Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
勢いあまって投稿してしまいました。
さて、今回から本格的に洛陽での異変が現れていきますので。
やっと藤丸立香たちが解決する異変ですよ。
それにしても今年のFGOのハロウィンイベントは何だろうなーっと思ってたら。
・・・え、スペース(宇宙)?
278
燕青はスキル『ドッペルゲンガー(B+)』を駆使しながら洛陽への侵入に成功した。
既に朝廷内に侵入し、件の月を探す。戦いの最中で知り合いである恋たちは発見している。反董卓連合の戦いで無事と言って良いかは悩むところであるが彼女たちは生きている。その後の戦いでどうなるかは燕青では予想なんてできないが。
(さーて月の嬢ちゃんたちはどこかね?)
真夜中の朝廷で燕青は気配遮断を駆使して動き回る。前に朝廷内に侵入したことはあるが全てを把握しているわけではない。
怪しいと思った箇所は重点的に調べている。この朝廷内を調べているのに目的は月たちを見つける事と、于吉が何か策でも何でも仕込んでいないかを見つけることだ。
(今のところ怪しいのはねえけど…いや、何か朝廷内に変な感じはするんだけどな)
朝廷内に侵入してから何か嫌な感じはするのだ。理由は分からないが不気味というか淀んだ空気を肌でベッタリと感じる。
それはこの朝廷が魑魅魍魎の住処であって、大粛清が行われた場所だからであるかもしれない。
良い意味なら厳正で神聖な場所であるが、裏ではどろどろした策略や横暴がまかり通っている場所でもあるのだ。まさに矛盾しているような空間である。
(それにしても静かだな。今、外には反董卓連合が攻めて来てるってのに…護衛の気配がねえぞ?)
今は戦時中。普通ならば重要な箇所は厳重に守りを固めてもおかしくはない。だが朝廷内は護衛の兵がいない。
(どういうことだ…って、あれは?)
燕青はある人物を発見した。こんな戦時下で真夜中に朝廷内を1人で歩くは怪しいというか不用心と思ってしまう。
そもそもこんな真夜中で何処に向かおうとしているかも気になるものだ。
(ん、あいつも一緒じゃねえのか。てか、あいつは虎牢関に行ってるんだっけか)
真夜中の朝廷内を1人で歩き回る人物。燕青は後を付いて行くように追いかける。
(……なんかただ歩き回ってるだけだな)
先ほどから、ある人物の後を追いかけているが特別な場所に向かっているというわけではない。ただ歩き回っているだけであった。
まるで夢遊病患者のような行動に似ている。
(もし本当に夢遊病だったら起こしてやるか?)
夢遊病だった場合、燕青は正規な解決方法は分からない。普通に軽く叩くか揺さぶって起こせばいいのかくらいしか思いつかない。
もしもここに華佗がいれば良いアドバイスが貰えたかもしれない。
(って、急に立ち止まったぞ?)
ピタリと立ち止まった、ある人物。そこから一歩も動こうとしない。
どうしようかと考えた結果、燕青は姿を現して声を掛ける事にした。
「よお、起きーー」
「やっと姿を現したな」
「ーーっ!?」
すぐさま燕青は後ろに跳んだ。
「侵入してきたのは知っていた。あとはいつどこで姿を現すかだけだった」
声を掛けようとした人物は燕青が二度見するくらい異様であった。
「おいおい」
「お前たち…劉備の目的は分かっていた。だからこうすれば侵入してきたお前が姿を現す可能性はあると思ったんだ」
(こいつ…劉備たちの目的を知ってやがる)
何処で情報漏洩があったのか分析を始めるがその前に気になる事がある。
目の前の人物からは燕青を知っている印象と全く違うのだ。もはや口調や雰囲気が別人なのである。
「お前のことは嫌でも知っているよ。侵入されたからにはいずれここの異変に気付くと予想した。その異変を持って帰られると今は困るんだよね」
(俺を知ってるだって…いや、まあ知ってるだろうけど)
