Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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汜水関攻めです!!
どんな戦いになるかはゆっくり読んでってくださいね。
まあ、原作を知っていれば、あれかっとなるかもしれませんね。


反董卓連合-汜水関攻め-

263

 

 

今晩も悪夢を見ている。悪夢を今まさに体感しているのだ。

 

『よくも殺したな』

『何故わたしが殺されなければならないのだ!!』

『貴様だって私たちと同じ朝廷の毒ではないのか!!』

 

恨み事や罵倒を悪夢の中で浴びさせられる。その数は数えきれないほどの多さ。

誰の声かも分からないが悲壮に満ちた声や怒りに満ちた声ばかり。全てが自分自身に向けられる。

 

『我らが何をしたのだ!!』

『こんな事をして許されると思うな!!』

『貴様が死ね董卓!!』

 

自分は間違った事はしていない。確かに都の大粛清は道徳を無視した行為だったかもしれないが後悔はしないようにしている。

大粛清でもしなければ朝廷に潜む魑魅魍魎を消すことは出来ないからだ。

 

『…董卓』

 

この悪夢の最後には決まってある声が聞こえてくる。

 

『この恨みの数はどう思う?』

『君なんかに耐えられるかな?』

『耐えられないんじゃないかな。あいつらは君が死ぬべきだと言うけど……ボクもそう思うよ。君が死ぬべきだ』

 

この声だけが特に悪夢の中で一番響く。この声が聞こえるだけで足元から複数の手が伸びてきて引き摺り降ろしてきそうな感覚に陥る。

 

『君が間違った道を選んだからあの五月蠅い友人も殺されるんだ。君のせいで大切な友人が死ぬんだよ?』

『君に賛同する将たちも死ぬ。君のせいで全てお友達が死んでいく』

『君が死ねがば丸く収まるけどね』

 

この声は月を死ぬように呟いて促してくる。その一言一言が気持ち悪くて怖い。まるで身体を侵食してくるようだ。

 

「だ、誰なんです…か」

 

振り絞って声を出した瞬間に目が覚めた。

 

「月、大丈夫!?」

「え、詠ちゃん…」

「うなされてたけど…本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。ただ怖い夢を見ただけ」

 

月の顔は青い。怖い夢なんて言うが、それだけでこんなにも青くなるものなのか。もしかしたらの原因としては詠も分かっている。

最近の調べによるとある悪い情報が流れているからだ。その情報というのが相国となった月を討ち取るべく、諸侯たちが連合を組んでいるというものだ。

連合名は『反董卓連合』というらしい。多くの諸侯が洛陽にいる月を討つべく集まりつつある。連合を組むための始まりは袁紹であるとの事だ。

多くの諸侯から命を狙われるというものは人間の精神を擦り減らすのに十分なものだ。詠は月がとても心配である。

 

「もう…何でこんな事に」

 

何故こうなったかの原因が分からない事は無い。

月たちが何進と十常侍や官僚たちを朝廷から消した事。月が献帝から相国に任命された事。そのような事も狙われる原因かもしれないのだ。

特に月が相国になったのが気に入らない人物たちがいるのだ。

 

「あんの袁紹…!!」

 

詠は全ての原因が袁紹が始め出した反董卓連合だと思っている。確かに反董卓連合も月が苦しんでいる原因の1つだ。しかし悪夢の原因は別にあるのをまだ詠はおろか月ですら分からない。

 

 

264

 

 

汜水関の前にて。

桃香たちは汜水関を攻める前に雪蓮たちを待っていた。汜水関を攻めるにあたって雪蓮たちと一緒に攻める事を取り決めたのだ。

 

「お待たせ。遅くなってごめんね」

「いえ。それで袁術さんは、上手く説得できたのですか?」

「ええ、バッチリよ」

 

雪蓮たちは袁術の傘下になっている。元々、幽州と徐州軍と一緒に汜水関に攻めるのも袁術に何も言わずに公孫賛と桃香に話をつけに行ったのだ。しかし雪蓮は袁術の下に付いたつもりはない。

雪蓮は今回の汜水関攻めを成功させるため、まんまと袁術を言いくるめてきたのである。これでしばらくの間、呉軍は自由に行動できるということだ。

これより両軍の軍師を交え、汜水関を落とすための軍議が開かれる。朱里、雛里、冥琳、穏、諸葛孔明と軍師が5人も集まれば有効な策がいくらでも出てきそうである。

まずはカルデアの諸葛孔明が口を開いた。

 

「では早速、あの関を如何に攻略するかだが…」

「はい。まずは何らかの策で、関の敵を減らすことが大事だと思います」

「敵を誘い出すってことですかぁ?」

 

敵を誘い出して減らす。まさに当然的に求められるものだ。桃香たちの本来の目的の第一歩として何が何としても汜水関を開かせて董卓軍を誘い出さなければならない。

汜水関が開いて敵兵が出てくれば隙を突いて燕青を紛れ込ませる事ができるのだから。

 

「は、はい。汜水関を守っているのは華雄、張遼という二人の将軍です」

「二人とも優れた将ですが、華雄は短気なところがあって、挑発に乗りやすいそうです」

 

華雄はその短気という性格が災いして賊軍に何度か敗北してしまった過去がある。

華雄という名前に雪蓮は記憶がある。呉軍の黄巾討伐時に勝手に負けていた将だと思い出した。

さらに豫洲の戦の時は勝手に動いて冥琳の策を邪魔したという記憶もある。雪蓮たちにとって良い思い出が無い将だ。

 

「それでも優れた将なんですかぁ?」

「過去の敗戦だけで華雄の能力を推し量るのは危険だろう。人とは敗北を重ねる度に成長するものだからな」

 

華雄の短気さは諸葛孔明も洛陽に滞在していた時に目にしていた。あの短気さは知恵が回るタイプには恰好の的になる。

だからこそ今の作戦会議で華雄が話の中心に出ているのだ。

 

「はい。とにかく武勇に関しては董卓軍でも三本の指に入る猛将です」

 

三本の猛将と聞いて思い浮かぶのは華雄、張遼、呂布。

特に呂布はこの場にいる全員が危険と判断する猛将だ。

 

「そういえば董卓軍にはあの呂布がいるのよね」

「はい~、汜水関にいないのは幸いでした」

 

北郷一刀は周りのみんなの反応を見て、既に呂布の伝説的な強さは既に大陸中に知れ渡っていることが理解できた。

現代でも三国志の中でも最強の武将と言えばと聞かれれば呂布奉先の名前が一番に出てくる。

 

「それで、敵の数をどうやって減らすかってことよね。華雄はまあ、猛将でも短気で挑発に乗りやすいと」

「外からみんなで罵ってみますか?」

「ただ罵っただけで、突撃してくるような愚か者なら汜水関の守りなど任されんだろう」

「確かにな。汜水関は洛陽を守る鉄壁な関だ。その関を任されるのだから華雄が如何に短気でも普通の罵声程度では効かんはずだ」

 

