Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
FGOではバトルインニューヨークが始まりましたね。
ボックスを回しまくってます!!
まさかドゥムジとシドゥリさんがねえ。嬉しい登場です。
物語はタイトル通り、各諸侯が集まります。
ここから恋姫キャラがいっきに登場しますよ!!
様々な視点で物語が展開されていきます。
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最近は悪夢にうなされる。そのせいで就寝するのも億劫になってしまう。
何時から悪夢を見始めたのはもう分からない。内容はうろ覚えで鮮明に覚えていないが恨みつらみの言葉を言われるような悪夢だった気がする。
そんな悪夢を見るようになったのはやはり大粛清を実行したからかもしれない。しかし大粛清を決行しようと決めたの彼女自身だ。
「月?」
「なに詠ちゃん?」
「最近、寝れてないんじゃないの。無理してない?」
大切な友人が自分を心配してくれている。悪夢なんかで親友を困らせたくないために彼女はやせ我慢をするしかなかった。
「大丈夫だよ詠ちゃん」
「そう…でも無理しないでね。何かあったらすぐに言ってよね」
「ありがとう詠ちゃん」
詠はとても月の事を大切に想ってくれている。彼女は月のためにここまで付いてきてくれたのだ。
月も詠のために無茶や我慢くらい出来るものである。
「…官僚の粛清はもう終わるわ」
「そう、やっとなんだね」
都で不正を働いていた官の粛清はもうすぐ終わる。これでやっと朝廷も綺麗になるというものだ。
官僚の大粛清。心優しき月がよく覚悟を決めて実行したものである。これも全ては献帝のためだ。
霊帝は天子の座から降りて献帝に譲った。その為に前までの朝廷は魑魅魍魎や悪い血が流れまくりだったのだ。
それではマズイと思って月は非情になって朝廷の悪いものを全て掃除をしたのである。
「いずれ白丹さまに綺麗になった国をお返ししなければ」
月は優しき心を持っておきながら非情な覚悟も持って朝廷に蔓延る悪いモノを消して綺麗にしていく。
血みどろながらも順調に進んでいるがその先には彼女に大きなしっぺ返しとも言える事件が待つのであった。それこそが反董卓連合である。
247
反董卓連合に参加する事を決めた桃香たち。
「藤丸たちにも今回の事を話してみないか?」
北郷一刀の一言で桃香は藤丸立香たちにも力を貸してもらえないか相談することにしたのだ。
多くの諸侯が集まる中で自分たちだけが董卓を助ける行動をするのは実際のところ無茶もいいとこだ。だからこそ仲間が多い方が良い。
藤丸立香たちの仲間には実力者が多い。愛紗や鈴々も彼らの実力は認めている。もしも今回の戦いに力を貸してもらえるのならば戦力的にもとても助かるというもの。
桃香たちはすぐに藤丸立香たちを呼んで反董卓連合での参加及び目的を話すのであった。
「――ということなんです。力を貸してくれるでしょうか?」
「いいよ」
「返事が早い!?」
即答であった。
「え、あの…頼んでおいて何だけど即答すぎないですか?」
「こっちも反董卓連合は気になるからね」
「気になる?」
「うん。もしかしたら于吉が何か仕込んでいるかもしれないからね」
「それって!?」
于吉という名前に桃香の目が見開いた。于吉は大陸を混乱に招く方士として聞いている。ならばそんな方士が反董卓連合で何か仕込んでいると聞いたら気が気でない。
こうなると反董卓連合での目的は増える。董卓を助けるというのと于吉を捕まえるという2つだ。
董卓を助けたい、大陸の混乱を招く于吉も捕まえたい。だがそれは反董卓連合内で動くには難しい。そもそも于吉が反董卓連合で何かしら策を講じていたら何が起こるか分かったものではない。
「もしかしたら于吉が何もしてこないかもしれないけど…でも可能性があるなら行く。だから俺らも桃香さんたちを手伝うよ」
「お前たちが董卓を助けたいというのは分かった。だが我々は于吉の捕縛を優先させてもらうぞ」
藤丸立香たちは于吉がいる可能性に賭けて反董卓連合に参加することを決めた。
「うん。ありがとうございます!!」
「董卓さんを助けるのも勿論、力を貸すよ」
董卓もとい月は藤丸立香たちとは知り合いだ。真名も預かる程の仲なのである。
だからこそ洛陽で起きている大粛清や反董卓連合が決まった時は心配した。
月はあの董卓だ。世界が違えど董卓の運命は三国志演義に似たルートを辿るのは間違いない。だが劉備である桃香は助けに行くと言っているのだ。
三国志の歴史とどこか違うルートを走っている。これがここ外史という世界なのかもしれない。
外史の管理者である貂蝉たちも今回の事は特に何も言ってこない。反董卓連合で藤丸立香たちカルデア側が参加しても問題無いということだ。
(限度があるけどねん)
(そこは分かっている)
反董卓連合に参加するのは問題無いが限度というものがあるということだ。間違っても藤丸立香たちがこの外史が紡ぐ物語を過剰に壊してはならない。
「表向きには私たちも董卓討伐もとい保護のために力を貸す。だが優先的には于吉を捕まえるからな」
「はい、それは分かってます。本当ならわたしも于吉って人を捕まえる為に力を貸すべきなんですが…」
「桃香さんは董卓さんの方を優先して。もしも于吉がいなければ俺らも董卓さんを助けるのに早く力を貸せるからね」
反董卓連合で藤丸立香たちは表向きには董卓を助ける。裏向きの行動は于吉を捕まえる事に決まった。
「よろしく頼む藤丸」
「ああ。こっちこそよろしく北郷」
藤丸立香たちカルデアは桃香たちと共に反董卓連合に参加することが決定したのであった。
「よろしくお願いしますねみなさん」
(月さん…)
藤丸立香は于吉の策を壊すためだけに反董卓連合に行くわけではない。やはり真名を受け取った間柄として気になるのは当たり前であった。
247
反董卓連合での参加は桃香たちも藤丸立香たちも決まった。しかし参加しない者たちもいる。
まずは天和たち張三姉妹だ。彼女たちは旅芸人であるため反董卓連合という危険な戦に参加する必要性はない。
彼女たちは平原でお留守番である。そして炎蓮であるが、彼女も平原で留守番することになったのだ。彼女の性格上だと反董卓連合に参加しそうであるが参加しない理由があるのだ。
「炎蓮さんは行かないの?」
「行かねえ。そもそも反董卓連合には雪蓮たちも来るんだろ?」
「聞いた話だとそうだね」
朱里と雛里が集めた情報だと反董卓連合に参加する諸侯はいくつか調べ上げている。その中で袁術という軍には孫策という名の人物がいることも調べがついているのだ。
