Ginnの影忍 ─リリー・ザヴァリー 今日も往く─   作:山田風

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『世界樹』の妄執.結 ─任務完了─

 世界樹残骸の地表に、ジンが降りたった。まるでタイツでも着ているように細身で、カバーに覆われた体駆。リリー曰く《薄着のジン》。

 

『なにをやっとるんだ、あのカラスは』

 

 地表を見渡し、その惨状にあきれていた。

 壁面のそこら中に穴があき、電線も断ち切ったのかが漏電を起こしている場所もある。

 

『どこもかしこもこの有様、いくら敵とはいえさすがにやりすぎだ』

 

 そういいながら座り込み、地表で何か作業を始めた。二、三いじったかと思うとすぐに立ち上がり、

 

『さて、と──なぁッ!』

 

 拳を天につきだした。砲弾のごとく放たれた拳は虚空をついたかと思うと、何かと打ち合った。そこに現れたのは刃。小刀だ。

『ふんッ!』

 

 少しばかりマニュピレーターに食い込む感触を味わいながら気合いをこめると、その刃は粉のように砕け散る。断面がかすかな漏電の光を受けて輝き、雪のようにジンを照らす。

 柄はすでにだれも握っておらず、宙に漂っていた。どこか寂しげな柄に眼もやらず周囲を見渡す。

 そして右足に力を込めて体を押し出し、同時に左足のスラスタも起動、噴射のエネルギーまでも込めた背後への回し蹴り。あったのはかすかな手応えと鈍い衝撃。

 そこにいたのは、あのくノ一、リリーの忍者ジン。蹴りを受けた衝撃を回転で打ち消し、膝をついて薄着のジンを見ている。

 再び立とうとして、つまづいた。

 

『む……?』

 

 左足を見ると、すねに深々と苦無が刺さっている。忍ジンが蹴られた一瞬で刺したのだ。

 その隙に忍ジンが手裏剣を投じる。だが薄着のジンはほんの少し体をずらすだけで、手裏剣はすり抜けていく。

 同時に放り込まれたグレネードはそっと手を添えて横へと受け流した。左足で地面を蹴り砕き隆起させ、爆発の盾にする。

 

『後ろッ!』

 

 吹き荒れる爆風に紛れて潜む忍ジンの姿を見きった。振り向きながら右腕をたたみ、手刀を繰り出す。丸みを帯びた指先がしなって光り、鳩尾をねらう。

 その手刀は、肩装甲を引き裂いた。

 

『何、ズレたか?』

 そのまま腕をたたみ、肘打ちを出せば、苦無と打ち合った。苦無は弾かれ漂うが、そこにも忍ジンはいない。

 おもむろに膝蹴りを打てば、そこには砕かれた忍ジンの右足だけがあった。突き出した腕の影に潜り込んでいたのだ。

 

(ここにもいない──背後?)

 

 勘任せに背後に手をやれば苦無を掴みとった。

 返すように虚空へ投げると、そこにはジンの兜の切れ端が残される。

 

(また──!)

 

 足下に、転がる球体に気づく。

 走り出せば、球体は爆発し、高く炎の柱を上げた。

 

 薄着のジンを追いすがる影。わずかにスラスタの光を残しながら影も走る。

『そこかッ!』

 

 左手の手刀が、影を貫く。だがそれはメビウスのレールガンだ。手を引こうとするも爆発し、左手をもぐ。だが気には止めていなかった。

 

『こっちは偽物か』

「わかっててよくやる……」

 

 リリーはあきれた。

 同時に反対に突き出した右の手刀は、忍ジンの脇腹を抉っていた。抵抗しても、すぐには抜け出せない。中身を握り締めて固定しているのだ。

 威力はすさまじく、両腕で手刀を止めなければ、忍ジンをリリーもろとも両断していただろう。

 薄着のジンは首だけ背を向き、忍ジンを、リリーを見る。

 

『止めるとはなかなかだな』

「……あんな古いサーバーなんて持っていって、一体何をしようっていうのよ」

『若くしてふらついとる娘子にはわからんよ』

「なんですってぇ!」

 

 リリーは吠える。反撃もしたいところだが、未だに手刀と腕が拮抗し、きしんだ音を立てている。

 