華雄は短気であるが部隊を任されるほどの武将だ。短気でも我慢できる上限は必ずある。

 

「ふ、布石にはなると思います。十分に罵声を浴びせ、鬱憤を溜めさせておいて…何か敵が出てくるきっかけなようなものを作れば…」

「あはっ、可愛い顔して意地悪ねー?」

 

雪蓮は雛里の発言にニッコリ。こんな可愛い子が意外にもえげつない事を考えていそうで面白いと思っているのだ。

 

「ふむ。見えてきたな。だがもう一捻り欲しい。伯言、何か良策は無いか。人を苛立たせるのはお前の得意技だ」

「なんだか失礼ですね~。でもとってもいいことを思いついちゃいましたよ~」

 

柔らかくニコリと笑う穏。彼女は何か良い策を思いついたようである。

 

「えーなになに?」

 

これより穏が考えた策が猛威を振るう。

 

「ところでマスター…立香はどうした。確か建業では軍師の補佐をやっていたのだろう。ならばここに居てもおかしくはないが」

「ああ。立香なら今頃、蓮華様や祭殿たちに捕まっている」

「……理解した」

 

自分のマスターが厄介事に巻き込まれている事を瞬時に悟る。

 

「そうだ、孔明。後で小蓮様が会いたがっていたぞ。何で嘘付いたんだとな」

 

軽くニヤリと笑う冥琳。それを見た諸葛孔明は自分も後で面倒事に巻き込まれそうだと予想してしまい、如何に回避するか考えるのであった。

 

 

265

 

 

銅鑼が鳴らされた。

 

 

「んん?」

「華雄様。敵の朝駆けです!!」

「ほほう、来たか。ならば矢を放てー!!」

 

ついに攻めてきたかと思い、華雄は気合と覚悟を決める。

華雄の号令によって大雨ともいえる矢が降ってくるが愛紗と鈴々の隊は負けじと突撃していく。

 

「クッ、怯むな、進めーーー!!」

「突撃なのだーーー!!」

「「「おおーーーーー!!」」」

「おお、来よった、来よったな。くふ~、ゾクゾクするでぇ。よっしゃ、放て。敵を寄せ付けるな!!」

 

霞も部下からの報告から汜水関の上から最初の敵を見る。

 

「おっ、あの青龍偃月刀…あれって関羽やん!!」

「関羽だと…誰だ?」

「忘れたんか。前に会おうたやろ!!」

「会ったっけか?」

 

どうやら忘れている華雄。確かに親密なまでに関わっていないが黄巾の乱にて一度くらいは顔を合わせたことくらいはあるのだ。

 

「まあ、ええ。実はいっぺんでいいから戦ってみたかったんや!!」

「おお、いよいよ討って出るか!?」

「アホ、言うてみただけや」

 

霞としては一度でいいから愛紗と戦ってみたかった。彼女の実力は黄巾の乱にて目のあたりにしていたからこそ戦いたい欲求が出てくる。だが今は自分の欲求に正直になってはいけないのだ。

 

「ぐ、紛らわしい!!」

「華雄、余所見してんと兵を指揮しや!!」

「わかっておるわ!!」

 

華雄たちは汜水関で籠城を行う。今はまだ相手を様子見しながら敵軍を汜水関に近づけさせないようにするのであった。

 

「うわわっ、凄い矢の数…まるで雨だよー!!」

「桃香、前に出すぎだ!!」

「お兄ちゃんも前に出すぎなのだー!!」

「やはり、城門まで辿り着けそうもありません。ここは一旦、後ろへ下がりましょう」

「そうだね…うん。全軍退却ー!!」

 

反董卓連合という大きな戦力を相手取る董卓軍。そう簡単には汜水関に近づけさせてはくれないということだ。

 

「撤退したんか?」

「うむ、今こそ勝機だ。馬を引けい、追い討ちをかける!!」

「華雄、それがアカンのやっちゅうねん!!」

「ぬっ…くぅうう」

「くぅうう、やあらへん」

「だが相手の兵は少ない。今、追い討ちをかければ殲滅できるのではないか。それに勝てそうならば出ても良いと言ったではないか」

「言ったけど、あーかーん。少なくてもあいつらの後ろにはまだまだ連合軍がおるんや。今は様子見や。ウチらは詠の命令通り、ここを守っとったらええんや!!」

 

反董卓連合の数は多い。好機が実は危機なんて可能性があるのだ。

今は汜水関を守ることが最優先である。

 

「さて、次はどう出てくるんや反董卓連合」

 

今回はすぐに撤退し、次はどう出るかと予想していた霞だがまた同じように攻めてきたのであった。

しかも同じ攻め方が何度も何度もだ。同じように攻めてきて、同じように迎撃してきた。それが何度も続くかと思っていた。それならば霞も何とかなると思っていた。

もしくは反董卓連合の本隊を待っているだけの可能性もあるが、汜水関の守りと周囲の地理的にも考えて本隊が到着したところ守りは変わらない。

何かあるのかと思っていた矢先にやっと変化が訪れた。

 

「よし、取り合えずかかるのだー!!」

「「「おおーーーー!!」」」

 

またいつも通り鈴々の部隊が出てきたのであるが、今回は何か少し違うのだ。

 

「ぬぁ、なんだ彼奴ら!?」

「のろのろ歩いて来よった…ど、どういうつもりや?」

 

今回は前と違く、どこかかやる気の無い感じで突撃してきたのである。

 

「お、おのれ、放てーーー!!」

「待て華雄、あの距離やとまだ矢は届かん!!」

「構わん、放て放てーーー!!」

「構わんなくないわ!!」

 

流石に汜水関と鈴々の部隊とは離れすぎている。華雄の号令は矢の無駄使いだ。

 

「おお、危ないのだ。全軍、止まれー。これ以上進んだら城から飛んできた矢が当たってしまうのだ」

「なぁに!?」

「怪我をしないよう、ここから矢を放つのだ」

 

今度は鈴々の部隊が届きもしないはずの矢を射ってくる。予想した通り、矢はまったく届いていない。

 

「そら届かんちゅーねん。何しとるんや、あいつら?」

 

何度も汜水関に攻めて来ている幽州と徐州軍ならば何処から矢を射れば届くかなんてもう分かっているはずだ。それなのに鈴々の部隊は届かない場所から矢を射っている。

まるで戦う気がないように見えるのだ。正確には反董卓連合の手前、戦っている姿は見せないといけないが実は戦う気は無いという風に見えるといったところである。

 

