違うな、大分違いますがお気になさらず。
晴れ渡る空、澄んだ空気、輝く太陽。
まるで今日と言う日を祝福しているようだと、海斗は言った。
学校へ向かう足取りは軽く、傍から見ても機嫌良いのは丸分かり。
なにせ今日は、四月八日。
鷲尾須美にして東郷美森の誕生日。
この一大イベントに浮つかない海斗は居ない。
一週間前から綿密に計画を立てて、今日と言う日を迎えた。
特大の誕生日ケーキは、春信に頼み放課後に間に合うように送ってもらう予定だ。
海斗が手間暇かけて作った特製ケーキ。
大赦に場所を借りてもらい、時間とお金を惜しみなく使った。
「ふ~んふ~んふ~ん♪」
スクールバックの中には二つの小箱が入っており、時々バックを開けては確認して微笑む。
慣れない人からしたら、流石に驚く光景だ。
現に、亜耶は若干引いていた。
「か、海斗先輩!おはようございまう」
「うん、おはよう」
亜耶が噛んだことも気にせず、学校まで何でもない話をする。
いつもなら隣に美森か友奈、園子辺りが居るのだが……
どうにも今日は居ないらしい、海斗曰く「俺の方から今日は一人で登校したい」と伝えたらしい。
亜耶は申し訳なさそうに顔を俯かせたが、海斗は気にしていないと笑った。
無垢な少女は思う。
今日のこの人は何かが可笑しいと……
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予定通り、盛大に誕生日会は行われた。
今の時代の銀も呼ぼうとしたが、如何せん少し不味い状況になりそうだったので呼ばず。
誕生日会終了後に、別の場所で祝う予定なのだ。
そして、誕生日会も終盤。
海斗が代表としてプレゼントを渡すことになっていた。
ここで送ったものは元の世界に持って帰ることは出来ないが、送ることに意味がある。
「二人にはこれ」
「ゆ、指輪!?」
「まぁ、綺麗ね」
パカッと開いた二つの小箱から、特に装飾はされていないシンプルな指輪が出てくる。
それを、須美→美森の順に嵌めていく。
嵌める場所は……左手の薬指。
「「ぴゅおーーー‼‼創作意欲が漲るーー‼‼」」
園子ズは相当にテンションが高く、今にも天元突破しそうな勢いだ。
須美に美森も、頬を赤く染めている。
だが、顔はまんざらでもなさそうで、照れているだけだろう。
意を決したのか、二人は少し内緒話をした後に海斗の方に向き直った。
まだ少し赤い顔のまま、二人は海斗に詰め寄っていく。
「海斗、少し屈んでちょうだい?」
「海斗…先輩、少し屈んで下さい」
「え?いいけど……」
海斗は一も二もなく、腰を曲げて少し屈んだ姿勢になる。
しかし、海斗が屈み終わった瞬間に、両頬に柔らかくて少し暖かい感触が当たった。
それが唇だと気付くまで、海斗は数秒の時を要して……。
理解した瞬間、興奮度や照れ度が限界地を突破して頭が真っ赤に染まった。
「へ……?ああぁぁぁあああーーー‼‼」
奇声をあげたと思ったら、そのまま後ろに倒れていった。
興奮度や照れ度が限界点を突破し、感情が制御できなくなったのだろう。
それを脳は危険と判断し、強制シャットダウンをかけた。
この後も、楽しく誕生日会は続けらていったが、海斗が起きることはなかったらしい。
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天の神から世界を取り戻して、早数年。
今日は美森の誕生日にして、二人の結婚式。
勿論、海斗と美森のだ。
今、海斗が居るのは控室。
落ち着きなくソワソワしている。
それを、長年の親友である陸斗が背中を叩いて止めさせた。
「おい、大丈夫か?滅茶苦茶緊張してるじゃねぇか」
「…違う、これは今すぐにでも化粧やらなんやらが終わった美森ちゃんの姿が視たくて震えてんだよ!」
「お、おう。何となく分かったよ」
「それに、お前だって梓との結婚式の時こんな感じだっただろう?」
「それもそうだな…、お互い何も言えない訳だ」
陸斗と喋りながら、海斗はその時を待った。
すると、控室の扉が叩かれ父である森雄が入ってくる。
「海斗、美森の準備が終わったぞ。見に来なさい」
「うん、今行く。陸斗はもう行っていいよ、付き合ってくれてありがとな」
「どういたしまして、先に式場で待ってる」
海斗は陸斗を送り出して、美森が居るであろう新婦側の控室に向かった。
緊張してるのだろうか、手汗が出てくる。
何とかタキシードを使わず、森雄からハンカチを借りて汗を拭く。
息を整えてから、思い切って扉を開けた。
そこに居たのは、勇者部の面々。
それと、化粧をしていたであろう場所で椅子に座っている美森。
白無垢かウエディングドレスかで相当揉めていたが、結局ウエディングドレスになった。
因みに、ウエディングドレスを提案したのは美森である。
「お~、海斗!中々良いじゃない!似合ってるわよ」
「そうですね、海斗さん。似合ってます」
「まぁまぁって所かしら?」
「良い感じだぞ海斗!」
「いいよかーくん!カッコいいよ!」
「うん、園ちゃんの言う通りカッコいいよ」
「ああ、ありがとう……」
みんなの言葉は聞こえているが、上手く頭に入って来ない。
何故なら、海斗の意識は美森に吸い寄せられていたからだ。
綺麗に流された濡羽色の髪、何もかもを吸い込むような翡翠色の目、潤いとハリのある赤い唇、最後に美しいドレス。
海斗が今まで見てきた美森の中で、歴代最高級に美しく愛らしい姿。
見惚れている、思考が上手く回らない程に。
「海斗?どうかしら?」
美森の言葉に、何か良い例えや言い回しを探そうとするが中々思い浮かばない。
悩む海斗の姿を見て、美森はクスリと笑った。
「別に深く考えなくていいわ。海斗の言葉で教えて欲しいの」
「俺の言葉?………俺からしたら、今の美森ちゃんは文句なしで世界で一番綺麗だと思う」
「今の私は?違うでしょ?」
揶揄うように言う美森に戸惑いながらも、海斗は迷うことなく言葉を重ねた。
「ごめん、訂正する。いつも、世界で一番綺麗だよ」
「ありがとう」
周りのことなど気にせず、二人は想いを伝えあう。
本当の想いを伝えるのは、少し気恥ずかしいし勇気が居るが。二人はとっくに持っている。
愛や絆と言う、勇気と変わらない程の大きなモノを。
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誓いの言葉。
「新郎海斗、あなたはここにいる新婦美森を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「誓います」
「新婦美森、あなたはここにいる新郎海斗を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「誓います」
「それでは、ベールを上げて誓いのキスを」
ゆっくりと、ベールを上げる。
少しづつ見えてくる愛おしい人の顔に、出そうになった涙を抑えながら顔を近づけていく海斗。
「やっと、叶ったねやくそく」
「そうね、私を日守美森にしてくれてありがとう♪」
そう言って笑顔で誓いの口づけをした。
今日と言う日は、二人の中で忘れられない思い出になることだろう。
愛する人と結ばれる、これほどの幸せ他にないのだから。
こうして、決して切れることのない縁が結ばれた。
二人がお互いを誰よりも愛しているからこそ、この縁は決して切れることはないし終わることはない。
何よりも固く、何よりも熱い。
これこそが、二人の愛だ。
次回もお楽しみに!
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