「今は会うつもりはねえよ」
(今は…か)
「そういうてめえはどうなんだよ。てめえだって気まずいんじゃねえか?」
「それは……そうなんだよね」
炎蓮は壮絶な別れ方をし、藤丸立香たちも何も説明できずに雪蓮たちの前から消えてしまった。どちらも会うの気まずいと思っているのだ。
藤丸立香たちは于吉が仕掛けた策があるかもしれないからお留守番ということは出来ない。
「まあ、雪蓮たちの様子を見てきてくれよ」
「分かりました」
「それとオレの事は話すんじゃねえぞ」
「それは分かってますって」
「もし会ったらついでに種を仕込んでこい」
「それは了承しかねる」
相変わらず炎蓮は通常運転である。
張三姉妹と炎蓮は平原に留守番だ。そして華佗も曹操との一件があるから留守番かと思えば彼は一緒に参加するとのこと。
大きな戦があるというのならば患者がいるということだ。助けられる命があるのならば助けたいということである。
貂蝉と卑弥呼は当然ながら着いてくる。彼らも反董卓連合は気になるのだ。彼ら曰く漢女の勘だと反董卓連合では何かが起こるかもしれないということだ。
着々と反董卓連合に向けて藤丸立香たちは準備をこなすのであった。
「ん、誰か来たみたいだ」
しばらくしてから平原に董卓討伐の準備を整えた公孫賛の軍がやってきた。
「「桃香ちゃーん!!」」
更に急に小さな女の子たちが来た。
公孫賛に率いられてきたのは幽州具軍だけではなかったのだ。
急に現れた鈴々に負けないくらいの元気な女の子たちは誰なのか。その説明は北郷一刀がしてくれた。
「誰この子たち?」
「そっか藤丸たちは知らないよな。彼女たちは糜竺と糜芳だ」
桃香たちは彼女たちと面識がある。それも真名を呼び合う程の仲である。
「糜竺と糜芳?」
「彼女たちは三国志では先祖代々からの富豪の家系って言われてるんだ」
「知らなかった」
有名どころの三国志の武将たちは知っているが他となると藤丸立香も自信が無い。
「ねえねえこの人はだれー?」
「電々、雷々、彼は俺と同郷だ」
「て、ことはお兄さんも天の御遣いなのー?」
「まあ、そうなるのかな。藤丸立香です。よろしく」
「よろしくー。糜竺だよ!!」
「糜芳でーす!!」
元気な子たちである。
「徐州軍の将は雷々と電々だけなのか?」
「ううん。美花ちゃんもいるよ?」
「すぐ来ると思うけど…あ、来た来た。美花ちゃん、こっちこっちー!!」
「美花ちゃん、ごあいさつして!!」
「お初にお目にかかります。徐州から参りました。孫乾と申します。主に、徐州軍の実務を取り仕切っております」
今度はメイド風の女性が来た。
三国志の時代でも従女はいるが、ここまでメイド風なのは驚きである。
(メイドだね)
(メイドだな藤丸)
(騎士王の水着メイドとタマモキャットがカルデアにいるなぁ)
(後でそれ詳しく!!)
騎士王で水着でメイドというワードは気になるものだ。タマモキャットというのは少し分からないが。
「皆さま、お気軽に孫乾とお呼びくださいませ」
「あ、はい。よろしくお願いします。劉玄徳です」
「まあ…貴女が劉玄徳さまなのですね」
「え、あ、はい」
孫乾と名乗った女性はどこか意味深で見惚れるようなトロンとした視線を桃香に向けた。
「あ、あの…」
「ああ、申し訳ありません。玄徳さまのお話は雷々さんたちから色々と聞いていたもので」
どこか孫乾の視線が気になった。まるで値踏みするような不躾な感じではないものの、単に噂を聞いて興味があるというわけではない。
「ふふ、私の顔に何か付いていますか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。よろしくお願いします」
「それと…な。桃香、ちょっと人払いできるか?」
「……あ、うん。だったら、わたしのお部屋でいい?」
何やら公孫賛は言いにくそうで大事な話がありそうである。
「なら俺は少し席を外すよ」
「ああ、また後でな藤丸」
桃香の部屋に通されたのは北郷一刀たちと朱里、公孫賛に雷々だけであった。
「あれ、電々は。それにさっきの孫乾って子もいないし」
「ああ…ちょっとな。少し遅れてくる」
人払いって時点で面倒な話は分かる。公孫賛がここまで言いにくそうにしているのは何かあるのかもしれない。
最も桃香たちが話そうとしていた内容もまた面倒なものである。
「それで、白蓮ちゃんのお話って?」
「それなんだけどな。話があるのは私じゃなくて…」
そう言った瞬間に扉が開いた。
「……桃香ちゃん」
「先生!?」
孫乾たちに連れてこられたのは追放刑を受けていた風鈴であった。
「公孫賛、これって!?」
「ごめんなさい。でもどうしても月ちゃんの気持ちが知りたくて…白蓮ちゃんに無理言って、ここまで同行させてもらったの」
「大問題なのは私にだって分かってるよ。でも先生に平伏までされたら嫌だなんて言えないだろ。董卓の件は私もずっと疑問に思ってたしな」
「じゃあ、白蓮ちゃん。もしかして…」
「ああ。私たちは連合に参加するけど…董卓を討伐するんじゃなくて助けるために動く。少なくとも断ずるのはその本心を確かめてからだ」
「それは徐州の方もご御承知なのですか?」
身内も同然の雷々たちはともかくとして孫乾が風鈴を連れてきた時点で承知の上ではある。
「雷々たちも董卓さんは助けたいもん」
「そうそう。徐州の賊の平定も董卓さんがたくさん応援を出してくれたんだよ」
「はい。仲穎殿は徐州にとっても大恩がありますので。この件も踏まえた上で全ての判断は公孫賛さまにお預けしております」
「けど…事が事だからな。反董卓の連合みんなを出し抜こうっていうんだ。一歩間違えたら、連合全員を敵に回す羽目になる。徐州の連中は聞いてなかったで通す建前になってるけど桃香はそれも難しいだろうからな」
確かに3人の関係を少しでも調べられれば公孫賛と風鈴の企みに桃香が無関係とは思われない。
「…だから返答は軍を平原に入れてからで良いと」
「どこに間者がいるかもわかんないし、事前に妙な動きを察知されるわけにもいかなくてな」
今の世の中だと周囲に間者が紛れてもおかしくない。
「出立は明日の朝になるから、それまでに答えてくれれば良い。考える時間が短くて申し訳ないけど…反対なら、せめて私たちを見逃して、この部屋での事を忘れてくれたら助かる。で、桃香の話って何だ。今回の件もあるし、出来る限りの無茶は聞かせてもらうつもりだけど」
「…ううん、もう必要ないよ」
「なに?」
「わたしたちも同じことを白蓮ちゃんにお願いしたかったんだ。みんなに迷惑をかけるのはわかってるけど…わたしたちも董卓さんがどうしてこんな事をしたのか知りたいから」
「そうか。助かる桃香」
