Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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日常編の続きです。
まったりと物語が進みます。


孫呉の人たち4

149

 

 

思春と錦帆賊が孫呉に加入してから上手くいっているかと言われれば首を縦に振れない。

つい少し前までは敵であったのだ。孫呉の仲間として加入したといえど、やはり溝があるもの。

思春は問題無いのだが、彼女の部下である元錦帆賊が問題であるのだ。彼らは思春の命令は素直に聞くがその上の蓮華たちに関してはなかなか従ってくれない。

彼らの忠誠はまだ孫呉ではなく思春にしか無い。ここが一番、思春が悩んでいる部分だ。

思春が孫呉に降る時に錦帆賊たちに付いてくるか否かは己自身に判断を任せたが最終的には彼女についてくるという結果になったのだが孫呉に加入したらしたで、彼らには不満が募る。

聞いておけば自分勝手な錦帆賊が悪いと思われるかもしれないが、この時代ではそういう者たちを上手く掌握させることも上に立つ者には必要なのだ。

その上の者というのが蓮華である。思春は蓮華の部下であるならば思春の部下も蓮華が掌握しなければならない。

 

「はあぁぁ」

 

重い溜息を吐いたのは件の蓮華である。

元錦帆賊の問題を誰が解決するかを命じられたのが蓮華である。仲間にして連れ帰ったのならな責任として当然、彼女になる。

そしてすぐに彼らが仕事をしている盧江に思春たちと共に向かったのだ。盧江での結果はまず、惨敗。

蓮華の言葉に思春の部下たちは聞いてもくれない。逆に彼女を挑発して怒らせようとする始末であったのだ。

 

「何と重そうなため息だ」

「だな。鉛でも出てきそうだねぇ」

 

その後は思春の村に案内された。

今晩は思春の家で一泊ということである。

 

「はあぁぁぁ」

 

また重い溜息を吐く蓮華。このまま放っておいたら朝まで悩みそうだ。

 

「挑発されてすぐに頭に血が上ってしまった。私の悪い癖だわ」

「明日も滞在するんだし、もう一度彼らと話し合ってみようよ。蓮華さんだってこれで終わるつもりはないでしょ?」

「ええ…」

 

思春が注いでくれたお茶を飲む。

今回の話でやはり錦帆賊たちは思春にしか従っていないというのは目に分かるように分かった。

 

「あいつらは頑固であるが物分かりが悪いわけではないのだが…」

 

付き合いの長い思春も何故、彼らがこうも頑なに言う事を聞いてくれないのか分からずじまいだ。

それさえ分かれば上手く解決できるというもの。自分の主に苦労をかけたくないというのが本音である。

 

「落ち込んでてもしょうがないよ。何がダメなのか、どこを反省しないといけないのかを見つけていかないと」

「……立香の言うとおりね。落ち込んでる暇は無い」

 

顔を引き締める。

 

「立香さんは何かお考えはあるのですか~?」

「俺?」

 

そう言われて悩む。まだ解決策は見つからないが気になる点はある。

それは錦帆賊のみんなはあそこまで思春に忠誠を誓っているということだ。一歩間違えれば忠誠よりも崇拝になる。

 

「あ~確かにそうですね」

 

その言葉に穏と燕青は納得。

その忠誠先である思春は「そこまでか?」という顔をしている。

 

「思春が強いから…優れた将だから?」

「それならアンタもそうだろ。強さはまあまあだが将の器は十分だぜ」

 

燕青がそう言うと穏も補足をかける。錦帆賊での勝負の勝者は蓮華なのだから。

 

(まあ、このお姫さんは将の器つーよりも王の器の方を評価するがな)

 

何故、錦帆賊は蓮華をコケにしてくるのか。そこが今回の問題を解決する重要な部分の可能性が高い。

 

「何で…策で勝利したから?」

「それは無いと思うよ。策ってのも力だよ。考える力だ」

「そうそう立香さんの言う通りです~」

 

