Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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はい。今日中に投稿しました。
今回は汜水関に続き、虎牢関を攻めます。
内容は…下記をどうぞ!!


反董卓連合-虎牢関攻め-

274

 

 

カツカツと人気の無い朝廷の廊下を歩くある人物。今の彼女が護衛も付けずに歩くのは不用心というものだ。それとも朝廷にはもはや彼女に抵抗する人間がいないからなのかもしれない。

もしくは襲われたところで返り討ちに出来る自信があるのかもしれない。もっとも彼女を知る人物たちは彼女が戦えるなんて思いもしない。

カツカツと歩いていると前方にある宦官が静かに立っていた。

 

「……献帝様は?」

「部屋で休んでいる。ふん、平気な顔していたが所詮はまだまだ子供だよ。あれも結局は霊帝のように傀儡にされる運命だ」

「………」

「どうした?」

 

宦官は目の前の彼女を見てとても違和感を感じてしまう。

 

「その顔でその口調だと…とても違和感があります」

「そうかな?」

 

宦官の前にいる彼女は気にもしない。

 

「汜水関は落ちた」

「知っています。まったく華雄と張遼は何をしているのでしょうか…不甲斐ないですね。ですが虎牢関にはあの呂布がいます」

「呂布か…あの強さは羨ましいものだよ。結局のところ力だからね」

 

呂布の強さは宦官たちでさえ一目を置くほどだ。

 

「彼女は政に興味は無い。だが手元に置いておきたい程の強さを持っているからね。これからの漢には残して起きたい駒だよ」

「いう事は聞かせられるのかしら?」

「出来るさ。言う事を聞かせる方法なんていくらでもある」

 

圧倒的な力を持つ呂布を操れると豪語する。とても愉快そうに簡単に出来ると言うのだ。

 

「それはそれは」

「何せこっちも呂布に負けない別の力があるからね」

 

本当に愉快そうに笑う。そんな愉快そうに笑う顔を見て本当に違和感を感じてしまう宦官。

 

「呂布は残しておくと言いますが…他は始末するのですか?」

「そうだね…賈駆や張遼は邪魔になるだろうから反董卓連合を片付けたらすぐにでも消すよ」

「その顔で賈駆と張遼を消すとか言うの凄く違和感があるのですが…」

「そう?」

 

首を傾ける彼女は面白そうに軽く笑う。

 

「なら次からは言葉に少し気を付けよう」

「それに反董卓連合を片づけたらと言いますが…本当に片づけられると思っているので?」

「ああ。もしも朝廷まで乗り込んできたらボクが全て片付けてやるさ。袁紹も、曹操も、孫策たち全員をね」

 

ニヤリと凶悪そうに笑うのであった。

 

「…ああ、ところで一部の宦官たちが怪しい動きをしていたよ」

「それもあなたが仕込んだものでは?」

「違うよ……そうだね、反董卓連合から助かろうと一部の宦官たちは皇帝を捕まえて差し出そうとしているんじゃないかな?」

「なっ!?」

 

彼女の言葉に宦官は冷静さを失う。

 

「まあ、どっちを差し出すのか……献帝はやめてほしいかな。今の漢の皇帝だし、これから利用していくんだからね。霊帝はもはや用済みだからいいけど」

 

宦官は血相を変えて急いで走り去っていくのであった。

 

 

275

 

 

虎牢関にて。

 

「ほっほっほ、あれが虎牢関ですか。まあ、見た目だけは立派な城塞に見えますわね」

「見た目どころか…麗羽さま、虎牢関には十万の敵軍と、あの呂布がいるんですよ。なぜ先陣なんてお引き受けになったんですか…」

「あら真直さん、軍師の貴女はご不満?」

「不満です。軍議の前、今回の先陣は曹操殿か公孫賛殿へ命じるべきだって何度も申しましたのにぃ!!」

 

袁紹の軍師である田豊は虎牢関を攻める前に行った軍議では曹操か公孫賛に攻めるように袁紹に提案していたのだが、結果はまさかの自分たちが攻めることになっていた事に驚いていた。

 

「どうしてあの2人に?」

「うん。先陣は武人の名誉だぞ。麗羽さまのキライなあの2人に手柄を譲ることないじゃんか?」

 

