Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
今回は沛国での物語です。
物語の展開としてはまだまだ緩やかですが、少しずつ「解決すべき案件」には近づいて行ってます。
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カルデア御一行は洛陽から沛国へと足を延ばした。
「沛国に到着!!」
「着いたな。洛陽ほどではないが豊かそうだ」
周りを見ると今にも収穫できそうな多くの野菜畑がある。今まで見てきた村ではこんな実りのある畑は見たことがない。
きっとこの畑を管理するものは相当腕が良いのだろう。土や水、野菜等々が良く育っているのがその証拠だ。
「うむうむ、良い田畑だ。ここでは餓えは無さそうだな!!」
ここでも餓えが在るのなら俵藤太の無尽俵の出番かと思っていたがその必要は無さそうだ。
裕福とは言えないかもしれないが貧しくも無い。十分にこの荒れた大陸でも此所では人々が活気づいている。
「まずは沛国の相である陳珪に会う。今回の事に関して既に向こうにも報告がいっているはずだが此方も顔を出さねば為らん」
「挨拶は大事ってやつだね」
「そういう事だ」
「じゃあ、彼処に居る人に声をかけてくるよ。その陳珪って人が何処に居るか聞かないとね」
すぐさま近くに居た青髪の女性に声を掛ける。本当にグイグイ行くのが慣れているものだ。
「あの、すみません」
「はい、何でしょうか?」
恐らく藤丸立香と同じくらいの齢で健康そうな肌をしている。そしてどこか周りに居る農家の人にはない雰囲気が有った。
なんというか恰好は質素なのだが内側からは違うと感じる。その違いとは本のわずか位のものだ。あと眼鏡をかけていた。
「あ、眼鏡似合ってるね」
「え、いきなり?」
声を掛けられたと思ったらいきなり褒められた女性は照れてしまう。彼女は褒められ慣れていないのか、少しオドオドし始めた。
そんなことを気にせずに質問開始。
「実はここの相の人。えっと、陳珪さんに会いたいんだけど…どこに行けば会えるかな?」
「母さんに?」
「え、お母さん?」
第一村人がこの沛国の相の娘であった。
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少し前に曹操と会談して、豫洲に逃げ込み手勢を拡大させている不埒な賊を討伐するように取り決めた。
あの曹操ならば賊を見事に討ち取ってくれるだろう。彼女にはカリスマが有り、精鋭の兵が居る。そして彼女を慕う人材はレベルが高い。
彼女と会話したけれど、相当口の回る猛者だ。あれならば政事の闇とも十分に戦える。全く持って才能の塊だと思う。
陳留にも兵団が要るが、質でも彼方が上だろう。豫洲より精鋭の兵達が居るのが羨ましいものだ。今はまだ幹が細い樹であるが、いずれは国を守る大樹になる可能性は大いにある。
だからこそ曹操との会談はとても実りのあるものだった。
「そんな時にまさか洛陽からこんな書簡が届くなんてね」
届いた書簡には、これから沛国にある団体が来ると書かれていたのだ。そしてその者達の沛国での行動する許可をして欲しいとの事。
行動の理由は賊の討伐との事。何で賊の討伐をする為だけに洛陽から書簡が届いたのかが気になる。
これが官軍というのなら分かるが、その団体とやらは何処の軍にも所属していないし、客将という扱いでも無い。しかも義勇軍でもないそうだ。
そんな何処の誰かも分からない者達の為に官軍が直々に書簡を送る等普通はあり得ないのだ。
「どんな人達なのかしらね」
実際の処は諸葛孔明が洛陽で上手くやったというのだが。更に詳しく言うならば賈駆に上手く書簡を書かせて届けさせただけである。
実は特別な者達なのではと考えている彼女は的外れである。別の意味で特別というのならば正解ではあるが。
「母さん、今いい?」
「あら喜雨? 良いわよ」
「母さんにお客さん…何でも洛陽から書簡が届いているはずだって言ってたよ」
「ああ、分かったわ。通してくれるかしら」
「うん」
早速、件の者達が来たようだ。
彼等がどの様な人物達なのかを沛国の相である陳珪は見定めなければならない。
そしてもし、使えそうな人材ならば上手く取り入れたいものだ。
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偶々声を掛けたのが陳珪の娘であった陳登に案内されて部屋に到着。部屋に入って目の前には妖艶な女性が居た。