過程がどうあれ、戦の前に思春は蓮華に敗れれば従うという約束は部下にもしてある。実際に負けた際はそのまま思蓮に付いてくるか否かは個人個人に決めさせたのだ。

ならば加入したという部分に対して不満は無かったはずだ。自分で決めたのだから。

 

「んー…やっぱ単純にみんなは蓮華さんの事が分からないから従うに従えないのかも」

「え?」

 

錦帆賊が思春に忠誠を誓うのは確かに、強さもある。統率力や包容力といった優しさもあるかもしれない。

その全てをひっくるめて思春という個人に惚れているのだ。彼女ならば信頼できる。彼女ならばついて行く価値があるといったものである。

彼らは今まで国なんて信じられなかった。信じられたのは自分たちを思ってくれる人だけだったのだ。

それがいきなり孫呉に加入して、孫呉のために、国のために戦ってほしいと言われても上手くピンとこない。本当に孫呉は自分たちを思ってくれているのかと疑問に思っているのだ。

 

「孫呉はみんなを裏切らないわ」

「それが分からないんだと思う。彼らは国よりも人を見ているんだよきっと」

「人を?」

「うん」

 

その言葉に思春が納得したと口を開いた。

 

「…あの者どもは蓮華様の器を推し量っていたのかもしれません」

 

挑発行為ももしかしたら孫家のご令嬢ではなく、蓮華個人の人間性を引き出そうとしたのかもしれない。

国や義やらを語られても上にいる蓮華たちが自分たちにとって本当に信じられるか分からない。仕えるに値するかどうかを知りたいのだ。

自分たちの守るべき者、忠誠を誓う人がどんな人か知らないなんて普通は信用できない。

 

「そうか、そういうことか」

「腹を割って話してほしいということだよ。蓮華さんが彼らに何を思っているのか、どう導いてくれるかを知りたいんだ」

「…分かった」

 

彼女の頷きは力強いものであった。

 

「私は人として人にぶつかろう」

 

分かった後の彼女の動きは早かった。

翌日、港に元錦帆賊た大勢の兵士を集めて彼女は堂々と自分についての話を始めたのであった。みんなに自分がどんな人間なのか分かってもらうために。

その結果はもちろん良い方向に進んだ。彼女の演説は素晴らしかった。まさか演説しただけで元錦帆賊の心を掴んだのだから。

 

「つーわけで、ちったあ信頼されたんだからもっと仲良くなるために、皆で飲もうぜ!!」

「「「かんぱーーーい!!」」」

 

その後は何故か親睦会という名の飲み会が燕青によって開催された。

 

「…私は何でここにいるのかしら。いや、ここにいること自体が嫌ってわけじゃないけど」

「私も何故か流されてここに」

「はい~…」

 

名演説での感動は凄かったのだが今の馬鹿騒ぎの変化に蓮華は慣れない。

思春や穏でさえ、今ここに至るまで燕青によって流された。

 

「孫権様の最終的な目的は天下を獲る事。つまり大陸に覇を唱える事…いやあ言うねえ!!」

「本当だぜ。頭が惚れることはある!!」

「あの嬢ちゃんなかなか言うだろぉ。あの嬢ちゃんのために戦う価値があるってことだ」

「おお、燕青さん!!」

「おらぁ飲め飲め。潰れて吐いたら許さねえからな!!」

「俺らがこの程度の酒で潰れるわけないっしょ!!」

 

燕青が幹事になってみんな盛り上げているのだ。元々、こういう荒くれ者の付き合いはあったのだから慣れている。

寧ろこういう奴らと一緒に居る方がいつもの感じがするってものだ。そのせいか燕青はすぐさま彼らと仲良くなっていた。

 

「私はあんなに苦労したのに燕青は…」

「まあまあ」

 

何故か少し凹んだ蓮華を藤丸立香は慰める。

 

「ま、今は飲もうよ。俺は飲めないけど」

 

確かに元錦帆賊は蓮華の演説によって少しは変わった。なら酒が入っている今ならより彼らの本音が聞けるというものだ。

 

「その本音が今実際に口に出されてるけどね」

 

チラリと見なくとも全員が自分たちの上司である蓮華に対して今回の演説について話し合っている。

 

