Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
今回はこれ1本です。
352
幅広の刃が空を切る。
振り下ろしから刃を返し、一歩踏み込んで切り上げて、身を退くと同時にその勢いで退き戻し、気合と同時に体重を掛けた突き。
「は…っ!!」
刃の重みに引きずられないように大地を踏みしめ、勢いが消えたところで長く長く息を吐く。
北郷一刀は鍛錬をしていた。この外史という世界にわけも分からず転移した後、鍛錬をしている暇は無かったのだ。
これでも北郷一刀は時間がある時に鈴々や愛紗に手伝ってもらって鍛錬してもらっていたのだ。しかし、反董卓連合で左慈という男に襲われてから考えがガラリと変わった。
守られているだけではダメだ、という気持ちが強くなったのだ。せめて自分の身は自分で守れなくてはならない。
その結果、彼はより鍛錬に精を出すようになったのである。
「はっ!!」
北郷一刀は隣で鍛錬をしている藤丸立香を見る。彼が鍛錬をしている理由は同じく、もしもの時に自分の身を守れるためだ。
同年代が友人が鍛錬をしている姿を見ると自分も負けていられないと思ったがゆえに北郷一刀も鍛錬をよりし出したのだ。これもまた理由の1つである。
「腰を低く、重点は崩さない。一点を集中」
藤丸立香は教えられた事を声に出しながら槍を突き出し、振るっていた。
北郷一刀が見ても彼の型は整っていた。様々な槍術の型を見ていると何処か違和感を感じた。
(ん? 悪くは無いんだけど…なんか違和感が)
そんな時に第三者の声が響く。
「おや、主に立香。珍しく鍛錬か?」
「…珍しくは余計だろ」
「星さん」
ヒョイと声を掛けてきたのは星である。
「いやはや本当に珍しい。2人が鍛錬をしているなんて」
「だから珍しくは余計だって。俺だって鍛える時は鍛えるさ」
「オレもだよ。自分の身くらいは守れるようにならないとね。生き残るためにはやっぱ鍛えておかないといけないし」
藤丸立香の言葉に北郷一刀は心の底から頷いた。
愛紗や星のような超人クラスになれなくとも、せめて自分の身くらい守れるようになっておきたいのだ。
「ふむ。なら、私が見てさしあげよう」
「それは助かる。お願いいたします!!」
「じゃあ、まずはオレからで」
「ああ、先ほど見ていたからもう分かっている」
「あ、見てたんだ」
槍を構えたがガクンとしてしまった。
「立香はよく鍛えているな。型は整っていて綺麗だ。だが気になるのは時折、型に違和感がある」
「崩れているって事ですか?」
「いや、崩れていない。型の流れに違和感がある……もしや師匠が複数いるのではないか?」
「あ、います」
「やはりか」
納得したと言わんばかりの顔をする。
「違和感の正体は師匠が複数いるから別の流派の型が組み込まれている、だな」
型の一連の流れから急に別の型になれば違和感を感じるのは当然だ。それが達人ならばすぐに違和感に気付くはずだ。
「李書文は言わずもがな、他には?」
「たくさんいます」
「………多くの師匠から教わるのは悪くはないが、立香なら1人に絞って教わった方がいいと思うぞ」
藤丸立香に武人として最高の才能があるのならば多くの師匠から教わるのは構わない。全てを吸収していくからだ。
だが武人としての最高の才能を持っているなんて自分自身でも思っていない。確かに星の言う通り、誰か1人に絞って教わった方がより成長するかもしれない。
「あー、そうですよね」
槍を師事してくれるのは主に李書文や宝蔵院胤舜である。
スカサハは師匠ではないがつい師匠と呼んでしまう。スカサハも悪いとは思っていないようで、何かと教えてくれるのだ。
藤丸立香に教えるという行為を様々な英霊が見て、これを機に「自分も自分も」と加わったりするのである。ある意味、偉人を尊敬する者たちからは涙が出る程に羨ましい事をしているのだ。
その全てを吸収できているかは定かではないが、戦いに生き残るための糧になっているのは確かである。
「なるほど…そういう違和感だったのか」
