Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
今回はあの方たちにしました!!
まあ、最初に言っておくと原作の流れとあまり変わらないかも。
331
「……香さん」
気持ちよく微睡んでいると癒し系の声が聞こえてくる。
「起きてください立香さん。朝ですよ」
どうやら誰かが藤丸立香を起こしに来てくれたようだ。声からしてカルデアの誰でもない。
身体を弱く揺すられるがその程度では起きない。寧ろ更に眠くなってしまうものだ。もしも今が冬であったら確実に二度寝をする。
「へぅぅ…立香さんが起きない」
困っている感じであるが何処か可愛らしいと思ってしまう藤丸立香。困らせたいという気持ちになってしまうのは何故だろうか。
何と言うか困ったパッションリップを見ているような感覚である。
「え、えと。い、悪戯しちゃいます…よ?」
「どんな?」
彼女の悪戯が気になったので目が覚めた。
「へぅぅ…お、起きてたんですか立香さん。ず、ずるいです…」
目が覚めると頬を真っ赤にした月がいた。しかも1人で。いつも一緒にいる詠はいない。
「おはよう月」
「おはようございます立香さん」
反董卓連合で助けられた月は詠と共に徐州に匿われているのである。
正体がバレないように董卓という名前はもう使えない。本人たちには耐え難いかもしれないがこれから真名を名乗ってもらうことになるのだ。
月も詠も桃香たちだけでなく、他の兵士や民たちからも名前を呼ばれる事になる。生きる為、真名を呼ばれるのは我慢してもらうしかないのだ。
「…うん。やっぱりメイド服、似合ってるね」
「へう…ありがとうございます」
月と詠は匿われているが何もしていないわけではない。ただ大事に匿われていたら彼女たちが只者ではなく、重要な人物だと何処からか情報が洩れてしまって最悪の場合は月が董卓だとバレてしまう可能性があるのだ。
彼女たちの身分を誤魔化す為に月と詠はメイド服を着て徐州で働いているのだ。
「仕事には慣れた?」
「はい。寧ろ今の仕事の方が楽しいくらいです」
「そっか……そういえば詠さんは?」
必ずと言っていいくらい月と一緒にいる詠の姿は見えない。
「詠ちゃんなら北郷さん…ご主人様を起こしに行ってますよ」
「……大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
藤丸立香はちょっと北郷一刀を心配した。
その、ちょっと心配に関してだが実はつい先日にこのような出来事が起きたのである。
「回想に入ります。ぐだぐだほんわほんわ~」
「え、回想?」
徐州の街にて2人のメイドがお遣いに出ていた。
「…はぁっ」
「詠ちゃん、またため息ついてる」
2人のメイドとは桃香たちに助けられて徐州に匿われてる月と詠である。
「そりゃため息もつきたくなるわよ。日用品の買い出しなんて、誰でも出来るじゃない」
「それはそうだけど、雑用もお仕事のうちだよ?」
「…限度ってものがあるわよ。まったく、軍師であるボクがこんなことをしなくちゃならないなんて…オチたものね」
今の彼女たちを知る者が見れば「何をしているのだろう」と思うかもしれない。なにせ反董卓連合が最後の最後まで狙い続けていた人物なのだから。
「仕方ないよ、詠ちゃん。私たちはご主人様に命を助けてもらったんだから。しっかりご奉仕しないと。それに…」
「それに?」
「今まで私たちはご主人様たちと敵対してたことになってるんだもの。それを気遣ってくれてるんじゃないかな」
「変に衝突にないように、仕事を振り分けてるって事? そこまで考えてるとは思えないけど」
「そんな事無いよ。ご主人様は優しいよ。立香さんみたいにね」
「あれは優しいんじゃなくて単に考えてないだけ。月に変なことしてきたら絶対にぶっとばしてやるんだから」
「詠ちゃん、ご主人様にそんなことしちゃだめだよぉ」
「いいのよ、それくらい。それにしてもやっぱり雑用なんて屈辱だわ。今度会ったら才能の無駄遣いって言葉を教えてやろうかしら」
「知ってるよ」
ここで一人の声が響いた。詠の不満を肯定する。
「げっ!?」
「げっ、てなんだ、げって」
詠たちの目の前には北郷一刀がいた。
「なんであんたがここに居るのよ!!」
「俺もいるよ」
北郷一刀の背からひょっこりと藤丸立香が現れる。お互いに同じ背格好なので隠れることができた。
「何で立香まで…」
「こらこら、人を指さすな。失礼だと教わらなったか?」
「あんたは人外だからいいのよ」
「うわ、ひでぇ。人権侵害だ」
「そうだよ詠さん」
「さっき言ったでしょ。こいつは人外だからいいのよ」
よく分からないが詠から見て北郷一刀の評価は低いようだ。そもそも敵視している。
「詠ちゃん、ご主人様に失礼だよ。だめだよ、そんなこと言っちゃ…」
「う、うう…分かったわよ。月がそこまで言うならやめてあげる。でも、あんたを人として認識したわけじゃないからね!!」