彼女こそがこの沛国の相である陳珪だ。佇まいや雰囲気が今まで出会った来た人物とは違うのが分かる。恐らく彼女は相当な手練れなのだろう。政事面でという意味で。
あと失礼かもしれないが、最初に目に入ったのが彼女の胸であった。藤丸立香もやっぱ男の子という事である。
源頼光やブーディカにも負けないくらい大きかった。パッションリップとは流石に比べられないが。
補足だが武則天は自分の胸に手を当てて彼女の胸を凝視していた。
(あら、あの子ったら)
女性とは男性の視線に敏感なものだ。だから陳珪が藤丸立香の視線に気づくのは一瞬であった。
「こんにちは。藤丸立香です」
「私は陳珪。知ってると思うけどこの沛国の相よ。そして貴方達を案内してくれたのが娘の陳登よ」
「どうも」
陳珪は藤丸立香たちを見る。彼等に出会う前に娘からどんな人物達か聞いてみたが、大道芸の集まりの様だと言っていた。
確かにそう見えなくはない。武装した者もいるが、集団で見ると傭兵というより大道芸人っぽい。
(…なるほど、喜雨の言うとおりね。でもこんな人達がどうやって官軍との繋がりを?)
「あのー、書簡でも届いていると思うんですがここでの自由の許可を貰いたいんですが……許可して貰えます?」
「ああ、それね。それは大丈夫よ。此方としても賊を退治してくれるのなら願ったりよ」
彼等が自由に動くのは賊退治という事だ。だけど其だけが目的とは思えない。
何故なら賊退治をするのに何でココを選んだのか。その部分は誰もが少しは考えれば疑問に思うはず。賊退治ならば何処でもできるからだ、この沛国ではなくて他の州で賊退治をした方が褒賞が貰えるだろう。
なのにこの沛国で賊退治。しかも褒賞はいらないときているのでますます気になる。
「褒賞がいらないと書いてあるのだけれど本当かしら?」
「ああ。要らない」
ここで諸葛孔明が対応する番だ。難しい交渉するのは彼が適任なのだから。
「いらないのならそれで良いけど…何でいらないのかしらね?」
普通は命がけで賊を退治して褒賞も何もいらないなんて信じられない。無欲な人間は居るが、ここまで無欲となると何か有るのではないかと普通は疑う。
それに気づいた諸葛孔明はすぐに口を開く。
「探し物をしている。どうやらその探し物がこの国にいる賊が盗んだという情報を聞いたからな。もし賊を退治して、その探し物があったら貰う。それだけだ」
「探し物…それは何かしら?」
賊が盗んだ物と聞いてすぐに思い浮かんだのは『太平要術の書』だ。それは曹操も探している物。
まさかこんな偶然が有るのだろうか?。気にもしなかったが『太平要術の書』とは案外価値の有る物かもしれない。
「教える必要は無いだろう。それは陳珪殿にとって害になる物でも損になる物でも無いからな」
「太平要術の書かしら?」
「……何だ知っていたのか」
できればこのまま此方の探し物に関して聞かないで欲しかったがどうやら向こうも此方の探し物について知っている様だ。
太平要術の書が特異点となる原因ならば此方で処理したいだけだ。違っていてもどうこうするつもりはない。
「太平要術の書とはそこまで価値のある書物なのかしらね?」
出来ればここで食いついてほしくは無かった。その書物に彼女が食いつけば手に入れるのが難しくなるのだから。
もしも陳珪が太平要術の書を渡せと言い始めれば厄介になる。
すぐにどうするか考えた結果、こう言う他無い。
「もしその書物が私達の探している物で無ければ譲渡するさ」
「あら、良いの?」
「ああ。探し物でなければ、それは私達にとって価値の無い物だからな」
今はこう言うしかないだろう。こう言っておけば相手側も多少は納得するもの。
「探し物だったら?」
その返しは出来れば言ってほしくなかった。だがどっちにしろ此方も返す言葉は用意してある。
「欲しいというのならやろう。だが、その代わりこっちがまず太平要術の書の中身を確認したらだ」
探し物で有ろうと無かろうと最終的に陳珪の下に渡る。これなら文句など言える様な事は無い。
「……良いでしょう」
陳珪は思案する。彼等が太平要術の書が欲しいというのは分かった。
だが、絶対に手に入れるという欲は感じ取れない。曹操も太平要術の書を欲しがっていたが彼らよりも欲しがっているように感じられた。
だけど彼らは最終的には陳珪の下に渡すと言っている。ならばそこまで太平要術の書を求めてはいない事に成るのだ。
(彼等の本当の目的は何なのかしら?)
