東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

33 / 42
 遅れてスンマセン!


第十五話「最高の日で最悪の日」

 夏休み、それは学生たちにとって魅惑の言葉。

 海斗はあまりそうは思わないが、友奈たちにとっては違うようである。

 

 

「海だー!」

 

 

「綺麗ね」

 

 

「海だな……」

 大赦がバーテックスを全て倒したご褒美として合宿を用意してくれたのだ。

 勿論、そんなのは建前だ。

 いつの時代も人身提供に優しくしない者などいない。

 

 

 海斗の事情を知らない勇者部一行は、この旅行を存分に楽しもうとしていた。

 

 

「人は結構いるわネ、ナンパされたら困っちゃうわ」

 

 

「自信ありげに言ってるけど、ナンパされたところで付き合わないでしょ」

 

 

女子力のせいで?

 

 

「うるさい!兎に角、樹の言う通り女子力があれば交際なんてお茶の子さいさいよ!」

 騒がしいが、それすらも心地いい。

 最近、お役目の所為で疲れ気味の海斗には、勇者部のみんなと居るこの時間が唯一の癒しに近かった。

 

 

 荷物は既に送っており、女子組はパラソルやらシートやらを海斗に任せて着替えに行った。

 海斗も直ぐに着替えを済ませて、外でシートやらパラソルの準備をして待つ。

 数分もしない内に夏凜がやって来た。

 

 

「早かったな」

 

 

「アンタ一人だと大変そうだと思ったから、手伝いに来たのよ」

 

 

「サンキュな、じゃあそこにあるワニの浮輪に空気入れといてくれ。空気入れは一緒に置いてあるから」

 

 

「そ、………あのさ……海斗から見てこの水着変じゃない?」

 スポーツタイプのビキニだろうか、全体的に白と赤で構成されていて夏凜に似合っている。

 

 

 海斗は思ったままのことを伝える。

 

 

「カワイイと思うぞ?てか、友奈たちと買ってきたんだから似合ってない訳ないだろ」

 

 

「か、カワイイ!?ば、バカ!いきなり何言うのよ!」

 

 

「だって、お前が変じゃないって聞くから……思ったことを言ったんだが」

 

 

「~~~~~‼‼」

 恥ずかしいのか、勢い余って浮輪をパンクするほど大きく膨らまされている。

 

 

「お、おい夏凜!やり過ぎやり過ぎ!」

 

 

「へっ?ああああ!こ、これどうすれば」

 

 

「ああもう!」

 慌てながらも何とか空気を抜き、通常の大きさにする。

 海斗はこんな展開が今日何度もあるのかと思うと気が重くなるが、()はそれが良いんだと微笑んでいるような気がした。

 

  -----------

 

 いつの間にか、全員が揃いみんな海に入っている。

 

 

「みんな楽しそうでいいな……俺も行きたいけど行ったらこの荷物見てる人いなくなるしな~」

 

 

「行けよ相棒、ここは俺らが見といてやる」

 

 

「そうだ、海斗よ。ここには私たちが居る、もし悪人が来たなら聖火で炙ってやる」

 

 

「結構えげつないこと言うな鳳凰、まぁお前たちがそう言うなら……」

 海斗もシートから腰を上げて、友奈たちが居る方に走る。

 

 

「お~い、俺も混ぜてくれ!」

 

 

「いいよ~、海斗君も一緒に潜りっこしよう。東郷さんが喜ぶもの拾って来た人の方が勝ち」

 

 

「いいぞ」

 ワニの浮輪に乗っていた友奈も海面に降りて、準備をする。

 美森はどこかで借りて来たのか、特殊な車いすに乗っている。

 後ろにはライフセイバーの方が立って、車いすを操作している。

 近くに樹も居たのか、準備オーケーと言う意味で親指を立てている。

 

 

「あまり無理はしちゃダメよ?」

 

 

「了解!」

 

 

「あいよ」

 美森の注意に樹も頷いて返す。

 その後は合図をスタートに、全員が潜って目当ての物を探し始める。

 海斗はすぐに目当ての物を見つけた。

 

 

(綺麗な碧色の石だな……真珠?……なわけないか)

 すぐさま拾って息が辛くなる前に海面に浮上する。

 

 

「プハァ!……友奈に樹ちゃんも早いな、そんなに良いの有ったのか?」

 

 

「ふっふっふ!これだよ!」

 友奈が見せて来たのは、あまり大きくないサンゴ礁だ。

 赤く綺麗な色合いをしており、彼女に良く似合っている。

 

 

 ……だが、

「友奈、ちょっと大きすぎないか」

 

 

「フルフル!」

 海斗の意見に樹も賛同するかのように首を振る。

 先程あまり大きくないと言ったが、それは平均的なサンゴ礁から見ての話だ。

 三十cmほどあるため、流石に持ち帰りずらい。

 

 

「良いじゃない海斗、友奈ちゃんが折角持って来てくれたんだもの」

 

 

