Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
お久しぶりです。久しぶりの更新となります。
色々と忙しかったもので、全然物語を書けませんでした…
FGOではハロウィンイベントが終わり、復刻のサムライレムナント、まさかのタマモアリアの実装と忙しかったですね。
そして11月にはぐだぐだイベントが!!
ジ・エンドじゃなかったのか…気になりますね!!
さて、こっちの物語はなんだか停滞してきた感じがします…
がんばってさっさと物語を進めます。
2085
口に柔らかい感触が伝わってくる。嫌な感触ではない。この感触は知っている感触であり、寧ろ好ましい感触でもある。
変な考えかもしれないがずっと味わっていたい。そんな事を思っていたら口から酸素が送り込まれている事が分かった。
「ケホッケホッ」
口から水が吐き出た。首を強制的に横にされた。意識がどんどんと鮮明になってくる。
「あ…う」
口からうめき声が出てしまった。自分自身が何をしたのか。そしてどうなったかをだんだん思い出していく。
(…私は……確か……)
周囲から騒がしい声が聞こえてくる。それは自分の名前を呼ばれている事だと理解した。
身体をゆすられている。寧ろ叩かれているかもしれない。そして名前を呼ばれている。
「こ、ここは…」
目をゆっくりと開けると暖かな光と人の顔が写る。
「月!!」
「月ぇえ!!」
視界に入った人の顔は藤丸立香と詠だった。
自分は溺れていたのだと思い出した。そして二人の顔を見て凄く安心したのである。
生きている。その事実がとても嬉しく、呼吸出来ている事が愛おしかった。
「詠ちゃん……立香さん」
視界に映るのは藤丸立香と詠だけでは無かった。徴姉妹や北郷一刀たちも心配そうに見ているがどんどんと喜色が顔に表れていく。
「良かった~月ちゃん無事だ」
「ひやひやさせる」
「良かった…マジで良かったっ」
「月さんが生きてて本当に良かったです」
月が無事だったという事実が徴姉妹や北郷一刀たちを安心させた。
「うう…ここは」
身体を起こそうとするが周囲から「無理に起き上がらない方がいい」と言われる。しかし今は身体を起こしたい気分である。
意識して息を吸って吐く。身体は少し怠い気がするが問題無いと自分自身で分かる。
「わ、私は大丈夫です…」
自分は問題無いと皆に伝え、より安心させようとする。その瞬間に詠が抱き着いてきた。
「本当に良かったぁ!! 無事で良かった…!!」
詠は月に抱き着きながら涙を流していた。
親友が溺れ、生死を彷徨っていた。そして無事だった。
詠は心の底から心配し、安心した事により涙を止められなかったのだ。
「ごめんね詠ちゃん。本当にごめん。心配かけちゃってごめん」
月も詠を安心させるために抱き締める。親友を心配させてしまった身として安心させるための行動だ。
「本当に良かった…」
藤丸立香も本当に安心したといった顔だ。しかし顔は急に険しくなる。
本当はこんな事を言いたくないが言わねばならないのだ。
「月…何であんな事をしたんだ」
その言葉にビクリとする月。声色だけで分かる。
藤丸立香は怒っているのだ。
「月、何で自分の身を危険に晒したんだ」
月の機転で助かったのは確かだ。
彼女が藤丸立香に酸素を分けたおかげで敵に勝利する事が出来た。
月は藤丸立香の命の恩人であり、今回の戦いでの貢献者である。しかし己を犠牲にしてまで敵に勝ちたいかと言われればそうではない。
甘い考えかもしれないが犠牲なしで勝利したいというのが本音だ。しかし今までの旅路でそんな事は簡単に出来るわけでは無いの事は承知である。
