東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

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 すみません!
 今年初の本編投稿、おゆるしください!


第十四話「変わりゆく季節の中で」

 美森以外の勇者部員は先に退院し、普通に登校が再開された。

 一日の授業を終えた教室は騒がしく、たむろってお喋りする者も多い。

 海斗と友奈は手早く荷物を纏めて教室を出る。

 

 

「今日からは普通に部活だね」

 

 

「前までが可笑しかっただけさ、これからはいつも通りだよ。ただただ青春を部活に捧げて、学生生活を謳歌する」

 こんなことを言っている張本人が、未だに勇者として戦っているのだから救いようがない話である。

 

 

「結城友奈来ましたー!」

 

 

「同じく、東郷海斗来ました」

 扇風機にで涼んでいた風も、海斗たちが来たことに気付き、ドアの方に顔を向ける。

 

 

「おう、お疲れ~」

 気の抜けたような風の挨拶が響く中、彼女の目にある黒い眼帯に二人が気付く。

 

 

「風先輩眼帯が……」

 

 

「変わりましたね」

 

 

「どうよこれ?」

 風がドヤ顔で二人に尋ねると、友奈がやたら高いテンションで返答する。

 

 

「ちょーカッコいいですー!」

 

 

「いいんじゃないんですか」

 一方海斗は、冷静な態度を保ちつつ返答する。

 

 

「えへへ、私もイケてると思ってたんだー!ところで、夏凜は?」

 

 

「あれ?来てないんですか?」

 

 

「むむ、サボりか?後で罰として腕立て伏せ千回とかやらせよう」

 

 

「夏凜だったら平気でやりそうですけどね」

 みんなが容易に想像できる光景に、樹がスケッチブックを開きながら笑みを浮かべる。

 

 

「否定できない……サプリをキメながら朝飯前よ!てっ言って――」

 風が何か言葉を続けようとしたが、樹の行動を見て言葉を止める。

 

 

かりんさん何か用事があったんでしょうか?

 先程の行為はスケッチブックに言葉を書こうとしたものらしい、筆談というやつだろう。

 

 

「そうかもね」

 

 

「そのスケッチブックは?」

 友奈の質問に答える為、スケッチブックに文字を書き始める。

 

 

これで話せます。お姉ちゃんの提案です

 

 

「声が治るまでの応急処置、少し我慢ね~」

 

 

「筆談みたいなもんだよ、友奈」

 

 

「なるほど」

 そんな会話をしていると、風が今日の活動について話し出す。

 

 

「さて、今日の活動だけど……四人しかいないのよね~、衣装のこと話したかったんだけど」

 

 

「衣装?」

 友奈は何のことか把握できていないのか、疑問形で返してしまう。

 

 

「文化祭の衣装のことだよ、お前が言い出しっぺだろ?」

 

 

「ああ、そうでした!」

 

 

「勇者の活動が一大事だったから忘れてたでしょう?」

 

 

「あはは……」

 友奈が苦しい笑い声を出す中で、風は落ち着いて今日の予定を立てていく。

 

 

「まぁ、でも、三人だけじゃ話し合いもあんまり意味ないし……他の事だと」

 

 

他の部の手伝いは?

 

 

「そうそう、剣道部から練習に付き合って欲しいって依頼メールが来てたのよね。てそれ、夏凜をご指名か。夏凜は居ないから今日は無理っと」

 風は改めて他の依頼を探し始める。

 

 

「えーっと、他には?あっそうだ、ホームページの更新は」

 

 

「私たちが入院してる間、更新が止まってましたからね……あっ、でも~」

 友奈がオロオロし始める。

 

 

「どうしたの」

 

 

「東郷さんが居ないと更新のやり方が分からないです~」

 

 

「いや、俺出来るけど」

 友奈と風が揃って海斗のことを見つめる。

 

 

「でもアンタは記憶が……」

 

 

「大丈夫です、舐めないで下さい!学校復帰までに、持っていた知恵や技能は再習得しました。不肖ながら、この東郷海斗がホームページの更新を任させてもらいます」

 

 

『海斗先輩、凄いです!』

 キメ顔で言う海斗に対して、樹は文字で、風と友奈は感嘆の声を漏らす。

 