袁紹と文醜は何を言っているんだと言わんばかりの顔をしている。寧ろ虎牢関を攻める一番を取って来た事に感謝してほしいものだと言うしまつだ。

 

「逆。麗羽さまの覇業のためにも力を削ぐのが目的なの。虎牢関攻めで二人の戦力を消耗させようと思ったのに…」

「あ、そういう考えだったんだ」

 

田豊はこれでも考えに考えていた。今だけの結果ではなく、未来に続くために考えていたのである。

 

「真直って、なんだか根暗だよなぁ?」

「根暗!?」

「だって、いつも人をだますことばっかり考えてるだろ。もっとスカっと生きようぜ」

「それが軍師の仕事なのー!!」

 

軍師の仕事も色々とあるが確かに人を騙すというのも1つだ。

 

「おっほっほ。ですが今回ばかりは真直さんも、考えが少し足りなくてよ?」

「えっ…?」

「汜水関の戦いは貴女も御覧になったでしょう。たかが侠上がりの小娘と袁術さんの手下に董卓軍は無様に負け戦をしたのですよ。董卓軍は張り子のトラですわ。ここで先陣を金髪くるくる頭や、幽州の地味なお嬢さんに譲ってみなさい。力をそぐどころか、手柄を立てさせるだけですわ。お二人は余計に調子に乗ってしまうでしょう」

「ですから敵が簡単に汜水関を捨てたのは、初めから虎牢関を決戦の場に選んでいたからです。だから切り札の呂布も温存していたんじゃないですか!!」

 

もしも汜水関が董卓軍にとって重要な関ならば取り戻しに来たはずだ。しかし、後続にいた袁紹達が到着するまで時間があったのにも関わらず董卓軍は取り返しにも来なかった。

この事から田豊の言う通り、虎牢関に主戦力が揃っていると判断。だからこそ未来の難敵になるであろう曹操軍を送り出そうと考えていたのだ。

 

「あたいは呂布と戦うのが楽しみだよ」

「もうそんな呑気なことを言って…」

 

呂布こと恋の実力は反董卓連合にも伝わっている。基本的には戦いたくない相手であるが文醜は戦いたいと言う始末だ。しかし、その心意気は兵たちの士気を高めるには良い働きをしている。

 

「ふふん、真直さんは董卓軍を過大評価していますわ。もう誰にも手柄を譲ったりしませんわよ。ここさえ落とせば、洛陽までわたくしを遮る者は誰もいませんわ。虎牢関を抜き、わたくしたち冀州軍が洛陽一番乗りの栄光を手にしますわよ!!」

「おー!!」

「はい!!」

「ああぁ……胃が痛い」

 

軍師である自分のいう事を聞いてくれない主に彼女の胃はストレスの負担でキリキリしている。

 

「というわけ真直さん。虎牢関を落とす策は、もう考えているのでしょうね?」

「策ですか…とにかく十万の敵をどうにか減らさないと落とすも何も無いです。捻りはありませんが、繰り返し攻め。敵を釣りだす方向で…」

「それって劉備、孫策の攻め方と同じじゃないのか?」

 

それを言われると痛いところだ。しかし、今の段階だとそれくらいしか思いつかないのだ。

 

「真直さん、貴女はこの袁紹の軍師なのですわよ。もっと奇抜で斬新で一発で関を落とせるような策を献上しなさい」

「そんな策があるなら、私だって麗羽さまに先鋒をお勧めしましたよぉ…」

 

彼女の言う通りで虎牢関を落とせる奇策があれば自信満々に披露したはずだ。胃をキリキリと痛めていることもない。

 

「まあまあ、麗羽さま。ここは真直ちゃんの言う通り、正攻法で行きましょう」

 

早速、正攻法で虎牢関を攻めようかとした時、銅鑼の音が響いた。そして虎牢関の門がゆっくりと開いていく。

 

「あら、門が開きましたわよ?」

「まさか…討って出る気?」

 

門から出てきたのは陳宮こと音々音であった。

 

「あれは董卓軍の軍師の一人、陳宮ね。降伏…は考えられないけど」

「聞けーーーーい逆賊ども!!」

 

音々音は小さな身体とは裏腹に大きな声を響かせた。

 

