亜耶の誕生日会!
※1本の花と温かい心から変えました(11月21日)
十一月二二日、今日は国土亜耶の誕生日。
今日、この日。
二人の少年が、プレゼントを持って亜耶の部屋を訪れていた。
【柊景夜の場合】
柊景夜、初代勇者にして歴代最強とも言われる人。
だが、亜耶からしたらいつも自分のことを気遣ってくれる、頼れる先輩だ。
そんな、景夜が亜耶の部屋を訪れたのは午後六時頃。
「悪いな亜耶、入れて貰って」
「いえいえ、大丈夫ですよ。防人の皆さんと誕生日のお祝いをしてた所です!」
だったら、尚更自分は来るべきではないだろうと思い、景夜は早めに用を済ませることにした。
景夜は、防人組がコタツに入って寛いでいる空間に気まずそうな顔で入る。
「邪魔して悪いな、プレゼントを持ってきた」
「話が見えてこないのですが?」
「プレゼントって何ですか?……はっ!?もしかして、私の命を一回守ってくれる券とか」
「そんなものはありませんわよ、それにしても柊さんがこんな時間にレディ―の部屋に上がるなんて、大丈夫なんですの?」
「……私も……そう思う」
四人が個性的な返答を返す中、その返答を返す気力も無いので急いでプレゼントを開ける。
実際は、若葉とひなたに怒られるのが怖かったと言うのは秘密だ。
「はいよ」
テーブルの上にカキツバタと言う花をモチーフにしたガラス細工の大きなネックレスを置いた。
大きさは、花弁一つ一つが五cmはあり、花全体の大きさはソフトボール位ある。
カキツバタの花言葉は「幸運は必ず来る」と「幸せはあなたのもの」と「贈り物」だ。
「大きすぎますよ!それに!こんな高そうな物貰う訳には……」
「そう言うと思った、だからな……」
景夜がネックレスの花弁の部分を取る、このネックレスは磁石で繋がっており花弁を取り外して収容が可能な物なのである。
花弁には既に、チェーンを通すための穴が開けられている。
花弁六枚を丁寧取ってチェーンと一緒に一人一人に渡していく。
「しずくには、シズクの分も合わせて二個な」
「シズクの分も……いいの?……」
「良いんだよ、別に」
景夜はチェーンを通すのに手間取ってる連中を手伝いつつ、部屋全体を見渡す。
そこは、幸せで満ちていた。カキツバタの花言葉通りの物がそこにあった。
「景夜先輩!本当にありがとうございます!」
丁寧な言葉では覆い切れない程の感謝の念が伝わってくる。
景夜は、そんな亜耶の行動を見てクスリと笑い呟いた。
「Happy Birthday!亜耶」
そんな言葉を残して、景夜は亜耶の部屋を去った。
-----------
【東郷海斗の場合】
呼び出した時刻は七時頃、玄関前にて。
「外に呼び出してゴメンね!亜耶ちゃん」
東郷海斗、神世紀の四国を救った英雄。
けれど、亜耶から見たら優しくて、趣味なのか持ち物が偶にカワイイちょっと面白い先輩だ。
「大丈夫ですよ、海斗先輩。それで、何の御用でしょうか?」
「ああ、これ誕生日プレゼント」
海斗はバックから二枚のチケットを取り出す。そこには、最近新しくリニューアルオープンした水族館の名前があった。
二枚しかないのは、リニューアルオープンして日数が経っていない為、チケットの値段が高かったと言うのが理由だ。
海斗にも、大赦でプログラマとして働いて給与は貰ってはいるがアルバイトと変わらないのだ。
なので、二枚しか買えないというわけだ。
「水族館?どおゆう所何でしょうか?」
「うう~ん、海の生き物がいっぱい居るところで。ショーをやったり、触れ合いコーナーがあったりするよ」
何とも、そこの水族館ではペンギンと触れ合えて、尚且つイルカショーがあるなどボリューム満点なのだ。
買ったチケットは、二十五日の日曜日のもの。
土曜日が遊園地で日曜日が水族館と中々にハードスケジュールだが、亜弥ちゃんの未知への興奮は凄まじいので大丈夫だろうと海斗は思っていた。
(まぁ、一緒に行くやつは少し辛いかもしれんが頑張れ)
「へぇ~‼面白そうですね!…日曜ですか…」
