Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
日常編3になります。有言実行ですね。
今回で一旦、日常編はこれにて終了。


徐州での日常3

334

 

 

城の外壁の上。

 

「はぁ…」

「ため息を吐いていると幸せまで逃げると言いますよ」

「む、秦良玉殿か」

 

秦良玉が心配して愛紗の傍に歩み寄る。

彼女の悩んでいる事を解決させるのは中々難しいものだ。

 

「………ふう。たまの余暇に何をしているのだろうな私は」

 

愛紗はある事に思いふけっていた。何についてかと聞かれれば北郷一刀と桃香にだ。

心の中で桃香ならばどう過ごされたかと考え、彼女ならば素直に北郷一刀に甘えるのではないかと思ってしまう。

羨んでいる気持ちはない。ただ何処か心がモヤモヤする。

 

「もしかしなくとも北郷殿と桃香殿の事ですね」

「う…やはり分かるか」

「はは、分かります」

 

前に愛紗と秦良玉はそういう恋愛相談について話していこうと事があったのだ。

最も秦良玉としても恋愛的な相談を上手く出来るかなんて自信は無いのだが。

そんな2人の前にある人物がヒョッコリと現れる。

 

「お、いたか。探したぞ」

「星…」

「星殿ではありませんか」

 

現れたのは趙雲こと星であった。

 

「このような場所で酒を飲むでもなく風に吹かれて何をしている」

「昼から酒なぞを喰らっているのはお前だけだ」

「私なりの楽しみ方だ。たまの休みに時間を持て余す哀れなモノより、よほどマシだろう」

 

余暇をどう過ごすかなんて個人の自由だ。昼から酒なんて最高である。

何も答えない愛紗に対して星は「反論が無いと張り合いが無い」と言う。

 

「秦良玉はどう過ごす?」

「私ですか……そうですね。パンダを愛でるとか良いかもしれません」

 

星としてはもっと別の何かを期待していたが、口から出た内容はそうでもなかった。

 

「まあ、今日はそこの暇人に暇人が付き合ってやるとしよう」

 

星はのらりくらりと愛紗と秦良玉の所に居座る。

 

「酒を飲んで楽しむのではなかったのか」

「無論、飲むとも」

「一人で飲んでいろ」

 

それは無論、一人で飲む気である。やっぱ欲しいと言われれば分ける気もある。しかし、メンマは駄目らしい。

 

「ふふふ、そうやってツンツンと角を出すな」

「私は元々、こういう性分だ」

「おや、ひねくれている」

 

今の星の発言は愛紗にとって全てイラつかせてしまう。

 

「隣を失礼するぞ…どっこいせ」

「許した覚えはない!!」

「ぐび…聞く耳持たぬな。私はここで酔っぱらうと決めたのだ。酔っ払いは話を聞いてもすぐ忘れてやるぞ」

「なんだと?」

 

勝手に話し始める星。実は彼女なりに愛紗の悩みを解決してあげようかと思っているのだ。

面白そうからではなく、ただの老婆心のようなもの。

 

「何やら抱え込んでおるのではないか? と、これは酔っ払いの独り言だ」

「見透かしたようなことを言うではないか…」

「おや、拗ねた」

「酔っぱらいに語る言葉などない」

「ぐびっ、甘露甘露」

「………ちっ、好きに飲んでいろ」

 

結局、観念した愛紗であった。

 

「聞きましょう愛紗殿。どうやら星殿は恋愛経験が豊富なようですよ」

「こいつがか? そんなわけないだろう」

「何を言うか。この徐州では一番の恋愛経験の持ち主だぞ」

 

ジト目で見るが星が涼しい顔だ。

 

「……主が気にしておったぞ」

「な…!?」

「おや、赤くなった」

 

たった一言で愛紗の顔が真っ赤だ。これはとても分かりやすいというものだ。

 

「何故、ご主人様が…貴様!? 私の何を知っている!!」

「朝から晩までため息ばかりでは、主でなくとも気にするというものよ」

「…ご主人様はなんと仰っていた」

「ぐび…」

 

