こうしてお前に会って腹を割って話がしたかったのだ」

「話すことは何もない」

 

孫権は甘寧に話しをしてもらおうと諦めないが甘寧の態度は取り付く島もない。

交渉は始まったばかりで、孫権も説得をやめない。

 

「孫呉に加われば確かにこれまでのように自由な振る舞いは出来なくなるだろう。だが少なくとも賊として討伐の対象にされることはない」

「左様なことなど恐れておらん。我らを討とうという者は、いつでもお相手いたす」

「興覇、賊を続けてその先に何がある。我らに力を貸してくれれば、孫呉の中でもお前に…いや、お前の部下たちにも確固たる地位を約束しよう」

「……」

「錦帆賊の土地を孫家が召し上げることもない。今の支配はそのままで、ただ戦の時にはお前たちの手を貸してほしいと申しておるのだ」

「いずれにせよ、我らを孫軍に編入するのであろう。それならばお断りいたす」

 

どんなに説得、交渉しようと甘寧からは良い返事はない。

 

「お上など信用できるものではない。この乱世で己は身を守れるのは己だけよ。お前たちは甘言を弄して、我らを取り込んだ挙句、戦の道具として使い潰すだけだ」

「誤解だ興覇!!」

「誤解なものか。戦の時だけ力を貸せだと。平時はどうだ。お前たちはこの流域の民の暮らしに目を向けるつもりさえない」

「そ、それは…」

 

ここで孫権の言葉が詰まる。今、甘寧が言った言葉は否定するが実際は否定できない部分もある。

ここぞとばかりに甘寧は孫権に言い負かしていく。これではマズイと思って黙っていた藤丸立香が口を開いた。

 

「それは甘寧さんの言う通りかもしれないね」

「藤丸!?」

「ほう?」

 

話の流れは甘寧側だ。このままでは孫権は何も言えなくなる。

彼女はどんな甘言にも食いつかない。ならば彼女の心を動かすには真正面から伝えた方が逆に伝わるかもしれない。

 

「だけど貴女たちを仲間にしたとしても孫権は使い潰すなんて事は思っていない。…腹を割って話そう。元々そういう話だ」

 

孫権の言う通り、錦帆賊の土地を放っておくつもりはない。しかし今の段階で孫呉が望んでいるのは甘寧の戦力が加わってほしいこともある。

孫呉はこれから荊州や豫洲、徐州にも討って出ることになる。そのためには江賊の力は必要になるのだ。孫呉がどこを攻めるにしても長江を渡る必要があるから、甘寧の戦力は喉から手が出るほど欲しいに決まっている。

 

「そんな錦帆賊が他の勢力と手を組んだら孫呉はそれだけで身動きが取れなくなると思う。いや、そうなる」

「もっともだな」

 

これには甘寧も理解する。

孫権は戦の時に力を貸してほしいと言ったが、実際には無理に戦に参加しなくてもよいのだ。

ただ他の勢力や江賊に睨みを効かせてくれるだけでも十分な働きになるのだ。それだけで孫呉は有利に動けるのだから。

 

「孫呉は甘寧が憎んでいる漢王朝じゃない。そこは理解してほしい」

 

もしかしたら甘寧もそこは分かっているかもしれない。だが甘寧も錦帆賊として譲れない何かを持っているのだ。

 

「どちらも今の漢王朝を変えたいと思っている。なら進む先は同じじゃないか」

 

孫権も甘寧も今の漢王朝を良しとしていない。どちらも今を変えるべきだと思っている。

手を組めば一番なのだが、実際はそう簡単では無い。それはお互いに進むべき方法が違うからだ。目指すべき先は同じであろうとも、そこまでどうやって進むかは人それぞれである。

その進み方を今さら変えることは出来ない。それも孫権と甘寧が今の段階で相容れない理由の1つでもある。

孫権には孫家の未来の決める進み方がある。甘寧には錦帆賊としての未来を決める進み方がある。

甘寧がもし孫家に加われば今までの道のりは意味が無かったのではないかと思われてしまうからだ。本人からしてみればそんなのは簡単には許容できるはずもない。

 

