Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんいちは。
速く書けたの更新です!!
何度も何度も書きましたがついに異変発生。
今回からオリジナル展開がどんどん濃くなっていきます。


反董卓連合-異変発生-

299

 

 

洛陽の城門の前では呂布こと恋が愛紗と鈴々の2人を相手していた。

 

「はあああああ!!」

「にゃああああああ!!」

 

蛇棒と青龍偃月刀が振るわれるが恋は方天画戟でいとも簡単にいなした。

 

「くっ!?」

「…しつこい!!」

 

恋としてはさっさと愛紗と鈴々を倒して洛陽内に入っていった袁紹を追いかけたいのだ。追いかけて袁紹たちの首を斬り落とせば全て終わりだと分かっている。

 

「通してたまるか!!」

「うああああ!!」

 

方天画戟が振るわれる度に砂塵が舞う。

 

「劉備んとこの今、助太刀するぞ!!」

「させるか!!」

 

文醜と顔良も恋を倒すために助太刀しようとするが華雄が立ちはだかる。

 

「私を忘れるとは良い度胸だ!!」

「きゃっ!?」

「てめえよくも斗詩を!!」

 

袁紹の二枚看板は華雄の相手を、愛紗たちは恋の相手をするという形となる。

華雄の相手は顔良と文醜の2人で何とかなる。しかし、恋の相手をするには愛紗と鈴々だけでは足らない。いずれは突破されてしまうのは時間の問題だ。

恋の相手をするにはまだ増援が必要なのである。

 

「お待たせ!!」

「ごめーん!!」

 

増援が欲しいと思っていた矢先に雪蓮と梨晏が駆けつけてくれた。

自分たちが倒すはずだった人物を逃がしてしまったのだ。その失態を取り戻さねばならない。

 

「助太刀するわ……って言い方はちょっと違うかしらね。だって元々、私たちが戦っていた相手だし」

「ふっ、確かにな。なら呂布の相手をするのを手伝うぞ」

「あっはは。これで貸し借りなしって事にする気?」

「これで返せるものならな」

 

四方向から囲むように構える愛紗たち。しかし囲まれた恋は焦りもしない。ただ敵の数が2人増えたとしか思っていない。

 

「…邪魔!!」

 

一斉に飛び掛って来た4人の攻撃を全て弾き返していく。

斬撃、突き、薙ぎ払いを1人の人間に4人がかりで繰り出しているのに全て弾き返されている。これには雪蓮や愛紗も驚いてしまう。

 

「嘘でしょ。4人がかりでもダメなの!?」

「うにゃ、全く当たらないのだ!?」

 

梨晏も鈴々も全力で攻撃しているのに全て躱され、弾き返される。

まるで獣のような反応速度だ。彼女たち4人の実力は反董卓連合内でも上位に入る。その4人でさえ苦戦させるのが呂布こと恋である。

 

「うああああああああああああ!!」

 

方天画戟を乱暴に地面に叩くと砕かれて破片が周囲に飛散する。

飛散した物が襲う。更に目つぶしの役割もある。その隙にまず狙いにいったのが愛紗であった。

 

「…まずは1人!!」

「しまっーー!?」

「させん!!」

 

恋と愛紗の間に割り込んできたのは李書文。いきなり真上から入り込んできた彼に気付いてすぐさま恋は後退した。

 

「書文殿。助かった!!」

「李書文じゃない。あんたも手伝ってよ」

「無論だ。それにこやつとは戦ってみたかったしな」

 

出来れば一対一で戦いたいものだが今の状況ではそうも言っていられない様子である。

 

「…お前、李書文」

「久しぶりだな」

「…お前も敵なの?」

「今はな」

「……そう」

 

今は敵と聞いても恋は気にもしない。方天画戟を握り直す。

 

「……月を守る!!」

「…む、あれは?」

 

恋の身体から妖気が滲み出ていた。滲み出ていたというよりかは彼女の身体に周囲から供給されているように見える。

 

(なぜ妖気があっちの呂布奉先に? そもそもあの妖気はどこから)

 

何故か周囲から妖気が恋に供給されている。この事は本人は分かっていない。ただ月を守るという気持ちに対して力が湧いてくるという気がするというくらいしか思っていない。

 