「くっ、ぬぅううううう。あ奴ら、この私を馬鹿にしておるのかあああああ!?」

「待て華雄、なんや魂胆はわからんが、あれは完全に挑発や!!」

 

挑発か何かは分かるが何故今になってまた挑発紛いの事をしてくるのかが分からない。

既に相手からの挑発に対して霞たちが討って出るなんてことはしない。それは相手に分からせているのにも関わらずだ。

 

「おい、徐州の猿ども。貴様ら本気でこの関を落とすつもりはあるのかあああ!!」

「無いのだ!!」

 

即答であった。

 

「な、なにいいいいいい!?」

「何度か攻めてわかったのだ。この関は堅過ぎて幽州徐州軍だけでは落とせないのだ」

「ならば貴様らそこで何をしている!?」

「戦うフリをしているのだ。連合の一員だから、フリだけでもしておかないと駄目なのだ」

「ぐああああ黙らっしゃい。貴様らそれでも武人か。その腐った性根を私が叩き直してやるわぁ!!」

「あー、敵の将軍が怒ったよー!!」

「怖い怖い。怪我しないうちに逃げよー!!」

 

電々と雷々もいつの間にか華雄を煽るように口にして撤退していく。

 

「待て待て。貴様らぁあああ!!」

「華雄、アタマ冷やせっちゅーねん!!」

「く、くうう…情けない。この華雄があのような敵の相手をせねばならんとは…」

「はあ…気持ちは分かるけどな?」

 

気持ちは分かるが、疑問はある。こんなただの嫌がらせなんて劉備がするとは思えないのだ。

最初は苦戦しながらも汜水関を攻めてきた。それは当たり前に攻めてきて普通に戦っているのだから当たり前だ。

それなのに急にやる気が無くなったかのようにダラケたように攻めてきたのである。霞としてはやる気がなくなったのならば全然構わない。そのまま帰ってくれと言いたいくらいだ。

霞は気にしていないが華雄はそうでもないらしい。どうやら武人としてやる気の無い敵が攻めてくるのは彼女の誇りが許せないようだ。

 

「ただいまなのだ」

「はーい、今日もお疲れ様」

「汜水関の様子はどうだったか?」

 

鈴々の帰還に雪蓮や諸葛孔明たちが出迎えをしてくれる。

 

「大分、焦れてきている様子なのだ。華雄は半泣きになって怒っていたのだ」

「あっはっは。張飛ちゃん、なかなかやるわね」

「鈴々は人をおちょくるのが得意なのだ」

「鈴々?」

「あっ…つい真名を言ってしまったのだ」

「あはっ、聞こえなかったわよ」

 

今まで真面目に戦ってきたの今回の鈴々の行動を実行するための布石だ。作戦としては華雄を挑発させて汜水関から誘き出すというものだ。

誘い出す方法が少し遠回りの方法をしている。華雄は短気であることは周知しているが汜水関の守りを任されている人物だ。ちょっとした挑発程度では怒り狂って汜水関から出てこない。

ならば別のアプローチをするしかない。そこで狙い目なのが華雄の誇りを刺激する事にしたのだ。何でも誇りある武人ほど取るに足らない相手は許せないものらしい。

そこが狙い目でまさに華雄はドンピシャであった。だから鈴々たちにそう見えるように演技をさせたのである。

 

「むー、でも本当は鈴々も早く戦いたいのだ」

「分かってるって張飛ちゃん。ねえ、そろそろいいんじゃない?」

「はい。敵の鬱憤もかなり溜まっているでしょうね。次の段階に進みましょう」

「ああ、手筈は宜しく頼んだぞ」

「はい。お任せください」

 

着々と汜水関を攻める手筈は出来ている。あとは準備した策をいつ実行させるかだけだ。

 

「鈴々ちゃん、上手くやってくれてるね」

「はー…そうですね」

「あれ、愛紗ちゃん。なんだか浮かない顔だね?」

「こういう戦はどうも…私は苦手ですね。誇りを弄んでいるようで…」

 

愛紗もまた華雄と似た武人としての性質がある。華雄ほど短気ではないが武人としての誇りを悪い意味で刺激させられるのは良い感情は思わない。

彼女としては華雄や張遼と矛を交えて正々堂々と戦いたいのだ。しかし、今は勝つために我慢するしかない。

 

「そこは我慢だ」

「李書文殿…」

「儂も己の戦いに横やりを入れられる等は気に入らないが…理由があるのならば我慢する。お主らの目的達成のために我慢は必要だぞ」

「それは…分かっていますが」

 

愛紗も自分たちの目的のために我慢することは分かっている。分かっているがやはり武人としての誇りがピリピリとしているのだ。

 

「我慢するしか…ないか」

 

次の戦いにて。

 

「よーし、ここでいいのだ。この酒は鈴々たちのおごりなのだ。みんな好きなだけ飲むのだー!!」

「「「おおーーー!!」」」

「な、なななな!?」

「ん、華雄どないしたんや。猿の鳴き真似やったらよう似てるで」

「あれを見ろーーーー!!」

 

華雄が指さした方向を見ると鈴々たちが酒盛りしている姿が見えたのだ。

今度はどんなやる気の無い攻め方をするのかと予想していた華雄であったが、今回は更に酷いものであった。

 

「許せん、もう許せん!!」

 

戦をまるでナメているかのような振る舞いに華雄は怒りのボルテージが上昇していく。

 

「弓隊構えーーー!!」

「落ちゆけ華雄。矢放っても届かん!!」

 

「ウガーッ!!」と言いそうな状態の華雄を羽交い絞めにして止める霞。本当に幽州と徐州連合は何を考えているのか分からなくなる。

もしもここに詠がいれば何か相手の意図が分かるかもしれないが、今はいないのだ。

 

「ぷはぁ。美味しいのだ!!」

「美味しーい!!」

「美味しいねー!!」

 

酒盛りをしている鈴々に電々、雷々といった小さい子たち。彼女たちは酒が飲める歳だが、現代だったら通報ものだ。

 

「痴れ者がぁあああああ!!」

「わっ、大きい声」

 

汜水関の上から華雄の怒声が鈴々たちの場所まで簡単に届くほどの大きさであった。

 

「敵を前に昼日中から酒盛りとはなんたるザマか。軟弱者め、かかってこい。この私と勝負しろおおお!!」

「だって無駄だもんー」

「うん。どうせ無理なことを頑張っても意味ないもんねー」

「そうなのだ。取り合えずここに座って戦うフリをしておけばいいのだ。んくんく、ぷはー」

 

華雄の怒声にものともしない鈴々たち。気にせずに酒盛りを続けるのであった。

 

「うぬぬぬぬぬくぅううううう許さんんんん!!」

「ちょ、華雄…!?」

 