「ゴメンね、そこらへんしかいい感じの日がなかったんだよ。まぁ、二枚しかないから行きたい人は亜耶ちゃんが自由に決めてね!それじゃあ」
もろもろの説明は終わったので帰ろうとしたら、服の袖を引っ張られていた。余りにも弱い力だったので、海斗が気付いたのは幸運だっただろう。
「あ、あの!……海斗先輩でもいいですか?」
亜耶の予想外の言葉に驚きつつも、返事をする。
「……別にいいけど。…俺なんかでいいの?防人メンバーじゃなくていいの?」
「はい!…本当は防人の皆さんと行きたいんですが、チケットも二枚しかありませんし。なら!私が皆さんより先に行って、良い所を防人の皆さんに紹介出来ればなと思うんです」
亜耶の目は本気だ、亜耶がそれでいいならそれでいいだろうと思った海斗は諦めたような顔で頷いた。
「分かった!俺が水族館の素晴らしい所を亜耶ちゃんに教えて上げよう!」
「ありがとうございます!…私が防人の皆さんに出来る事って多くないので、こう言う日常の場面で皆さんを支えたいんです!」
(亜耶ちゃんの言葉には、本当に感動させられた。やっぱいい子だな~)
「じゃあ二十五日の日曜朝八時、亜耶ちゃんを寄宿舎の前に迎えに行くから。それまでに容易を済ませて置いてね」
「分かりました!……楽しみにしてますね」
天然なのか何なのか、その笑顔は天使にも見えれば小悪魔にも見えた。
その後、家に帰った海斗はと言うと……
「カチ…カチカチ……カチカチ……」
パソコンに向かい必死にマウスを動かす海斗の姿があった。
美森はそれを微笑ましい顔で見つめている、後輩の為に頑張っている
美森に見つめられる中、海斗は必死に水族館の情報とにらめっこしていた。
-----------
十一月二五日、朝九時頃。
「混んでますねぇ~!」
「そうだね、はぐれないようにしないと」
「そうだ、海斗先輩!」
亜耶が思いついたような顔をするので「どうしたの?」と尋ねると。
「手を繋いで貰ってもいいですか?」
「手?…ああ、そういうこと…はい」
海斗は亜耶の小さい手を握る、柔らかくてほんのり温かい。
赤ちゃんの肌の様に感じる。
「まずは、熱帯魚のコーナーから行こうか!」
「はい!分かりました!」
嬉しそうに頷く亜耶をとても愛らしいと思う海斗であった。
一時間が経った、亜耶は笑顔だが海斗は苦笑を浮かべている。
海斗は亜耶の未知への興奮を舐めていた、想像以上の食いつきの良さに水族館やその中に居る生き物たちについて調べた四日間が、とても有意義な時間だったと確認できた。
熱帯魚のコーナーから入り、クラゲコーナーや蟹やエビなどの甲殻類のコーナー。
色々な所を巡り、その度に亜耶の質問攻めにあっているので若干疲れている。
「海斗先輩?大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ほらほら、触れ合いコーナーが解放される時間だよ?」
「ペンギンさんですね!行きましょう!海斗先輩!」
今日の亜耶は本当にテンションが高い、海斗はそれを嬉しく思う。
「自分に妹が居たらこんな感じだったのかな?」と思い、その考えを頭の片隅に放り捨てた。
(やっぱり、俺は弟の方が生に会ってるな)
こういう時、無意識に美森を浮かべてる辺りは相当だと言えよう。
五分も歩かないうちに触れ合いコーナーに着き、亜耶がはしゃぎ始める。
「海斗先輩見て下さい!ペンギンさんですよ!ペンギンさん!」
「だね、やっぱ生で見ると可愛いな…」
海斗が見たことあるのはテレビの中だけだ、こうやって生で見る機会には恵まれていなかった。
触れ合いコーナーに着いた亜耶は、ペンギンにモテまくり。
バケツに入った餌(五〇〇円)にペンギンが群がっている。
だが――――
「ペンギンさん、行儀よく並んでくれなとお魚さんをあげられませんよ?」
亜耶の
海斗も餌をあげてはいたが、殆どが亜耶の方に行ってしまい少し寂しい感じだった。
(亜耶ちゃんが楽しめてるならそれでいっか…)
