東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

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 おまたせ!


第十話「夏凛ちゃんの誕生日と精霊会議」

 海斗は陽奈の言葉を聞いた。

 だからだろう、頭がそれを理解する。

 そして、心が死にたくないと叫んでいた。

 脳裏に映るのは大切な人たちの顔。

(神樹様の神託は絶対だ、死は逃れられない)

 

 

 これもまた運命なのだろうか、海斗が死ぬことは必然なのだろうか?

 違うと心が強く否定する、まだやり残したことが数えきれない程ある。

 

 

「ああ、間違えました。死ぬのは記憶です」

 

 

「記憶が、死ぬ……?」

 陽奈の言葉に戸惑う海斗、少し考えると何となくだが理解できた。

 

 

「記憶を失うってことですか?」

 

 

「そうそう、海斗君が散華で失うのは自分の記憶」

 

 

「自分の……記憶」

 

 

 散華、満開の裏に隠れた機能。

 満開を経て発動される、勇者システムの隠された機能。強大な神の力である満開を使用する対価として、身体の機能の一部を神樹に捧げる。

 基本的に捧げられるのは身体の機能の一部であり、手足を失うような肉体的な欠損はないが、記憶や感情も例外ではない。身体のどこの機能を捧げるかは、勇者には決められない。

 

 

 「花一つ咲けば一つ散る、花二つ咲けば二つ散る。」

 この言葉の通り、満開するごとに何かを失っていくもの。

 失ったものは戻ってこない、神に捧げたものが戻ってくるなどありえないのだ。

 

 

「君が失う記憶は、東郷海斗がどういう人物で誰にどういう風に接していたかと言うものです」

 

 

「そうですか、分かりました。失うものが分かっていれば大丈夫です、記憶の分は日記やらなんやらで補填します」

 

 

「頑張ってください。私は巫女であなたは勇者、共に戦うことは出来ませんがあなたの無事を祈っています」

 彼女にも、彼女なりの不安があるのだろう。

 

 

 皮膚に爪が食い込み少し血が出でいる、海斗は過去の自分を思い出した。

 銀がお役目の最中瀕死の重体負った時、自分もああして悔やんでいたことを。

 

 

「神託の件、教えて下さりありがとうございます。俺はこれで」

 

 

「ええ、お気お付けて」

 荷物を持って、外に出る。

 長い廊下を抜けて玄関を通り、外にある門を潜る。

 当分はここに来ることはないだろうと思い、門の前で一礼をして去っていった。

 

  -----------

 

「―――以上が神託の内容です」

 

 

「そうか……」

 

 

 大赦本部の一室にて、海斗は春信に今回受け取りに行った神託の内容を話していた。

 

 

「五人中六人が満開……海斗君は落ち着いてるかい?」

 

 

「何とか、失う内容さえ分かれば対策のしようがありますからね」

 春信が何か言い淀むように、顔を俯かせる。

 

 

「そろそろ、君に真名を教えようと思ったんだけどね。もう少し待った方が良いか」

 

 

「そうですね、今聞いても忘れちゃいますし。何より、多分まだ時期じゃない気がするんです」

 春信がよく言っていた言葉を言い、春信がクスリと笑う。

 

 

「かもね。一様、君の家の御両親には手紙を渡しとくから」

 

 

「春信さんが、ここだ!と思ったタイミングで俺に伝えるようにしといて下さい」

 海斗は少し考えた。

(散華で記憶を失ったら、こういう楽しかった小さな思い出も忘れちゃうのか。……少し、嫌だな)

 

 

 少し嫌だったのだ、春信と兄弟の様に笑い合うこの時間が自分の中から消えてしまうことが。

 

 

「海斗君?門限の時間が近いよ?」

 

 

「……はっ!?スイマセン、そろそろ帰らなくちゃ。それじゃあ、失礼します」

 海斗が足早に部屋を出る、春信はそれを少し見送ってまた椅子に戻る。

 

 

「……すまないね、海斗君。何もしてあげられなくて」

 彼は戦う力を持たない、故に助けることは叶わない。

 この世界は、力なき者に理不尽にできていた。

 

  -----------

 

 翌日、六月一二日午前一〇時頃。

 

 

「夏凜ちゃん、来ないね……」

 

 

「そうだな~」

 

 

「海斗!アンタは何でそんな呑気なのよ!」

 風の言葉を華麗にスル―して、スマホを弄る海斗。

 

 

「ムキ―‼海斗!今日と言う今日は先輩の威厳の為に――」

 

