МHWの弓すき。
古代樹の太い枝を駆け下りる。
もはや滑らかな坂と化したそれを下り、信号が撃ち出されたポイントへと駆け付けた。
小さな木々に覆われた、古代樹の森の底。シンリンシソチョウが多く生息する、エリア5の奥。
そこには、白い体毛を湛えたモンスターがいた。四足歩行する鋭い鉤爪に、蛇のような形をした頭部。そして何より、身体の半分ほどもある大きくてふわふわな尻尾。
この新大陸に生息する固有の牙竜種──トビカガチだ。
「救援ですっ、助けに来ましたよ!」
滑り降りた勢いをそのままに、俺は背中の大剣を振り抜いた。弧を描いたそれに左手を添えて、切っ先をまっすぐ大地に向ける。まさに垂直なその斬撃は、真上からトビカガチの鱗を斬り裂いた。
「あっ……有り難うございます……」
ボロボロな様子で、それでも安堵したように。
目の前の少女は、そんなか細い声を上げた。
束ねられた紫の髪は、まさにアメジスト。あどけなさを残す顔立ちで、俺をじっと見上げている。
流通エリアで買い物したり、食事エリアで談笑したり。そんな気ままな様子から、アステラ内では『マイペースなハンター』と呼ばれている少女。それが、救難信号を撃った主だった。
「俺が来たからには、もう大丈──おわっ!?」
空中からの下突きで、鱗を抉ったというのにトビカガチは軽く怯むだけ。それどころか、俺に向けてその牙を振るってくる。
おっとっと──こうなったら、しがみつく!
「ギャゥッ!?」
素早く大剣を背後に回して、空いた両手を大きく広げて。
トビカガチのふわふわとした体に全身を擦り付けながら、とにかく振り落とされないように踏ん張った。
一方のトビカガチ、とても機敏。ぴょんぴょんと跳ね回っては、俺を振り落とそうと奮戦する。上下運動が激しくて、なんかもう、なんかもう────
「おぇ……吐きそ……」
先程食べたご飯が、胃袋の中で暴れ回っている。俺を出せ、外に出せと言わんばかりに暴れ回っていらっしゃる。
あっ、ダメだ。やばいこれあかんこれ。吐く? ねぇ俺、このままじゃ吐く?
「踏ん張ってください、援護しますっ!」
そんな掛け声が響いたかと思いきや、カガチの頭を鋭く射抜く、数本の矢。あのマイペースなハンターちゃんが、弦を引き絞ってさらなる弾幕を張ろうとしている。
「あぁっ!! めっちゃ助かる……!」
思わぬ方向からの射撃に、トビカガチはか細い悲鳴を上げた。
痛みに怯み、ふらつくように足元をもつれさして。ようやく収まった上下運動に安堵しながら、俺は奴の頭の上で剣を抜く。俺の体と同じくらい大きなその剣を、天へと掲げるように振り上げて。
一撃。叩き込んだそれを頭蓋の奥まで擦り付ける。そうしてそのまま振り抜いた。この小さな頭を弾き飛ばすかのように、渾身の力を込めて振り抜いた。
その衝撃にカガチは悲鳴を上げて、ついには倒れ伏す。俺はあえなく撥ね飛ばされるけど、隙間を埋めるようにマイペースなハンターちゃんは前へ出た。
「たぁっ!」
滑り込むようなステップ。からの数本の矢を弾き飛ばし、さらにそこから全力の追加射撃。剛射と呼ばれるその技で、彼の頭を激しく穿つ。
さぁ、隙を作るだけじゃダメだ。この子の助けになるように、俺も頑張らないと。
「──よっと」
抜刀した大剣を、そのまま腰に携えるように持って。大地に刃が擦れ、激しく火花を散らすそれを加速させる。未だ地面の上でもがく奴の元まで駆け寄って、その大きな尻尾に向けて振り上げた。
おっ、柔らかい。なんだこいつ、尻尾が凄く柔らかいぞ。
「うらっ!」
斬り上げた大剣を宙で返し、刃を下へと反転させる。そうして、そのまま溜め斬りへ移行。全身の力を込めて、その大剣の重みを重ねていく。
「せいっ!」
柔軟にくねくねと曲がるその尻尾は、どうやらとても柔らかいみたいだ。この大剣が瞬時に吸い込まれ、大きな血飛沫が上がる。肉を奥まで断つことが出来たと、そう実感させる感触が手に伝わってきた。
よっしゃよっしゃ。このまま、強溜め斬りだ。この柔らかいとこに渾身の一撃を叩き込んでやる────
「キュゥアアァァッ!」
その瞬間、トビカガチは吠えた。転がるように身を起こしては、怒りを灯した咆哮を放つ。それに思わず、俺は体勢を崩してしまった。
「ひゃっ!」
「うわぁうるさ……っ!」
目を血走らせて、俺らを忌々しそうにぎょろりと睨んで。
そのまま、間髪入れずに小さな唸り声を上げる。それに伴って背中の体毛はパチパチと揺れ、白い光を瞬かせた。
「あ……?」
一瞬の光。かと思ったら、トビカガチの姿が消えた。忽然と、消えてしまった。
「どこに────」
「上ですっ!」
「えっ──はぁっ!?」
俺の頭上で、球のように回転する白い影。あの一瞬で宙に跳ね上がったらしいトビカガチは、その大きな尻尾を勢いよく俺に叩き付けてきたのだった。
「っとぉ!」
回避は間に合わないけど、せめて、せめてガードだけでも!
