Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
今回は前回の話の裏側になります。
このような経緯で前回の話に続くような形になりますね。
そして…最後はまた新たな展開も。
288
反董卓連合の本隊が洛陽の南に陣を展開する前。
黄忠率いる荊州軍は二ノ関まで進軍し、落そうと攻めていた。
「流石にここまで近づけば敵の守りもより堅くなってきたわね」
「そのようです。正直に申し上げると既に荊州軍の矢などはもう少ないのではないでしょうか黄忠殿?」
「…ええ、ここまで進軍しましたが矢の数はもう少ないわね。それにやはり兵たちにも疲れが見えてきたわ」
反董卓連合の本隊が結果的に陽動として動いたおかげで荊州軍は洛陽に苦戦無く近づいた。しかし、二ノ関まで近づけば相手も流石に気付く。
董卓軍が二ノ関に援軍を寄越したことで荊州軍は今まで突破してきたように出来なくなったのだ。更に荊州軍のみでここまで進軍した結果、武器や食料は尽き欠けている。
「だれかある」
黄忠が兵を呼ぶと今の状況を反董卓連合の本隊に伝えるために伝令役を命じる。
「袁紹殿たちに荊州軍は二ノ関にて足止めをされていると伝えてちょうだい」
「はっ、黄忠さま!!」
「ここまで来ると何か策を考えないとね」
二ノ関には董卓軍の将である呂布や張遼、華雄はいない。兵士が多めに援軍と寄越されただけである。
一騎当千の将がいない今ならばまだ敵側の士気は高くない。
「時間はかかるかもしれないけど関を落とせないことはないわね」
「紫苑さま。ここは私にお任せください!!」
「焔耶ちゃんが?」
「はい。ワタシとこっちの呂布で関の門を突貫してみせましょう!!」
「□□□□ーー!!」
魏延と呂布奉先はガンガンやる気はあるようだ。
「具体的にはどうやって?」
「ワタシと呂布で門を無理やり破壊します!!」
「却下」
「何故です!?」
ガビーンとリアクションをする魏延であった。理由は説明しなくても分かるというものだ。
「それだけの説明じゃと、ただの脳筋ではないか」
「誰が脳筋だ!!」
「お主じゃ」
武則天を睨む魏延。だが睨まれている武則天は気にもしない。
「まあまあ。しかし魏延殿、それだけではただ突撃するだけです。何か考えはあるのですか?」
二人の間に入いる蘭陵王は魏延により詳しく説明を求める。
「そうだな。こっちの呂布には衝車を…というか槌の部分を持って門に突撃してもらう。こいつの膂力なら簡単に持ち上げて走れるだろ」
「□□□(余裕ナリ)」
呂布奉先は衝車の槌の部分を軽々しく持ち上げてみせた。
「こいつだけで衝車の役割ができるからな。それにこいつが槌を持って走って突撃した方が威力は高い気がするし」
彼女の言葉に「まあ、確かに…」と誰かが呟いた。何人かの兵士が衝車を動かすよりも呂布奉先が槌を持って突撃した方が効率的にも良いのだ。
更に魏延は続けて説明をする。呂布奉先が槌を持って突撃するのはいいが、敵も何もしないわけはない。
無論、敵も門を破らせまいと矢など射ってくるはずである。そのために空いた兵士は盾を持って先導させるのだ。
「なるほどのう…意外に考えていたな」
「意外は余計だ!!」
「じゃが、こやつを盾で守るというが…体型的に難しくはないか?」
「………」
呂布奉先は荊州軍の中でも一番大きい。兵士たちが盾を持って守ると言っても体型的に困難だ。
盾を持って呂布奉先の下半身部分は守れても身長的に上半身部分は届かない。
「身長が2メートル…1尋以上の者はおるかー?」
呂布奉先以上の身長を持つ兵士は残念ながら荊州軍にはいなかった。
「……う、馬を使いましょう!!」
蘭陵王の一言で何とか魏延はある意味窮地から脱出。
「しかし、馬を使うと自分で言いましたが…その馬を狙われたらマズイんですね」
馬に乗って、盾を持った兵士が先導するのはいいが、足である馬が狙われたらひとたまりもない。
「そこはしょうがないだろう」
「…それを言えばおしまいですよ」
「勝つためなら多少の無茶はするさ」
