Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
ちょっとずつカルデアsideも活躍させていきます。それでもまだ恋姫sideが多いですけどね。


豫章城での決着

168

 

 

雪蓮と太史慈の一騎打ちは誰もが拳を握りながら見守っていた。

最初に仕掛けたのは雪蓮だ。剣を素早く振って連続で斬る。その攻めは休まず、ずっと斬り続ける。

だが太史慈も簡単には負けるつもりは無い。目にも止まらぬ早業を長槍を巧みに操って全て受け止めていたのだ。無論、受け止めているだけでなく長槍を使って凄まじい攻撃を繰り出している。

どちらも拮抗している戦いだ。冥琳たちは雪蓮の無事と勝利を祈っているが、それは太史慈の部下たちも同じだ。

 

「ふふ、あはは!!」

「ふふふ、あっはっはっは!!」

 

命掛けの戦いだと言うのに2人は笑う。まるで年来の友のようにだ。

どういう気持ちなのか分からないが、それはあの場で戦っている2人にしか分からない。分かるのは彼女たちは心の底から武を競うのが好きということだけである。

 

「はああっ!!」

「てやあっ!!」

 

剣と長槍の打ち合いは何度も続く。

 

「ねえ、太史慈。私のもとに来ない?」

「えッ…私が孫策のもとへ?」

「ええ、あなたは何のために自分を磨いてきたのかしら。民を導くこともできない力無い刺史を守るためではないでしょう。私たち武人がすべきことは国を導き、民を守る事でしょう!!」

 

劉耀の侮辱に対して睨むが、その後に続いた言葉に考えさせられる。

 

「豫章の民だけじゃない。揚州…いえ、天下の民が今のこの戦乱の世に苦しみ続けているわ。その戦乱を終わらせて世に太平をもたらすことが私たち武人に課せられた使命というものでしょう!!」

「……ッ」

「劉耀は君主の器じゃないわ。そしてあなたはこんなところで埋もれていい将じゃない!!」

 

雪蓮の言葉に太史慈は揺れた。太史慈も思うところがあるのだ。複雑な面持ちで唇を噛んでいるが言葉は出てこない。

 

「太史慈、私のもとに来て!!」

「孫策、そんなに私を買ってくれて嬉しいよ……でもね劉耀様には御恩がある。私には武人としての義がある!!」

「太史慈!?」

 

またも2人の打ち合いが始まる。

 

「やっぱりそうよね。でも、あなたのそういうところにも私は惚れたのよ!!」

 

先ほどよりも斬り合いは早くなり、重くなる。

 

「私は欲しいと思ったものは絶対に手に入れる。この城を落としてあなたを私のものにするわ!!」

「そうはさせない!!」

 

雷が落ちたかのような轟音が戦場に鳴り響く。お互いに必殺の一撃を放ったが、それでも決着はつかない。

だが行きつく間もなく、2人はぶつけ合うように激しい攻防は続く。

雪蓮は太史慈の高速の突きをかわすと馬上とは思えないアクロバティックな動きで多様な攻めを繰り出す。

 

(蘭陵王みたいな攻めだな)

 

もう何合も打ち合うが決定打を与えられないままで2人の一騎打ちはまだまだ続くと思ったがそうはいかなかった。

 

「む?」

 

最初に気付いたの李書文であった。その異変に気付くと城門が勢いよく開かれたのだ。

 

「太史慈様が危うい。ゆけーッ、お救いするのだ!!」

 

太史慈の部下が彼女の危機を察知して動いてしまったのだ。

 

「ご、ごめん孫策。副官が勝手に動いちゃった」

「別にいいわよ…まったく、どうしていつもあなたとは決着がつかないのかなー?」

「そういう星の巡り合わせなのかもねー」

「ふ、太史慈。私のもとにくればいつでも好きなだけ勝負できるわよ。じゃあね!!」

「ふふっ、嬉しいお誘いだね」

 