「だからわたしも、わたしに出来る事は何でもするからね」
「ありがとう桃香ちゃん」
公孫賛の目的は桃香たちと同じであった。ならば協力しないなんて事はない。寧ろ同じ目的であったことが余程嬉しく、安心してしまう桃香。
「そうだ。風鈴さんには藤丸たちの事を知らせておくべきじゃないか?」
「そうだねご主人様。藤丸さんたちも本当の目的の協力者だしね」
反董卓連合での桃香たちの本当の目的を知るのは上層部だけだ。そして協力者である藤丸立香たちのみ。
風鈴にも真の目的で動く人物たちの事は知っておいた方が良いだろうという北郷一刀の考えだ。確かに誰が協力者で協力者でないか分かれば気を張るのも少なくなる。
「藤丸…?」
風鈴はその名前にどこか聞き覚えがあった。そして会った瞬間にすぐ思い出すのであった。
「呼ばれてきたけど、どうしたの…あ」
「何かあったか…む」
「久しい顔だな」
呼ばれて来たのは藤丸立香に諸葛孔明、荊軻だ。流石に桃香の部屋にぞろぞろとカルデアの仲間全員が入ってこれるはずもなく、手の空いていた3人が来たのだ。
「ふ、藤丸くん!?」
「あれ、盧植さん。何で平原に?」
藤丸立香たちは前に洛陽にいた。更には董卓陣営で短期間であるが組していたのだ。
その短期間の間で実は風鈴と接触していたのだ。最も風鈴はその時、忙しかったのか深くは関わる事は無かったのだが。
「お久しぶりです」
「久しぶりね藤丸くん。それに孔明殿に荊軻殿」
まさかの再会にお互いに驚きである。
「風鈴先生、もしかして藤丸さんの事を知ってるの?」
「ええ、彼らは月ちゃんのところで客将をしていたからね。まさか桃香ちゃんたちのところにいるなんて思いもしなかったわ」
「色々あったんです」
本当に色々あって藤丸立香たちは平原まで到達したのだ。
「え、藤丸って董卓のところに居たのか!?」
「短期間だけね」
「なら教えて欲しいわ。藤丸さんなら何か月ちゃんが変わったのを知ってるかしら?」
風鈴が真剣な目で藤丸立香たちを見る。彼女は何故、月が非情で冷たい雰囲気を纏った人物になったのか気になるのだ。
何があそこまで月を変えてしまったのかが分からないのだ。
「藤丸くん、何か知ってる?」
「……ごめん。分からない」
「…そう」
藤丸立香たちも風鈴が言う非情で冷たい月は知らない。洛陽を出る前の月はそんな冷徹な人間では無かったのだ。
「月さんはそこまで変わったの?」
「藤丸くん月ちゃんの真名を……そう。ええ、月ちゃんはとても冷たい感じだったわ。まるで目的のために無理やり押し通しそうな感じだったわ」
「……取り合えず2択だろうな」
荊軻が指を二本立てる。
「二択?」
「ああ、檄文に書かれているように暴政をしてしまうような欲望に目が眩んだか。もしくは今の漢を建て直すために性急に動いただけか」
「可能性はあるな。どんな人間も変わるものだ。善人から悪人なんて変なことではない」
諸葛孔明も肯定する。人は変わるものだ。善人から悪人へ。もしかしたら悪人から善人へと変わるかもしれない。だからこそ分からないものだ。
風鈴や桃香は月が欲望に目が眩んだなんて思いたくなかった。だからこそ後者の漢を建て直すために性急に動いたという方だと願っている。後者も後者でやり過ぎだとは思っているのだが。
「月ちゃんは何か言ってなかった?」
「確か…今の漢を元に戻すには一度壊さないといけない。その壊す誰かが自分だったって言っていたよ」
「………そうなのね」
今の漢は最早ボロボロである。誰もが漢を建て直さねばならないと思っていた。いずれは誰かがやらねばならないといけなかったのだ。
その誰かが月だったというだけにすぎない。
「彼女は覚悟を決めた目をしていたよ」
藤丸立香は嘘を言っていないと風鈴は分かる。彼からの感じる月のイメージは悪いものではない。
それでも分からない部分はある。やはり月の本心を知るには自分で聞かないといけないようだ。
248
桃香たち平原の軍と幽州、徐州。更に実質勢力下の青州の連合軍は同じ計画を抱えた同盟となって平原を出発した。
「あのね…確かにわたし、出来る事は何でもするって言ったよ」
合流地点へと向かう苑州の街道を進みながら桃香はいきなりそんなぼやきを口にしていた。
「言ったよね?」
「言ったよねえ」
雷々と電々も彼女の言質を取っている。
「そうだけどー!!」
実は徐州軍をいきなり任されたことに桃香は驚きなのだ。まさかの徐州軍の仮とはいえ、大将に任命されたのだ。
「さすがにわたしに出来る範囲を越えてない!?」
「いいんじゃないか。雷々と電々もその方がいいんだよな?」
「うん。いいよー!!」
「桃香ちゃんや愛紗ちゃんが指揮してくれるなら、その方が安心だし。一緒に頑張ろうね!!」
名代である雷々と電々は何も不満はない。名代である彼女たちが認めるのだから徐州軍の兵士たちだって不満はないのだ。
「…だそうです、桃香さま」
「愛紗ちゃんはなんで妙に嬉しそうなの…」
期間限定とはいえ桃香が徐州軍のトップを任された事が愛紗は嬉しいのだ。
「孫乾さんはいいんですか。白蓮ちゃんにお任せするのはわかりますけど、わたしなんて平原の相でしかないんですよ?」
「名代の二人も構わないと言っていますし…何より平原の相、劉玄徳殿の評判は徐州や青州でもいくらでも耳に入ってますから」
突然の任命騒ぎを実質徐州を預かる孫乾も拍子抜けするほどあっさりと認めてくれたのだ。
「今回は共同作戦でもありますし、公孫賛さまとも同門と聞いてます。連携もしやすくなるでしょうから私としては何の異論もありませんわ」
「最初に会った時も雷々たちの隊を使ってくれたでしょ。あんな感じでいいからね!!」
「あうう…」
桃香の言いたいこともわからないわけではない。いくら徐州軍が少ないとはいえ隊商の護衛を率いていた時とは規模が違い過ぎるのだ。
いきなりランクアップでてんやわんやの状態なのだ。
「頑張って桃香ちゃん!!」
「うう、三蔵ちゃん…他人事だと思って~」
三蔵法師は笑顔で応援するが桃香としてはすぐさま徐州軍の大将を降りたいくらいである。
「駄目よそんな不安そうな顔しちゃ。貴女は大将を任されたんだから自信を持たないと。大丈夫よ御仏様が見てるわ!!」
「うう~…」
玄奘三蔵の応援は根拠は無いけど元気は出てきそうではある。それでも今の桃香はいっぱいいっぱいであるのだ。
「大丈夫よ。何とかなるわ!!」
「なんとかなるって~…」
物凄いポジティブでいれば大概何とかなるということだ。実際に玄奘三蔵はその物凄いポジティブ思考で様々な難所をなんとかしてきたのだから嘘を言っていない。
「そなたの場合は幸運もあったからと思うがのう」