そのまま触れ合いコーナーで思う存分ペンギンと遊んだ。
それから更に時間は流れてお昼過ぎ。
海斗と亜耶は水族館の中にあるレストランで昼食を取っていた。
「パンケーキ!美味しいです!」
「そっか、それは良かったよ」
亜耶はペンギンの型に焼かれたパンケーキを食べている、最初は「食べるのが可哀そうです」と言っていたが、海斗が「食べてあげない方が作ってくれた人もペンギンさんも可哀そうだよ」と言い納得して食べている。
海斗はフィッシュフィレオサンドイッチを食べている、水族館なのにフィッシュとはこれいかに。
レストランには水槽があり、その中には普通に魚が泳いでいる。
海斗は食べながらも、「何ともシュールな光景だなー」と思った。
(多分夏凛辺りがいたら、「何で水族館に来てるのに魚料理食べんのよ!」とか言いそうだな)
-----------
一方、その頃~
「ヘックシュン!」
「夏凛?大丈夫かしら?」
「大丈夫よ、芽吹。誰かに噂されてるのかしら?まぁ良いわ!さて!鍛錬再開よ!」
「ええ!」
鍛錬中な二人でした。
-----------
料理を食べ終えた二人は、今日の目玉でもあるイルカショーを見に行った。
「うわぁー!人がいっぱいですね!海斗先輩!前の席空いてますよ!」
「ちょっと待って亜耶ちゃん!」
亜耶は海斗の声で止まらず、前の席に座ってしまった。
イルカショーの前の席は司会の人に当てられるのは定番だけど、イルカの跳ねた水が飛んでくるのも定番だ。
海斗は一様着替えを持ってきているが、亜耶には伝えられていない為おおよそ持ってきていないだろうと踏んでいた。
時期は冬、この時期はなるべくジャンプは控えるように言われているのかもしれないが、ジャンプは目玉でもある。
多分、他の客は準備をしているだろう。
ショーが始まり数分が経った、フープ抜けやボール遊び、見事なシンクロした演技を魅せる中で司会のお姉さんが亜耶や海斗の方に寄って来た。
「こんにちはお嬢ちゃん!さて次は何が見たい?ジャンプ?それとももう一回バレーボール?」
「ジャンプが見たいです!」
「分かったわ!それじゃあ!ジャンプに行きます!お客様はご注意下さい!」
亜耶が司会のお姉さんが言ってる意味が分かってないのだろう、首を傾げている。
海斗はため息を吐き亜耶に自分のバックを持って貰う。
「亜耶ちゃん俺のバック持っててくれない?」
「はい!大丈夫ですよ!でも…さっきのお姉さんは何でご注意くださいと言ったのでしょうか?」
「その意味は今に分かるよ…」
海斗の言葉の後、イルカが高くジャンプする。その姿はとても綺麗で、亜耶は思わず見とれてしまう。
見とれている亜耶を余所に、「あと少しで水面に着く」となった瞬間。
亜耶の視界を何かが遮った。
物凄い水飛沫の音が響く、亜弥は足に少し冷たいものが当たった感覚がして直ぐに海斗に呼びかける。
「海斗先輩?どこですか?」
「ここだよ」
海斗の声が聞こえたと思ったら、いきなり視界が元に戻った。
亜耶はその時にやっと分かった。
(海斗先輩、私に水飛沫が当たらないように庇ってくれたんだ。私がジャンプが見たいなんて頼んだから…)
亜耶は先程とは一転して暗い表情になってしまう。
だが、海斗は何か感じ取ったのか直ぐに亜耶の考えを否定した。
「亜耶ちゃん、別に亜耶ちゃんの所為じゃないよ。俺がちゃんと伝えてれば良かっただけだしね。だから、そんな暗い顔しないでよ」
「海斗先輩……、はい!分かりました」
暗い表情は本当に一瞬で終わり、そこに笑顔の花が咲く。
その後、海斗は亜耶と一旦離れて着替えに行く。
「海斗先輩はまだでしょうか……」
海斗が居なくなって少し寂しいのか、しょんぼりモードの亜耶に一人の男性が近づく。
男性の足取りはおぼつかない、千鳥足のようだ。
それに加え、相当にお酒臭い。
だが、そこは亜耶だ。
男性に近づき、声を掛ける。
「あの、大丈夫でしょうか?具合が悪いんですか?係りの方を――」
その時、亜弥にナイフが向けられた。
「えっ!?」
