Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
FGOの水着イベントも後半戦ですね。
PU2も始まりました。石も溶かしまくりです。

今回から日常回です。それが終わればついに反董卓編に入ります。


平原での日常1

235

 

 

藤丸立香は平原に訪れてからはよく北郷一刀と一緒に行動している。それはまた逆も然り。

歳が近く、同じ境遇で同郷同士ならばつい一緒にいるのは分からないものではない。たった1人だけと思っていたが実はもう1人同じような自分がいると分かればつい一緒にいたくなるものだ。

その方が精神的に安心するからである。例えば海外留学をしたとして、留学先に同じ日本人がいればついに一緒に行動したくなるものだろう。それと同じだ。

 

「カルデアって様々な英雄や偉人がいるんだな。俺もそのカルデアって場所に行ってみたいよ。どんな英雄たちがいるんだ?」

「たくさんいるよ。カルデアにはもう200以上の英霊たちがいるんだ。有名どころは結構いるから北郷が思いついた英雄は出てくるんじゃないかな」

 

カルデアには数多くの英霊がいる。有名どころも多いから適当で英雄や偉人の名前を言えば当たる可能性は高い。

 

「お、マジか。じゃあ超有名な円卓の騎士。アーサー王もいたりして?」

「いる」

「すげえ!!」

 

北郷一刀は興奮気味だ。この三国志の世界に来た時は驚いたものだがカルデアには世界中の英雄たちがいるのだ。興奮しないわけがない。

 

「騎士王がいるんだ!!」

「うん。円卓を囲むくらいいるんだ」

「円卓を囲む騎士王ってどういう事!?」

 

ここで北郷一刀が頭にハテナマークを浮かべた。

 

「じゃあ、ギルガメッシュとかは…流石にいないか?」

「いる」

「嘘だろ!?」

「3人いて1人は過労死枠です」

「過労死枠!?」

 

またハテナマークが増えた。

 

「じゃあじゃあ日本が誇る武将の織田信長は…?」

「イエス」

「いるんだ!!」

「うん。ノッブもたくさんいるなー」

「ノッブって…なんかフランクだな。てか、たくさん!?」

「えーと確か織田信長にカイザー・ノッブに織田吉法師にビッグノッブに水着ノッブに魔王信長に本物信長がいたな」

「多いな…てか本物信長って何だよ。その人が本物なんじゃないの!?」

「いや、本物の意味が違うんだ」

「どういう意味だよ!?」

 

またもハテナマークが増える北郷一刀。先ほどからカルデアの英雄たちについて分からなくなってきた。

英雄たちは分かるが同じ英雄が何人もいるというのが分からないのだ。

 

「まだまだ有名どころはたくさんいるよ。ジークフリートだったり沖田総司だったり宮本武蔵もいる」

「超聞いた事ある偉人じゃん!!」

「他にもクーフーリンのアニキもいるし、マリー・アントワネットや黒髭にゴールデンの坂田金時もいるよ」

「いやあ、すげえという言葉しか出ないぞ」

 

北郷一刀はもう驚きっぱなしだ。その姿を見て藤丸立香も「自分もこんな感じだったなあ」と思ってしまう。

藤丸立香は実際の目で英雄たちを見ているから北郷一刀より興奮はしていただろう。

 

「なあなあカルデアでは何をしてたんだ?」

「全ては話せないけど…特異点って言う歴史の流れそのものを変えてしまう原因を取り除く任務に就いてるんだ」

「そんなのがあるのか。スケールがデカイな」

「いろいろあったよ。百年戦争のフランスだったり大航海時代の海を航海したりね」

「おおー!!」

「チェイテピラミッド姫路城は特に大変だったなぁ…はあ」

「ごめん。もう一回言ってくれ」

 

チェイテピラミッド姫路城というキーワードはやはり聞き返したくなるほどのパワーワードのようだ。

藤丸立香が同じ立場だったら聞き返しただろう。もしくは聞くのを拒絶したかもしれない。

 

「って、あれは…」

2人は会話をしながら城の庭を歩いているとある人物たちを見つける。

 

 

「あうぅ~~~~~~~」

 

声の調子で頭の抱える様が容易に想像できる。実際に頭を抱えているのだろう。

 

「はうぅぅ~~~~ん」

「そんな変な呻き声を出したところで何も変わらんぞ」

「だってだって~~」

「ううーん。アタシもこれは難しいわ」

「だよね三蔵ちゃん!!」

「お主は僧侶なんじゃから政事には関係ないじゃろ」

 