隣に歩いていた武則天はそれとなくツッコミを入れた。
「しかし良い経験であろう。そなたはいずれ大将よりも上を目指す事になるのだからな」
「ほえ、武則天さんそれって…」
「そなたの夢は大陸の人々の笑顔と平和なのじゃろう。それはどのように達成させるのじゃ?」
「そ、それは…」
「ただ口にしているだけでは夢想家じゃ。どのようにその願いを叶えるか…そんなのは1つしかなかろうて」
大陸の人々に笑顔と平和を。そんな無理難題過ぎる願いをどのように叶えるかなんて普通に考えれば1つしかない。
「そなたは始皇帝と同じような事をしようとしているもんじゃぞ」
「そんな大それたことなんて!?」
「そうじゃ…よく考えろ」
大陸全ての人々を笑顔にして平和にするなんてまさに始皇帝が大陸を統一するような偉業だ。彼女はただ口にしているだけで自分の願いの重さに気付いていないのだ。
もしくは気付いているが力が無いから心の何処かで自信を持てていないだけなのか。言うだけは簡単だ。しかし実行するのはとても難しい。
「まあ、まずは反董卓連合じゃがな」
「そうですよ桃香さま」
「うう…、そ、そうだよね」
話が逸れたが今は月を助け出すことが最優先だ。武則天が言った言葉は忘れないように桃香は心の奥に仕舞った。
「頑張らなきゃ」
まだ弱いが今の彼女たちは昔と違う。素人だった北郷一刀や桃香だけでなく、専門家の朱里や雛里もいるのだ。前までは『考える力』が足りなかったが今は軍師がいるのだ。
より兵士たちを上手く指揮して戦えるはずなのだ。更にはカルデアの戦力だってあり、より戦えるはずである。
それに北郷一刀は昔と違って朱里たちがいるから作戦を考えなくてもよくなった。しかし桃香の肩に掛かる責任だけは増えているから、そちらのフォローに回っているのだ。
「…ねえねえ。そういえば反董卓連合って他にどういう人が来るのー?」
「地理的な都合もありますから、参加が決まっているのは袁家の縁者の方々が中心のようですが、大陸の有力な諸侯の大半にはお声がけしているようですよ」
「はい。揚州からは袁術さまに孫策さま。今通っている苑州からは州牧の曹操さま。それから荊州や益州、涼州にもお声がけしているそうですわ」
「涼州といえば間違いなく馬騰殿の所だろうな。涼州の防衛もあるだろうし、来るとしたら馬超あたりか…」
「馬超なら事情を話せば力を貸してくれるかもしれないな」
「ああ。あんまり味方を増やすのも危ない気はするんだが…風鈴先生も馬騰殿たちとは面識があるそうだし、相談する価値はあると思ってる」
「馬超さんにも会えるんだ。それはちょっと楽しみかも」
馬超という名前を聞いてピクリとする藤丸立香と諸葛孔明。馬超という名前は蜀の五虎大将軍の1人だ。
仲間には加わっていないようだが既に面識はあるようである。
(馬超までくるのか。もしも会えれば蜀の主要人物には全員会えることになるね)
(そうだな。どんな人物か気になるものだ。女性なのは高確率だろうがな)
(だね孔明先生)
もうこの世界の武将が女性なのは気にしない。そもそもカルデアではよくある事である。
「桃香さま。本来の目的をお忘れになりませんよう」
「わ、分かってるよ…もう」
「いや、桃香の場合、ちょっと忘れてるくらいの方が気付かれにくくて良い可能性もあるぞ」
「白蓮ちゃんまで、みんなひどいよう…!!」
笑いながら行軍している中で話に出ていた馬超たちだが今頃、反董卓連合に合流できなくなっている事になっているとは桃香たちの誰もが予想できなかった。
249
桃香たちは順調に街道を進んで司隷に入り、反董卓連合の集合場所まであとわずかな所まで迫っていた。
「そういえば公孫賛殿。冀州の袁紹とは、一体どういった人物なのです?」
桃香たちは袁紹がどういった人物か分からない。会った事が無いから当然である。実は会う機会はいくつかあったが全て運が悪いのか会えなかったのだ。
「あれ。平原の相になった時、挨拶に行くように言っただろ。もしかして行ってないのか?」
「何度か行ったんだけど、そのたびに賊の平定で出征してたり、体調が悪かったりして会えなかったんだよ。お城の人から伝えておきます…とは言われたけど」
「ああ、そうなったか。まあ、麗羽ならそうだろうなぁ」
袁紹と聞いて藤丸立香は燕青が言っていた特徴を思い出す。確か金髪のクルクルだったはずである。
燕青の顔を見ると「あー、そういえば袁紹ってどんな顔だっけ。目立つ金髪くるくるなのは覚えてんだがなー」なんて思ってそうな感じであった。
「面倒な人なのか?」
「相変わらず人が言いにくい事をはっきり言うなあ北郷は…実際そうなんだけど」
「正直あまり良い噂は聞きませんが」
「多分、その噂通りの人物だと思うぞ」
青州の西の端の平原は北は幽州、西は冀州、南は苑州と交通の要所という側面がある。よって情報や物、人、流民、犯罪者も相当な数が流れてくるのだ。
ということは良い噂も悪い噂もどんどんと入ってくるのだ。その中で悪い噂を聞いてしまえば雛里の不安そうな顔をしてしまうのも分かるもの。
「そもそも、ここまで冀州を通った方が近いのに、わざわざ苑州を回り道して来いって時点でな…」
「曹操さんも連合に参加するというならって通行の許可を出してくれたので楽に通れましたけどね」
「ま、今の冀州を見られたくないんだろ。何でも司隷でやられた軍を再興するのに兵役も税もだいぶ上がったって聞くし、治安が悪くなってるのは…桃香たちの方が詳しいか」
実は平原に冀州から流れ込んでくる流民や賊が増えた。その結果、冀州の状況が予想出来てしまったのだ。
「見栄っ張りのあいつらしいが…さて、合流場所も近づいているし、この話はおしまいにするぞ。ただでさえ、目を付けられたら困る立場なんだしな」
「そうですね。気を付けます」
「公孫賛のお姉ちゃん。連合の使いって人が来たのだ」
「ほら。噂をすればってやつだ。愛紗、他の連中も呼んできてくれるか?」
そして現れた使いの人を見てみんな黙る。
「まあまあ、ようこそおいでくださいましたわ!!」
「「「……」」」
連合の使いと名乗って現れたやたらゴージャスな人を前に誰もが言葉を失ってしまったのだ。そもそも連合の使いではなく、ご本人登場である。
まさにゴージャスでお嬢様系の女性であるのだ。似たような系統の女性ならカルデアにもいるがなかなかインパクトな登場に藤丸立香たちも皆と同じように黙ってしまった。
この雰囲気はエリザベードの起こす問題並みに近い。公孫賛が言う面倒さがつい分かってしまう。
「わたくしがこの連合の主催を務めさせていただきます、袁本初と申します。こちらが、我が軍の筆頭を務める文醜と顔良」
「よろしくお願いします」