 

「でも、それが終わってからはどうしましょう」

 

 

「そうね、猫の飼い主になれる人はまだ見つかってないし……」

 

 

できる仕事ないね

 

 

「だね~」

 樹の一言?一文により、部活の雰囲気はだらけモードに入りつつある。

 

 

「仕方ない!だらだらしよ~」

 

 

「そうですね~」

 二人の息が合い、部活は完全にだらけモードに入っていた。

 

  

 

 海斗が手早くホームページの更新を進めていると後ろから声が、

 

 

「東郷のお菓子が足りない!」

 

 

まず食べ物なの?

 

 

「俺、クッキーだったら作って来ましたけど。……食べます?」

 

 

「「食べる!」」

 

 

私も食べたいです

 海斗の言葉に全員が飛びつくように反応する。

 

 

「にしても海斗、アンタは料理上手いわよね。やっぱりハイスペックだわ、そういう男はモテるわヨ~」

 

 

「別に姉貴ほどじゃないですし、本当に作れる程度ですよ」

 そう言って海斗は、バックの中からタッパーに入れてきたクッキーを取り出す。

 開けた瞬間、バターの良い香りが部室中に広がっていく。

 

 

とても良い匂いですね

 

 

「だね、海斗君はやっぱり手先が器用」

 その後も、だらだらと過ごして今日の部活を終えていった。

 

  -----------

 

 部活後、友奈と海斗は美森のお見舞いにやって来ていた。

 美森の散華は左耳、これで満開した勇者の散華した部位が全員分分かった。

 海斗は二人が話す姿をただ見守るのみで、何もしようとしない。

 記憶が無くなり、記録で補填しているものの下手を打つとボロが出る。

 その為か、二人の会話に上手く入れずにいた。

 友奈相手だったらどうにでもなる。

 

 

 察しが良い彼女だが、海斗が嫌そうな素振りを見せれば深く聞こうとしない。

 美森は違う、優れた観察眼と洞察力で海斗のことを揺さぶる。

 付き合いが長いこともあり、勘で相手の考えを的中させたりする。

 

 

「じゃあ、東郷さん。また来るね」

 

 

「ええ、楽しみにしてるわ……海斗は話があるから少し残って頂戴」

 

 

「……友奈先に帰っててくれ、すぐに追いつく」

 

 

「うん」

 友奈の足音が聞こえなくなった頃に、二人の会話は始まった。

 

 

「海斗……満開の後遺症。あなたは何か聞いていない?」

 

 

「聞いてるって言ったら、どうするの?」

 

 

「問いただすわ」

 美森の突き刺すような視線を受けながらも、海斗は微塵も動揺した様子を見せない。

 

 

「……知ってる、けど言えない」

 

 

「何故?何か特別な理由があるの?」

 美森の質問に海斗は臆さず本音を出す。

 

 

「その結果を知って、死ぬほど後悔をする人がいるから。……それに、戦いはもう終わった。この後はバーテックスのことなんか忘れて、普通に日常を生きていればいい」

 

 

「あなたの答えはそれなのね。分かったは、無理に問いただそうとは思わない。……早く帰りなさい、友奈ちゃんを一人で帰らせる気?」

 

 

「了解、すぐに帰りますよ」

 そうして、病室を後にする。

 帰り道、海斗には夕暮れの空が妙に赤黒く見えた。

 

  -----------

 

 あれから数日、四人だけの部活が続いたある日。

 

 

「悪い友奈、今日は部活に行くの遅れる」

 

 

「分かった、風先輩に伝えとくね。……それで、何かあるの?」

 

 

「夏凜を連れ戻しに行くんだよ、もし遅くなってたら友奈も助っ人に来てくれ」

 海斗の言葉に笑顔で頷く友奈、頼りになる笑顔を見た海斗は部活のことを友奈に任せて夏凛を捜索しに行った。

 

 

 どれほど時間が経っただろうか、スマホに入っている記録を見ればヒントが見つかるかもしれないが、それを使わずに探したかったのである。

 時刻を見れば四時過ぎ、説得や帰りの時間も考えるとそろそろ見つけないと不味い時間だ。

 そんな考えを浮かべる中、気付けば砂浜の方まで来ていた。

 