「そこは譲れないのか」
月には甘すぎる詠であった。
「で、なんであんたらがここにいるのよ? 政務があったんじゃないの?」
「ああ、今日のところはもう終わり。他にやることもなかったら、様子を見に来たんだ」
「俺は付き添い。月、荷物を持つよ」
月が手に提げていた荷物をそっと取り上げる。
女の子が持つにしては少し重いくらいだ。持って帰るだけなら簡単だが実際に持てる量かは考えた方がいいかもしれない。
これではお遣いを頼んだはいいが持ってこれない量を頼んでしまったら、頼んだ方が悪くなる。
「へぅ…あ、ありがとうございます立香さん」
お礼を言う月の顔は真っ赤である。
さっき荷物を取ったときに触れた指を大事そうに抱きしめる姿は可愛いものだ。
「あ、あんた今、月に触ったでしょ。汚らわしい!! ほら月、こっち来て。手を洗わないと腐るわよ!!」
「え、酷くない!?」
まさか詠から罵声を受けるとは思わなかった。後から知った事だが、藤丸立香が今まで会話した詠のほとんどは猫を被っていたらしい。
彼女の本当の素は月を徹底的に守る過保護すぎる人間のようだ。
「立香さんは汚くないよ詠ちゃん…」
「ちょっと大げさすぎやしないか? 特に病気持ちでもないんだし」
毒を持った(喰らった)事はあるが口にしないでおいた。
「どうだか。特にあんたなんてあの張角と似たようなもんでしょ?」
今度の矛先はまたも北郷一刀に戻る。
「詠ちゃん、ご主人様だって怪しくないよ」
「そうだよな。うんうん、詠と違って月は優しいよなぁ~」
「うん。優しいし、可愛い」
「それな」
月と目が合うと彼女は恥ずかしそうにうつむいた。この仕草も可愛らしい。
「なに2人して月に色目使ってるのよ。変な気出したら承知しないんだからね!!」
「へいへい。それにしても詠、そんなに怒って疲れない?」
「疲れるに決まってるでしょ!!」
疲れるなら怒らなければいいと言うが即、怒鳴られる。
「こんな恥ずかしい恰好させられて、経験とは関係ない仕事させられて、ただでさえ疲れるって言うのに…」
「メイド服がそんなに恥ずかしいか? 俺は可愛いと思うけどな。月も恥ずかしい?」
「私は可愛いと思います」
藤丸立香も月と詠のメイド姿は可愛いと思っている。
「「ほら」」
「二人して、ほら、じゃないわよ。ボクは恥ずかしいの!! それにこんなに目立ってるじゃない!!」
行き交う人の視線は確かに月たちに向けられている。しかし気になるのはメイド服のようで興味津々といった顔ぶれだ。
「まぁまぁ、前も言ったかもしれないけど、その恰好こそ二人の正体を眩ます策なんだよ」
まさかあの暴君と言われた董卓たちが可愛いメイド服を着て、仕事をしているなんて誰も思わない。
「人の心理はついているとは思うけど…」
「さすがは名軍師、この策の本質を見抜いてる!!」
「…ふんっ。褒めても何も出ないわよ」
褒められたのが少しは嬉しいのか口がにやけた詠。
「詠ちゃんはやっぱり凄いね。私、詠ちゃんと一緒にいられて本当に良かった」
「あ、まぁ…うん。ボクも月と一緒にいられるのは嬉しいわよ」
詠は月の一言には甘い。月と一緒に居られて嬉しいのは心からの本音である。
「でもこの服、フリフリがたくさんついてて恥ずかしいんだけど。月はその…可愛いからいいけど、ボクは嫌なんだけど。もう少しなんとかならないの?」
どうやら詠は来ているメイド服が似合っていないと思っているのだ。そんな事は無いと言うが、やはり恥ずかしそうにしている。
「何を言うんだ。これは俺が英知を結集して作ってもらった世界に二つとないメイド服なんだぞ。俺の趣味満載で似合ってると思うんだけどなぁ…」
「北郷」
「何だ藤丸?」
「趣味が合うな」
「ふっ…」
がっしりと男同士の力強い握手をした。
それにしても北郷一刀はデザインの才能があるかもしれない。彼が考えたデザインが完成され、見事に2人の魅力を発揮している。
もしかしたら彼はデザイン関係の道に進んでいたら成功したかもしれない。
「こらそこ。今、本音が出会たわね」
「あ、まあ…そうだな。せっかく服を着てもらうんだから、可愛い服の方がいいじゃないか。それもオレに仕えてくれるなら、俺好みの服がいいんじゃないかなって」
「アンタ、どんどん遠慮しなくなってくるわね」
「詠ちゃん、私も詠ちゃんのメイド服姿は可愛いと思うよ。いつものキリリとした雰囲気の服もいいけど、この服も似合うと思うなぁ…」
「うぅ…月がそこまで言うなら」
「俺の意見は無視か」
「あーあー、聞こえなーい」
やはり月には甘すぎるのと弱い詠である。恐らく月が詠に可愛くお願いをしたらほとんどのワガママを聞いてしまうはずだ。
「私はご主人様のメイドとしてお仕え出来るのは幸せだと思ってるけど詠ちゃんがそんなにメイドがイヤだって言うのなら、桃香様にもお願いして…」
「あーもう、わかったわよ。月がそんなに気に入ったのならボクもメイド続けるわよ」