燕青の目の前にいる人物は知り合いだ。しかし、いま会話していると目の前の人物はまるで別人だ。その部分が燕青を混乱させる。
風鈴がまるで別人だなんて言っていたのを思い出すが本当に別人である。
「今はまだここの異変を教えるわけにはいかない。ここでお前を始末する」
「へえ…俺を始末するってか?」
もはや目の前の人物は別人。もしくは偽物だ。
燕青は静かに拳を握る。理由は分からないが目の前の人物を一旦、黙らせる必要があるのだ。
相手は知り合いであるが燕青の優先度はマスターだ。マスターの敵になる存在は全て片付ける。
すぐに戦うスイッチを入れて動いた。
「んな!?」
瞬時に間合いを詰めて拳を突き出したが、感触は堅いモノを殴った感覚は拳に広がる。
「これは!?」
「死ね」
燕青の視界には大きな堅い物体が迫るのが映ったところで暗転した。
279
虎牢関の攻略方法が決まり、まず第一陣が曹操軍であった。
やっと出番かと思って曹操軍は虎牢関を攻めるのだが、まさかの事態に驚かされていた。もしくは出端を挫かれた気分である。
はっきり言って自分らだけでも虎牢関を落とす気でいたのだが勝つ負ける以前に戦いすら始まらないのだから。
「……虎牢関が無人?」
「はい。偵察を放ったところ、中は呂布どころかネコの子一匹いなかったそうですわ」
曹洪の報告に曹操は訝しんだ。だが嘘でそんな情報を報告するわけもない。そもそも曹洪ですら偵察の者から報告を聞いた時、冗談かと思ったくらいだ。
これは一瞬何かの罠かとも予想してしまうほどである。
「呂布も張遼も健在な現状、そもそも罠を張る意味すらありませんが…」
荀彧ですら敵側の真意が分からないでいた。
「都に立てこもって、本土決戦?」
徐晃がポツリと予想する。
「虎牢関が落ちた後ならまだしも、今の段階でそれをする意味はないだろう。向こうは将の一人さえ欠けていないのだぞ」
予想をしたが夏侯淵がその予想を否定。確かに虎牢関を捨ててまで洛陽に反董卓連合を近づかせるわけもない。
そもそも袁紹軍の攻めから虎牢関を防衛し、董卓軍の士気は高くなっている。それなのに虎牢関から1人もいなくなっているというのはあり得ない。
このまま反董卓連合をバラバラにするために持久戦という籠城戦を持ち込むのが董卓軍の最善手をするはずだ。
「他所から挙兵があったとは考えられませんか?」
「そもそも挙兵したい諸侯が集まったのが、この連合軍なんだけど」
「ここにいる以外の諸侯で、呂布と張遼の二人を呼び戻すほどの勢力を用意できる者はおそらく大陸にはいないでしょう」
小規模な敵なら誰か将を一人回せば済む話である。
「それに都での籠城戦となると民にも心を配らねばならない。それをするくらいなら、兵しかいない関で籠城した方がはるかに負担が少ないわ」
「やっぱ罠かなぁ?」
李典がムムムっと罠の可能性を示唆する。普通に考えて士気が高く、堅牢な虎牢関を捨てる程ならば何かあってもおかしくはない。
「連中にとって、籠城して稼ぐべき何らかの時が満ちたか…あるいは都で何かが起きたか?」
都で何かが起こった。それが何かは分からないが、虎牢関を捨ててでも優先しなければならない事態としか言えない。
「むぅ…華琳さまでもお分かりにならないとは一体何が起きているのだ秋蘭?」
「華琳さまが分からないのだ。私に聞かされても分かるものか」
無人な虎牢関だが怪しすぎるため近づけない曹操軍。
「いっそのこと、どこかの馬鹿が功を焦って関を抜けに行ってくれれば良いのですが…」
荀彧がそんなあり得ない事を言う。こんな怪しすぎる虎牢関なんて誰も近づくはずが無い。
「さすがにそんな馬鹿はいないでしょう。春蘭でもそこまではしないわよ」
「華琳さま…どうしてそこでわたしを引き合いに出すのですか」
しゅんとする夏侯惇。だがそんな時にまさかの情報が入ってくる。
「お姉さま。いま偵察の兵から、二陣に控えていた袁紹さんの軍が虎牢関を抜けに行ったと報告が!!」