それでも犠牲なし、と考えずにはいられない。
「……あの時、私が何が出来るか考えてました」
海に溺れてしまって月は何も出来なかった。敵である泳噛鬼を倒す何かを貢献したかった。
何も出来ない事が月にとって、罪であり、怒りであり、悔しい事なのだ。無力な自分は許せないのである。
「あの時の行動が私が出来た最善だったんです」
月の最善策は自分が犠牲になる事で敵を倒し、皆を助けられる事だった。
彼女は覚悟が出来れば、いとも簡単に自分を犠牲に出来るのだ。都で大粛清を実施した覚悟。反董卓連合が結成された時の覚悟。
月は覚悟が出来れば自分の死すら策に組み込むのだ。その策に大切な人の気持ちは無い。
「皆を助けるには私が犠牲になってもいいと思いました。何も出来ないで死ぬよりずっと良いと思ったから」
大切な人達を助ける為に己を犠牲になる。それが彼女の答えであった。
「……月。もうそんな事しないでくれ」
それが最良の行動であった。そんな言葉で大切な人の死は片付けられないのだ。
「はい…すいません」
自分の覚悟を否定された気分だ。しかし相手の言い分も分かってしまう。
月も藤丸立香や詠が自分と同じ事をしたら怒るに決まっているのだから。
「……無事で良かったよ」
「ひゃう」
藤丸立香も月を抱きしめた。本当に無事でよかったと気持ちが伝わってくる。
「本当に…良かった」
「…はい」
月も抱き締め返す。覚悟があったとはいえ、死とは怖いものだ。
助かったという安堵感が今さらながら月を襲ってくる。急に足腰に力が込められなくて立てない。
それでも月は藤丸立香を抱きしめる力だけは緩まなかった。
(立香さん……)
誰かを助けるために己を犠牲にするのは美徳ではない。特に親しい者・大切な者に近しい者たちにとっては。
「マスター」
「あ、ごめん徴側。月をこの場から移動させて治療しないと…華佗も呼ばないと」
「そうですけど違います」
徴側は笑顔だけど怒っていた。徴弐も少しだけ苛ついている。
この怒りとイラつきは月に送られているわけではなく、マスターである藤丸立香に対してだった。
「え、何で?」
「マスター。月さんの犠牲による策は私も思うところがあります。しかしマスターが怒ってくれたので、もう私から言う事はありません。月さんが無事で良かった…これで終わりです」
「う、うん。オレもそう思う」
「でも次はマスターの番」
「え、だから何で?」
月は怒られた。今度は藤丸立香が怒られる番だ。
「「マスターが言うなって事!!」」
「何で!?」
マスターである藤丸立香。人類最後のマスターであり、カルデアとして守らねばならない存在だ。
特異点解決する為にマスターは危険な目に遭う。それはしょうがないが可能な限り安全を作るのもカルデアや契約した英霊の務めなのだ。
マスターである藤丸立香も己が死ぬわけにはいかないという事は理解している。しかし理性と本能が合致しない事があるように、彼もまた勝手に身体が動いてしまう事があるのだ。
例えば『盾の騎士である女の子』を守る為に自分が盾になっても厭わないというくらいにだ。
そんな事があると契約した英霊たちは怒る。『盾の騎士である女の子』も怒るし、場合によっては悲しむ。
「マスターは月さんと同じ事をした事があるんですよ」
「何なら今でもやる時あるでしょ」
徴姉妹の言葉に藤丸立香は言い返せない。曰く「お前が言うな」って事だ。
「英霊である私たちがそんな危険な目に遇わせなければいいんですけど…自ら危険に跳び込む行為は流石に許せませんよ」
「正直、マスターが何で怒ってんの?って私思ってた」