「いいのか? 詠がメイドをするのが死ぬほどイヤだって言うなら、もう少し考えようかと思ってたんだけど」
北郷一刀も自分の趣味を無理矢理、人に押し付ける事はしない。詠は本気で嫌がっているのならばすぐに止める。
「メイドが嫌なのは確かだけど、月はボクと一緒にこいつに仕えたいんでしょ?」
「うん」
「そういうことよ。ボクは月に幸せでいて欲しいの。それに、あんたみたいなケダモノの近くに月一人をおいておくわけにはいかないからね」
「…なんか、隙あらば襲い掛かる肉食獣みたいだな俺」
「だから、ケダモノだって言ってるじゃない」
「流石に言い過ぎだよ詠さん」
「あんたもよ」
「マジか」
月が関わると詠は厳しくなる。正確には月に近づく男にである。
「詠ちゃん」
月が少しだけ強めの口調で名前を言う。
「う…わ、わかったわよ。言わなきゃいいんでしょ」
「詠ちゃんにはもっとご主人様と仲良くなって欲しいな…」
まだ藤丸立香の対してはアタリはマシだが北郷一刀はアタリが強い。やはり既に知り合いと知り合いでは無いでは違うものだ。
「無理無理。今でさえ百歩譲ってるんだから。これ以上の後退は無いわ」
ならばもう百歩譲ってほしいと思うが、言ったら言ったで噛みつかれそうなので胸の中にしまった北郷一刀。
「それで、少しは仕事に慣れた?」
「はい。まだ至らないところがありますけど少しは慣れたんじゃないかなと思います」
「詠はどうだ?」
「さっきから詠詠って呼ばないでしょ。絞められたいの?」
「そんなこと言われてもなぁ。真名で呼ばないとどこで正体が知られるかわからないじゃないか。納得したんじゃなかったのか?」
「あのね、理解と納得は違うの。そうしないと月のためにならないって頭では分かってはいるけど、心では納得してないの!!」
ビシって指を差される。事情を考えると詠が北郷一刀に厳しく当たるのは分からなくもない。
慣れるのにはまだ時間が足りないというわけだ。
「なによ、人の顔じろじろ見て」
「ん? いや、詠もよく見ると可愛いなと思って」
北郷一刀も藤丸立香と同じように可愛いと思えばハッキリと可愛いと言う男だ。
「出たわね、本性が」
「…は?」
「あんた、そうやって誰にでも言い寄ってイヤらしいことしようと考えているでしょ!! これだから信用できないのよ!!」
「それは言い過ぎだよ詠さん」
「そうだよ詠ちゃん、それは言い過ぎだよ。ご主人様は私たちを助けてくれた良い人だよ。そんな悪い人じゃないと思うし」
まさか詠の素がここまでとは思わなかった。悪いとは思わないが過保護すぎる。
反董卓連合から解放されたとはいえ、まだ完全には収まっていない。そのような事情も含めて過保護にも過剰になっているのかもしれない。
「月は優しすぎるの。安心して月の貞操はボクが守るから」
「やれやれ、これは前途多難だな」
「ツンツンした子だ」
「あ、それ俺も思った」
詠は今にも噛みつきそうな勢いで北郷一刀をにらみ、月はその後ろですまなさそうな顔をしている。
今はそっとしておいた方がいいかもしれない。
「詠、荷物貸せよ」
「なんのつもり? あ、わかった。荷物を受け取る振りしてボクに手を出すつもりね。おあいにく様、そんな手には乗らないわよ!!」
「違うっての。買い出しを頼まれたのは二人だろ? だったら二人に任せようかなって。でもこのまま手ぶらで帰るのも切ないから、今二人が持ってる荷物を持って帰ろうと思ってね」
詠は北郷一刀の言葉が信用できないのか、睨んだままだ。その時、月が動いた。
「詠ちゃん、ご主人様がこう言ってくれてるんだからお願いしようよ。ご主人様に荷物を持たせるなんて気が引けるんですけど…」
「いや、いいよ。手ぶらで帰るよりましだから」
「ほら、詠ちゃん」
「はぁ、わかったわよ。買い物もまだあるし、ここで睨み合ってても時間の無駄だしね」
睨んでいたのは詠一人だけだが。
「じゃあはい、荷物。ちゃんと城まで持って帰るのよ。寄り道つまみ食い禁止」
「はいはい、肝に銘じておくよ」
「…ふんだ」
詠は不機嫌そうに鼻を鳴らすと大股で歩き出してしまった。
これは打ち解けるまで当分かかりそうである。
「ご主人様、すいません。詠ちゃんが失礼なことを言って…それに荷物までお預けしてしまって」
「気にしてないよ。それに詠は悪気があってやってるわけじゃなくて、月が大事だからだろ?だったら微笑ましいくらいだよ」
「そうそう。詠さんは本当に月の事を大切に想っているってのがよく分かるよ」
「ありがとうざいます」
月は詠が褒められたのが嬉しかったのか、また頬染めて小さく頷くのであった。
藤丸立香と北郷一刀は受け取った荷物を持って城へと帰るのであった。
「…って事があったんだよね」
「はい。もう詠ちゃんったら、立香さんとご主人様に対してあんな風に言わなくてもいいのに」
月としてはもっと北郷一刀と詠には仲良くなってもらいたいと思っている。だから実はいつもは一緒にいる詠が居ない理由になる。