結局、雪蓮と太史慈の一騎打ちの決着はつかず。

その後、両軍は衝突したが劉耀軍は太史慈を確保するとすぐさま城に引き返して籠城するのであった。

それから数日、大きな戦は開戦されぬがお互いに削り合いという言葉が似合う戦いは起きている。

太史慈は雪蓮隊の兵糧を狙ったり、夜討ちを仕掛けてきたのだ。雪蓮も負けじと攻めるがを太史慈は守りを固めに固めている。

鉄壁の守りに雪蓮隊の損害は増えるばかりで、このまま力攻めを続けても城は落とせない。ならば作戦を変えるしかないのだ。

雪蓮は頭を冷やして力攻めをしている今の状況を見直す。元々の案に出ていた兵糧攻めに転じる事にしたのであった。

その頃、攻めの作戦を変えた時に雪蓮隊の後方にいた炎蓮たちにまさかの凶報が届いていた。

 

 

169

 

 

部下から報告に炎蓮は久しぶりに冷や汗をかきそうになっていた。

 

「なんだと!?」

 

火急の知らせが届いていた。それは江夏の黄祖が兵を挙げ、長江を渡って柴桑に向かっているというものだった。

 

「黄祖軍の数は?」

「甘寧様の知らせでは五万は下らぬとの事です!!」

「分かった。下がって休め」

 

まさかの知らせで最悪な報せである。

 

「クッ…劉表め、炎蓮様との盟約を破って豫章に援軍を差し向けるなんて!!」

「いや、これは黄祖の独断であろう。あれはそもそも劉表が手綱を握れるようなヤツではなかった。黄祖の野心を見抜けなかったこのオレの不覚よ」

 

悪い知らせは重なってくるものだ。すでに黄祖軍の先鋒は柴桑に到達しており、町は占拠されているとのこと。

 

「分かった。ご苦労だが貴様はこのまま孫策の陣へ向かえ。黄祖が兵を挙げたことを孫策に伝えよ。ただし、後ろの心配はいたすなと言え。あくまで城攻めを続けるように厳しく申し伝えるのだ!!」

「承知しました!!」

 

まさかのまさかで、黄祖が攻めてきた。

最初は荊州とは不戦の盟約があるのだから黄祖に使者を送って兵を退くように考えた粋怜だが炎蓮は「それは無駄」と口にする。

 

「おそらく援軍は口実だろう。あれの狙いは我が首だ」

「まさか…!?」

「黄祖は以前からもオレの命を狙っておった。思春の錦帆賊もオレに横取りされたからな。その意趣返しもあるだろう」

 

炎蓮はこの頃起きた事を考えると黄祖という人物に繋がると解析していた。

 

「ふふ、豫章へ攻め込んでから、つまんねえ戦ばかりだったが、黄祖相手ならちったあ楽しめるか」

 

そんな事を言う炎蓮だが、実際は楽しむゆとりなんてない。孫呉の戦力は五万であるが豫章城を落とすために雪蓮隊に三万は割いている。

そうなると残り二万の兵で黄祖軍五万を相手しなければならないのだ。兵の強さも劉耀軍に対して黄祖軍は別格だ。

 

「だからこそ楽しむんじゃねえか。久しく味わっていなかった生と死の駆け引きを堪能できそうだぜ」

 

そんな事を言う自分の主に呆れそうになる粋怜と明命。しかし、そんな主だからこそ仕えているのだ。

 

「案ずるな。オレがくたばろうとも、お前たちは死なせはせん」

「それは逆です。わが命に代えても炎蓮様はお守りします!!」

(ったくオレにはもったいねえ部下だぜ)

 

この凶報は建業にいる蓮華たちにも届いており、急いで兵を集めて出立する準備をしている。しかし急いで準備したところで豫章まで何日かかるかも分からない。

雪蓮の隊を戻るのも愚策で、もしも戻した場合は黄祖軍と劉耀軍に挟み撃ちになってしまう可能性が高いからだ。

 

「ここはオレたちで黄祖と戦うしかないな」

「しかし、二万対五万では…」

「まあ、ひとつだけオレも事前に手は打っておいたが…大してアテには出来ん。ここは吾らのみで切り抜けるしかない」

「…はい。戦う他に選択肢が無いのなら、ここで黄祖軍を足止めするのが最良でしょう」

 