「…行くぞ」

「来い」

 

獣のように態勢を低くした恋が全身をバネにして突進した。

 

「むっーー!?」

 

誰もが反応出来なかった。全員が気を抜いていたなんて言い訳もあった。それゆえに恋の爆発的な動きに反応出来なかったのだ。

李書文はすぐに身を守る為に腕を前に出して防ぐ。両腕に重い衝撃が伝わったと認識した時には身体が宙に飛ばされていた。

 

「「え?」」

 

ポカンとしてしまった雪蓮や愛紗。

気が付いたら李書文が居た所に恋が移動しており、その場にいた李書文は彼方へと殴り飛ばされたのだから口がマヌケみたいに開くのは当然であった。

 

「ね、ねえ。今の見えた?」

「…見えなかった」

 

よく見ると彼女の足元はブレーキの踏み込みで地面に足がめり込んでいた。どれほどの速度からブレーキを掛けたら深く地面にめり込むのか想像が容易い。

今の恋はまるで凶悪な猛獣のようだ。話すら通じそうにないというのが見て分かってしまう。

 

「流石は恋だ。そのまま残りの奴らも仕留めてしまえ!!」

「うああああああああああああああああ!!」

 

華雄が恋に発破を掛けると恋は猛獣のように雄たけびをあげた。それが基点となったのか分からないが異変が発生する。

 

「な、これは一体なに!?」

 

 

300

 

 

「でりゃあああああ!!」

「だあああああああ!!」

 

夏侯惇と張遼の全力の打ち合いは続いていた。気を抜けばどちらか一方が殺されると言うのに本人たちは楽しむのように武器を振るっている。

 

「ふふ…楽しいなぁ。やっぱ本気で戦える相手っちゅうんは血が滾るわ!!」

「うむ、貴様ほどの使い手を制したとあらば、華琳さまもお喜び下さるだろう。はーっはっはっは!!」

 

殺し合いだというのにお互いが笑い合う。武人同士でしか分からない感情なのかもしれない。

 

「姉者!!」

「おう、秋蘭か。見よ、もうすぐ華琳さまの御前にこ奴を連れていけそうだぞ!!」

「そうか。ならば周りの敵は我らが対処しよう。姉者は張遼を頼む。行くぞ季衣、流琉!!」

「はい!!」

「了解です!!」

 

夏侯淵たちは夏侯惇が張遼を確実に倒し、捕えさせるために張遼隊を制圧しようと動き始める。

完全に張遼を隔離させて夏侯惇との一対一の状況を作るようにしている。最も張遼も夏侯惇との一騎打ちは「どこからでもかかってこい」の一声なのだが。

 

「…すまんな、待たせたか?」

「ええで。それよりあんた、あとどのくらい戦えそうや?」

「貴様の限界の倍でも打ち合ってみせるわ。そんなことを気にする前に掛かってこい!!」

「ええなぁ…それ、良すぎるわ。なら遠慮なく行くで!!」

「おう、来るなら来………」

 

ここで彼女たちの一騎打ちに横やりが入った。横やりといってもその本人も不可抗力である。

李書文が夏侯惇と張遼の間に飛んできたのだ。正確には殴り飛ばされて来た。

 

「な…お前は!?」

「え、ちょ…李書文!? どっから飛んできたんや!?」

「……一騎打ちの最中であったか。すまん。邪魔したな」

 

すぐに状況を理解する。自分が彼女たちの一騎打ちを邪魔したということだ。

邪魔したと思っているが悪いとは思っていない。ワザとでは無いのだから不可抗力である。

 

「いやいや、何があったら飛んでくるんや!?」

「……そっちの呂布に殴り飛ばされた」

「ああ、納得」

 

すぐに納得した張遼。

あの恋ならば人間を彼方へと殴り飛ばすという非常識を常識的にやってのけそうと思ってしまうからだ。

 

「どうやら恋のやつはそっちでも暴れてるみたいやな」

 

董卓軍は劣勢ではあるが恋は気にせずに反董卓軍と戦っているという事がわかっただけでも良しとした。そもそもあの恋が負ける想像がつかないというのが本音である。

 

「むん」

 