チャキリと青龍偃月刀が出てくる。それを見て秦良玉は急いで愛紗を宥める。

 

「なんと余裕のない。酔っ払いを刃で脅すとは関雲長の名が泣くぞ」

「お前が、からかうようなことばかり言うからだ」

「おやおや、怖い怖い。はっはははは!!」

「笑うな!!」

「恋に捉われれば、人の本性が浮き彫りになるものだ」

「な…!?」

 

恋は盲目なんて言うくらいだ。今の愛紗なら巧みな話術で簡単にボロを出させるなんて容易。

 

「桃香さまの性情は飛び込み型…とでも言うべきか。少々、視野狭窄のきらいはあるが、あれはあれで清々しい。桃香さまのああした真っ直ぐな好意を主も快く受け止めているようだ」

 

自称、徐州で一番の恋愛経験者と言うだけあって相手の事をよく見ている。桃香の性質を見抜いていた。

 

「…泣くのか?」

「誰が泣くか!!」

「泣くくらいの可愛げがあればよいものを…この娘はすぐに強がろうとするから。誰も内に秘めた弱さに気付けぬのだ」

「お、お前!!」

「主はマシな方であるぞ。愛紗の様子がおかしくないかと、私に相談に来るくらいだ」

「…そういうお方だ」

「そうした微笑ましいほどの甲斐甲斐しさが、鉄の女の閉ざされた扉をこじ開けたか」

「鉄の女とは誰の事だ!!」

「お主以外の誰がいる」

 

チャキリとまた青龍偃月刀が出てきた。また秦良玉が急いで宥める。

 

「照れ隠しにも可愛げが無い…私でなければ仰け反っているところだ」

「星殿…流石にからかい過ぎですよ」

 

秦良玉が注意するが星は何食わぬ顔。

 

「時にはハッキリと言った方がいいものだ」

「憎たらしい女め」

「…私の予想を越えて辛そうだな」

「く…」

 

愛紗の心にある問題は意外にも深い。

恋の病に関するものは馬鹿には出来ないからだ。あの華佗にでさえ恋の病を治すのは不可能だからである。

 

「お主がひた隠しにしようとしている想いは、決して小さなものではないらしい」

「……」

「わからぬでもない。ぷ…はは、やはり義理の姉妹とは好みの男も似るものか」

「斬るぞ」

 

けっこうドスのきいた声である。

 

「自らの夢を投影した存在が恋敵とは…さてさて、難儀なものよ」

「恋敵などという言い方は、好かぬ」

「ほう?」

「お前の言う通りだ。桃香様はご主人様を慕われている」

「あの方は誰かと違って別段、隠そうともしておらぬからな。ふ、甲斐甲斐しいではないか…毎日、主に張り付いて」

「……可愛らしいお方だ、私と違って」

「うむ、お主は可愛くないな」

「………」

「その顔だ。可愛くはないお主は、可愛い娘でありたいとは思っておるらしい」

「か、からかっているのか…星!!」

「恋とは将をも女にしてしまう…だからこそ厄介で、また貴きものよ」

「好き勝手を抜かすな…いいか、私は桃香さまやご主人様の将。な、何が恋敵だ。主を押しのける臣下がいるものか!!」

 

だんだんと荒々しくなる。それは星の言葉が心に突き刺さっていくからだ。

突き刺さる理由は星の言う事が全て的を得ている。否定できずにいるからである。

 

「だんだんと、本音が見え隠れし始めたな」

「く…」

「本心では主の寵愛を得たい。が、同じく敬愛する桃香さまが主に夢中。ならば臣下である愛紗は想いを押し殺し祝福する、か。なんとも愛紗らしい堅苦しさよ」

「何を置いても、主の幸せを望むのが臣下の務めた。違うと言うのなら、お、お前は不忠者だ。不忠者、不忠者!!」

「子供かお主は」

 

流石に今のは秦良玉も同じ事を思ってしまった。言い合いで論破された子供と同じである。

 

「主への想いを隠さぬようになったのは、進歩だが…お主、自分の言っていることが本当に分かっているのか?」

「どういうことだ?」

「…仕方ないから譲るって事でしょうか?」

 