『よくぞ逃げて、よくぞ起きたな。それに少し見せただけだというのに、ずいぶんと機動が良くなった』

「あなたが逃した同僚のおかげです。それとあなたはいい反面教師でしたからね。あんな動きをしておきながら、ああも光を盛大にばらまいては忍者はバレバレですよ」

 

 気づけば、男は笑っていた。

 

『そうか。MS、面白そうだと手を出したが、下手の横好きはやはりダメだな』

「あんな戦闘しておいてそう言う? たしかに忍者としては下手なんでしょうけど……ねッ!」

 

 リリーのかけ声で忍ジンは脇腹に突き入れられた腕を掴み、引き抜いていく。その手に濡れたパイプや部品が引きずり出されるのも構わずにちぎり、一気に引き剥がした。

 薄着のジンは短くなった左腕を振るがわずかに空振った。頭を下げると、背後から振られた小刀を避けた。

 再び左腕での振り払い。リリーはほとんど動かない。その短くなった間合いを見切っていた。だが、目にした左腕が少し違っているように見えた。

 必死に身をそらす。目の前を、刃が通り過ぎていった。

 かと思うと、目の前が真っ暗になった。

 

「何ですって!」

 

 必死に身を引きながら精査をかける。一瞬で終わった精査曰く、モニターは正常。カメラが何かに視界を被われたのだ。

 悪寒に構えた瞬間、衝撃。後ろに吹き飛ばされる。

 (当てられた!)と呻き、転がりながらモノアイを拭うと視界が晴れていく。

 すこしばかり濁ってしまった視界に、振りおろされる左腕が写った。

 両手で受け止めて、その姿が見えた。

 

「腕に苦無を埋め込んだか!」

 

 その左腕には、苦無があった。無理矢理握り手から押し込んだのか、腕の断面がいびつに盛り上がり、隙間から油が漏れて刃をぬらしている。

 振られたときに飛ばされた油滴がモノアイを被ったために目つぶしになったのだ。

 

 腕を、足を振るたびに欠片が舞う。そのたびに、傷が増えていく。

 

 眼にも止まらぬ戦いが風を生み、装甲が砕けて宙を舞う。その欠片が風に乗り、身を削っていく。

 荒れ狂う奔流はやがて渦となって二機の姿を被い隠していく。

 

『せぇぃッ!』

「はあぁッ!」

 

 二人の一喝により、渦は散った。

 中心には、身を寄せあうように一つの影となって相対する二機の姿。

 

 薄着のジンは、右腕による渾身の正拳突き。

 対して忍ジンは、無手の両手を前に構えているだけであった。

 

『グッ──ガハッ!』

 

 だが、血を吐いたのは男の方であった。

 男の腹はすでになく、ジンの胸板を突き破った右手が埋めていた。それは正拳を放ったはずの右腕。その右腕には、忍ジンの両手が添えられていた。

 破れたジンの胸板から、男がにらむ。

 おのずと、リリーはつぶやいた。

 

「弾丸返し、とか言っていたわ」

『なるほど、懐かしいな……』

「え……」

 

 どういうこと、と問おうとしたとき、地面が揺れた。

 世界樹の残骸が鳴動している。

 これは、爆発。それも、いくつも!

 

『は、は、は! 遅かったな!』

「なに!」

 

 血を吐き出し続けながら、男が吠える。

 世界樹残骸が割れていき、いくつもの欠片になっていく。

 

 割れて散っていく残骸の中に一つだけ、違う動きをする影があった。

 

「あれは」

 壁で囲った大きなブロック。岩塊をまとい、そこにはエンジンが散りばめられていた。

 

 あれが何なのか、リリーにも見当がいった。

 あれこそが、男が求めていたもの。

 あの中に、サーバーがある。

『急いでください、エンジンに火が入りました!』

 

 通信でイガリが叫ぶ。

 

『もう……おそ、い……!』

 

 漏れ聞こえる声。薄着のジンは残された左腕で忍ジンを抱え込み、固めている。

 中の体も機体も死に体だというのに、忍ジンは動けない。忍ジンもぼろぼろである、というだけではない。行かせない、という堅い意志だ。

 

「しつこい──ッ」

 

 抱える腕は片方だけだというのに、身動きもとれない。

 まごついている間にも、ノズルに灯がともり、サーバーブロックが少しずつ動いていく。

 遠ざかり始める閃光に、リリーも歯がゆい思いを抱いていた。

 思い返すのは、目の前で遠ざかっていく核ミサイル。なにもできなかった、目の前で生まれる太陽。 

 ────また、目の前で逃がすの……?