「よろしくな!!」
紹介された武将は真面目な女性と元気でフランクそうな女性である。彼女たちはどうやら袁紹のお気に入りの武将のようだ。
「お、おう。久しぶりだな麗羽」
何故か一番戸惑っている公孫賛。
理由としては先ほどまで話していた袁紹の散々な評判であったのに関わらず本人は愛想が良いからだ。
「白蓮さん以外はお初にお目にかかる皆さんですわね。白蓮さん、ご紹介いただけますかしら?」
「ええっと…こっちが徐州の陶謙殿の名代で糜竺と糜芳だ。それと私の部下の劉備だ」
「劉備…ああ、平原の!!」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、以前は着任の挨拶にも来てくださったのに、ろくなおもてなしも出来なくてもうしわけありませんでしたわね。平原の噂はわたくしの冀州まで届いていますわ」
「あ、はい。ありがとうございます」
桃香も熱烈に握手なんか求められて割と引き気味であった。今の様子を見るに袁紹はグイグイと押してくるタイプのようだ。
「さて、申し訳ないのですけれど、わたくし、この後も他の皆さまをお迎えしなければなりませんの。猪々子さん、斗詩さん。お二人は、わたくしに代わってご案内をしてあげなさい」
「公孫賛殿、これから全体の顔合わせもありますので、主要な方はそちらにご案内しますね」
まさか筆頭の武将を付けてくれるとは愛想がいいと通り越して逆にやり過ぎ感がある。そのやり過ぎ感で怪しくも感じてしまう程である。
「いや、場所だけ教えてもらえれば後はこっちで行くよ。顔良も忙しいだろうから麗羽に付いていてやってくれ。顔合わせは桃香と雷々、電々…そうだな、朱里と北郷も来てもらえるか?」
「では、私たちは陣地の用意をしておきますね」
「だったらそっちはあたいが案内するよ。こっちだ」
その後、藤丸立香たちは陣地の用意をしに文醜に場所を案内され、北郷一刀たちは顔良に教えてもらった軍議の会場を調べに行くのであった。
袁紹と別れて陣地を進む北郷一刀たち。周囲の広がる物凄い規模の天幕の群れに感動なんてするどころじゃない。
「……ねえ」
「いうな桃香。一番戸惑っているのは私なんだ。いつもみたいに幽州の田舎者くらいに言われてほったらかしにされるとばかり思ってたんだけど…」
「そんな扱いなのか公孫賛」
そんな扱いに腹も立てないレベルの彼女だが。いきなり初手から袁紹が登場してあの歓待ぶりでは予想外すぎるだろう。
「もしかして…わたしたちの目的、気付いてるんじゃないのかな?」
「そこまで気の回る奴じゃないと思うけど…ああでも、変な所で目ざといし、勘も働くからな」
あそこまで歓待っぷりに逆に怪しいと思ってしまう。
公孫賛は袁紹とは関りがあるので何となく無警戒にはできない。妙なところで袁紹は何かをやらかす時があるのだ。
「いずれにしても向こうの目的が分からない以上はこちらから動く必要はないと思います。お腹の痛い所を探られたわけではありませんから」
あの謎の歓待ぶりには驚いたが今一番まずいのは警戒しすぎて本来の目的を知られることだ。
「だな。自信が無い奴は、ずっと黙ってろよ。今回の顔合わせ、出来るだけ目立たないようにするのが一番なんだからな」
「わかったよ!!」
「うん。静かにしてるね!!」
「…本当にわかってるんだろうな」
「ご主人様。わたしも黙ってるから後はお願い」
「いや、俺も黙るつもりだったんだけど」
これでは誰も喋らない。
「…まあ、軍議まで時間はまだあるから場所の確認が終わったら少し自由時間にしようか桃香、北郷」
「そうだな。それに一旦、陣地に戻るのもいいかもしれない」
250
「よし、これで陣の設営終了!!」
幽州・徐州連合の陣の設営を終了した藤丸立香たち。
設営が終わって特にやる事もない。この後は反董卓連合の軍議の結果を待つまで待機するしかないのだ。
そもそも軍議はまだ始まってすらいない。だから今はある意味、自由時間のようなもの。
「ではこの空いた時間でこの連合内を散策してみるか」
反董卓連合内に于吉が既に何か策を植え込んでいるかもしれない。何か異様なものが無いか調べられるのなら今、調べておくべきだ。
「燕青と荊軻はこれから始まる軍議の方に潜入してきてくれ」
「はいよぉ」
「承知した」
軍議には諸侯のトップたちが集まる。黄祖のように于吉の手が掛かった人物がいないとも限らない。それと軍議の内容自体も気になる部分もある。
「残りは分かれて連合内を散策してみるぞ」
「はーい孔明先生」
「では、動くぞ」
藤丸立香たちは早速、連合内を散策するのであった。
「あ、雛里ちゃん。ちょっと連合内を散策してくるね」
「は、はい。気を付けてください」
藤丸立香は秦良玉と蘭陵王の2人と一緒に連合内を散策していると早速、見知った顔を見つけた。それは向こうも同じようで此方に気付いて近寄ってくる。
「何処かで見た顔かと思ったらあなたたちだったのね」
見知った顔とは曹操に夏侯惇、夏侯淵であった。
「まさかこんな所で会えるなんて不思議なものね」
「お久しぶりです曹操さん。夏侯惇さんと夏侯淵さんもお久しぶりです」
「うむ」
「ああ」
反董卓連合には曹操も参加するという情報は手に入れていた。会う可能性は無いと思っていなかった。寧ろもしかしたら三国志の主要人物たちに再会や新たに会うかもしれないと思っているのだ。
無論、孫呉の者たちにもだ。正直なところ孫呉の関係者には会いづらいのだが。
「お久しぶりですね曹操殿」
「お久しぶりです曹操殿」
「秦良玉に蘭陵王。久しぶりね。私の誘いを蹴る理由が彼だったとは…まあ燈から聞いたけど」
秦良玉と蘭陵王は曹操の陣営に誘われていたのだ。特に秦良玉は曹操の好みにバッチシだったようで熱烈に誘われていたようなのである。
「むう、秦良玉に蘭陵王。よくも曹孟徳様の誘いを蹴ったな!!」
「止めなさい元譲」
「で、でも華琳様~」
「私は気にしないわ。でもまさか2人があなたの部下だったとは…本当に妙な縁ね。それにしても陳留に来ていたのなら顔を出しても良かったのに」
「いやあ、何かゴタゴタがそちらであったみたいで」
「ああ…………それは思い出したくないから、その話は止めましょう」
急に曹操の顔が青くなった。もしかしなくても貂蝉たち絡みの事件である。別の話で、藤丸立香たちは知らないのだが曹操の頭痛は華佗の治療で和らいだらしい。
「申し訳ありません曹操殿。私の主は既にいますので」
「私もです。せっかくの誘いをお断りして申し訳ありません」
曹操の勧誘に関しては秦良玉と蘭陵王は丁寧に断っている。
「ふふ。秦良玉は閨に呼びたかったし、蘭陵王の素顔を見てみたかったのだけれどね」
