Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
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孫権と甘寧の対話に気を取られていて、全員が異変に気付くことが出来なかった。
孫呉水軍の船がナニカに襲われていたのに気づけなかったのだ。
「何が起きたんだ!?」
「河に大きな何かがいる!!」
「え、立香さん何か見たんですか!?」
穏がポテポテと近づいて、何かを見たという情報を詳しく聞き始める。
「うん。河に大きな何かがいたんだ」
「え、大きな何か?」
河をよく見ると穏にも一瞬だけ大きな影が見えた。
「見えました。あれはもしかして…噂の長江の主ですか!?」
「長江の主?」
「はい。二十尺以上あるとかなんとか」
「見た感じだともっとあるんだけど」
大きさは二十尺以上はあった。影の形を見るに長く太いナニカ。
想像がついたのは蛇。だがあんな巨大な蛇なんてヒュドラ系のエネミーしか思いつかない。
「孫権さん、甘寧さん。そこから離れて!!」
巨大な影が孫権たちが乗っている船に近づく姿が見えた。そうなると彼女たちが危険すぎる。巨大な影が船にぶつかるとただでは済まない。実際に船が沈められているのだから。
「一旦、退避するぞ思春。穏、藤丸、仲間たちを急いで河から救出してくれ!!」
「分かりました。全員退避だ!!」
「か、頭ぁ!?」
「何だ…って、本当に何だアレは!?」
甘寧たちの視線の先には黒く太く長い怪物が顔を出していた。
「鰻だアレ!?」
黒く太く長い生物の正体はまさかの巨大すぎる鰻であった。
「デカッ!?」
彼女たちは分からないが巨大鰻の正体は狗頭鰻という妖魔である。
狗頭鰻は船を襲う巨大な鰻として語られているほどの怪物だ。
「マズイ、あいつこの船に乗りかかって沈める気だ!!」
狗頭鰻が河から全身をしなるように立ち上がり、そのまま船に倒れてくる。
「退避しろーーー!!」
甘寧たちが乗っていた船が狗頭鰻の腹によって潰され、沈んでいく。
「きゃああああああ!?」
「蓮華様!?」
「孫権さん!!」
孫権が巻き込まれたのにすぐに反応したのが甘寧と藤丸立香だ。2人は急いですぐに助けに向かって手を差しだす。
ガッチリと孫権の手を掴むが、足場がどんどん縦に傾いているので2人も踏ん張りが効かない。
「このままでは全員が落ちるぞ!?」
「燕青、李書文!!」
「ほいきた」
「おい。燕青よ儂の手を足場にしろ」
燕青が藤丸立香たちを瞬時に回収して、李書文の手を足場に足を置く。
「いくぜ」
「応!!」
李書文が思いっきり上に投げると同時に燕青は跳ぶ。そのまま穏がいる船に戻る。
「蓮華さま~!!」
「ああ、無事だ…思春に藤丸ありがとう」
「お礼は後で、まずはここから離れよう。あの巨大鰻はまだここらにいる」
「そうだな」
いきなり出てきた巨大鰻である狗頭鰻。戦のせいで長江の主が怒ったのか分からないがここは急いで離れた方が得策なのは誰もが思う。
「では、急いでここから逃げーー」
ヌラリと狗頭鰻の顔が出てきて穏と目が合った。
「………」
鰻と見つめ合うなんて初めての経験である。
「きゃあああああああああ!?」
「せい!!」
その狗頭鰻の顔に李書文が蹴りを喰らわせて河へと帰らせる。
「ただいま戻った」
李書文が戻ってきた。
「ちょっ、江東の主になんてことをするんですか~。怒ったらどうするんですか!?」
「つい蹴ってしまった。特に反省はしていない」
「反省してください~!!」
「そもそもアレが江東の主なのか?」
江東の主というのは噂に過ぎない。本当に江東の主という確定はないのだ。
「アレが主などという神聖なものに見えるか」
「……微妙です」
「噂は私も聞いていた。だが江東の主なんてものは昔からそんな話はなかった。それは
つい最近流れ始めたものだ」
江東の主。もしかしたら本当にいるかもしれないが甘寧の話だと流れた噂は最近に近い時期とのこと。
どこかの山や河などに存在する主というのは昔からよくある話だが、そういう話が出てきたのは最近だ。
こうなると誰かが最近流したというのが予想できる。おそらく狗頭鰻を見たから勝手に江東の主なんて口走ったにすぎないのだ。
「アレはただのデカい鰻だ」
「デカすぎるけどね」
確かにデカすぎる。
(あれでうな重何杯分になるんだろう?)