魏延の言葉にため息を吐いてしまうが、彼女の言葉は間違っていない。時と場合によっては無茶をするなんて誰もが分かっている。
そもそも戦をするという行為に無茶も何もない。勝つか負けるか。生きるか死ぬかなのである。
「全ての馬を投入なんて出来ないわよ焔耶ちゃん」
「わかってます紫苑さま。少数精鋭でやりますよ」
「では、私も同行させてください。我が愛馬とともに駆け抜けましょう」
呂布奉先が槌を持って後衛に。前衛には蘭陵王と魏延が馬に乗り、更に盾を持った兵士たちを馬に乗せて整列させた。
「よし。我ら魏延隊の勇士を見せてやるぞ!!」
「「「おおーーーー!!」」」
「ワタシに続けーー!!」
魏延と蘭陵王が先頭になって駆けていく。その後方から槌を持った呂布奉先が追いかけるように駆け抜ける。
後ろの陣では紫苑が無事を願いながら見届ける。
「「「おおおおおおお!!」」」
気合を発しながら魏延隊は二ノ関の門へ突撃する。董卓軍もすぐに気付くだろうと予想しており、蘭陵王と魏延は武器を持っていつでも対応できるように準備はできていた。
2人は矢だろうが投石だろうが己の武器で弾き返そうと奮起しているのだ。
「いつでもこい!!」
そう意気込む魏延なのであるが、何故か董卓軍からの攻撃は来ないのである。
もうすぐ二ノ関に近づいているのだが関から矢も投石も来ないのだ。これに蘭陵王は疑問に思う。魏延だって気にはなっている。しかし、ここまで勢いが乗ればいっきに二ノ関に突撃しかない。
「よぉし。このまま左右に分かれて呂布に道を譲るぞ。ワタシは右に曲がる。蘭陵王は左に曲がれ!!」
「承知しま…!?」
左右に曲がろうとした瞬間、目の前にある人物が映った。その人物は仮面を付けた道士であった。
「誰だ!?」
魏延は吼えるが仮面を付けた道士は何も応えない。
すると静かに両手を突き出して球状の発光体を出現させた。
「あれは…!?」
球体の発光体を見た蘭陵王は誰よりも前に出た。
「な、蘭陵王。貴様勝手な行動はするな!!」
「魏延殿たちは急いで進路を曲げてください!!」
「何を言ってーーっ!?」
球状の発光体が真っすぐに魏延隊へと放たれた。その正体は蘭陵王が戦いでよく見る魔力弾。
この大陸的には妖力弾とも言うかもしれない。
蘭陵王は魏延隊の前に出て、迫りくる妖力弾を剣で切り裂いた。
「皆さん無事ですか!!」
「あ…ああ、無事だ」
魏延隊は左右に分かれて仮面を付けた道士から距離を取る。後方にいた呂布奉先は蘭陵王の横まで駆けていき止まった。
その様子は更に後方に待機していた紫苑と武則天も見えていた。
「あの者は一体…?」
「いきなり出てきたのう。見るからに道士や妖術師といった風体じゃな」
ここで于吉の回し者ではないかと予測してしまう。反董卓連合の本隊ではどうか分からないが、まさかここで道士が出てくるとは何か起こっているのかもしれない。
「貴様は誰だ。まさか董卓のお抱えの妖術師か!!」
「貴方は魏延殿の言う通り董卓に仕える道士ですか。それとも…于吉の手の者か」
2人は仮面を付けた道士に言葉を投げかけるが、目の前の本人は何も応えない。何も応えず、突き出した両手を左右に広げると妖力弾がいくつも展開された。
何も応えないが味方ではない事は理解できた。
「いけませんっ。魏延殿、皆を散らせてくださいっ!!」
蘭陵王は急いで声をかけたが遅かった。いくつも展開された妖力弾は魏延隊へと放たれた。
直撃した魏延隊は馬とともに吹き飛んだ。悲鳴や血が宙を舞う。
「うあああ!?」
魏延も妖力弾の被害にあったが運が良かったのか直撃は免れた。しかし余波により馬から転落。
背中を強く打ってしまったが強く口の中を噛んで我慢する。すぐさま立ち上がって己の武器である鈍砕骨を握って仮面を付けた道士に向かって走り出した。
「貴様、よくもワタシの部下を!!」
仮面を付けた道士は見向きもせずに妖力弾を放つ。
「こんなものおおおお!!」
大棍棒の鈍砕骨を勢いよく振りかぶって妖力弾を打ち消していく。
「部下の仇だ!!」
脚力全開で跳ねて仮面を付けた道士の頭上から鈍砕骨を振りかぶった。
「なんだと!?」
鈍砕骨は確かに振り下した。だが直撃には至らなかったのである。