「進むべき先は同じだ。だけど辿る方法が違う者は多くいる。その中で辿り着くのは一組だろう。ならどうやって辿り着くかは決まっている。それは今の世に従って力ある者だよ」

 

進むべき先が同じでも辿り方が違うなら今の世に従って力ある者が正しき在り方を決めればよいということである。

 

「孫呉は今の世を変える力がある。より強固にするために貴女たちの力が必要なんだ」

「なるほど…度が過ぎる正直者だな」

「腹を割って話すなら腹の中のを全て話さないといけないからね」

「腹を割りすぎだと思うがな」

 

感心したような呆れたような混じった感じで呟く甘寧。

 

「だが、話は終わりだな」

「興覇!!」

「我らは長江を漂う賊、主を仰ぐことは無い…それは吾らをねじ伏せ、頭を垂れるに相応しい力を示せるほどの相手でなければな」

「っ……つまり」

「殴って決めるってことだね。そして最後に立っていた方が今の漢王朝を変えるに相応しい人の可能性があるってことだ。それならば力を貸すのもおかしくはないって事かな」

 

より強き方が次なる時代への難局に立ち向かう。今の時代ならではの考えだろう。

 

「ふっ、そうなるな。だが我らの勝ちならば今の世を正すのはお前たちより此方が正しいということだ」

「どこかの皇帝様と似たような事を言うね」

「…そんな皇帝いたか?」

 

戦で勝負をつけるなら結果次第で話に乗るということだ。

 

「江賊には力こそすべて。仮に私が孫呉への基準を選んだとしても配下の者どもは決して納得せんだろう」

「しかし興覇、それは無駄な血ではないか。負けた方に恨みを残しかねないぞ?」

「大いに我らを恨んで結構」

「…っ」

 

今のは甘寧が「お前たちには負けることなど無い」という意味が込められていた。それをすぐさま孫権は理解してしまったのだ。

 

「ふっ…言ったわね?」

「仲謀とはよく木の枝で打ち合ったものだが私は一度たりとも負けたことは無かった」

「もうあの頃の私ではないわよ」

「昔から威勢だけは良かったからな」

 

2人の話は真面目だが藤丸立香はどこか友人たちのやり取りに見えてしまった。

 

「興覇、今一度はっきりさせておきたい。この戦に敗れればお前は孫呉に加わるのだな?」

「私が敗れれば、それはお前が私より力がある証拠だろう。ならば部下ともども、それを認めるしかない。しかし、勝っても孫家の二女を長江に沈め、孫堅の怒りを買うだけか」

「その心配は無用よ。私はお前の首に縄をかけ、建業まで連れて戻るのだから」

 

お互いに不適に笑い彼女たちの話はそこで終わった。

錦帆賊が孫呉に加入するか否かは、結局のところ戦によって決まるものになってしまった。

だが、ただ錦帆賊を討伐するのと、勝てば錦帆賊の力が手に入るのでは結果は違う。やはりこの話し合いは意味のあるものだったのだ。

藤丸立香と孫権は小舟で自陣へと戻る。

 

「あくまで、戦での決着だな」

「そうだね。結局戦うはめになっちゃったか…みんなまだ起きてると思う?」

「私たちが敵地に交渉へ行っていたのにもしも呑気に眠っていたら穏たちは逆さ吊りだ」

「厳しいな、おい」

「当然だろう。ふふ」

 

軽く笑ってしまう。

 

「なあ、藤丸。先ほどは助かった。お前が意見してくれなかったら話し合いはあそこまで進展しなかっただろう」

「うん、少しでも力になれて良かった。まあ、内心はヒヤヒヤしたけどね」

「…ただ流石に何もかも正直に話し過ぎだ」

「だって腹を割って話すんでしょ?」

「割りすぎだ。甘寧も呆れていただろう。交渉事には建前も重要なのだからな?」

「次は気を付けるよ」

「本当だな。まったく…ふふ」

 