北郷一刀も藤丸立香の槍の違和感に納得したのであった。
「後は実戦だな」
「それは…うん。分かってる」
自分で戦う事は少ない。だが、いずれはあるかもしれない。だからこそ鍛錬は怠らないのだ。
「身体が大分鍛えられているな。これは主よりもガッシリしているな」
「レオニダス式スパルタトレーニングの賜物です」
「ちょっとソレ気になるんだけど」
またも英雄、偉人の名前が出てきて興味がでる北郷一刀であった。
「さて、次は主の番だな。主に関してはもう一度見せてもらってもよろしいか?」
「ああ」
気合を込めた素振りから一連の型へとつないでいく。
木刀とは違う鋼の重みが、肩をギシギシと軋ませる。その重量を流れの中に取り込めるように重心を切り替え、踏み込みを入れ直す。
「ふむふむ…あいわかった!!」
星の声に動きを止める。
「何がわかったんだ?」
「まず、主は良い師匠に恵まれましたな」
「…ただの厳しいじいちゃんだったけどなぁ」
北郷一刀は実家に道場があり、祖父から鍛えられていたのだ。そのおかげか学園での剣道部での強さはピカイチであったのである。
「そして…主に決定的に足りないものが分かったのですよ」
もう分かったのかと思ってしまう。やはり達人にはすぐに気付いてしまうのだ。
「…経験と実力?」
「そんなものはとうに分かっております。先ほどから主の動きにはどうにも違和感がありまして…」
さらりと酷い事を言われた気がしたが置いておく。実際に事実なのだから仕方がない。
「足りないものって?」
「主はそれなりに武芸の心得をお持ちのようですが…今持っているその剣、本来の主の得物とはかなり形が違うのではありませぬか?」
「そういうことか。うん、当たってる」
日本刀の型がベースになっているから中国剣だとどうしてもその通りに動けないのだ。
重心の狂いは足の組み換えで対応しているが、その辺りが星の感じた違和感に繋がっているのである。
「主の型から察するに…そうですな。同じ剣でももっと軽く、機敏に取り廻せるような…そうなると刃が細くなって、今度は使い物にならぬか?」
「へえ。やっぱり、そういう形になるんだ」
「おお。当たっておりますか……ああ、藤太殿が持っている剣がまさにそうではないですかな?」
「うん正解。相手を叩き斬るんじゃなくて、斬り裂くように使うんだよね」
転がっていた木の枝で地面に日本刀の形を書いてみせる。
「なるほど。軽装の者と戦うのであれば、確かにこれほど適した武器はありませんな」
「うん。重装備の相手には槍や弓を使ってたみたいだしね」
「…そう言えば、このような形の武具でしたら、蔵で以前見た事があるような?」
「…嘘!?」
日本刀が出来たのはこの時代から何百年も後の海を隔てた島国での話だ。
この時代に日本が存在したとしても日本刀があるはずがない。俵藤太や卑弥呼の前例があるが、それでも日本刀が広まるとは考えられない。
「無論、完全に同じとは言い切れませんが…探してみる価値はあるやもしれませぬ」
「だね。ちょっと蔵の鍵、借りてくるよ」
「オレも手伝うよ」
「いいのか?」
「もちろん」
「助かる藤丸!!」
ダメで元々。北郷一刀は蔵の番のいる詰め所へと走り出した。
353
「…で、何でボクたちまで駆り出されるわけ? あんたにいちいち付き合えるほど暇じゃないんだけど」
月、詠、美花が蔵で仕事をしていた。彼女たちは蔵の目録を作成していたのだ。
「ごめんね。詠ちゃん蔵の目録を作るお仕事がまだ終わってなかったから…」
そんなわけで蔵にいた月も手伝ってくれる事になったのだが月が手伝いに来るイコール詠も一緒という流れだ。
「それにご主人様がお困りとあれば、何を置いてもお力添えをする。それが私たちのお役目でもありますから」
そこに美花も加わって、劉備軍が誇る三大メイド大集合と相成ったのである。
「美花は甘やかしすぎなのよ。天の遣いだかなんだか知らないけど、どう見たってコイツただの男じゃないの」
「ただの男ではありませんわ。私たちのご主人様です」