仮面を付けた道士と鈍砕骨の間に薄い紫色の結界が張られていたのだ。簡単に割れそうな見た目のわりに腕に伝わってきた痺れは巨大な岩を叩いた時と同じものであった。
「魏延殿!!」
「□□!!」
次はどうするかと考えた時に蘭陵王と呂布奉先も仮面を付けた道士に武器を振りかぶる。
彼ら2人の武器も結界によって阻まれたが、仮面を付けた道士は膝を地面に落としそうになったのを蘭陵王は見逃さない。
「せい、はあ!!」
剣を連続で振るう。一閃、二閃、三閃と振るわれた。
「おっらああああああ!!」
魏延は上からダメなら真横ならどうだと言わんばかりにフルスイングで鈍砕骨を振るった。
「くっそ堅いな!!」
「□□□□!!」
「って、待て待て呂布!?」
「□□□□□□□!!」
方天画戟を力の限り縦に振りかぶって結界を撃つ。バキリと結界にヒビが入り、割れていった。
「□□□!!」
「ひっ!?」
仮面を付けた道士は小さく悲鳴を上げた。まさか結界が破られるなんて思いもしなかったというものであった。
更に声質から仮面を付けた道士は女性だと予想。
「危ないだろがこの野郎!?」
「まあ、呂布殿はバーサーカーなので」
「ばーさーかーって何だよ。それよりも結界が割れたぞ!!」
結界は呂布奉先の一撃で破壊された。すぐに本体である仮面を付けた道士を捉える。
「呂布殿、そやつを捕まえて下さい!!」
「骨の一本や二本折っても構わんぞ。部下の仇だからな!!」
「□□□!!」
呂布奉先の逞しい手が伸びるが妖力弾がいきなり展開されて周囲が爆発した。
仮面を付けた道士も結界が破られて冷静さを欠いたのか妖力弾は正確に狙われたわけではなく、とりあえず放ったようである。
とりあえずでも呂布奉先に直撃。その隙に仮面を着けた道士は情けなく逃げ走る。
「ひいいいいい!?」
「逃がすな!!」
魏延が叫ぶと同時に華佗と卑弥呼が逃げていく仮面を着けた道士に先回りをした。
「魏延よ、私に任せろ!!」
「逃がさん!!」
華佗と卑弥呼はダイナミックな跳び蹴りを放つ。
「流石ダーリン。私の動きにピッタリだ!!」
「あ、ああ。…ああ?」
よく分からず返事をする華佗。だが確かにコンビネーションはバッチシであった。
2人の跳び蹴りは仮面を着けた道士を捉えるが結界により防がれる。
「むむ、硬い。だがこの程度の硬さなぞ…私の方がもっと硬いわぁああああ!!」
ビキリとまた結界にひびが入る。
「ひぃ、また!?」
またしても結界が割れた事に対して信じられないと言った悲鳴をまた出す。
「く…この!!」
仮面を着けた道士はまた周囲に妖力弾を複数展開させ、破裂させた。
「ぐお…メチャクチャな」
妖力弾の破裂により周囲は土煙が舞う。そのせいで卑弥呼達は仮面を道士の行方を見失った。
「何処だ!?」
「逃がしたか…」
土煙が晴れると、そこには仮面を着けた道士は消えていた。
「むう…この地面に記された術式は」
卑弥呼は薄っすらと記されている術式を見て唸る。
「してやられたな」
いきなりわけも分からなく現れた謎の道士。荊州軍を混乱させ、蘭陵王たちと一戦交えて消えていった。
289
仮面を着けた道士は息を切らしながら荊州軍のいる場から逃げ帰っていた。
スルリと仮面が外れてカランと床に落ちる。
「全く…この私を戦わせるなんて、あの人は何を考えているんですか」
ある人物からの命令で彼女は荊州軍の進行を遅らせるために戦ったのである。
「何が将の1人でも倒せたら倒せですか!?」
仮面を着けた道士の正体は趙忠であった。
彼女は十常侍の生き残りである。十常侍は全員粛清されたとあるが彼女は例外であるのだ。
趙忠は霊帝の世話をするというだけのために生かされたのである。その事に対して彼女は気にしていない。寧ろ霊帝の世話が出来るというのなら文句は無いほどである。
「妖術の力を貰ったとはいえ、宦官の私が武官に勝てるわけないじゃないですか。そもそも1人で軍の侵攻なんて遅らせるなんてできません」
普通はたった1人で軍の侵攻を遅らせるなんて出来ない。だが特異な力を持つ者ならば例外である。