彼女は勇者ではない、ただの巫女だ。
それ故に、戦闘能力を持たない。
「お譲ちゃーん!お名前は~!」
ねっとりとした声、全身を舐めまわす様な視線。
亜耶は初めて人に対して嫌悪感を感じた。
「こ、国土…亜耶…です…」
恐怖で上手く声が出ない、息が詰まりそうだった。
周りは悲鳴を上げているばかりで何もしてくれない、警備員も来たが相手が亜耶に獲物を向けてるために手を出せない。
「あや…かぁ。俺の娘もあやだったんだよ……」
「そ、そうなんですか…」
「でも、居なくなっちまった!俺が会社をクビにされてから、嫁は出ていきあやも一緒に出て行った。」
理不尽な感情が自分に向けられているのが分かる、亜耶の思考は段々と恐怖に支配されていく。
ここで叫ばないあたりは、少しばかり精神が強いことが分かるが。
「何で出て行ったんだ!何で俺の方に来てくれなかったんだ!なんでなんで」
明らかにオカシイ、精神が壊れているのか狂人に近い。
亜耶が叫んだ――
「助けて下さい!海斗先輩!」
海斗もまだ中学生なのに、けれど亜耶は叫んだ。
勇者として、頼れる背中を知っているから。
「おう!助ける!」
いつの間にか着替えた海斗がそこにいた。
怒りの形相を浮かべて、男性の下に近づく。
「来るな!来たらこいつを刺すぞ!」
「刺して見ろよ、その瞬間にお前は死刑確定だ」
濃密な殺気、戦闘の素人の亜耶でも分かるほど強大な殺気だ。
次の瞬間、男が亜耶を捨てて飛び出した。
ナイフを海斗に向けているが、彼はそんなこと気にしない。
近づいてくるナイフを持った右手を逸らし、鳩尾に一発入れる。
動きを最小限まで抑えた受け流し、からの怒りを込めた正拳突き。
ほんの数秒の間に、圧倒的な力の差が見えた。
海斗は倒れた男性を無視して、投げ捨てられた亜耶の方に向かう。
亜耶は相当怖かったのか、気絶していた。
でも、眠っているその顔はとても嬉しそうなものに見えた。
海斗は亜耶をおんぶしてその場を離れる、これ以上ここに居ると面倒ごとになりそうだったので潔く逃げた。
-----------
(暖かいな、後……懐かしい……)
亜耶は幼い頃から、大赦で巫女の修行をしていた。
そのためか、おんぶされた回数などたかがしれている。
片手で足りる程だろう。
「かいと…せん…ぱい…?」
「大丈夫か?亜耶ちゃん?」
「大丈夫です」
海斗からしたら少し元気がない、流石にあの事件は怖かっただろう。
運が悪ければトラウマものだ、それでも少し元気がないだけで済んでる亜耶は相当に精神が強かったのだろう。
それか、よほどのこと彼を信頼していたかだ。
「ゴメンな、ことになっちまって」
「謝らないで下さい、……嬉しかったんです。周りの人は刃物の所為で誰も動けなくて、でも海斗先輩だけは助けてくれた」
「……別に、亜耶ちゃんが名前を呼んでくれたから分かっただけだよ」
亜耶は海斗に感謝して、海斗は亜耶に罪悪感を抱いていた。
「海斗先輩!今日はありがとうございました!」
「…亜耶ちゃんがいいならそれでいいか、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう!」
二人の間を静寂が包む、先に口を開いたのは亜耶だった。
「海斗先輩…」
「…何かな?」
「……もう少し、このままでもいいですか?」
「いいよ、ごゆっくりどうぞ」
亜耶をおんぶしたまま帰路を歩く。
背中に温もりをと亜耶の寝息を感じる。
海斗は幻視した、自分が兄で美森が妹だった可能性を。
亜耶は夢に見た、父の背中に乗ってはしゃぐ自分を。
帰路の中、その日の気温は寒かったのに二人の心はとても暖かかった。
亜耶ちゃんの景夜に対する感情は兄とかそんな感じで、海斗に対しては未発達な恋愛感情に近いものが向けられている。
神世紀では、水族館でペンギンの触れ合いコーナーはやイルカショーがあるのは稀という、オリジナル設定。
というか、そうじゃなかったら四国以外が滅んだ世界でペンギンやイルカがいっぱいいるとかありえない気がする