きっとデカい鰻を見たら何人かはうな重の事を思うかもしれない。
「く、ここにエミヤが居れば…!!」
エミヤと書いてオカンと呼ぶ英霊は今ここには居ない。その事が悔やまれている。
「取り合えず早くここから離れた方が、って江東の主がこっちに来ました!?」
溺れている兵士たちを急いで回収しながら船を撤退させるが何故か錦帆賊と孫軍の船を襲いながら狗頭鰻は追ってくる。
まるで完全に狙いを定めたかのように追ってくるのだ。
「仲間の船を!?」
「やっぱり李書文さんが蹴ったからこっちに来たんじゃないですか!?」
「どうだろうな。しかし、襲ってくるなら撃退するまでよ!!」
「彼の言う通りだ。向こうが襲ってくるなら倒すしかないぞ」
甘寧も李書文の言葉に賛同する。何故襲ってくるか分からないがあんなものが江東の河に漂っていたらおちおち船で河を渡っていられないというものだ。
「あんなのは江東の主ではない。襲ってくるならば今ここで退治した方が良いだろう」
「え、アレを退治するんですか!?」
「しないと後々危ないだろ」
穏と明命は「えー!?」と声を合わせて驚く。
「いや、退治するのに関しては俺も賛成だ。そうしないとここから逃げれないし、みんなの被害が尋常じゃなくなる」
「だよな主」
狗頭鰻退治。
早く退治しないと錦帆賊も孫呉水軍も狗頭鰻に全て沈められてしまう。
「燕青、李書文いける?」
「大丈夫だぜ」
「儂もだ」
もう藤丸立香たちは退治する気が出ている。そこに甘寧も加わる。
「あんなものをこの江東の河で好き勝手にさせるわけにはいかん。既に仲間の船も襲われている」
「私たちも加わるわ」
孫権と甘寧が仲間になってすぐに共同戦線を張る事になったが、まさか最初の敵が狗頭鰻とは誰もが思うまい。
「でも、どうやってあんなの倒すの?」
小蓮が誰もが聞きたい事を口にする。
「それなら考えがある」
「立香さん。何か策でも?」
「策っていうか、何ていうか。まあ、聞いて」
藤丸立香が考えた作戦。それを聞いて燕青と李書文は早速跳び出した。
「そんなの上手くいくか?」
「上手くいかせる」
「確かにそれでやるしかありませんね」
「分かった。皆の者、すぐに配置につけ!!」
全員がすぐに動き始める。
「おらぁ!!」
燕青が狗頭鰻を殴って、そのまま背中に乗る。そして滑ってボッチャンと河に落ちた。
「うわっ、ヌメリがすげえ!?」
「奴に掴まるのは不可能そうだな」
李書文は浮かんでいる船の破片に乗って、狗頭鰻を観察する。
「どうするんだよ」
燕青も泳いで浮いている船の破片に乗る。水中での戦いは流石に2人とも不利である。
狗頭鰻とまともに戦うのは難しいのだ。だが相手は妖魔といえど所詮はデカイ鰻であるならば地上に叩き出せば此方の勝ちである。
「さてと」
李書文は自分の槍に頑丈な紐を巻き付ける。
「では、行ってくる」
「んじゃ手伝うぜ」
李書文は浮かんでいる船の破片に乗り移りながら狗頭鰻へと近づいて力の限り突き刺し、上手く紐を胴体に巻き付けた。
深く深く突き刺したのを実感したら槍から手を話さないように力の限り握る。
「よぉし。引け燕青!!」
「はいよ」
燕青は紐を持って船へと戻る。
「おら、お前ら手伝え!!」
孫呉の兵士たちが燕青の持ってきた紐を引っ張る。
「これだけ屈強の兵士たちがいるんだ。あんなデカイ鰻に負けんなよ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
燕青も勿論、一緒に引っ張る。
彼らが乗る船はそのまま下流へと進む。この先に向かえば浅瀬があるから、そこに狗頭鰻を叩き出せばよいのだ。
「よし、李書文が槍を突き刺した」
「下流へと船を走らす燕青さんたちも引っ張ってますね。なら逃げ場を無くすために左右に船をつけてください!!」
錦帆賊と孫呉水軍の船が狗頭鰻を囲む。
「奴を弱らせろ!!」
「弓を構えろ!!」
船に乗る兵士たちは弓矢を構えて、いっきに放った。
李書文に当たらないように矢が狗頭鰻に突き刺さっていく。