趙忠は荊州軍の将や蘭陵王たちを倒す事は出来なかったが侵攻を遅らせる程度の事はできたのだ。
「そもそも何なんですかあの人たちは!?」
思い浮かべた武人たちは魏延や蘭陵王たちである。特にゾワリと恐怖した相手は呂布奉先に卑弥呼だ。
その2名は異様に強かったのである。溢れるばかりの妖力を貰っていても勝てなかった相手である。
「あの変態は何なんですか。反董卓連合にはあんな変態がいるのでしょうか…?」
実はほぼ全裸の漢女である貂蝉もいるのだが今は知らない。ただでさえ卑弥呼の相手をするだけでゲンナリ状態である。
「……あんな命令を出すなんて思いもしませんでしたわ。あの人は何を考えているのか。いえ、あの人の目的は分かっているのですが」
趙忠の顔が歪む。
「このままだと使い潰されてしまうだけですね。寧ろあの人の計画が上手くいけば私は用無しで始末される可能性が高い」
彼女が言うあの人の目的とは洛陽の完全掌握だ。自分だけの理想の国を手に入れようとしている。
必要な人材を残し、不必要な人材は消すつもりなのだ。
「必要な人材とはあの人にとって都合の良い者たち。不必要な人材は…恐らく董卓に与する者たち等でしょうね。あと私のような、いずれ邪魔になる可能性のある存在でしょう」
不必要な人材とは張遼や賈駆たちの事。趙忠自身に関しては霊帝と健やかに過ごせれば無害のつもりであるが、彼女の言うあの人は趙忠の裏を知っている。
あの人に猫を被るような真似はできないのだ。このままではいずれ始末される未来が予想できる。
「しかし、私よりも空丹様が危ない。あの人は空丹様と白湯様を必ず利用する。しかし皇帝の座を譲った空丹様は利用するだけ利用したら消されるかもしれないわ」
趙忠の目がキラリと光る。
「このままだと消されるだけ。………なら此方も反撃しないといけませんね」
趙忠は悪知恵を働かせるように悪い顔をした。
「ですが反撃と言っても…賈駆や張遼たちではあの人をどうにか出来るとは思えません。反董卓連合で手一杯ですからね」
今の洛陽は外から反董卓連合から攻められ、内側からは『あの人』が侵食している。もはや洛陽は完全に孤立しているのだ。
賈駆たちに真実を話しても信じてもらえるか分からない。信じてもらえても彼女たちでは『あの人』を倒せるイメージが湧かないのだ。
『あの人』を倒すには普通の武力では足らないのである。
「呂布殿の圧倒的な武力はあった方がいいでしょうが…それでも足りない。やはりあの人を倒すには同じ妖術者がいないと…」
趙忠はある人物たちを思い浮かべる。彼女が言うあの人からは要注意人物としてある人物たちの情報を聞いていたのだ。
何故か袁紹や曹操よりも要注意人物として教えてもらった人物たち。その者たちは前に出会った事がある。
その時はただの董卓の客将程度くらいしか思えなかった。だが『あの人』は何処の陣営よりも警戒していた。まるで仇敵のようにだ。
「彼らをここに呼んでみましょう」
『あの人』が余程警戒する人物たち。その彼らを洛陽に呼べば計画が狂うかもしれない。
290
時は戻ってマスターたちが連れ去られた場面に戻る。
「やられた……くそっ!!」
藤丸立香及び秦良玉、玄奘三蔵に哪吒が謎の道士によって連れ去られた。正確には何処かに転送させられたのが正しい。
その答えを出したのが貂蝉である。
「この地面に書かれた術式は何処かに転送するものね」
「助かる貂蝉。この術式は始めて見るものだから私では分からない」
地面に書かれた術式を読み解く諸葛孔明と貂蝉。魔術が分かる諸葛孔明だがこの外史の魔術(妖術)は自分たちの世界のものと異なる。
似たようなものではあるが自分たちの世界の術式と外史世界の術式は何処か違うのである。
「これが妖術の術式ですか」
「本で見た事はありますが実物は初めてだね朱里ちゃん」
朱里と雛里は妖術について知っているが本の知識しかない。実物を見るのは初めてのようだ。
興味津々に地面に書かれた術式を諸葛孔明たちと同じように調べていた。
「この術式が何処かに転送するというのなら何処に飛ばされたんだ?」
「残念だけどそれは分からないわ一刀ちゃん」