「曹操殿、ご冗談を…」
曹操に閨を誘われた秦良玉は顔を少し真っ赤にさせるが冗談だと思っている。実際のところ曹操は本気であるため夏侯惇は羨ましそうに見ていた。
少し噂は聞いていたが曹操はやはりそういう趣味のようである。これには蘭陵王も苦笑いである。
「そうだ蘭陵王、典韋が会いたがっていたわよ。時があるなら会って行ってちょうだい」
「はい。この連合内なら会えるでしょう」
「それにしても、まさかあなたたちもこの連合に参加しているとはね。今はどこにいるのかしら。もしくは独立でもしたのかしら?」
「実は今、平原の相の劉備さんの所で厄介になっているんだ」
「へえ、劉備の…なるほどね」
少し驚いた顔をしたがすぐにいつもの顔に戻る。
「まったく、劉備のところに行くなら私のところに来ても良かったのに」
「まあ、色々あって劉備のところにいるんだよね」
(…彼の雰囲気からして劉備の配下に着いたという感じではない。客将といったところね。それにしても劉備は様々な人材を集める天運でもあるかしらね)
劉備には才があり、諸侯の中でもいずれぬきんでると曹操は思っている。特に目を見張るのが人材のレベルだ。特に劉備のいるところの関羽は欲しいと思ってしまうほどである。
更に客将とはいえ、様々な人材がいる藤丸立香たちも引き込んだのだ。もしかしたら劉備は人材が集まってくる天運でもあるのかと思ってしまう。
「ねえ、藤丸。あなたはこの戦いをどう思う?」
「この戦い?」
「ええ。董卓は本当に暴政を働いていると思う?」
「正直分からないよ。でも実は董卓さんと知り合いなんだ。知っている彼女からは暴政をはたらくなんて想像はできないけど」
「それは私もよ。でも官僚たちの粛清は真実でしょう。様々な巡り合わせが運悪く反董卓連合なんてものが出来てしまったのでしょうね」
もはや反董卓連合は止められない。必ず戦が起こるのは決まっているのも当然なのだ。
「私も董卓とは知り合いだけどこの戦いに手を引くつもりは無い。戦いになったのなら戦うだけよ」
「それは俺もだよ。戦いになったら戦うしかない」
本当は月を救うためと于吉の策が仕掛けられていないかを調べるのが本当の目的であるが。それでも本当に戦うことになったら戦うしかないのだ。
(また目付きが変わったわね)
前にあったが藤丸立香は柔らかい雰囲気からスイッチが入ると覚悟を持った雰囲気に入る。その変わりようが曹操の気になる部分だ。
剣を持って戦った事が無いような人間がまるで大きな戦いを生き抜いた目をするのだから彼の今までの旅路が気になるというものだ。
「劉備には一目置いているわ。更にあなた達がいるのなら今回の戦は心強いわね」
「それはこっちもだよ。曹操さんがいるのは心強いよ」
「ええ、私たちはそこらの諸侯とは違うと自負しているからね」
流石の自信である。確かに曹操の陣営は他の陣営と練度は違うのだ。渡り合える諸侯はこの反董卓連合内でも少ないだろう。
「では、またね」
曹操はそう言って去っていった。
「やはり曹操殿は他の者たちと一味違いますね。カルデアにいる王たちと話している気分です」
「はい。流石は魏を建国させた人物でありますね。まあこの世界ではまだのようですが…しかし、いずれ魏を建国させるのも時間の問題ですね」
蘭陵王の言う通りで曹操はカルデアにいる王様系の英霊たちと似た覇気を発しているのだ。
「今のところ、この世界だと曹操さんほどの人物は炎蓮さん以外会った事が無いよ」
この世界には抜きん出た才能を持つ人物は何人かいる。曹操を筆頭に炎蓮や恋たちがそうだ。
もしかしたらこれからも彼女たちのように才能が抜きん出た人物たちが現れることもあるかもしれない。
「この世界の武将も傑物ばかりですね」
蘭陵王の言葉に頷く秦良玉と藤丸立香であった。
それから連合内をまた歩くとまた見知った顔を見つけた。その人物はこの世界に来てから間もない頃に出会った人である。
「紫苑さん!!」
「え、もしかして立香さん!?」
今度再会したのは黄忠もとい紫苑であった。
「紫苑さんまで参加していたんだ」
「それはこっちもよ。立香さんも参加していたのね」
まさかの再会である。やはり大陸中の諸侯が集まっているのだから今回の旅で知り合った人たちとは再会出来る可能性は高い。
「厳顔さんと魏延さんもいるの?」
「益州は参加していないから…桔梗は来ていないわ。けど焔耶ちゃんは来ているわよ。…あと、そちらの御仁たちは?」
「ああ、2人は秦良玉と蘭陵王って言うんだ。二人とも俺の仲間なんだ」
最初に紫苑と出会った時には秦良玉と蘭陵王は居なかったから初対面なのはしょうがない。
「秦良玉です。よろしくお願いします」
「蘭陵王です。我が主がお世話になったそうで、ありがとうございます」
「黄忠よ。寧ろこっちがお世話になったくらいだわ」
昔の知り合いに出会えば昔話に花が咲く。別れてから何があったとか、どうなったとか色々と話すこともあるのだ。
「立香さんたちもこの連合に参加しているなんてね…今はやはり揚州の孫策殿のところに?」
「いや、今は平原の劉備さんのところに居るんだ」
「え、そうなの。でもあの時は確か…」
紫苑が藤丸立香たちが揚州の孫策のところにいると思っているのは黄祖との戦いで荊軻と接触したからだ。その時は確かに孫策のところで厄介になっていたから、紫苑がそう思うのは仕方が無いのだが。
「実は色々あって今は劉備さんのところで厄介になっているんだ」
「そうなのね。まあ、今は孫策殿のところは大変のようだしね」
「…まあ、悪い時に離れちゃったと思ってるよ」
本当にタイミングが悪い時に離れてしまったのだ。しかし、それは藤丸立香たちも自分の意思で離れたわけではない。
彼らの役目が終えた瞬間に元の時代に戻るという仕組みになっていたのだから。
「なるほど平原の劉備殿のところに……そう言えば焔耶ちゃんが会いたがっていた劉何某とは劉備殿の事だったわね」
「魏延さんが劉備さんに会いたがっている?」
「ええ、そうみたいなの」
「じゃあ、取り計らってみるよ。まあ、今は難しいと思うけど」
「いえ、それはありがたいわ。確かに今は難しいから落ち着いてからの方が良いわよね」
理由は分からないが魏延は劉備に会いたがっているようだ。このことは本陣に戻った時に伝えるべきだろうと思うのであった。
(それにしても…あらあら、また立香さんの傍に新しい女性が増えてるわね)
紫苑は秦良玉を見てから藤丸立香に意味深そうな顔をするのであった。
「どうしたの紫苑さん?」
「いえ、何でもないわよ。うふふ」
そして秦良玉も何か察したのか紫苑を見るのであった。
(何でしょうかこの方…悪い人ではないんですが。んん?)