間違いなく目の前にいる諸葛孔明という男は腹に色々と抱えて居るだろう。恐らく自分と同じで手強いタイプだ。
「では、私達は早速仕事をさせてもらおう」
「あ、ちょっと待ってもらえる?」
「何だ」
「実はーー」
一応、彼等には話さないといけないだろう。曹操の事を。
そして陳珪は彼等の本当の目的を見極めるべく動く。
(ええっと、もし探りを入れるなら…)
陳珪の人を見る目は確かだ。そして自分の魅力や知恵を使って骨抜きにできそうな人物を考える。
(やっぱり、あの子よね)
陳珪の目に映ったのは彼しか無かった。藤丸立香しか。
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陳珪からの許可を得て『太平要術の書』を探すために黄巾党のアジトをいくつかピックアップする。
何処に太平要術の書があるか分からないので虱潰しに探すしかないだろう。だがその中であるアジトだけは狙うなと陳珪から言われている。
「曹操ねぇ」
三国志の主役級の英雄である曹操。なんでもカルデア御一行が沛国に来る前に陳珪は陳留で曹操と会談したらしい。
その会談で色々と複雑な事があった様だが、簡単に纏めると陳珪は曹操に陳留から逃した賊が豫洲に入って来たから責任持って始末しろと言ったそうだ。
だから曹操が始末する黄巾党は狙うなという事だ。
「もし、そのアジトに太平要術の書があったら?」
「曹操と交渉する他ないだろうな。もしくは先に手に入れる」
「それにしても曹操か」
三国志を知っている者ならば必ず知っているはずの英雄。後の時代では中国にて最高の認知度を誇るだろう。
聖杯戦争の開催地が中国で、召喚された英霊が曹操ならば知名度補正で圧倒的な英霊になるだろう。日本で織田信長が召喚されるようなものなのだから。
「大物の登場ってとこだなマスター。流石のオレも曹操くらい知ってるぜ」
「燕青の言う通りだ」
「何でもリアルチートって言うくらいの人物なんだろ?」
「またそんな言葉…黒ひげだな」
この時代の中でもトップを走る存在なのは間違いない。
「…また女性なのかな?」
「うーん…その可能性はあるかもなあ。霊帝とか何進もそうだったし。てか、今のところ出会う英雄たち全部女性だけだな」
燕青の言う通りで今のところ、三国志で活躍する英雄たちは全員女性なのだ。
このままいくと本当に曹操まで女性の可能性が高い。もうこの並行世界は『そういう並行世界』だと考え始めているのだ。
こうなると劉備や孫権も女性じゃないかと思ってしまう。そもそも暴君であると歴史に語り継がれた董卓があんな優しい女性の時点で相当驚いたのだ。
「女だろうが男だろうが曹操は曹操なのじゃろう」
女性だろうが男性だろうが曹操は曹操だ。性別が違うだけできっとこの時代の曹操も歴史の語り継がれる要な覇道を突き進むはずだろう。
「話を戻すが黄巾党のアジトを虱潰しにして行くぞ。一応言っておくが…退治なんて名目で動いているが目的は書を探すだけだ」
黄巾党は日々数を増やしている。大軍に膨れ上がっている黄巾党を倒すのは骨が折れる。
此方に英霊が9騎居ると言っても何万という大軍相手は厳しいだろう。やりようによっては勝てない事もないだろうが数が馬鹿げている。
「余計な戦闘はしなくていい。太平要術の書が在るかどうかだけ確認するんだ」
「儂は大軍相手でも構わんがな」
「□□□□!!」
「そこの戦闘狂2人は黙ってろ!」
何万という大軍ならば藤丸立香達が相手をしなくても、この時代の官軍や自国の軍が相手にする。歴史本来の戦いに藤丸立香達は関係ないのだから。
最も目の前で助けを求めていた人が居たとして英霊たちのマスターである彼が無視できるかと言われれば否定ができないが。
「では、早速行くぞ」