「漢王朝にも大陸の諸侯全部に喧嘩を吹っ掛けるなんてなかなか言えねえぜ。孫権様の度胸に惚れたぜ!!」

「ああ、言うもんだな。怖い物知らずで俺らの事をちゃんと見てくれる。良いよな!!」

「俺らの操船技術や水上戦が天下随一…嬉しいねえ!!」

「最初はどうかと思ったが…これなら文句ないぜ!!」

「孫権様の言う通り長江だけでなく、黄河も制してみせる!!」

 

彼らは蓮華の魂のこもった言葉に心を動かされたのだ。こんな掌返しのように見えるかもしれないが本当に蓮華の魂のこもった言葉によって突き動かされたのである。

どんな世界でも人の心に影響を与える者はやはり何か持っているものだ。蓮華は王の器があるというのが分かった光景であったのである。

 

「名演説だったよ。俺が錦帆賊だったら彼らみたいになってるね」

「そう?」

「うん。それに凄いこと言ってたからね。天下を獲るなんてそうそう言えないよ」

「確かに凄い事を大声で言いましたからね~」

「あ、あれは…私もよく覚えていないんだけど」

 

あの炎蓮でさえ、兵士たちの前で天下を制する野望を口にしたことはない。

そういう意味では彼女の自信の強さは炎蓮を超えるかもしれないのだ。

 

「蓮華さんはいずれ王になるよ」

「おお~…」

 

王になる。そんな言葉を言われたのは彼女にとって初めてであった。この言葉に穏も感嘆を漏らした。

 

しかも「なれる」ではなく「なる」なんて確定させた言い方だ。嬉しいがどこか恐れ多い気持ちになってしまう。

 

「立香ったら…母様がいるでしょ。それに雪蓮姉様だっているのに」

「そうだけど、蓮華さんも資格があるってこと」

「まったく…」

「いや、藤丸の言う通りだ!!」

「きゃっ、思春?」

 

蓮華が王になるという話に思春も賛同する。

 

「あの演説を聞いて私も心を打たれました。あの堂々とした姿に感じた覇気、そしてあの大望…まさしく蓮華様は王になれるでしょう」

「ちょ、思春ったらもう酔ってるんじゃないの?」

 

酔っているかもしれないが今のは思春の本心だ。その本心はいずれ今この場にいる者たちも1つになる。

 

「はいはい孫呉の姫さんももっと飲みな。ぜんぜん空けてねえじゃねえか」

「燕青!?」

 

まだ空になっていないのに新たな酒を注いでくる燕青。

 

「燕青。蓮華様に注ぐのは私がやる」

「へいへい」

 

そう言って酒を思春に渡す。

 

「燕青の旦那。今度は俺らと飲み比べしましょーや!!」

 

「おーう今いくわ」

「……本当に燕青は仲良くなるのが早いわね」

「まあ、こういう奴らは慣れてるからな」

「あれだけ苦労したのに…」

「そんなの俺と姫さんじゃ立場が違うからだろ」

 

侠客の燕青と孫呉の蓮華とでは立場が違すぎる。蓮華は錦帆賊からしてみれば上司と言えど上すぎるのだ。

そういう意味では心の距離のハンデがあるというもの。

 

「しょうがねえと思うぜ」

「でも…」

 

チラリと藤丸立香を見る蓮華。

 

「おーい小僧。酒追加!!」

「こっちも!!」

「はいはーい!!」

 

藤丸立香は何故か給仕をしていた。前にモリアーティの手伝いでバーテンダーや給仕のような事をしていたから出来ないわけではない。

そつなく給仕をこなしているのだ。

 

「はい、お待ち!!」

「おお、あんがとさん!!」

「お前も飲め!!」

「俺、酒飲めないんで」

「んだよ、飲めよ!!」

「酒は飲めないけど話とか聞くし、話すよ。てか、錦帆賊について聞いてみたいな。あんなに強かったあなた方を知りたいんだ。何か凄かったことある?」

「なら、あれだ。あの話をしてやる!!」

「いや、あの時のお頭の武勇伝を話すべきだ。あれは凄かったからな!!」

「聞きたい!!」

 

