東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

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 お待たせです!


第一話「望みのない恋と知りながら」

 姉である美森が家を出た後、ようやく海斗も居間に現れる。

 

 

「おはよう、母さん」

 父はもう仕事に出たのだろうか、姿は見えず。居たのは専業主婦である、母だけだ。

 

 

「おはよう!もう柳橋君来てるわよ」

 

 

「分かったよ、菓子パン取ってくよ」

 そう言い残し居間を出る。玄関に着くと、母さんに入れて貰ったのか柳橋が寛いでいた。

 

 

「おはようさん、遅かったな。まーた東郷さんとケンカか?」

 

 

「違う、ただ勉強してただけ」

 朝から少しウザイのがご愛敬。

 

 

 柳橋 陸斗(やなぎはし りくと)、海斗や美森と同じ讃州中学の二年生。

 イケメンでおちゃらけたりしながらも、みんなを纏めるムードメーカーの様なやつだ。

 クラスの中心にいる奴なのだが、ある事をきっかけに親しくなった海斗の親友的存在。

 趣味は友達とのお喋りだと彼は言っている。

 

 

 海斗と陸斗は学校に軽く雑談をしながらゆっくり向かっていた。

 もちろん、遅刻をしない程度にだが。そんな時、海斗がある話を切り出した。

 

 

「なぁ、柳橋。大赦のことって、どう思ってる?」

 陸斗は質問にあまり迷う素振りも見せず、直ぐに返答した。

 

 

「う~ん、あんまり良くは思えないな。だって変な仮面付けてて、口調も何か変な感じするし。海斗だって大赦のこと嫌いだろ?」

 いかにもな理由だ。陸斗が言った通り、大赦に良い感情を抱いていない人多い。俺もその一人だ。

 

 

「まぁな、俺は大赦が嫌いだし。憎いとすら思ってる。って、悪い。朝から暗い話しちまって」

 

 

「別にいいよ。あんまり親友に気を遣うじゃないぞ」

 

 

 その後も、話題を変えながら学校への道を歩いて行った。

 

 

 その日の放課後、屋上にて。

 

 

「ごめんなさい、あなたとはもう付き合えません」

 彼女であった子に、フラれていた。

 海斗の自業自得なのだが、彼も少し心苦しそうにしていた。

 

 

「ううん、こちらこそゴメンね」

 6回目にもなる典型文を申し訳なそうに返していた。

 

 

(こんなクズに突き合わせて本当にゴメンね。)

 そんな言葉を心の中で呟いていた。

 一言で海斗を表すなら、それはちょっと()()()()()()()()()()()だ。

 自分の感情を紛らわすために恋仲になり、結局は本心知られてこうしてフラれてしまう。

 彼はクズだ、自分のために他人の感情を良いように使う。

 

 

「相変わらず、長続きしないねぇ」

 陸斗が海斗を気遣って、フッた女の子が出て行ってから茶化しにきた。

 本当に気遣いが上手いなと思いつつ陸斗と話す。

 

 

「お前こそどうなんだ?彼女できたのか?」

 

 

「ぐっ!痛い所突きやがる。縁がねぇんだよ、お前と違ってモテねえんだよ!」

(嫌、それは嘘だろ。クラスの中に一人か二人はお前のこと好きなやつがいるぞ。)

 海斗はそんなことを思っても口にはしない、無粋だと思うしそれに。

 

 

「てか、柔道部入ってるんだからそんな暇ないだろ」

 

 

「グハっ!正論いいやがって」

 海斗の正論に、またもや効果抜群の一撃を食らっている陸斗。現に陸斗は屋上に柔道着で来ている。

 

 

「じゃあ、海斗。勇者部はいいのかよ」

 

 

「別にー、俺は元々席を置いてるけの幽霊部員だし」

 その後も陸斗が部活の休憩時間の間は二人で話し合っていた。

 

 

 

 

  -----------

 

「まーた、海斗はさぼりってわけネ。全く、もー!」

 海斗の名を呼び叫んでいるのは犬吠埼 風(いぬぼうざき ふう)