「「「…………」」」
「どうかなさいましたか?」
曹純は皆の反応がいまいちよく分からなかった。
280
洛陽の南側である軍が攻めているという情報が入ったのだ。その軍こそが荊州軍。
既に城や関を三つも落として洛陽にあと城二つまで迫っているらしい。この事から反董卓連合が陽動に使われているということだ。
虎牢関攻略後。
「ほーほっほっほ。わたくしに掛かれば楽勝ですわ!!」
袁紹は上機嫌で高笑いを上げていた。
「よく言うよ。虎牢関に誰も居ないと分かった瞬間に我先にと向かったくせに」
公孫賛は袁紹の上機嫌さに対してジト目で見る。虎牢関の攻略もとい一番乗りは良いとこ取りのようなものだ。
曹操が誰も居ない虎牢関を罠か何かと思っていたところを第二陣として控えていた袁紹が無理矢理入り込んできたのだ。
「あら公孫賛さん。わたくしの功績に妬んでらっしゃるのかしら?」
「そうじゃねーよ!!」
「いいから軍議を進めるわよ」
曹操としては袁紹に虎牢関の一番乗りを横取りされた事に怒りは無い。寧ろ罠かもしれないのに功績のために危険と知りながら向かった事に対してある意味、称賛しそうな程である。
(まあ、麗羽が罠だと思っていたかどうか分からないけど)
一番乗りしたいがためだけに突撃したかもしれない。
「今回のことだけど虎牢関になぜ誰も居なかったか」
曹操としてはいくつか予想がある。
「もしかしてここにはいない荊州軍が関係しているのかしら?」
「ほーほっほっほ。よく分かりましたわね!!」
「それについては私から説明します」
田豊が立ち上がって、待っていましたと言わんばかりに絶対を始める。
「曹操殿の言うとおり、ここには居ない荊州軍が恐らく上手くやったんでしょう」
「上手くやった?」
「はい。荊州軍には汜水関を攻める前に別に動いてもらったのです」
その内容と言うのが洛陽を別の方向から攻めるというものだ。
荊州軍には今、攻めているルートと真逆のルートから攻めるようにつたえたのである。
反董卓連合は実のところ、洛陽に対して対角線に攻めていたのだ。
「なるほどね。正々堂々と真正面からと言っていたくせに全然じゃない」
「敵を騙すにはまず味方からと言うでしょう。ほーほっほっほ!!」
「これは敵軍にさえ気付かれないようにしていましたので。そのおかげで敵の主戦力は此方側に揃っていました」
董卓軍の主戦力が此方側に集中していたおかげ荊州軍は楽々と進行することができていたのだ。気付いた時にはもう遅く懐に入り込んでいるというわけである。
「対角線上に攻められれば敵は戦力を分断するしかありません。そうなれば数の多い此方が有利です」
荊州軍が勝てなくても陽動にさえなればよいのだ。まずは反董卓連合の本隊が陽動になり、荊州軍が逆から攻める。敵が荊州軍に気付いたならば今度は荊州軍が陽動となり、本隊が攻める形になっているのだ。
「まさか虎牢関から敵が全員いなくなったのは嬉しい誤算ですけど」
予想していたのは敵軍が荊州軍に気付いて虎牢関から兵士を割くと思っていたのだ。だが、まさか全員いなくなるとは嬉しい驚きである。
荊州軍の動きは相当早いのでしょうか。もう洛陽近くまで進行してるのかしら?)
嬉しい誤算ではあるが全ての敵兵がいなくなるという部分は気になるところだ。 嬉しい誤算という言葉で片付けたがよくよく考えると疑問が湧くのだ。その疑問というのは曹操も抱いている。
(田豊の説明は話の筋が通っているわね。でも気になるのがやはり虎牢関から兵が全員いなくなったこと)
董卓軍が荊州軍に気付いたとしても虎牢関から全ての兵を退かせたというのが疑問なのだ。全てではなく、一部を退かせて荊州軍にぶつけるのが普通ではないのかと思うからである。
(全軍を退かせるにしては理由が足りない気がするわ。もしかして本土に荊州軍と本隊である私たちを集めて決戦にする気なのかしら?)