仰向けで倒れていた李書文は立ち上がり、身体をクキクキと確かめる。どこも骨が折れていない事を確認。

 

「邪魔したな張遼、夏侯惇」

「ええって、ええって」

「さっさと行け。じゃあ仕切り直しだ張りょ…」

 

李書文が殴り飛ばされてきて気が抜けていたのか夏侯惇は油断していた。だからこそまさかの一撃を喰らってしまったのだ。

誰かが「え…?」とポツリとこぼした。その次に悲痛の叫びが響いたのであった。

 

「あ……姉者ぁっ!?」

「ぐ…あああああああ!?」

 

夏侯惇の片目に矢が突き刺さったのである。

矢が刺さった片目を抑えて蹲る。いきなりの事であったため、周囲の者が理解するのに少しだけ時間がかかった。

張遼や李書文でさえ何が起きたのか一瞬だけ分からなかった。

 

「季衣!! 春蘭さまと秋蘭さまをお守りするよ!!」

「う、うん!!」

「姉者、大丈夫か、姉者!! 気を確かに待て!!」

「あぁ………はぁ、はぁ、はぁ…」

 

すぐに夏侯淵たちは夏侯惇の元へと守るように駆け寄る。

 

(く…っ。ここで張遼が一声号令をかければ、こちらの戦線は崩れ去ってしまう…それだけは避けねば…いや、こんな時に何を考えているのだ私は…今は姉者を!!)

「くっそぉぉ…誰じゃあウチの一騎打ちに水差しおったド阿呆は!! 出て来ぃウチが叩き斬ったる!!」

 

夏侯惇は片目に刺さった矢の痛みに耐え、普段冷静な夏侯淵は焦る。そして張遼は己の一騎打ちを邪魔された怒りに燃えた。

誰が夏侯惇に矢を射ったのか。すぐさま周囲を見渡すと矢を放ったであろう兵士を見つけた。

夏侯惇に対して射ったという時点で董卓軍の兵士である事は当たり前である。

 

「おい、お前。なにウチの一騎打ちに邪魔しとんねん!!」

 

張遼は自軍の兵士に怒鳴りつけ、夏侯淵は怒りに任せて反射的に矢を射った。

 

「よくも姉者を!!」

 

夏侯淵の射った矢は真っすぐに、その兵士の喉元に刺さった。

 

「む…?」

 

ここで李書文はおかしいと気が付いた。そもそも夏侯淵が矢を射る前から違和感に気付いていた。

その兵士からは生気を感じなかったからである。

彼が気付いたおかしさに張遼も夏侯淵も気付く。その兵士は喉元に矢が刺さってなお動いていた。

 

「な、なんや?」

「気を付けろ張遼!!」

 

喉に矢が刺さったまま兵士は剣を抜いて襲い掛かってきたのだ。何故か張遼に。

すぐに跳んで李書文は襲い掛かって来た兵士に鋭い蹴りを繰り出して首をあらぬ方向へと折った。

 

「あ、あんがと」

「礼はいい。だがこいつは…」

「あ、ああ。なんやこいつ。喉に矢を射られても生きてたで?」

「いや、喉に矢を射られる前にこいつは胸を斬られている」

 

よく見ると兵士は胸元あたりをバッサリと斬られていた。冷静になればすぐに分かる傷跡である。

 

「え、じゃあこいつ」

「元々、死んでいたはずだ」

 

死んでいた兵士が動き出した。その常識はあり得ない。

あり得ないと頭の中でぐるぐると埋め尽くしそうになった時、首をあらぬ方向へと折られた兵士が立ちあがった。

それすらもあり得ない。喉に矢を射られて、さらに首をあらぬ方向へと折られたのだ。立ち上がる事は不可能である。

 

「んなっーー!?」

「…まさか」

 

李書文は何かに気付いた時には遅い。異変は既に発生していたのだ。

周囲をよく見ると地より骸が這い出て来たのだ。更には董卓軍に反董卓連合の戦死した兵士たちが立ち上がる。

 

「なんやねん一体これは!?」

 

周囲には亡者たちが不気味に蠢いていた。ここだけではなく、決戦場の至る所で亡者たちが現れていた。

この状況には張遼や夏侯淵たちはわけが分からなくなる。戦争中に死んだ仲間や敵が亡者となって現れれば誰であろうが混乱するのは当然だ。

わけが分からなく混乱する状況だが1人だけどうでもよいと思っている者がいた。

 