「そ、そうだよ。もしご主人様が天の御遣いでなくても、きっとこうしてお仕えすることになってたし…」
「どうかしらね。月の方がよっぽどそれにふさわしく思うけど」
そんな風に賑やかにしながらも、律義に倉庫整理を進めてくれるのが頼もしい。
「ふむ、月の作った目録の所にはそれらしい剣は無いようですな」
「ってことは、あるとしたらまだ調べてない辺りになるわけか。星が見たのは、どの辺りだった?」
「私が見て周ったのはこの辺りですから、だいぶ奥のようですな」
蔵の中には北郷一刀たちが入場する前からある品やら街から贈られた品やらが大量に保管されていて片付くどころかより混沌とした雰囲気を漂わせている。
これは蔵の中で探すのが苦労すると思ってしまう。
「あ。この辺りはまだ目録になっていない所ですね」
「星。なんだってこんな蔵の奥になんか…」
「女には秘密が必要なのですよ」
「どんな秘密よ」
「それを言っては秘密にならぬだろう?」
星の視線はちらちらと蔵の隅の奇怪な荷物の山に注がれていた。
何となく予想がついてしまう。できれば触れたくないものだ。
「まあいいや、目録を作りがてら、手分けして探してみよう」
「ご主人様自らされずとも、お任せいただいても良いのですが?」
「頼んだのは俺だしね。気になる物もあるし、ここで一人で帰れないよ」
自分の細腕でもないよりはある方が楽に早く終わるはずだ。
「………ね?」
「なんでアンタがドヤ顔してるのよ。まあ、言いたいことは分かったけどね」
北郷一刀の良さを再確認した美花は詠に同意をさせようと話しかけるのであった。
「ん?」
「こっちの話」
北郷一刀は良い男だと桃園三姉妹だけでなく、他の女性たちもどんどん周知されていく。
「じゃあ、探しますか」
日本刀のような剣を見つけるために蔵の中を手分けして探すのであった。
「おお」
「お、見つかったー?」
「いえ、ちょうど良さげな空の木箱が」
「木箱ぉ? 一体何を入れるのよ。酒?」
「ははは。だから秘密と言っているだろう」
「まったくもぅ」
「空の箱がひとつ、っと」
探している中でも星は特に変わった物が集まっている箇所を重点的に漁っている。
「ほら、速く終わらせないと日が暮れちゃうわよ。月、こっちの目録作り、終わったわよ!!」
「あ。ありがとう、詠ちゃん」
「で、それっぽい剣があった?」
「目録見て確かめればいいでしょ。何のための目録だと思ってるの? こういう時のために使うのよ。こういう時の!!」
「…何のための蔵探しだよ」
「月のために決まってるじゃない」
「もう、詠ちゃんってばぁ…」
丁寧な字で書かれた帳面を流し読みで大雑把に確かめていく。しかし残念ながら最後まで剣を現す文字は一つも出てこなかった。
「こちらでも、それらしいものは見当たりませんね」
「こっちも無かったよ北郷」
「美花と藤丸の確かめたところもハズレか。ホントにあるのかなぁ」
探し物とは簡単に見つからないものだ。特に様々な物を詰め込んでいる蔵の中を探すのは相当な苦労である。
「おお」
「見つかった?」
「いえ、これはまた、趣深い…」
星が楽しそうに眺めているのは剣どころか変な石だ。見ようによっては人の顔に見えるような石である。
「だから、そういうのはいいって言ってるでしょ」
「おやおや、詠。常に心には余裕を持っておかねば。佳き女になれんぞ?」
「ボクの余裕を片っ端から削っていくのはあんたたちでしょ!! まったくもう」
「…む?」
古い箱から取り出すあるモノ。
「おお、これは…」
「何かありました?」
「…いえ、別に何も」
「そういうのはいいって何度言わせるのよ!!」
「むぅ、やはりこれは…」
「見つかりましたか?」
「い、いや、特には…」
素早くあるモノを隠す星。
「ああもう、何なのよアンタは思わせぶりはーーー!!」
「落ち着いて詠さん」
嗜めるが詠は怒鳴ってしまう。
「……主」
「無視した!?」
詠がキレるのにいちいち相手してたら日が暮れる。
「何?」
