ブレイヴ×スクランブル   作:しばじゃが

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 相棒の受付嬢ちゃんの名前知りたい。




地獄の日々のはじまりです。

「うへへ……パン……」

 

 目の前に、パンがある。

 市街地に出向いて、盛況している出店街に転がり込んで。そうして人ごみに紛れながら、人目を盗みながら、そっと持ち出してきた一本のパン。長くて太い、立派なパンだ。

 

「三日ぶりの飯、三日ぶりの飯!!」

 

 お腹が空いた。お腹が空いてたまらない。ずっと腹がぎゅるぎゅる言っている。俺の中に何かを入れろと、ずっと唸っていらっしゃる。

 食べよう。バターとかチーズとか、味になるものは全くないけれど。もう四の五の言ってられない。お腹が空いてたまらない!

 

「あーん──」

「おいおい、レイヴンよォ……なに一人占めしようとしてんだァ?」

「……うげ、兄貴……」

 

 そこに水を差してきた声。俺たち浮浪児のグループの、兄貴分の声だった。

 

「お前随分と盗み上手くなったなァ。是非とも、こいつに教えてやってくれ」

「えー……ガキのお守りなんて、やりたくないんですけど」

 

 そいつが指差した先には、がきんちょが一人。

 俺より二つか三つは年下だろう。ぼさぼさの黒い髪を後ろでまとめた、覇気のない顔のがきんちょだ。

 

「そいつなに? 新入りですか?」

「このスラムに捨てられてたガキさァ。お前ちょうどいい教育係じゃん、やれよ」

「いーやーだ、ぜーったいいや」

 

 断固として拒否。伸ばしてきた手も叩き落として、手にもったパンを死守する。

 それに、彼はやれやれとため息を吐いて。

 

「じゃあ、こいつの相手でもするかァ?」

「こいつ……?」

 

 兄貴分が差した親指の先から、ぬっと現れる影。

 とても大柄で、とてもフローラルな感じがした。この世のものとは思えないくらいメイクの濃いおっさんが、立っている。

 

「はぁ~い、メェリオよぉ~ん!」

 

 そこには、この街を囲う壁の外にしかいないはずの、『モンスター』がいた。

 

「うっ……うわああああああ────

 

 

 

 ────あああああああぁぁぁっ!!」

 

 飛び起きる俺。一等マイハウスの壁が揺れる。安いベッドが、ギシギシと音を立てた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 ──夢?

 今の、夢だった?

 

「……あぁー……なんだあの夢。昔の夢……?」

 

 随分と懐かしい顔を見たような気がする。

 まだ俺もがきんちょで、好き勝手に生きてた頃だ。もう十年は軽く越えるくらい前のこと。うん、それくらい昔の夢だ。

 

「……なのに、なぜメェリオ……」

 

 唐突に現れたメェリオに、俺は思わず絶叫したみたいだった。いやまぁ、しょうがないと思う。どう見たってあれはモンスターだ。

 頭が痛い。昨日酒場に連れ込まれて、何時間も共に過ごさせられたのが相当堪えているのかもしれない。何が哀しくて、あんなどぎついおっさんと酒を飲まねばならんのだ。

 

「はぁ……朝から憂鬱だ」

 

 ベッドから起きて、とにかく朝日を浴びよう。

 相変わらずの滝の音に辟易としながらも、とにかく俺はベッドの縁へと腰かけた。

 そうして目に映る、壁をくり抜いたような窓。朝日をバックにこちらを見守る、メェリオの姿。

 

「…………」

「ムフ」

 

 あー、夢か。

 

「……寝ぼけてるのかな、俺」

「おはよう、レイヴンちゃん」

「まだ寝てるんだな俺、起きなきゃ」

「随分大きな寝言だったわねぇ。アタシ、夢に出たのぉ?」

「…………」

 

 夢じゃ、ない。

 くり抜いた壁と、そこに並べたプランター。そこに、まるで自分も花だと言いたげに立っているメェリオ。よくここに止まってくれるトウゲンチョウを押し退けて、自分こそが鳥だと言いたげに俺を見つめているメェリオ。

 夢であってほしいと、どれだけ心から願ったか。

 

「……あんた、なんでいるんすか」

「一時的とはいえ、アタシがアナタのペアなのよ。だったら、朝起こしにいくのが礼儀じゃない」

「そんな礼儀聞いたことない!! 第一そうだったとしても、フレイはそんなことしてくれたことない!!」

「あら、そうだったの……でも大丈夫。これから毎朝、アタシが起こしにきてあげるから」

「いらねえええぇぇぇ!!」

 

 鍵付きのマイハウスに引っ越そう。

 そう、心に誓った朝でした。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「レイヴンちゃん、魚とお肉どっちがいい?」

「どっちもいらん」

「じゃあ……ご飯かお風呂どっちにする?」

「いらないって」

「あら、じゃあもしかして、アタシ?」

「は?」

「まぁ、アタシだなんて! もうまだお昼よ大胆ねぇ!」

「……マジで誰か助けてくれ」

 

 マイハウスが出て、食事場へと赴く俺。そこに付きまとってくる、むさ苦しいこの男。

 彼──メェリオは、アステラの流通エリアで働いている男性だ。元『王立古生物書士隊』の職員でもあり、さらに彼自身ハンターでもあったために、以前からフレイと交流があったらしい。そのよしみで、一時期的に俺専属の編纂者として俺のまわりで奇声を上げている。マジで勘弁してくれ。

 

「飯はここで食うからいい。あんたはなんかクエストの整理とかしてて。あとアプトノス一匹分くらい離れてくれない?」

「あら、クエストいくの?」

「まぁ……働かないと。金ないし、それに……」

 