何処かに転送されたというのは分かったが、その『何処』というのが分からない。そこが一番重要なのだ。
消えてしまった藤丸立香たちを心配する桃香たち。いきなり目の前から消えたら誰だって心配する。
明日は大事な決戦だというのに前日にこのような異変が起きれば幸先が悪すぎる。
「は、はやく藤丸さんたちを助けにいかないと!?」
「桃香…そうだけど何処に飛ばされたか分からないんだぞ」
「う、そうでした…」
今ある情報は転送の術式によって何処かに飛ばされた事と実行犯が仮面を着けた道士ということだ。
「あの道士…于吉の回し者か?」
「可能性は高いわねん。狙いが立香ちゃんたちってところがミソねぇ」
仮面を着けた道士が狙ったのが徐州軍のトップになっている桃香や天の御遣いの北郷一刀ではなくカルデアの藤丸立香たちを狙ってきたのがまさに于吉の手の者だと考えさせられる。
藤丸立香たちを狙う者なんてこの外史世界だと于吉しかいないからだ。
「于吉…ここでか」
秦良玉たちも一緒に消えたがマスターである藤丸立香を引き離されたのは痛い所である。
マスターと引き離されたが荊軻や李書文たちは冷静である。ここでアタフタしたとしても何も変わらないからだ。
一部の英霊ならば冷静さを欠くかもしれないが。その一部の英霊とは清姫や源頼光など。
この外史にいる英霊ならば燕青が当てはまる。
「おー…い。今、戻ったぜ」
「戻ったか燕青!!」
その件の燕青がまさかのタイミングで帰還した。しかも傷ついた身体でだ。
「…何があった?」
「んー…油断したってところだな」
「普通に負けたと言え」
「五月蠅い拳法家」
重症ではないようだが何者かと戦ったような傷を負っている。洛陽に潜入しに行ったはずの燕青。
その傷跡からどうやら何者かに見つかって戦闘になったのだ。
「何があったんだ燕青」
「そっちこそ何かあったみてえだけど?」
諸葛孔明は燕青の持ちかえった情報が知りたい。燕青は徐州軍の陣営で何が起きたのか知りたい。
お互いに何があったか知りたいのだ。しかし諸葛孔明としてはポロっとマスターが敵によって捕らわれたもとい、何処かに飛ばされたと燕青に言えばどうなるか予想できてしまう。
まずは燕青に「冷静に聞いてくれ」と言おうとしたが先に鈴々によって言われてしまった。
「藤丸のお兄ちゃんが変な奴に捕まったのだ!!」
「………」
真顔の燕青。
空気が止まった感覚を味わう。そして次の瞬間に李書文が高速で動いて燕青を羽交い絞めにした。
「離せぇぇぇぇ!!」
「離したらお主は何処に行くんだ!!」
「んなもん洛陽に決まってんだろ!!」
「何で洛陽だ!?」
「どーせその変な奴ってのは洛陽にいるんだろが!!」
んぎぎぎっという感じで捕縛から逃れようとするが逃がさないようにする李書文。
やはりか、という感じで諸葛孔明は額を手で抑えしまう。このような状況を予想したからこそ慎重に言葉を選んだのが鈴々のせいで台無しである。
最も鈴々は悪くない。正直にありのままに起こった事を伝えただけなのだから。
「待ってくれ燕青。何で洛陽だと思ったんだ」
「あんだよ軍師。そんなの洛陽で異変が起きてるからに決まってるからだ」
「…それを説明してくれ」
燕青はすぐさまマスターが洛陽にいると判断した。何も状況を分かっていないのにマスターが何者かに攫われたと聞いて洛陽に向かおうとしたのだ。
洛陽に向かうと判断した理由があるはずである。
「それはその傷が理由の1つか?」
「ああ、そうだぜ」
星がジロリと燕青の傷を見る。その傷は打撲のようである。
「燕青殿が打ち合いで負ける相手か…」
「負けてねえから」
負けてないと意地で認めない。状況からして負けたから撤退してきたと思うが本人的には違うようだ。
「……董卓の嬢ちゃんに会って来たぜ」
董卓もとい月に会ってきた。その言葉に桃香や風鈴が顔を変えてズズイと燕青に近寄る。
「燕青さん、董卓さんに会ったって本当!?」
「燕青殿。月ちゃんはどうでした?」
二人とも董卓の情報がとても欲しかったのだ。早く応えてくれと言わんばかりに燕青にどんどんと近づいてくる。
「まるで別人だったぜ」
「べ、別人って?」