 勇者部の部長にして部の看板。趣味は散歩。

 性格はサバサバした姉御肌な感じ。学年は3年

 

 

「海斗先輩、今日も来ないんですか」

 

 

 海斗が来ないことに、少しほっとしてるのは犬吠埼 樹(いぬぼうざき いつき)

 風の妹でもあり、姉のことをとても尊敬している。

 年下のため勇者部の中でも妹的な立ち位置だ。趣味は占い。

 性格はひかえめだが、芯の強さがある。学年は1年

 

 

「まぁまぁ、風先輩。そんなに言わないであげて下さいよ」

 

 

 風を落ち着かせ、海斗の事もフォローしているのは結城 友奈(ゆうき ゆうな)

 美森の親友にして、海斗の幼馴染でもある少女。

 勇者部のムードメーカーだ。

 趣味は押し花。性格は明るくて快活。

 能天気に見えて案外、肝が据わっている。

 学年は美森や海斗と同じ2年

 

 

「すいません、家の海斗が」

 

 

「東郷が謝る必要ないのよ、次海斗が部活に来たら取っちめてやる!」

 

 

 そんな声が響く中、4人は帰路に着いていた。

「でも、昨日の幼稚園での人形劇大成功でしたよね」

 

 

「えぇー、て言うかなにもかもギリギリだったわよ」

 

 

 歓談に声を弾ませつつ分かれ道で、風達と分かれていた。

 先程うどん屋の「かめや」で出された宿題、文化祭の出し物について美森と友奈は考えていた。

 端末が震える、NARUKOと言うトークアプリに通知が入っていた。

 

【kaito:今日はでれなくてすいません。明日から部活にでます】

 一様は美森の義弟(おとうと)だ。

 トークアプリの中でも少し礼儀的な言い方をしている。

 

 

【Fu:今度無断でサボったら、承知しないわよ】

 

 

【yuna:明日からガンバロ―!】

 

 

【ituki:よろしくお願いします!】

 

 

【東郷:帰ったら話があります】

 それぞれが思い思いの返信をするなかで、一人だけ浮かない顔の少女が居た。

 言うまでもなく、美森である。

 

  -----------

 

 海斗はある少女に呼ばれて大赦系列の病院に来ていた。

 海斗は少女に会う前に違う少女の病室に来ていた。

 

 

「久しぶり、銀。1ヶ月ぶり位だな」

 

 

 花瓶に入っている花を入れ替え新し水に、置き換える。

 銀と呼ばれた少女は右腕が無く、体の至る所に包帯が巻かれている。

 生命維持装置で何とか持ちこたえているが、何時亡くなってもおかしくない状態である。

 彼女はもう約1年も眠ったままだ。

 

 

「何で、こうなったんだろうな。お前は何も…ゴメン。これから園子の所に行くから、またな」

 

 

 スクールバック片手に立ち上がり、その場を去る。

 視ていられなかった、あんなにも傷ついてしまった友達の姿。

 

 

 銀の居た病室を出て数分、園子の病室の前にたどり着く。

 扉の前には門番の様に大赦の神官が立っている。神官に話しかけ中に入れて貰う。

 

 

「中に入れて貰っていい?園子に呼ばれたんだ」

 

 

「分かりました。日守様」

 

 

「その名前で、呼ばないで。今は東郷だ」

 

 

 神官を海斗が睨むと、「失礼しました」と言い道を開けた。

 

 

 中に入る、そこには一つの大きなベットがあり。

 ベットの上にある少女が居た。

 左目や口後左手以外が包帯でグルグル巻きにされている。

 海斗は知っているから分かるが、これは怪我ではない。

 別のナニカだ。

 

 

「久しぶり、園子。今日は何の用なんだ?」

 

 

「久しぶり、かーくん。用事が無きゃ呼んじゃだめなの~。」

 いつものふざけている様なおどけた口調、久しぶりに聞くと心地よく感じる。

 

 

 海斗は銀や園子が勇者になる前からの友達、海斗も神樹館の出身だ。

 美森が鷲尾家に行ってから、東郷家の父と母が海斗を神樹館に行かせてくれた。

 