ポツリと呟いた言葉に同意する星。

 

「うむ、その通りだ。そして己の想いを封じてな」

「そんなつもりでは…」

 

自分も好きだが敬愛する者も同じ主を好きになっている。それならば敬愛する者と主の方がきっと相性的に良いと勝手に判断した。

そんなのは確かに仕方ないと思って譲ったという風に見える。

 

「なくても滲み出ているということだ。臆病者め」

「お、臆病者!?」

「そうであろう。お主は自己完結しておるだけだ。例えば、もしも主が桃香さまより、お主を好いておったとしたらどうする」

「……!?」

「主の想いをソデにするのか? 不忠者め」

「そんなことがあるものか…桃香さまより私をだと、わ、悪い冗談だ」

「主の想いを、お主が勝手に決め付けるな」

 

確かに勝手に決め付けるのはよくない。北郷一刀が愛紗と桃香のどちらを選ぶなんて誰も分からないのだ。

 

「う…」

「少なくとも、私の目に映る主はお主を好いておるぞ」

「なーー……!?」

 

またも愛紗の顔が茹蛸のように真っ赤になってしまった。

 

「蓼食う虫も好き好きと言う。まして愛紗は、性質こそ違えど女としての魅力で桃香さまに劣るとは私は思わぬなぁ」

「適当なことを…お、お前はそうやって場を乱して、き、聞かぬぞ!? この酔っ払い!!」

「そもそもからして、とっかかりを間違えおるのだお主は。お主の想いと桃香さまの想いは別問題。すり替えというものだ」

「すり替え…だと?」

「主がお主の想いに応えぬ理由を勝手に作るな。自ら道を塞いでどうする。恋愛とは自ら進む道を探り…必要ならば切り開く。そういった強く…純粋なものであるべきだ」

「簡単に言うな!! 私がどれだけ…」

「難しく考えるなと言うのだ。桃香さまは桃香さま、お主はお主。桃香さまが主に愛されているからと言って、お主が愛される理由にならぬと…最初から言っておるではないか」

 

ここで本当に愛紗は星の言う事が分からなくなった。

 

「…意味が分からぬ」

「石頭め。要は、桃香さまと一緒に愛して頂けということだ」

「一緒に!?」

 

確かにその方法は解決の1つかもしれない。だが恋というのはそう簡単なものではないのだ。

 

「一身に寵愛を得なければ満足できぬか? それもまた女の性、否定はせぬが」

「そのようなことは言っていない!! 私はただ…」

「主の想いをお主が決めるなと言っている。私が問うているのはお主の気持ちだ」

 

結局のところ自分が何を望んでいるかだ。それが分からなければ何も始まりはしない。

 

「私の気持ち…わ、私の気持ちと言うのなら…」

「ふむ?」

 

愛紗の正直な気持ち。

 

「………………一身に寵愛を授かりたい」

「ふははははははは!!」

 

彼女の口から本心が聞けた瞬間に大笑いをしてしまった星。

 

「言わせておいて何を笑う!! この性悪め!!」

「愛紗も女よ。ようやく素直な気持ちというものを引き出せたな」

「お前のそれは励ましか? からかっているだけか?」

「酔っ払いに何を求めているのだお主は?」

 

そう言えば星はただの酔っ払い、ただ独り言を呟いているだけであった。

 

「…………そうだったな。して、酔っ払いよ。お主は私に女として生きよと言いたいのか?」

「決めるのはお主よ。その行く道が輝かしものであると保証もしてやれん。主は少々、色を好む性質であるからな。そして女は英雄を求める。咲き誇る花に蝶が群がるのは世の摂理よ」

 

黙る愛紗。何か思う事があるようだ。

 

「一身に寵愛を受けたい欲はよい。よいが、その欲を昇華できなければ辛いことになるかもしれん。なんにせよ。決めるのはお主だ」

「例えば、華に群がる蝶の一匹としていずれ蝶より偉そうに、ふんぞり返る蝶を目指すというのも…か?」

「ぷ、それもまた女の道よ」

 