華雄の怒りの上昇に霞は若干引いてしまうが、ここで宥めないと汜水関の上から飛び越えて敵陣に突っ込みそうだ。

 

「我が斧槍の恐ろしさ、思い知らせてくれよう。馬引けぇええええ!!」

「いらん、馬引くな!!」

 

飛び越えはしなかったが、案の定というべきか華雄は今からでも鈴々たちのところへ突撃しそうになっている。

 

「張遼、邪魔するな。貴様はあれほど虚仮にされて黙っていられるのか!?」

「そらぁウチかて腹立つけど…あんなもん見え見えの挑発やないか。アンタそんな手に引っかかるようなアホとはちゃうんやろ!!」

「くうう!!」

「頼む華雄、堪えてくれ。ウチかて辛抱してるんや」

 

彼女たちの目的は何が何でも汜水関を守り、敵を通さない事である。

どんな罵声や挑発にも乗るわけにはいかないのだ。今ここで怒りに任せて突撃したら今までの籠城が水の泡になってしまう。

霞としては何が何でも怒り狂う華雄を止めなければならないのだ。

 

「なんだか華雄が気の毒になってきたわねー」

「あの無念の雄叫びは正直、聞いてて胸が痛んだよ」

 

遠くから汜水関の様子を見ていた雪蓮たちは自分たちの策が着々と効いているのに苦笑いをしながら実感する。

苦笑いなのは順調すぎてという意味と華雄の武人としての誇りが悪い意味で刺激されている姿を見ているからだ。

華雄の無念の雄叫びは敵である自分たちも聞いていて同情してしまう。最も同情しているのは武人としての誇りが高い愛紗や思春などである。

逆に軍師たちは特に思うことはない。自分たちの考えた策はこうも面白く嵌っていると笑顔になりそうな程である。特に穏は策が順調に行けば行くほどニコニコ度が上がっている。

 

「良い笑顔だね穏さん」

「はい~そりゃそうですよ立香さん。自分の策が上手くいけば気持ちいいですからね~」

「そういうもんなの?」

 

他の軍師たちに聞いてみると同じような答えが返ってくる。

 

「まあ、確かにな」

「は、はい」

 

冥琳や朱里たちも自分たちの考えた策が成功すれば気持ちいいようだ。自分の予想したものが的中すれば誰だって気分がよくなるものと同じである。それがどんな策、予想でもだ。

 

「確かに冥琳も自分の策で敵が崩れた時はいやらしい顔してたわー」

「してないからな雪蓮」

「確かに朱里も雛里も策が上手くいっているとニヤニヤしてたな」

「「ご、ご主人様!?」」

「孔明先生も?」

「自分の策で敵が嵌るほど愉快なものはないな」

 

軍師と武人は違う。軍師は武人の誇りさえ策に嵌めるために利用するのだ。そこが軍師の怖いところの1つだ。

 

「それでは明日で仕上げにするか」

「はい。あまり時間をかけ過ぎると挑発に慣れてしまい、頭の熱も冷めるでしょうから」

「今夜のうちにこっそり部隊を動かそう」

「公瑾、呉軍の方は大丈夫ね?」

「ああ。部隊の配置は整っている。後は合図を待つのみだ」

「ふー、これでようやく戦が出来そうですね」

「ドキドキするよぉ。上手くいくかなー?」

「それは大丈夫でしょう。周瑜殿と陸遜殿。それに孔明2人と士元が知恵を出し合って立てた策ですから」

 

ついに汜水関攻めも佳境に入る。

 

 

266

 

 

今日も今日とて鈴々たちは汜水関の前で宴会を開いていた。

 

「ぐぬぬぬぬ!!」」

「華雄、堪えるんや…」

 

華雄の怒りのボルテージは本当に限界突破しそうな勢いである。だが昨日の反省を活かして彼女も少しは冷静になっているのだ。

 

「ふー…ああ、大丈夫だ。昨日と同じ手とは芸の無い奴らめ。私は動かんぞ。何をされても動かん!!」

「せや、その意気や!!」

 

怒りはまだ残っているが冷静になろうとする華雄に霞は心の底から応援。

 

「ああ、如何に挑発されようが…」

「んぐ、んぐ、ごく・・・ぷはーーーー!!」

「おお、お兄ちゃんは良い飲みっぷりなのだ!!」

「盃が空いてるよー」

「はーい、一気にぐいっと!!」

 

今回は更に北郷一刀も参加している。鈴々達と宴会を楽しむように飲んでいる。

 

「ぐぬぬぬ…」

「華雄、ここが我慢のしどころやで」

「分かっているが…!!」

「ぷはーーー。可愛い女の子に囲まれて飲む酒は最高ーー!!」

「電々のことだね!!」

「雷々のことだよー」

「くぬぁああああ、何だあの馬鹿面をした情けない男は!!」

「うん…あれはホンマもんのアホヅラやな」

(…………おい。まあ、作戦だからしょうがないけど)

 

何故か北郷一刀だけ馬鹿にされたのが納得いかない。作戦であるから相手を油断や、呆れさせる分には全然構わないのであるが。

 

「おーい、私らも混ぜてくれー」

「おう、飲ませろー!!」

 

更に追加で荊軻と燕青が酒を持ってきて合流する。

 

「おー、荊軻のお姉ちゃんに燕青のお兄ちゃん。いいのだー!!」

 

宴会は更に騒がしくなる。だが汜水関の上では予想出来なかった状況に驚きを隠せなかった。

 

「あ、あれは荊軻に燕青やないか!?」

「何故やつらが…!?」

 

荊軻たちと霞たちは知り合いだ。更に真名も交換した仲でもある。

朝廷で悪龍となった張譲を討った後は洛陽を出ていき、それ以来会っていない。まさか再会が反董卓連合でなんて予想もしなかった。

 

「おい、アンタら荊軻に燕青やろー!!」

 

もしも彼らが仲間として洛陽に戻って来ていたら反董卓連合の戦いもまた変わっていたかもしれない。そもそも反董卓連合が攻めてくると情報を手に入れた後は藤丸立香たちを探していたのだ。

彼らが戻ってきたら月の、今の自分たちの力になってくれるに違いないと思ったからである。しかし現実は非情であった。

思いの外、反董卓連合の動きは早くて藤丸立香たちの捜索は打ち切られた。そしてまさか探していた藤丸立香たちの仲間の荊軻と燕青が敵側として目の前に現れたのだ。

 

「ぷはぁはあああああああ!!」

「おー、やっぱいつ見ても良い飲みっぷりだ姐さん」

「お前も飲め!!」

「分かってるって」

 

荊軻から注がれた酒を一気に飲む燕青。

 

「よーし、なら飲み比べ勝負だー!!」

 

全員が酒を飲んでいく。次から次へと口に酒を運んでいくペースはどんどん早くなる。

 