「ぐ……がああああああああ!!」

 

夏侯惇である。

 

「姉者!?」

「夏侯惇!!」

 

夏侯惇は自分の眼球を刺さった矢ごとくり貫いた。

 

「ああああああああああああああああ!!」

 

その痛みは想像を絶する。

 

「き、聞けぇ!! 聞けぇぇぇい!!」

「姉者…」

「天よ、地よ。そして戦場でまみえる全ての兵たちよ。我が言霊の証人となるがいい!!」

 

亡者たちの出現など気にせずに夏侯惇は吼えて視線を集中させた。

 

「我が精は父から、我が血は母からいただいたもの!! そしてこの五体と魂、今は全て華琳さまのもの。断りなく捨てるわけにも失うわけにもいかぬ!! 故に…故に我が左の眼…永久に我が共にあり!!」

 

夏侯惇は自らの眼球を喰らった。

亡者が出現した状況よりも優先する事が彼女の中にはあったのだ。普通ならばこんな状況で自分の眼球を喰らうなんて誰もそんな考えに至らない。

彼女もまた常識から外れた人間なのかもしれない。自分の全ては曹操のもの。その忠誠と誇りを全員に見せ付けた。

 

「見事だ夏侯惇」

 

誰かがそう呟いた。

 

「姉者!!」

「ぐ…大事ない。取り乱すな…秋蘭。わたしがこうして立つ限り戦線は崩れさせん。華琳さまからお預かりした戦場、崩れさせてなる者か!!」

「ああ…ああっ。そうだな、その通りだ…!! 姉者…せめて、これをその目に」

「うむ」

 

夏侯惇は妹から蝶型の眼帯をもらい受けて装着した。

緊急治療もしていない片目には激痛が走っているはずだ。しかし夏侯惇はその痛みを顔には出していない。

 

「張遼、一騎打ちは後だ。まずはわたしたちの一騎打ちを邪魔したこいつらを斬り伏せる!!」

「夏侯惇……ああ、そうやな!!」

「確か李書文だったな。お前も手伝え!!」

「分かっておる」

 

夏侯惇はこの状況に対して、斬り伏せてしまえば良いという考えだ。その考えは間違っていない。

こういう時は難しく考えずにただ怪異を斬り伏せればいいという脳筋さが一番である。

 

「秋蘭、季衣、流琉は軍の編成を急いで直せ。華琳さまならこの異変に既に気付いているはずだ!!」

「ああ。分かった姉者!!」

 

夏侯惇の言う通り曹操だけでなく、各諸侯の者たちはすでにこの異変に気付いている。

何せこの異変は董卓軍と反董卓連合の決戦のド真ん中で発生しているのだから。

 

 

301

 

 

反董卓連合の一部は洛陽へと侵入していた。袁紹と袁術が先頭を切ってそのまま朝廷へと突き進んでいるのだ。

無論、桃香たちも急いで朝廷に向かっている。全員でぞろぞろと向かうと袁紹たちに感づかれるため桃香たちは別々にチームに分けて隠し通路から禁城へと向かっているのだ。

その1つである北郷一刀と孫乾、燕青の3人1組のチーム。彼らは別ルートから朝廷に向かおうとしていた。

燕青は既に洛陽と言わず朝廷までのルートはいくつも分かっている。彼が先頭になって北郷一刀たちを案内する。

 

「こっちで合ってるのか燕青?」

「合ってる合ってる。実はこっちのルートの方が一番の近道だぜ」

「流石です燕青さま」

 

今のルートが一番早く朝廷に到達できる道だ。上手くいけば袁紹や袁術たちよりも早く朝廷に到着できる。

北郷一刀と孫乾も早く朝廷に向かって董卓を保護したいと思っている。だが燕青はそんな事よりもマスターである藤丸立香の無事を確かめたいのだ。

まさか燕青が朝廷を脱出したのと入れ替わりでマスターが朝廷に連れていかれたなんて誰も予想できるはずがない。

その事実を聞いて負傷していたにも関わらず燕青はまた朝廷に戻ろうとしたほどだ。李書文が押さえて止めなければ本当に燕青は朝廷に戻っていたはずである。

だからこそ今の燕青の心情は董卓よりもマスターの方を心配している。本当ならば北郷一刀と孫乾を置いて行ってでもさっさと向かいが、それは出来ない。

正直なところ北郷一刀と孫乾を抱えて跳んでいこうかとも考え始めた。

 

(そっちの方が速く着けるか?)