「最強を名乗る者はこの世に数いれど、まことの最強は天下にただ一人。ここにおわす飛将軍・呂奉先こそ、まさしく古今未曽有天下無双の達人なのです!!」

 

後ろから呂布こと恋が出てくる。

 

「呂布…あの人が」

「へ…あれが呂布?」

 

文醜はなんかぼーっとした人だと思ってしまう。恋を見ると何処を見ているか分からないくらいぼーっとしていた。だが、それはその瞬間だけだった。

 

「さあ、呂将軍。袁紹の弱兵どもを蹴散らし、我が董卓軍の恐ろしさを思い知らせてくだされー!!」

「うん……ちんきゅ。出る」

 

カチャリと方天画戟を構えると恋の目付きが鋭く変わった。

 

「御意なのです。呂将軍の御出陣。者ども、深紅の呂旗を掲げよー!!」

 

呂布隊が気合を発声しながら一斉に動き出した。

 

「敵が来るよ!!」

「よっしゃあ、一番槍はあたいのもんだ!!」

「ほっほっほ、真直さん手間が省けましたわね?」

「で、ですが…!!」

 

まさかいきなり出てくるとは思いもしなかった田豊。籠城戦をしてくると思っていたのだ。そのため、混乱してしまう。

 

「さあ、迎え撃ちますわよ。呂布を打ち、虎牢関を攻め落とすのです。全軍突撃ですわーーー!!」

 

少し混乱している田豊を余所に袁紹は号令を出す。袁紹軍も一斉動き出したのだ。

 

「かかれーー!!」

「あああっ、ちょっと待って!?」

 

急いで、うーん、うーん、と頭を捻りながら考えて田豊は閃いた。

 

「はっ、読めました。麗羽さま、敵の狙いが読めましたよ。敵は十万で関に籠っていますが、こちらは三十万。大陸全土を敵に回し、将兵の士気は決して高くないでしょう。そこであえて最強の呂布を出撃させ、連合軍の出端をくじき、兵の士気を高めるのが敵方の狙いです!!」

 

では、どうするかと聞かれれば防御に徹するのが最善だ。自軍の損害を抑えつつ、敵の戦意を空振りさせるのである。

超早口で長い説明をした田豊であった。しかし悲しいかな、その説明は誰にも聞かれない。

 

「って、誰もいないーーーー!?」

 

田豊の悲痛な叫びが木霊するだけであった。

 

そんな木霊を聞かずに文醜は一番槍で呂布隊に突っ込んで行く。

 

「袁紹軍の二枚看板、文醜顔良の文醜といったら、このあたいのことだい。近づく奴はケガすっぞー!!」

 

二枚看板と言うだけあって文醜は呂布隊の兵士たちを斬っていく。軽々と大剣を振るう姿はとても力強くある。

 

「文ちゃん、深入りし過ぎだよ!!」

「ああ、斗詩。呂布なんか噂ほどじゃないぜ。あたいと斗詩の愛と勇気で敵をやっつけんぞ!!」

「もう、油断しちゃ駄目だってば!!」

「ほーっほっほっほ。猪々子さん、その調子ですわ。押して押して押しまくりなさい!!」

 

袁紹軍の士気は高い。これも文醜が一番槍として役割を果たしているからだ。

 

「はあ、はあ…麗羽さま!!」

「あら真直さん、どこにいましたの?」

「麗羽さまが置いてったんじゃないですか。ここは敵の挑発に乗って戦うべきじゃないです!!」

「ほほ、何を言ってますの。我が軍は圧倒的に優勢…」

 

優勢と言いかけた時、袁紹の言葉は複数の大きな悲鳴によって掻き消された。

 

「え…?」

 

誰か分からないが間の抜けた声が出た。

間の抜けた声を出させてしまう理由は遠くで恋が袁紹軍を一気に薙ぎ払ったからである。負けじと近くにいた袁紹軍の兵士は複数で恋に斬りかかるが方天画戟の一振りで全て薙ぎ払われた。