本当に分かったのか、という感じに孫権は軽く笑って、藤丸立香も同じく軽く笑う。

最初の2人からしてみれば何処か距離は縮んだかもしれない。こうして軽口で笑い合えるのだから。

やはり危険地から仲間、男女、戦友が生還すれば少しは絆や信用が高まるということかもしれない。間違いなく2人の関係は良い方向へと少しは進んだ。

 

 

142

 

 

藤丸立香は自分の天幕に戻って腰を下ろす。今まで多くの修羅場を潜ってきたとはいえ、今回のような敵の根城に堂々と話し合いに行くなんて普通に考えて命掛けである。

だからこそ今、自分の天幕に戻ってきたことを実感した瞬間に身体から力がいっきに抜けたのだ。

 

「はあ…疲れた」

「お疲れだな主」

「燕青…護衛ありがとうね」

「ああ、何事も無くて良かったなぁ。孫権の言った通り甘寧って奴は高潔な武人だってことだ。ああいう奴は嫌いじゃねえぜ」

 

すっと現れた燕青。彼は誰にも見つからないように孫権と藤丸立香の護衛をしていたのだ。

これを知っているのはマスターの藤丸立香と穏だけである。孫権には話していない。話したらややこしくなることが目に見えてるからだ。

孫権と一緒に同行すると提案した時から燕青に護衛してもらうことは考えていた。孫権は甘寧を信じていたようだが藤丸立香は甘寧の事を知らない。

そして于吉が何かを仕込んでいる可能性だってゼロでは無かった。だからこそ本当に2人だけで行かせるなんて無茶は出来なかったのだ。

 

「あ、報告があるぜ」

「何かな?」

「甘寧の家に来ていた先客だがよぉ。あれ黄祖だったぜ」

「…え!?」

 

まさかの人物の登場である。

甘寧を仲間にしようとしている勢力がまさかの黄祖だとは予想外である。

 

「ちょくちょく黄祖について調べてたからな」

「そう言えば燕青は建業から出払って間諜をしていたからね」

 

燕青は孫呉からちょくちょく間諜の仕事を任されていたのだ。その時に黄祖にもついて調べていたのである。

調べた今の段階ではまだ黄祖と于吉の繋がりは見えていない。

 

「もしもを考えた場合、やっぱ燕青を護衛にしといて正解だったよ」

 

燕青なら頼まなくても内緒で護衛でついていったはずである。

 

「しかし、まさかの人物に遭遇するとは思わなかったな」

「会ってみてどうだった?」

「正直なところ不気味だったかな。今まで出会った事の無いタイプの人間かも」

 

不気味だったというのは底が読めないという意味だ。

暴力とか威厳とか覇気とかが強いという感じではない。不気味でありながらカリスマがあるような人間といった感じである。

 

「まあ、俺もそう思うぜ。案外ああいう奴ほど部下からの人望もあったりするんだよなぁ」

「そうなの?」

「ああ。ま、何んにしろ。黄祖も関わっているなら今回の戦は于吉も関わっている可能性もある。気をつけねーとな」

 

もしかしたら孫権と甘寧の戦いに何かあるかもしれない。そういう考えは頭に入れておくべきだ。

 

「だね…そういえば李師匠は?」

「出番が無くて拗ねてんじゃね?」

「また適当なことを…」

 

 

143

 

 

翌朝。

孫軍は陣を払って出陣した。総勢一万五千である。

船は大小様々でおよそ五十隻ほどだ。八千の錦帆賊の倍近い戦力だが相手の方が戦いの場所としてホームである。

そう考えると戦力差は覆る場合もあるのだ。

勝利の行く末はまだ分からない。

 

「船か…乗るのは久しぶりかも。いや、昨夜は小舟に乗ったけども」

 