「前に風鈴の姐さんの言った通りだ」
そう言えばと思い出す。風鈴は月がまるで冷徹な人間のようだと言っていた。
まさか本当に洛陽で暴政をするような人間なのかと桃香は思ってしまう。だがすぐに心の中で首を振る。
手紙でのやり取りではそのような感じはない。実は燕青が嘘を言っているのではないかと願ってしまう。だが現実はいつも非情であり、嘘は無い。
「そう…なのね」
風鈴も信じられないと思っている。自分が洛陽から追放されてからは月の様子は分かるはずもない。その後の月は更に酷く変わってしまったと思ってしまうのであった。
「だけどよぉ…気になる点があるんだよな。なあ風鈴の姐さん質問いいか?」
「何かしら?」
「董卓の嬢ちゃんって妖術とか使えたのか?」
月が妖術を使えるかどうか。この質問に風鈴は目を丸くした。
「い、いえ…月ちゃんが妖術を使えるなんて聞いた事ないわ。どうしてそんな質問を?」
「俺を襲ってきたのがその董卓の嬢ちゃんだぜ」
「そんな…!?」
月が燕青を襲ってきたというのが信じられない。そもそも月が妖術云々よりも戦えるという事のほうが信じられないのだ。
彼女は戦うなんて真似はできない。どちらかと言うと彼女は政を携わる方がまだ分かるというものだ。
「それにさっき言った別人って話だが…本当に別人な感じなんだよなぁ」
「どういう意味ですか燕青さん?」
「そのまんまだよ劉備の大将。別人だ」
桃香や風鈴が思う『別人』とはまるで人が変わったのような、というものだ。しかし燕青が言う『別人』とは中身が全く違うというものである。
「中身が違う?」
「ああ。俺も董卓の嬢ちゃんには会った事があるから分かるけど…あれは全然違うぞ。本当に別人と言ってもいいくらいだ。一応聞くけど董卓の嬢ちゃんに双子の妹か姉とかいたりすっか?」
「月ちゃんに双子の妹がいるなんて聞いた事もないわ」
月に双子はいない。それならば燕青が出会った別人のような月は双子ではないかという説は消えた。
「じゃあ、あの董卓の嬢ちゃんはやっぱ本物か。いや、どう見ても別人だったんだがな」
燕青が出会った月は確かに本物である。だが本物であるのに違うと己の本能が訴えてくるのだ。
「………」
桃香は燕青から聞いた董卓の像が信じられない。
彼女の中では手紙や風鈴から聞いた董卓像と全く正反対なのだ。
今の彼女は迷いが生じている。本当に董卓を助けるべき存在なのかどうか。燕青の話を聞けば聞くほど自分の嫌いな人物像なのである。
董卓を助けたいという気持ちから反董卓連合に参加した。しかし、このような状況では反董卓連合に参加した意味がないのだ。
「…でも、やっぱり」
「桃香?」
心の中では本当に助けたいのかという負の感情が滲み出てきてしまう。だが、それでもまだ助けたいという感情が強い。
燕青の言葉が嘘だとは思っていない。思ってないが信じられないのだ。
彼女はまだ董卓が冷酷な人間だと完全に思っていない。自分の目で確かめるまでは決められないのだ。
「燕青さんが嘘を言っているとは思えない。でも私は自分の目で確かめたい…確かめて決めたい!!」
何を言っているんだと思われてもしょうがない。だが桃香が自分の意思で決めたら堅いのだ。
彼女の頑固さを分かっているのか愛紗は「まったく桃香さまは…」と。鈴々は「にゃはは。やっぱお姉ちゃんはお姉ちゃんなのだ」と言っていた。
燕青だって「いいんじゃねえの?」という感じの始末である。
「まあ、訳ありだとは思うからな」
何度も言うが燕青が出会ったの確かに月である。しかし中身はまるで別人であったのだ。
ならばそのような変化には必ず理由があるのだ。その理由を確かめてから桃香自身が董卓を敵とみなすか、助けるべき存在かと決めればいいだけの話である。
「董卓がまるで別人だというのは気になるが…桃香が自分の目で確かめたいというのならば反対はせんよ」
「荊軻さん…」
なんとなくだが今の桃香はマスターと似ている気がしたと思ったが、やはり違うと心の中で首を振った。
「てか、主を助けに行かねえとなんねぇだろ!!」
「おっと、落ち着け」
「落ち着いているから離せ!!」