「あのなぁ……で、樹ちゃんはどんなの?」

 樹は勝ち誇ったような笑顔で握っていた手を開く。

 中には、色鮮やかな貝殻が。

 

 

「綺麗ね……ありがとう樹ちゃん♪」

 美森の言葉に嬉しそうに微笑む樹、それを眺めながら海斗は思う。

 

 

(何か、俺の探してきた物……浮いてるな)

 一人だけガチでやっているようで気まずくなりながらも、美森の取って来た物を渡す。

 

 

「はい、これ」

 

 

「……とても綺麗、ありがとね海斗」

 とても優し笑顔で感謝をする美森に一瞬見惚れてしまい、すぐさま顔を逸らす。

 

 

「……どういたしまして」

 その後は、スイカ割りをしたり砂でお城を作ったりと夕方頃まで遊び倒した。

 

  -----------

 

「はぁ~いい湯だ」

 旅館の温泉に浸かりながら、遊び疲れた体を癒す。

 

 

「相棒の言う通り、いい湯だよ。鳳凰もそう思うだろ?」

 

 

「そうだな、とてもいい気分だ。湯浴みをするのもいいものだな」

 精霊の二人?いや、一人と一羽も温泉を楽しんでいる。

 

 

「そりゃ良かったよ、お前たちには荷物番してもらったしな。そのお礼だと思ってくれ」

 海斗の近くには、ジップロックのような防水用の袋に入ったスマホが見える。

 

 

「ありがとうな相棒、タマにはこういうのがないとつまらないしな」

 

 

「ああ、海斗には感謝している。わざわざそんな物まで使わせて」

 そんな物とは、恐らく防水用の袋のことだろう。

 だが、海斗からしたらあれは元々海に入ってると時でもお役目を果たせるようにの配慮に近い。

 

 

「別に、気にしなくていいのに」

 

 前回のお役目は二日前だ。

 海斗からしたら、最近はお役目の回数が多すぎて数えるのも嫌になってきている。

 酷い時は、一日二回もお役目の為に樹海に駆り出される。

 後何回、この身を削って戦えば戦いが終わるのだろうか。

 いつしか、暇になればそんな事ばかり考えてしまう。

 

 

 精霊降ろしがあるお陰で大分楽になっている、鳳凰のお陰で傷や疲れは直すこともできるので海斗はまだバレていないと思っている。

 実際の所は、勇者部の殆どが海斗の可笑しな点に気付きつつある。

 

 

「……相棒?大丈夫か?何か悩みがあるなら聞いてやるぞ、これでも人生の先輩だからな」

 

 

「悩み事……それがさ――」

 海斗は打ち明ける、それを聞いた信長は静かに優しく話し出す。

 

 

「悪く言ったら代理戦争に近いこの戦いは、天の神を倒さないと終わらない。だが諦めるな、お前が勇者になった意味は必ずある」

 

 

「信長……」

 

 

「それに俺と鳳凰が付いてる、もしもの時はお前の為に(霊核)を懸けてやる」

 その言葉が温かくて、その言葉が嬉しくて、自然と流れそうになった涙を拭いて風呂を出ようと腰を上げる。

 

 

「信長に鳳凰、お前らが俺の精霊で良かった……」

 

 

「へへ」

 

 

「ははは、海斗も素直になると可愛いものだ」

 

 

「うっせ!」

 海斗はスマホを取って風呂を出る。

 タオルで体を拭き、部屋着用に貸し出された浴衣を着て、ドライヤーで髪を乾かす。

 

 

 その工程をさっさと済ませて、みんなが待っているであろう部屋に戻る。

 

 

「ただいま~。って!もう飯食ってるのかよ」

 友奈が美味しそうに食べてるのを見て、味覚がないなりに食事を楽しもうとしてるのが分かり、海斗は嬉しい反面辛くもあった。

 

 

「遅かったね海斗君」

 

 

お風呂どうでしたか?

 

 

「気持ちよかったよ。俺は夏凛の隣に座ればいいのか?」

 友奈たちはご飯を食べてから温泉に行く為、海斗を待っていたのだ。

 まぁ、既に食べ始めているが。

 

 

 御櫃(おひつ)のある方は、美森・友奈・樹の順で、その反対側に夏凜・風が座っている。

 美森の反対側の席が空いており、そこに座るらしい。

 

 

「そうヨ、アンタ男の子なんだしいっぱい食べるでしょ?私たちなりの配慮よ」

 

 

「ほら、早く座りなさい。ご飯よそって上げるから」

 

 

「となると、場所的に姉貴がお母さんか」

 お母さんは分かりやすく言うと、ご飯の近くに居ておかわりの時によそってもらいう人のことだ。

 昔、母親が炊飯器を近くに置いて、家族の為におかわりをよそっていたことから言われてるらしい。

 この時代の海斗達からしたら分かることではないのだが。

 

 

「東郷が母親か厳しそう」

 

 

「門限を破る子は柱に貼り付けます」

 

 

「ひっ」

 海斗から小さな悲鳴が漏れる、度々門限破りをしている海斗からしたら恐ろしい言葉だ。

 