桃香が庭のテーブルに座っていたのだ。傍らに硯、手に筆、更に分厚い本を積んでいる。

さらにそのテーブルには武則天と玄奘三蔵もいた。

 

「あ、ご主人様」

「あ、弟子ー!!」

「マスターか」

 

桃香たちが北郷一刀たちに気付いたようで声を掛けてくれる。

 

「何してるの。勉強?」

「これは~…」

 

歯切れが悪く、目を伏せて筆を置いた。

 

「字の練習?」

「わたし、そんなに字は汚くないもん。もっとちゃんとしたお勉強!!」

 

北郷一刀は分かっていたがちょっと天然気味な桃香にはからかいたくなってしまうのだ。

 

「歴史のこととか、政治体系のこととか、いくら勉強しても全然おわんなくて。場所によって税のかけ方とか戸嵩の計算とかもう全然違うんだもん。大変過ぎるよ~」

「で、唸っているこやつを見つけて暇つぶしに妾自らが教えておるのじゃ」

「アタシは付き添い!!」

 

これはまた珍しい組み合わせである。

武則天に関しては本当に暇つぶし感覚なのだろう。普通ならばこんな事はしない。だが桃香はある意味幸運だ。世界は違えど中国史上唯一の女帝である武則天から勉強を見てもらえるなんて絶対に無いのだから。

彼女は正しい治世や皇帝としての矜持の為には極めて積極的に行動しているため、今の桃香に教えられる部分はいくつもある。

桃香は皇帝ではないが治める勉強をしているのならば武則天のしていた治世が参考になるはずなのだ。

 

「ふーやーちゃんが先生か」

「妾ならば人にものを教えるなぞ簡単じゃ。まあ教わっている側の頭はどうにもできんがな」

 

もともと桃香は政治体系などは得意ではないのか、いつもツヤツヤしている頬は張りを失って五歳は老けて見えるほどである。

 

「むかし白蓮ちゃんと一緒に風鈴先生のところでやったはずなんだけど。こんなはずじゃないのになぁ」

「あー分かる分かる。俺もテスト…試験が終わったらその瞬間に全部忘れてたし」

「ご主人様もなんだ。一緒だね!!」

 

喜んではいけない部分である。

 

「それは俺も同意だ。試験終わると勉強した事がいっきに頭から消えるよね」

「だよな」

 

藤丸立香も同意してしまう。

 

「ご主人様はじゅよーときょーきゅーとか、かへーの流れとか分かる?」

「…今、言った言葉くらいなら何とか」

 

桃香の瞳に星が見えた。

 

「分かるだけじゃなくて、あんまり頭がよくないわたしに分かりやすくかみ砕いて説明も出来る?」

「わからん」

「すっごくまじめに頑張るからぁ…お願い先生。力を貸して」

 

先生と初めて言われて嬉しいような妙な気持ちなる北郷一刀。それに対して彼女は手で仰ぐように何度もひれ伏した。

 

「おい、妾が直々に教えてやっておるのに…」

「あ、あ、違います。わたしだけじゃ分からないから武則天さんの説明をご主人様と一緒に考えて教えてもらおうと思っただけです~!!」

 

「…まあ、良いじゃろう」

 

武則天がいつの間にか出した鞭を静かにしまう。

 

「ふーやーちゃん。体罰はダメだよ」

「そうよ。御仏的に駄目だと思うわ」

「体罰ではない。指導じゃ」

 

なかなかスパルタな指導のようだ。

 

「俺もそんなに専門的なことはわからないぞ」

「謙遜しなくていいからぁ…それともわたしなんかにはもったなくて知識を分け与えてなんてあげられないの?」

 

哀願から苛立ちへ。彼女の機嫌は分かりやすい変化を見せている。

 

「わ、分かった。俺に出来る限りの協力はするよ」

「大好き!!」

 

歓声と共に握られた北郷一刀の手はこの一秒で汗まみれになるのであった。

 

「大好きとか、冗談はいいから…ほ、ほら勉強だろ?」

「本当に大好きだし、感謝でいっぱいなの」

 

彼女は北郷一刀の手を胸に引き寄せる。

その様子を藤丸立香はニヤニヤしながら見てしまう。

 

「ついでじゃ。マスターも一緒に勉強を見てやる」

「俺も!?」

「うむ、いずれは共同統治者の席をマスターに……ええい、お主もマスターならば知識を増やすのじゃ!!」

 

そのままもう1つのイスに座らされて藤丸立香の膝の上に座る武則天。その様子を見て今度は北郷一刀がニヤニヤした。

 

「隣に来て。聞きたい事はい~っぱいあるの」

「イス一個しかないじゃん」

「どうぞ」

 