「矢の勢いを休めちゃダメだよ!!」
「はい孫尚香さま!!」
狗頭鰻は矢から逃げようと深く潜ろうとするが燕青たちが潜らせないように水面で留まさせるために絶妙な力で引っ張ている。
孫呉の兵士や錦帆賊たちを指揮する甘寧たちは矢を撃ち続ける。
「…ぬう!!」
この中で一番の功労者は李書文だ。彼が狗頭鰻に槍を突き刺し、留まっているのは槍が抜けるのを防ぐため。
槍には返しなんてものは付いていない。胴体に巻き付けたといえど引っ張れば簡単に抜けてしまう可能性があるからこそ、抜けないように留まっているのだ。
しかも抜けないようにしていながら、燕青たちに引っ張られるという状況。李書文も絶妙な力加減で槍を突き刺して留まっていなければ燕青たちに引っ張られて終わりだ。
「まだまだ!!」
だが限界はある。先頭を走る船を力の限り漕ぐ兵士たち。
「もうすぐだ!!」
浅瀬に近づいたのを見計らって藤丸立香は手を拳銃の形に構える。狙いは狗頭鰻。
「ガンド!!」
ガンドが命中し、狗頭鰻の動きを鈍くさせる。彼の放つガンドは今までどんな怪物や英霊でも少しの間だけ動きを鈍くさせてきた。
ならば狗頭鰻にも効くはずだ。そして実際に効いたのだ。
「今だよ!!」
「よっしゃあ。待ってたぜマスター!!」
チャンスと言わんばかりに燕青は本気の力を出して狗頭鰻を浅瀬まで引き摺りだした。
これでも彼は4トンもあるメカエリチャンを抱えて動いた実績がある。ならば巨大鰻を引っ張ることくらい出来る。
「釣り上げたぜ。次の段階だ!!」
「応!!」
李書文は狗頭鰻の目の下のアゴ部分に大きく尖った船の破片を突き刺して完全に河へと逃げないように固定する。
「やれ!!」
「準備はいいか甘寧に周泰よぉ」
「ああ」
「はい!!」
大きな剣を持った燕青の横に甘寧と明命が剣を用意して立っていた。そしてそのまま一緒に船から飛び降りて狗頭鰻に向かう。
「俺は腹を掻っ捌くからお前らは背中を頼むぜ!!」
「私も1人で十分だ!!」
「え、私はどっちを!?」
「いいから背中を斬れ」
燕青は狗頭鰻の腹に剣を突き刺して真横に走りながら捌く。甘寧と明命は背中に剣を突き刺して同時進行で走りながら捌いた。
「はあああああああああああ!!」
「てやああああああああああ!!」
狗頭鰻は腹と背中を捌かれ、完全に動かなくなった。それすなわち狗頭鰻を退治したということである。
「ここに厨房の英霊が居ればデカイ蒲焼き作ってくれたかねぇ」
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狗頭鰻が退治された。この事実を遠くから見ていた于吉は蒲焼きを食べながら冷静に観察していた。
「いやあ、やられちゃいましたね狗頭鰻。もぐもぐ」
狗頭鰻は実験の試しに江東の河に放った妖魔だ。実験とは妖魔の力が英霊やこの外史の異常な強さを持つ者に対して有効かどうか。
その成果は上々。妖魔には狗頭鰻以上の存在がいる。高位の妖魔を上手く使えば有効打になることが于吉の頭の中で導き出された。
「出来れば狗頭鰻は回収しておきたかったですがしょうがないですね」
ポイっと封と書かれた札を張られた瓶を捨てる。その中身は空で入れておくはずだった狗頭鰻は捌かれたので瓶は必要ないため捨てたのだ。
「ですが狗頭鰻は役目を果たしてくれました。少しは孫呉水軍を減らしてくれましたからね。少しでも孫家の戦力を減らせればよかったですから」
于吉の手元には封と書かれた札を張られた瓶がいくつもある。
「さてと…今度はどの妖魔を使ってみますかね」
瓶の中身は恐ろしい妖魔が封印されている。それをどう使うかは于吉しか分からない。
「人間を器にしてみるのもいいかもしれませんね」
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孫呉水軍と錦帆賊との戦いは少なくない犠牲を出しながらも孫権の勝利で幕を閉じたのであった。