「よし次ー!!」

「飲むのだー!!」

「荊軻さんってば強ーい」

 

酒の入った容器がどんどん空になっていく。酒の飲み比べはまだまだ続き、一人もリタイアはいない。

 

「なんだ空いてるじゃないか北郷。さあ飲めー!!」

「お、おう」

 

荊軻から酒を注がれては飲んでいく北郷一刀。それよりも荊軻の豹変に驚きである、

 

「いやあ、流石だねえ姐さん」

 

燕青は荊軻の酔った姿に「クックック」と軽く笑いながら酒を飲む。勿論、悪い意味で笑っているわけではない。頼もしいと思って笑っているのだ。

 

「あの変わりようは驚きだろ?」

「まあ、確かに…」

 

流石は『傍若無人』という四字熟語の元の人物だと感心させられてしまう。あそこまで豹変するのは想像が出来なかった。

あの冷静沈着の黒髪美人が傍若無人の酔っ払い姿には驚きだ。寧ろ別人ではないのかと思ってしまうくらいだ。

 

「あれはあれで頼もしいんだが…大変なんだよなぁ」

「それは分かる」

 

酔っ払いの相手は大変。それはどの時代、世界も共通である。

 

「ぷはぁ…中々良いな。しかし宴会なら閻魔亭の時みたいがいい」

「閻魔亭?」

 

荊軻の口から『閻魔亭』と聞こえてきた。知らない言葉だが『閻魔』という言葉から地獄をイメージしてしまう。

 

「あー、あの時か。俺も参加してみたかったぜ。確かメンバーも錚々たるものだったようだし」

 

燕青が指を折りながら閻魔亭で行われた宴会メンバーの名前を口にしていく。そのメンバーとはベオウルフ、柳生但馬守宗矩、ナポレオン、ジェームズ・モリアーティ、トリスタン、呂布奉先、アン・ボニー&メアリー・リードだ。

 

「え、待って何そのあり得ないメンバー!?」

 

燕青の口から出てきた名前はどれも有名な偉人たちばかりだ。特にナポレオンという名前は歴史を勉強していれば必ず覚える偉人の名前だ。

 

「ナポレオンもカルデアにいるのか!?」

「ん、ああ。いるぞ。あれほどの快男児はそうそういないぜ」

 

更に気になる名前もあった。それはジェームズ・モリアーティだ。

推理物の小説作品を読んでいればいずれ有名物の作品に辿りつく。その作品に出てくる登場キャラの名前なのである。

カルデアは英雄や偉人たちが召喚されていると聞く。ジェームズ・モリアーティという有名な名前は誰かと言われれば思いつくのは、あの作品の登場人物しか思いつかないのだ。

 

「モリアーティか。たぶんお前さんの思っているモリアーティで合ってると思うぜ。シャーロックホームズシリーズのな」

「マジか!!」

「しかもそのシャーロックホームズもいるぜ」

「シャーロックホームズも!?」

 

ファンならばそのカルデアに何が何でも行きたいと思うはずだ。

北郷一刀も藤丸立香からカルデアの話を聞いていてカルデアに行きたいと思っているくらいだ。ガチのファンならば何が何でもカルデアに行くかもしれない。

 

「シャーロックホームズとジェームズ・モリアーティがいるカルデアか…凄い事だな」

「まあ、カルデアではあの悪の親玉が悪事を働いてあの名探偵が看破するってのがいつもの流れになってるけどな」

「え、ライヘンバッハ?」

「たぶん二人が本気出したらライヘンバッハ」

 

悪の親玉と最高の名探偵の対決がカルデアで行われたら物凄い事になりそうである。

 

「それにしてもあの悪の親玉……羨ましい事に主の信頼が高いんだよなぁ」

「藤丸の?」

「ああ。主はモリアーティに対して信頼が高いんだよ。普通はあの善性の主が悪の親玉を信頼するなんて考えられねえだろ?」

 

それを言うのなら属性が混沌・悪である燕青も微妙であるが、そこは棚に置いておく。最も同じ属性であっても燕青とジェームズ・モリアーティは人として違うのだから。

 

「た、確かに想像できない。信頼するなら…カルデアの他の英霊は知らないけど、知っている貴方たちの中だと燕青か秦良玉さんとかだと思う」

「だよなぁ!!」

 

燕青は北郷一刀が藤丸立香の信頼する英霊は貴方だと言ってもらえて嬉しくなる。機嫌が良いのでつい彼に酒を注ぐ。

 

「おっとっと。なあ、他にも藤丸が信頼する英霊っているのか?」

「ん、そうだな。やっぱりいるんだよなぁ」

 

力を貸してもらっている仲間なのだから藤丸立香はどの英霊も信頼していると言う。だが藤丸立香にとって特別な信頼関係がある英霊はいるのだ。

 

「マシュの嬢ちゃんは当たり前だとして……特別な信頼関係がある英霊ってのはジャンヌ・オルタに宮本武蔵、エドモン・ダンテスだな。それとメルトリリスもそうかぁ?」

 

今、出てきた名前の英霊たちが藤丸立香にとって特別な信頼と関係性があるのだ。

宮本武蔵という名前は日本人ならば知らぬ者はいない。エドモン・ダンテスは『復讐者』として世界最高の知名度を有する人物であり、日本では『岩窟王』として知れ渡っているくらいだ。

 

「ジャンヌ・オルタってジャンヌ・ダルクのことか?」

「そうだが、ちと違うな」

「どういうことだ?」

「まあ、そこは主から教えてもらいな」

 

『オルタ』という言葉が気になるがそれはまた藤丸立香に聞けばいいかと思うのであった。

 

「それと、メルトリリスって誰なんだ。そんな英雄や偉人は知らないんだけど」

「あー…あの嬢ちゃんも別の意味で特別なんだよなぁ。説明が難しい」

「何か特別ばっかりだな」

 

気のせいかカルデアには特別な存在が多いと思ってしまう。稀なケースと言うが、その稀というのがカルデアでは多いようだ。

燕青にしろ、メルトリリスにしろカルデアには『特別』ばかりかもしれない。

 

「あーー、俺もいつかは主にとってのアサシンは燕青って言われたいぜ!!」

 

グビリと酒を飲む。

藤丸立香にとっての各クラスの英霊は決まっていないが、実はどの英霊もそのポジションを狙っている。特に絆レベルが高い英霊ほど物凄い勢いで狙っている。

北郷一刀の目の前にいる燕青もそのうちの1人である。

 

(なんか藤丸って愛されてんのかな)

「どうしたどうしたまだ飲むぞ!!」

 

このような感じで盛り上がっているため燕青と荊軻は霞の声を無視した。

 

「って無視すんなやーー!!」

 

そもそも聞こえてはいるが敢えて無視している。

 

「まさかあいつらがいるとは…ってことは立香もいるっちゅーことやな。どこに?」

 

まさかの人物たちに驚きを隠せない。しかし今のご時世ならばそういうことはあるものだ。

前は仲間だったのに今は敵なんてよくある。それでも霞としては複雑な気持ちである。

 

「立香たちはいないなぁ…前線に出てへんようや」

「まさか、あ奴らが敵か……しかし、荊軻も燕青も何故に酒を飲んでいるーー!!」

「そっちかい。まあ、あいつらなら飲んでもおかしくない気はすんけど…」

 

荊軻と燕青の性格は知っている。宴会が開かれていれば参加しているのは当たり前だと思ってしまう程だ。

 

「やっぱ覚えていたか」

「なんか向こうは燕青と荊軻を見て驚いていた。本当に知り合いだったんだな」

「まぁな。これでもあいつらとは悪龍を倒した仲だからな」

(悪龍?)