「──はっ? えっちょっ……あばばばばば!!」
盾にした大剣から、柄にからまってきた体毛から、突然激しい痛みが伝わってくる。
なにこれ、なにこれ。痛いっていうか痺れるっていうか麻痺するっていうか。
──え? これ、電気?
「だ、大丈夫ですか!?」
思わず吹っ飛んでしまった俺のところへ、マイペースなハンターちゃんは駆け寄ってきた。それも、クイックショットでトビカガチを牽制しながら。
「いてて、アイツ電気なんか使うんか! 電気の牙竜種、ねぇ。金ぴかのあの子思い出すなぁ」
「立てますか!? 次が来ます!」
「うん、大丈夫! ありがと!」
彼女が散布してくれた粉塵が、呼吸を通して俺の中に入ってくる。そこに含まれた麻酔のおかげか、少し体が軽くなったような気がした。何より、可愛い女の子が振り撒いてくれてるんだ。それだけでなんだか元気が出るような気がする。
一通り矢を射った彼女は、弓を仕舞いつつも使える矢の回収作業へと移行。一方のトビカガチは、今度は背後の木へと大きくジャンプした。
「……? 木に、掴まった?」
「あれ、空中から回転してきます! 気をつけて!」
「あっ、なんかあんな動きする生き物見たことある……」
両手を広げたトビカガチ。その姿は、まさに木から木へ飛び移るあの環境生物みたいだ。シンリンシソチョウじゃなくて、ミチビキウサギの耳がないみたいな奴。あれより、何十倍も大きいけれど。
「君は決め手を放つ準備をして! あいつの攻撃は、俺がなんとかするから!」
「えっ、でも、あれ防いだらまた感電しますよ……!」
「大丈夫。今度は斬るよ」
毛と毛が擦れ合って、静電気を生み出して。
そんなこんなで溢れ出た白い光を、大きく薙ぎ払いながら奴は急襲する。
だから俺は、その柔らかい尻尾に向けて。上半身を引きながら、剣を弦でも引くように背後に構えて。
タイミングを合わせるように、強溜め斬りの構えをとった。
舞う体毛。
弾ける大気。
眼前を薙ぐ、巨大な尾。
「──そこっ!」
吸い上げた息を一瞬止めて、ただひたすらに背後の剣を振り下ろす。
瞬間、巨体が体勢を崩して落下する。大きく抉れた尻尾から、赤い軌跡を描くように。トビカガチは、悲鳴を上げて横転した。
「今だ!」
「はいっ!」
掛け声と共に響く、何かが擦れるような音。矢じりについた仕掛けが、摩擦によって高熱を帯びる音。
竜の一矢と呼ばれるその技を、少女は勇ましく撃ち放つ。地面に擦らせてから、全力で弦を引き絞るその姿。なんだかとてもかっこいい。
「とどめっ!」
古代樹の森を赤く染めるその一閃。
トビカガチの弱々しい声が、最後に木霊した。
◆ ◆ ◆
「いやぁ、有り難うございました。助かりましたぁ……」
ぱたんと腰を落として、彼女は気の抜けた声を漏らす。そのマイペースな様子を見ていると、俺もなんだか腰を下ろしたくなってきちゃった。
「助けになれたのなら、なによりだよ。……えーっと」
「あっ、私『マイ』っていいます。みんなからはよく、マイペースなハンターって呼ばれてますけど」
「マイ……マイちゃんね。うん、よろしく。おれは──」
「レイヴンさん、ですよね?」
「そうそうレイ……って、え? なんで俺の名前知ってるの?」
意気揚々と自己紹介をしようとしたら、なぜか先に名前を言われてしまった。
え、なんで? なんでこの子は俺の名前を知ってるんだろ。
──もしかして、俺のファンとか? うわぁそんなの照れちゃうなぁ参ったなぁ。
「レイヴンさん、有名ですよ。先日の熔山龍戦で海にダイブしたハンターってことで」
「…………」
屈託のない笑顔が、トビカガチの光より眩しいなって思った。
でもそれはそれとして、俺の名前を知ってる理由って──
よりにもよって、それかよぉ!!
最近熔山龍戦で海へダイブできるの知りました。
トビカガチ可愛いですよね。もふもふで蛇顔で体柔らかくてきゃーきゃー泣いてるのめっちゃ可愛いですよね。何よりあの歩き方! 如何にも獣って感じでいい。ムササビみたいに滑空するのも可愛い。可愛いオブザ可愛い!
閲覧有り難うございました~。
あ、あとマイペースな五期団ちゃん描きました( ・`ω・´)
【挿絵表示】