黄祖軍を足止めしている間に雪蓮が豫章城を落とせば、そのまま城へ退いて建業からの援軍を待つことが出来る。それが今の最善策だ。

だが、炎蓮は別の考えをする。確実に出来る自信があるのか虚勢なのか分からないが彼女は自信満々に言い放った。

 

「オレたちで黄祖を討つぞ!!」

「…はい!!」

「明命も覚悟は出来ておるな!!」

「は、はい。こうなったらやるだけです!!」

「せっかくオレの首を狙って、わざわざ豫章くんだりまで出向いてくれたんだ。こっちから盛大に迎えてやろうじゃねえか!!」

 

孫呉の軍勢は北に向かう。

その最中、荊軻は何か心がざわめくのを感じた。黄祖と聞いて于吉の存在を思い浮かべる。過去に渡った本来の目的がもうすぐ近くに来そうな予感を感じ取っていた。

 

「炎蓮様。黄祖軍の旗が見えてきました!!」

「あの、真ん中で馬に乗っているのが黄祖です!!」

 

明命は江夏に潜入した時に黄祖を見た事があるのだ。だからこそ見間違えはしない。

 

「あれが黄祖か。なるほど、蛇のような顔をしておるわ」

 

黄祖も炎蓮たちに気付いたのか視線を送ってくる。それに対して炎蓮は前に出て黄祖に呼び掛けた。

 

「おい、黄祖!!」

「……ん?」

「オレが孫文台よ。この首を狙ってはるばる揚州までの遠征、ご苦労であったな!!」

「ほう、噂通り猛る虎の如き姿よ。だが所詮は獣、人に抗う知恵はあるまい?」

「ハッ、人の知恵とは盟約を破り、背中を襲う事か。貴様は目先の欲しか頭が働かんようだな」

「ほざいていろ。嫡子の孫策もろとも、この豫章の地で果てさせてくれるわ。くっく、悔しかろう。揚州統一を目前にして無様な負け戦を味わい、野に屍をさらすのだ。我が刺客の手にかかっておれば楽に死ねたものを…」

 

刺客と聞いて粋怜はハっとする。ここ最近、炎蓮に刺客の数が増えた時期があったのだ。黄祖の今の言葉で全てが繋がる。

荊軻も前に湯治に炎蓮たちと行った時の襲撃事件を思い出す。

 

「ふ、誰の手の者かは、とうに察しておったであろう?」

 

それに対して粋怜と明命は怒るが炎蓮は大笑いする。

 

「黄祖、己惚れてんじゃねえぞ。オレの敵は貴様だけではないわ!!」

 

この時代、頭角を現す者には敵なんていくらでも増える。それを全て倒す事でより高みに上がれるのだ。

 

「全軍、かかれーー!!」

「ふん、その程度の兵だけで……かかれ」

 

豫章の地で炎蓮の軍と黄祖の軍がぶつかり合う。

 

 

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炎蓮と黄祖が接触している頃には雪蓮の元には報告を伝えに来た部下が事細かく説明をしていた。

 

「母様が黄祖軍と!?」

「ハッ。ただし孫権様はあくまで孫策様には城攻めを続けるよう厳しく仰せでございました」

「わかったわ。母様には承知したとお伝えして」

 

天幕の中に重苦しい空気が漂う。

あと一歩で豫章城の兵糧も尽きようかという時にまさかの凶報だ。雪蓮たちは苦虫を噛んだ顔をしてしまう。

 

「なんで、劉表様とは不戦の盟約があるのに」

「いや、黄祖が勝手に動いたのだろう…くッ、またしても私は見誤っていたか」

 

後悔している場合ではない。いまからするべきことはどうにか打開するべき策を考えるのだ。

 

「冥琳」

「ああ」

 

今、彼女たちには2つの選択肢がる。

1つ、このまま城攻めを続ける。2つ、炎蓮の加勢に向かいべく城を囲む兵のみを残して北の海昏に向かう。

後者を選んだところで戦上手の太史慈ならば多少の兵を残したところで包囲は突破されてしまう。そうなったら黄祖軍と劉耀軍に挟み撃ちになる可能性が高い。

ならば前者である城攻めを急いで実行するしかないということだ。

 