 

「風先輩、夏凜の場所分かったんで少し行ってきます」

 

 

「え、分かったんですか?海斗先輩」

 樹が少し驚いたような顔を見せる、だって樹から見たら海斗はただ単にスマホを弄っていただけなのだから。

 

 

「アイツのスマホにはGPS付けといたからな、これならすぐに分かる」

 ドヤ顔で言う海斗に対して、友奈以外の全員が引き気味だ。

 

 

「海斗君すごーい!いつ付けたの?」

 

 

「結構昔からかな……まぁ、今はそんなことどうでもいい。風先輩、夏凜のことを探してきますけどいいですよね?」

 

 

「別にいいわよ、好きにしなさい。こっちからも電話で連絡してみるわ」

 風は基本的に海斗のことは放任主義だ。

 実際の所、海斗はちょくちょく自分で依頼を拾ってきたりするので、好きにさせといた方がいい。

 

 

 風の許可を貰った海斗が自転車に跨る、こっそり美森にNARUKOでメッセージを送る。

 

 

【kaito:多分帰れそうにないから、部活終わったらそのまま夏凛の家に来て】

 

 

【東郷:分かったわ、風先輩には私から話しておくわね】

 ありがとうとスタンプを送り、自転車をこぎ始める。

 

 

(夏凜のやつ学校集合って間違えたんだな。とりあえず、いつもの所に向かいますか)

 海斗は何故か学校ではなく、いつもの浜辺に向かっていた。

 

  -----------

 

 少女は二つの木刀を使い、鍛錬をしていた。

(アイツらは所詮試験部隊私は違う、私は世界の未来を背負わされている。期待されているのよ、だから普通じゃなくていい)

 そんな彼女に声を掛ける奴がいた。

 

「おーい夏凜!」

 

 

「海斗……何しに来たの?」

 

 

「いや、お前が指定された時間になっても来ないもんだから、探してたんだよ」

 

 

「そう……」

 素っ気なく返す夏凜に海斗は近づいていく、夏凜の持っていた木刀の一本を奪い取り構える。

 

 

「どうだ?一本やらないか?」

 

 

「いいわよ、丁度相手が欲しかったところだもの!」

 

 

 合図も無しに、動き始める。

 夏凜の動きは基本を押さえつつも自分なりに吸収して昇華させた我流。

 対して海斗は、本当の我流。誰かに教えを乞うことはなく、何を参考にしたでもない。ただひたすらに自分自身に向き合って鍛錬した結果の剣。

 夏凜の上段から振り下ろす攻撃を、海斗は剣先を使い軽く払うだけで受け流す。

 

 

「何で来なかったんだ?」

 木刀を水平に振り抜きながら尋ねる。

 

 

「……別にどうでもいいでしょ!」

 海斗の問いに夏凜は、木刀を下段から弾きあげるようにしながら答える。

 

 

「まあ、何となく分かってるけど……なぁ、アイツらといるのそんな悪くないと思うぞ?」

 弾きあげられた木刀を瞬時に構え直し、つばぜり合いに持っていく。

 

 

「悪いわよ!アイツらといると、決意が揺らぎそうで怖い。私は勇者に選ばれた、だから兄貴をギャフンと言わせるまでは青春とかそんなのはどうでも良い!」

 力では負けているが、体制や重心の置き方を利用して均衡を保つ。

 

 

「多分友奈はお前のことをもう友達だと思ってる……それでもか?」

 

 

「それでもよ、私は友達なんてアンタ一人でいい。アンタがいれば、仲間も友達もいらない」

 「案外信頼されているんだな」と心の中で思いつつ、つばぜり合いを止めて距離をとる。

 

 

「……そう言ってくれるのは素直にうれしいな。お前がそう思ってんなら、それでいいんじゃねえか?俺は別にお前の友達止めたりしないし。」

 夏凜は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている、海斗からしたら疑問しかない。

 

 

「友達になれとか、もう言わないの?」

 

 

「嫌がっている奴に無理強いする事わねえだろ?」

 海斗は当たり前のことを言ったつもりだったが、夏凛はため息を吐き木刀を下す。

 

 

「どうしたんだよ?もうやらないのか?」

 

 

「何か冷めたわ、今日はもう帰って鍛錬する」

 夏凜からさっきの素っ気なさはなくなり、呆れ交じりの声が聞こえる。

 その声は、どこか嬉しそうだった。

  

  -----------

 