「おー!!」
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最近この沛国に訪れた藤丸立香とその一団。彼等の目的は黄巾党の退治という名目で太平要術の書が目的らしい。
はっきり言ってまだ彼等は何かを隠している。それがまだ分からないから泳がせているのだ。
その泳がせている間に彼等は着々戦果を残している。何と見つけた黄巾党のアジトを全て潰して回っているのだ。
短い期間でありながら多くの黄巾党を退治し、捕縛している。そしてたった10人でその戦果をあげている。
正直どうやってたった10人で黄巾党のアジトを潰しているのかが気に為る。どうやら彼等は本当に只者ではなさそうだ。
陳珪は探りを入れる為に藤丸立香に近づく。彼が陳珪を異性として見ているのは初めて会った時に気付いている。ああいう男性ならばいくらでも掌で踊らせてきたのだから取り入るのは簡単だ。
それによく彼等を観察すると不思議であるが藤丸立香を頭目としている集団だ。ならば頭である彼を籠絡してしまえば、そのまま彼等の戦力を手にいられるというものだ。
はっきり言って彼らは十分な戦力だ。彼等程の戦力ならばどの国も欲しがるだろう。人材を集めている曹操だって彼等の事を知れば欲しがるだろう。
すぐに藤丸立香を籠絡できるとは思わない。だから少しずつジワジワと絡めとるように攻めていくのだ。
だからまずは身体を使ってみることにしてみた。
「…あの、陳珪さん」
「はい、どうしたの立香さん?」
「……どいて欲しいのですが」
「あん、そこは触っちゃ駄目!」
「どこも触ってないんですけども!?」
陳珪は藤丸立香を押し倒すように覆いかぶさっていた。こうなった経緯は普通に陳珪が躓いて、ちょうど目の前に居た藤丸立香に向かって転んだのだ。
彼の目の前には覆いつくすほど柔らかいものが圧迫してくる。女性の魅力の1つが暴力的に攻めてくるのだ。
どいて欲しいのだが、何故か彼女はグイグイと腕に力を込めて抱きしめてくる。最初は彼女も混乱しているのだろうと思っていた。
本当に最初は偶然で。これっきりというわけではなかったのだ。
「ねえ、もうワザとだよね?」
「あら、どうしてそう思うの立香さん?」
「だって、これもう何回目なのさ」
もう何回も陳珪に押し倒された事やら。流石にドジっ子とは思えない。
「でも嫌ってわけじゃないでしょう?」
「うん」
男の本音が出てしまった。だがしょうがないのだ。だって男の子だし。
でもだからと言って警戒が無い訳ではない。こうも身体を使って誘惑してくる陳珪に藤丸立香も流石に警戒する。
「何でこんな事を?」
「そうねえ…」
「ちょ、陳珪さんどこ触ってんですか!?」
「うふふ…」
「意味深な笑い声で誤魔化さないでくださいよ!?」
まずはどいてくれる事が重要なのだがどいてくれない陳珪。そして彼女の手は何故か彼の変な場所に。
カルデアにもそういう過激な英霊が居るから慣れている為に少しは冷静だ。慣れてしまった自分もそれで良いのか分からないが。
その度に自分でもモンモンとしてしまうが我慢しているし、カルデア警察なる者も居るので守られてはいる。
いつの間にかそんなものが出来たか知らないが。
「何が目的ですか?」
「あら、聞いたら答えてくれるのかしら?」
「怪しまれるくらいならね」
「…じゃあ同じように質問。何が目的なの?」
「言ったと思うけど太平要術の書だよ」
「本当に?」
「本当」
彼女の胸で顔が隠れているけど藤丸立香は嘘はついていない目をしている。だって本当に太平要術の書が目的の1つなのだから。
本当に太平要術の書が目的だ。ただ、それが目的への過程の途中というだけ。だから嘘は言っていない。