仲良くなってもらうために詠と北郷一刀との接点をどう増やそうかと考えた結果、朝を起こしに行くのを頼んだのである。
月からの頼みなら断れない詠は嫌々ながらも今頃、北郷一刀を起こしに行っている。
「たぶん今頃、詠さんに怒鳴られて起きた北郷が頭に浮かぶ」
「え、えと…そんな事は無いと思いますけど」
そう言う月だが、彼女もまた同じく想像したようだ。余談であるが今朝は詠の怒鳴り声が鶏の鳴き声よりも響いたそうな。
「まあ、なら詠ちゃんとご主人様の所に行きましょう」
「そうだね。そのまま朝ごはんを食べよう」
今日の朝ご飯は何だろうと思うとお腹の虫が鳴る。
「ふふっ。今日は俵さんが作ったみたいですよ」
俵藤太のご飯となれば和食だ。三国志の世界となれば食事は中華が主。しかし俵藤太のおかげでたまに和食が出る。
日本人からしてみれば和食は故郷の味である。北郷一刀も俵藤太のご飯をたべた時は日本を思い出しながら食べたと言う。
「よし、起きて着替えるか」
藤丸立香は布団を捲って布団から出ようとする。
「ふぇ!?」
布団を捲ったら藤丸立香の腰辺りに武則天が抱き着きながら寝ていた。
「え、えと…え? なんで武則天さんが? ど、同衾?」
まさかの武則天の登場に驚く。正確には武則天が藤丸立香の布団の中にいたという事実にだ。
月が最後に言った言葉は小さすぎて藤丸立香の耳には届かなかった。
「んむ…朝か?」
のそりと眠そうに起きた武則天。気崩れた姿の武則天に月は変な想像をして顔を真っ赤にする。
「ええ…え? 何で? え、そういう…?」
顔を真っ赤にしながら月は冷静になろうとするが混乱してしまう。
「おはよう。ふーやーちゃん」
「うむ。良い目覚めかじゃな……む、なぜこやつがここに?」
「月は起こしに来てくれたんだよ」
「ああ、そういう事か」
納得しながら欠伸を漏らす武則天。そして藤丸立香は普段と変わらずのように見えなくもない。
正直な話、藤丸立香の布団の中に誰かがいるなんて日常茶飯事である。カルデアのマイルームで毎朝起きると高確率で布団の中に誰かいるのだ。
よく布団の中にいるのが清姫、静謐のハサン、源頼光が常連である。彼女たち以外だとジャック・ザ・リッパーたち子供英霊やメアリー・リードやアン・ボニーたち等の積極的な英霊たちが時折布団の中に侵入しているのだ。
最近だと藤丸立香の睡眠を守り隊が結成されたのか良識のある英霊たちが日夜戦っているとかなんとか。
子供英霊相手ならば藤丸立香も平気だが、それ以上となると色々とマズイ。彼も年頃の男の子だから。
「じゃあ朝ごはんに行こうかー」
ご自慢の早着替えで着替えた藤丸立香。武則天がはだけた服を直せと言わんばかりに目を瞑って待っているので直す。
「え、ええ!? こ、ここ、これに関しては特に追及は無いのですか!?」
「いつもの事だし」
「へう!? いつもの事!?」
「うん。しかも代わり代わりに」
「代わり代わりに!? って、てことは荊軻さんや秦良玉さんとかも…へぅぅ!?」
恐らく月の頭の中で変な誤解が生まれている。
(み、皆さん積極的です…)
本当に誤解である。恐らく。
332
「ふー…………」
1人の可憐な少女が廊下を歩いていた。
可憐な少女と言うのはもしかしたら失礼にあたるかもしれない。何せ彼女は大陸の頂点である天子・献帝なのだから。
天子に対するもっと素晴らしい言い方があるかもしれない。
「あっ、これは陛下!!」
「あ…おはようございます」
「ハッ…ハハッ!! 私ごとき者に挨拶は不要ですので!!」
ただの兵士にとって献帝に挨拶されるというのは素晴らしく名誉なことであり、逆に不敬であるのではないかと思ってしまうほどだ。
「……おはようございます」
「え…?」
「挨拶はした方がいい、と思う」
「ッ……ハハーッ!! もも、申し訳ございません!! 献帝陛下に向かって差し出がましいことを!!」
「今は…献帝陛下じゃないんだもん」
「う……ハッ!! これは重ねて失礼いたしました…!!」
(…はー……)
献帝もとい真名は白湯。
彼女は徐州に来てから皆々に畏まられている。天子である以上仕方ないのだが、そういう空気が彼女は何処か苦手であった。
事情を知っている者たちは献帝に出会うために敬意を表して接してくる。接してくると言ってもお堅い挨拶程度のものだけ。
事情を知っている者たちに、今の自分は皇帝では無いと言ったところですぐに対応が変わるわけではない。
どんな事情があるにしろ、表向きにしろ、どうあれ白湯は天子なのである。
(何処に行っても1人になれない…)
彼女は今、一人になりたい気分であった。だが天子をたった1人にさせるなんて誰も許すはずがない。
兵士たちには「何故、お一人で?」や「危のうございます。お屋敷に戻りましょう」と言われているのだ。言っている事は何も間違いではない。
それでも白湯は何とか1人の時間を作りたかった。そんな考えをしていると、ある部屋を発見する。
(……あ、献帝様だ)