これでやられた方の気持ちが分かったかと徴弐は藤丸立香をジト目で見る。
「あ…えっと」
藤丸立香も過去の事を思い出したのか冷や汗をタラリと垂らす。
「久しぶりの説教ですマスター」
「ちゃんと聞くよね?」
「は…はい」
まさかのオチにしょんぼりする藤丸立香であった。
「であであのマスターだから、しょうがないぞー」
「ふふっ」
しょうもないオチに月は少し笑ってしまった。全員が無事だったのだから、これで良いのである。
2086
何処かの無人島。そして五胡陣営の隠れ拠点。
その拠点は白波三鬼衆である胡才の拠点だ。彼は于吉から三国の戦力削りを任されている。
正確には女カの覚醒までの時間稼ぎだ。覚醒するまで女カは無防備であり、逆に攻めこまれるのが問題であった。
故に三国の警戒を五胡の女カよりも五胡の白波三鬼衆に向けさせたいのである。
「ふふふ。やはり私は美しい」
決めポーズを決める胡才。
三国の警戒を白波三鬼衆に向けるために、何度か刺客や策謀を仕掛けているのだ。
「私は完璧だ。しかし…部下は完璧ではない。この美しい私の部下も美しく完璧でなければならない。そうだろう?」
胡才は背を向けながら四体の鬼に喋りかける。
四体の鬼とは貫魚鬼、魔鯛鬼、鋏蟹鬼、海朔鬼。海鬼海鮮隊という特別部隊だ。
「負けておめおめと帰って来たと?」
「違ウノヨ 胡才様。泳噛鬼チャンガ キレチャッテ 敵味方関係無ク 暴レチャッタノヨン!?」
「オイラ達モ 襲ワレル可能性ガ アッタンダヨ。襲撃・暗殺ドコロジャナカッタゾ」
「儂ァ 泳噛鬼ノ 暴走ナンザ 気ニセンデ 戦イタカッタガノウ……ダッテ 襲ッテキタラ ブチ殺スダケジャア」
鋏蟹鬼はそんな事を言いながらも泣いていた。
「シカシ……泳噛鬼ガ 負ケタトハノォ。ウゥオオオオオォォオオオォオオ…!!」
襲ってきたらぶち殺すと言っておきながら鋏蟹鬼は仲間の死に悲しんでいた。
凶悪で狂暴な彼だが、実は仲間思いでもあった。
「私ハ 泳噛鬼ノ事 嫌イダッタケドネ。アノ冷静デ 残虐ナ性格 私ト合ワナイワヨ」
「海朔鬼。ソンナ事 言ウンジャネェ。ウゥオォォオオオ…!!」
「五月蠅イワヨ 鋏蟹鬼」
「そうだ。五月蠅いぞ鋏蟹鬼」
胡才が静かに口を開くと鋏蟹鬼は泣き止む。
「奴は美しくなく、完璧じゃなかったから死んだ。それだけだ」
美しくない部下に思う事はない。
「今の話は貴様らが任務に失敗したという事だけだ」
任務失敗。この言葉に四体の鬼たちに緊張が走る。
「海鮮隊ノ 頭目デアル アタシガ 責任ヲ 取ルワァン 胡才様。アタシヲ 煮ル也 焼ク也 叩ク也…!!」
「それだと、ただ煮魚、焼き魚、鯛のたたきが出来るだけでしょーが」
ちょっと素が出た胡才。
「ごほんっ…失敗の責を取れとは言わん。一度や二度の失敗で部下を処刑はせん…美しくないのはいただけないがな」
胡才が四体の鬼たちに顔を向ける。
「しかし二度襲撃に失敗しているのだ。三度目は無い。次はこの私も出よう」
「胡才様 御自ラ!?」
「ああ。個人的にも殺したい者もいるようだしな」
極悪の顔になる胡才。
「謹慎を言い渡したアイツにも声をかける」
「総戦力ッテコトダナ!!」
「いや、誰か…そうだな海鮮隊の誰か二体ほど別任務に割く。それ以外の面々で仕掛けるぞ」
三国の戦力削りが目的なら総戦力を当てるべきであり、別任務をしている場合ではないはずだ。
そんな目線を海朔鬼は向ける。
「言いたい事は分かる。しかしもう一つの任務も重要なのだ」
「ソノ 重要ナ 任務ッテ ナンダー?」
「強力な武器だ」
強力な武器と言われピクリと鋏蟹鬼が反応する。