もしくは別の理由が洛陽で起きているかだ。
「と、曹操あたりは考えているかもしれんな。いや、勘の鋭い者ならそう予想しているだろうな」
「別の理由…」
徐州軍の陣地で藤丸立香たちも虎牢関から何故、董卓軍が全て撤退したしたかを考えていた。
「全軍が撤退する程の理由だ。いくら荊州軍が秘密裏に洛陽に近づいたとしても虎牢関から全ての軍を撤退させるには理由が足りない」
諸葛孔明も曹操と同じく、荊州軍が秘密裏に攻めて来たといっても虎牢関から全ての軍を撤退させるには理由が足りない。
もしかしたら本当に別の理由があるかもしれないのだ。
「虎牢関から全軍が撤退する理由……もしかして月さんや皇帝に何かあったとか?」
藤丸立香が別の理由を口にした。その理由は確かに虎牢関から全軍撤退させる理由には値する。
「ふむ…マスターの予想は当たっているかもしれんな。正直なところ私もそう予想した」
諸葛孔明も同じく予想していたようだ。
月と皇帝に何かあったとして、荊州軍も洛陽に近づいている。虎牢関を捨ててまで洛陽に戻るには十分な理由だ。
その予想が正解だったとしても月と皇帝である天子姉妹に何があったかまでは分からない。
「彼女たちに何かあったと仮定して全軍が撤退するくらいだ。余程の事だろうな」
「余程の事って?」
「そこまでは分からんよ玄奘三蔵」
余程の事。もしかしたら月や天子姉妹に命の危険があるレベルかもしれない。それならば虎牢関から全軍が撤退する理由になる。
「貂蝉は何か分かる?」
「う~ん…わたしも分からないわぁ」
「……于吉の可能性は?」
ここで于吉の話になる。今の段階だと于吉が何か仕込んでいるようなものは見つかっていない。
反董卓連合には何も無いが、もしかしたら洛陽では何か仕込んいる可能性は無きにもあらず。
「それはあるかもねぇん」
そもそも于吉は朝廷の張譲と繋がっていた。ならば朝廷には他に繋がっている宦官がいてもおかしくはない。
最も大粛清があったのだから死んでいる可能性もあるが。
「そうなると洛陽に行っている燕青が帰ってくるのを待つしかないね」
「そうね、立香ちゃん」
洛陽の方で何かがある。それは洛陽に潜入している燕青が帰還するのを待つしかない。
「……まさか燕青が見つかって刺客扱いになっているとかないだろうな」
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荊州軍は洛陽まで残り関二つというところまで進軍していた。荊州軍は袁紹から秘密裏に洛陽を攻める作戦を命令されたのである。
その作戦というのが反董卓連合の本隊を陽動として別ルートで洛陽を攻めるというものだ。作戦が上手くいっているのから荊州軍は順調に洛陽に近づいている。
「紫苑さま。このまま進軍しましょう!!」
「いいえ、今日はここまでにしましょう焔耶ちゃん」
「何故ですか。順調に関を破りに破って破竹の勢いでここまで来ました。兵たちも士気が高いのですよ!!」
荊州軍は順調すぎるほど進軍している。勝利が続いているため兵士たちの士気は相当高いのだ。
「私も黄忠殿に賛成です」
「む、お前は確か蘭陵王だったな」
荊州軍には藤丸立香たちの仲間から数人ほど同行させている。そもそもこの作戦はカルデアの諸葛孔明が袁紹に提案したものだ。
そして作戦には裏の目的があるため、蘭陵王たちを同行させたのである。裏の目的というのは保険だ。汜水関で燕青が侵入できなかった場合、もう1つのルートから侵入させるためのものである。
侵入役と抜擢されたのが武則天だ。彼女も荊州軍に同行している。他に同行しているのは呂布奉先に卑弥呼、華佗たちである。
「魏延殿の言う通り兵たちの士気は高いですがここまで近づきました。向こうも我々に気付いているでしょう。何か仕掛けてくる可能性は高い」
「だが、この士気の高さならば大丈夫だろう」