うす暗い書庫の中でいきなり白い着物姿の女の子が視界に入ったと思えば献帝もとい白湯であった。
藤丸立香は徐州の城を探索していた。特にやる事も無く暇であった為だ。そして書庫が目に映ったので扉を開けてみればまさか天子がいるとは驚きである。
「白湯様。こんな所でどうしたんですか?」
「ふんふん…」
書物を読むのに熱中しているのか声が聞こえていない。
書庫の隅っこで体育座りみたいな恰好をして分厚い本を熱心に読みふけっているのだ。
「白湯様ーー…」
「ふむふむ…」
「これは凄い集中力だ」
見れば見るほど、とても真剣に書物を読みふけっている。
このままそっとしておいた方が良いと思うが、彼女は献帝陛下だ。何も言わずに去るのは失礼にあたるかもしれない。そもそも彼女1人というのは違和感アリアリ。普通なら護衛でも従者でもいるものだ。
相手がカルデアの武則天や始皇帝ならば絆を深めているので多少の不敬は許してくれるかもしれないが、目の前にいる天子は違う。
仕方ないと思って名前を呼びながら、そっと肩に触れた。
「ふぁっ…!?」
「すいません。驚きましたか?」
肩に触れられた事でやっと白湯も藤丸立香の存在に気付いた。
世が世なら天子の肩に触れるだけで刑罰ものかもしれない。この大陸で天子と言えば神にも等しい存在だ。
「あ……立香さん。おはようございます」
「え?」
「月とかが…そう呼んでたから」
これは驚いたと目を丸くしてしまった。まさか名前を憶えられていたなんて予想外である。
余談だが北郷一刀はご主人様と呼ばれてびっくりしたそうな。理由としては彼が天の御遣いで桃香の補佐役だからと言う。
流石に天子である白湯に「ご主人様」と呼ばれるのは色々とマズイので何とか名前を呼んでもらえるように頼んだらしい。
そもそも劉備や関羽から「ご主人様」と呼ばれている時点で、というツッコミは無しである。
「こんな所でどうしたんですか? 見るところ書物を読んでいらっしゃるようですが」
「どこに行っても兵士がいるし…ここは本がたくさんあるから」
「本が読みたいのならここじゃなくて、持って行って屋敷で読んだらどうですか?」
書庫にたった1人で、しかも隅っこで体育座りをしながら本を読む天子を見つけたら恐らく色々と大問題かもしれない。
「ここがいいんだもん」
「そ、そうなんですか。じゃあ、机と椅子を持ってきます」
「いい。ここが落ち着くから」
どうやら今の自分の恰好に対して気にはしていないようだ。
「お城の中を歩いていたら…」
「はい?」
「どこへ行っても兵士が追いかけてくるの」
それは当然の結果だ。天子を守る為に兵士が付いてくるのは変な事ではない。
「それが彼らのお仕事だし、わたしがどういう立場なのかも分かっているんだけど…」
彼女は1人でゆっくり過ごしたいという気持ちがあった。洛陽ではまずなれなかった1人。
「…それは何を読んでいるんですか?」
「中原の植物の図鑑。面白いよ」
読んでいる本を広げてみせてくれる。
どんな内容の本かと覗くと中身は細かい漢字がびっしりと並んでおり、藤丸立香はすぐに解読を諦めた。
「読書が好きなんですか?」
「うん。植物とか、動物とか、風俗とか、文化のこと。そういう本を読むのが好き。儒教書とか兵法書はあんまり…もっと知らないことが読める本がいい」
彼女は知識欲が旺盛なのかもしれない。
「洛陽にいた頃は読める本が少なかった」
「少なかったんですか? 徐州の城よりも都の方が種類が豊富そうですけど」
「本はたくさんあった。だけど、あまり読ませてもらえなかった。毎日決まった…同じような本だけ」
理由としては白湯の姉である空丹が皇帝だった頃は余計な知識を身につけないように宦官が白湯から書物を遠ざけていたのである。
「だから、今はすごく楽しい。好きな本を好きな時に読める」
「そうですか…それは良かったです」
皇帝が都を追われたというのに、それを良かったと言うのは物議をかもしそうだ。
しかし、個人としての幸せを追求する権利はいつの時代のどんな人間にもあって然るべきだ。白湯が良いと言うなら、それでいいのだろう。
彼女は生まれながらにして天子だ。彼女が本当に自由を手に入れられるかは誰も分からない。
「貴重な読書のお時間、邪魔をしてすいません。では、俺はこれで…」
「あ…待って」
「はい、何でしょう?」
「立香さん…普通に話してほしい。呼び方も白湯って」
「……良いんですか?」
正直な所、王族に対してタメ口というのは不敬すぎる。だが藤丸立香はカルデアで大勢の王たちと会話、戦い抜けて絆を深めている人間だ。
白湯の提案に一瞬だけ首を頷きそうになったが何とか我慢した。今更ながら考えてみるとよくカルデアにいる様々な王たちとよくフランクに話してきたと思うものだ。
「わ、わたしが許す」
「ですが…」
「わたしはもう皇帝じゃない。ううん、皇帝だったとしても普通の方がいい」