お尻を動かしてイスを半分譲ってくれる素振り。

 

「……気が散るから、こうでいい」

「何で?」

 

それは彼にとって刺激が強すぎるからである。そのまま彼女の側面に回って屈む。

 

「変なの。隣からだと文字も読み辛いと思うのに」

 

もしも彼女が分かって言っているのならば計算された悪女だ。そして武則天はマスターとくっつくためにイスに座らせて何事も無く膝に乗ったのは堂々としている。

藤丸立香に関してはいつもの事らしいので冷静だが北郷一刀はそうでもないようなので集中していた。スレンダーなのに豊かな胸元とか淡いピンク色に咲いた唇とか考えてはいけないと彼は冷静になろうとしている。

 

「聞いてるご主人様?」

「うん!!」

 

空返事である。だが教える身となった今はちゃんと教えねばならない。

そもそも暇つぶしとはいえ、中国史上初の女帝から教えてもらえるというのは貴重な体験である。そして劉備に勉強を教えるというのも貴重な体験だ。

北郷一刀は武則天の説明を聞いて桃香が悩みだしたら補足するように説明していった。

 

「そうそう。だからね、ここで言う経済の流れは生産と供給のことを言うんだ」

「生産はお米とかのことでしょ?」

「そうだな。米とか野菜とかの生産者がいて、それを売る人がいる」

「うんうん」

 

彼女は飲み込みの良い生徒ではないが熱心な聴客ではある。

 

「ーーとかがあくまで経済上の連鎖の一環。そうやって需要と供給を満たし合いながら経済は輪を作ってるんだ」

「なるほどー」

「こういうものを上手く調整して管理するのが為政者の仕事だ」

「へー…」

 

今の段階でなんとなく分かっていれば上々だ。

彼女は一回の説明で全て分かってしまう程の天才ではない。ならばこれからも勉強をしていけばいいのだ。

 

「桃香ならちゃんと政治が出来るよ」

 

混乱させてばかりではしょうがない。頃合いを見て腰を上げた。

 

「ほう。お主は政治体系を少しは分かっておるな」

「そ、そうか?」

「うむ。一般人でありながらある程度は知識を持ってるおるのな」

 

偉人に少しでも褒められると嬉しいものだ。その気持ちは藤丸立香も分かる。特異点攻略時に英霊たちから褒められたり、認められた時はとても気持ちが溢れた程である。

最も北郷一刀としては中国史上初の女帝が幼さが抜けていない女の子だとは思いもしなかったものである。しかし、いずれ武則天の皇帝としての姿を見ればその認識は改める事になる。

 

「はー…それにしても武則天さんって本当に頭が良いんだね。わたしなんかよりも歳が下なのに……自信なくしちゃうなぁ」

「ふん、歳は関係ない。妾とお主では努力の密度が違うわ」

「やっぱ頑張んないと駄目ってことか~」

「そうじゃ。妾がここまで至れたのは全て妾の力じゃ。惜しみなく努力した結果じゃ」

 

武則天の言葉からは何故か重みを感じた桃香。それは武則天の本当の正体が分からないからだ。

もしも武則天の正体を知れば彼女の言葉の重みの本当の意味が分かるのである。

 

(武則天さんって何者なんだろう。彼女もご主人様や藤丸さんと同じ天の国出身なんだよね。わたしでも彼女からは何処か気品さを感じるから…実は天の都の貴族だったりするのかな?)

 

武則天と話をしていて桃香が感じたのは気品さと強い覇気だ。幼さも感じるのだがまるで曹操と対面した時と錯覚してしまう程であったのだ。

 

(ふむ。この劉備…甘すぎる夢想家じゃのう。しかし大切な人々を思いやる優しさの心はそこの僧侶と引けを取らぬな)

 

同じく桃香と話していた武則天も彼女の人間性は少しは理解した。大陸を平和にして全ての人々を笑顔にしたい等と言う夢想家であるがその願いは本物。

本気で心の底から叶えようとしているのだ。そういう人間は一途で真っすぐだ。

似たような人物ならば横にいる。その人物こそが玄奘三蔵である。彼女の旅路も普通は不可能と言われ自ら死にに行くようなものであったのに生きて偉業を成し遂げたのである。

桃香と玄奘三蔵は絶対に折れない精神を持っているのだ。

今の桃香はまだ未熟だが精神は芯の通った人物だ。玄奘三蔵はドジではあるが諦めない精神を持っている。

何処かに似ている2人。ならばこれから先、桃香は何かを成し遂げるかもしれない。

 

(ま、あの劉備じゃしな)

 