「ですが、疲労は溜まっています。士気が高いと言って疲労を無視して進軍するのは危険です」
兵士たちの士気が高いのは確かだ。しかし順調すぎるせいで進軍は早く、疲労を無視してきたのである。これ以上は士気が高くても危険だ。
「そうよ焔耶ちゃん。士気は高いけどよく見ると兵たちの疲労が見えるわ。そんな状況で進軍して董卓軍が罠や奇襲を仕掛けてきたら危ないわ」
「むう…慎重すぎませんか」
魏延としては兵の士気が高いまま進軍したかったようだが紫苑としてはここで進軍を止めようと考えている。
紫苑の考えは蘭陵王も賛成だ。魏延は何か言いたそうだが決定権は紫苑にある。
「むう…」
「ふははは。どうやら滾って仕方が無いといったようだのう!!」
「ひっ!?」
卑弥呼がドドンという効果音が付きそうな感じで登場してきた。いきなりだったので魏延は可愛い悲鳴を小さくあげてしまう。
「ならばその滾りをこのわしが受け止めてやろうではないか!!」
「い…いや、いい!!」
「遠慮するな。ほれほれぃ!!」
「く、来るなー!?」
魏延と卑弥呼の追いかけっこ開始。
「黄忠。兵士たちの手当が終わったぞ。重傷者もいないぜ」
「ありがとう華佗殿。あなたが居てくれて助かるわ。それに蘭陵王殿たちも力を貸してくれて助かるわ」
「いえいえ。我らも出来ることをしていますので。それに徐州軍から我らしか出せないというのは申し訳ない」
本当ならば徐州軍からも兵を出すべきなのだが、そこまで兵を割けるまでいないのである。そこで蘭陵王たちだけというのは正直な所どうかと思われても仕方がない。
「いえ、蘭陵王殿たちには十分に力を貸してもらっているわ。あなたたちが一番に敵に向かって戦ってくれることで兵たちも続いていけますもの」
蘭陵王たちは荊州軍では一番槍で活躍している。知り合いといえど、流石に荊州軍の部隊を指揮できるわけはない。
彼らが出来るといえば、やはり一番槍として戦うことなのだ。特に蘭陵王に呂布奉先、卑弥呼の3人の特攻は荊州軍の士気を上げるのに役に立っている。
「今日はもうに休息しましょうか。明日の早朝すぐにでも動けるようにしましょう」
「そうですね、それが良いと思います」
282
洛陽にて。
「…そう。虎牢関はやはり連中の手に落ちたの」
「まあ、こればっかりは間が悪いとしか言えんな。こっちが無事で何よりや」
良い報告を聞きたかったが状況が状況である。悪い情報を報告で聞くなんて最初から予想していた。
「はあ、連合にばかりかまけていたら、この有様よ」
詠はため息を重く吐いてしまう。
実は董卓軍にとって悪い状況が3つほど発生したのだ。
まず1つ目が荊州軍が別のルートから攻めてきたというものだ。
「荊州軍は洛陽まで関2つというところまで来て進軍が一旦止まっているとのことですぞ」
「恐らく本隊の連合軍を待っているのでしょうね」
「ええ、洛陽から討伐の兵を出せば、連合にその隙を突かれるだろうし…かといって警戒をしないわけにもいかないしね」
荊州軍だけとはいえ油断できない。
「張遼なら何とかならないのですか?」
「虎牢関から慌てて戻って、荊州軍蹴散らして、また引き返して、連合との決戦か。死なす気かボケ」
「その合間に洛陽で時間稼ぎをしても単に霞が荊州軍と連合に挟撃されるだけだろうしね。…ほんとボクたちが嫌がる配置をよくわかってるよ」
更に重いため息を吐してしまう。悪い状況はまだ2つある。寧ろ、残りの2つが虎牢関から董卓軍を全軍撤退させた本当の理由だ。
「それよりも天子様は大丈夫だったんですか。何人かの宦官どもが天子様姉妹を奪いに来たと聞いたのですが」
「天子様の身柄を手土産にして向こうに降ろうとしとったんやろ。逃げるなら一人で逃げえっちゅうねん」
2つ目の理由は何人かの宦官が董卓軍の敗北を予想して、助かるために天子姉妹を奪って反董卓連合に降ろうとした事である。