藤丸立香は自然に元錦帆賊の輪に入っていた。

 

「立香もいつのまにか仲良くなってるし…」

「いや、うちの主はある意味どんな奴とでも仲良くなるから」

 

最初は怖がっていた錦帆賊に対してグイグイ会話している彼のメンタルはどうなっているのか分からない。

彼のコミュニケイション能力は伊達ではないということである。

 

「呼んだ?」

「いや、呼んでないぜ主。なんか俺らがすぐ仲良くなったのに対して自信を無くしたらしい」

「そんなの俺と蓮華さんじゃ立場違うし…」

「それもう言ったぜ」

 

蓮華は堂々としている時は王の風格があるが、こうやって落ち込む時は普通の女の子。このように見ると炎蓮とは影響されずに育ったと思う。

雪蓮や小蓮は炎蓮に似ているが、やはりこういう所は蓮華は似ていないのだ。よくあの家族の中でこのように育ったものである。

 

「うーん…もっと仲良くなるなら一緒に酒を飲むしかないんじゃないかな。だって今はそういう場だし」

「だな。おーい、てめえら孫呉の姫さまが一緒に飲みたいってよー!!」

「な、立香に燕青!?」

 

待ったをかけるがもう遅い。錦帆賊がワラワラと集まる。

 

「お、孫権様が一緒に飲んでくれるんすか!!」

「おお、やっぱ違うな!!」

「普通は俺らと一緒になんかと飲まねえもんな!!」

「え、えと…」

 

いきなりすぎて慌てる蓮華。

 

「お前ら蓮華様に変な事をするな。分かってるな」

「わ、分かってますってお頭」

「そ、そうですぜ」

 

ギラリとした思春の目にたじろいでしまう。

 

「おいおい怖い目すんなよ」

「燕青」

「お前さんももっと飲みな飲みな!!」

 

飲み会はまだまだ盛り上がる。

 

「ふ、ふえ~…」

「あんたが陸遜様か。敵だった時はムカついたが、今じゃ頼りにしてるぜ」

「だな。はははははは!!」

「は、はい。あわわ…」

 

チラリと穏が藤丸立香にヘルプを送ってくるが親指を立てて頑張れコールをした。

それよりもこれから飲み比べが始まりそうなのだ。

 

「んじゃあ、飲み比べ勝負だ。やるぞ思春に姫さん!!」

「ええ!?」

「わ、私もか!?」

「ああ。そりゃあやるだろ。てめえらも参加だ。孫呉の姫さんと飲み比べなんてそうそう出来ないぜ!!」

 

燕青が扇動すると「おれもおれも」と参加してくる元錦帆賊たち。

 

「ちょっ、勝手に…!?」

「あの大殿ならやるぞ?」

「ぐ、確かに…」

 

炎蓮だったら二つ返事で参加するはずだ。

蓮華も自分の母親がこの場にいたら、ここにいる全員から信頼を得ると予想できる。

 

「大殿…孫堅様か。俺らみたいな奴らと飲むなんて考えられねえな」

「そうでも無いと思うぜ」

「え、そうなんすか燕青の旦那」

「おう。誘えば来ると思う。機会があれば呼んでやるよ」

「おお、本当かよ!!」

「流石は燕青の旦那だぜ」

「ちょ、また勝手に」

「だって呼べば来るんじゃねえか?」

「……否定できない」

 

本当に否定できない。恐らく荊軻も一緒に付いてくる。

 

「んなことよりも飲むぞー!!」

「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」

「ちょ、ええ!?」

 

蓮華の意思関係無く飲み比べ勝負が始まった。

 

「「「おえっぷ…」」」

 

どうなったかは誰もが予想できるが、藤丸立香が言うには「片づけが大変だった」と語る。

 

「これで信頼はより得られたのかしら…」

「たぶん距離感は縮まったと思う」

 