「今、離したらお主は洛陽に跳んでいくだろうに」
李書文は今だに燕青を逃がさまいと抑えつけたままである。
「落ち着いてくれ燕青。マスターがまだ無事だというのは魔力を通して分かっているだろう」
「ぐ…そりゃ、まあ」
マスターを通して魔力が流れてくることからまだ無事である事は理解できている。さらに秦良玉たちも一緒に連れ去られたと聞いている。
敵陣にたった1人だけという最悪な状況ではない。マスターが連れ去られる事なんて初めてではないのだ。何だかんだで無事に帰還している。
不安ではあるが、もしかしたら大丈夫だと思い込むしかない。
「いますぐ助けに行きたいが…どちらにせよ動くのは明日だ。反董卓連合の決戦時に洛陽に乗り込む」
「当たり前だ!!」
「ならば燕青は北郷と孫乾と共に乗り込んでくれ。元々、哪吒が同行するはずだったからな」
「ああ。駄目と言われても俺は洛陽に乗り込むからな!!」
そう言うと思っていたという言葉を飲み込んだ。何はともあれ、明日の決戦で全ての決着がつく。
反董卓連合と董卓軍の決着。董卓の変貌の謎。洛陽で何が起きているか。藤丸立香たちの誘拐。全てが明日の決着がつくのだ。
291
洛陽の禁城内。
恐らく何処かの倉庫内に書かれた術式が光り、藤丸立香たちが転送された。
「ここは?」
「マスター。私の後ろに!!」
秦良玉が藤丸立香の前に出てトネリコの槍を仮面を着けた道士に向ける。
いきなり現れては藤丸立香を攫おうとした犯人だ。桃香や北郷一刀たちではなく、藤丸立香を狙ったという事は于吉関連の者に近しい人物だと判断。
「あなたは誰ですか」
藤丸立香は落ち着いて仮面を着けた道士に話しかけた。
「こんな状況でも冷静とは…仲間がいるからなのか。それともあなたの強さの1つなのか」
声から仮面を着けた道士は女性であることが分かった。それと何処かで聞いた事がある声だ。
すると仮面を着けた道士は自らの仮面を外し、素顔を露わにした。
「お久しぶりですね。わたしの事を覚えていますか?」
「あなたは趙忠さん!?」
目の前にいたのは十常侍の趙忠であった。確か情報では十常侍は全員粛清されたと聞いている。
彼女との関係は洛陽で董卓の客将をしていた時に運が良いのか悪いのかわからないがたまたま接触したにすぎない。
他だとプリンなるものを霊帝に献上する時も趙忠を通していた時に接触していただけである。それくらい程度の間柄だ。
「あなたは何者なんですか」
「それは私が聞きたいくらいです。あなた方はあの人が警戒している人物たちですしね」
(あの人?)
趙忠の言葉から気になる人物らしき存在がいる事が分かった。
「…あなたは敵ですか?」
秦良玉はトネリコの槍を向けたままである。哪吒も警戒を最大限に引き上げて武器を構えている。
「…今の立場上は敵ですね」
カチャリと二人は武器を握り直す。
「待ってください。立場上はです」
「立場上?」
「はい。確かに私はあの人の手先です。ですがあなた方をここに呼んだのはあの人の命令ではなく、私の独断です」
趙忠の独断。彼女は藤丸立香たちを独断で禁城に呼んだということだ。だが何のために呼んだかである。
「何のために俺たちをここに呼んだんですか?」
「身勝手ながら率直に言います。助けて欲しいのです」
助けて欲しい、という言葉。
彼女の目を見るに冗談で言っているようには見えない。
「助けて欲しいってどー言う事?」
玄奘三蔵が聞きたい事を言葉にしてくれた。
「私があなたたちをここに呼んだ理由はあの人から解放されたいからです。あの人はあなた方を警戒している。それはあの人にとって弱点であり、解決できるということですから」
趙忠は『あの人』から解放されたいようだ。彼女は『あの人』の手先ではあるようだが従順な手先ではない。その理由は彼女にとって大切な存在である霊帝が関わっているのだ。
「あの人は主上様を利用し、用無しになったらいずれ始末するでしょう。その前に私も殺されます。今のあの人はそういう人ですから」
今の彼女は『あの人』に従っているが、それは無理矢理従われているにすぎないようだ。
彼女が大切にしている霊帝陛下は掌握されている。彼女は人質を取られているから従わされているのだ。