 

「潮風が気持ちい……って違う違う!夏凜探しの続きを」

 

 

 だが、何故か自然と足は砂浜に向かっていた。

 記憶なんてないのに、それでも魂が覚えていた。

 

 

 砂浜に居た人影は一人、一心不乱に二つの木刀を振る少女がいる。

 その動きはとても洗練されている、我流になんて見えない。

 剣舞は美しく、夕日も相まってかその光景は、まるで幻想のように見える。

 息をするのも忘れそうな綺麗な剣舞。

 少年は見惚れていた、吸い込まれるように見入っていた。

 

 

 やがて、剣舞が終わったのか砂浜に尻餅をついて座る。

 やっと正気に戻った海斗は、歩いて夏凛の下に近づいた。

 

 

「よっ、夏凜。さっきの型、凄く綺麗だったぞ。正直見惚れてた」

 

「はぁっ!?い、いきなり会いに来て、開口一番それってアンタはどんな神経してんのよ!」

 いきなりツッコミを喰らったが海斗はそんなのどうでも良い、今日会いにい来たのはそんなことが言いたくて来た訳ではない。

 

 

「ねぇ夏凜?」

 

 

「何よ」

 

 

「部活来ないの?」

 

 

「……もう私には行く意味はないわ。お役目は終わったしあの部活に居たのも連携をする為だし。お役目が無くなった今、私は学校に行き続けることが出来るかすら分からない」

 これは本音ではない、海斗には分かる。

 ここでも、(こころ)がそう言ってる気がしたから。

 

 

「それは夏凜自身の言葉じゃない、ただ単に事実を言ってるだけ。……なぁ、夏凜はどうしたいんだ?」

 

 

「私は……私は……分かんない。友達とか仲間とか、まだ良く分かんない。アンタと友達になって、アイツらとも友達や仲間になった。でも、私にはまだ上手く分からない」

 

 

「だったら、あそこで学べばいい。友達や仲間がどいうものか、そうすれば勇者部にも入れて一石二鳥だ。お前はもう大赦の勇者じゃない、ただの三好夏凜としてこれからを歩んで行けばいい」

 海斗なりのアドバイス、記憶を失った者の言葉など薄っぺらく感じるが、この少年の言葉はどこか厚みがある。

 どこなのかは分からないが、夏凛はそう感じていた。

 

 

勇者部(あそこで)、答えが分かるように学ぶ……か。アンタも良い事言うじゃない。海斗今から行きましょう、何か手土産持って」

 

 

「よし来た!ここの近くに良い店がさ――」

 海斗が言葉を止める。

 その瞬間、世界が切り替わった。

 

  -----------

 

「またここか、いい加減慣れて来たな」

 

 

「良い事だ、小僧。敵が来てる早く変身済ませろ」

 

 

「落ち着けば何ともないようで安心した。手早く済ませてしまおう」

 変身を済ませて辺りを見渡す。

 新しいお役目に着いてから三回目の襲撃、襲撃のスパンが短いので下手に精霊降ろしが出来ない。

 

 

「数は少ないな、進化体が二体……げっ!スコーピオンにレオ系の奴か。その他は、星屑が千ちょいってところだな」

 

 

「結構少ねぇが、油断すんじゃねぇぞ」

 

 

「心して掛かれ、でないとやられるのは私たちだ」

 

 

「了解!信長に鳳凰、行くぞ!」

 地面を蹴って空を駆ける、少年は戦う。

 大切な人たちが平穏を過ごせるように。

 

  -----------

 

 また日が開いて数日、あの後はしっかりとお役目を終えて夏凛と部活に帰った。

 美森も退院して、勇者部は一様の復活を果たした。

 完全ではないが……

 そして、その状況を観察する者が一人?いや一羽の方が正しいか。

(……このまま平穏を、とは行きそうにないな)

 

 

 また会議を開くべきだろうかと考えながら空を飛ぶ。

 少しづつ移り行く季節の中、変わろうとしているのは季節だけではなく他の大切ななにかも変わっていく。

 日常が非日常という毒に完全に汚染されてしまう日も近いのかもしれない。

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

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