「強力ナ 武器ハ イイノウ。ドンナ 奴モ ブチ殺セルカラノォ!!」
強力な武器というものは浪漫ある者であればワクワクするものだ。
「強力ナ 武器ッテ ドンナノ?」
「宝貝だ」
胡才たち三度目の暗殺・襲撃計画を立てる。
2087
目が覚めると寝床であった。
疲れていた為かいつの間にか寝てしまっていた月。
それは当然だと思われても仕方ない事だ。海で遊んでいたら鬼に襲われ、藤丸立香を助ける為とはいえ溺れたのだ。
助かったとはいえ、心身ともに疲労はピークに達していた。命が助かったという安心感から気が付けば深く眠っていたようだ。
「ううん…」
「あ、起きた?」
「り、立香さん」
目が覚め、最初に視界に入れたのは天井。二番目は藤丸立香の顔だった。
「さっきまで詠さんもいたんだけど」
実は交代で月の様子を見ていたのだ。溺れて助かったとはいえ、溺れた後のケアも必要だ。
二次溺水(遅発性溺水)のリスクがあるからだ。
肺にわずかな水が入った場合、その直後は何ともなくても数時間から半日(長いと1日)経ってから呼吸困難や肺炎症状が現れることがあるからだ。
「月、身体に異常はない?」
月はゆっくり深呼吸を行う。息苦しさもなく、身体も異常を感じられない。
「はい。何も問題ありません」
「そっか。良かった」
華佗も月の容体に異常は無いと診断している。本人である月も異常はないと言っているのであれば、もう大丈夫だ。
「ふう」
月が寝床から出ようとする。
「あ、月。無理しないで」
「大丈夫です。横になりっぱなしだと身体が堅くなりそうで」
藤丸立香の制止を断り、寝床から出る。これが詠であったら逆に押し返すように寝床に月を戻すだろう。
「あの…立香さん。お願いがあるのですが」
「何かな?」
「外に出たいのですが…」
身体が凝り固まったのでちょっと身体を動かしたいという事だ。
「ん~~~」
身体を伸ばして身体の凝りを解す。
「ふう…」
息をちょっと吐く。
潮の香りと夜風が身体に心地よい。
「無理しないでね月」
「ふふ。立香さんったら詠ちゃんみたい」
「そうかな?」
「だって、ずっと心配してるから」
「そりゃ心配するでしょ」
病み上がりの人を心配するのは当然である。
「夜の海というのも良いものですね」
月が海を見、星空を見る。今日は雲一つなく、星も月も綺麗だ。月明りで周囲も明るい程である。
ザザァアンと波の音も聞き心地よい。そのまま夜の海を散歩する月と藤丸立香。
「…海は怖くない?」
「え?」
「ほら…溺れたからさ」
人によっては溺れた事で海もとい水場がトラウマになっていてもおかしくない。
「…そうですね」
「あ、月」
ちゃぷっと海に入る。
特に恐怖は無い。なんなら、そのまま海に潜っても大丈夫なくらいだ。
「大丈夫みたいです」
「…そっか」
「はい。それに楽しい海が怖くなってしまうなんて勿体ないですから」
「それもそうだね」
海は楽しい場所のはずだ。怖くて楽しめなくなるなんて、きっと勿体ない事である。
「逆に立香さんは大丈夫なんですか?」
藤丸立香だって溺れかけたのだ。海が怖いものだと恐れてもおかしくない。
「大丈夫。慣れてるから」
グっと親指を立てる。
「溺れる事が慣れてるのはちょっとどうかと思いますよ?」
「いやいや、海で…というか夏で毎年異常事態が発生してるのに慣れてるだけだよ」
「それはそれでどうかと思うような…」
藤丸立香も望んで夏に特異点案件に関わりたいとは思っていない。
「あ、それと…」
ちょっともじもじし始めた月。
「その…緊急事態とはいえ…立香さんに……その、えと、口づけしてしまって…すいません」