今回の演説やら飲み会やらで元錦帆賊の水軍兵は蓮華のことを思春が仕えるに相応しい人物、自分たちが従うに足る人物だと認めたはずである。

となれば単なる元江賊で終わらせる気はないという意欲を燃やして、これまで以上の働きを見せたのであった。

そして、時たまに燕青主催の飲み会が開催されたそうな。

「姐さんに大殿さんも来るか?」

 

「「行く」」

 

 

150

 

 

市には陽の気が満ちている。

黄巾の乱はまだまだ記憶に新しく、大陸はあらゆる地で新たな乱世への兆しを見せていたが人々には日々の暮らしがある。

どんな状況でも生きようと精一杯に頑張っていく。強さとは生き抜くことだ。

藤丸立香は市にいる人々を見て、そう思う。

 

「本当に活気があーー」

「どーーーーーーーーん!!」

 

背後から小さい何かに突撃されて背骨が折れそうになった。

 

「ぐおおおお…」

「こんな所で何やってるの立香?」

「背骨が…そして膝も擦りむいた」

「大丈夫?」

「おい犯人。今のは衝突事故だよ」

 

体当たりしてきた本人はキョトンと心配してくるが全て彼女のせいである。その彼女とは孫呉の姫である小蓮だ。

 

「えー、こんなに可愛いシャオが抱き着いてるのに事故は酷くない?」

「抱き着き…?」

 

間違いなく抱き着いてきたのではなく、体当たりしてきたはずである。

油断しすぎて普通に彼女の体当たりを喰らってしまったのだ。カルデアでは子供サーヴァントとの戯れで慣れているが痛いものは痛いのである。

 

「もー大げさだなぁ。ちょっと擦りむいただけでしょ?」

 

背中をバチンと叩いてくる。

こういう所はやはり炎蓮によく似ているのだ。

 

「こんなの唾でもつけておけば治るよ。ぺろっ」

「ちょっ!?」

 

小蓮はいきなり四つん這いになって擦りむいた膝を舐めてきたのだ。

 

「待った待った!?」

「もっと舐めて消毒しとくよ」

「いいから!!」

 

道行く人たちに変な目で見られてしまう。

そもそも彼女はフリーダムすぎる。他国の人が見たら彼女が統治者の娘だなんて思わないかもしれない。

当の本人は町の人の視線なんてまったく気にせずに舐めていたのだから恐ろしい。

 

「キレイにしてあげたよ!!」

「この子は……」

「お礼は?」

「…ありがとう」

「よろしい」

 

にっこりと笑う小蓮の濡れた唇を指の腹で拭う。

 

「ん、やぁだ。唇にイタズラされちゃった」

「そんなつもりじゃありません」

 

くねくねしだした彼女に呆れる。今の行動は子供サーヴァントに接した時の癖である。

例えると食事中に口の周りが汚れていたら拭うアレである。

 

「照れたの?」

「照れてません」

「もう、素直じゃないんだから。はい」

 

ご機嫌な彼女が手を差し伸べてくるので手をとった。そしたらそのまま腕に抱き着いてくる。

 

「何してたの?」

「特に何も。ただ町を歩いてただけだよ」

「じゃあシャオと一緒だ」

 

より密着してくる小蓮。

 

「お姉ちゃんたち何か難しい話をしてたでしょ。酷いんだよ。そういう時はほとんどシャオを混ぜてくれないんだもん」

「そんな会議があったのか」

 

単純に会議に出席する人としない人なだけ。

おそらく彼らが出席しなかった会議とは重鎮だけのものかもしれない。

細かな国政についての会議なんて藤丸立香が出席しても何も分からないだけだ。

 

「じゃあ暇な者同士ね。一緒にどこか行きましょうよ」

 

そんな事を言いながら小蓮は一層強く身体を押し付けてくる。

 

「そうだな。暇な者同士だしね」

「じゃあ、行きましょ!!」

 

にっこりと笑う小蓮はとても可愛いらしい女の子であった。

 

「シャオはこれでも勉強も兼ねてるんだよ」

「何の?」

「民の暮らしぶりに興味を持つのは為政者として大切なことなのよ。雷火が前にそう言ってた」

「なるほど」

 