「そちらはもう済んだわ。…ああ、黄。天子様たちのご様子はどう?」
「主上様はどうにかお休みになりました。白湯様も今は華雄を護衛に付けた部屋で月とお茶を飲んでおいでですよ」
献帝と霊帝を身柄にとって自分たちは助かろうとした。そんな事を許されない。
「分かったわ。これからはもっと護衛を付けることにするわ」
「ええ、そうしてください。それでは私は主上様のところに戻ります。あとはよしなに」
そう言って趙忠は去って行った。
「……一応でも同僚が死んだっちゅうのに表情一つ変えんか」
「まあ、黄はああいう奴だし。それよりも月が心配だよ」
最後の3つめの悪い情報というのは月が刺客に襲われたということだ。
幸い、傷1つなく無事であった事に詠たちは心から安心したが洛陽の朝廷に刺客が侵入してきた事が問題である。
今の朝廷はギスギスしたように厳重態勢で兵士たちが警備しているのだ。
「まさか月が刺客に襲われるなんてなぁ…いや、可能性はあるんやけど」
「まさかボクたちが虎牢関にいる間に放たれるなんてね」
「どこの刺客か分かっているのですか?」
どこの刺客か。それも重要な情報である。音々音は詠に確認するが首を横に振られる。
「いいえ、分かってないわ。暗殺に失敗した刺客は逃げたようだし」
「むう…」
「でも、本当に月が無事で良かったわよ」
「ま、確かにな」
刺客に暗殺されかけたのに月は今も無理している。詠としては早く月を安心させたいという気持ちが焦ってくる。
そもそも暗殺されかけたのに近くに自分がいなかったことに自分自身に責めているほどだ。
「で、どうするんや。籠城か?」
「ここで籠城しても意味がないってば。汜水関や虎牢関に籠るのとはワケが違うし…第二、第三の荊州軍が現れる可能性あるし、宦官がまた裏切る可能性もあるわ。それに荊州軍の噂を聞いて洛陽の民も不安がっているのよ」
汜水関を落とされ、虎牢関も捨ててしまった。更に荊州軍と反董卓連合の本隊に挟まれている状況だ。
更に洛陽や朝廷内では不安がって問題を起こされても困るのだ。ならば勝つために出るしかない。
「なら、決戦か?」
「…不本意だけどね。本当に不本意なんだけどね!!」
「何で二回言ったし」
「とにかく、今は全力で連合を叩くしかないよ。連合を蹴散らせば荊州軍も退くでしょ。最悪、荊州軍だけなら籠城すれば態勢は整えられるから」
「連合も一枚岩ではないですし、決戦をちらつかせれば、ホイホイ乗ってくると思いますぞ」
董卓軍もついに決戦を決めたのであった。
「そうだ。霞、ちょっと来てくれる?」
霞だけ詠に呼ばれてついていく。いざ、決戦と決まって再度覚悟を決めたと思ったところで何かあるのだろうかと思ってしまう。
詠の顔を見るとどうも難しい顔をしているのだ。そして連れられた来た場所はある部屋であった。その部屋が開かれるとその中身は惨状と言う他無い。
「うわぁ…これ、もしかして黄がやったんか。エグイことすんな」
霞が見た光景は宦官が惨殺されたものであった。
「本人は主上様をお守りするために必死だったと言っているけどね。どう見る?」
「そうて、こんなん…加減が分からなかったっちゅうより、加減せんかったの間違いやろ」
ここで殺された宦官たちが天子姉妹を奪って反董卓連合に降ろうとした者たちだ。
「黄は必死やった言うけど…どこをどうやったらここまで殺せるんや」
殺された宦官たちを見ると四肢がちぎれていたり、穴が空いていたりと惨い状態だ。
そもそも趙忠がやったとは思えない。彼女は必死だったというがここまで出来るのかと言われれば考えにくいのだ。
火事場の馬鹿力というものがあるが、そうだったとしても本当に彼女がやったのかと思うと訝しかむ。
「そこはボクも気になったのよ。そこで考えたのが…」
「黄に協力者がいるっちゅうことか?」
「可能性としてはね。でも彼女は霊帝様を裏切る事は無いから大丈夫だと思うけど…注意はしておいて」