良い答えが聞けたのが軽く笑う。

 

「そうと決めたら私は強いぞ、我が信念は岩をも通す」

「それでこそだ。ふふふっ、お主は佳い女だよ」

「取っ払いの戯言など、聞く耳持たぬ」

「ならば、主に言ってもらうといい。閨でな」

「いよいよ酔っぱらってきたようだな、横にでもなれ」

 

だんだんと愛紗も星に対して言い返す気力が戻る。

 

「そうするか…ふう、良い気分だ」

「…世話になったな、星よ」

「何か?」

 

ここでもただの酔っ払いの独り言の設定を通すらしい。

 

「わ、私はもう行くと言ったのだ」

「うむ、好きにしろ」

「ああ、そうだな………好きにするとも」

 

そして愛紗は何処かへと歩いていくのであった。

 

「……助かりました星殿。私ではどうもああいう話は専門外でして」

「ただの酔っ払いの独り言だぞ秦良玉よ」

 

秦良玉としてはやはり恋愛経験の相談事は不得手だ。そもそもカルデアにいる英霊たちの中で恋愛相談が出来る者は少ない。

今日に関しては一段と悩んでいる愛紗をどうにかしてあげたいと思っていたが星に全て持っていかれた。しかしそれもまたよし。

自分では上手く出来ない不得手を星が解決してくれたのだから恨みも何も無い。

 

「ぐび………ところで秦良玉は何か悩みは無いか?」

「悩みですか? まあ、無いといえば嘘になりますね。人間、悩みの1つくらいはありますよ」

 

今の悩みだと、やはりマスターの寝室に夜這いもとい潜り込んでくる英霊を追い返す事だ。

マスターの安眠を守り隊一同全員の悩みだ。何度も撃退しても何度も来るのだから大変である。

 

(まったく…何度も撃退しても何度も来ますからね)

 

毎回撃退を成功しているわけではない。やはり防衛網を抜けてマスターのベッドに潜り込まれる事もある。

 

「いや、そうではなくお主は立香とどうのかと思ってな」

「………は!?」

 

いきなりの内容で素っ頓狂な声が出てしまった。

流れ的にはもしかしたらおかしくはないかもしれないが、まさか自分もそのような話を振られるとは思わなかったのだ。

 

「あの男も主と同じで良い男だ。それによく見ればお前たち全員から好かれている」

 

藤丸立香はカルデアの英霊たちが好かれている。愛情、友情と様々なものが含まれているのだ。

そんな様子を見れば誰だって「彼は好かれている」と簡単に分かってしまう。

 

「確か立香が言っておったな。他にも仲間がたくさんいるとな……ならば恋敵がたくさんいるのではないか?」

「こ、恋敵って!?」

 

秦良玉はアワアワしてしまう。そんな様子を見て酒を飲む星は面白そうにしている。

 

「星殿…からかうのはよしてください」

 

実際に恋敵はたくさんいる。特にこの英霊たちは、というのがいるのだ。

例えばマシュだったり、メルトリリスだったり、シャルロット・コルデーたちだ。他にもまさにヒロイン格として上り詰めている存在がいたりする。

そうなるとマスターに好意を抱いている英霊たちも少しは焦ってしまうというものだ。自分たちもマスターと深く関わりたいという感じに。

 

「ふむ…愛紗よりかはマシな方か?」

「どういう事ですか」

 

愛紗は自分の恋という気持ちに対して悩んでおり、顔に出すほどであった。あのままにしていれば支障をきたしたはずである。

変わって秦良玉の方は特に変わりない。星の見立てとして秦良玉は藤丸立香に対して想いがあるのは分かっている。今、徐州にいるカルデアの女性メンバーの中でも一二を争うくらいだ。

 

(今いる仲間内だと秦良玉と武則天が立香に対しての好意が一番分かりやすいからなぁ)

 

哪吒と玄奘三蔵も藤丸立香に好意を抱いているが少し違う気がする。荊軻も同じくだ。

 

(荊軻に関しては…よく読めん)

 