言葉遣いに関しては北郷一刀も許されている。彼もまた最初は悩んだそうだが天子である彼女から「許す」と言われてしまい、逆にしなければ不敬と判断した。
「そっか、分かったよ白湯様。そうしてほしいって言うなら普通に話すようにするよ」
「良かった…あ、今さっきに様って付けた」
「努力します」
お互いに軽く笑うのであった。
「お姉さまとも、普通にしゃべってね?」
「空丹様とも?」
「うん。きっとお姉さまも…あ、そうじゃなくて、わたしがそうして欲しいから」
「分かった。努力するよ」
彼女の最初のイメージが控えめで大人しい少女かと思った。月をもっと大人しくさせた感じだと思ったのだ。
実際は意外によくしゃべり、意見は強い。自分の考えをしっかり持って主張している。時代が時代なら彼女が皇帝として大陸を握ったかもしれない。
333
燕青と荊軻たちと昼飯を食べた後、藤丸立香は腹ごなしに庭で散歩をしていると包みを持った北郷一刀と出会った。
「あ、北郷」
「藤丸じゃないか。そうだ、一緒にこれから霊帝様のいる屋敷に行かないか?」
「いいよ」
二つ返事で返す。
「助かるよ。俺1人だとちょっとな」
「やっぱり天子様に会うのは緊張する?」
「それもあるけど…やっぱ黄かな」
「黄……ああ、趙忠さんの事か」
趙忠もとい黄。元は十常侍のメンバーだ。
話を聞くとどうやら黄が厄介というか怖いという事。何でも以前、霊帝の元に向かう時に足音が大きいと遠回しに注意されたとか云々。
他にも圧を掛けるようにネチネチとうかグサリと言われるらしい。まるで霊帝に近づかせないように感じだとの事。
「なるほど」
北郷一刀が黄に感じる警戒は分からなくもない。
反董卓連合では裏切ったとはいえ張譲の部下で、張譲を倒すために藤丸立香たちを誘拐、利用した人物だ。
藤丸立香たちも警戒している人物であるが彼女の行動原理は全て霊帝によるものだから霊帝に関わらなければ無害らしい。
(それにしても霊帝に挨拶に行くだけで敵意を向けられるんだ…)
そう言えば、と思い出す洛陽での出来事。プリンを献上しに行くときはいつも黄から笑顔で睨まれたのだ。
それほどまでに黄は霊帝に人を近づかせたくない。近づかせたくない理由があるようだ。
「藤丸と一緒なら勇気が出るからな」
男2人なら何とかなるという心構えだ。
「挨拶しに行くの?」
「ああ。それとコレを渡しに」
包みの中身を見ると納得。
「おおー。これも北郷がデザインしたのか?」
「どうだ?」
「イイネ!!」
グッドと親指を立てる。
月と詠のメイド服もそうだったが、彼には本当にデザイン関係の才能があるかもしれない。
趣味のせいで偏っているかもしれないが。
「じゃあ、行こうぜ」
池の向こうに見えるのは今、霊帝もとい空丹と献帝もとい白湯が仮住まいにしている御殿。
二人を匿う事になってから、急いで客殿を慌てて大改装したとの事だ。
扉を開けて部屋に入ると空丹は窓際に腰を下ろしてぼんやりと外を眺めていた。
庭を見ているのか、もっと遠くの空を見ているのか。視線の行方は分からない。
改めて見ると雰囲気はある。始皇帝や武則天とはまた違った皇帝としての雰囲気だ。
白湯と通じる独特の気品といった感じだ。
これこそが皇帝の血筋、彼女が持って生まれた天子としての風格かもしれない。
「こ、こんにちは」
まずは白湯が挨拶をしてくれた。次に霊帝もとい空丹である。
「あなたは確か………ああ、思い出した。ぷりんなるものをくれた人ね」
意外にも覚えていてくれたようだ。もしかしたらプリンのついでかもしれないが。
「聞いたわ。あなたも天から降って来た人間なのでしょう」
覚えていてくれた理由は他にもあったようだ。
「ねえ、あなた知ってる? わたしも少し前までは天子様と呼ばれていたのよ?」
今の言葉に北郷一刀と黄は何とも言えない顔をした。
洛陽から落ち延びて徐州で隠れている霊帝からそんな事を言われてしまえばどう反応すればいいかなんて分かるはずもない。
不自由を強いているのではないかと北郷一刀は思っているが、実際のところそうでもないらしい。
「空丹様は今でも天子様ですよ」
「え? そうなの?」
今の言葉に空丹はキョトンとした。北郷一刀と黄はすぐさま藤丸立香を見る。
「はい。どんな事が起きようとも空丹様が天子様という事実は変わりません」
都落ちしようが空丹が天子である事は変わりないのだ。
「ふぅん。そうなのね。わたしは天子なのね」
彼女にどんな結末が起きようとも最初から最後まで天子なのである。
「今日は何をされていたんですか?」
「…何をしていたかしらね? 黄」
「はい。今日はこれといって、何もしておりません」
「そう。何もしていなかったそうよ。誰かに何かしろとも言われなかったものね」
「はい」
ここでも「アレ?」と思う。
「明日の予定とかは?」
「明日の予定……黄」
「はい。明日は何もございません」
「そ。明日も予定はないようね」
どう過ごすのか、と聞いてみると予定が無いから何もしないと、帰ってくる。