 フレイに呆れられてメェリオをあてがわれたのなら、とにかく今は真面目に働かないと。早くフレイに戻ってきてほしいし。

 

「寂しいわねぇ。なるべく怪我しないようにしてね」

「うっせ、いいだろそんなの」

「お姉さん心配しちゃうわ」

「だああぁぁ! いいよそういうノリはもう!」

 

 食事場で適当なテーブルに腰かけて。そして適当な食事を注文しつつ、隣に座ったメェリオからクエストリストを見せてもらう。

 急を要するクエストは特になく、調査のために貢献してほしいというフリーなクエストだった。緊急性も重要性も薄い、逆に言えばリターンもそこまで大きくないクエストだ。

 

「……うげ、陸珊瑚の大地ばっかじゃん」

「熔山龍の誘導作戦も終わったからねぇ……ようやく大渓谷の向こうの調査を大々的に行えるようになったんだもの。しょうがないわ」

「俺あそこ苦手なんだよなぁ、戦いにくいし」

 

 カナには悪いけれど、俺は少し陸珊瑚が苦手だ。綺麗は綺麗なんだけど、地面が安定しないしシャムオスは多いし。何より起伏が激しくて、登るのも億劫になる。まぁ、慣れてないっていうのもあるんだろうけど。

 なんて考えながら頬杖をついていると、横からリンゴが転がってきた。真っ赤な色に染まった、とても美味しそうなリンゴが。

 

「……? リンゴ?」

「ふあっ、ふいまふぇん!」

 

 それを拾うと、横から慌てた声が響く。たくさんものが口に詰まった、もごもごとした声が。

 

「ふっはりひんごをころがいてひまいまひたっ、ほめんははい!」

「えっ、ちょっ、なんて?」

 

 その言葉の主は、もぐもぐと必死に口を動かして。それからごくんと、清々しい音と共にそれらを呑み込んだ。

 

「……ごほん、申し遅れました。私、推薦組の編纂者です!」

「……あらアナタ、もしかして空から来たハンターの?」

「はいっ、相棒と共に、飛んでここまでやってきた者ですっ!」

 

 可愛らしい笑顔でそう言う彼女は、俺ら五期団の代表格の編纂者。あの空から来たハンターの相棒さんだった。面と向かって喋るのは初めてかもしれない。

 

「リンゴ、ごめんなさい。うっかり転がしてしまいました」

「あぁ、いいっていいって。はい」

「これもなにかの縁ですし、よかったらどうぞ! はい、そちらの大きいお兄さんにも」

「お姉さんよ、失礼しちゃうわ。でも、ありがと」

 

 なんだかよく分からないままにリンゴを手渡される。貰ってしまっていいのかなって思うけれど、まぁ貰ってしまったからには食べてしまおうか。

 しゃりっと、張りの良い音がした。

 

「聞いてるわよ、アナタの相棒の名声は。大活躍みたいね」

「あはは。相棒、凄いですもんね」

「凄いなんてものじゃないわよ。この新大陸の調査の貢献度、あの人がぶっちぎりのナンバーワンなんだから。もちろん、アナタもね」

「え?」

「ゾラ・マグダラオスの誘導作戦、見事だったわ。アナタたちのペア、ほんっとに最高」

「こ、光栄です……」

 

 照れ照れと頭を掻く彼女の様子をぼーっと見ながら、俺は黙々とリンゴをかじる。

 へー、あの誘導作戦、この子が提案したんだ。全然知らなかった。結局あの時の俺は、海にダイブしただけだしなぁ。ここは黙っとこう。うん、リンゴ噛み応えあって美味しい。

 

「その相棒さんは今どうしてるの?」

「何やら大団長とお話中です。アステラの高台の方に行ってます」

「あら、大団長にも注目されてる訳? ほんと、すっごいわぁ。ほらレイヴン、アンタも負けてられないわね」

「うっせ」

 

 唐突に話題を振られて、うっかり唇を噛んでしまった。あっ、果汁が染みる。心なしかリンゴも酸味っぽくなってきたような気がする。

 

「レイヴン……さん?」

「はい?」

 

 すると突然、編纂者さんが俺に話題を振ってきた。なんだろう。

 

「陸珊瑚の大地、苦手なんですか?」

「……あ、話聞かれちゃいました? 恥ずかしながら、慣れなくて……」

「……だったら、どうでしょう。あそこ、探索する上でとても有効な手段があるんですよ」

「え?」

「今私すっごく欲しいものあるんですけど、それを取ってきてくれたのなら……その手段を、伝授しますよ!」

 

 思いがけない、彼女からのお話。

 美味しいような、美味しくないような。なんとも言えないにおいがした。

 






 マイハンターさんマジで有能。


 ぶっちゃけこの人さえいれば良くない?まである。本当にこの人は英雄クラスですよねぇ。マイハンターは、もちろん読者さんそれぞれのハンターを思い浮かべていただければと思います。逆に言うと、ほのめかして作中に直接出てくることはないですが(´・ω・`)
 ここの世界観では、熔山龍の誘導が終わり、マイハンターさんが龍結晶の地に辿り着く前あたりをイメージして書いてます。錬金クソバ……おばあちゃんがアステラに来るタイミングって、いつだったかあんまり覚えてないですけれど。でもそれくらいをイメージしてやってます~。
 長々とあとがきして失礼。閲覧有り難うございました!

 それとかにかまさんからフレイのイラストいただきました! 強気な表情が最高。Σb( `・ω・´)グッ

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