 

「今日はね~、お知らせと忠告の為に呼んだんよ~」

 

 

「お知らせと忠告ねぇ。何のだ?」

 海斗は分かっている、だが園子に尋ねる。自分の予想が外れることを祈って。

 

 

「お知らせは、勇者としてのお役目がもうすぐ始まるってこと」

 

 

 やっぱりか、と言う顔をする海斗。

 海斗にも勇者適性がある、男に適性があることは滅多にない。

 前例が殆ど無い為資料もすくない、だが噂によれば初代勇者の中にも男が居たらしい。

 あくまで噂だが、勇者部に席をおいてるのもそのためだ。

 

 

「それで、忠告って言うのはー「満開の事だろ?」そうだよ」

 海斗と園子の間に重苦しい雰囲気が流れる。

 

 

「知ってるんだ~、満開の事」

 

 

「まぁな、あれから色々あって調べた。日守の名前は凄いよ、改めて思い知った」

 

 

 「日守」、海斗が東郷家に養子として引き取られる前の名前。

 海斗は5歳の時に事故で親を亡くした、その後お隣さんで付き合いも深かった東郷家に養子として迎えられた。

 

 

 日守家は上里家直系の家系だ、そのため地位が高く、特殊なお役目もある。

 それは、勇者の護衛のようなものだ。

 日守(ひのもり)と言う名前も元は四国の「日」である、「勇者を守る」という意志で付けられた名前だ。

 あともう一つルールがある、日守家の長男として生まれたものは「海斗」と名付けなければならない。

 真名は別に用意すること、10歳になったら子供に真名を教える。

 20歳になったら、やっと表立って真名を使えると言うことだ。

 海斗の様な場合もあるので、手紙にして真名を記す掟があるとか。

 

 

 真名を隠すのは天の神の祟りや呪いを受けない為である。

「まだ、真名は分かってないの?」

 

 

「うん、春信さんにも聞いたんだけど時期じゃないって言われた」

 時期じゃないとはどういうことなのか、海斗は知る由もない。

 

 

「そっか~、それはしょうがないね!今日の用事はこれで終わりだよ。そろそろ帰らないとわっしーに怒られちゃうよ」

 

 

「って!?もうこんな時間か!春信さんの所にも行かなきゃ行けないのに。じゃあな園子!」

 海斗は急いでバックを持ち上げて足早に病室を去った。

 

 

「もう少し、お話ししたかったな…。我が儘…かな」

 彼女以外誰も居ない病室。

 その病室に一人の少女の懇願が混じった声が響いていた。

 

 

 

 「コンコンコン」とノックの音が響く。

 中から「どうぞ」と声が聞こえ、海斗はドアを開けて中に入る。

「失礼します、春信さん」

 部屋の中には奥に大きなデスクが一つ、そこにはデスクトップ型パソコンや書類の山があり、辛うじて部屋の主である三好 春信(みよし はるのぶ)の顔が隙間から見えている。

 他にも部屋の真ん中には、テーブルがありそれを挟む様に2つの高そうなソファがある。

 

 

「ごめんね、海斗君。わざわざ来てもらって、そこのテーブルの上に君の勇者としての武器の特性とかを纏めた書類があるから、ざっと目を通しておいてくれ。勿論アプリの方にも説明はあるけど、それの方が詳しく書いてあるからね」

 春信が笑顔で説明を終える。

 

 

 海斗は書類を手に取りミスプリントが無いか確認する。

 完璧超人である春信に、そんな単純ミスはないのだが。

 ミスが無いのを確認し終えると鞄にプリントの束をしまう。

 

 

「こちらこそスイマセン、色々準備してもらって」

 

 

「ううん、大丈夫だよ。それに僕にはこれ位の事でしか君たち勇者を支えることが出来ないから」

 春信と海斗の関係は約1年前から、美森の事があり海斗は「日守」の名を使い大赦に殴り込んだ。

 結局は子供なので大人の神官達に抑えられた、そんな時に春信に出会った。

 春信は取り押さえるのやめさせ、海斗の怒りをその身をもって聞き受けた。

 罵倒罵声、怒号、嘆き、全てを聞いてくれた。

 