「で、何でアンタが家に来んのよ!」

 

 

「何でってお前、コンビニ弁当しか食ってねえんだろ?夕飯作ってやるよ」

 

 

「材料は?」

 

 

「さっき買って来た」

 時刻は三時過ぎ、先程の砂浜でのやり取りからおよそ四時間弱。

 海斗は家に帰って荷物を取りに行った、勿論パーティ用の物だ。

 

 

 夕飯を作ると言うのは建前、夏凜が鍛錬で時間を使っている間にパーティの飾りつけや食事の準備をする。

 

 

「もう、勝手にしなさいよ。私は隣の部屋にいるから、何かあったら呼びなさい」

 そう言い残し、夏凜は隣の部屋に消えていく。

 

 

「よし!こっからは腕の見せ所だな」

 勇者部のみんなが来るまでの時間は分からない、できる限り力を尽くそう。

 海斗は一人、奮起していた。

 

  -----------

 

 インターホンが鳴る、時刻は六時過ぎだろう。

 辺りも暗くなっていて、街灯が歩く人々を照らしている。

 

 

「夏凜ちゃーん、って!海斗君!どうしてここに」

 

 

「姉貴から聞いてないのか、先にこっちに来て飾りつけとかしてたんだよ」

 

 

「海斗、内装は大丈夫なの?」

 

 

「そこら辺はもう大丈夫だし、つまめる料理も作ってある」

 勇者部の皆が来たので、海斗は中に入れる。

 

 

「海斗ー、インターホン鳴ってたけど誰が来て……あ、アンタたち」

 

 

「アンタねー、何で何度も電話したのに何で電源オフにしてんのよー!」

 いきなり来た勇者部のメンツに驚く夏凜と、電話に出なかったことを注意する風。

 

 

「そ、そんなことより何!」

 

 

「何、じゃないわよ。心配になって見に来たのよ」

 

 

「し、心配……」

 風の言葉に少し申し訳なさそうな顔をする夏凛。

(そんな顔するんだったら、最初から遅刻してでも行けばよかったのに……)

 バカだなぁ、と考える海斗を尻目に会話は続く。

 

 

「よかったぁ、寝込んでたりしたんじゃないんだねぇ」

 本当に心配してたのか、少し肩に入っていた力が抜け安心した顔を見せる友奈。

 

 

「上がらしてもらうわよ~」

 

 

「何勝手に上がってんのよ!意味わかんない!」

 夏凜の声を無視して風は奥に進んで行く。

 

 

「おお~、ちゃんと飾りつけ出来てるじゃない!やるわね海斗!」

 

 

「いえいえ、それほどでも」

 

 

「な、何よこれ!」

 

 

 自分の部屋の豹変ぶりに驚く夏凜。

 何も無理はない、何せ殆ど何も置いてない部屋だったのが、紙で作ったリボンが飾られて風船などが転がり、テーブルの上には色々とりどりの料理が置かれていたらそれは誰でも驚くだろう。

 

 

「か、海斗!アンタ、晩御飯作るだけって言ったじゃない!」

 

 

「いや、晩飯作るとは言ったが飾りつけをしないなんて言ってないぞ」

 夏凜が怒り気味になり訳を言う。

 

 

「あのね、夏凜ちゃん」

 友奈が箱に入ったケーキを取り出す。

 

 

「ハッピーバースデイ!夏凜ちゃん、誕生日おめでとう!」

 

 

「おめでとう」

 友奈に続き美森がおめでとうと言葉にする。

 

 

 だが、夏凜は余計に混乱していた。

 何で自分の誕生日を知っているのか分からないからだ。

 

 

「ど、どうして……」

 

 

「アンタ、今日誕生日でしょう?」

 

 

「海斗が教えてくれたの、それで……」

 風の言葉に驚き、美森の言葉に更に驚く。

 

 

「あ!って思っちゃった、だったら誕生日会やらなきゃって!」

 

 

「歓迎会も一緒に出来るねー!って」

 友奈と樹の話を聞いて、夏凜はなんだか少しだけ嬉しくなった。

 

 

「本当は児童館で子供たちと一緒にやろうと思ったんだけどな」

 

 

「当日の驚かせようと思って黙ってたんだけど」

 

 

「でも、当のアンタが来ないんだもん焦るじゃない!」

 みんなの言葉を聞いてると、夏凛の心は温かくなっていく。

 「海斗が言っていた悪くないとは、こういう意味だったのか。」と改めて再確認させられる。

 

 

