東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

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 本編遅れてスイマセン!


第八話「ツバキの勇者」

 神樹の勇者になってから一ヶ月半経った。

 海斗や美森の同級生や、友達に会ってから少し。

 バーッテクスによる三度目の襲撃。

 基本的にバーテックスの数は十二体で、全て倒せばお役目は終了となっている。

 

 

 今回は一匹で、カプリコーン・バーテックスだ。

 友奈がバーテックスの全容を捉える。

 いつ見ても、オカシイ容姿をしているがそれは問題ではない。

 

 

「来た……」

 

 少し離れた場所で狙撃の構えをしている美森がスコープを覗き、敵を観察する。

 

 

「……あれが、五体目」

 風も音頭を取り始める。

 

 

「落ち着いて。ここで迎撃するわよ」

 風の言葉にみんなが頷く。

 

 

「一か月ぶりだから、ちゃんと出来るかな?」

 友奈が少し不安げな声を出すが、樹がフォローを入れる。

 

 

「え、えっと、ですね……ここを、こうこう」

 

 

「ほう、ほう」

 友奈と樹のやり取りを見つめる海斗、今日はちょっと様子がオカシイ。

 

 

「ええーい!成せば大抵何とかなる!四の五の言わず、ビシッとやるわよ!」

 

 

「「は、はい!」」

 風が声を掛ける中、海斗だけが上の空だ。

 

 

「勇者部ファイト―‼」

 

 

「「おおーー!」」

 何かオカシイ、先程から海斗だけが反応しない。

 

 

 友奈が一早くに気付き、声を掛ける。

 

 

「海斗君?大丈夫……?」

 海斗は友奈の呼びかけでやっと気付き、敵に視線を向ける。

 

 

「悪い、ボーっとしてただけだよ。心配な――」

 その時、海斗の声が爆発音に掻き消された。

 

 

 全員が驚く、友奈と海斗が同時に美森に叫ぶ。

 

 

「東郷さん?!」

 

 

「姉貴か?!」

 友奈と海斗の問いに、美森は静かに答える。

 

 

「私じゃない……」

 

 

 空から、赤い勇者装束を着た女の子が落ちて来た。

 

 

「チョロい‼‼」

 その女の子を、海斗は知っている。

(やっと来たか……夏凜)

 だが、それ以上に海斗はこう思った。

 

 

「本当に、空から女の子が降って来た……」

 

 

「海斗!バカ言ってる場合じゃないでしょ!」

 風にツッコミが聞こえるが無視して、夏凛の戦い方を見る。

 

 

 基本的には海斗の戦い方と似ている。

 二刀の駆使して戦うのが夏凜の戦い方だ、海斗は何度か組手をしたことがあるので知っている。

 刀は何本も召喚することが可能であり、投擲した刀を爆発させて攻撃することも可能だ。

 海斗の刀や火縄銃も何本も召喚することが可能だが、夏凜のように爆発させることは出来ない。

 先程の爆発もおそらくそれだろう。

 

 

 だが、驚くのはそこではない。

 彼女は一人で封印の儀をすることが可能だ、本当なら勇者が数人掛かりでやることを一人で出来る。

 それに、加えて勇者としての訓練も行っているため、実力はピカ一だろう。

 だからこその完成型なのだ。

 

 

「封印開始!」

 

 

 夏凜が一人叫ぶ。手に握られた刀を投げて、それを媒介に封印の儀を開始する。

 

 

「思い知れ!私の力!」

 夏凛の声に反応するように、精霊『義輝』が赤く光り出す。

 

 

「あの子!一人でやるき……!」

 そう言っている間に、御霊が飛び出す。

 

 

 飛び出た御霊は、紫のガスを放出し目くらましにしようとした。

 

 

「ガス……」

 

 

「けむい……」

 

 

「何これ、見えない~」

 

 

 だが、――

 

 

「そんな目くらまし、気配で見えてんのよ!」

 そんな叫びと共に、御霊がXの字に斬り裂かれる。

 

 

「殲・滅」

 

 

「諸行無常」

 夏凛と義輝の声が重なる、その後カプリコーン・バーテックスは砂になって消えていく。

 

 

 戦いが終わりまだ樹海の中、夏凜に最初に声を掛けたのは友奈だった。

「えーっと、誰?」

 

 

「揃いも揃ってボーっとした顔してんのね。こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって?」

 夏凛が全員を敵にまわすような発言をする中。

 

 

「あのー……」

 

 

「何よ、ちんちくりん」

 