 

「うぅ──」

 

 唸る。腕を動かし、忍ジンがきしむ。

 

「うあッア────ッ!」

 

 叫んだ。薄着のジンの拘束を振り払い、サーバーブロックめがけて飛んでいく。

 

 忍ジンは全身に手傷を負い、悲鳴を上げている。右脚が欠けている。スラスタも不調。フレームがゆがみ、いやな音を立てている。

 それでも、駆けていく。

 忍ジンのきしむ音はいっそう大きくなっていく。まるで鳴いて─泣いて─いるかのよう。

 

「届かない……!」

 

 それでもまだ足りない。目の前の光に追いつけない。

 リリーは、どれだけ傷を負おうとも這ってでも進んで見せる。だが、それでは今は遅いのだ。

 

 遠ざかっていく光を恨めしくにらんだその時、目の前を鳥の影が覆った。

 

「これ、さっきの──」

 

 男のジンとやり合う直前、彩火のメビウスを抉り、一本角を連れていった機械鳥。

 見るからにボロボロだが、それでもリリーはしのげそうにない。

 

 これで終わりなのか、と脳裏によぎると鳥は勢いよく飛び、サーバーブロックの光に突っ込んだ。

 

「は──」

 爆発が起きる。光がすこし欠けた。エンジンが一部無くなっている。

 捨て身の体当たり。何故敵が、と思うと声がした。

 

『さっさと行け!』

 

 一本角の声。まだ元気なようだ。

 何をしたかリリーにはわからぬが、この好機は逃してはいけない。

 爆発に押されて少しばかり速度を落としたサーバーブロックに一気に近づき、エンジンの一つに取り付いた。

 

 エンジンの森を一気に壊すような武器はない。構造は硬く、中なら壊すのも難しい。

 

「それなら──」

 

 今も炎を吐き出し続けるエンジンを両腕で抱え、残った左足で踏ん張る。

 

「さあ、踏ん張りなさい」

 

 また忍ジンの全身がきしむ。炎に焼かれていく。

 まだエンジンは動かない。ジャンク屋が丹精込めたモノだ。彼らの腕に感服する。

 

 少しずつ、エンジンが動く。頑丈に打ちつけられた床から、エンジンが剥がされていく。

 

「踏ん張りなさいよ────」

 

 忍ジンがいっそう鳴く。全身がきしむ音がいっそう高くなる。

 

「────トビー!」

 

 ────きしむ音が途絶えた。

 感触が軽くなる。

 両手と左脚が砕けたかと思うと、忍ジンは吹き飛ばされた。

 ひっくり返り続けたリリーが姿勢を立て直して見ると、光がまた一つ欠けている。

 彼方に引き剥がされたエンジンが一つ、当てもなく飛んでいくのが見えた。

 

「まだ、一つ」

 

 まだエンジンはいくつも有る。

 両脚は砕けた。手は無いが、腕はある。

 

 再びエンジンに取り付こうとしたその時──

 

『無茶をしたMS、離れてろ』

 

 男の声。急に飛び込んできた通信。忠告に従い脚を止めたそのとき、ブロックの表面が爆発した。次々と爆発し、その姿が爆煙に隠されていく。

 煙の中に飛び込んでいくモノ。バズーカの弾だ。

 

「あれは──」

 

 リリーは弾が撃たれたほうを見て、目を見開いた。そこにはバズーカを構えた青い影。

 その胸に描かれた稲妻のごとき蛇のマーク。

 

「サーペントテール!」

 

 サーペントテールの青いカスタムジン。

 両手に持ったバズーカは、未だ弾を吐き出し続けている。青のジンは弾を撃ち切ったのか砲身一つ捨てた。

 爆炎を抜けて現れたサーバーブロックはいまだ形を残している。ロケットは未だ勢いが劣る様子を見せない。

 

「バズーカでも足りない。 どれだけ硬いのよ……!」

 

 それをみたのか、青いジンが動きを止めたかと思うと、そのコクピットが開きパイロットスーツの男が飛び出してきた。

 機体を捨ててどうするのか、と思うとひとりでに青のジンが動き出す。

 

「あいつ、何をする────そうか!?」

 

 リリーは叫ぶ。サーペント・テールの男がやろうとしていることに、見当がいった。

 

