よくわかりませんが、司令官に選ばれたようです。 作:おいたんだ!
人型人形兵器“アリオス”が無人の荒野を駆け回る。
「動きを止めるな! 常に動き続けろ!」
剥き出しのコックピットから、銀髪の少女“レイナ”が怒鳴り声を上げた。
『わかってるわよ!』
『今日のレイナは機嫌が悪い』
『いつものこと』
レイナの声に無線で応じ、3人の少女たちが操る各々の
全長約3メートル。
兵器の体躯は細身な物、鉄の塊のような物と様々だ。
移動手段は48時間持続可能なホバー移動を主とし、フレームやボディには防熱、防寒、防水を用い、ありとあらゆる環境に適応することが出来る。
武器は高周波ブレードに加え、5.56ミリ口径ベルト給弾式軽機関銃。他にもジャベリンなどの対戦車ライフルが装備可能となっている。
しかし、この敵においては些か心もとない武器であった。
彼等の身体は腐り果て、かつてのように大空を飛ぶことは出来ない。腐竜を絵や物語で見たものならば、竜というよりかはトカゲを思い浮かべるだろう。だが、彼等をじかに見てそう呼ぶ者はいない。全長約50メートル。まるで要塞だ。
残念なことに、その体躯に見合わず彼等の動きはとても俊敏で、かつ獰猛といえる。さらに驚くことに、レイナの目の前にいるこの巨大な敵は、人間でいう子供に当たるというのだから、なおさらタチが悪い。
部隊のリーダー、レイナは機関銃を連射しながら腐竜を誘導する。彼女はこの化物をはなから倒せるとは思っていない。現在、彼女たちとは別の部隊である輸送部隊が、ここから数十キロ離れた経路を進んでいる。
彼等が無事に安全区域まで辿り着くまで持ち堪えるのが、今回彼女たちに与えられた任務だった。しかし命令を受けた時点では、腐竜がいるという情報は入っていない。
本来であれば、腐竜には最低2桁の部隊で対抗しなければならない。そうでなくてはただの無駄死にだ。決して彼女たちのような少数部隊でどうにか出来る相手ではない。
つまり彼女たちがいまこうして生きている事自体、奇跡という他なかった。
「お前ら! 輸送部隊が安全区域に辿り着くまで残り3分だ! 根性見せてみろ!」
『うをおおおぉぉぉおおおおおっ! 根性ッ!』
『集中!』
『ひらめき!』
3人がメイン武器を機関銃から高周波ブレードに持ちかえた。逃げているだけではいずれ殺される。リスクを犯さなければ、この世界では生き残れない。
1人が跳躍。2人は左右に分かれた。
腐竜の目が、跳躍した少女を捕捉する。恐ろしい速度だった。腐竜が身体を丸めた次の瞬間、遠心力から繰り出された鋼の尾が、横殴りに少女へと襲い掛かった。
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」
凄まじい衝撃と共に少女の乗っていた兵器が見るも無残に四散する。
「ぐぎゃっ!」
間一髪、コックピットから抜け出した少女をレイナが空中で受け止めた。粉々に砕けた兵器の破片を避けながら、少女をコックピットの中へとぶん投げる。すかさず高周波ブレードを左手から右手に持ちかえた。
その間にも、2人の少女は仕事をこなしていた。特別製の格子鉄線。それを腐竜の足にそれぞれ巻き付け、ブレードで固定。合図と共に勢い良く引っ張っていく。
『これ絶対無理だよね!』
『私もそう思う!』
フルブーストで鉄線を引っ張るが、力で敵うはずが無い。引きずられるように、2人の足元から砂塵が舞い上がる。だが決して放さない。
するとそのお陰か、少しずつではあるが鉄線が硬い皮膚に食い込み、麻酔が身体の内側に届こうとしていた。だが、異変を感じたのだろう腐竜がすぐさま両足を振るう。
悲鳴と共に、2人の乗る兵器が空中に投げ飛ばされた。それを追うように、腐竜が口を開いた。獰猛な牙が、彼女たちに襲い掛かる。