藤丸立香や武則天の世界の劉備ではないが桃香はあの劉備であることは間違いない。彼女はこれからきっと化ける。

 

「桃香は人の話をちゃんと聞く子だよ。ならさ、周りが助けてくれるよ。愛紗とかいろいろな」

「それちょっと無責任かも…」

「じゃあ、自分で全部やるのか。政治も戦争も?」

「……あ」

 

手応えがあった。経済云々なんかよりもよっぽど大切な話が出来たつもりだ。

 

「自分1人でやるならば止めはせんがな。じゃが、やはり誰かしら隣にいるのは良いものじゃ。今の妾のようにな」

 

ナデナデと頭を撫でてくれる藤丸立香を見ながら目を細める武則天。

 

「そっか、そうだよね。ほんとだ」

 

意味を理解したのか桃香はふにゃっとした笑顔をする。

 

「だから勉強しないでいいってわけではないとおもうけど…うん、ご主人様にそう言ってもらえたら凄く楽になった」

「そりゃよかった」

「うん、わたしお友達をたくさん作る。わたしに足りないたくさんのものを持ってて、優しくて、わたしの力になってくれる人を。需要と供給。その代わり、わたしもその人たちに足りない何かになるね!!」

「ええ、その意気よ!!」

 

玄奘三蔵も多くの仲間をつくるのは賛成のようだ。

 

「大切な仲間がたくさんいる。それは良いことだわ。アタシも大切な仲間がいたからこそ過酷な旅を成し遂げたんだから!!」

 

彼女の旅路もたった1人というわけではない。玄奘三蔵にはかけがえのない仲間がおり、力を合わせて天竺まで至ったのである。

 

(彼女があの三蔵法師なんだ)

(うん。その三蔵ちゃん)

 

北郷一刀は藤丸立香の仲間の中で一二を争う程、偉人として玄奘三蔵を知っている。日本人にとって玄奘三蔵と諸葛孔明の名前は9割は知っている可能性が高いのだ。

特に西遊記という物語は子供の時に絵本で聞かしてもらうこともあるから知っている可能性が高いのだ。北郷一刀も西遊記の絵本は読み聞かせてもらった事がある。更には西遊記は日本ではドラマにもなっているので見たものは多いだろう。

 

(確か三蔵法師って実は男だったよな)

(そうなんだけど…そこはもう聞くのは野暮だよね)

(だな)

 

三国志の武将たちが全員女性という時点で英雄や偉人が実は女性だったという驚きはすぐに飲み込めるようになった。最も西遊記のドラマの影響で玄奘三蔵が女性であっても特に違和感は無いのだが。

貂蝉のように逆パターンはより衝撃がデカすぎるのだがそれはまた別の話である。

 

(やっぱ孫悟空とかいるのか?)

(いる)

(やっぱか!!)

 

やはり西遊記は心躍る冒険譚のようなもの。北郷一刀がワクワクするのは当然である。

その登場人物の玄奘三蔵が目の前にいる。時間がある時に彼女から旅路について聞いてみたいと思うのであった。

 

(しかし三蔵さんは僧侶で聖職者なんだよな)

(そうだよ)

(…あの恰好はその)

(分かるぞ北郷)

 

彼女は水着と間違われる程に露出度の高い袈裟を纏っており、更にはけしからんものをもっているほどだ。

北郷一刀が想像している僧侶で聖職者のイメージと違うのである。その違うギャップさで驚いている。

 

(……うーむ)

(煩悩退散だよ北郷)

(いやいや、俺は変な事は考えてないから!?)

(大丈夫。俺も煩悩退散してるから)

(藤丸…お前)

 

ガッシリと握手する藤丸立香と北郷一刀であった。

 

「何で急に藤丸さんと握手したのご主人様?」

「仲が良いのは良いことね!!」

 

桃香と玄奘三蔵は男の友情にはいろいろあるのはまだ分からない。

藤丸立香の膝の上に座っていた武則天がその後に抓ってきたのには痛かった。

閑話休題。

 

「桃香ちゃんも自分にとってかけがえのない仲間がいるはずよ。その仲間を大切に想うことね」

「うん、そうだね三蔵ちゃん。それにもう大切な人たちはいるんだ!!」

 

にっこりと笑う桃香。これから桃香の周りに多くの人が集まる。その人たちをどう想うかは彼女次第である。

 

「これからもっと頑張るよご主人様!!」

「ああ、そうだな」

 

頭の撫でて笑い合うと晴れやかな気持ちになる。

 

「俺も桃香にとって足りない何かになれるように頑張るよ」

「じゃあ、わたしもご主人様の大切にしてね」

 