「母様もそれを望んでいるようだしね」

 

だが城を早く落とさなければいずれは危険だ。炎蓮は黄祖を倒す気であるが二万と五万の兵力では実際に厳しい。

 

「城を落とすわよ!!」

 

本当は今すぐにでも炎蓮に援軍を送り出したいところ。祭は少しの兵力だけでも割いて援軍に向かう事を打診したが雪蓮は許さなかった。

今の最善は豫章城を落とす事だ。この決心は揺るがない。

 

(母様…)

 

苦渋の決断であるが、これは戦だ。感情で動いて全てを台無しにするわけにはいかないのだ。

 

「これより総攻めに取り掛かる。皆の者、出陣だ!!」

 

総攻めにより豫章城に突撃するのに反応した太史慈もより城の守りを固めてくる。

炎蓮たちが黄祖軍に狙われたという報告により焦りが出たかもしれない。その焦りが孫呉の兵をより激しく攻め立てる火薬となっていた。

それでも豫章城の守りは硬い。

 

「ここは無茶してみるかぁ」

「燕青…何する気なのさ」

「なあにちょっとした無茶。ちょい耳貸しな李書文」

「なんだ?」

 

燕青が李書文に耳打ちすると彼は微妙そうな顔をした。

 

「出来んことは無いがそれだとお主が危険だぞ?」

「危険な場面なんて今までもいくらでもあっただろぉ?」

「それもそうだな」

 

軽く笑う李書文。

 

「んじゃあ行ってくるぜ主。あ、そうだ主には…」

「分かった。すぐ着替えて準備する。気を付けてね」

 

燕青と李書文が戦場を駆け抜ける。孫呉の兵たちを抜かして城門前まで到達した。

 

「ちょっと燕青に李書文ったら勝手に!?」

「あんなに前に出たら死ぬぞ!?」

 

2人だけで城門前に向かえば矢で狙い撃ちされる。だがそんな事は百も承知で動いたのだ。

 

「おら、頼むぜ拳法家!!」

「分かっておる侠客!!」

 

燕青が李書文の槍に乗った瞬間に彼を力の限り空高く上空へと投げ飛ばした。

上空へと投げ飛ばされた燕青に孫呉の兵と劉耀の兵は目を向けてしまう。

 

「人があんな高く跳べるのか!?」

「誰だあいつ…って、いかん。矢を放て!!」

 

劉耀の兵は流石に驚いたが燕青が落ちる先が城門の内側だとすぐに理解すると矢を放つ。

その前に藤丸立香は魔術礼装を着替えてスキルの『オシリスの塵』を発動。

 

「いくよ燕青!!」

「助かるぜマスター!!」

 

『オシリスの塵』により一定時間の間ならば矢や剣を通さない。だが一定時間だけだ。

その一定時間というのは燕青にとって城門の内側に落ちるのには十分な時間であったのだ。

 

「着地成功」

 

周囲に居るのは敵兵たち。

 

「まさか跳んで城壁を超えるとは…しかしたった1人では死にに来っぐがぁ!?」

「悪いな。オレもいつまでもここにいるつもりは無いぜ。流石にこの数を相手してられねえからな」

 

敵兵たち殴り飛ばしながら燕青は城門へと全速力で近づく。

 

「城門の開門だ!!」

 

全力疾走をして慣性の法則を全て拳に込めて城門を叩き、無理矢理に開門させた。

 

「門が開いたぞーーー!!」

「今が好機なり!!」

 

城門が無理矢理開かれた事により孫呉の兵たちの勢いは増す。

 

「あとは頼むぜ」

「全く無茶するのう。てか、あんな事ができるのなら最初からやってもらいたかったわい」

「馬鹿言うな。流れも見て実行したんだよ。普通は出来ねえよ」

「言っといてなんだが普通じゃなくてもやらんぞ」

 