意外にも統治者の娘であるため、ちゃんと考えているようだ。

 

「立香も頑張ってよね」

「え、俺も?」

「とーぜんでしょ。だって立香はシャオの夫になるんだし」

「……」

 

本当に彼女は積極性がある。今の所、孫呉の中で藤丸立香を夫にしようとか、子種を貰おうとか、そういうのに積極性が一番なのが小蓮なのだ。

何が彼女をそこまで突き動かすのか分からない。

 

「………頑張ります」

「そうそう。上昇志向があるのは良い事だわ。夫の頑張る姿って見てるともっと好きになっちゃうよね」

 

すると彼女が爪先立ちで唇とツンと尖らせてくる。それを見た藤丸立香はおでこにデコピンをした。

 

「あた」

「そんなことしない」

「もう、照屋さんなんだから。うふふ」

 

全く動じない小蓮。何故か彼女からはある既視感を感じた。

 

「ちょっとおなか減っちゃった。桃まんが食べたいなー」

「はいはい。どこの桃まんが美味しい?」

「孫呉の桃まんならどこも美味しいわよ」

「じゃあ、あの店にしようか」

 

そのまま2人は飲茶を楽しんで、アテもなく街中を歩く。

こうやって街中を歩いて食べて、装飾品や衣服を見るなんて青春じみた事は久しぶりすぎる。

彼女がいるせいか町の人たちの寄ってらっしゃい見てらっしゃいと声を掛けられる。それに対してキラキラの笑顔でこたえていく。

 

「これこそがシャオ達の呉だよ。おしとやかにお上品にってね」

「シャオはおしとやかにって言うよりは天真爛漫で活発だけどね」

「えー、シャオはおしとやかだよ」

 

どの口が言うのだろうかと思ってしまう。

 

「でも、シャオはそっちの方が良いよ。元気な姿を見てるとこっちも元気が貰えるからね」

「そう?」

「うん」

「そっか、ならシャオも嬉しいや!!」

 

自分のおかげで元気になってくれる。そういう言葉も嬉しいものだ。

小蓮は背伸びをして二の腕に絡みついてくる。それに対して彼女の頭を優しく撫でる。

 

「えへへ~」

 

そのまま2人はまだまだ市を周る。

そして時間が過ぎるのも早いものでいつの間にか太陽は西の際のかなり近いところへいっていた。

 

「あっという間だったね。たくさんお話もできたし、とっても楽しかった!!」

「俺もだよ。色々教えてもらったしね」

「これくらいならいつでも役に立ってあげるよ」

 

小蓮から教えてもらったのは江東での料理などの政や戦には関係ない事ばかり。

だが藤丸立香的にはそっちの方が寧ろ良かったのだ。それに今日で小蓮の事も知れた。

お互いの事はまだよく分かっていないからこそ、今日は良い1日だった。何せ、出会ってからすぐに錦帆賊との戦いになったのだから彼女の事はよく知らなかった。

 

「昨日より今日の方がずっと近くに立香を感じる」

 

腕に頬を寄せてくる彼女に対してどこか穏やかさを感じた。

 

「立香もでしょ」

「そうだね」

 

物理的にも近いが、心の距離もまた近くなった気がする。それは英霊たちと絆を少しずつ深めた時のようにだ。

 

「また機会があれば出かけようか」

「やぁん、行く。今日はいろいろと立香の良いところを見つけて良かったわ」

 

嬉しそうに腰に抱き着いてきて脇の下から見上げてくる。

 

「立香はやっぱ優しいわ」

「ありがと」

「うん、自信がついてきた」

「自信?」

「立香のことを大好きになる自信!!」

 

弾む声で言ってきた彼女が両手で取った藤丸立香の手で顔を寄せる。

 

「いくら孫家に天の御遣いの血を入れると言っても嫌な人だったら好きになれないもん」

 