なかなかこっぱずかしい台詞で言い返してくる桃香に北郷一刀は少しだけ照れてしまうが顔に出さないように平然さを保つのであった。

 

「了~解、それじゃあな」

「あ、行っちゃうの?」

「うん。またな」

「じゃあまたね3人とも」

 

北郷一刀と藤丸立香は手を振ってその場を後にした。

 

「了解だって…あっさり流されちゃった。ちょっと勇気出したのになぁ」

 

北郷一刀は不思議な人物だ。桃香は自分には持ってないものをたくさんを持っていると思っているからだ。

そこが彼女が惹かれている部分でもある。

 

「なのにちっとも飾らない……なんだろご主人様のことを考えてたらドキドキしてきちゃった」

 

今の彼女の表情を見れば誰でも察する事が出来る。

 

(うんうん恋する乙女ね。好きな人が出来るのは良いことね!!)

(劉備が恋する乙女か。不思議なものじゃのう。まあカルデアにいる英霊たちと比べたらそうでもないか?)

 

桃香はあの劉備だ。だからといって恋をする事は変なことではない。好きな人がいるからこそ強くなる事もあるものだ。

 

「はにゃ~ん、お勉強が手につかないよう」

 

恋をする事で逆に何も出来なくなってしまうなんてこともあるが、それはそれである。

 

「じゃがまだ勉強は終わりじゃないぞ。まだ妾は暇じゃし」

「え…まだ終わりじゃないの。ふえぇえ~~~ん」

「アタシもそろそろお暇するわ」

「待ってよ三蔵ちゃ~ん」

 

 

236

 

 

もう昼時。お腹がくうくう鳴ってしまう。

そんな時に美味しい匂いが漂ってきたら無条件で釣られてしまうのはしょうがないだろう。

 

「ずるるる~~~~。これは豚だけじゃない、鶏ガラとの合わせダシか!?」

「お若いのに只者じゃありやせんね、お客さん」

 

この時代にして、この気配り。中国四千年は伊達ではない。

美味しいラーメンを堪能するしかないのであった。

 

「うん。美味しい」

「だな。流石に新宿のラーメンやカルデアの料理長のラーメンに比べると劣るかもしれねえがこの時代でこの美味しさはなかなかなもんだ」

 

現代のラーメンと過去のラーメンを比べれば普通に考えて現代のラーメンの方が美味しいに決まっている。それは知識や調理器具に調味料に食材が潤っているからである。

それでも美味いというのは店長の腕が高いからだ。

 

「もう一杯おかわりしようかねぇ」

 

今日は藤丸立香と北郷一刀の2人組に加えて燕青も同行してラーメンを食べていた。

彼らは街の警邏をしていてお腹が空いたから昼飯を食べているのだ。『腹が減っては戦が出来ぬ』なんて言葉があるほどで、腹が減っては仕事も出来ない。

 

「それにしてもあなたがあの中国四大奇書『水滸伝』に出てくる燕青なのか」

「おう、そうだぜ」

 

燕青を見て思ったのが伊達男。鍛え抜かれた肉体に爽やかなイケメンの長身。間違いなくモテると思う。

同姓である北郷一刀から見ても見惚れてしまうほどの伊達男なのである。

 

「はー…カッコイイ」

「でしょ。燕青はカッコイイんだ」

「はっはっは。嬉しいねえ」

 

2人に褒められて悪い気はしない。特に主である藤丸立香から褒められるのはウキウキするほどだ。

 

「でも…燕青って架空の人物だよな?」

 

『水滸伝』に出てくる燕青は架空の人物。存在しない者が存在しているというのが不思議な部分なのだ。

カルデアは過去の英雄や偉人たちを召喚して力を貸してもらっているというのは説明を受けた。しかし存在した者たちを呼んでいるのだ。

存在していない者をどうやって召喚したのか分からない。

 

「あー…燕青は特殊なケースなんだ」

「特殊?」

「うん。そこは機密だから教えられないけどね」

 

カルデアが今まで召喚してきた英霊は本人だったり、モデルとなった人物だったりなどがあったが燕青は本当に架空の存在として記録されているのだ。

もう1つ特別なケースの英霊がおり、それはポール・バニヤンだ。燕青とポール・バニヤンがカルデアでも稀なケースの英霊である。

 

「カルデアは架空の存在も呼べるんだな」

「まあ、本当に稀だよ。普通はあり得ないことだからね」

「そういうこった」

「「「ずるるるるぅ~~~~」」」

 

そういって3人同時にラーメンを啜るのであった。

 

