クルルヤックゥ!!
「おっ……このっ!」
「クヤアアァッ!」
跳躍。からの、跳びかかり。
とてもファンキーな頭をしたその鳥竜種は、柔軟な足腰を利用した大ジャンプをもって俺を叩き伏せようとした。それを慌てて回避しながら、背中の大剣を振り被る。
けれど、その剣閃が当たることはなく。奴は軽々と後ろへ跳ね、俺をからかうように尾を振った。
「……ムッカァ……こいついちいち腹立つな」
「レイヴンさん、どうどう」
なんだか、ドスランポスから鋭さを抜いて、うざさマシマシにしたような。そんな感じがするモンスターだ。クルルヤック、恐るべし。
「とにかく、レイヴンさんは回避に徹してください。あいつの攻撃は、私がします」
「うーん、むしゃくしゃするけれど……しょうがないや。お願いするよ、マイ」
大剣を背中のマグネットに収納して、一度地面に置いた卵を拾い上げる。そうして立ち上がる俺の前に、あのマイペースな少女──マイが立った。背中の弓を展開して、鋭い矢じりをクルルヤックに向ける。
一方の彼は、ぎょっと目を丸くしては首を何度も傾げた。どうしたの、とでも言ってるみたいだ。
「はっ、お前に卵はやらねぇよ! こいつは俺がいただくぜ!」
「クアッ、クヤアァッ!」
「お前は指でも咥えながら見てるんだな! って、爪しか咥えられないか。はっははは!」
「キョエアアァッ!」
言葉が通じてる──訳ではないみたいだけど。それでも挑発に乗ったかのように、奴は勢いよく駆け寄ってきた。そのまま、指先の鋭い爪を振るってくる。
「たぁっ!」
そんな彼の冠に走る、一筋の風。マイが引き絞った矢が、冠羽を数枚えぐった。
「ギュエッ!?」
「通しませんよ! さぁレイヴンさん、キャンプへゴーです!」
「よっしゃ、任された!」
それから猛ダッシュ。キャンプに向けて、荒い大地をとにかく走る。
「ギャアッギャアァッ!」
後ろから矢が飛び交う音がするというのに、クルルヤックの声は収まらない。どころか、俺と並走するかのようにぐんぐんその距離を詰めてくる。
「うわっ、はっや……!」
こいつ、そんなに卵が好きか。俺が抱えてる卵、そんなに美味しそうか!
でもやらん、やらんぞ! この卵はアステラに持ち帰らなきゃいかんのだ!
──いいですか? 私、今アプケロスの卵を凄く食べたいんです。
──あれでシンプルにゆでたまご、いや目玉焼き! それとも甘く、アステラカステラなんて? うーん、悩みます。とにもかくにも、貴方にはその卵を持ってきてもらいたいのです!
──持ってきた暁には、ここで卵パーティーしましょう。あと、とっておきの手段も伝授してあげますよ。
あの編纂者の言葉が頭に響く。大食いの推薦組の声が、咆哮のようにハウリングした。
早く、早く成果を上げてあのメェリオ熱烈アプローチ地獄から逃げ出したい。そのためにも、この卵は絶対に手放せないのだ!
「あっ……ごめんなさい、ミスっちゃいました」
「は? ────あっ!?」
やたらと弧を描いて、思わぬ方向へ飛んでいく数本の矢。それがツタに絡まるようにして生えたはじけクルミを撃ち落とす。
俺の目の前に落ちる、大量の実。衝撃に弾けて、発砲音のような音が響いた。
「おわっ……しまっ!」
驚きのあまり、うっかり放り投げてしまった卵。緩やかな弧を描いたそれは、すっぽりと、クルルヤックの腕の中に落ちる。
「クルルル……」
満足そうにそれを撫でては、どや顔で俺を見てくるクルルヤック。いや、奴からすれば普通の表情なのかもしれないけれど──俺から見れば、それはどう見てもどや顔だった。
「──くぉらぁっ! 返せ鳥野郎!」
「キョエアアーーッ!!」
けたたましい声を上げて逃げるクルルヤック。
卵を巡ったあいつとのレースは、日が沈むまで続く────
◆ ◆ ◆
「はい、出来ましたよ! 早速食べましょう!」
アステラの食事エリア。アイルーキッチンのアツアツ石板を利用して作られたスクランブルエッグ。きらめく黄金のかたまりを前に、俺の口の中は大洪水状態だ。なんか、思ったより美味しそう。
「おぉ……あの卵がこんな風になるなんて」
「苦労して奪取した甲斐がありましたね」
「……うん、苦労してダッシュした甲斐があったわ」
依頼人兼料理人は、五期団代表の相棒さん。そんな彼女が求めていた卵は今、スクランブルエッグとなっていた。
彼女主催の卵パーティー。参加者は功労者の俺と、マイだ。
「いやー、とってもいい卵ですねこれ。テンション上がってしまいました。シモフリトマトのケチャップにモスベーコン、キレアジの燻製もありますよ。お好みでどうぞー!」
「俺あんまりご飯はこだわらないんだけど……これは美味しそう。いっただきまーす」
「いやーなんか、私までもらっちゃっていいんですか?」
「もちろんです! お二人のおかげですから! さぁ、食べて食べて!」
相棒さんに言われるままに、マイはおずおずとスプーンを握る。それを横目に、俺はスクランブルエッグを自分の皿によそった。そうして、一口。まずは何もつけずに────
「おっ……おおぉっ!」
口に入って、すぐに分かるふわとろ感。そして広がる、卵の柔らかい香り。