 

本気で実行しようとして両手を伸ばそうとした瞬間に足を止める。

すると後ろから北郷一刀がぶつかってくる。

 

「痛っ!?」

 

北郷一刀は鼻をぶつけたのか、鼻を抑えてうずくまっていた。

 

「どうしました燕青さま?」

「悪いな。でもあのまま突っ込んだらもっと危なかったぜ」

「え?」

 

ヒョイと燕青の左右から顔を出すと視界には大量の骸がウジャウジャと這い出ているのが映った。

 

「な、何だあれは!?」

「あれは…!?」

「どこからどう見てもスケルトン…骸の妖魔だな」

 

2人は驚くが燕青は冷静だ。よく素材集めで倒している敵である。だが2人にとってこの世界ではあり得ない存在のようだ。

 

「おいおいゾンビが蔓延る世界じゃないだろ」

 

孫乾はまだ驚いているが北郷一刀はすぐに冷静になる。現代人にとってゲームでもやっていればスケルトンという存在は知っている。

孫乾も徐々に冷静になってくる。この外史にも妖魔といった存在は信じられているのだ。彼女もすぐに骸の妖魔を認識する。

 

「この世界には妖魔といった類はいる。日本だって妖怪はいただろ?」

「いや、俺は妖怪に会ったことないんだけど……昔は妖怪といった存在は実在したなんて言われているからな。そういう文献はあるし、河童のミイラなんてのもあるって聞くし」

 

昔は妖怪と言った存在は信じられていた。異世界転移している北郷一刀もすぐに目の前の骸の妖魔を認識する。

 

「でも三国志に妖怪が出てくるなんて聞いた事がないぞ。いや出てきたか?」

 

三国志の全てを知っているわけではないので北郷一刀は首を傾けた。だが時代的には妖魔が存在しても違和感は無い。

 

「三国志に妖魔が出てくるかどうかは関係ねえ。さっさとぶっ潰して先を急ぐぞ」

「北郷さまはお下がりください。ここは私と燕青さまで対処致します!!」

 

燕青と孫乾が加速して骸の妖魔に突撃する。

 

「おらぁ!!」

「はあ!!」

 

燕青は拳と脚を駆使して骸の妖魔たちを粉砕していく。そして孫乾は短刀を使って斬り裂く。

 

「せい!!」

「ほー…なかなかやるねぇ」

「燕青さまこそ。北郷さま早く先に…って、危ない!?」

 

孫乾が北郷一刀を先に行かせようとするために振り向いたのは幸運だった。振り向かなければ北郷一刀は死んでいたからだ。

 

「うおわああああ!?」

 

孫乾の警告に北郷一刀は急いで転ぶように回避する。何が危ないのか分からないが背後から素人で分かるくらいの殺気を感じたからだ。

孫乾はすぐに北郷一刀を守るように前に出る。燕青も警戒しながら彼女の横に立った。

 

(何だあいつ。マジかよ今の今まで気付かなかったぞ)

 

3人の前には白い道士服を着た男が立っていた。顔はフードで覆い隠されていて分からない。

 

「……強いな」

「やはり燕青さまもそう思いますか」

 

燕青と孫乾は道士の男を警戒する。目の前の男からは相当な実力者だと分かってしまう。そして更に分かるのが尋常じゃない殺気と怒りだ。

その殺気と怒りの矛先は予想外にも北郷一刀であった。

 

「…俺?」

 

何で自分に殺気と怒りが向けられているのかが分からない。だが確実に目の前の男から殺気と怒りが向けられているのは本当だ。

 

「おい、あいつに何かしたのか?」

「いや、知らないんだけど…」

 

全くもって心当たりのない北郷一刀。尋常じゃない殺気と怒りに恐怖を感じたが、それ以前に目の前の男を知らない事の方が引っ掛かる。

心当たりが無いのにここまで尋常じゃない殺気と怒りを向けられても意味が分からないのだ。

 