「実は王になりたいとか、大軍を手に入れたいとか…大きな野心が有ったりしないの?」
「無いよ」
キッパリと言う。だって本当の事だもの。
「で、陳珪さんは何の用なのかな? もしかしてソレを聞く為だけにこんな事を…?」
「ふぅ、本当に野心とか何か他に目的が有るわけじゃないのね」
陳珪は藤丸立香が本当に嘘を言っていないことが理解できた。彼は純粋すぎるほど善人だと分かるのだ。
なんせ様々な人間を見てきた彼女には良い人間か悪い人間かを見分けをつける観察眼は養っている。だから今回ばかりは当てが外れたようだと思った。
「そうなのね…」
「分かってくれましたか…じゃあどいてくれると助かります」
何で怪しまれていたか分からないが誤解は解けた様だ。実際に彼女は無駄に警戒しすぎたという事である。
彼等のやっている特異点の解決は陳珪達には全く持って関係ないのだから。
「あの…何でどいてくれないの?」
未だに陳珪は藤丸立香に覆いかぶさったままだ。そろそろ彼女の胸に圧迫されて息がしづらく少々苦しい。
何故どいてくれないのかまた分からなくなってきた。
「なんか立香くんが可愛いからつまみ食いしちゃおうかなって」
「ええぇ!?」
いつの間にか君付け。恐らく誤解は解けて警戒も解いてくれたのは確かだ。でも何故か誘惑的な雰囲気。
こんな所をマスターラブ勢に見られたらどうなる事やら。
「どど、どうして!?」
「私だって誰彼構わずってわけじゃないのよ。君が可愛いから…ね」
そんな蠱惑的な声を耳元で囁かれてしまったらゾクゾクしない男はいない。
自分の魅力的な肢体を上手く有効に使う事は有る。だけど陳珪だって本当に誰彼構わずというわけでは無いのだ。
今も彼を誘惑しているのは勿論、全ての理由が可愛いからつまみ食いをするわけでは無い。彼等の戦力が魅力的だからだ。
もし、彼を籠絡できればいざという時に上手く利用できるかもしれないのだ。彼等を将としてこの国の軍隊に組み込めば陳留に居る曹操の軍隊とも渡り合えるかもしれないと考えたからだ。
この沛国は残念ながら黄巾党に渡り合えるほどの力は無い。彼女の計画としては曹操に取り入る事も考えていた。
だけど彼等を手に入れればその必要は無くなるかもしれない。なんせたった10人で黄巾党の拠点を潰して回っているのだから。
拠点と言っても大軍が居るわけでは無い。それでも多くても100人は最低でもいるはずだ。最近の黄巾党の増殖具合を予想するとそれくらいの規模が普通だろう。
これから曹操が退治してくれるであろう賊の拠点は数千に膨れているはずで有る。たった3人が数千にまで増殖する戦乱の時代だ。
だからこそそんな危険な賊の集団を倒せる知力と戦力を持つ彼等が欲しいのだ。
「このまま私に任せてくれれば良いのよ。それだけで気持ちの良い時間が過ごせるわ」
「!?」
「それで私に靡いてくれても靡かなくても、それは君の自由だしね」
「おお!?」
「さ、私に任せて」
「フォウ!?」
ついフォウの声真似をしてしまった。ここはどうするべきか頭の中に選択肢が出てくる。
1つは『据え膳食わぬは何とやら』で、そしてもう1つは『優しくしてください』であった。
よくよく考えるとどっちも結果は同じだという事に後で気付くのだが。案外まだ混乱しているのであった。
「さあ…ってあら?」
彼女の魅惑的な胸で何も見えないが、どうやら誰か来たようだ。これは助かったと一安心である。
流石に誰かが来れば致すのを止めるだろう。やっと陳珪が退いてくれて藤丸立香が見たのは武則天と玄奘三蔵であった。
「あ、2人とも」
「あ、2人とも…ではなーい! 何をやっとるのじゃ愚か者ーぅ!!?」
「なななな、アタシの弟子のくせして何やってるのよ!? 修行が足りないわ!!」
「お仕置きで拷問じゃ!!」