その言葉にハっとする。

錦帆賊との戦い前にちょろっと話した事についてだ。この時代では政略結婚なんてものは当たり前にある。

親が決めた事ならば特に疑問は思わないという感覚だ。だが実際はそうでもないはずである。

誰だって自分の嫁や婿がどんな人なのか気になるし、良い人の方が断然良いに決まっている。

実のところ彼女は今日までに藤丸立香がどんな人間なのか見定めていたのだ。

小蓮は炎蓮から天の御遣いの血を孫呉に入れると聞いて特に疑問に思わず納得した。そのこと自体は国のためなのだからだ。

しかしその相手がどんな人かは誰だって気になるもの。最初から藤丸立香に対して好意的ではなくてただどんな人間か気になったから近づいただけなのだ。

 

「いくら炎蓮さんが決めたことだからと言ってもソレに関しては無理しなくていいから。そもそもソレはお互いの同意もあるし、好意もあってこそだよ。だから今のシャオのように自分自身で決めることだよ。自分にとって好きな人は誰なのかね」

 

天の御遣いの血を孫呉に入れるという事で対象が藤丸立香になっているだけで、他にも良い男性がいるはずなのだ。

 

「立香…」

「もし何か炎蓮さんに言われたら俺に言って。俺が炎蓮さんに抗議しに行くから」

「ふふっ。母様に抗議しに行くって…そんなの普通はできないよ」

「いや、やる」

「もう立香ったら………んふ。ちゅっ」

 

手の甲に寄せた唇。

 

「立香はまず合格。普段は普通なのに…時たま大胆不敵さを見せてくれたりカッコイイ姿も見せてくれるしね!!」

「ははっ、そっか」

「もしかしたら立香にシャオ、夢中になっちゃうかも。いや、シャオが立香を夢中にしちゃう」

「…それはどうだろう?」

「なるのー!!」

 

本当に積極性がある女の子である。

 

「またねー!!」

 

大きく手を振って走り去っていった。

普通に見ていれば可愛い女の子だが急に小悪魔になるのが彼女だ。

 

「それにしてもシャオを見ていると何か既視感が………あっ、クロエだ!?」

 

ずっと誰かに似ていると思っていた正体が分かった瞬間であった。

 

 

151

 

 

「りーっか」

「うん?」

 

雲に無い澄み渡った蒼天の午後。不意に声を掛けられた。

何だ何だと思いながら声を掛けられた方を見る。

 

「はーい、りっかー!!」

 

雪蓮が木の上で酒を飲んでいた。

 

「サボリか」

「違うわよ!!」

「昼間っから酒飲んでたらそう思う」

「まったく…立香は何してんの?」

「休憩時間だよ。雪蓮さんはー?」

「仕事しろってうるさい冥琳を撒いて酒飲んでんのー」

「やっぱサボリじゃないか」

 

今頃、冥琳が鬼の形相で彼女を探している頃合いかもしれない。

 

「たまには羽を伸ばさないと息が詰まって死んじゃうわ」

「いつもでしょ」

「あ、言ったわね。傷つくわよ」

「どの口が言うか」

「乙女を傷つけた罪は重いわよー」

 

軽口をたたきながら2人はケラケラと笑い合う。

こういう昼下がりも良いものだ。彼女はお酒が入っているのか普段よりテンションが高い。

 

「立香もどお?」

 

彼女はイタズラっぽい笑みを唇に浮かべて手の中の盃を掲げてみせた。

 

「お酒飲めないんで」

「ぶー、付き合い悪いな。飲んじゃえばいいのに」

「飲めないんでー」

「じゃあ、飲めるようになったら一緒に飲んでくれる?」

「それはもちろん」

 

ニコリと笑い合う。こういう約束はしてきたものだ。

 

「お酒は人生の友なのよ」

 

酒と戦が何よりも好きな雪蓮は『戦士』や『英雄』という感じだ。

これに『女』がつけばまさに似合う。彼女は女性だから『男』になるかもしれないが。

炎蓮に言うに及ばず、祭や粋怜にも似たようなところがある。これが孫呉の女の気質だ。

 

「……」

 

顔を上げると頭上で優雅にほほ笑む彼女の姿が何故か眩しく見える。それはまるで英霊を見た時のように。

この時代では彼女はまだ英雄ではないがやはり歴史通りなのか、その雰囲気が見えるのだ。

 