「だ、誰なんだお前!!」

「俺が分からないのは無理もないか……北郷一刀!!」

「なっ、何で俺の名前を!?」

 

更に向こうは名前まで知っている。まるで一方的に知っているようであった。

 

「おい。何か向こうはお前を知ってるっぽいぞ」

「みたいですね」

「いやいや、本当に俺なにも知らないんだけど!?」

 

燕青はジト目で北郷一刀を見る。

 

「だから、本当に知らないん…」

 

北郷一刀が何か言いかけた瞬間に目の前の男は動き出した。そのまま真っすぐに向かってきたのだ。

男の動きをすぐに察知した孫乾と燕青も前に跳び出す。孫乾が短刀を投げ、燕青は拳を突き出した。

2人の攻撃は完全に前から走ってくる男を確実に捉えていた。だが目の前の男は気にせずに走ってくる。

止まりもしない、避けようともしないのを感じ取った燕青は訝しむ。訝しんだがすぐに理由は分かった。

 

「そんな!?」

「何だと!?」

 

2人の攻撃は確実に目の前を男を捉えていたが、まるで何も無かったかのようにすり抜けたのだ。

男は孫乾と燕青を簡単に突破して北郷一刀まで突き進む。

 

 

302

 

 

張譲は使い魔の目を通して洛陽の外と内の状況を見ていた。

 

(ふふふ…ボクの骸たちが董卓軍と反董卓連合を襲い始めている。それに呂布の奴は妖力が供給されている事を気付いてもいない)

 

張譲は時間をかけて骸の兵士たちを作り上げた。自分の力の成果である。

洛陽に出現させた骸たちは今まさに董卓軍と反董卓連合を襲い始めている。両軍は怪異の群れに大混乱。

 

(ふん…どうやら曹操あたりはすぐに対処をしているようだな)

 

董卓軍と反董董卓連合は混乱しているがすぐさま対処をする動きをする者たちも出てきている。いつまでも混乱していても解決はしない。

ならば怪異に対して戦うという選択肢しかないのだ。

 

(だがまだ始まったばかりだ。それに次の手を出す前に呂布の手で反董卓連合の方は瓦解するはずだ)

 

張譲の尖兵の亡者兵は数が多いがまだ訓練された兵士のような動きはできない。亡者兵の強みは数と耐久力だ。

曹操達の訓練された兵士たちに様々な戦法で攻められたら制圧される可能性がある。だからこそ呂布こと恋を利用している。

恋の強さは尋常ではない。たった1人で袁紹の軍を負かした程だ。そんな彼女を太平要術の力で強化すれば更に手が抑えられない程の強さになる。

 

(というかもう手が付けられない強さになっているな。揚州軍と徐州軍、袁紹軍の将たちが束になってもあの呂布に圧されている。それにあの忌々しい奴らの1人を簡単に倒したではないか)

 

今の恋は張譲から妖力を供給されている事に気付いていない。ただ力が際限なく溢れてきている。これならば勝てるというくらいしか思っていないのだ。

 

(今の呂布を操るよりかは、こうやって自由に戦わせた方が良いからね。外の方はこれでどうにかなるだろう。もしも呂布が負けても次の手があるしね)

 

洛陽の外を見る使い魔とのリンクを切ると今度は内側を見る。

 

(ふむ…内側にはいくつか侵入してきている輩がいるな。袁紹に徐州軍の奴らに…あの忌々しい奴らか)

 

亡者兵は洛陽の外だけではなく、洛陽の内側に出現させている。袁紹たちのように侵入者を撃退させるためである。

各箇所の状況を見ると既に袁紹達侵入者は亡者兵に襲われている。亡者兵に混乱しながらも戦闘になっているのだ。

袁紹は恐怖しながらも亡者兵と奮戦している。劉備たちも驚いているが荊軻が率先して亡者兵を倒していた。北郷一刀の方は別の異変に遭遇している。

 

(袁紹たちは亡者兵だけで事足りるだろう。でも徐州軍の方は忌々しい奴らも一緒だな。こっちは別の対処を……ってこっち側のあいつは于吉の仲間か?)

