ツィツィヤックゥ!!
「うおっ……風つよっ……」
「レイヴンくん! 上からくるよ!」
「ちょっ……おわっ!?」
真上から降ってくる、丸い影。大きなボールのような、肉団子のような。けれどふわふわもふもふに膨らんでいて、なんだか毛玉やぬいぐるみのようにも見える。
俺より何倍も大きなそれは、一直線に俺をめがけて落ちてきた。大剣も放りだして、慌てて横に転がっちゃうくらいの迫力で。
ドスン。
なんて音が背後から響く。このもっふもふな飛竜──パオウルムーの落下攻撃。もふもふした首回りを、まるで風船のように膨らませた必殺技だ。もふもふふわふわでとても可愛いけれど、その愛苦しい見た目に騙されてはいけない。あの攻撃は、見た目以上に痛いのだ。
「あんなの喰らうなんて、冗談じゃないや……」
「大丈夫? 漂うように動くから、予測し辛いよね……気をつけて」
大きな狩猟笛を振り回しながら、キリンシリーズに身を包んだ少女──に見える男の子、カナリアは俺を庇うように立つ。
「さぁ、演奏するよ! ウルムーちゃんに注意するのも大事だけど、もう一人いることを忘れないでね」
「あぁ、分かってる。頼りにしてますよ、先輩!」
そう声をかけた先には、悠然と佇む一つの影。
紫色の体色に、大きく発達した頭の触覚。ガタイの良い、鳥竜種骨格。
この陸珊瑚の大地に住まう鳥竜。通称、ツィツィヤック。
「キュアッ!」
俺は彼のことを、敬愛を込めて「ツィツィヤック先輩」と呼んでいる。その理由は、彼の素晴らしい特技にある────
「レイヴンくん、来るよ! 目を塞いで!」
「おう! さぁ先輩、やっちまってください!」
浮遊するパオウルムーを見定めて、先輩は小さく唸った。そのまま、頭部の触覚を大きく展開。青い光を、雷光虫のように瞬かせる。
それが直後、弾け飛んだ。
「フィイッ!?」
そんな奇妙な声を上がって、それに続くように何かが大地に転がり落ちて。
目をそっと開けてみれば、大地で唸る薄桃色。パオウルムーが、地面に落ちてはもがいていた。
「よしっ、落ちたね!」
「よっしゃチャンス! 流石先輩!」
「さぁ、いくよーっ!」
「俺も──ってあれ!? 大剣!」
背中に手を伸ばすけれど、大剣がない。そうだ、さっき避けた時に手放しちゃったんだった。
カナが連音攻撃を仕掛ける傍ら、俺は慌てて後方へダッシュ。先程落とした大剣をなんとか拾い上げる。
そこから振り向けば、パオウルムーはその身を起こしていた。そうして、再び飛び上がろうと息を吸い始める────
「やべっ……もう飛ぶの!?」
「レイヴンくん、危ない! 目閉じて!」
「へっ────あっ!?」
素早く離脱して、その目を腕で覆うカナ。
失敗した、なんて思ったのも束の間。まるで眼球をランスで貫かれるような痛みが走る。目の奥が、真っ白に染まった。
「あああぁぁ!! 目がァ、目があああぁぁぁァァ!!」
パオウルムーの悲鳴と、俺の絶叫。
それが陸珊瑚の谷の奥まで響いていたと、後ほど会ったテトルーから聞かされたよ。
◆ ◆ ◆
「レイヴンくん……大丈夫?」
「あー……ようやく目が治ってきた……」
パオウルムーを叩き伏せたカナに肩を貸され、俺はなんとか起き上がる。ようやく目が治ってきたようで、ぼんやりとしながらもカナの姿を見ることが出来た。
「おつかれさま。パオウルムー、無事討伐だよ」
「……ほとんどカナにやってもらったような気がするけど……」
工房のおっさんに、突然パオウルムーを倒してみせろという理不尽な依頼を叩き付けられ、俺はカナのいる陸珊瑚の大地へと旅立った。
折角だから、この大地で上手く狩りをする秘訣を、必殺の手段を試してみようと。先日推薦組の大食い編纂者から教えてもらったその方法を、試してみようと。