口付け。人工呼吸の事を言っている。
酸素を分ける為に月は藤丸立香に許可なく口を付けた。助ける為とはいえ、無断で人の口に自分の口を付けたのだ。
口付けはお互いの了承の上で成り立つ行為である。了承もなく片方が無理やり口づけする事は相手が嫌がるのが当然である。
「ごめんなさい…」
「いやいや、全然気にしてないよ」
「え」
「誰かが言っていたよ。人を助けるための人工呼吸は神聖な行為。口づけには含まれないって」
人工呼吸と口付けは違う。片や人を助ける行為であり、肩や愛を示す行為。
動作は似たような事かもしれないが意味は全く持って異なるのだ。
「うん。だから全然気にしてないよ。だから月も気にしないで」
「あ、はい」
藤丸立香は気にしていない。それはそれで何処か残念な気持ちも過った。
確かに人命救助のためとはいえ、男女の口づけ行為だ。少しは思う所はないのだろうかと考えてしまう月。
「それに…それならオレだって月に同意なしで人工呼吸をしちゃったし」
藤丸立香が頬をポリポリと掻く。
「え、そうなんですか?」
「うん。月を助ける時に」
「あ…」
自分が息を吹き返す前に、唇に優しい感触があった事を月は思い出す。
「じゃあ、あの感触は」
少し頬を染める。
何度も言うが人工呼吸は命を助ける神聖な行為だ。それに対してキスだ口付けだと揶揄うものではない。しかし、好きな人からのものであれば気持ちは違うかもしれない。
(こんな事を今、思うは違うかもしれないけど…私は……嬉しかった)
人工呼吸は口づけではない。しかし好きな人からの人工呼吸は口づけと変わらない。
恋心の炎が強ければ強いほど人工呼吸を口づけと勘違いする。
「ご、ごめん。オレも月を助けるのに必死だったんだ」
「…………です」
「あ、やっぱり嫌だったかな」
「いえ、嬉しいです」
「嬉しい?」
嬉しいという言葉が返ってきた。
「はい…こんな事を言うと不謹慎かもしれませんが…嬉しかったです」
月の頬がより赤くなっていく。
何故だか分からないが今なら色々と喋れる気がする。人工呼吸だが口づけをしたというトリガーが心の壁を開いたのかもしれない。心の中で燃え上がっている想いがどんどんと解放されているような気がする。
「嬉しかった?」
「はい。立香さんを助ける時…口づけする時はドキドキしました」
海の中で藤丸立香を助ける時、人工呼吸をした。その時は助けたいという気持ちは九割だった。そしてほんの少しの一割にドキドキがあったのだ。
「それって…」
月の話す言葉の意味を理解できないほど藤丸立香は鈍感ではない。そして今までの付き合いで彼女の気持ちも感じていた。
藤丸立香は鈍感ではない。多くの英霊と心を交わし、中には好意を抱く英霊とも心を交わしている。それで鈍感なわけがない。
「ただちょっと残念なのが…初めての口づけが、あんな状況だった事ですかね」
ちょっと苦笑い。本当だったらもっと素敵な雰囲気でしたかった。人工呼吸をキスにカウントにするなら月の初キスは命がけのものだ。
「そ、そっか」
藤丸立香は上手く言葉を出せなかった。しかし月は今、強い想いを解放している。ここで藤丸立香が黙ってしまうのはいただけない。
月がまるで一世一代の告白をするのであれば、藤丸立香はその想いに対して絶対に答えなければならない。
「その…」
月は今ここで言いたい事を言おうとしている。今ならどんな事でも言えそうだ。
それこそ、どんな我儘だって言ってしまえる。
「その…やり直しをしたいです」
やり直し。人工呼吸のやり直しじゃなくて口づけのやり直し。
「月…」