「だから、あの人を殺してほしいのです」
「こ、殺しは御仏的に駄目よ!?」
いきなりの殺害依頼。流石に玄奘三蔵は趙忠の頼みを断ってしまう。
藤丸立香たちは暗殺者ではない。そもそもアサシンクラスもいないのだ。
「……いえ、殺すという言い方はおかしいですね。だって、あの人はもう死んでますし」
「「「え?」」」
趙忠が何を言っているのか分からない。
「いいですか、あの人とはーー」
292
足元には兵士たちが息絶えていた。
兵士の亡骸を気にもせずに彼女は歩いていく。歩く先は自分の部屋だ。自分の部屋に戻って彼女は着替える。
「うん。この服でいいかな。やはり威厳のある服を着るべきだからね」
恥ずかしげもなく着ている服を脱ぎ捨てて、手に取った新たな服を着る。
「今着ていた服も良かったけど心機一転…これからボクの時代が始まるんだ」
高級そうな服装は薄紫を基調とした物であり、装飾の付いた帽子を被っていた。
服を変えるだけでだいぶ印象は変わる。今の彼女はまさに相国の名に恥じない姿である。
誰が見ても上に立つ人間だと思ってしまうだろう。ただ、今の彼女は邪悪な気配を滲み出させている。
「賈駆のやつは董卓を逃がすつもりで気絶させたけど、それが仇となったね」
彼女は鏡を覗くと映ったのは董卓であった。
「気絶させたがゆえに意識を失い、ボクが完全に表に出る事が出来たからね」
鏡に映る董卓は彼女らしかぬ笑顔をした。
「徐々に肉体を奪うようにやってきたが…やっと完全にこの肉体を掌握した。董卓はもはや表に出さないように心の奥底に抑え込んだし、準備完了だ」
ストレッチするかのように身体の具合を確かめる。
動かしてみて確信する。まるで自分の身体のように自由に動かせたのだ。
問題無く、完璧だと言わんばかりに口元がニヤけてしまう。
「この身体を掌握するのに時間は掛かったが間に合って良かったよ。そして…城の内部も準備完了。外もね」
外には反董卓連合が待ち受けている。
「外には五月蠅い奴らが集まっているが…どうにでもなる」
気付いている者がいるかどうか分からないが禁城は既に掌握しており、魔窟となっている。本当の意味で魔窟になっているのだ。
「あいつを逃がしたのは痛かった。でも、もはやバレても構わない。今頃この禁城内を外に伝えても止まらないからな」
手には紐が巻き付いてる。紐の先端を追いかけてみると絡繰り人形に繋がっていた。
クイクイっと動かしてみせると絡繰り人形は生きているように動き出し、宙に浮いた。
そのまま彼女の背後にピタリと背後霊のように漂う。
「さあ、洛陽を完全に掌握しようじゃないか」
293
洛陽でもなく、反董卓連合内でもない場所から男は佇んでいた。
男は遠くから反董卓連合のある陣営を見ているのだ。その目には怒り等の黒い感情が滲んでいた。
「北郷一刀…」
男はある人間の名前を呟く。北郷一刀とは劉備陣営にいる天の御遣いだ。
男と北郷一刀の関係は分からない。だが男は一方的に北郷一刀に怒りを向けているようだ。
男が北郷一刀に怒りを向ける理由は何かある。だが、その理由が語られる日はまだ先である。
「ふー…」
体内に燃え上がる怒りを沈静化させ、男はフードを被った。服装は于吉が着ているのと同じ道士の服である。
「カルデアの奴らと貂蝉共もいるか…俺の存在は既に貂蝉と卑弥呼は知っているが今回の件で完全に公になるだろうな。まあ、いずれは分かる事だがな」
男はその場から煙のように消えた。
「そろそろ顔合わせといこうじゃないか北郷一刀」
読んでくれてありがとうございました。
次回もまたまた未定。次回は今回よりも早く更新…したいと思ってます。
さてさて、謎の仮面の道士の正体は趙忠でした。
そして彼女の上にいる『あの人』とは一体…(もしかしたら分かるかな?)
董卓(?)もついに動き出します。彼女は一体どうなっているのか。それもすぐに分かりますので。
あと、気付いた人がいるかもしれませんが今回で着替えた衣装にからくり人形のくだりはオリジナルではなく原作仕様です。
そして最後に…最後の男はまさしく『彼』です。