その実力は一目見ただけで段違いと分かるほどである。戦場のはるか後方から戦いを見ている孫呉軍や曹操軍も冷や汗がタラリだ。

恋が方天画戟を振る音、赤兎馬が大地を踏み鳴らす音が、離れていてもはっきりと聞こえてくる。

たった一振りで袁紹軍の兵士を何人も斬り伏せる。もはや斬るというよりも斬り飛ばしたと言ってもいい。

彼女が戦場を駆けると行く先々で十人単位で兵士が吹き飛ばされていくのだ。

まさに桁外れ。常識外、規格外の強さというもの。

 

「…ねえ、梨晏はあれに勝てる?」

「まあ、戦ってみないと…でも、見てるだけで嫌な汗をかいちゃうね」

「私も…」

 

好戦的な雪蓮でさえ、呂布の猛威には顔を引き攣らせていた。

雪蓮だけでなく、曹操でさえ恋の実力を見て反董卓連合で初めて苦渋な顔をしてしまう。

 

「噂は聞いていたけど…それ以上ね」

 

呂布が欲しいと思っていたが、あの実力を見てしまうと考えを改めてしまう。

手に入れようと思えば手に入れる事は可能だ。しかし、手に入れるために支払う対価を考えると無理に手に入れるなんて事は実行できない。

もしも手に入れるならば自分の信頼する夏侯惇に夏侯淵たちを亡くす事になるからだ。

 

(呂布を手に入れるのは諦めるしかないわね……でも張遼なら)

 

呂布を手に入れるのを諦めたが曹操はこの戦いで何も得ないということはしない。

 

「すげーな」

「うん。強いって知ってたけど…実際にこの目で見ると驚くよ」

 

北郷一刀と藤丸立香も呂布の戦いを遠くで見ていた。3万の黄巾党をたった1人で倒したという噂を本気で信じてしまうくらいの強さを見せ付けているのだ。

彼らが凄いと月並みの言葉しか出ないが、それは他の諸侯たちも思っていることである。

圧倒的なまでの強さ。戦いたくは無いが反董卓連合に参加している時点でいずれ戦わないといけない相手である。

 

「…董卓を救うには彼女と戦わないといけないんだな」

 

わけを話せば戦わずに済むかもしれないなんて甘い考えが浮き出たが、すぐに頭を振る。そんな考えでは反董卓連合ではやっていけないからだ。

 

「見たか、これこそ天下一。飛将軍・呂布奉先の強さなのです。さあ皆の者。呂布殿に続けーーー!!」

 

恋の無双で朝からは始まった虎牢関の緒戦は正午には決着がついてしまった。結果は誰もが想像してしまったように袁紹軍の攻撃は失敗に終わったのである。

呂布隊も深追いしなかったため、袁紹軍の損害は大きくなかったが恋の大活躍により田豊の予想通り籠城兵の士気を高めるだけの結果になってしまったのであった。

 

 

276

 

 

虎牢関では詠が恋と音々音の出迎えをしていた。

 

「恋、音々音、ご苦労だったね」

「……ん」

「詠殿の狙い通りなのです。反乱軍も董卓軍の強さを思い知ったでしょう!!」

 

ドヤ顔の音々音は凱旋気分で戻って来た。

 

「ああ。ホンマよー暴れてくれたわ。袁紹のヤツ、真っ青になって逃げていきよったな」

 

汜水関では苦汁を舐めた霞だったが虎牢関で恋が袁紹相手に大活躍をしたのを見て溜飲が下がる。今なら一杯やってもいいくらいの気分である。

 

「だが、袁紹は最後まで戦場に留まり、兵士たちを無事に引かせた。敵ながら天晴であったな」

 

華雄は華雄で敵ながら天晴と言うのであった。恋の実力に士気を失った袁紹軍であったが袁紹は最後まで戦場に残って鼓舞し続けた姿に感動すら覚えたのだ。

兵士を思ってのことか、誇りの問題かは分からないが袁紹もただでは撤退しないという気概はあるようである。

 

「指揮はお粗末だったけどね。まあ、本当に怖いのは曹操、孫策、劉備辺りだよ」

 