 

「ちん?!」

 

 

 ようやく夏凛が自己紹介を始める。

「私は三好夏凜(みよしかりん)。大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者。つまりあなたたちは用済み。はい、お疲れさまでした~」

 

 

「「「「え~!」」」」

 海斗以外の全員の叫び声が樹海に響いた。

 

   -----------

 

 戦いが終わった後、海斗と夏凜だけが違う場所に飛ばされた。

 

 

「お前なぁ~、あの自己紹介はないだろ」

 

 

「しょうがないじゃない!私はアンタと違ってアイツらと話すのは初めてなのよ」

 神樹が気遣ってくれたのだろう、海斗はその気遣いに感謝をしつつ夏凜に向かい合う。

 

 

「一様、俺も大赦側の勇者なんだがな…」

 

 

「アンタは兄貴か安芸さん?だっけ、その二人の頼み事しか聞かないじゃない?」

 それもそうだな、と納得しつつ話を戻す。

 

 

「それにしても、本当に一ヶ月で間に合わすなんて。春信さんは凄いな、まぁ俺も協力したからか」

 基本的には、海斗の端末から戦闘中のデータを貰い、それを基に夏凜の端末は調整されている。

 

 

「そうそう、私もあんたたちの居る讃州中学に行くから」

 

 

「了解、そこらへんは春信さんから聞いて知ってる。アイツらは驚くかもしれんが……」

 二人の会話はそこで途切れる、どちらが言ったわけでもないのに大赦の訓練室に来ていた。

 

 

「久しぶりに、組手付き合いなさいよ」

 投げ飛ばしてきた木刀をキャッチし構える。

 

 

「いいぞ、手加減はしないからな?」

 

 

「抜かしなさい!コテンパンにしてやるわ!」

 今日、この日も夏凜は海斗に一勝もできなかった。

 

   -----------

 

 担任の教師が、黒板に名前を書く中で海斗は眠りこけていた。

 

 

「はい、いいですか?今日から皆さんとクラスメイトになる、三好夏凜さんです」

 

 

 担任の説明を真面目に聞く、友奈や美森に陸斗。

 それに、対して昨日遅くまで大赦への報告書や日記をつけていた為に、寝不足で眠りこけている海斗。

 これで、学年トップに近い頭の良さなのは何故なのか。

 甚だ疑問だ。

 

 

「三好さんは、御両親の都合でこちらに引っ越してきたのよね?」

 

 

「はい」

 

 

「編入試験も、ほぼ満点だったんですよ」

 

 

「いえ」

 担任の説明でクラス内がザワつく、だが海斗は起きる気配がない。

 前にいる陸斗や近くに居る友奈や美森に、呆れた目で見られる中。

 説明は続く。

 

 

「さ、三好さんから皆さんに挨拶を」

 担任の言葉に夏凛が反応して、挨拶を始める――

 

 

「三好夏凜です、よろしくお願いします」

 数秒で終わったが。

 

   -----------

 

 時刻はお昼休み、海斗は陸斗と昼食を取っていた。

 

 

「にしても、三好さん。可愛かったな、梓さんには及ばないけど……」

 

 

「ホント、一途だな。お前」

 陸斗に転校生のことで知りたいことがあると聞かれて、海斗は陸斗の質問に答えている。

 

 

「今の時期に転校生ね~、少し匂うが海斗が何もないって言ってるなら何もないのか」

 

 

「お前なぁ、ちょっと俺のこと信頼し過ぎじゃないか?」

 

 

「いいんだよ、信頼し過ぎなぐらいが丁度いい!」

 陸斗のこういう熱いところが好きなために、海斗は陸斗の親友をやめられないでいる。

 

 

「まぁ、お前もお役目やらなんやらで困ったら頼ってくれ。親友なんだからな」

 

 

「分かったよ、色々とありがとな……お前のそういう所にはいつも助けられる」

 陸斗が分かったように声に出して「ニシシ」と笑う中、夏凜がこちらを見ているような気がした。

 

   -----------

 

「そうきたか」

 放課後、勇者部に夏凜が来た。風や樹に説明をし、夏凜が五人の前に立つ。

 

 

「編入生の振りなんてめんどくさい。でもま、私が来たからには安心ね!完全勝利よ!」

 そんなことを言う夏凜に、美森が単純な疑問をぶつける。

 

 

「何故今このタイミングで?どうして最初から来てくれなかったんですか?」

 

 

 美森の疑問に、夏凜が少しだけバツが悪そうに答える。

 