愛紗の恋路を面白く微笑ましく見守ってみたいと持っている。そして秦良玉たちの方もどうなるかも見てみたいと思っているのだ。

自分の方に関しては棚に上げて。

彼女たちの数奇な恋路がどうなるかなんて分かる者はいない。

 

 

335

 

 

諸葛孔明は顔を手で抑えて暗く落ち込んでいた。落ち込んでいた理由はある場面をつい覗いてしまったからだ。

ここで誤解させてしまわないように言っておくと『スケベ根性で覗いた』というわけではない。たまたま運悪くか運良くか、偶然にも見てしまったのだ。

落ち込んだとあるが、実際にはよく分からない気持ちになったのだ。ただしプラスの方向の感情ではないのは確かだ。

何を見たかと聞かれれば、朱里と雛里がキスしていたという場面をだ。

 

(………彼女たちは一体何をしてるんだ)

 

元々、何故か徐州で手伝いをさせられていた諸葛孔明はある資料の確認の為に朱里を探していたのだ。探している時に朱里と雛里のキスシーンを見てしまったのだ。

物凄く百合百合しい光景であった。余談だが黒髭が見たら「良いものを見せてもらいました」と言ってクールに去ってくかもしれない。

 

(この世界と私たちの世界は違う。しかしそれでも同じ諸葛孔明が、ああいう行為をしている所を見るとこんな気持ちになるのだな…)

 

朱里と雛里がお互いの身体を弄って喘ぎ声を出した時は見ても聞いても居られなくて、その場から逃げるように去った諸葛孔明だ。

この感情をどう説明すればいいのか分からない。

例えるなら双子の片割れが同性同士でキスしていた場面を見てしまったという形かもしれない。

 

(…いや、違うか。赤の他人…とも違うのだが。まずい、分からん)

 

今の諸葛孔明を見る人たちは関わらないように過ぎ去っていく。本人も声を掛けられても、理由が朱里と雛里がキスしていた場面を見てしまって落ち込んでいるなんて言えるわけがない。

何度も言うが落ち込んでいるというのは彼女たちが好きで、敵わない恋だったとかいう理由ではない。

世界は違うが同じ存在が同性同士でキスしていた場面を見てしまって、「どうしろと?」という感じの落ち込みである。

 

(……はあ、きっと義妹がいたら絶対にからかわれる)

 

ここで注意すると朱里と雛里に落ち度なんてものはない。ただ勝手に諸葛孔明が謎のダメージを喰らっただけなのだから。

二時間くらいしてから朱里たちの方に戻ると影から「凄かった…」とか「胸がドキドキしてる」とか聞こえてきたら、またすぐに回れ右である。これでは仕事に関する資料の確認なんてできるはずもない。

 

(…なんだ? この世界の孔明はそういう趣味なのか?)

 

朱里と雛里たちのために言うと彼女たちにそういう趣味は無いと思われる。そう、思われるだ。なにせ同性同士でキスしている時点でそういうのに抵抗が無いと考えられるからだ。

初めから説明すると彼女たちがキスしていた理由は予行練習だ。

自分たちの想い人との本番のためにキスの練習をしていたわけである。身体をお互いに弄ったのも予行練習である。

何もかも全ては想い人のきたる本番の為なのだ。

こう聞くと恐らくは可愛いものだと思われる。恐らくは。だが見てしまった諸葛孔明は本当に「どうしろと?」という気持ちだ。

朱里と雛里は想い人のために頑張っているようだ。これも恋のなせる技かもしれない。

彼女たちは真剣だ。諸葛孔明がその真剣に口を挟むことなんて出来ない。

 

(口を挟むなんて野暮な事はしないがな)

 

先ほど見てしまった事は忘れようと思うしかなかった。

 

「あらん? どうしたの孔明ちゃん。まるで人様の情事を見てしまって罪悪感に駆られている雰囲気ね」

 

声を掛けてきたのは逞しい筋肉を持つ貂蝉だった。それよりも何故、的確な例えを出せたのか気になる。

 

「いや、何でもない」

「あらぁそお?」

「…何かようか?」

 

声を掛けてきたという事は何かしら用があるということだ。

 