「理不尽!?」
しょうもない事件であった。
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しょうもない事件の後、藤丸立香は武則天と玄奘三蔵に引き摺られながら説教を受ける。
武則天から拷問を受ける事は回避できたが玄奘三蔵の説法という名のお仕置きは回避できない。
煩悩を祓う修行をさせられるらしい。どんな事をさせられるのだろうか。
「まったくアタシの弟子として不甲斐ないわ!!」
「あんな年増の何処が良いんじゃ!!?」
「ふーやーちゃん。ソレ陳珪さんの前で言っちゃダメだよ」
女性の年齢に関しては難しいものだ。それに関しては多くの者が痛い目に合っているのだから。
「で、俺は何をさせられるのお師匠様?」
「陳登ちゃんが畑仕事をやっているから手伝ってあげるのよ!!」
「なるほど。YARIOたちの出番じゃないか」
でもここにはYARIOたちはいない。いたら村すら開拓できるはずだ。
「畑仕事なら修行にバッチシよ。マスターの煩悩を退散させられるわ!!」
勿論、師匠である玄奘三蔵も一緒に手伝うらしい。
「もちろん、武則天さんもーー」
「妾は見てるからな」
「えー!?」
武則天なら手伝うことはしないだろう。
「ぎゃてえ…まあ、トータも居るしいっか」
「藤太も居るの?」
「ええ、何か手伝いたくなったって」
どうやら俵藤太も畑の手伝いをしているようだ。食に拘りを持つ男。ならば食材を作る段階である耕作にも気になる所が有るのかもしれない。
城から出て陳登が管理をしている田畑に赴くと早速見つける事ができた。陳登の周りには農民たちが集まって彼女の指示を仰いで動いて居るようだ。
「この辺りは体菜か大根かな」
「分かりました。向こうの畑は来月には開墾が終わる予定ですけど、同じで良いですか?」
「来月なら同じで間に合うかな。後半までかかるようだと厳しいかも」
「でしたらーー」
見ていて分かるように陳登はテキパキと農民たちに農作について説明し、指示を出している。まだまだ若いと言うのに良い采配である。
忙しそうに指示しているが、玄奘三蔵は気にせずにズズイと間に入っていく。
「陳登ちゃーん!!」
「あ、三蔵さん。どうしたの?」
「畑仕事の手伝いに来たわ。アタシの弟子をコキ使ってちょーだい!」
引き摺れている藤丸立香を見て挨拶。
「そしてアタシも手伝うわ!!」
プルンと揺らしながら胸を張る玄奘三蔵であった。
「武則天さんも?」
「妾はやらん」
「なら邪魔にならないところに居てよね」
「くっふっふー。分かっておるわ娘っ子」
「娘っ子って…ボクの方が全然年上だと思うけどな。全く、手伝わないんなら…」
陳登と会話しているとたまに思うがどこか一言多い気がする。それが彼女の性格という事なのだろう。
でも相手によってはその性格は苦労するかもしれない。特にプライドの高い人や言葉遣いに細かい人など。
だから彼女が村人たちと信頼し合っているのはきっと色々と有ったが、何とか上手くはいったという事だろう。
「それにしても急だね」
「弟子の煩悩退散させる為よ!!」
「煩悩退散って…何があったの?」
「実はね…」
藤丸立香が陳珪に押し倒されていた時の事を説明。その説明を聞いて陳登は特に思うことはない。
まるで当たり前というか、いつもの事のようなことを聞いた感じだ。
「そう。母さんもよくやるよ」
「よくやるって…」
「詳しくは知らないけどさ。よく母さんは色々と手回しをしてるからね。立香さんも気を付けた方がいいよ」
諸葛孔明も陳珪のことは胡散臭い人物と評していた。常に相手を煙に巻くような話し方をしたりしているし、有力者には露骨に取り入るような事もしているらしい。