何といっても、その食感だ。舌に乗ればすぐさま溶けて、唾液に絡んでいってしまう。口の中の温度だけで溶けてしまうんじゃないかって、そんな気さえしてしまう。ちょっと噛んでみれば、柔らかさとほどけやすさが同居した食感が広がってきて、なんかもう凄い幸福感だ。
卵の味も、なんだかとても温かい。しょっぱさよりは、甘いに近いのではないか。バターの旨みとか、ポポミルクのしっとりとした味わいとか、そういったものを全て卵黄の甘さで包み込んでしまったような味。
甘い。甘くて、旨い。
「……うま」
「んっ、おいひい! これ、すっごく美味しいです!」
「えへへ。良かったぁ。じゃ、私も早速。ケチャップつけよっと」
「あっ、いいな。俺も」
「わ、私も!」
ケチャップが入れば、また味が変わる。あの甘みと旨みの黄金比率とは一転、爽やかな酸味とトマトの味で口の中が一杯になった。
シモフリトマトといえば、まるで霜降り肉のようにとろける果肉が有名なトマトだ。それをケチャップ状に加工すれば、とにかく柔らかい舌触りへと変貌する。卵のふわとろ感とよくマッチするその噛み心地。酸味もほどよい刺激となって、旨さをさらに促進させた。
これ、オムライスなんかにしたらさぞかし美味しくなるんだろうなぁ。鳥竜ライスにシモフリケチャップ仕立て──なんて、心が躍る響きだ。
新大陸ではまだ大規模な稲作なんて出来ないから、お米はどうしても輸入品頼りになってしまう。それが歯痒いと思ってしまうほど、この卵は美味しいや。
「あっ、ベーコンで包んでみても美味しいですよ。お肉の脂が絡んで、味が二重三重にもなります」
「北国の人はキレアジの燻製と絡めたがるんですよねぇ。この何とも言えないしょっぱさが、またよく合う……っ!」
「……やばい。卵の深みにハマっちゃいそう」
とにかく、手が止まらない。
ただひたすらに卵を食べて、ただひたすらに味を組み合わせる。可能性は無限大だ。いくらでも、食べれてしまいそうだ!
────このクエストの報酬でもある、陸珊瑚の大地必勝法。それを伝授してもらうのも、翌日に延期になってしまうほど。それくらい、卵には魔力があるんだなぁって、ひしひしと感じたよ。
~本日のレシピ~
『アプケロス卵のスクランブルエッグ』
・アプケロスの卵 ……1個
・ポポミルク(輸入品) ……3瓶
・塩 ……50gほど
・幻獣バター(輸入品) ……75g
☆お好みでシモフリケチャップ、モスベーコンなどと合わせてどうぞ!
◆ ◆ ◆
「──で、どうするの?」
「……むむむ」
レイヴンたちが卵に舌鼓を打っているのと同時刻。
アステラの居住エリアにある酒場では、彼の編纂者である少女、フレイと、現在その代役を務めるメェリオの姿があった。
「結構勢いで言っちゃったんでしょ? アタシ、とりあえず追い込んで頑張らせてみてるけど……フレイもそろそろ許してあげたらどう?」
「許すっていうか……少しは態度を改めてほしいなぁって」
「……ほんとはそんなんじゃない癖に。アンタも素直じゃないわよねぇ」
「……ほっといて」
グラスに入った酒を一度に全て飲み込んで、気の抜けた呻き声を漏らすフレイ。顔は赤いながらも、困ったように目を伏せていた。
「アンタがはっきりしないと、ほんとにアタシが食っちゃうわよ」
「よく言うわ。アンタのタイプは自分よりマッチョな男でしょ」
「あら……そういえば言ってたかしら」
「前聞いたわよ……レイヴンはひ弱だから、その点は安心してるわ」
「そうだったかしらねぇ。ま、確かにあの子はタイプじゃないわ。可愛いけどね」
その一言に、フレイはむっと眉を歪ませるけれど。それ以上言及せずに、新たなドリンクを注文する。
「……ま、意地を張るのもいいけどさ。もう少しあの子の話を聞いてあげてもいいんじゃない」
「……聞いたって、そんなところで……」
「あの子、頑張ってるから。今凄く頑張ってるわ。陸珊瑚の大地、苦手なんですって」
「え……そうなの?」
「よく分からないから苦手、とかなんとか。だから、克服するために色々頑張ってるみたいよ」
「へぇ……」
「早く、アンタに戻ってきてほしいのよ、きっと」
「はっ、まっさかぁ……」
自嘲するようにフレイはそう笑い、メェリオはどうしたものかと口元を引き締める。仲を取り持つのも簡単じゃないと噛み締めながら、彼もまた新たなドリンクを注文した。
一方のフレイは。彼女といえば、表情にも声にも出さずに、ただ静かにある言葉を頭の中で反響させていた。
レイヴンは、陸珊瑚の大地が苦手。
────レイヴンは、陸珊瑚の大地が苦手らしい、と。
なんか違う小説入ってきました。
クルルヤックさん可愛い。別で連載しているモンハン小説で、クルルヤックとの卵の奪い合いを見てみたいという声をいただいたのですが、それを形にするのはその小説では難しくてですね。気付けば、こちらで書いてしまいました。ラグビーみたいに卵をパスする描写も面白そうでしたけど、中身がスクランブルエッグになりそうなので泣く泣く没。哀しいなぁ。
たまGO! たまGO! イェエエエエーーッ!!(閲覧有り難うございました)