空丹と黄の浮世離れした二人のやり取りに何か引っかかる。この違和感は北郷一刀は知っている。
ただ、何も無い。空丹は自分で何かを考えて動く意思が無いのだ。
それは人生に絶望して投げやりになっているというわけでもなく、世を儚んでいるわけでもない。
本当に自分で考えて行動するという事をしていないのだ。
だからだろうか、宦官たちにとっては最高の操り人形であった。おそらく彼女をこのような人格にしたのはひとつ前の世代の宦官だ。そして、直さずに甘やかしたのが黄なのだ。
何故、黄は空丹が自分で考えるという事を直させなかったのかは分からない。彼女には彼女の真意があるかもしれない。
「ふわぁ」
大欠伸をする空丹に黄は母親が我が子を見つめるような温かい微笑をする。その温かい微笑から、操り人形にしていた宦官のような野心は感じられない。
詠の言う通り本気で心酔している可能性もあるのだ。だとしたら何故、自分の意思を持つことを彼女に教えないのかと疑問に出てきてしまう。
考えれば考える程分からなくなってしまうとはこの事だ。だが何も分からないというわけではない。
最初は全て黄が何もかも霊帝の行動を決めていると思っていたが、そうではない。前に北郷一刀が「俺に出来る限りのことなら、力になりますから」と言ったら空丹から「ええ。一刀に何でも言えばいいのね?」と返事が帰って来たからだ。
空丹は黄のいう事しか反応しないわけではないようだ。黄もソコに対してある意味、警戒しているとの事。
(北郷が思った通りの感じだ)
空丹は何も出来ないわけではない。
何か刺激を受ければ、それに反応して自ら行動を起こす事もあるらしい。プリンの時もそうだったかもしれない。
しかし、それほどまでに感情の振れ幅が極端に小さいのだ。
何も無ければ本当に何一つ自分で動かれない。誰かに何かを言われるまで何日も何か月でも何もしないで過ごしてしまう。
北郷一刀は恐れながらも、それが不憫に思えたのだ。せっかく自由になったとしても宦官の作った皇帝ロボットのままということだ。
最初に霊帝の情報のわけには、そういう理由があったのだ。ただ毎日美食に浸かり、政権に興味がない理由とは何も興味が湧き出ない人格にさせられたから。
だからこそ、北郷一刀は何か出来るなら力になりたいと思ったのだ。
「そういえば今日は何しに来たの?」
「あ、そうだった」
何か出来ることはないか。だからその1つとして今日もある物を持って挨拶に来たのだ。
「その包みは何なのでしょう」
「うん。用事ってのは空丹様と白湯にこれを渡したくってさ」
「白湯!? 北郷殿、いかに天の御遣いといえど、不敬なのではありませんか?」
「いいの」
「で、ですが」
「わたしがお願いしたんだもん」
「なんと…そんな…」
何故か落ち込んだ黄。
「ちなみに俺も許されてます」
「あなたも!?」
「うん」
藤丸立香がそう言うと白湯は笑顔で肯定した。
「で、何をくれるのかしら?」
「ああ、服だよ。月から二人のサイズ…寸法を聞いて、きっちり合わせて職人さんに作ってもらった」
「え…そんな…もらっていいの?」
「北郷が渡したいということみたいなんで受け取ってください」
「ああ」
白湯が「いいの?」に対して「もちろん」と満面の笑みで返す。
「黄?」
「……空丹様のお召し物でしたら都から十分に運んできておりますが」
「けど、目立ちますから。それだと一目で皇族だと分かってしまう着物ばかりではないでしょうか?」
「はい? 何を当然の事を…」
「予想通りだ」
「だな」
今の彼女達の状況ではそれはマズイ。その事に対して意味が分かったのか黄は黙った。
「とにかく着てみてよ。その辺も考えて、作った服だからさ」
「あ…ありがとう」
案の定というか黄の反応は不満げであった。
これ以上は文句が言われる前に少し強引に2人へと包みを渡した。
「私に贈り物ね。中身は何かしら?」
着物なのだが、どうやら話を聞いていなかったようだ。
「まあ、俺の趣味だけど似合うかな…気に入ってくれると嬉しいな」
「どうかしら」
空丹はいきなり脱ぎ始めた。
「空丹様!?」
「ふわぁぁ!?」
「え?」
「ちょっと ここで脱がないで!? 着替えるなら奥で!! 衣裳部屋があるだろ!?」
「ここで着替えてはいけないの?」
「いけません!!」
「駄目です!!」
「黄?」
「なりません!!」
「まあ、怖い顔。わかったわ」
まさか全員で空丹に注意するとは思いもしなかった。
半脱ぎになった姉の背中を押して、白湯たちは奥にある衣装部屋へと入っていった。
「はあああ…ビックリした」
「…立派なお餅が見えたよ」
「やっぱり?」
ボソボソと話す男2人であった。
それにしても、まさか堂々と着替え始めるとは思いもしなかった。恥ずかしい、という感情も人並み以下なのかもしれない。
それとも気にはならないのかもしれない。
「ふふふふふ……」
そんな時に黄が意味ありげな笑いをしていた。
(今のは俺らのせいじゃないよな?)