その過程でまさか狗頭鰻なんて妖魔を共同で退治する事になったのは予想外すぎる展開であったが、最終的には甘寧たちの力を手に入れて長江における孫呉の地からが一段と強まったのだ。
「それで結局、貴様らは何者なのだ?」
「否定しておくけど天の御遣いらしい」
「胡散臭いし、よく分からんな」
「ぷっ」
孫権が吹き出した。初対面の時も孫権に同じようなこと言われていた。その事でも思い出したのかもしれない。
「天の御遣いじゃないんだけど…何故かそうなったんだ」
そのおかげでいろんな意味で苦労するはめになっている。
天の血を入れる云々は黙っていた方がよいと藤丸立香も孫権も判断して口を閉じた。いずれは彼女も聞かされるが今でなくともよいのだ。
「ま、それでも俺に出来ることはやっていくつもりだよ」
「何が出来るのだ?」
「それを探している最中だよ。まあ、俺は戦うことが出来ないから仲間を補佐するのが一番の理想かな」
「軍師の補佐とかか?」
「そうだね」
藤丸立香が孫呉で何が出来るか。彼は戦士ではないし、魔術師としての腕も毛の生えた程度に低い。だが彼にだって出来る事はある。
英雄みたいに伝説を残すような事が出来るわけではないが、普通の人間でも出来る事は多い。それをやっていけばいいのだ。
「そうか、気の長い話になりそうね」
「孫呉にいるなら何か少しでも力になるように努力していくよ」
「それならもうしているわ藤丸」
今回の戦いで藤丸立香は十分に働いた。李書文や明命のように戦ったわけではないが、彼にも出来ることはしたのだ。
そもそも錦帆賊を仲間に引きいれるという提案は藤丸立香から始まった。その提案は孫権も考えていたが軍議でも告げたのは藤丸立香だった。
甘寧が孫権の仲間になるという筋書きは未来の彼であったからこそだが、それでもその話の流れを持って行ったのも彼である。
「興覇との会合でもお前の馬鹿正直さで話は進んだわ」
「そうですね。結果、私は決戦の約束を交わし、まんまと策に嵌ってしまったわけか」
「皮肉はよして」
「ふふっ」
更に彼の功績ははまだある。狗頭鰻を退治する時だって彼が率先して動いた。
妖魔退治は孫権らにとって予想外で初めてであったが、彼の方は何度も妖魔や怪物と戦ってきたからこそ冷静に動けたのだ。
その動く姿によって周囲も冷静になれた可能性だってある。
「長江の主を倒す策も無茶な部分もあったが出来ないことはなかった。穏もよく考えたものだと言っていたわ」
「あれは李書文や孫権さんたちが上手く動いてくれたおかげだよ」
「貴方の功績でもあるわ。胸を張りなさい」
彼女が評価してくれるのは嬉しいものだ。自然と顔がほころんでしまう。
「だから、これからもお前が孫家のために尽くしてくれると言うのなら…お前を信じて真名を預けよう」
その言葉に甘寧が驚いた。藤丸立香だって「え?」という顔をしてしまった。
孫権が真っすぐに見つめてきた。
「私の真名は蓮華だ。蓮に華と書く」
認められた。そう実感して嬉しくなる。
「うん。よろしく蓮華さん」
「ええ、立香」
彼女も名前を呼んでくれた。
真名を教えてもらうということはこの外史では信頼の証。
「…仕方ない。では私の真名も教えてやろう」
「え、いいの!?」
「ああ。私の真名は思春だ。思うに春と書く」
「うん、よろしく思春さん。俺は藤丸立香です」
「思春でいい」
「そっか。よろしく思春」
まさかの甘寧の真名を教えてもらった。これは予想外であった。
「勘違いするなよ藤丸。一度、真名を預けた以上、私は貴様に一切の遠慮はせん。貴様が真名を呼ぶにふさわしくないと思えばその時は即座に斬る」
「ええー…」
怖い事をさらりと言ってくれる。だが相手の真名を聞くってことはそれだけ相手の信頼を受け取るということだ。
「おいおい、それは俺がさせねえよ」
「む、貴様は確か…燕青だったか?」
「おお、そうだよ。覚えててくれたか」
気が付けば燕青が藤丸立香の背後に現れていた。
「悪いが従者として、そればっかりはさせないんでね」