「チェストおおおぉぉぉおおおおおおおおおっ!」
刹那、レイナが飛び出した。目標は腐竜の赤い眼。レイナが振るう高周波ブレードが、勢い良く腐竜の眼に突き刺さる。
レイナの背後で少女が喜びに叫んだ。視界を遮られた腐竜がもがくように大地を削り取る。その隙に2人の少女が着地。合図と共にレイナたちはすぐさま戦線を離脱した。
時間にしてたった3分。しかし、地獄のような3分であった。いつ全滅してもおかしくない戦場であったと、レイナは生唾を飲み込む。
「あはははは! 私にかかればこんなもんよ!」
すると、レイナの背中が盛大に叩かれた。後ろを向けば、金髪ツインテールの少女“ミーナ”が無邪気に白い歯を見せてくる。
「ナイス囮」
「囮に定評のあるミーナ」
「はぁ!? アンタ達だって囮だったじゃない!」
今度は左右から声を掛けられた。黒髪褐色少女の“アーニャ”に加え、赤い瞳が特徴的な黒髪少女“イブキ”だ。3人のやりとりに、レイナも自然と笑顔になる。
今日も生き残れた。その幸運を胸に、レイナたちは帰還した。
◇
「このふざけた荷物はなんだ!?」
東地区総司令部に帰還したレイナは部下であるアーニャを引き連れ、司令室に座る男に荒々しく詰め寄った。それと同時に、輸送部隊から強引に奪ってきた荷物を室内にぶちまける。
「き、貴様ッ! それがどれ程の物かわかっているのかッ!」
司令室に座る下ろし立ての軍服を着た男が、慌てたように散らばった荷物をかき集める。レイナはそれを静かに見下ろした。
哀れな豚のような格好だ。それはこの男にお似合いな、無様な姿だったといえる。しかし、こんな事ではレイナの怒りは収まらない。
「私たちはこんな物の為に戦っているわけじゃない! 香辛料ならコレじゃなくても他のもので代用がきく! 葉巻だってそうだ! 軍から支給されたものがあるじゃないか!」
レイナが必死に男へ訴えかける。せめてもの情けだった。ここで少しでも反省が見られるのであれば、それを尊重する心がレイナにはまだあった。
しかし、無駄な行動である。もしもこの男にそんな心があるのであれば、こんな東地区になど飛ばされる筈もなかったのだ。
「はっ、馬鹿が! この嗜好品の価値がわからんか! これら1つだけでも数百万はくだらんぞ! 代用がきくだと!? 笑わせるな! 代用がきくのは貴様らの命だ! 履き違えるな!」
男の罵詈雑言に、とうとうレイナはブチ切れた。レイナの両目から光が失われる。ハイライトをなくした目で男を見下ろしながら、彼女は気怠そうに身体を揺らした。
「あ、不味い!」
同行していたアーニャが、慌てたようにレイナに手を伸ばした。この光景に見覚えがあったのだ。
いつかは憶えていない。しかし、レイナが次に何をするのかは、あの血の惨劇を見た中の1人であれば、容易に想像が付いた。
だが、何もかもが遅すぎた。
「歯ぁ食いしばれッ!」
刹那、レイナの腰の入った右フックが、男の顔面に叩き込まれた。何本かの歯を辺りにばら撒き、綺麗に磨かれた床へと男がダイブする。悲鳴はない。一瞬で意識を失うほどの、強烈な一撃であった。
「れ、レイナ。さすがにこれは不味いよ」
おろおろと、アーニャがレイナに訴えかける。この男は腐っても東地区総司令官だ。一介の兵士であるレイナが手を出していい相手では無かった。
「知るか」
しかしレイナは動じない。さらにオマケと腹部に一発蹴りをお見舞いすると、彼女は綺麗な銀髪を翻し、司令室を後にした。
◇
この三日後、レイナ・ミリヤードの暴力事件を筆頭に、軍法会議が開かれることとなる。それはある男とレイナを引き合わせる、運命的な出来事であることを、彼女はまだ知らない。