結構この船は揺れがある。慣れない者が乗れば船酔いになってしまう可能性は大だ。

よく見ると船酔いによって気分の悪そうな兵士もいた。

 

「俺も船酔いは最初の頃はしたな」

 

オケアノスでの事を思い出す。フランシス・ドレイクの船で鍛えられたのでこれくらいの揺れでは船酔いはしない。

そもそもオケアノスではもっと酷い揺れの中で戦いをした経験があるのだから、この程度の揺れなんて楽勝レベルである。

 

「あ、立香は船酔いしてないんだね」

「小蓮」

「シャオで良いよ。前にも言ったでしょ」

「そっか。じゃあシャオ」

「そうそう」

 

藤丸立香が大きな長江を見ていたら小蓮が来てくれた。彼女のような小さい子ですら戦に出る。

今はそんな事が当たり前の時代にいるのだ。そう考えると戦のある時代に生まれてこなくて良かったと思う。

最も藤丸立香は別のベクトルの戦をしてきているのだが。その戦は逃げ出せない。戦う者がたまたま藤丸立香しかいなかったから戦っているのだ。

小蓮も藤丸立香も最初、戦う事が決まった時は怖かった。だが戦うしか選択肢が無い時は覚悟を決めるしかないのだ。

 

「死なないようにね立香」

「ああ、こんな所で死ぬ気はないよ。絶対に死ねない」

 

彼の戦いはまだ全て終わっていない。だから絶対に死んでたまるかという気持ちが強いのだ。

 

「そうそう、その気持ちよ。それに死んだら立香の赤ちゃん産めないしね」

「…それ本気にしなくていいから」

 

本当に小蓮はおませさんである。もしかしたら孫呉の中で一番、藤丸立香にグイグイ来る女性かもしれない。

 

「えー、でもお母様が決めた事でしょ?」

「炎蓮さんが決めたからってシャオがそれにを素直に従わなくていいから。特にこれは」

「シャオは立香なら良いと思ってるから構わないんだけどね。カッコイイし」

 

何故ここまでグイグイ来るか分からないものだ。まだ小蓮と出会って日も経ってないからお互いの事はまだ詳しくは知らない。

なのに小蓮は藤丸立香の子を産むのに積極的すぎる。

 

「だってカッコイイ人で良い人と結ばれるなら良い事じゃない。それに立香は悪い人にも見えないし」

 

政略結婚というのがこの時代では普通に行われている。母親や父親があの家に嫁げと言われても文句なく嫁ぎに行くのだ。全ては自分の家、国のため。

そのせいか小蓮は孫呉に天の御遣いの血を入れる事が決まってもその事を疑問には思わなかったのかもしれない。

彼女にとって結婚相手がカッコイイ人で良い人だったら寧ろ運が良かったという感覚なのかもしれない。政略結婚なんてものは相手を選べないのだから。

最も炎蓮が自分の娘をどこぞの馬の骨のような男に嫁がせるとは思えないが。

 

「えへへー、帰ったら一緒に寝る?」

 

腕に抱き着いてくる小蓮。この積極性はカルデアにいる清姫たちに負けず劣らずかもしれない。

 

(いや、清姫の方がより積極性があるか…)

 

清姫なら了承も得ずにベットの中に入り込んでくるからだ。

 

「ねえ今、別の女のこと考えなかった?」

 

女性の直感は怖い。こういう時の女性は侮れないというものだ。

 

「それはーー」

「前方に敵船団!!」

 

いきなりだった。誰かが敵船を見つけたのだ。

 

「総員、配置につけ!!」

 

今までの気持ちをカッチリと切り替える。小蓮も藤丸立香もすぐさま自分の配置に移動する。戦と分かれば眼つきも変わる。

ついに孫権率いる孫軍と甘寧率いる錦帆賊の戦いが始まるのだ。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は…1時間後くらい?

今回は甘寧との戦い前の話でした。
原作とあまり変わりないかもしれませんが、次回でついに孫権と甘寧の戦いです。


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