ニヤリと笑いながら燕青は思春を見る。
「逆にお前さんの主がオレの主に手を出すなら…分かってるな?」
「ちょ、燕青」
「ふん、蓮華様はそんな事はせん」
従者気質のある2人がお互いの主のために張り合う。
「はいはい待った待った燕青」
「思春もやめなさい」
全くもうと言わんばかりにため息を吐いた2人であった。
燕青と思春が後々に自分の主で張り合うのはまた別の話である。
「そうだ思春。家臣の前では今の態度でもいいんだけれど…二人だけの時は昔みたいにしゃべらない。しーちゃん、れんれんって」
「蓮華様っ!!」
「駄目?」
「駄目…なりませぬ。一度、主君と仰いだ以上、私はいついかなる時でも臣の立場を貫きます。蓮華様も私を一家臣だと思いになって威厳を持って振舞われるように!!」
「真面目ねえ…ふふふ」
敵であったが今の彼女たちはまさに幼馴染みという言葉がしっくり来る。
「「しーちゃん、れんれん」」
「おい藤丸、燕青」
「剣を構えるなよぉ」
錦帆賊との戦いの後、蓮華たちは建業へと帰還した。
今回の報告ではいろいろあったが、最終的には炎蓮によって全てまとめられた。
錦帆賊の戦いで、まさか仲間にするというのは彼女も予想外であったのか久しぶりに娘に驚かされたと後に雷火に口にしたそうな。
(炎蓮はやっぱり凄いよな)
思春は仲間になったといえど、孫呉は長年にわたって錦帆賊から受けた被害は相当なもの。そこを炎蓮がどう判断するかが蓮華も気になっていたところ。
だが、まさか孫呉水軍の総大将に命じられるなんて蓮華も思春も思わなかったのだ。更には働きによっては盧江群の太守にも推してもらう事も約束されたのである。
これには冷静な思春も予想外過ぎた。炎蓮も思春の人間性に気付いての判断かもしれない。
彼女は仲間になったと言えど元江賊の頭領だ。いきなり信用するというのは難しい。
それは思春だって分かっていた事だ。しかし蓮華が信頼している人物というおかげか早くも受け入れる人物も多い。
きっと思春はそう遠くない段階で孫呉の者たちから信頼される将となる。
「良かった良かった」
だが、その後の話でいつも通りまた藤丸立香が苦労するオチとなる。今回は蓮華もである。
報告後、玉座の間に残った炎蓮と雪蓮がニヤニヤと笑っている。
何故かこれに関して面倒な事になると直感スキルも無いのに直感が響いた。
「立香よ蓮華から真名を預けられたってな。やるではないか。誑かしたか?」
「か。母様。誑かされておりません!!」
「照れるな照れるな。お前が男に真名を教えたのは立香が初めてであろう?」
「それは…」
「そうなの?」
「べ、別に…私には、近い関係の男の人がいなかっただけだし」
「でも立香は近い関係なんだねー?」
「シャオ!!」
「ねえ蓮華。立香のどこが良かったー?」
「オレも是非、聞いておきたいな」
まさか姉妹や母親に思春期の娘をちょっかいを掛けるように聞いてくる光景が映し出された。信頼の証に真名を預けられただけなのにこういう展開になるとは思わなかった。
蓮華もこれには慌てだす。深い意味は無いのに何故か、慌ててしまうとそういう意味で見えてしまう。そこが姉からからかわれてしまう原因だ。
「で、真名を許したんなら立香の子をなす決心をしたのか?」
「それは別の話です!!」
ピシャリと否定する。そこがデリケートすぎる部分の話だ。
「だ、だいたいそんな事を言ったら母様も姉様もシャオも立香に真名を教えているでしょう!!」
「だってシャオは立香の赤ちゃん産むつもりだし」
「なんて事を言うの!?」
本当に何て事を言うのだろうかと思ってしまう。
「クックッ、立香よ男を見せろ。誰が良いのだ。全員孕ませれば一番なんだがな」
「はいはい、話はそこまで!!」
これ以上は藤丸立香にも飛び火が来る。これに関しては蓮華も早く話を終わらせたいと思っているのなら援護しなくてはいけない。
「私たちばっかりに押し付けて。母様はどうなのよ?」
「ん、オレはもちろんいつでも構わんぞ。シャオも大きくなったし、もう1人くらい娘を作るのも悪くないな」