 

反董卓連合では必ずと言ってもいいほど霞たちと再会するとは思っていた。この戦では再会が多いようだ。

今まで出会ってきた人物たちの再会。紫苑だったり、雪蓮たちだったり、曹操だったりと。その中でもやはり複雑な再会なのが敵としての立場になっている董卓陣営だ。

敵対しているという意味では藤丸立香たちも霞たちも複雑な気持ちになる。しかし、お互いの目的のために今は動いている。

その目的というのはお互いに分かれば手を取り合えたかもしれないが現実はそうもいかない。

反董卓連合は様々な思惑で成り立っている。何が起こるかなんて分かるものではないのだ。

 

「ふふ、良い御身分じゃないの。私も混ぜてー」

「お、雪蓮も来たか。飲め飲めー!!」

「さっすが荊軻ー!!」

 

宴会に雪蓮も参加しようと歩いてくる。更に宴会が五月蠅くなるかと思っていたがここで問題が起こる。

 

「ごくごく…ぷはあ。お姉ちゃんは駄目なのだ」

「「はあ?」」

 

鈴々が雪蓮の参加を認めなかったのだ。これには雪蓮も荊軻も間抜けな声で聞き返してしまう。

 

「ヒック…これは陶謙さまに送ってもらったお酒なのだ。余所者のお姉ちゃんに飲ませるお酒はないのだ」

「もう、なにケチくさいこと言ってんのよ」

 

何か雲行きが怪しくなってくる。

 

「ほら、つべこめ言ってないで、お酒を寄こしなさい」

「あ、駄目なのだー」

「ふふん、勝手に飲んじゃうもんね。んぐ、ごくごくごく…ぷはー!!」

 

鈴々は参加を認める気は無かったが雪蓮は強引にも酒を取って飲み干した。

 

「あああ、駄目だと言ってるろに」

 

よく聞くと鈴々の呂律が回っていない。

 

「ふっふーん、うるさいわね。戦わないで酒盛りしてること袁紹に言いつけるわよ?」

「そんらの卑怯なのだ…ヒック」

「じゃ、黙って酒を寄越しなさい。ごくごくごく…ぷっはーーーー!!」

 

更にゴクゴクと酒を飲む雪蓮。見ていて良い飲みっぷりである。

 

「まったく攻めるのが面倒とか言っちゃってさ。ほんとは戦が怖いんでしょ。ま、こんなお子様たちじゃねえ」

「ば、馬鹿にしてる!!」

「ぬあー、もう許せんでござるー!!」

 

鈴々と電々たちにとってお子様という言葉はあまり好きではないようだ。酒の席で機嫌がわるくなればパターン的に口論になる。

そもそも雪蓮が煽っている始末だ。そうなればおのずと喧嘩になってしまうものだ。

 

「もう怒ったのら。孫策、勝負にゃ」

「ハッ、お子様の酔っ払いがなーに粋がってるんだか。かかってきなさいよ」

「うりゃああああ!!」

「え…きゃあああああああ!?」

 

鈴々の突撃に雪蓮は物凄い勢いで吹き飛んでいった。

 

「すげー。あの小さな体躯でよく吹き飛ばしたな」

「鈴々は強いからな」

 

北郷一刀はまるで自分のように鈴々を誇らしく思ってしまう。その強さは燕青も目を見張るものだ。

 

「にゃっはっは、口ほどにも無いのら!!」

「おーい大丈夫かー?」

「ちょ、今のは油断してたのよ!!」

 

吹き飛ばされた雪蓮はすぐに立ちあがって走ってくる。

 

「にゃはは、そんなこと言って、足元がフラフラなのだ」

「そんなの酔ってるせいよ……隙あり!!」

「ふぎゃあ!?」

 

走って戻ってきた勢いでそのまま突撃して今度は鈴々が飛ばされた。

 

「むうううううう、本気で怒ったのだー!!」

「あははー。もっとやれやれー!!」

 

荊軻はハイテンションで雪蓮と鈴々を応援する。彼女だけでなくお互いの部下たちも自分の上司を応援合戦になっているのだ。

もはや戦の中でやるような行為ではない。そんな行為が華雄の武将の誇りに触れた。ここが酒場ならば気にしなく、逆に彼女も参加するかもしれないが今は戦時中だ。だからこそ華雄は我慢が出来ない。

乱痴気騒ぎはまだまだヒートアップしていく。

 

「ふんぬうううううう!!」

(なんやアイツら、ホンマにアホなんか。荊軻たちまでベロベロに酔っぱらって、更にはケンカまではじめて…)

 

あの乱痴気騒ぎには霞は呆れているが、冷静になってくると逆に怪しくもある。これは華雄を何とか宥めつつ冷静になる方が良いと判断。

 

「馬引けぇええええええ!!」

「あっ、しまった!?」

 

これから冷静になって華雄を落ち着かせようと思った矢先、華雄の方が限界を超えてしまったようだ。

 

「張遼。私の忍耐もここまでだ!!」

「ちょ、待ちって。そら、あっこまでナメられて腹立つのはわかるけど!?」

「そうではない。奴らが戦を愚弄していることが、この私には許せんのだ。神聖なる戦場で酔った挙句の狼藉とは…おのれおのれええええ!!」

「わー、待て待て待て!?」

「出陣だあああああああ!!」

 

華雄を止められなかった事に対してマズイと焦る。

更には華雄の部下までも賛同して付いて行っている始末だ。華雄と部下たちの関係は実は堅い。

華雄は部下の為なら無茶をし、逆に部下たちも華雄のために戦うほどである。

 

「ああ…アカン華雄直属の部下たちも…くそっしゃーない。華雄を見殺しには出来ん!!」

 

ついに汜水関が開かれる。

 

「かかれえええええええええ!!」

 

物凄い剣幕の華雄が汜水関から勢いよく飛び出してきた。

 