 

「私だってすぐに出撃したかったわよ。でも、大赦は二重三重に万全を期しているの。最強の勇者を完成させるためにね!」

 得意げに夏凜が説明する中、海斗は半分夢の中に意識が飛んでいる。

 

 

「最強の勇者?」

 またしても聞き慣れぬ単語に耳を傾げる勇者たち。

 

 

「そう。あなたたち先遣隊の戦闘データを得て、完璧に完成された完成型勇者。それが私。私の勇者システムは対バーテックス用に最新の改良を施されているわ。その上、あなたたちトーシローとは違って戦闘の為の訓練を長年受けてきている」

 夏凜が自信満々に言い終わり黒板に箒をぶつけていると、海斗が突然目を覚ましマジレスし始める。

 

 

「戦闘データを纏めたのは俺で、実施訓練やテストに付き合ったのも俺。勇者システムなら俺も日々違法アップデートを重ねてるし、俺も訓練はお前と同じ年数かそれ以上やっている」

 

 

 そんなマジレスを風達は(夏凜以外)華麗に無視して話を進める。

 

 

「箒、黒板に当たってますよ」

 

 

「躾がいのありそうな子ね」

 海斗のマジレスに気後れしてた夏凜も、風の言葉には即座に噛みつく。

 

 

「何ですって!」

 

 

「まぁまぁ、ケンカしないで?!」

 樹が二人の間を取り持つ。

 

 

「ふん、まあいいわ。兎に角大船に乗ったつもりでいなさい」

 友奈は今までの話を聞きつつ、夏凛に歩み寄った。

 

 

「そっか、よろしくね夏凜ちゃん」

 いきなりの名前呼びに、少し頬を赤くする夏凛。

 

 

「いきなり下の名前」

 

 

「嫌だった?」

 夏凜の言葉に、残念そうな声を出す友奈。

 

 

 夏凜はすぐに顔を逸らしてしまう。

 

 

「ふん、どうでもいい。名前なんて好きに呼べばいいわ!」

 

 

「ようこそ、勇者部へ」

 友奈の声に夏凜が呆気に取られる。

 

 

「は?誰が?」

 

 

「夏凜ちゃん」

 夏凛の問いに対して、全く意味の分かっていない友奈。

 

 

「部員になるなんて話、一回もしてないわよ」

 

 

「違うの?」

 友奈の勘違いを正すべく夏凜が話始める。

 

 

「違うわ、私はあなたたちを監視するためにここに来ただけよ」

 

 

「えっ?もう来ないの?」

 何故か絶妙なラインで話が噛み合ってない気がする。

 

 

「また来るわよ、お役目だからね」

 

 

「じゃあ、部員になっちゃった方が話が早いよね!」

 

 

「確かに」

 友奈の意見に美森が同意して、話が何故かまた少し飛ぶ。

「まぁ、いいわ。そいうことにしときましょうか。その方があなたたちを監視しやすいででしょうしね」

 

 

 夏凜のその言い草に流石の風も待ったを掛ける。

「監視監視ってあんたね、見張ってないとアタシたちがサボるみたいな言い方止めてくれない」

 風の意見はごもっともだ。

 

 

()()()()()()()()()トーシローが、大きな顔するんじゃないわよ」

 その言葉を聞いた海斗の雰囲気が変わる。

 

 

「もう一度、その言葉を言ってみろ。お前でも許さないぞ、夏凜」

 

 

 海斗の威圧感に部室内が鎮まる中、夏凜の悲鳴が響き渡る。

 何故なら、友奈の精霊である牛鬼が夏凜の義輝をムッシャムッシャと齧られているからである。

 

 

「ぎゃあああ‼‼何してんのよ!この腐れ畜生!」

 

 

「外道メ」

 この二人は、中々に息が合っていた。

 

 

「外道じゃないよ、牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊君なんだよね」

 この二人のマイペースさも中々に合っている。

 

 

「自分の精霊の躾も出来ないようじゃ、やっぱりトーシローね!」

 

 

「信長以外みんな齧られてしまうから、みんな精霊を出しておけないの」

 何とも不思議、海斗の精霊である信長だけは牛鬼に齧られないのだ。

 海斗的には、精霊七不思議の一つでもある。まだ七つもないが。

 

 

「じゃあ、そいつを引っ込めなさいよ!」

 

 

 夏凜のもっともな意見に友奈が申し訳なさそうに答える。

「この子、勝手に出てきちゃうんだ」

 