「話は聞いていると思うけど于吉ちゃんの仲間…左慈ちゃんについてよ」

「それか」

 

反董卓連合の最終局面でついに現れた左慈。

事前に聞いていた話だと于吉の仲間であり、外史の消滅を企む実行犯の主犯格だ。

彼は藤丸立香たちの元ではなく北郷一刀の前に現れた。

于吉はカルデア側に現れた策を仕掛ける一方で、左慈は真っ先に拳を向けたのは北郷一刀の方であったのだ。

 

「左慈という者は北郷一刀に恨みでもあるのか?」

「……そうねぇん。でもこっちの一刀ちゃんに恨むのは筋違いなんだけど」

(こっちの?)

「彼らの目的は外史の消滅よ。その関係でやっぱ貴方たちがこの外史に呼ばれた理由があるかもしれないわねん」

 

今更であるが藤丸立香たちカルデア勢がなぜこの三国志を元にした世界、外史に転移してきた理由は今だに分からない。だが于吉や左慈はカルデアの存在を最初から知っていた。

ならば彼らが何かしら情報を持っているのは確かである。

 

「何としても捕縛しないとな」

「ええ。でも本当に今回ばかりは違うのよね。于吉ちゃんも左慈ちゃんも私の知らない力を使っていたわ」

 

天候を操る力や物理全てをすり抜ける力だ。その力に関して貂蝉は大体、検討を付けている。

 

「やっぱり『于吉』に『左慈』という逸話ね」

 

于吉と左慈の逸話。その逸話を昇華させた能力だ。

 

「まるで貴方たち英霊を参考にした感じよね」

「…本当に参考にしているかもな」

 

孫呉では実際に于吉は『于吉』の逸話を昇華させた能力を使用している。ならば左慈のすり抜ける能力も同じなのだ。

天候を操る力に物理全てをすり抜ける能力。どちらも恐ろしい能力だ。

 

「天候を操る能力なんて下手したら神と同等だ。そしてすり抜けるというが物理だけとは限らん」

「その通りねえ…」

 

他にもまだ何か力を隠し持っている可能性がある。油断は本当に出来ない。

 

「左慈や于吉の逸話に関して他にはないか調べないといかんな。こういう時にカルデアと連絡が取れれば一番なんだが…」

 

これも忘れてはいけない事だが、未だにカルデアと連絡が繋がらないのだ。

ここが異世界だから、という形で諦めてしまいそうになるが何とかカルデアに繋がらないか四苦八苦しているのである。

 

「…次に奴らがどう仕掛けてくるか予想できるか?」

「反董卓連合は何かしてくると予想はすぐ出来たけどね。そうねえ、あるとしたらやっぱり『大きな分かれ道』になるような出来事に首を突っ込んでくるんじゃない?」

「それだと次は?」

「たぶん…曹操ちゃんと袁紹ちゃんの戦いかしら?」

「……官渡か」

 

 

336

 

 

荒野にて。

 

「返せ……」

 

徐州で束の間の平和を過ごしている頃、ある騎馬隊が荒野を駆けていた。

 

「……返せ!!」

 

反董卓連合と董卓軍の戦いは連合の勝利で終わった。しかし完全勝利とは言えない。

色々と解決していない部分があったりするのだ。その1つがまさに徐州に向かって近づいている。

こんな事になるのならば、あの時にトドメを刺した方が良かったと言うかもしれない。あの時、逃がさずに追撃を掛ければ良かったのかもしれない。しかし誰もがあの武将と戦いたくなかった為に追撃も何もしなかった。

これはその時に見逃してしまったツケが帰って来たものだ。

 

「月を…返せぇえええ!!」




読んでくれてありがとうございました。
次回はまたも未定です。そして次回で本編に戻ります!!
まだ曹操sideにはいきません。その前に解決する話がありますので。

334
原作と同じ流れです。
愛紗の恋愛相談でした。そして最後にリャンさんが星にからかわれ(?)ました。

335
孔明先生が朱里と雛里の予行練習を見ちゃった。

336
あの子が徐州に向けて直行中。

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