Ginnの影忍 ─リリー・ザヴァリー 今日も往く─   作:山田風

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『世界樹』の妄執.二 ─龍頭蛇尾─

『──続いて─宇宙気象──特に危──のは変わらずL1宙域、世界樹周──地球圏への流出も始────ので近隣──を通行なされる艦船の方はご注意──さい。ここ数日強──太陽フレ──DSSDの観測によると小康──』

「ふーん、フレア治まったのね。よく聞こえるわ」

 

 ノイズがひどく電波の入りも悪いラジオを聞きながら、リリーは忍ジンでデブリの海を泳いでいた。

 電波的には劣悪も良いところ、こんな『辺境』になった場所までしっかり放送してくれるのはありがたいことだと、リリーは感謝の念を抱いていた。

 

 リリーは今、一人で行動している。一本角たち三人もそれぞれ別行動でこの世界樹跡に散っているのだ。

 いくら巨大な世界樹残骸といえど、広大なL1宙域を固まって探していても効率が悪いのはわかりきったこと。

 『人を隠すのは人のなか』ということでMSで運動性に優れたリリーと一本角はデブリの海を探している。

 メビウスのイガリと彩火はその外縁で宇宙空間を漁っている。なにか手がかりがあるのかも知れない。

 しかしそうやって散らばったものの、いまもって全く見当が付いてないのが現状ではあった。

 

「おおっと、危ない危ない」

 

 氾濫するデブリがリリーの行く手を阻む。

 忍ジンの頭を下げれば、頭上を配送用であろうトラックが通り過ぎていく。足を広げれば股の下を屋根がえぐれた豪邸が通っていった。

 体をくるりとひねれば鯨のごとく大きな口を開けたデブリに入り込み、小さな隙間を抜けて奥へと入っていく。そこが戦艦の倉庫だったのを見抜いて、コンテナを一つくすねた。

 

「おお……? このバリエーションは見たこと無いな」

 

 コンテナの中身を見ながらくるくる回るMAのジャンクと踊っていると、急に突き放すように飛び去った。寂しく残されたジャンクはあわれにも、折れたビルに横から押しつぶされ去っていってしまった。

 

 レーダーが反応を示した。頭上を見てみれば、ミストラルが漂っている。派手なマーキングからみて宇宙海賊のようなゴロツキと思われる。

 卵状の本体が大きく窪み、つぶれている。不幸にもジャンクにぶち当たってしまったのだろう。

 レーダーが反応したのは、機体が熱を持っていたのだ。最後までスラスタを吹かしていたらしい。

 運が悪い、としか言いようがない。

 そうやって漂うMAをいくつか見かけたが、その中にはナイフで串刺しにされているものもある。お宝争いは熾烈らしい。

 

「大変だな、こりゃ」

 

 リリーもため息をつく。

 

 

ーーーー

 

 

「うーん、とりあえず当たりね、これは」

 

 艦橋のジャンクの上で、リリーはコンテナの中身を漁っていた。忍ジンはその隣で艦橋にどっかりと腰掛けている。

 

「あー、ここまだ電気漏れてるのか。引火でもしたら危ないな」

 

 文句を言いながらも作業を続けていると、通りがかった作業ポッドが陽気に声をかけてきた。ジャンク屋組合のマークを額に据えたミストラルの改造機だ。

 

『よう、こんな所でそんなコンテナ抱えて、なんか良いもん入っていたかい?』

「たいしたものじゃないわよ。ほら、お裾分け」

『おっと悪いね、プラント産のレーションか! ガパオ味とな』

「おいしいよ」

 

 確認して、男も喜びの声を上げた。リリーの推しも聞かずコクピットに引き込んでは手をつけている。

 プラント産のレーションは栄養・味を兼ね備えており、人気が高い。豊富な味のバリエーションがあるが、その数は節操がないとも言われるほど幅広く無駄に豊富である。

 

 レーションをむさぼり歓喜の声を上げながら、ジャンク屋は言った。

 

『しかし、こんなジャンク嵐の中でよく休憩できるな、嬢ちゃん』

「ここなら傘になってくれるでしょう?」

 

 周りを見回しながら、リリーが答える。

 この艦橋ジャンクは、艦橋をのこして船体がそっくりめくれあがった奇妙な形をしている。まるで球のようになった船壁が艦橋を包み込んでいるのだ。これなら大きな壷のような形となり周囲からは守られる。頭上を気にするだけですむのだ。

 そう言いながらもせっせとジンにレーションを詰め込んでいくリリーにジャンク屋は苦笑した。

 