「今思い出したのですが、剣を見たのはもっと奥だったような、そうでなかったような…」
「おいおい。じゃ、俺はそっちの方を探してくるから、この辺りは任せていいかな?」
もっと奥かと思って、蔵の奥を見ると魔境に錯覚してしまう。これにはため息を吐きそうだ。
「月、一緒に来てくれる?」
「はい。分かりました」
「ちょっと、月を蔵の奥に連れ込んで何するつもりよ!!」
「逆に何考えてんだよ」
「あんたの桃色の脳みそが考えることなんだから、いかがわしい事に決まってるでしょ!!」
「失敬な」
詠はどこまで北郷一刀を色情魔の如く思っているのか気になるところである。
「じゃ、詠が来てくれるか?」
「あんたと二人っきりなんて死んでも嫌」
当然の返しである。
「では、私が」
「美花はもっとダメ。二人きりにしたら余計に盛り上がりそうだし!!」
「あら、詠さんもご一緒されますか?」
「~~~っ、一人で言ってなさいよね!!」
顔を真っ赤にする詠。こういう話だと美花の方が上手である。
「じゃあどうすればいいんだよ」
「藤丸と行きなさい!! ボクと月でこっちの目録をつけておくから。美花は散らかしたところの片づけで星はまた適当に周って、それらしいものがあったら呼びなさい!!」
「ま、それが妥当か」
「じゃあ、向こうで探すか北郷」
「うむ、それは願ってもない展開だ」
何が願っても無い展開なのだろうか。
「え?」
「いや、こちらのこと。これ以上手間をちらせるわけにもゆかぬし、少々急ぐとしよう」
第二ラウンドというべきか、またもそれぞれは別々の動きをしていく。
「…主たちは行ったか?」
星は誰も近くに居ない事を確認してから先ほど懐に隠した物を取り出す。
「うむむ。先ほど見つけた時も、よもやと思ったが…見れば見る程、見事な出来だな。この紋様、この形、まさに職人の魂が込められているとしか言いようがない」
手には蝶を模した仮面があった。
「…ダメだ。この仮面が語り掛けてくる声…もはや、抗うことなど出来ぬ!!」
蝶の仮面から何が語られてくるのかは分からない。星は覚悟を一瞬で決めて装着した。
「…でゅわ!!」
354
「全然見つからないわね。ホントにあるの? そんなもの」
あるのは古い虫食いだらけの着物などのガラクタばかりだ。
たまに剣が見つかっても錆ていたり折れていたり、そもそも中国の剣ばかりで日本刀らしき物なんか見つかる気配も無い。
「向こうはどうなんだろうな。おおーい星ー。見つかったかぁー!!」
声が響くだけで返事が無い。
「星さーーん!!」
藤丸立香も声を掛けて見るが返事はやはり無い。
「星のやつ、飽きてどっかに行っちゃったかな?」
「見に行ってみる?」
「そうだな」
星がいる方へと行ってみると誰もいなかった。
「あれ? どこに行ったんだ?」
「ん?」
「どうした藤丸?」
「なんか外の方が騒がしいような」
「外?」
外の方に耳を傾けてみる。
「貴様、何やつ!?」
愛紗の声が聞こえてきた。
「曲者だ、出会え、出会えーー!!」
曲者とは良い言葉ではない。
「ちょっと侵入者!?」
すぐに詠が反応した。
「俺たちも行ってみよう!!」
倉庫から出てすぐに外の様子を確認する。
「あ、ご主人様!!」
「朱里、侵入者って何者? どこかの暗殺者か!? それとも流れの武芸者でも腕試しでも乱入してきたか?」
「え、えと…その…あうう」
朱里も出てきたばかりかもしれない。今一つ、状況を把握しきれてないようだ。
「いきなりそんなに聞いて、まともに答えられる子なんかいないわよ…」
「雛里ちゃん?」
「あ、あの、そのぉ…なんだか、知らない人が」
「え!?」
朱里と雛里の微妙に合っていないリアクション。この意味はすぐに分かる事になる。
「でええええええい!! 愛紗、そっちに回り込んだのだ!!」
「応!!鈴々、桃香さまに近寄らせるな!!」
「分かってるのだ!!」
愛紗と鈴々の二人がかりで曲者とやらを対応しているようだ。
彼女たちでしか抑えられないとなると恋クラスの実力者に近い。
(そんな豪傑、恋以外で三国志にいたか?)