「家に迎えに行こうとも思ったんだけど、子供たちも激しく盛り上がっちゃって」

 

 

「結局、この時間まで解放されなかったのよ。ごめんね」

(ここまで考えて来てくれて、その上遅れたから謝るなんて。ホント、甘いやつら)

 今までの様にバカにしたわけではなく、温かみが籠った言葉だった。

 

 

「どうしたー?」

 

 

「夏凜ちゃん?」

 

 

「あれ~、ひょっとして自分の誕生日も忘れてた?」

 

 

「……アホ…バカ…ボケ…おたんこなす……」

 夏凛の口から自然に言葉が漏れる、打ち解けていってる証拠だろう。

 

 

「ちょ、何よそれぇ!」

 

 

「誕生会なんてやったことないから、何て言っていいのか分かんないのよ……」

 頬を赤く染めて明後日の方向を向く夏凜、相当恥ずかしいのだろう。

 

  -----------

 

 その後は話が弾み、みんなで楽しく遊んだ。

 友奈の言葉で文化祭の出し物が演劇になったりして色々あったが、とても楽しい一日だったと海斗は自負している。

 家に帰り、日課の日記を書いて海斗はベットに入る。

 昨日のことがあってから、細かい事まで日記に書くようにしたので幾らか時間が掛かってしまっていた。 

 

 

「ん、通知か?」

 

 

 トークアプリであるNARUKOからだ。

 

 

【Fu:アンタも登録しておいてね。今日みたいに連絡の行き違いがないように】

 

 

【ituki:これから仲良くしてくださいね。よろしくお願いします】

 

 

【東郷:次こそはぼた餅食べて下さいね有無は言わせない】

 何だか、美森の危ない発言が見えたがその辺はいつものことなのでスルーをしていく海斗。

 

 

【yuna:ハッピーバースデイ夏凜ちゃん!学校のことや部活のことで分からないことがあったら何でも聞いてね】

 

 

【Krin:了解】

(おお、返信早いな)

 そんな関心をしつつ、海斗もメッセージを送る。

 

 

【kaito:返信早いな、さてはみんなのこと好きなんだろ~】

 

 

【yuna:わーい!返信が返ってきた】

 

 

【Fu:フフフ、レスポンスいいわね】

 

 

【yuna:わーい】

 

 

【ituki:わーい】

 

 

【東郷:ぼた餅】

(おい、何か一人変なの混じってたぞ)

 

 

【Krin:うっさい!】

 

 

【Fu:ぶはははは】

 

 

【東郷:ぼた餅】

 やっぱり何か、変な人混ざっているな。まぁ、どうでもいいだろう。

 この際、夏凜を弄ることに集中した方がいいのは一目瞭然だ。

 

 

【yuna:これからは全部が楽しくなるよ!】

 その言葉と共に、一枚の写真が送られてくる。

 みんなが写った一枚だ、夏凜は少し照れているのか顔が赤いがそれがまたいい味を出している。

 

 

「楽しくなりそうで良かったよ、夏凜」

 海斗は小さく呟いて、眠りにつく。

 時間は動き続ける、ある結末に向かって。

 

  -----------

 

 神樹の中にて。

 

 

「小僧たちの運命を知ったからにゃあ、俺たちも動かないとな」

 

 

「そうするか、それにしてもどうする」

 

 

「そうだぞ、外に干渉できんのはそっちの二人しかいないんだぞ」

 信長が誰かと話している、一人?一羽は八咫烏と言う精霊だ。

 もう一人は、シルエットで分からないが身長は百四十後半といった所だろう。

 

 

「そうよ、デンジャラスなことになったらどうしようもないわ」

 

 

「そうね、しっかりと時期を見て動かないといけないは。ゲームと違ってやり直しが出来る訳じゃないんだから」

 

 

「そうだよ、頑張って結城ちゃんたちを助けないと」

 

 

「ですが、まだ時期じゃありません。せめて世界の本当の姿(真実)を知ってからじゃないと」

 

「またメンド臭いことになりそうだにゃ~」

 

 

 時折英語を混ぜる人影と、何故かゲームで例える人影と、どこか友奈に似ている人影と、論理的に考える人影と、語尾が特徴的な人影。

 

 

 夜中になってから、ひっそりと会議が始まる。

 シルエットのこの者たちは何なのか?

 会議は続く、運命に抗おうとする彼らの手助けをするために。

 

 

 




 来週もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


 ※二月二日に少し文を追加しました!
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