「なぁに、ニヤニヤしちゃって…あ、もしかして見えちゃった?」

 

軽口が絶えない女性だ。ならばと仕返しにと口を開いた。

 

「ああ、見えてる」

「おかしいわねぇ。私、下着は付けない主義だから見えるなら中身のはずなんだけど」

「何だと!?」

「あはは、やっぱり見えてないんじゃない」

「くそう…」

 

雪蓮の方が上手だったようだ。嘘を見通されてケラケラ笑われてしまう。

 

「真実が知りたかったら私と閨をともにすることね。ふふ」

「はあ…まったく、敵いそうにない」

 

そんな事を言いながら彼女は手酌でグイグイと盃を空けていった。

 

「太陽の下で飲む白酒は美味しいわ」

 

注いだばかりの盃の中身を一気に飲み干して、緑の葉と葉の間から差し込む陽の光に雪蓮は眩しそうに眼を細めた。

褐色の肌はほんのりと赤らみ、真昼だというのに艶めかしさがある。

ガラス細工のような繊細でキラキラと輝く長髪が風にたなびく。

 

(やっぱ歴史に残る人って異世界でも魅力があるんだな)

「ね、立香の国にもお酒があるの?」

「うん。たくさんの種類があるよ」

「ねえ、どんなのがあるの?」

 

興味深々の表情で太い枝の上から身を乗り出してきた。

 

「色々あるよ。日本酒やスピリッツ、テキーラにワイン、シードル、ビール、ブランデー、モスコーミュール…キリがないくらいあるね」

 

「にほんしゅ、しゅぴりっちゅ、てきぃら…もすこ?」

 

お酒は本当に種類が豊富だ。

 

「立香はどれか作れないの?」

「作れない」

「えー…」

 

落胆されても作れないものは作れないのだ。

 

「じゃあって、痛っ!?」

 

何かが猛スピードで雪蓮のおでこに直撃して木から落下した。

 

「雪蓮さん大丈夫!?」

「なんとか。もう何なのよ!?」

 

雪蓮はしかめ面で頭と腰を撫でながら何が直撃してきたか探す。

それは巻物であった。

 

「それって…」

「やぁ~っと見つけたぞ」

「あ……あははは。冥琳~…」

 

木立をかき分け、巻物に次いで現れたのは冥琳であった。それで全てを察した雪蓮と藤丸立香。

美周郎と名高い美しいその顔に怒りも露わに、ゆっくりと近づいてくる。

 

「仕事を放り出して酒盛りと良い御身分だな」

「いや、あのね…これは立香が呑め呑めってうるさくてね」

 

責任を押し付けようとする雪蓮。

立ち上がった彼女はいきなり藤丸立香の腕を掴んで、そのまま冥琳の正面に突き出した。

 

「……」

 

ジロリと睨まれる。

 

「そんな事してません」

「ちょっ、私のことを売るつもり!?」

 

裏切られたと言う顔をするが藤丸立香は何もしていない。

 

「まあ、立香ならしないか」

「え、冥琳は立香を信じるの!?」

「こういう時はお前より立香の方が信じられる」

「そ、そんな…!?」

 

何故、そんな顔がするのか分からない。

 

「先に売ったのは雪蓮さんです。そもそも雪蓮さんは最初から…もが」

「それ以上言ったら…分かってるでしょうね」

 

何故ここで真剣なトーンで言うのか分からない。きっと言う場面が間違っている。

 

「…はあ」

 

冥琳が雪蓮の耳たぶを勢いよく摘まみ上げる。

 

「痛い痛い!?」

「そういう話はあとでゆっくりと聞こう」

 

笑顔だけど目が笑っていない冥琳。きっとこれから彼女は仕事をサボっていたことを後悔する羽目になるのだ。

 

「助けて立香~!!」

「これを自業自得と言う」

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は…明日予定です。

今回は孫三姉妹との日常でした。
日常編ということで、特に物語の展開はありません。
ほのぼのと進みました。

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