「やった。母様作って。シャオお姉ちゃんになりたい。ほら立香!!」
「ほら立香…じゃない!!」
何て事を言い出すのかこの親子はとツッコミを入れなければマズイ状況である。
まさか話の流れに冷や汗がダラダラである。こういう話の流れは何故か焦るのだ。
「よーし、来い!!」
「冗談ですよね!?」
本当に何故こうも決められるのか分からない。
「いい加減にして!!」
最終的に蓮華が一喝して部屋を出て行ったので話は終了したのであった。
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荊州の江夏にて。
「そうか、甘寧が…」
「はい……我が殿の誘いを断っておきながら孫家に走るとはなんたる奴か!!」
「……これより、甘寧の話は私の前では無用ぞ。良いな?」
「ハッ…ハハッ!!」
久しぶりに黄祖は心をかき乱された。だがすぐに冷静になる。
取られたのならば奪えばよいだけなのだから。
(………思春)
「私の予言通りになったでしょう黄祖殿」
「っ!?」
黄祖と将たちはすぐに警戒し、剣を構えて声の聞こえた方向に視線を向ける。その視線の先には于吉がいた。
「貴様は…」
「覚えてますか。于吉です」
「ああ、覚えているさ。貴様のような得体の知れない奴なぞな」
「あはは」
どこから入ってきたのか分からない。こういう所が于吉の不気味なところである。
黄祖はいつでも于吉を斬り捨てる準備をしている。
「そんな怖い殺気を向けないでくださいよ。私がここに来たのは前の返事を聞きにきたからですよ」
前の返事とは黄祖の陣営に入らせてもらう事。その対価として于吉は黄祖に兵馬妖などの力を渡す事である。
「甘寧を奪われて、その心中は察します」
「黙れ」
「ですが諦めてないでしょう?」
「黙れ」
「私なら貴女の願いを叶える力を与えられる。どうですか?」
「黙れと言っている」
冷たい殺気が周囲を充満させた。そんな中でも于吉は涼しい顔のまま。
「まあまあ、そう言わないでくださいよ。貴女なら私が不気味で信用できない男と思っていても上手く利用できるでしょう?」
黄祖は誰かに利用される人物ではない。逆に誰かを利用するような人物である。
「……」
黄祖は警戒しながら考えを巡らせる。于吉を仲間にしたとして、自分たちにどのような不利があるか有利があるか。
(こいつは得体が知れないが、もしもの時は切り捨てれば良いか)
だが得体の知れない者だからこそ細心の注意を払わねばならない。人を利用する時は此方も利用されるものだと注意しないといけないからだ。
相手が得体が知れないと言っても冷静に考えないといけないのだ。于吉を飼いならさなければ恐らく自分たちは不利益になる。
(不気味だが確かに奴の力は興味がある…もし、仲間にするならば手綱は絶対に離さないといけないな)
(……とか考えてますかね)
黄祖は腹を決めた。
「……いいだろう。貴様を我が陣営に入れてやる。その変わり貴様の力を貰うからな」
「ええ、ええ。私も目的が達成できればいいので」
「孫策に復讐するだったな。孫策と何があったか知らんが…」
(それは建前ですがね)
于吉が指をパチンと鳴らすと兵馬妖が出現する。
「では兵馬妖を貴女にお与えします」
于吉は黄祖の陣営に入り込んだ。
読んでくれてありがとうございました。
次回は未定ですが…できれば2週間後には更新したいと思ってます。
FGOが新イベント始まりますね。楽しみです。
劉旗の大望も少しずつ情報が出されてるなぁ。
今回の戦いでまた妖魔を出してみました。はい、ウナギです。
どう倒すか…と考えた結果が、ああいう内容でした。まあまあかなっと思ってます。
甘寧と孫権の戦いが終わって、次回は日常編をまた書こうかなって思ってます。
それが終わったら現在sideを書いて…その次についに于吉によって過去が変わってしまった原因の話を書きます。この2章も終盤に近付いてます!!
では、また!!