上空から城門の内側に侵入して1人で無理矢理開門させるなんて普通でなくとも出来ない。

何故、出来たかと言われれば藤丸立香の魔術礼装のスキルと燕青と李書文の英霊としての力によるからだ。

 

「上空にいたお主に向けて放たれた矢を見て少し肝を冷やしたぞ」

「ははは、あれは俺も大丈夫だと思ってもちと怖かったがな」

 

悪鬼の如く呉軍を苦しめ続けていた豫章城にもついに落城の時が迫っていた。

燕青の活躍により城門が内側から開かれ、呉軍は雪崩れ込むように城内に乱入したのだ。

劉耀軍は抵抗をみせたがもはや戦いの優勢は明らかとなる。次第に敵の反撃は鈍り、逃亡する兵や武器を捨てて降伏の受け入れを求める兵も出始めたのだ。

太史慈も流石に焦りが見えてきた。

 

「…しょうがない、劉耀様を抜け穴にお連れして!!」

「その役目は我らがいたそう。案ずるな劉耀様は必ずや無事にお逃がしいたす」

 

劉耀の重臣たちが太史慈に提案する。それに対して頷くしかなかった。もはや豫章城が落ちるのは時間の問題であるからだ。

 

「分かりました。あなたも残って兵を集めて一緒に行きなさい。劉耀様をお守りするの」

「ハッ、しかし太史慈様は!?」

「私はここに残るよ。劉耀様は遠くへお逃げできるよう、ここで敵を引き付けるからね。心配しないで、後で必ず行くから!!」

「……分かりました。それでは太史慈様、お先に!!」

 

太史慈の副官は何を察しながらも自分の上官である太史慈の命令を受ける。悲しくて拳を握ってしまう。

副官は太史慈がここで死ぬ覚悟で残ると察してしまったのだ。

必ず追いつくと言っていたが、その可能性は低い。それでも副官は太史慈を信じるのであった。

 

「必ずや劉耀様をお守りします!!」

「うん、劉耀様を頼んだよ!!」

 

もうすぐ豫章城は落ちる。劉耀を副官たちに任せた後は太史慈は殿を務めるだけである。

しかし太史慈は副官を信用しても重臣たちは信用するべきではなかった。

劉耀を逃がすために副官と重臣たちが抜け穴に向かってからその後、まさかの凶報が届くのだから。

 

 

171

 

 

雪蓮たちは城内に入り、どんどんと侵攻している。

中国の城は街自体が郭と呼ばれる高い壁に囲まれた堅牢な城塞都市であることが多い。外の守りは硬いが反面、その郭を突破した先の内側にある領主の城は日本の戦国時代の山城のような複雑で防御力の高い作りはしていないのだ。

市街を制した雪蓮たちの勝利はもう目前だ。

 

「はあああああああ!!」

 

劉耀の本陣に突入し、主殿が近づくにつれて決死の覚悟で城に残った敵の抵抗は激しさを増している。

雪蓮は剣を振るい、味方の先頭を切って単身で屋敷の奥へと突き進んでいく。

 

「一人じゃ危ないよ雪蓮さん!!?」

「待っている暇は無いわ。劉耀の首さえとれば、それでこの戦は終わりよ!!」

「危ないって言ってるのに…燕青、一緒に!!」

「はいよぉ!!」

 

廊下の刺客に潜んでいた敵を燕青が蹴り飛ばす。

 

「まだまだ出てくんな…っと!!」

「こいつらは太史慈の側近よ、劉耀はもう近いわ!!」

「分かったよ雪蓮さん!!」

「てか、いつの間に着替えたのよ立香?」

「さっき。やっぱ眼鏡良いよね」

 

更に進むと廊下の曲がったところで待ち伏せていた敵兵が大量の矢を放ってきた。

「うおっと!?」

 

そのまま前に出た雪蓮と藤丸立香の首根っこを掴んで急いで引っ張る。

 

「「ぐえ!?」」

「あ、悪い。でも矢に貫かれるよりマシだろ」

 

敵の守りはより一層激しい。それは守るべき存在である劉耀が近いということを雪蓮たちに教えているようなものだ。

 