北郷一刀はすぐに曲者とやらに視線を移す。
「ふっ、こちらに名乗らせもせぬとは…無粋の極みというものぞ!!」
「え…あの声?」
「嘘なのだ…」
「何と…」
愛紗の呆然とした声に北郷一刀たちは足を止めてしまった。そして青龍偃月刀の切っ先に立つ者こそが件の曲者だ。
その者こそが呆然となってしまう理由である。
「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる!! 我が名は華蝶仮面!! 混乱の大陸に美と愛をもたらす、正義の化身なり!!」
華蝶の仮面を付けた武人であった。
「ちょ…。どう見てもあれ」
「言わないで!!」
詠が早口で北郷一刀の言葉を遮る。
「え、えっと、あれ…」
「言わないで!!」
「どこへ行ったのかと思えば、あんなところに…」
「言わないでってば!!」
「ご主人様も、そう見えますよね、あれ…」
「だから、ボクをこれ以上おかしな世界に連れて行かないでってばーーーー!!」
藤丸立香からしてみればこの程度、序の口に過ぎない案件だ。
「こっちでも仮面系の人がいるんだ…」
「こっちでもって…藤丸のところでは似た事があったのか?」
「結構な確率でイベントに仮面を付けた人が現れる」
「イベントって…一応聞くけど、その仮面の人らも英雄や偉人なのか?」
「うん」
もの凄く気になるものだ。
「ほえ? え、あの、みんな、あの人のこと…」
「………気付きなさいよ」
雛里はどうやら気付いていないようだ。正直なところ何故、気付かないのか分からない。
「…後でゆっくり説明してやってくれ詠」
「ちょ、何でボクなのさ!!」
「いや、暇そうだったし」
「暇じゃない!! あんたなんかより何倍も忙しいっての!!」
詠と漫才をしている場合ではない。
「でええい!! そのふざけた仮面を取って、大人しく正体を見せるがいい!!」
「ふ、この美しき仮面を奪おうなどと、この都には美を解す輩はおらぬと見える!!」
大きく振られた偃月刀から身軽に飛び降りて華蝶仮面も鋭く槍を突き付ける。
一番最初に気付きそうなものだが愛紗は華蝶仮面の正体に全く気付いていない。
「あ、ご主人様ー。藤丸さんも!!」
呆然と状況を見ていると桃香と恋が駆けつけて来てくれた。
「桃香と恋か。一体どうしたんだ? せ…」
「なんかあのチョウチョ仮面の人、すごいよねー!!愛紗ちゃんと鈴々ちゃんの2人掛かりでも全然、敵わないんだよ」
「…いや、あの桃香さん?」
「ん? どうかした?」
桃香はニコニコと笑っている。彼女もどうやら華蝶仮面の正体に気付いていないようだ。
「何でもないっす」
この段階で華蝶仮面の正体に気付いていないのは桃香に愛紗、鈴々、雛里である。
「ねえ、北郷。桃園姉妹って…」
「超純粋なんだよ…たぶん」
あのバレバレの恰好で何故、気付かないのか。
「で、恋さんは愛紗や鈴々の加勢に行かないの?」
質問に対して恋は不思議そうに首を傾けた。
「いや、旗色が悪いみたいだし、行きたいなら行ったほうがいいんじゃないかな?」
フルフルと首を横に振る。
「あのね。恋ちゃん、わたしを守るように愛紗ちゃんから言われてるの」
「なるほどね。だから恋はここで待機中なのか」
この状況なら妥当な判断だ。相手が暗殺者ならば仮に愛紗と鈴々が抜かれても。恋が控える構図になる。
(まあ、相手が相手だから、そんなことあるわけないんだがな)
「はーっはっはっは!! なんだなんだ、関雲長と燕人張飛といえども、こんなものか!!」
「ええいくそっ…恋、貴様も来い!! 雛里は桃香さまたちを連れて、安全なところへ!!」
「え、あ、はぁい」
「えー。つまんなーい。もうちょっと見てみたいよぅ」
「そんなこと言わないでくださいよぅ。恋さんが前に出るなら、ホントに危ないんですよ」
「ぶーぶー」
危なくも無く、ただの遊びなようなものだ。
「はーっはっはっは!!」