「分かった」
趙忠は霊帝至上主義。天子姉妹を守る董卓軍に不利益をもたらすことは考えられれないが万が一というものあるのだ。
「それにしても連合かー。虎牢関も捨ててもうたし、都での決戦は覚悟してるけど…いきなりぶつかるんか?」
「ううん、しばらくは向こうの手の内を見るべきだと思う。連中は出来るだけ表には出てこないようにするだろうしね」
「あー、まあなー。…せめて向こうに味方がおりゃ、こういう時に上手いこと誘導してくれるんやろうけどな」
そう思って霞は藤丸立香たちを思い浮かべてしまう。
「あー。これが四面楚歌っちゅうやつか」
「今に始まった事じゃないわよ、そんなもの」
「年季が違うなぁ…けど詠。あんたも、隙があったら月連れてとっとと逃げぇよ?」
急に霞の声がより真剣なものになる。先ほどから真剣であるが今のはまるで言い聞かせるような感じのトーンの声だ。
「霞?」
「ウチも華雄も…恋は何考えてとるかよう分からんけど、戦場で死ぬ覚悟なんぞとっくに出来とる。けどな、月はこんな所で死なしたらあかん子や」
「あんた、まさか…」
「戦場にずーっと立っとるとな、死にたがっとる奴の事はなんとなく分かるようになんねん。自慢出来る特技ちゃうけどな」
彼女は決戦で命を落とす覚悟だ。それは霞だけではなく、他の者たちもそう覚悟している。
「けど、これだけ血みどろのボクたちが朝廷に残ってたら悪い血を抜いた意味が…」
「アホ。誰もここに残れなんぞ言うてへんわ。何でもあるやろ。どっかの村に紛れ込むとか、楼蘭を抜けて西に逃げるとか。ウチらより賢い頭付いとんのやから、ちゃんと使い」
詠は黙って霞の言葉を聞いていく。
「何進をハメた時、月んためなら何でもするて決めたんやろ。なら、戦場を逃げ出した卑怯者の汚名くらい、大したことあらへんて。どうせ逃げた後や。何言われても自分らの耳には入らへんのやから好きに言わしとき」
「…まったく。他人事だからって軽く言ってくれちゃって」
「他人事やからな」
その言葉で軽く笑う。
「あーあ。相国、やっぱりボクがなれば良かったな。そして月を涼州にでも逃がせば良かったよ」
「アホ、中老将の月ならともかく、お付きの軍師ふぜいがいきなり相国なんぞになれるかい。あの肉屋でさえ、大将軍になるまでに何年もかかってんで」
「分かってるよ。言いたかっただけ。ならこの話はもうおしまい」
ハイハイ、終わりと言わんばかりに廊下を歩いていく。
「あんたも死ぬんじゃないわよ。泥水をすすってでも生き残りなさい」
「あはは。もとよりその覚悟や。死にそうになったらウチかてあんたら放っといて好きにさせてもらうで」
「うん。その方がこっちも気楽に命令が出せるわ。人が死ぬのは正直もうたくさん」
「ほな、ウチも恋とねねの手伝いでもしてくるわ。連中もそろそろ来るやろうしな」
「分かったわ。ありがと霞」
283
「天子様。お茶が入りましたよ」
「うむ。苦労であるな」
「ここは私しかいませんから、構いませんよ。白湯さま」
月は献帝にお茶を出していた。献帝は宦官たちに奪われそうになったのだ。
まだ皇帝として間もない彼女には恐怖のようなものだ。もしくは時期皇帝として生まれたからには分かっていた事かもしれない。
そんな彼女を癒そうと月はお茶を振舞っているのだ。
「……ん、月。やっぱり戦うの?」
「はい。家臣の専横によって炙り出された官僚の浄化が終わった以上、残る大きな歪みは名家の座を笠に着て不正を当然とする袁家のみ。その筆頭たる袁紹と袁術を誅すれば朝廷の浄化はほぼ終わります」
「その戦い、朕がお願いしても止められないのかな」
献帝は自分が皇帝ならば反董卓連合の戦いを止める事が出来るのではないかと思い立ったが月から首を横に振られてしまう。