「無駄な抵抗は止めないさい!!」

「黙れ、ここは絶対に通さんぞ!!」

「我らの意地を見よ!!」

「放てーーー!!」

「くッ!?」

 

大量の矢が放たれてくる。これでは先には進めない。

もうすぐそこに劉耀がいるというのにもどかしいものだ。

 

「雪蓮、前に出過ぎるな!!」

「あら、冥琳ったら遅かったじゃない」

「敵の守りが硬くてな…もうすぐか」

「ええ、でも守りは……ってあら、静かになったわね?」

 

急に敵の攻撃が止まり、静かになったのだ。

雪蓮も首を傾けて冥琳と顔を見合わせている。

一瞬、降る気になったのかと思った時に廊下の向こうからコツコツと足音が聞こえてくる。

見ると1人の兵士が緊張した面持ちで姿を現したのだ。

 

「て、敵の総大将…孫策殿はいずこか。お伝えしたきことがある」

「孫策は私よ」

「主殿に案内いたす。ま、参られよ」

 

状況から考えても降伏の申し出だ。しかし気を抜くわけにはいかない。

このまま油断せずに敵の兵士に案内されて主殿に向かう。

そこで待っていたのは太史慈であった。

 

「太史慈!!」

 

彼女は武器を構えていない。このことから戦う意思はないということだ。

 

「劉耀はどこにいるの?」

「劉耀様はもうこのお城にはいないよ。抜け穴を通ってね。でもその抜け穴も既に塞がれているわ」

 

彼女の顔は暗い。降伏したから当たり前なのだが他にも理由がある。

城から劉耀を逃がす事は成功した。しかし重臣たちは己の命欲しさに太史慈を待たずに抜け穴にあった仕掛けを動かして穴を崩したのだ。

重臣たちは敵の追手を防ごうと焦っていたのか太史慈の副官をはじめ、多くの味方さえも落盤の犠牲にしてしまったのである。

大切な部下を犠牲にした重臣たちに怒り狂いそうになったが、今の状況を考えて逆に冷静になった太史慈。

もう覚悟が決まったのだ。そもそも劉耀をお守りするためでも豫章の民を残したまま城を去る事は気が引けていた。

だからこそ降伏する道を選んだ。こんな形の決着は太史慈にとって残念なものであった。

 

「ねえ、太史慈…わかってると思うけど、この戦の目的は劉耀の首だわ。抜け穴はどこにつながってるの?」

「城は落ちた…都合の良い無茶なお願いだけど、この首と引き換えに劉耀様を逃がしてあげて欲しいの」

 

自分の命と引き換えに主を逃がす。

降伏しておいて不利な状況でも関わらず太史慈は劉耀を逃がす事だけを考えている。彼女の忠義は思った以上に厚いのだ。

 

「たわけたことを申すな。貴様の首と劉耀の首、釣り合うとでも思っているのか?」

 

冥琳が厳しく口を開いた。

 

「どうか、どうかお願いします!!」

「戯言はいい加減にしろ」

 

冥琳はまったく聞く耳を持たない。

 

「だが、その判断は私ではなく、総大将の伯符がすることだがな」

「え?」

「揚州刺史の首と、そこの太史慈の首。どちらが重いのか、よくよく考えなさい」

 

全ての決定権は雪蓮にある。どうなるか藤丸立香は黙って見ているしかない。

 

「ふふ、そうね。考えるまでもないけれど」

「お願い孫策、劉耀様を見逃して。もう劉耀様には何の力も残ってない。兵も領地も失ったし、家臣だってもう…」

「あなた以外にはろくなのがいないのね?」

 

太史慈に頭に残る劉耀の重臣たち。己の命欲しさに太史慈の部下を犠牲した連中たち。

 

「分かった。劉耀は見逃してあげる」

「え、本当、本当に本当!?」

 

本城を落とされ、何もかも失った劉耀が再起するのは不可能だ。だからこそ今から追いかけて首を落とす必要はないと考えたのだ。

冥琳も文句は無いと呟いた。この勝利で朝廷は炎蓮を揚州刺史に任命することになる。

 