251
反董卓連合の集合場所にどんどんと諸侯たちが集まってくる。その中でも目を引いた諸侯があった。
「おお、あれが揚州軍か…十万はいるな」
「ふむ…しかもほぼ半数は孫家の旗のようですな」
誰もが揚州軍の数に驚いているのだ。
「すっごい兵士の数っすー!!」
「揚州軍はほとんど袁術殿の手勢かと思っていたけれど…まさか孫呉の兵士があんなに参加しているなんて…」
「流石は江東の麒麟児と呼ばれるだけはありますわね」
各諸侯たちの驚きも全て孫家の意地が実ったからだ。
恐らく揚州軍が連合の中でも数が多い。更にその半分が孫呉の屈強な兵士たち。
揚州軍が到着するや否や周囲の諸侯から感嘆の声が聞こえてくる。
「ふふっ、雪蓮の痩せ我慢が実ったようだな」
「無理をして兵を集めた甲斐があったわ。これで孫呉は袁術の配下だなどと、侮られることはあるまい」
雪蓮の痩せ我慢は確かに実った。分かる者には揚州軍十万の意味が分かるのだから。
「やあ、君たちは揚州軍の将だな。袁術殿はどちらにおられるかな?」
「あなたは?」
「あ、これは申し遅れた。私は幽州の牧、公孫賛だ」
「公孫賛…幽州牧ってそんな名前だったかしら?」
地味だが優しそうな人だと思ったのが雪蓮の見解である。だが彼女が気になったのが隣にいる青髪の女性である。
彼女は間違いなく強いと雪蓮の勘が訴えているのだ。
「なぁっ…!?」
「くくくっ」
「わ、笑うな!!」
「伯符様、失礼ですよ」
「ふふっ、ごめんなさい。私は呉の孫策よ」
「え、あなたが孫策殿か。やあ、重ねて無礼をした」
先に無礼を働いたのは雪蓮なのだが公孫賛の方から謝る。彼女は善人であるか、余程のお人好しかもしれない。
「こっちこそ。ごめんなさいね」
「孫策殿、着陣早々で済まないが今日の夕刻に軍議を開く運びとなった。袁術殿にお伝えしてくれるかな?」
「ええ、分かったわ」
「頼む。では、私はこれで失礼する」
伝える事を伝えて公孫賛は去っていく。
「ふーん、あれが幽州牧か」
「噂通り、なかなかの好人物のようだな」
「そうね。でも、あんな真っすぐそうな子に牧なんて務まるのかしら。それになんか地味だし」
「うむ、地味じゃな」
「綺麗な顔はしてるのに…化粧のせいかしらね。華が欠けているわ」
冥琳は好印象を抱いたが雪蓮や祭、粋怜は公孫賛が密に気にしている事をズケズケと言うのであった。みんな酷い。
余談だが離れた所から公孫賛のくしゃみが聞こえそうな。
「さて、陣の設営でもするか」
「そうね。さっさと終わらせましょう。終わったら散歩でも行こうかしら」
「何が散歩だ。本陣で大人しくしてろ」
「えー…」
「えー、じゃない。全く炎蓮様と同じだな」
冥琳は雪蓮に厳しいように見えるが何だかんだで甘いのだ。
「少しだけだぞ」
「やった。ありがと冥琳、大好き!!」
そう言って素早く本陣の設営を終わらせて雪蓮は連合内の散歩に素早く繰り出すのであった。
こういう自由な所は母親の炎蓮似である。炎蓮ももしもここにいたら連合内を歩き回って活きの良い武将とか見つけに行くかもしれない。
(ふんふ~ん。至る所に実力者が…流石は大陸中の諸侯が集まっているわね)
「おい、そこの者。貴様は揚州軍の将と見受けた。孫策殿のもとへ案内してもらいたいのだが?」
急に声を掛けられて振り向くと只者ではないと瞬時に悟った。その者は曹操である。そして同じく雪蓮を見て曹操も只者ではないと理解する。
雪蓮は曹操を底の見えぬ怪物だと想像し、曹操は雪蓮を見て荒々しい獣と思った。お互いの手に汗が滲む。
「…それには及ばないわ。私が孫伯符よ」
「私は苑州の曹孟徳よ」
曹操を見て雪蓮は誰にも気付かれずにタラリと冷や汗を掻いてしまう。噂は聞いてたがここまでの覇気を持っているとは驚きである。
これ程の人物は自分の母以外は見ない。
「ふふふ、あなたが曹操なの。一度、会ってみたいと思っていたわ」
「こちらこそ、揚州軍の指揮官に挨拶しておきたくてね」
「揚州軍の指揮官は私じゃなくて袁術よ」
「私が話をしたいのは真の英雄だけよ」
曹操は雪蓮が袁術に御しきれるとは微塵にも思っていない。今回の揚州軍十万はすぐにでも耳に入った。
揚州軍の本当の指揮官は雪蓮だと思ってるくらいだ。
「ふっ」
雪蓮は曹操の迫力に圧されることなく真っ向から笑顔で話していく。
「江東の麒麟児と噂されているから、どのように荒々しい武将かと思ったら……なるほどね」
「へ、何それ?」
「揚州各地で起こった乱を瞬く間に鎮圧した江東の麒麟児…孫策の名を知らない者は余程、世事に疎い間抜けね」
雪蓮の勇名は大陸に広まっているようだ。袁術の下で戦った事も無駄ではないということだ。
そもそも各諸侯たちにも注目されている曹操から評価されている時点で雪蓮も勇名さは余程広まっているのかもしれない。
「あはっ、麒麟児だなんて大げさね。狂虎よりかは品があっていいけれど」
「………孫堅殿は残念なことだったわ」
「……そう言えばあなた、豫洲の黄巾討伐の時に母様と会っていたのよね?」
「ええ、私はあの日いつかこの曹操と天下に覇を競うのは孫堅殿なのだと直感的に思ったわ。それがまさかあのようなことになるなんて…」
孫堅が亡くなったのは力ある諸侯ならば誰もが手に入れている情報だ。それほどまで孫堅の名前も大陸に知れ渡っている。
「人の一生なんて分からないものよね」
「ええ」
「本当に惜しい。孫堅殿の武名はあの呂布とならんで語らえるほどであった。私もいつか手合わせをしたいと望んでおったのだが…!!」