「残念ながら。袁家を焚つけるためとはいえ、私が蕭何さま、曹参さま以来の相国の位を賜った時点で堤は切れてしまいましたから。本来なら白湯さまがもっとご成長なさってから、きれいになったこの国をお返しするつもりだったのですが…私たちの力が及ばなければ、それも思った以上にはやくなってしまいそうです。申し訳ありません」
「ううん。朕が無力だから月たちにばかりツライ想いをさせてるんだもん。朕が大きくて、もっと皆に話を聞いてもらえてたなら…」
「それも巡り合わせです。何進で炙り出した不正の証も、時が絶てばすぐに消えてしまいます。荒療治なのは承知の上ですが…正すには今しかありませんでした」
月自身も今回の大粛清は確かに無理矢理すぎたと思っている。しかし、そこまでしなければ腐った漢を綺麗にすることができないのだ。
「私がいなくなった後は、涼州の楼杏さんを大将軍に任命してください。彼女なら、きっと私以上に天子様のお力になってくれるでしょうし、私との不仲も噂されてましたから、皆の気持ちも集められるはずです。後は…幽州に追放した風鈴さんをお戻しください」
「…前に月が言っていた、曹孟徳は?」
「彼女の激しく苛烈な気性…悪い血を抜き、弱り切った今の朝廷にはあまりにも激しいように感じました。薬も強すぎれば毒となりますから。白湯さまは仁を重んじ、徳を集め、周りを思いやれる…そういった人物をお傍に置きください。そのような癒し手が、これからの朝廷には必要なはずですから」
「それは…月のことだもん」
「私は既にこの手を血に染め過ぎました。このまま天子様のお側にいては、それこそ禁城を清めた意味がありませんから」
自分が血で汚れているのを最初から理解している。そんな彼女が天子である献帝の傍にいることはできない。
「月…大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ白湯さま」
献帝は月の身を案じている。献帝から見ても今の月は無理をしているのがまる分かりだ。
化粧で目の下にある隈を隠しているが献帝にもそれくらいは分かる。献帝や詠たちには見せないが1人の時は身体がフラフラで覚束ないのも知っている。
更に彼女が刺客に襲われた事も知っている。もしもを考えると今、目の前に月が死んでいたかもしれないのだ。
今の彼女は無理をし過ぎている。いつ倒れてもおかしくないからこそ心配なのだ。
「大丈夫じゃないもん。月は襲われたんだよ。もしかしたら死んでいたかもしれないのに…」
「その時は……それが私の運命なのでしょう」
「そんな…」
刺客に襲われたが今まさに生きている。ならばまだ彼女は生きてやるべきことがあるということだ。
「失礼します!!」
「天子様の御前ですよ。控えなさい」
「構わぬ、何用であるか」
献帝とのお茶をしている中に兵士が入ってくる。この空間に入ってくるということは伝わる情報は重要なものということだ。
「はっ。賈駆さまから逆賊の軍が近づいてきたと連絡がありました」
「分かりました。すぐに向かいます」
ついに反董卓連合も洛陽に近づいてきた。虎牢関が落とされた。正確には捨てたようなものだが、突破されたのなら反董卓連合が洛陽に来るのも時間の問題であったのだ。
それは決戦が近いということである。
「それでは白湯様。行ってまいります」
「月」
「はい?」
「朕は…月を相国にしたこと、何も後悔しておらぬ。そなたが朕の臣であること、誇りに思うぞ」
「その言葉だけで十分です。主上様」
その言葉を誇りに思う。
読んでくれてありがとうございました。
次回もまた今日中ではなく、未定です。私として二週間後には更新したいです。
さて、董卓陣営というか洛陽でもいろいろと異変が起き始めました。
特に冒頭ですね。燕青が見つけた人物もとい、反撃してきた人物は誰なのか。
この3章もそろそろ終盤です。どんな内容になっていくかはゆっくりとお待ちください。
終盤では色々とありますので。