「立香に燕青も賛成よね」

「うん」

「俺も言うことはねえ」

 

藤丸立香たちも反対はしない。これは雪蓮たちが手に入れた勝利なのだから。

 

「りつか?」

 

結果として受け入れて正解だ。もし断ったら太史慈は死ぬ気で雪蓮を止めに掛かったはずだ。

その勝負に関しては雪蓮も満更ではないかもしれないが時間が無い。この後はすぐにでも炎蓮に加勢に向かいたいのだから。

 

「私は万が一にでも死ぬわけにはいかないからね」

劉耀を逃がしたことは、もしかしたら後々になって悪い影響があるかもしれない。だがこれ以上、戦を長引かせるわけにはいかないのだ。

今はこれで決着をつけるべきなのだ。

 

「承知してくれたのかな?」

「ええ」

「分かった…よし。それじゃあ首を刎ねて!!」

 

太史慈はその場に座り、首を出した。

 

「ねえ、太史慈。それは何のつもり?」

「何って…首刎ねられるの待ってるんだけど」

「もー冗談辞めてよね」

「え?」

 

劉耀を逃がし、太史慈まで殺したとして、雪蓮に得られるのは戦に勝ったということだ。

忘れていけないのが、個人的な目的として太史慈を手に入れるというのがある。

「あなたの首と劉耀の首じゃ釣り合いが取れないって公瑾も言ってたでしょ。逆の意味でだけどね」

 

(そういう意味だったのか)

 

太史慈も藤丸立香も分かっていなかった。あの雰囲気だったら逆の意味なんて理解できるはずもない。

 

「さあ、もう立って。首を刎ねる気は無いわよ。でも…生かされるのは武人の恥、どうしても死を選ぶと言うのなら、その意思は尊重するわ」

「んー…どうしよっかなー?」

 

軽い気持ちで悩む太史慈。

 

「死ぬ気が無いのなら生きた方が良いよ」

「お、立香も言うじゃない。そうそう」

「孫策にその気が無いなら、わざわざ死ななくてもいっかな」

 

太史慈がすくっと立ち上がる。今まさに首が刎ねられる覚悟をしていたのにもう笑っていた。

肝の据わり方が尋常ではないようだ。

 

「ええ、死ぬなんてやめときなさい。それで、これからどうする気なの?」

「劉耀様を追いかけたいけど、そんな事したら孫策を裏切ることになるからね。この城に残るよ。劉耀様はいなくても民はまだまだたくさんいるから」

「それは呉に降るって意味かしら。私に仕えてくれるの?」

「んー、それはまだ決めてないかな。でも孫策の邪魔はしないよ。デッカイ恩が出来たからね」

「あっはっは」

 

正直に思った事を言う彼女に雪蓮は笑った。

太史慈は凄くまじめで律義な性格だ。強さだけでなく、この人柄に雪蓮は惚れたのかもしれない。

 

「さて、戦いを止めないとね。そういえば君たちは?」

「ああ、この子は立香って言うのよ。私たちが取り合った天の御遣いよ。それと護衛」

「どうも。藤丸立香です」

「燕青だ。よろしくな」

「へえ、この子が天の御遣い」

 

劉耀の逃亡と太史慈の呼びかけによって戦いは終わり、豫章城は完全に呉軍が制圧した。

逃亡した劉耀はというと一族と少数の家臣に守られながら南の交州に落ち延びていったそうだ。討ち取るのは簡単だが雪蓮は太史慈の約束を守り、追っ手を出すことは無かった。

これにて豫章城での戦いはこれにて終了したのだ。しかし雪蓮たちの戦いはまだ終わっていない。

まだ後方にいる炎蓮たちの元へ加勢しに行って黄祖軍をどうにかしなければならないのだから。




読んでくれてありがとうございました。
次回は3時間後予定。

豫章城での戦いは決着がつきました。いずれ太史慈の活躍は別で書きたいです。
次回はついに過去sideの黄祖との戦いですね。もうすぐ孫呉が滅んんでしまうかもしれない事件にへと進んでいきます。

関係無いけど魔術礼装のアトラス院のぐだ男っていいよね。

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