 

 その後からは互いに上手く付き合うことが出来た。

「もう直ぐに帰るだろう?だったら訓練場に寄って夏凛が居るか見てくれないかな?居たらもう遅いから帰りなさいと伝えてくれ。僕が行きたいんだが、僕が言っても逆効果になりそうだし、それにこの通り仕事が山積みでね」

 こんなことを言いながらも仕事をやっている手は休めていない、海斗は感嘆しつつ了解の返事をする。

 

 

「分かりました、任せといてください!」

 春信に頼られたことが嬉しいのか、海斗は少しはにかんでいた。

 

 

 海斗は春信に言われた通り、訓練場に寄っていた。扉から漏れる光で中に誰か人が居ることに気付く、時刻は6時半だ。

 まだ春なので辺りはもう暗くなっている。海斗は扉をそっと静かに開き中に入る。

 

 

失礼しま~す

 中入った先で見たのは、余にも綺麗な剣舞。

 しばしの間見とれていると、こちらに気付いたのか夏凜が小走り気味に近寄って来た。

 

 

「どうしたのよ?海斗。あんたのこと久しぶりに見たけど」

 

 

「久しぶりって、確か2日前も俺と一緒にトレーニングしただろ」

 海斗は夏凛の言葉に若干戸惑いつつも、何とか返す。

 

 

「そろそろ、帰った方がいいんじゃないか?辺りも結構暗くなってるし」

 

 

「そうね、そうしようかしら。ちょっと待ってて、着替えてくる」

 夏凜は着替えるために奥の更衣室へと下がっていった。

(ヤバイな、門限バリバリ過ぎてる。美森ちゃんに連絡しとくか。)

 

 

 夏凜が着替えてる間に電話を済ませようと、端末をポケットから出す。

 慣れた手つきで番号を打ち込むと2回か3回のコールで電話が繋がる。

 

 

『もしもし、海斗ね?今どこ?』

 

 

『友達の家だよ。今から帰る』

 

 

『門限は守りなさいと何度も言ったはずよ!』

 

 

『分かったよ、帰ったら話があるんでしょ?』

 

 

『そうよ、気を付けて帰って来なさい』

 

 

『ありがと、姉貴。じゃあね』

 

 

『ええ、またあとで』

 こんな自分を心配してくれるなんて、やっぱり昔と変わらず優しいなと海斗は思った。

 それが嬉しくて少し泣きそうだった。

 

 

「待たせたはね!さぁ、早いとこ帰りましょ」

 

 

「了解。じゃあ行くか」

 夏凜をマンションまで自転車をにけつして送った。

 二人乗りなど初めてではい、何回もこうして夏凜を送っているし友奈や美森ともやっている。

 

 

「今日はありがと、お休み」

 

 

「ああ、お休み」

 まだ少し早いが二人とも同じ挨拶をしていた。

 

 

  -----------

 

 海斗はまだ帰ってこないのか、そう思いながら美森は玄関で義弟の帰りを待っていた。

 すると、玄関の戸の前に影が映る。ガラガラと戸が音を鳴らして開く。

 

 

「ただいまー。って!何で玄関前にいるの姉貴は」

 

 

「あなたを待ってたのよ!心配かけて。話があるから私の部屋に来て」

 有無を言わせない義姉の視線を感じ取った海斗は、無言で頷いた。

 

 

「あなた、また思い人にフラれたのでしょう?」

 

 

「そうだけど、それがなに?」

 美森の質問で思いを踏みにじってしまった女の子のことを思い出し、顔をしかめた。

 

 

「もう、誰かと付き合のを辞めなさい。自己満足の為にあなたに対して本気の好意で向き合った子たちが可哀そうよ」

 美森の言葉が海斗の胸に突き刺さる。海斗の心は罪悪感で少し暗くなる。

 

 