「夢中で召し上がっていただけるのは嬉しいんですがね…お客さん、腰のものには気をつけてくださいよ」

「と、いうと?」

 

最近はひったくりが多いらしい。この人込みに紛られてしまえば取り返すのは難しい。

北郷一刀の持っている剣が盗まれるのは困る。何故なら倹約、節制が北郷一刀と桃香たちの合言葉であるからだ。

剣を盗まれたなんて事になったら憤怒する愛紗を想像してしまうのであった。

 

「分かった。気をつけっ…!?」

 

ぞくぞくと視線を感じた。とても強い気を放つ者が北郷一刀たちを見ていると分かってしまうほどだ。

チラリと藤丸立香と燕青を見ると彼らも謎の気配を察知しているのか汗を垂らしていた。しかし危機を感じているというよりも微妙そうな顔をしている。

 

「あー…この気配は低い方の面倒事だな」

「低いほうなんだ」

「たぶんすぐ解決するレベルだぜ」

「なるほど」

 

更には近づいてくるのも分かってしまう。そしておそるおそる視線の元に振り返った。

 

「…だらー」

 

滝のような涎を垂らした鈴々がいた。

 

「にゃー…ご飯なのだ。いいなー」

「うへぇ…」

 

凄い涎を見せつけられてしまう。

そのままへなへなと今にも崩れ落ちそうな女の子こそが天下に名を轟かせる燕人・張飛その人である。

 

「お兄ちゃんたちだけ、ごはんー…ラーメンー…」

 

念を押しておくと八百八屍将軍・張飛その人だ。

どこからどう見ても子供にしか見えないがあの張飛なのである。

 

「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないのだ。お姉ちゃんが街の警邏に行ってるからお兄ちゃんたちの手伝いに行ってこいって…」

「なるほど」

 

桃香は心配性なのか、十分なメンバーであるのにも関わらず鈴々を向かわせたようだ。

 

「鈴々、お昼も食べずに飛んできた」

「ふむ」

「お昼の時間だったのに、お昼も食べずに飛んできたのだ」

「わかった、わかった」

 

鈴々の内心はすぐに分かった。

彼女もラーメンを食べたいようである。

 

「おいでよ。せっかくだから一緒に食べよう。いいよな藤丸、燕青」

「いいよ」

「おう」

「いいの!?」

「悪いわけ無いだろ。おなかいっぱいご飯を食べて午後は一緒に警邏の仕事を頑張ろうな」

「妙案なのだ!!」

 

鈴々は北郷一刀の隣に座るなり、両手でテーブルをばちばちと叩いて可愛らしく催促を始める。やはりどこからどう見ても子供である。

 

「早く、早くっ!!」

「ご注文は何になさいやすか、可愛い将軍様」

「うむ。にんにくラーメンっ、チャーシューと麺は大盛りで…あ、ネギもどっさりなのだ」

「おおー全力だなぁ」

 

大盛り過ぎる注文に燕青は微笑。

 

「たくさん食べないと力が出ないのだ」

「ごもっともだな」

 

男の隣で躊躇いなく、にんにくをチョイス出来るのは流石である。それはそれで好感が持てるものだ。

 

「おじさん、俺も替え玉」

「あ、俺も」

「俺も頼むわ」

 

見せつけられたら絶対にお腹が空きそうなので先手を打っておく3人。

 

「あー、違うのだ。それだとちょっぴり盛りなの。大盛りはもっと麺をどっさりで肉も山になる感じでなのだ」

「どれだけ食う気なんだ」

「もっと、どさーっと入れて。どさーっと!!」

 

普通の人の胃ではとても収まりきらない量をご所望ということだけは分かった。

それからしばらくして出てきたのが超巨大すぎるにんにくラーメンであった。

 

「きたのだーーーーーーーー!!」

「うわ、びっくりした」

 

道行く人がびっくりして振り返るほどの大音量は流石の張翼徳。

 

「こ、これカロリーどれくらいあるんだろう?」

「つーかどう見てもこいつの胃に入らない量だろ」

 

何処からどう見ても鈴々の胃の中に収まる量ではない。そもそもラーメンの大きさや量が鈴々より大きい。

 

「がぶっ、ずるるるるるるーーーー!!」

 

待ちきれないといったばかりに鈴々は凄い勢いで超巨大にんにくラーメンを食べ始めた。

もしも鈴々が藤丸立香たちの世界にいたら大食いタレントでテレビに出れるかもしれない。

 

「ンマーイ。このチャーシューは極上なのだ。口の中でとろっととろけるのだ」

「あ、それ思った。美味いよな」

「はふはふ、もぐ…これじゃ足りないのだ。すぐなくなっひゃう」

 