曹操の護衛に付いていた夏侯惇が残念そうに唸る。
「ふふっ、私だって母様に劣ってるつもりはないわよ。何だったら今からでも相手をしてあげましょうか?」
「ほう?」
先ほどは残念そうにしていたが雪蓮の一言に夏侯惇は目をキラリと光らせた。
「孫策殿。お戯れを」
流石にまずいと思ったのか妹の夏侯淵は口を開いた。
「私はお戯れが大好きなのよねー」
「ふふん、面白い。ちょうど歩くばかりで退屈しておったところ。孫策殿、是非とも一勝負!!」
冗談ではなく、このまま止めなければ本当に手合わせが始まりそうな雰囲気になる。雪蓮も夏侯惇も眼光を鋭く光らせた。
「元譲。私は孫策殿と話をするために来たのよ。あなたは私の邪魔をする気?」
このまま手合わせが始まるかと思ったが曹操の少しだけ怒気の含んだ言葉が制した。
「いっ…いひえっ!!」
「まったく姉者は…控えていろ」
曹操の言葉だけで将軍である夏侯惇を瞬時に委縮させしまう。まるで怒られた子犬のように小さくなっていた。
この変わりように雪蓮は心の中でちょっと笑ってしまった。
「あら残念。行軍続きで身体がナマっていたから暴れたい気分だったのに」
「ふっ…それにしても袁術の支配を受けながらよくこれだけの軍勢を集めることが出来たわね?」
「孫呉の力をもってすれば、これくらい軽いわよ」
本当ならばとても苦労したがここは余裕そうに見せる。苦労はしたがあの軍勢が孫呉の力なのだ。
「どうせなら袁術でなく、この曹操を頼って欲しかったわ。孫堅殿の頼みなら私はすぐに豫章へ援軍を差し向けたのに」
「もしもそうしていたら孫家は今頃完全に牙を折られ、爪も抜かれていたでしょうね」
「ふふふ、私がそんなに悪人に見えるの?」
「少なくとも袁術よりはね」
お互いにニヤリと笑う。
「あはっ、私を気に入ってくれたみたいね。孫策、私もあなたのことが気に入ったわ。けれど孫策とは共に手を携えて天下を目指すことは難しいみたいね」
「お互い、我が強すぎるみたいだもんねー」
「ふふふ」
英雄は英雄を知る。2人はお互いの力量を認めあうのであった。
「ま、将来どうなるにせよ今は仲間よ。あなたと陣を並べられて光栄に思うわ」
「ええ。江東の麒麟児が味方なのは心強い限りよ」
この後に袁紹が入り込んでメチャクチャになるのだがそれは別の話である。
袁紹の介入により曹操との会話が打ち切られたが良い経験が出来たと思いながら雪蓮はまた連合内を歩き始めるのであった。
「はー…あんな怪物といつかは戦う事になるのね。まったく本当に将来がどうなるかなんて……って、んん?」
連合内を歩く雪蓮はある人物たちを見かけた。その人物たちとは黄祖との戦いで力を貸してくれた恩人たちだ。
「孔明に藤太じゃない!?」
「おお。孫策殿ではないか」
「やはりこの連合に参加していたか」
雪蓮の声に俵藤太と諸葛孔明は気付いたようで歩いて来る。
「あなた達も参加していたなんて驚きよ」
「まあな」
やはり知り合いに遭遇したと心の中で呟く諸葛孔明。もしかしたら他のメンバーも知り合いに遭遇している可能性があると予想してしまう。実際に別行動をしている藤丸立香たちは既に再会している。
「え、何々、何処に属してるのよ?」
「徐州…正確には平原の劉備という者のところにいる」
「何よー、私のところは蹴ったくせに劉備って人のところに入ったの?」
「たまたまだ。旅をしていて今、足休めをしているのが劉備のところというだけだ」
于吉を捕まえる為に旅をしており、貂蝉の一言で平原に向かって劉備のところに厄介になっているのだ。
いずれは劉備のところも去る予定だ。
「それにしても何であんたたちが反董卓連合なんて…いや、もしかして」
諸葛孔明たちと出会ってすぐに何かを察する。
「流石は孫策。いや、我らの事を知っているから気付くか」
「もしかして于吉が?」
直感なのか頭の回転が速いのか雪蓮はすぐに正解に結び付く。
「可能性がある。しかしまだ確定ではない。表向きは董卓の討伐の手伝いだが、我らの本当の目的は于吉がこの戦で何か仕掛けてこないか調べることだ」
「なるほどね…于吉が」
雪蓮も于吉とは因縁がある。何せ、母親の仇のような存在だからだ。
「なら…」
「いや、孫策殿は本来の目的を果たすといい。どうせお前たちは董卓討伐が本来の目的ではないのだろう?」
「…よく分かるわね孔明」
「頑張れよ。孫家は死んでおらんと吾も思っているからな」
「ありがと藤太」
今回の雪蓮の目的は孫家が袁術の配下に成り下がっていないことを証明するために反董卓連合に参加したのだ。
孫呉の兵たちを多くの諸侯に見せてまずは一段階は成功した。次は反董卓連合の戦いで手柄を立てればより孫呉の力を示せるのだ。
いずれ袁術にかけられている鎖を引き千切るために。
「ただ今回は可能性があるかもしれないというだけだ。頭の片隅に入れておけ」
「はいはい。そうしておくわ」
反董卓連合。何が起こるかは予想できない。
読んでくれてありがとうございました。
次回は1週間後予定です。もしも早く更新できたらします。
今回は様々な恋姫キャラたちが再登場した回でした。
反董卓連合は恋姫のどのルートでもいっきにキャラが登場する場面ですからね。
董卓陣営では何が起きているか、劉備達は真の目的を上手く隠して行動できるのか、
曹操はどのように動くか、孫策たちは力を失っていないことを示せるのか。
いろいろとあります。あと、反董卓連合で立香は雪蓮と再会します。それもどうなるかですね。