 男が離れると同時にバズーカを胸に抱いて、青いジンが飛び出していく。そのコクピットには誰もいない。打ち込まれたプログラムに従い、サーバーブロックへ一直線に向かっていく。

 

 青いジンがサーバーブロックにぶつかった。勢いのままにひしゃげ、その身を歪ませてスクラップへ変わっていく。そして、爆発した。燃料が燃え、弾薬に誘爆して大きな炎となる。炎がエンジンまで包んだとき、いっそう大きく燃え上がった。エンジンの燃料にも誘爆し、すべてを砕く。

 炎と衝撃は周囲の黒煙をも散らしていく。

 満点の星空に、大きな炎の華が咲いた。

 

 

 炎が消えた時には、そこにはサーバーブロックなどの見る影も無い残骸が残る。

 

『ミッション・コンプリート』

 

 リリーのジンの腕に抱かれて飛び散るデブリの雨からかばわれながら、叢雲劾は静かに叫んだ。

 

 

ーーーー

 

「ずいぶんやってきたなぁ……」

「ええ、やってきたわ」

「おらぁここまでやれとは言ってねぇぞ、えぃ?」

「おおうぅ……」

 

 ノゴーの言葉に、リリーは思わず顔を覆った。

 二人が見下ろすメンテナンスベッドには、忍ジンが横たわっている。

 

 リリーは、コロニー『ヤエ・ヨシノ』内ジャンク屋兼忍者工房『バルドン工房』に戻ってきていた。

 依頼の報告も有るのだが、忍ジンのことも大きい。

 両脚が砕け、手も無く、全身の装甲も欠け、斬られ、焼けている。見るからにボロボロで損傷の無い場所はコクピット内装くらいのもの。

 

 その有様にリリーは頭を抱える。

 自身でやったことなのだからしょうがない、というのはリリーもわかってはいる。だが、もう少しどうにかならなかったのか、と反省しきりだ。

 ぽん、とノゴーがリリーの頭をなでる。

 

「生きてりゃいい。それにたまたま集まった連中も無事だったんだってな? いいことだ」

 

 生還した三人は話をした後、その場で別れた。ボロボロの機体を持っての帰り道に苦慮していたのが印象的だった。

 彩火、イガリはともかく、一本角も生き延びたのだ。機械鳥にさらわれた後、残骸地表をえぐりながらの戦いの末にどうにか勝利したという。

 かなりの激戦だったようで、一本角のジンは下半身を丸々無くした有様だった。

 リリーの目の前で起きた機械鳥の体当たりは、残った機体に一本角が自動操縦を仕組んだという。

 サーペントテールがやったカスタムジンの体当たりと同じことだ。

 

「それにサーペントテールとやりあったんだって?」

「ええ、凄腕だったわよ」

「そうかそうか! 道理でいいデータ入ってるわけよ」

 

 拾い上げたサーペントテールの男─おそらく叢雲劾─はデブリの雨が落ち着くと、足早に宇宙の闇へと消えていった。近くに宇宙船を待機させていたらしい。

 イガリは残念がっていたが、彩火がやけに劾に興味を示していたのがリリーには気になるところである。

 

「で、忍者連中がいたんだろ。結局目的とかはわかったのかい?」

「聞いて何かなるものでも無いでしょう?」

「ま、せっかくだからな」

 

 推測が多いけど、と前置きをしてリリーは話した。

 

 世界樹の強情なサーバーに眠っていたのは、旧世紀のデータである、という話だ。

 データにも様々なものがある。世界樹にあったというのは、隠し財産、スキャンダル、旧大戦の戦争犯罪。そのような「イヤな」データをため込んでいたという。

 そのサーバーが、「ロバの耳」とでもいう秘め事を吹き込まれた樹のウロか、悪意をため込んだパンドラの箱かはわからない。

 誰が放り込んだかも定かでは無い。奇特な研究者か、悪趣味な好事者かそれとも別の「何か」か。

 しかしもはや70年あまりも過ぎたこと、データの当事者はほとんどが死亡し意味はない。だが、わずかに生き残った人々には、データが残っていると知れば気が気で無いだろう。

 放り込まれたデータの人物は誰もが老いてなお知られた著名人。動かせる金もそれなりにある。それを「ゆする」為なのでは───

 

 そのようなリリーの推測にノゴーは

 

「ほぅ、そりゃ大変だったな」

(ほらこういう反応……!)