その小さな身体でこれだけ食べるってことだけで凄いが、食べ方を見ていて気持ちがいいものだ。

彼女の食べっぷりはまさにすがすがしいのだ。

 

「もぐ、もぐもぐっ、はふ。ずずぅ~~~~」

 

本当に美味しそうに味わっては合間にほにゃあと笑顔を浮かべている。

 

「こんなに美味しいラーメンは久しぶりすぎるのだ!!」

「ははは、恐れ入りやす」

 

店長も美味しいと褒められて嬉しいのかニッカリと笑う。

 

「あぐあぐあぐ、ずるるぅ~……はふはふはふ、すぐなくなっちゃうのだ」

 

おかわりの替え玉を食べていたが箸を止めて鈴々の食いっぷりに見入ってしまう。

気が付くとちょっとした行列のギャラリーがついていた。これは彼女の食いっぷりに魅せられた人々だ。何故か分からないが大食いをしていると周りに人が集まってくる。

凄い汗を垂らしてもガツガツを食っている。熱いのをはふはふしながら食べるのがラーメンの美味しい食べ方と鈴々の談。

あまりにも美味しそうに食べているからか、見物人たちが我慢できなくなり注文してきた。

 

「いや~ありがてえなあ」

 

これには店主もホクホクとした顔をしてしまう。

 

「はふはふはふはふ!!」

「衰えないなぁ食欲。早食いじゃないんだから、もっとゆっくりでいいぞ」

「熱いうちに食べるのが美味いのだ」

「それは分かるけども」

「ずるるるぅ~~」

「それにしても今更だけど鈴々って箸の持ち方おかしくないか?」

 

よく見ると高速回転していた右手は止まると完全にグーの形。

 

「箸それだと上手くつまめないだろ」

「こうやって食べるのだ」

 

掻き込んで食べるのは散々見ている。

 

「ずずずぅ~~」

「こら、話は終わりみたいな感じで食事に戻らないの。ちゃんと箸を使えた方が美味いだろ。ほら、試してみて」

 

そう言って鈴々の鼻先で箸を閉じたり開いたりして見せる。

 

「いいの。お箸も自分が一番使いやすいように使うのが一番美味しいのだ」

「そうか?」

「そうなの!!」

 

鈴々らしいものである。

何に対しても既存のルールに囚われず、自分の信念を貫くようだ。

食事に対しても戦いに対しても彼女には貫くべき信念は決まっているのである。

 

(面白い嬢ちゃんだな)

 

彼女の人物像は燕青にとって嫌いではない。寧ろ彼の昔の仲間に鈴々に似たような人物がいたかもしれないのか、燕青は彼女を見て昔の仲間を思い出していた。

藤丸立香も燕青と鈴々は性格上合いそうだと思ってしまう。最も彼と彼女の進む信念に関しては合うかどうかは分からないが。

皆は箸のことは諦めて食事を楽しむ鈴々を眺めるのであった。

 

「もぐもぐもぐもぐ、ずるるぅ、ふうぅぅ~~~」

「本当によく食べるね」

「ああ。鈴々はよく食べるよ」

 

本当によく食べる女の子だ。だが彼女は食欲旺盛で元気な女の子ではない。

彼女こそがあの張飛なのである。

 

「こんな女の子が三国志の張飛か」

「女性だったという点はもう慣れたけど…特に小さい女の子ってのは驚いたよ」

 

ゲームや漫画の影響で張飛のイメージは大柄で髭を生やした筋骨隆々の強き漢だ。しかし目の前にいる張飛は小さい可愛い女の子なのである。

力が強いというのはイメージ通りではある。こんな小柄な腕で彼女は蛇矛を振り回すのだから。

小さくても強い。それはカルデアでもよく知っている藤丸立香だ。普通に考えて体格さで有利不利を考えるが、鈴々やカルデアの子供チームによってその考えは改めさせられる。

 

「こんなに小さいのに…俺、絶対に勝てないな」

「それは俺もだ藤丸」

 

小さい子に守られるというのは普通に男のプライド的にどうかと思うが、藤丸立香も北郷一刀も今までの旅路で慣れてしまったのだ。それは自分の弱さを認めているからである。

 

「大丈夫だ。自分の弱さを認めるのも強さって言うしな。なあ藤丸!!」

「俺、けっこう女性にお姫様抱っこされるんだけど…」

「それは無いわ」

「いや、北郷もきっとこれから誰かにお姫様抱っこされるよ」

「それは無い」

「たぶん北郷も何かで吹き飛んで誰かにお姫様抱っこされるね。俺がそうだったんだし!!」

「俺はそれより藤丸が何で吹き飛んだのか聞きたいんだが」

 