「分かってるよ、こんなのは意味がないってこと。もう辞めようと思ってたから、流石にもう自分のせいで誰かに泣いて欲しくないし。話はそれだけでしょ、ならもう行くねお腹減ったし。後、俺明日から本格的に勇者部に参加するから」

 そう言い残して海斗は美森の部屋を出た。

 

 

 海斗が出て行った少し経った頃。

 

(何故、あんなこと言ったのかしら。いえでも、あれは姉として当然の行為だったはず。)

 

 先程言いたかった話は思い人の話じゃないのだ。

 

(本当は、ちゃんと部活に出なさい。と言う話をするつもりだった。)

 

 美森は嫌だったのだ、(海斗)の隣に居るのが自分ではないことが、たまらなく嫌だったのだ。

 

(何で、まだこの気持ちを持っているのだろう。海斗が義弟になると知った日、捨てた思いだったのに。)

 

 思い出してしまう、叶わないやくそくを。もう実らなくなってしまった恋を。

 

(この感情は捨てなければいけないのに。でも…)

 

 もし叶うのならと願ってしまう。あの日のやくそくを。

 

 そして、溢れ出す心の叫び。

 

 海斗のことが好きと。

 

 心が叫んでいた。

 

 

  -----------

 

 海斗も布団の中で悶々としていた。ご飯もお風呂も済ませたので後は寝るだけだ、なのに…。

 

 

「あんな顔されたら断るなんて出来ないだろ。」

 義姉のフった子を可哀そうと言いながらも、俺のことも気遣っていた。

 

 

「やっぱり、好きだよ美森ちゃん。」

 似たもの同士なのか、二人が言った言葉は誰に届くこともなく霧散した。だが、ある一人には届いていた。

 

 

「頑張りなさい、お母さんは何も言わないから。」

 母にだけは届いていた、思い人には届かないのに。

 

 

 

  -----------

 

 朝は友奈と美森と海斗が並んで歩いていた。海斗が車いすを押していた。

「姉貴は大丈夫か?座りにくくない?」

 

 

「いいえ、大丈夫よ。朝からごめんなさいね、疲れたら友奈ちゃんと交代してもいいのよ」

 美森が心配をして声を掛けるが、海斗は大丈夫だといって車いすを押し続ける。

 友奈はその様子を微笑ましく見ていた。

 

 

 国語の授業中に端末が鳴った。アラームの様な感じの音だ。

 

 

「結城さん、授業中は電源を切っておきなさい」

 

 

「あっ、はい。スイマセン」

 友奈が鞄から出すと端末の画面にはこう映っていた。

《樹海化警報》

 これを知っているのは、風と海斗の二人だけだ。

 

 

 自分達だけが、世界から拒絶されたのかの様に。

 全てが停止していた、先生がクラスメイトが、風で舞い上がった木の葉ですら。

 その自由運動を停止させていた。海斗は動いた、世界が塗り替えられる前に。

 

 

「友奈!姉貴!携帯持ったままこっちに来て」

 

 

 戸惑う美森と友奈。足が上手く動かないのだろう、美森は手も固まってしまっていた。

 

 

「俺の方に走れ!」

 

 

 そう言うとやっと動き出した、友奈が美森の車いすを押して俺の方に来る。

 そして、ちょうど美森たちが来た瞬間、世界が塗り替えられる。目を開けるとそこは神樹の根が這いずる異界に変わっていた。

 大赦はこれを樹海化と言っていた。

 

 

「これが…樹海化。」

 

 

  -----------

 

 風は走っていた、たった一人の家族である樹の下に。一年生の階に来ると樹はもう教室から出てきていた。

「お姉ちゃん!」

 

 

「樹!」

 

 

「良かった、お姉ちゃん無事だった、あのねみんな様子が変で」

 いつもは、落ち着いた姉である風が慌てていたそれだけで樹は少し混乱してしまいそうになる。

 

 

「樹、聞いて。私たちが当たりだった 」

 樹は余計に混乱する、何が当たりだったのか。この不可解な一連のことは何なのか。

 

 

 樹は何も分からないまま、樹海と言う異界に身を下していた。

 




サブタイトルは花言葉を少し弄ったものです。
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