「うにゃ?」

「なーんか聞こえた?」

 

華雄に気が付いた2人は同時に視線を向けた。

 

「貴様ら、そのザマはなんだ。私への侮辱は許せても戦への侮辱は許せん。それに荊軻と燕青、貴様らも見損なったぞ!!」

 

華雄が出てきたと分かった瞬間に雪蓮と鈴々はニヤリと笑った。そして酔っていた姿を何処かに吹き飛ばし、目をギラリと覚醒させた。

 

「ふっ、暑苦しいのが来たわね……皆の者!!」

「やっと出てきたのだ。迎え撃て。やっつけてそのまま関を攻めるのだ!!」

「な、なに…こやつら!?」

 

誰も酔ってはいない。これは華雄をおびき出すための演技にすぎなかったのだ。

全ては華雄をおびき出すための作戦だ。そのために彼女たちは華雄にある武人の心をこれでもかというくらいに突いたのである。

これが霞や恋であれば効果はなかったはずだ。だからこそ汜水関に華雄が居たことにある意味、幸運だったと言うべきだ。

戦の美学を逆手にとった計略であり、華雄には気の毒なほどに効いたのである。

 

「酔ったフリとは卑怯な…!!」

「こんな戦で本当に飲むわけないじゃない。流石に時と場所を弁えるわよ」

「そうなのだ」

 

誰もが酔っていない。誰もが酒を飲んで酔ったフリをしていたのだ。

 

「こやつら……!!」

「…ヒック」

「おい誰だ今の」

「「「……………」」」

 

誰もが酒を飲んでいなかったはずである。

閑話休題。

 

「ク…そういうことかい。ここはとにかく華雄を救わんと…アイツをなんとしてでも汜水関に連れ戻すんや!!」

 

後から霞の部隊も来るがもはや遅い。既に幽州・徐州連合と揚州の孫呉軍がもう動いているのだ。

 

「かかれー!!」

「突撃じゃあ。敵の後ろに回り込め。城門から切り離せ!!」

「なんや!?」

 

公孫賛や祭の部隊が今だと言わんばかりに突撃してきたのだ。

更に続けと愛紗の部隊に、粋怜、が勢いよく展開してきた。

 

「ああもう、わかってたけども……さっさと華雄を助けにいくでぇえええ!!」

 

策に嵌った華雄。それを助け出すために動く霞。そして待ちに待った雪蓮たち。

 

「待ちに待ったわよ。さあ皆の者。今こそ孫呉の健在を…いや、より強くなった我らの姿を天下に示す時ぞー!!」

 

 

267

 

 

ついに汜水関の戦いが始まった。

 

「張遼隊の脇腹を突け。華雄隊と合流させるな!!」

 

愛紗は的確に指示を出して華雄と霞の部隊を合流させまいと動いている。

 

「へえ。劉備たちもなかなかやるじゃない。でも手柄はいただくわ。程普隊はこのまま汜水関に向かえ。黄蓋隊、右翼に展開し、張遼隊を牽制。太史慈隊は私の後詰めについて!!」

 

雪蓮も自分の部隊に的確に指示を出していくのであった。

そんな戦いの中で霞は華雄を見つけるのを優先する。

 

「くそ、まだ追いつかん。華雄のヤツ、どこまで突っ込んでいきよったんや!!」

「放てーーー!!」

「矢が…く、うらぁああああ!!」

 

雨のように放たれた矢を霞は飛竜偃月刀で薙ぎ払う。

 

「張遼隊を進ませるな、ここで足止めするのじゃ!!」

「あれは孫呉の軍勢か!!」

「はあ!!」

「うらぁあ!!」

 

祭が力強く矢を放つが霞は瞬時に薙ぎ払う。

 

「ぬう…やるの!!」

「あの距離でか…なんちゅう腕や。って今度は徐州軍まで……あの青龍偃月刀は関羽か!?」

「ゆけーーー。我らの武勇をもって、玄徳様に勝利を捧げるのだ!!」

「関羽…戦いたいけど、ンな呑気なこと言ってられへん!!」

 

霞は隊を3つに分けて作戦を変更する。

1つは汜水関に戻し、1つはこの場の守りを、1つはそのまま決死の覚悟で華雄を連れ戻しに行くのであった。

 

「華雄。もう逃げ場は無いわよ!!」

「く…!!」

「張翼徳と一騎打ちするのだ。正々堂々と戦ったら勝っても負けても兵は許してやるのだ!!」

「もー、勝手に話を進めないでよ」

「で、どっちが戦うんだ?」

 

突出し過ぎた華雄隊は雪蓮と鈴々の部隊に挟撃され、兵の半数以上を失う大損害を被っていた。

いま華雄の目の前には雪蓮に鈴々、荊軻がいる。

 

「荊軻…!!」

「久しいな。こんな再会でなければ酒を酌み交わしていたところだ」

「…まったくだ!!」

 

華雄は斧槍を振り上げて構える。

 

「さあどうするかしら華雄。汜水関の前に一兵残らず屍をさらすことがお望みかしら。大人しく降った方が賢明だと思うけど?」

「ほざけ。我が華雄隊に降伏などあり得んわ。この斧槍でそっ首を刎ねて忌々しい言葉を吐けんようにしてくれる!!」

「ならしかたないわね」

「ぬああああああ!!」

 

華雄は斧槍を振り上げながら雪蓮めがけて一騎掛けをしてきた。

 

「はぁっ!!」

「てやあああああ!!」

 

華雄がまず狙ったのは雪蓮であった。

 

「ああ、孫策お姉ちゃんずるのだ。一騎打ちなら鈴々にやらせるのだ!!」

「しょーがないでしょ、だって向こうから突っかかってきたんだもの」

「鈴々よ雪蓮が負けるのを待つしかあるまいて」

「ちょ、荊軻ったら私が負けると思ってるの!?」

「孫策どこを見ている!!」

「あは、ごめんごめん。さ、続きをやりましょうか!!」

 

金剛爆斧と南海覇王が何度も交差する。

雪蓮は素早く切り裂くのに対して、華雄は力強く砕くように斧槍を振るう。一見、華雄の斧槍ならば南海覇王の刀身を軽く折りそうなものだが孫呉の宝剣なだけあって折れる事は無かった。

 

「その剣は業物だな!!」

「そりゃそーよ。なんたって孫家代々伝わる宝剣だしね!!」

 

金属音が響き、火花さえ飛び散る程にぶつかり合う。

何合も打ち合いは続く。しかし勝負にはいずれ終わりが見えてくるものだ。

 

(ふむ、分かってはいたが力は華雄の方が上かもしれないが速さは雪蓮の方が上だな)

 