「立香さん。私は……貴方の事が好きです」
ついに言ってしまった。心に閉じ込めていた熱い炎が一気に解放され放出した。
もう月は止められない。解放された想いはもう抑える事は出来ない。
「立香さん…」
月が藤丸立香の正面に立つ。
これは待っているのだ。彼女の藤丸立香の答えを。
「月…君は」
藤丸立香は答えを決めた。
優しく月を抱き寄せる。そしてゆっくりと顔を近づける。
月は全てを受け入れる態勢だ。そして今まで求めていたものがやっと手に入ると高揚もしていた。
「月」
「立香さん」
月明りの下で二つの影が重なった。
重なった時間は長いようで短いような時間だ。重なった影が離れる。
「月?」
「…………あの、その、もう一回」
月が我儘を言った。
「分かった」
もう一度、影が重なった。ただ月の影の方は何だか積極的のように見えた。
「月って意外に積極的なんだね」
「あう…」
積極的というか、やる時はやる人間である。月は一度覚悟を決めれば止まらないのだから。
故に月は止まらない。何を言われても今の月は強行突破をする。
「立香さん。自分で言うのもなんですけど…私はこれでも強い女性なんですよ」
「そ、そうだね。月は強いじょ…むむ」
藤丸立香の言葉は遮られた。そしてまたも影が重なった。何度も何度も影は重なった。
「ちょ…ゆ、むむ」
こんなに積極的な月は初めてかもしれない。
「はあ…」
艶めかしい温かい息を月は吐く。
「立香さん…」
「何かな」
「もっと欲しいです」
もう月は止まらない。我儘だって今ならいくらでも言ってしまえる。
「うん」
「もっと…更に次が欲しいです」
今より「次」が欲しい。その意味が分からない藤丸立香ではない。
男として覚悟を決める時だ。男として誠意を見せる時だ。月の想いに答える時だ。
「大丈夫?」
「はい。身体は大丈夫ですから、次が欲しいです立香さん」
もう興奮と感情で月はいっぱいだ。しかしそれ以上に想いが解放されて嬉しいのだ。
「立香さん…」
また月明りの下のもとで二つの影が重なった。今度は長く強く優しく。
読んでくださってありがとうございました。
次回の更新はまた未定です。しかし今年中に夏編は終わらせたい…
現実だともうハロウィンで、次は冬が来るってのに…
書きたい物語を書いてますけど…このままだと本編がなかなか進まない。
なので、6章はあと本編に繋がる物語だけを書いていきます。
あと夏編が二つあったんですけど1つにします。というか纏めます。
秋偏はハロウィン編と運動会(ネロ祭みたいな)編や歌姫編があったけど…ハロウィン編だけにします。こっちが本編に繋がる物語なので。
冬編ではクリスマス編と正月編とか…こっちはクリスマス編だけ。こっちが本編に繋がるので。
もしも余裕があれば、断念した物語とか書くかもしれません。
2085
月が助かってよかったです。
溺れてからは素早い救助が大切ですからね。
もしもナイチンゲールがいたら、胃や肺に入った海水を殴ってでも、力づくで吐き出させそう(個人的な偏見)。いや、さすがにそんな事しないか?
まあ、何をしてでも救うお方ですから。そう、何でも。
アスクレピオスもいたら難なく救いそう。医神の名は伊達ではない。
2086
五胡side
次回で白波三鬼衆の筆頭が動く!!
2087
立香×月のお話でした。
やっと月が素直になれましたね。という事は依存しそうだなあ…
月も依存するタイプなので。確か公式でもちょっとは書かれていたような…
賛否両論かもしれませんが、なんとか立香と月の話を着地できたかな
藤丸立香も北郷一刀みたいだなあ
やっぱ天の御遣いになっちゃてるからかな