詠にとって袁紹は脅威ではない。反董卓連合内にいる厄介な存在さえ潰せば勝てると踏んでるのだ。

その存在たちが今あげた3つの陣営である。曹操の評判は前から聞いているため3つの陣営の中で一番の警戒度だ。

次に孫策の陣営は没落していたかと思えば引き連れて来た兵士の数に驚かされた。まだまだ牙は鋭いと再認識させられる。

最後に劉備の陣営だ。弱小勢力と思うが将の質は高い。霞でさえ劉備のところにいる関羽には一目を置いているほどだ。そして霞たちが持って帰った情報には、あの藤丸立香たちも劉備の陣営にいると聞いている。

反董卓連合と対抗するための案として出ていた1つが藤丸立香たちを捜索して、また董卓軍に所属してもらうことであったのだ。しかしまさか逆になるとは思いもよらなかったものだ。

 

「まさか敵になっているなんてね」

 

共にいた時間や共に戦った時間は長くは無かった。だが彼らとは力を合わせて朝廷の悪龍を倒し、危機を乗り切った仲間であると信じていた。

信じていたが裏切られた気分になってしまう。しかし、こんな世の中なのだから裏切りなんて当たり前であってもしょうがない。

 

「…詠殿、この先はどうするのです?」

「籠城しつつ、機を見て討ってでるよ。地の利はボクたちにある。しばらくの間は洛陽から兵糧の補給も受けられるしね」

「せやな。籠城を続け取ったら、敵さんはそのうち息が上がってまうやろ」

「うん…三十万の大軍勢がかえって仇になるよ。あれだけ我の強い諸侯が集まって、いつまでも陣の和が保たれるわけがない。一月も過ぎたら敵はきっとバラバラだ」

 

董卓軍が勝つ見込みがあるとすれば反董卓連合が我の強いところを突くことだ。

反董卓連合は基本的に寄せ集めの集団。彼女たちは分からないが総大将を決める時ですら適当に決まったような形であったのだ。

そんな集団が長く保たれるわけもない。董卓軍の籠城が上手くいけば敵の集団に不和が生まれ、バラバラになってしまい戦いどころでは無くなる。

 

「うむ、それまではどうにかして虎牢関を守らんとな!!」

「天下無双の呂布殿がいれば、一か月ぐらいは余裕で守り切れるのです!!」

「…ん」

 

頑張るぞーっと華雄と音々音は意気揚々。恋は小さく返事。

 

「不安なのは華雄やな。アンタ、またしょーもない策に引っかかって突撃するんやないで?」

「ク…もう言うな、分かっている!!」

 

汜水関の失態をからかわれて華雄は何も言い返せない。

 

「ははっ、けど皮肉やなー。世直しのつもりが、大陸の諸侯を全部、敵に回していまうなんて」

「それは…ボクの根回しが足りなかったよ。何進と十常侍を討つことばかり考えていたから…」

「あ、スマン…別に詠を責めてるやないねんで」

 

ちょい軽めに言ったつもりの言葉がグサリと詠の心に刺さったようだ。これには霞も「しまった」と思ってしまう。

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方のないのです。今は理解されなくても月殿の気高い志はきっと大陸の諸侯たちにも伝わるはずなのです」

「ああ…そのためにも絶対、勝たないかんな。ここで負けたら何もかもご破算や」

「うん。月のためにも、天子様のためにも、ボクたちが負けるわけにはいかない。皆、命を捨てる覚悟で敵を食い止めて欲しい」

「「「おう!!」」」

 

意気込んだ彼女たちだがこの後に凶報が届くとは思いもしない。

 

277

 

 

袁紹軍はその後も一週間にわたって攻勢をかけ続けたが意味は無かった。

決死隊を密かに忍び込ませたり、穴攻を仕掛けたり、攻城兵器を並べたりとありとあらゆる手段を用いて虎牢関を攻めたのだ。しかしどれも意味を成さなかった。

袁紹軍は万策尽きたという様子だ。なんせ敵に有効打を与えられず、味方の損害は増えるばかりなのだから。

董卓軍は汜水関で懲りたのか、どんな挑発をしようとも敵はまったく動じない。

もはやだれが手柄を挙げるかを競っている場合ではないのだ。虎牢関を落とすには袁紹軍だけの力だけで足りない。ここで反董卓連合軍の力を合わせるべきなのである。

 

「うっ……なんですの、その目は?」

「ふっ、何の用で集められたのかと思ってね」

「ああ、私たちは後ろで袁紹殿の手際を眺めていたらいいんだろ?」

「うううっ…」

 