 

 リリーも思わずため息をつく。

 まあほとんどはイガリが、気絶から起こしてくれた時に話してくれた「都市伝説」をベースにした推測に過ぎない。

 

 リリーも、これが一から十まで的を得ているなどとは思っていない。

 だが、サーバールームで男がこぼした「世界をとれる」という言葉。エンジンをつけてまでサーバーを持ち出す作業。サーバーを破壊したサーペントテールの行動。

 男たちがこの都市伝説のような、何かを狙っていたのは確かなのだ。

 

(たぶん、あの三人も任務だったのよね)

 

 そして、リリーは三人にもそのように考えている。

 宝探しに来た、と三人は言っていた。

 そのわりには欲のようなものを感じず、さっさと壊せと言い放ったり諦めよく帰ったりしていたのだ。

 

(さて、依頼したのは……)

 

 ちらり、と隣の男を見る。下で忍ジンに取り付く作業員たちに、ノゴーは指示を出している。

 

(まさかね)

「しかしこいつはどうするよ。直すか、変えるか」

 

 その問題が合った。リリーとしても悩みどころである。諸事情あるとはいえ、正直なところ忍ジンのまま使い続けたい。しかし素人目にも、このジンが限界であるというのも見えてるのだ。

「直せる、のかしら?」

 

 それでも、この男は直すと言った。

 

「実際、ほぼ全とっかえだがね。使えるところは使う。前の姿のまま、いや、今のお前に合うようにした上で「直す」さ」

 

 リリーの瞳を見据え、ノゴーはそう言った。

 リリーも、ノゴーを見つめる。

 やがてノゴーは笑って、

 

「金は心配すんな、今回は礼にしてやる」

「じゃあ、お願いできるかしら」

「おう、任せとけ!」

 

 胸を張りドン、と胸をたたけば、鈍い音がガレージ中に響きわたった。

 ああそう、とノゴーは続けて

 

「修理中は代わりのジンをやろう。カスタムもしてやるよ。サーペントテールもカスタムでやり合ったんてんだろ。お前もいけるさ」

「ええ、でもサーペントテールとはもうこりごりよ。これからの時代、MSが下手な忍者は狩られるわ」

「その程度の忍者ならデブリに当たってしんじまえ」

「ジャンク屋じゃないんだから」

 

 二人して、笑う。

 

「ところでさ、すごく動くようになったんだけど、一体どんな整備したの?……まるで勝手に動いたみたい」

「ふん、ワシはこの道一筋50年。なめるなよ。そんなことがあるか」

「でも、そんな気がするのよね」

「そんなもん、お前の咄嗟の判断が反映されただけだろ。つまりはワシの整備のおかげだな!」

「そっか……」

 

 忍ジンを見下ろしながら、ため息をついた。

 着物の男との最後の瞬間、リリーはどう操作したのか、よくわかっていない。正拳突きを前にして、リリーは両手突きを選んだ。なかば投げやりの真っ向勝負。

 だがふたを開ければ、忍ジンの両手は薄着のジンの右腕を受け流し、ぴったりその胸元へとたたき込んでいた。

 『弾丸返し』というのも、見覚えがあったから言っただけのこと。

 

 サーぺントテールとデブリ海で戦ったときにも、勝手に動いたようなことがあった。

 

 記憶には無いが、おそらく男にジンで殴られた時も勝手に動いたのだろう。

 

 忍ジンを見る表情が苦虫でも噛むようなものになっていく。

 

「ああ、そうだ。それ」

 ノゴーがひょい、と大きな何かを投げてきた。

 慌てて両手でどうにか受けとった。四角い物体は硬く、忍者とてまだ小さいリリーにはそれなりに重い。どうも大きくのか、腕でようやく抱えられる。

 広い面には画面がある。トランク型のパソコンだ。

 

「これ、パソコン? なんでまた」

「追加の礼だ。持っていけ」

「……そう? ありがと」

「MSを使うときにはしっかり繋いでおけよ」

「わかったわよ」

 

 何か、腕の中のパソコンから電子音がなった気がした。

 

「……気のせいかしらね?」

 

 ふと、思い出したように天を見上げ、そしてパソコンを眺めた。

 

「よろしく、トビー?」

 

 さっきよりは、良い音が鳴った気がした。

 

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