「愛紗、そっち行ったのだ!!」
「させるものかぁ!!」
「ふふふ、なんだか楽しそうですね」
この状況は美花にとって微笑ましそうだ。
「まったく訳が分からないけどな」
物凄くノリノリの星。まさかの内面に驚きだ。
「恋!!早く助太刀せよ!! ご主人様は星を呼んできてください!!」
「………ん?」
愛紗に呼ばれた恋は不思議そうに首を傾けている。
「愛紗さんが呼んでるよ。恋さんは行かないの?」
「…星を倒す?」
「あ、正体分かってるんだね」
コクリと頷く恋。
「…チョウチョが可愛い」
「き、気になるんだあの仮面」
またもコクリと頷く。
恋は華蝶仮面の正体よりも仮面の方が気になるようだ。
「おい、何だか騒がしいが何かあったのか?」
「あ、孔明先生。実は…」
諸葛孔明が華蝶仮面を見た瞬間に回れ右をした。
「逃げた!?」
面倒事に首を突っ込みたくないという事ですぐに逃亡。冷静な判断かもしれない。
「月、とっとと帰るわよ。こんな茶番に付き合う位なら、蔵の整理でもしてた方がマシよ」
「え? あ…うん。あの、ご主人様」
「あんたは星を呼んでくるんでしょ? 早く行きなさいよ。立香も行きなさい」
「どんな無茶ぶりだよ…まあ、ここは何とかするよ」
「オレも巻き込まれた…」
詠はふんと鼻を鳴らして、月はペコリと頭を下げて、連れ立って蔵の方へ戻っていった。
「で、どうする北郷?」
「朱里」
「ふえ? わたしですか!?」
まさかのキラーパスである。
「ぐ、軍師なんだし、何かいい作戦でもあればと」
「あうう…恋さぁん…って、恋さん?」
気が付けば恋も居なくなっている。
「美花さん、その…取り押さえること、出来そうでしょうか?」
「私の名にかけて、不可能とは申しませんが…それはいささか不粋な気もいたしますが?」
愛紗と鈴々は必死であるが逆に華蝶仮面の方は愉快そうである。確かにここで乱入するのは無粋というもの。
「やれやれ。貴様らの実力、見誤っていたようだ。これでは街を任せてくわけにはゆかんな。私がその任、引き受けてやろうではないか!!」
「言わせておけば!!貴様ごとき賊に街の平和を委ねるなど、言語道断!! 大人しく縛に就けい!!」
華蝶仮面と愛紗たちはそれはもう華々しく打ち合っている。それはまるで何かの演劇のように、見ている分にはエンタメ性が十分だ。
本人らも盛り上がっているように見えてしまう。
「どうするべきか」
「どうしましょうか」
「最後まで見てよっか」
「…それもいいかなあ」
藤丸立香の一言で最後まで観戦する事が決定。
「このまちの平和は鈴々達が守って見せるのだ!!」
「その程度の腕でか? 笑止!!」
「にゃわっ!?」
鈴々の蛇矛をするりと抜けて、華蝶仮面は大きくジャンプ。くるくると回って屋根の上へと着地した。
「では、また相見えることもあるだろう。さらばだ!!」
「あ、逃げたのだ!!」
「くそっ、戻れこの臆病者めー!!」
「ふふん。大人しく手を引いてやると言っているのだ。複数でこの我を押さえ切れる者から臆病者と誹られる覚えはないわ。はーっはっはっは!!」
「く…っ!!」
やっと終わったようである。
(それにしても星ってあんなに強かったんだな)
「大事にならなくて良かったんじゃないかな?」
「ですね。怪我人も出ませんでしたし」
「良かった? どの口がおっしゃいますか!!」
「…ひっ!!」
愛紗の一喝にビクリとしてしまう。
「あ、愛紗……さん?」
「鈴々、朱里、至急会議の招集を!!」
「え、え?」
「議題は我が軍の警備体制の根本的な見直しと我ら個別能力の徹底強化だ。異存はないな!!」
「わかったのだ!!」
「え、あ、あの…」
愛紗と鈴々は未だに華蝶仮面の正体に気付いていないようだ。
「無論、ご主人様にも出席していただきます。異論はありませんな?」
「えっと、その…」
「ありませんな!!」
(駄目だ。この状況で何を言ってもきっと信じてもらえない…)