はっきり言って彼女が何を考えて有力者へ露骨に取り入ろうとしているのかは今現在、誰も分からない。娘である陳登さえも。
「……はあ」
陳登は母親の陳珪の事が分からない。藤丸立香達は彼女達親子の擦れ違いの事は今の段階では分からないのであった。
「ところでトータは?」
「ああ、藤太さんならーー」
陳登が俵藤太が何処にいるか話そうとするが、その前に件の俵藤太が泥だらけながら来てくれる。
「マスター、それに三蔵に武則天まで。どうした?」
後ろには多くの農民たちが居る。まるで自分の部下のように従えているみたいだ。
「藤太さん」
「おお、陳登。向こうの畑の土起こしは終わったぞ。次はどうする?」
「ありがとう藤太さん。じゃあ次はーー」
陳登は俵藤太に近づいて次の指示を出している。何処か遠慮がないというか信頼している感じで畑作業をお願いしているのだ。
その指示を笑顔で了承する俵藤太。そのまま後ろにいる農民たちに作業の段取りをテキパキ伝えて動き出す。
「藤太さんは腕が良いね。はあ…彼が最初から居てくれたらどれだけ助かった事か」
彼は豪快かつ爽やかで、気前が良くて料理上手で面倒見もいい兄貴肌の漢だ。その包容力からすぐに人と打ち解けてしまう。彼の後ろにいた農民達も慕って指示を受けており、その顔に不満なんて1つも無い様だ。
陳登だって俵藤太には何処か信頼を置いているように見えた。でもその気持ちは分かる。藤丸立香だって俵藤太と出会った時は彼の良さにすぐに懐いたのだから。
俵藤太はカルデアで誇る頼りたくなる兄貴系英霊の1騎である。
「それが終わったら…次は苗を植えてもらっていいかな?」
「良いぞ!!」
「あ、ありがとう!」
「遠慮するな。お主はまだまだ子供なんだから、大人を頼るのは悪い事ではないぞ」
ポンポンと陳登の頭に手を置く。それが少し恥ずかしい様だ。
「藤太さん…手に泥が付いてる」
「おっと、すまん。せっかくの綺麗な髪が台無しになってしまうな」
「綺麗な髪って…藤太さんたら言い過ぎだよ」
「そんな事はないと思うがな」
「……もう」
きっとここに陳珪がいたら娘の珍しい顔を見ることが出来ただろう。
「ところでマスター達は?」
「修行よ!!」
「だいたい分かった」
俵藤太は玄奘三蔵の弟子に一応なっているので彼女の考えはだいたい読める。
これにはマスターに優しい目で見るしかない。
「大変だなマスター」
「いつもの事だよ」
そう、いつもの事である。彼は英霊達に関わって生きている。それが良い事だったり、問題に巻き込まれたりと様々なのだ。
「ほれ、マスター。畑仕事をするのだろう? ならば妾がサボらないか見張っててやろう。妾直々にマスター専属の見張りをしてやるのじゃ。光栄に思うがよい!」
そう言って武則天はマスターの背中におぶさる。これでは畑仕事が出来ない。
「サボったら罰として拷問じゃぞ」
機嫌が良さそうに背中の方でチャキっと何かを用意した音が聞こえた。
「怖くて後ろが振り向けない…」
そう言いつつ藤丸立香は俵藤太たちと畑仕事をするのであった。
沛国での生活は始まったばかりである。
読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。(おそらく来週くらい)
今回は陳珪たち親子でした。
陳珪ならカルデア集団のリーダーである藤丸立香を見たらすぐにでも簡単に籠絡できると思って動くのではないか、とも思って誘惑している感じになりました。
俵藤太なら陳登の一言多い言葉も気にしないので仲良くなるというか信頼を勝ち取るのも早いと思います。
・・・他のキャラがまだ余っている感じでもったいない。
やはり全員いっきに活躍させるのは難しいものですね。1話ごとに恋姫もfgoキャラも活躍させるように頑張って行きます。