 

「はぁ!アンタのシステム壊れてんじゃないの!?」

 

 

「外道メ」

 

 

「残念ながら、調べたけど壊れてないよ」

 海斗の声がまた聞こえる、寝ているようで要所要所で起きているのは何なのか。

 

 

「そう言えば、この子喋れるんだね!」

 

 

「ええ!あたしの能力に相応しい、強力な精霊よ」

 夏凜がまたも自身満々に言い放つ。

 

 

「でも、東郷さんには三匹いるよ」

 友奈の言葉を受けて美森が少し端末を操作する。すると三匹の精霊が出て来た。

 

 

「えっと、でました」

 夏凜の顔が固まる。

 

 

 だが、負けるもんかと言い放つ。

「私の精霊は一体で最強なのよ、言ってやんなさい」

 

 

「諸行無常」

 

 

「達観してますね」

 

 

「そこがいいのよ」

 美森の言葉に乗せられる夏凜。

 

 

「でも、海斗君の信長も喋るよ」

 

 

「嘘よ!」

 

 

「それが、嘘じゃねえんだよな」

 海斗が端末を操作すること数秒。

 

 

「どうした、小僧。何か用か?ん……そこにいるのは義輝か、へへぇ良い精霊持ってるな嬢ちゃん!」

 夏凜の開いた口が塞がらない、規格外過ぎる精霊だった。

 

 

「どうしよう、夏凜さん」

 

 

 樹から呼ばれてなんとか冷静な意識、ではないが意識を取り戻す。

「今度は何よ!」

 

 

「夏凜さん死神のカード」

 樹の占いは、夏凜が不吉ななにからしいと予言していた。

 

 

「勝手に占って、勝手に不吉なレッテル張らないでくれる!」

 

 

「不吉だ」

 

 

「不吉ですね」

 

 

「不吉だな」

 

 

「不吉じゃない!」

 風、美森、海斗の三人に「不吉」呼ばわりされて叫ぶ夏凜。

 

 

「ともかく、これからのバーテックス討伐は私の監視の下励むのよ!」

 

 

「いや、結局の所。俺が報告書出すんだが……」

 海斗の発言は無視して、友奈が疑問を口に出す。

 

 

「部長が居るのに?」

 

 

「部長よりも偉いのよ」

 

 

「ややこしいなぁ」

 

 

「ややこしくないわよ!」

 夏凜のツッコミ大会も終わり、風が真面目な話をし始める。

 

 

「事情は分かったけど、上級生の言葉を聞くものよ。事情を隠すのも、任務の中にあるでしょう?」

 

 

「ふ、ふん、まぁいいわ。残りのバーテックスを殲滅したら、お役目は終わりなんだし。それまでの我慢ね」

 

 

 夏凜は強がるように言って見せる。

「うん!一緒にがんばろうね!」

 

 

「頑張るのは当然!私の足を引っ張るんじゃないわよ!」

 夏凜は高圧的な態度を取るのに、友奈はいつも通り笑顔で寄り道に誘う。

 

 

「ねぇ、一緒にうどん屋さん行かない?」

 

 

「必要ない、行かないわよ」

 夏凜はさながら、クラスに理解者が居なかったらボッチコースまっしぐらの奴だ。

 

 

「もう帰るの?」

 

 

「………」

 夏凜はその言葉に答えることなく、部室を去っていった。

 みんなが呆然とする中、海斗だけはため息を零していた。

(もっと素直になればいいのに。あいつも不器用だな……)

 

   -----------

 

 放課後、海斗は大赦本部に顔を出していた。

 

 

「夏凜はどんな感じだい?」

 

 

「う~ん、まだ若干堅いですね。俺と一緒の時はもう少しフランクに話せてると思うんですけど……」

 春信に近況報告に来ていた。というのは建前で、夏凜の学校での様子を報告していた。

 

 

「やっぱり、少しづづ行かないとだめかな~」

 

 

「友奈が居ますから、多分何とかなりますよ」

 こんな感じで世間話をすること数分、春信の雰囲気が変わり真面目な話が始まる。

 

 

「六月十一日、君にはある場所に神託受け取りに行って貰いたい」

 

 

「神託……ですか。でも、男である俺はそんなの」

 

 

「違う違う、君には上里のお屋敷に行ってもらいたいんだ」

 上里、その名前を聞いた瞬間に海斗の脳はフリーズした。

 

 

「う、う、上里ですか……?お、俺、本家には一度も顔出したことは無いんですけど」

 