『あんたも宝探しのクチかい?』

 手を止め、ジャンク屋をみた。口振りからして、やはり宝探しに来た輩は多いらしい。

 

「ええ、そうね。その話、どうなの?」

『さあね、そんな話どこにでも転がってるよ』

 

 陽気だった様子から、気配は一変した。

 楽しむのでもあきれるでも無い、傍観するような声だった。

 

『それに、こんなに宝が溢れてるんだ。うれしくって涙が出ちゃうね』

 

 声の色も変わらず、なんともわかりにくい言葉だったが、リリーには何となく理解できた。

 

「あなたはジャンク屋ですものね。ここは宝の山でしょう?」

『ああ、ジャンク屋にとってデブリは金山よ』

「それもそうね」

 

 ようやく、明るい声となった。

 リリーの言葉に、ジャンク屋は誇らしそうに答えたのだった。

 

 

ーーーー

 

 

『気をつけろよ。ジャンクに当たらないのはジャンク屋だけだって昔から言われてるからなー』

「ええ、そちらもお気をつけて」

 

 駄菓子とジャンク屋組合のパンフレットを残して、ジャンク屋は去っていった。

 ジャンク屋と別れてからも、リリーはデブリを乗り越え進んでいた。

 

 

「ジャンク屋さんも手がかりになりそうなものは知らないみたいだしねぇ……」

 

 あのジャンク屋も、話がふいになったらしい。それでもめげずジャンク漁りを続けているのだからたいしたものだ。

 話の中で世界樹の住居衛星なるものも聞いたが、今回とは別物だ。

 

 それからときおり怪しい空間が見つかるものの、巨大デブリの姿はない。

 リリーにとって『金』になるものは、未だ見つからない。

 

「でも、良いものは何にも、無いわね……」

 

 頭上を緑が茂る丘がとおり、脇をMSとMAの残骸がもつれ合うように飛んでいく。その奥には赤い屋根の一軒家に戦艦の大砲が刺さって漂っているのも見えた。

 

 日常と戦場の痕跡が入り交じり、奇妙な空間を作りだしている。そのなかには時々、人の姿も見えた。大半が、生身の人間だ。

 連合の制服の男、赤子を抱きしめた母親らしき女性、幼い少年。ある人はもがき苦しみ、ある人は歩いてる最中に突然時間が止まったように固まっていた。

 誰もが落ち窪み虚ろな目を向け、力無く漂っている。

 拾われることもなく、ただ宇宙を流れていく。

 その顔がリリーを見るたび、何も無い真っ黒な眼孔が何かを訴えているように思えた。

 それは、その死体が訴えているのか、その眼孔を通してリリーが己の訴えを想起しているのか、リリーには見当も付かない。

「いやなものね、ホントに」

 

 無言の訴求が続くこの空間は、さすがのリリーといえども少々気が滅入っていた。

 

 

ーーーー

 

 

「むぅ……通信も届かないわね。これじゃ狼煙も見えないわよ」

 

 リリーは周囲を見回し、ついそんな言葉を漏らしてしまった。

 世界樹のデブリの海もずいぶん進んだが、その量は変わることはなく、むしろ壁となって厚くなっているとすら思えてくる。

 もはや周囲は、地をむき出しにした金属色だ。

 

「ジャンク屋には、金山ですむのかしらねぇ……」

 

 ジャンクをかき分けていくと、その隙間からひときわ大きなジャンクが見えた。

「おお、あれは……」

 

 顔を出してその姿を確認し、ため息をついた。

 

「これは違うか、逆じゃないの……」

 

 縦に裂けた幹のような形の巨大なデブリ。消失したものとは違うが、これも『世界樹』の一つだ。

 ここはL1中心、『世界樹』跡。まさしくここに、世界樹があったのだ。

 

「お、やってるやってる」

 

 視線の先では、世界樹のデブリに取り付いた作業船が残骸を解体している。

 船体に輝く三つのスパナのマーク。ジャンク屋だ。

 

「ううむ、ここには無いな。むしろ何でこっちは持っていかなかったのか」

 

 周囲を見ても手がかりはなく、リリーは肩を落とすしかない。

 再びジャンクの海に戻ろうとして、もう一度、世界樹の残骸をみた。

 みすぼらしく骨組みをむき出しにしてジャンクと化したそれは、まるで何事も無かったかのように悠然と漂っている。

 一部だけだというのに、そばの作業船と比べるとあまりに巨大だ。

 背後のジャンクの海には、MAも、MSも、戦艦も漂っている。

 

「なんで世界樹の残骸だったのかしらね……」

 