(ああ。どっちかって言うと黄さんの教育の問題かと)
(それ今は言うな)
不気味な笑い声を我慢して聞いていると衣裳部屋から天子姉妹が出てくる。
「済んだわよ。面白い服ね。股がスースーするわ」
「ああ………うぅ」
天子姉妹はどこかの学園の制服を着ていた。そして照れている白湯が可愛い。
「お……おお!! おー、おー!!」
「いい」
「っ……!!」
北郷一刀と藤丸立香はうんうんと頷いている。そしてガッシリと手を握り合った。
更に黄でさえ視線をストレートにぶつけた。
「似合っているわよ白湯。素朴だけど悪くは無いわね」
「ちょっと恥ずかしい」
「わたしはどう?」
「はい、似合っています」
「そう? うふふ、どうもありがとう」
空丹が素直に喜んでいた。あのような笑顔は初めて見たかもしれない。
彼女には何も感情がないわけではないという事が分かっただけでも前進である。
「一刀。この着物、気に入ったわよ」
「一刀…素敵な着物ありがとう」
「ああ、白湯も空丹様も喜んでくれて何よりだよ」
「やったな」と藤丸立香が小さく呟くと北郷一刀もちいさく「ああ」と呟くのであった。
「左様なお召し物…余計に目立ちませんか?」
この世界だと珍しい格好だが、まさか元皇帝がこんな服を着ているなんて誰も思わない。それほどまでに天子という存在が神格化されている。
「…確かに」
(ところで制服のデザイン的に北郷の制服と対にした?)
(…………そんなことないぞ)
趣味満載と言っていたのを思い出そう。
「いいじゃないの、黄。私は良い気分よ」
「お姉様…」
空丹が自分から黄に同意を求めた。意見を聞くのではなくて同意を求めたのだ。
やはり何かしらの刺激を受けたら、それなりのアクションを起こすらしい。
そんな当たり前の事にも驚いてしまう。
「ねえ、白湯。私は胸についているこの飾りが良いと思うの」
「はい、とても可愛らしいです」
「それはリボンって言うんだよ。ちなみに上はブラウスで下の着物はスカートって名前」
「りぼん、ぶらうす、すかーと…へえ、もしかして、これは天の国の服?」
「そう!!」
「聞いた? 黄。ほら、あなたも見て。漢の着物とはずいぶん違っていると思わない?」
「え、ええ…」
「それと、一刀、私の事は空丹と呼びなさい。それと立香も」
「空丹様!?」
「いいの?」
「俺も良いんですか?」
北郷一刀はプレゼントしたから分かるが藤丸立香の方は分からない。もしやただのついでかもしれない。
「あ、あなたがたも…!! 先ほどから気になっておりましたが。空丹様への言葉遣いに敬意が欠けているのでは?」
気が付けばタメ口になっている。藤丸立香も所々とタメ口になっていた。
「いいのよ。白湯のことを白湯と呼んでいるのでしょう?」
「うん」
それは白湯の方から、そうして欲しいと言われたからである。
「それならわたしも白湯と同じがいいわ。2人は嫌?」
「「そんなことないよ」」
見事にハモッた。
「天の国の着物の事も、もっと知りたいわね。それに立香、またぷりんが食べたいわ。あれも天の国のお菓子なのかしら?」
「そうですよ。他にもたくさんあるんだ」
「なら食べてみたいわ」
空丹が興味を持って訪ねてくる。北郷一刀は着物を、藤丸立香は甘味を。
それが何とも嬉しかった。彼女は何も考えないのではなくて、考える機会を与えられなかっただけなのだ。
北郷一刀は突破口が見えてきた。空丹には様々な刺激を与えるべきなのだ。
「ふふふふ…あはは」
空丹は部屋の真ん中でスカートをひらひらさせて楽しそうにステップしている。
その様子を妹の白湯は嬉しそうに見るのであった。
(ふーやーちゃんにも接触させてみようかな)
藤丸立香も色々と考えだす。カルデアには同じ皇帝が先輩後輩といるのだ。
何かしらの刺激になるかもしれない。だがこの時はまだ予測なんてできなかった。
天子の中の天子である皇帝が来た時に空丹と白湯に何をもたらすかを。
読んでくれてありがとうございました。
次回の更新はこの後すぐです。
331~333
今回の話は立香と一刀が月や詠、天子姉妹たちとの雑談話でした。
原作の流れとも基本的に同じですね。
それにしても一刀は自分の趣味満載とはいえ、デザイン関係の才能があるやもしれない
なんせ、メイド服に制服、水着を手掛けるからなぁ。
水着を作るために龍退治をするほどだ。侮れない男です。
月と詠とはまだまだ関わっていきます。どんな物語になるかお待ちを。
そして天子姉妹に関してはまだ序の口です。なんせ、この後は武則天や始皇帝が絡んできますからね。(どんな話にしよう……てか、始皇帝が登場した時点で恋姫の世界が大慌てだ)