北郷一刀も藤丸立香も強い女の子に守られる系男子である。

 

「まあ、話を戻すけど英雄や偉人が実は小さい子だったなんてのはカルデアでもあるからな」

「へー…カルデアだっけ。そっちでも鈴々みたいなケースがあるんだ」

「うん。ジャック・ザ・リッパーとかだね。俺、ジャックからお母さんって呼ばれてる」

「ちょっと待て。それ凄く気になるんだけど!?」

 

しばらくして鈴々は汁まで綺麗に飲み干すと満足げな息をついた。

 

「ごちそうさまか?」

「………………」

「まさかもう一杯なんて言い出す気じゃないだろうなぁ?」

「そんなわけないのだ」

 

流石にあの超大盛りすぎるラーメンを食べればもう何も胃には入らないはずだ。

 

「そっか」

「ラーメンばっかり食べてると飽きるのだ。他になんかないの、おっちゃん?」

「まだ食えるの!?」

 

鈴々の胃にはまだまだ入るようだ。正直あの超大盛りすぎるラーメンを食べれば普通は胃がはち切れんばかりになっているはずなのだ。

 

「へ、へい。点心をお出ししていますが」

「点心は大好きなのだ。カゴにいっぱい持ってきて」

 

まさかの言葉に店内にどよめきが起きた。そして彼女は追加の点心も全てたいらげていった。

 

「…人体の奇跡を見た気がする」

「あの量がどうやったらあの小さな身体に入るんだ?」

 

超大盛過ぎるラーメンとカゴいっぱいの点心。鈴々の胃の体積と食べた量を比べて疑問に思うことがある。

燕青が言っていたが鈴々の胃の大きさに比較すると食べた量が収まるのはおかしい。

 

「めっちゃ鈴々の腹が膨れてる」

「うー…生まれるのだ」

 

本当におめでたのように腹が膨れていた。

 

「まあ、すぐに消化するから元に戻るのだ」

 

すぐに消化できる量には思えないのだが、彼女はいくら食べても太らないとか食べたカロリーを全て力に変えるとか、そういう体質の人間なのかもしれない。

そんな夢みたいな体質を持つ人間は必ず誰かしらに羨まれる。恐らく桃香たちやカルデアにいる女性陣も羨む。

英霊は身体の変化は無いと言っているが水着英霊の存在で肉体の変化が無いというのが分からない位置に来ている。

 

「ふわぁ…眠たいのだ」

 

あれだけの量を食べれば眠たくなるのは分かる。

 

「鈴々、警邏は?」

「お兄ちゃん背中~」

 

愛紗が見たら絶対に説教が始まる光景であった。

 

「ったくしょうがないな鈴々は」

 

北郷一刀は優しく甘いのか鈴々をおんぶをするのであった。

 

「自由奔放な将軍様だなぁ」

「だね」

「これが鈴々なんだよ」

 

鈴々は自由奔放で天真爛漫。自分の信念を持って桃香たちのために戦う人物だ。迷いなんか無く一直線に進む。

 

「この嬢ちゃんは怖い者知らずだ。難しい事を考えずに突き進む」

「燕青?」

「それはそれで強いが…何も知らないで進むってはの危険な事でもあるんだぜ」

 

燕青の呟いた言葉の意味が何か分かった北郷一刀。

鈴々は強い戦士であるが精神はまだ幼い。幼い精神には現実の厳しさにいずれぶつかる時があるものだ。

いずれ自分で乗り越える時が来るが、それまでは周囲の者が教える時も必要なのである。

 

「…俺は鈴々に守られてばっかだけど逆に鈴々の力になるように頑張ってるつもりさ」

「ふーん。まあ、それで良いんじゃねえか」

 

何となく呟いた燕青。普段ならばこんな事を言うことなんて滅多にないが本当につい呟いたのである。

それは鈴々を見て昔の仲間を思い出したからかもしれない。柄にもなく言った言葉に自分自身も「何言ってるんだ俺?」と思うのであった。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もまた未定ですが…自分としては1週間後か2週間後か。

今回は日常回でした。
劉備陣とカルデア陣の絡みの話です。
北郷一刀も藤丸立香からカルデアの英霊たちを聞いてパンク寸前です。でもまだまだこれからです。

燕青が言う水滸伝の仲間のほとんどがバーサーカーって言ってましたが、鈴々も何となく自分の主観ですが彼女と似たようなのが水滸伝にいそうなので今回のような話になりました。
実際は分かりませんがねー。

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