 

ーーーー

 

 

 ジャンクの海を潜っていく。

 一本角から連絡は未だない。あちらも手間取っているのだろう。

 

 根本ごと漂う巨大ビルの壁面を走り、突き刺さった戦艦を乗り越えた時だった。

 

「ッ!」

『!』

 

 まるでそこに鏡でも合ったように、ジンがいた。

 次の瞬間には、リリーは目前のジンと切り結んでいた。

 苦無とナイフがつばぜり合い、火花を散らす。

 押し合い、ナイフを握る青いジンと額を付き合わせるように寄り合う。青いジンは拳を突き出すが、リリーは忍ジンの手で受け止める。

 続けて出された蹴りを受け止めたところで、青いジンが急に目の前に迫った。その勢いのまま忍ジンの頭部をつかみ、頭を支点に倒立して忍ジンの背後へと回る。がら空きとなっている背中へナイフを振るが、忍ジンは振り向きざまに苦無で受け止めた。

 

「──ッ、まだァ!」

 

 リリーが青いジンのナイフを握る腕をつかもうとした瞬間、足のスラスタの加速を得た膝蹴りによって手をはじかれた。

 青のジンはそのまま手から着地し、腕の力で跳ねて姿勢を変えて立ち上がった。二機のジンは離れて向かい合う。

 にらみ合う形となってリリーは初めて、相手の姿を認識した。

 青と黒に塗り分けられた装甲は切り欠けられたり、外されていたりとかなりの軽量化が施されている。

 青のジンはナイフを正眼に構えている。隙は一分もなく、無闇に逃げようものならその一瞬で首をかっさばかれてしまうだろう。攻めていくしかないのたが、肝心の道筋が見えてこない。

 

「攻めるしか無いのか……!」

 

 構えたナイフに隠れてちらりと、胸元に何かマークがあるのがみえた。

 

 その時、リリーは頭上に気配を感じとった。青いジンも気配を感じたのか、意識が上に向いていた。

 

 今────!

 微かな隙。それを逃さず、リリーは一歩を踏み出し、同時に苦無を投げていた。

 最初の僅かな挙動で、青のジンはすでにリリーの動きに気づいている。

 対応するため、青いジンはうごいたが────

 

「お……?」

 

 突如として、青のジンは後ろへと飛び下がった。苦無もナイフでたやすく打ち払う。

 青のジンはそのまま影へと姿を消した。

 追いかけてみれば、その姿はどこにもなく。デブリの中へと姿を消してしまった。

 

「おい、無事か?」

 

 頭上から声をかけてきたのは、一本角。

 あの青のジンは一本角が来たことから、無勢と判断したのだろう。

 

『あいつはなんだい?』

「さあね、でも強いわよ、あいつ」

 

 リリーは確かに見ていた。

 その胸に刻まれた、稲妻のごとき青い蛇のマーク。

 それはまさしく。

「サーペントテール……!」

 

 噂に聞いたことがある。売り出し中、近年最注目の傭兵チーム。

 

「任務に失敗無し、だったか。たしかに強いぞ……!」

 

 ジンの動きは忍者カスタムが施されている分だけリリーが速かった。しかしスラスタを含めた全体の戦闘機動となると、サーペントテールのパイロットの方が上だろう。

 リリーの動きはスラスタも用いるものの、ほとんど人体の動きを操作と稼働のラグ無く行っているだけにすぎない。

 それに比べたらあのパイロットは劣る普通のジンでありながら、リリーと対等どころかその喉元に刃を突きつけたのだ。

 やがてあのパイロットが忍者MSなり、それほどの反応速度を持つMSを使ったとなると、同じように対抗できる自信はリリーには無い。

 それほどに強いパイロットだった。

 

「それに……」

 

 リリーは己の手と、操縦桿を見た。確かめるように手を握り、操縦桿をなでる。

 

(背後の回り込みの時の動き……私、動かした?)

 

 青いジンに背中をとられてからの反撃に、リリーは疑問を抱いていた。自分が動かしていたようには思えなかったのだ。

 小首を傾げ、操作画面を突っつく。しかし、なにも起こらず、怪しい所も無い。

 

「気のせいかしら……ね」

 

 ひとまず、疑問を持つのはそこまでとした。

 一本角がリリーを見つめ佇んでいる

 

「何か手がかり、見つけたの?」

『イガリがやってくれたそうだ』

 

 口調に、すこしばかり喜びと興奮の色が見える。

 その言葉にリリーは気を切り替え、デブリと飛び去った。

 

 後ろは、気にしなかった。

 

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