 

「いや、それがあるんだなぁ。君が生後まだ間もない時に、本家の方々に挨拶で親御さんと一緒に」

 

 

 春信の説明を聞きようやく納得した海斗は、その仕事を引き受けた。

 だが、海斗にも疑問があったのでそれを春信に投げかける。

 

 

「何で俺なんですか?他にいくらでも神官の人は居るのに」

 

 

「上里の家は、あまり格式の低い人を屋敷に招きたがらないんだ。それで君さ、君は日守家の次期当主で今は勇者のお役目をしている。これ以上の適任はいなかったからね!」

(上里は、そんな家だったのか。ヤバイなぁ、何か会う前から緊張してきた)

 海斗が緊張しているのに気付いたのか、春信が肩を叩く。

 

 

「大丈夫だよ、海斗君。自信を持って、君は善い子だから上里の人も何も言わないだろう」

 

 

「そうですかねぇ、ならいいんですが……。あ?!そろそろ行かないと!春信さん、今日は失礼します!」

 海斗はスクールバック片手に急いで部屋を出る。

 

 

「忙しそうだなぁ、海斗君。さぁて、僕の方もお仕事しますか」

 

 

 春信は、デスクに戻り戦闘データの編集に入る。

 海斗が渡してきたデータも幾らか編集の跡があるが、流石に中学生にその作業をやらせるのは不味いので春信が手を入れる。

 海斗に忙しそうと言っているが、彼の方が数倍忙しいということを海斗は知っている。

  

   -----------

 

 銀の病室に入る。彼女は今も眠ったままだ。

 夏凛の端末は元々銀の物だ。

 今日、海斗は夏凜の「()()()()()()()()()トーシローが、大きな顔するんじゃないわよ」という言葉にキレてしまった。

 それの原因は海斗の過去にある、このことを話すには少し早いが。

 銀も園子も先代勇者だった、だったら何故こんなことになっているのか。

 海斗は知っている、だが話さない。

 

 

 話してもきっと意味はないから。

 だから、話さない。

 ただ一つ言えるのは、『偶然』この一言は海斗の地雷に等しい。

 『偶然』勇者に選ばれたから、その所為で友達があんなことになったすれば、海斗は怒り狂うだろう。

 運が良ければ、園子はベットに寝たきりにならずに済んだのか?

 運が良ければ、銀は右腕を失わずに済んだのか?

 

 

 海斗は『偶然』など信じない、自分が勇者に選ばれたのも何が意味があることだと信じてる。

 もし銀や園子が、勇者に選ばれたのが偶然だったなら。

 何もああなるのは、彼女たちではなくても良かったのではないか?

 海斗はそう思わずにはいられないだろう。

 『偶然』ではないのなら、彼女たちの頑張りが無駄ではないと証明されると信じてる。

 

 

 だってそうだろう?

 もし『偶然』だったなら、彼女たちの頑張りは無駄だったことになる。

 なんせ、誰でも良かったのだから。

 だから、海斗は偶然など信じない。

 夏凛が銀の端末を引き継いだのも『必然』だと信じている。

 

 

「今日さ、お前の端末を継いだ奴がうちに来たよ。それでさ――」

 

 

 今日のことを銀に話した、頷きや返事などされることはないのに。

 だが、奇跡は起きた。海斗から言わせれば『必然』だ。

 「頑張った人が報われないなんてオカシイ」と思ってる彼からしたら、この出来事は『必然』なのだ。

 

 

「………!」

 

 

 握っていた左手が、軽くだが握り返されたのだ。

 海斗はそれが嬉しくって、少し涙が出た。

 バックを背負い急いで部屋を出る、今すぐにでも先程のことを教えたい人がいる。

 

 

 病院の中を早歩きで歩き、目的の場所に着く。

 いつもの神官はいないので、ノックもせずに中に入る。

 

 

「園子!」

 

 

「あ~、おひさ~かーくん!」

 彼女特有の、間延びした声が病室内に響く。

 

 

「さっきな、さっきな!」

 

 

「はいはい、どうどう。落ち着いて~、深呼吸~」

 

 

 園子に言われるがまま深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。

 そして、先程起きたことを話した。

「そっか……、そんなことがあったんだ~」

 

 

 間延びした声が続いているが、彼女の左目からは涙が出ている。

 

 

 その日は、門限になるまで二人は話し耽った。

 海斗も、今日は少しだけ昔にすんなりと戻れた気がした。




 来週もお楽しみに!

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