このままでは駄目だと分かって袁紹は再度、虎牢関攻略のために軍議を開いたが曹操や公孫賛の視線が痛く、気に食わない。

自分から虎牢関を落としてみせると豪語しながら落とせずにノコノコ帰ってきたようなもの。恥ずかしくないわけがない。

 

「まあまあ、みんな。死人に鞭打つのはやめましょうよ」

「だ、誰が死人ですか!?」

「協力してほしいなら、突っ張ってないで素直に言えば?」

 

この連合の目的は董卓の打倒である。そのために集まったのだから協力を求めるのは恥ずべき行為ではない。

最も反董卓連合に集まっている各諸侯はそれぞれ己の目的を忍ばせてはいるのだが。

 

「……ぐ…え、ええ。残念ながら、わたくしの力だけでは虎牢関は落とせそうにありませんわ。どうか…皆さんのお力を貸してください」

「ふふ、仕方ないわね」

「ま、袁紹殿がそこまで私に頭を下げて、頼むなら考えてやろう」

「くぅうううう!!」

 

やはり曹操と公孫賛の勝ち誇ったかのような顔で「協力してやる」の発言に苛ついてしまう。その証拠に怒りを我慢する奇声をあげてしまう。

 

「ふひひひひ」

「袁術さん、何がおかしいんですの!?」

「ひぅ、な、何でもありませんわ」

 

自分を馬鹿にする笑いや言葉は今の袁紹は敏感になっている。袁術の笑い声なんかすぐに分かるようだ。

 

「で、どうやって虎牢関を攻めるんだ?」

「兵力はこちらが遥かに上だけれど、全軍であの関を攻めることは出来ないわ」

 

反董卓連合は即席の連合軍。上手く連携を組むのは困難だ。

 

「はーい、それだったら毎日交代でみんなで攻めたらどうでしょう?」

 

桃香が挙手して提案する。

 

「毎日、交代で?」

「うん。例えば、朝はわたしの徐州軍、お昼は曹操さん、夜は孫策さんって…順番に攻め続けるの。次の日はまた別の人たちが攻めて…」

「ははっ、桃香は面白いことを思いつくな」

 

桃香の提案に曹操と雪蓮はすぐさま考える。彼女の作戦は案外良いものだと思ったからだ。

 

「ふぅん。この連合軍にとっては有効な戦い方ではあるわね。ならもっと攻める間隔を短くした方がいいわね」

「そうね。早朝、午前、午後、夕刻、夜、真夜中…うん、日に六度攻撃を仕掛けても誰かの軍は休めるわ」

 

桃香の作戦の提案が通った。反董卓連合の強みは兵の数が多いことだ。

我が強くて連携は難しいが、それぞれ己の軍だけで攻めるといったのならば話は別だ。この作戦は虎牢関を落とすというよりも董卓軍の力を削ぐといった方が良い。

朝昼晩と一息つかせる暇も無く攻めればいずれ、精神的にも身体的にも削いでいくのである。やられた方はたまったものではないだろう。

恐らくこれから董卓軍は休まる暇も無い戦いを強いられることになる。

 

「揚州軍は当然、袁術さんとの軍と呉軍が別々に攻めてくださるのよね。一番数が多いのですから」

「ええ、そのつもりよ。いいわよね、袁術ちゃん?」

「う、うむ………なんで孫策に言うのじゃ。揚州軍の大将は妾じゃぞ」

「では、その作戦でいきましょうか」

 

虎牢関攻め第二戦目が始まる。

 

「ほっほ、皆さん、よろしくお願いしますわよ。逆賊董卓に、我が正義の軍団の力を見せつけておやりなさい!!」

「もう復活してるよ。調子のいい奴だなぁ」




読んでくれてありがとうございました。
次回は…またも今日中。

そろそろ洛陽での異変も表に出てきます。というか最初の冒頭がまさにそうでしたね。
冒頭に出てきた2人の正体も気になるでしょうがすぐにでも分かるかもです。

袁紹は今回で良いとこ無しですが次章で活躍させる予定です。
まあ、どのように活躍させるかは秘密。その活躍とは『あの戦い』なんですけどね。

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