そんな思いでやってきたけれど、結局この体たらくだ。ほんとに、カナには頭が上がらない。
「……必殺の手段、どうだった?」
「……自爆した」
彼女の言う必殺の手段。それは、ツィツィヤック先輩と行動を共にすること。
ツィツィヤックは、頭部に発光器官を有する好戦的なモンスターである。食事のためのラフィノスを、そして気に入らない飛竜をも容赦なく叩き落とすその閃光。それが、彼の武器だった。
そんな彼の力を借りて、パオウルムーを叩き落とす。頑張ってやってはみたけれど──結果はこれだ。むしろ、俺まで閃光に当てられる。
「最高にかっこ悪い瞬間だったわ」
「あはは……まぁ、こういう時もあるって」
「陸珊瑚、これで俺も安泰だと思ったんだけどなぁ……そもそも地形理解が出来てなさすぎてダメだぁ」
「そればっかしは慣れだからね……逐一探索手帳にメモとか取ったら?」
「俺がそういうタイプに見える?」
「ごめん見えない」
古代樹の森と大蟻塚の荒地は、アステラと隣接する身近な猟区だ。だから、ある程度の開拓が進んでいるために、俺もそこまで情報に苦労しなかった。
けれど、この陸珊瑚の大地は最近発見された猟区である。俺も知らないことばっかりだ。道に迷うことも多々あるし。
「……ま、まぁこれで依頼達成でしょ? おめでとう」
「ほとんどカナのおかげだから、報酬金はカナが多く持ってっていいよ……」
「いいよぉ、平等で。ボクはレイヴンくんの助けになれれば、それで満足だから」
そう言って、にこっと微笑むカナ。ほんと可愛い。ほんとずるい。
「それに、工房のおじさん、なにか話があるみたいだったんでしょ?」
「え、あぁ、うん。なんか、討伐出来たら来いって。よく分かんないんだけど、面白い話があるんだって」
「へぇ……なんだろ? 新製品でも開発したのかなぁ?」
「なるべく旨い話だといいよね」
地面に転がった大剣を背に戻して、ぐっと背を伸ばす。とりあえず背伸びしつつ、周囲を見渡した。
──警戒するようにこっちを見ているツィツィヤック先輩。彼の金色の瞳と、目が合った。
「……先輩、おつかれさまでーす!」
こんなに狩りに協力してくれたのだから。一時的とはいえタッグを組んだ俺たちなのだから。
嬉しさを分かち合おうと腕を掲げて、先輩にハイタッチを求める。イエーイと、右手を彼に向けて──
「ギャゥアッ!」
「へぶっ!」
「レイヴンくん!?」
いらんわ。そう言わんばかりに、先輩に後足で蹴り飛ばされてしまった。
やだ、先輩気難しい。
◆ ◆ ◆
「…………」
一方で、そんな狩りの様子を遠くから眺めていた影が一つあった。
薄茶色の髪を緩く編んで、左肩へと流した少女。レイヴンのペアであるはずの編纂者──フレイだ。
「……なによあのへっぴり腰……」
レイヴンといえばろくに剣を振ることもなく、閃光に翻弄されていた。その不甲斐無さを前に、彼女は呆れたように額に手を当てる。
そうして、両手で頬を軽くはたいて。気を引き締めるように、両目をぎゅっと瞑った。
「やっぱり、私がしっかりやらなくちゃ……!」
そのまま、懐から探索手帳を取り出して。もう片方の手に収まった羽ペンをしっかりと握り締めて。
そのまま彼女は、陸珊瑚の奥地へと踏み出す。慣れない足取りで躓きながらも、彼女は陸珊瑚の中に溶けていった。
フレイさん謎の行動の巻。
ツィツィヤック先輩ほんと頼りになる好き。ほんとお世話になります。とはいっても、最近全然フィールドに入ってきてくれないんですけどね。大体、あのウンコヤローがうろついてます。はいはいこやしこやし。
閲覧有り難うございました!