荊軻は雪蓮と華雄の勝負を観察し、考えていた。彼女は華雄と雪蓮の実力を知っているからこそ戦いの様子がよく分かる。

単純な破壊力ならば華雄が上であるが速さは上なのは雪蓮だ。彼女の速い剣筋に徐々に華雄は押されて来ている。

そもそも雪蓮は戦いが続けば続くほどヒートアップしていくタイプなので剣を振るう速さも上がっていた。

 

「いいわよ華雄。燃えてきたわ。あなた、なかなか素敵じゃないの」

「くう…はぁはぁ。ほざけ!!」

「ふふ、面白くなってきたわ!!」

「こ、こいつ…!?」

 

瞬時に連続で剣を振るうが華雄は防いでみせる。ならばどれくらいの速さで剣を振るえば倒せるのかと考えしまい炎蓮のように凶悪な顔が一瞬だけ現れた。

もう少し楽しみたい雪蓮の考えは現実とは一致しないようだ。

 

「ここにおったか華雄ー!!」

 

霞の部隊が足止めしていた孫呉の部隊を切り抜けて来たのである。

 

「え、張遼ってことは…祭たちは突破されちゃったの!?」

「おお、待ってたぞ張遼!!」

「待っておったとちゃうわい。アンタ、こんな所で何してんねん!!」

「いや、孫策と一騎打ちをしていた!!」

「孫策と一騎打ちしていた……やないやろ!!」

「お前が加われば百人力だ。あそこに孫策がいる。よーし、突撃するぞ!!」

「アホぉ、後ろ見てみい!!」

 

後ろを見てみると粋怜の部隊が汜水関に突撃していた。

 

「急いで戻らんと関が落とされてしまう。ウチらも退くに退けんようになるで!!」

「くう…私のせいか…」

 

まさにその通りだが華雄を責める気は無い。華雄の性格を把握していながら止められなかった責任があると彼女は思っているのだ。

 

「ンなことはどうでもええ。ウチらが今死んだら誰が月や天子様を守んねんや。いいから退くで!!」

「…わかった。ここは退く。門の前の敵を突破し、汜水関にて態勢を立て直すぞ!!」

「よっしゃ、全軍退却や。後ろの敵を突破するでー!!」

 

霞が合流したことで華雄の上昇した熱も下がったのか冷静になり始めて最優先の動きをし出す。

 

「撤退させると思ってるの。てか、良いところで撤退しないでよ華雄。これからじゃない」

「確かにここで勝負を止めるのは私としても歯がゆいが……それよりも優先することがあるのだ。孫策よ決着はまたにするぞ!!」

 

そう言って華雄は霞たちと急いで汜水関に戻るのであった。

撤退する時に霞は荊軻と目があった。

 

(荊軻…)

 

目が合ったがお互いに何も言う事はなかった。

 

(てか、いつの間にか燕青が居なくなっとんな。あいつはどこに行ったんやろ?)

「退いたようね…なら追えーー、華雄を逃がすなーー!!」

「追い討ちなのだー!!」

 

撤退時というのならば好機でもある。雪蓮と鈴々の部隊は追い討ちをかけ始めるのであった。

 

「おらぁ、どけどけぇええええええ!!」

「邪魔だぁああああ!!」

 

後ろからの追い討ち部隊を引き離して霞と華雄は敵軍を切り崩しながら汜水関へと戻ってくる。

 

「なんと張遼め、華雄を連れて戻ってきおった!?」

「黄蓋殿。ここは私にお任せを!!」

「関羽!?」

「張遼!!」

「悪いがアンタと戦ってる暇はないんや!!」

「張遼、臆したか。飛竜偃月刀が泣くぞ!!」

「貴様ごときに張遼が臆したりするものか!!」

「アンタが挑発に乗ってどないすんねん!!」

 

華雄は挑発に乗ったが霞は挑発には乗らない。戦いたいが今はそれよりも優先順位があるのだ。

霞は愛紗と祭を無視して急いで汜水関に戻る。

 

「待てぇ張遼!!」

 

霞たちは愛紗たちと祭たちの部隊を突破し、汜水関まで走り抜けてゆく。

 

「張遼と華雄が戻ってきた!?」

「愛紗ちゃんでも止められなかったの…」

 

汜水関を攻めていた粋怜や公孫賛は霞たちが戻ってきた事に対してすぐに警戒する。

 

「流石だな。あの中へ突撃して華雄を連れ戻してきたか。あっぱれだ!!」

「いやいや、褒めてる場合じゃないですよ俵さん!?」

「だが、見事なもんだろう?」

「まあ、確かにそうね。よく関羽殿と祭の部隊を突破してきたものね」

「粋怜まで…」

 

俵藤太や粋怜といった武人たちは華雄を連れ戻してきた霞を称賛するのであった。

 

「どうする。ここで迎え撃つ?」

「いえ、ここは下手に迎え撃つよりも華雄、張遼は無視して一気に関へ雪崩れ込みましょう」

「はい。主殿を押さえてしまえば関は落ちたも同然です。張遼達は後続の部隊に任せましょう」

 

華雄と霞を相手にするよりも汜水関を落とした方がこの汜水関での戦いは勝利なのだ。

今は武将との戦いよりも汜水関を落とすことが最優先である。

 

「んー…みんなを待たなくていい?」

「劉備殿は待たれますか。ではお先に」

「全軍突撃ーーーー!!」

「ああー!?」

 

劉備は愛紗たちを待とうと考えたが冥琳と粋怜はそのまま汜水関を落としに向かうのであった。

 

「桃香様、私たちも…!!」

「う、うん。みんな関に突っ込むよー!!」

 

桃香たちも冥琳たちを追うように汜水関に突撃するのであった。

 

「アカン、破られたぁああああ!?」

「ぬぅあああああああ!?」

「てか、何か藤太もいたー!?」

 

急いで撤退する中で霞と華雄の目には粋怜と桃香たちが汜水関に突撃して入り込んでいくのが見えたのであった。

突出していた華雄隊と霞隊が戻った時にはすでに関の主要拠点は粋怜隊と桃香隊が制圧していた。

その後、関の内部は乱戦模様となったが華雄と霞の両将軍は戦場の不利を悟り、残っている兵士たちと共に汜水関を放棄して撤退していった。

かくして汜水関の戦いは呉と幽州、徐州連合軍の勝利に終わったのである。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回も二週間後予定の更新です。早く更新出来たら更新します。

さて、今回はタイトル通り汜水関攻めでした。
原作のあるルートでもあったように華雄を挑発させて門を開かせたというものです。
流れは原作と似ていましたが次回から徐々に物語は変化していきます。
正確に言うと董卓陣営で異変が起きていきますので…そこが藤丸立香たちが活躍する場ですね。
北郷一刀もこの反董卓連合で因縁の相手と会います。それは誰か!?

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