もはや選択肢は「はい」の一択だけだった。
「頑張れ北郷」
「藤丸も来い!!」
「関係無いよオレ!?」
関係無いというが藤丸立香も含めてカルデア等も華蝶仮面の物語に関わるのだが、それはもう少し先の話である。
355
「…ふぅ」
華蝶仮面は仮面を外す。
「いやはや、何と痛快なこと…高みに至った芸術には神仙の力が宿ると聞くが、これはまさしくその至上の逸品に違いない」
華蝶仮面の正体は言わずもがな星である。しかも本人は誰にもバレていないと思い込んでいるのだ。
実はバレバレであるが本当に正体に気付かない者もいるので仮面の力というのは不思議だ。
「混沌の都に舞い降りた、正体不明の救世主。うむ、まさにこの私にこそ相応しい役所だ!!」
華蝶の仮面がキラリと光ったような気がした。
「主には悪いが、この神器に巡り会ったのも何かの縁。これは私が預かっておくとしよう」
星は痛快愉快な活躍を活躍を考える。これから華蝶仮面の物語が始まる。
「………チョウチョ」
「なっ!?」
誰にも素顔を知られないヒーローにでもなろうかと考えた矢先に素顔を見られた。
「れ、恋!?」
気が付いたら何故か恋がいた。どうやら星が撤退した後を付いてきたようだ。
これでも誰にも知られないように撤退してきたはずだが恋には撒けなかったようである。
いきなり謎のヒーローの正体バレである。そして元々バレバレであったとは言ってはいけない。
「…チョウチョ」
「こ、これか?」
恋は星の持つ華蝶の仮面が気になるようである。
「だ、ダメだ。これは私のものだぞ!!」
それよりも恋に正体がバレたという問題をどうにかしなければならない。
ご飯的な何かで口を閉じさせておこうかと考え始めたと同時に新たな第三者が現れる。
「まだまだ甘いわね…1号ぉ」
「む、お主は!?」
星の前には別の華蝶の仮面を付けた筋骨隆々のほぼ全裸の漢女が現れた。
「うふふ…簡単に正体がバレてしまうなんて華蝶仮面失格よ。気を付けなさい」
「まさかお主も華蝶の仮面に選ばれた…」
「ええ、そうよん」
まさか自分以外にも華蝶の仮面を手に入れた者がいるとは思わなかった。
「安心して、わたしは仲間よん」
「仲間?」
「もちろん。同じ華蝶の者だからね」
世界は広いということを確信してしまった。自分だけが華蝶仮面ではなかったのだ。
「まさか私以外にもいるとは…だが同じ華蝶の者ならば悪い奴ではないな」
「もちろんよ!!」
後に彼女たちは技の1号、力の2号と呼ばれて活躍するのだがそれはもう少し先の話である。
「…ところで恋をどうするかだが」
「簡単よ。仲間にしちゃえばいいじゃない。だって恋ちゃんも華蝶の仮面を気に入っているようだしねぇん」
「なるほど!!」
「4号の誕生ねん!!」
「うむ。4号の誕生だ!!」
何故、3号ではないのかと他の者がいればツッコミを入れるが今は不在である。
「ん?」
恋はよく分かっていない。無論、いきなり華蝶仮面になったのだから訳が分からないはずである。
「他にも仲間が欲しいわね。最低でも3人は揃ってるからいいんだけど……目標は5人ねん」
「あと3号と5号を見つけなければな」
この外史に華蝶の物語が紡がれる。
読んでくれてありがとうございました。
次回は未定です。(でも来週には更新したい)
今回は華蝶仮面の話でした。
北郷一刀としては左慈対策として鍛錬の話が始まったのに何故か華蝶仮面の話に。
(北郷一刀と左慈の話はまた今度ですね)
原作に近い形でしたが次回からオリジナル要素が多くなっていくと思います。
なんせ、カルデア勢も加わっていきますからね。
華蝶仮面の話は日常編で時々、入れ込んでいきます。
次回(どっかの日常編で)!! 『華蝶仮面第2羽 技の1号と力の2号』
そして次回から本編に戻ります。
やっと曹操sideに入っていく事になります。新たなカルデアの仲間ももう少しで登場です!!