 

張譲は視点を切り替える。

 

(だがまずはこっちを優先的に仕留めよう。趙忠め…馬鹿な事をしおってからに。だが、まあいい…今のボクは前とは違うからね)

「張譲!!」

「おっと…そうだった。こっちも早く片付けないとね」

 

張譲は視線を詠に向ける。

 

「月の身体から出ていって!!」

「いずれ出ていくさ。本当の目的の身体は天子さまだからな。今はこの身体を使わせてもらうだけさ」

「何ですって!?」

「天子さまの肉体を手に入れればこっちのものだ」

 

張譲が月の肉体に憑いたのならば天子の身体にも憑く事は可能である。

もしも張譲が天子の肉体に憑いたらどうなるかなんて最悪な未来しか想像できない。

 

(最悪ね…でも最初から天子さまの身体に憑かないで月に憑いたという事はすぐには天子さまに憑くことは出来ないということかしら?)

 

最初から天子に取り憑けば今頃この朝廷は張譲のものだった。だが張譲の口ぶりからだとやっと月の身体に憑いた感じであったのだ。

 

「最初は天子さまに取り憑こうと思ったんだけど…霊帝はもはや退位している。だが献帝に取り憑いたとしてもまだ力は無いからね…そんな中で実質この洛陽の頂点である董卓が良いと判断したのさ」

 

妖気を視認出来るほどに不気味な光が月もとい張譲の身体が滲み出ている。

 

「ボクがこの国の頂点になったとしても周りにいる蟲どもが邪魔だ。今ここで一掃しないといけない」

 

張譲はもう国を手に入れた気でいる。国を手に入れたとしても反董卓連合が邪魔であるのだ。

 

「今のボクは太平要術の力をより高めている。全てを使えばあんな寄せ集めなんて全滅させてやる」

 

更に今この朝廷もとい洛陽は戦場になっている。死んでいった敵兵や味方の兵たちの負のエネルギーが満ちているのだ。

まさに太平妖術の力を高めてくれる場所に適している。

 

「特にこの朝廷は負の力に満ちている。死んでいった魑魅魍魎どもも利用できるってものだよ」

 

まだまだ骸骨の魔物たちが召喚されていく。

 

「妖魔を作る素体もまだまだある。なんせ戦場で死んでいった素材はそこらにあるからな」

 

反董卓連合の戦で死んでいった兵士たちは数知れない。その数こそが張譲にとって丁度良い。

今の張譲ならば太平妖術の力を外まで伸ばして魔物を召喚させることが可能だ。

 

「すぐに天に唾を吐く有象無象どもを片付けてやる」

「その前に月の身体から出ていきなさいよ!!」

 

ギョロリと賈駆を見る。その瞳は月の瞳のはずなのに酷く濁っている。

 

「君には煮え湯を飲まされた。そして今度こそは成功してみせるために邪魔者は全て消していく」

 

張譲の手に絡みついている紐を動かすと絡繰り人形が動く。

 

「死ね賈駆!!」

「っあ!?」

 

絡繰り人形が詠に向けて飛んでいく。

憑かれているとはいえ大切な友人に殺されるというのは詠や月にとって絶望的な行為である。

詠は死を悟って目を瞑った。

 

「…………い、生きてるの?」

 

痛みも無く何も起きないので恐る恐る目を開くと自分の目の前に誰かがいた。

 

「だ、誰?」

「ご無事ですか。この秦良玉が助太刀します!!」

 

トネリコの槍を持った女性が詠を守ったのである。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は未定。はやく更新出来たらします。

ついに異変発生!!
洛陽は骸たちで埋め尽くされます。
更に呂布こと恋も張譲によって気付かれずに駒にされてしまいました。
李書文は災難でした。彼はまた今度にでも活躍させます。まあ、第2章で活躍しましたけど。
夏侯惇の眼球を喰らうシーンは書きたかった部分です。あのシーンは『蒼天』でも屈指のシーンの1つですよね。彼女たちはそのまま亡者兵たちを倒していきます。

北郷一刀たちの前に現れた謎の男…いったい誰なのか!?(すっとぼけ)
最後はやっと藤丸立香たちが元凶に辿り着いた所で一旦、終了です。

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