 

「まぁまぁお前、そこまでしなくても」

 

 

「あなたが甘やかすから」

 

 

「おいおい夫婦か?」

 

 

 海斗のことを庇ってるのか、それともただオフザケでやっているのか、友奈の行動は時たま分からない。

 

 

「時々言ってるけどさ、こういうのを日常的食べられる身分になりたいわよね。自分で稼ぐなり、イイ男見つけるなりで~」

 

 

後者は女子力が足りませぬ

 樹の言葉は最もなのだが、風はそれでもう~んと顔を悩ませる。

 

 

「そうかな?この浴衣姿から匂い立ってこない?」

 横に居る夏凜はそれを華麗にスル―して、食事を続ける。

 

 

「ちょっと夏凜、刺身は人数分しかないんだから二つ取ったらダメよ」

 

 

「ブツブツ言ってるのが悪いのよ。て言うか、女子力言うなら東郷姉弟の所作を見習いなさいよ」

 二人の所作は美しい、海斗もやろうと思えばこれくらい出来るのだ。

 美森と海斗の所作は完璧で、それに加えて殆ど同じタイミングで同じ物に手を付けている。

 

 

「おお~!ただ普通に食べてるだけなのに」

 

 

うつくしい!

 友奈も樹も関心してるが、二人にとってはちゃんとした食べ方と言うのはこういうものだ。

 

 

「さっすがお嬢様にお坊ちゃま、やるわね」

 

 

「そんなに見られたら、食べ辛いです」

 美森は気にしてるが、海斗は全く気にせず食べ進めていく。

 

 

「ま、私もそこそこマナーには五月蠅いけど、ね!」

 

 

それがすでにアウトです

 

 

「え、嘘!」

 

 

「姉貴おかわりくれ。それと夏凜、樹ちゃんの言ってることは本当だ。迷い箸に刺し箸、調べたら出てくるぞ」

 樹と海斗に指摘され、自分の食べ方がアウトなことに気付く。

 

 

「まぁ、あんまり細かい事は気にしなくても」

 

 

「そう、食事は楽しむのが一番!」

 

 

「最低限のマナーさえ守ってれば善いのよ!」

 友奈のフォローのお陰か調子付く風と夏凜。

 

 

「おおー!そうだそうだ!」

 結局友奈もそれに乗っているので、怒り用もない。

 

 

こういう時は団結するんだ

 そして、時は過ぎ女子組はお風呂に行った。

 

 

 海斗はその間、持ってきたノートパソコンにUSBを刺してWor❍で日記を書き始める。

 これは、前の自分がやっていたことなので継続している。

 もしかしたら、今後同じ症状が出るかもしれない。

 いつ自分がまた満開するか分からない。

 そこまで追い詰められないことを祈るが、希望的観測はし過ぎない方が良い。

 

 

 日記を書き終わった後は、布団を敷きみんなの帰りを待つ。

 二十数分程でみんなが帰ってきて、海斗にお礼を言いながら布団に入っていく。

 場所は襖の手前側から、樹・風・夏凜でその反対側に海斗・美森・友奈の順だ。

 

 

「ホントに俺が一緒の部屋でいいの?」

 

 

「なーに言ってんのよ、アンタも勇者部員でしょうが。当然よと・う・ぜ・ん」

 風の言葉に押し切られ、布団に入る。

 

 

 本当は、みんなが帰ってくるまで海斗は押し入れで寝ようとしてたのだ。

 話は変わり、話題はコイバナに。

 

 

「で、では誰かに恋をしている人~?」

 

 

「「「「『…………』」」」」

 無言、誰も手を上げないと思った最中。

 海斗が手を上げる。

 

 

「「「『!?』」」」

 全員が反応する、だが美森だけは何故が納得したような表情をしていた。

 海斗の交際の記憶、彼女の推測が正しければ彼は自分の想いを秘め続ける為にそんなことをしていたのだ。

(記憶をなくしても、それでも想い続ける人)

 何故想いを秘め続けるのか、恐らくだがその相手は本当ならそんな想いを抱いていけない人。

 

 

 美森はそこまで予想していた、だからこう思うのだ。

(もし、もしその相手が私だったなら、どれほど嬉しいことか)

 美森も段々と自分の想いを隠し切れなくなっていた、少しづつ心の壁は無くなっていき昔に戻りつつあった。

 海斗の記憶が一部ではあるが無くなってしまい、彼との距離がまた少し開いてしまう。

 そのこともあってか、好意が少しづつ暴走し始めている。

 

 

「記憶が無くなっても魂が叫んでる気がして、その人のことを思うと少し胸が痛いかな」

 

 

「海斗を落とすなんて中々やり手ね、こんなに可愛い子揃いの部活に居るのに」

 

 

「そうですね……」

 記憶が無くなっても海斗は海斗。

 海斗が想う相手はただ一人、東郷美森だけだ。

 

 

(記憶をなくしてからもあったこの想いは、きっと偽物なんかじゃない)

 自分に関する記憶、その全てを失った海斗だが、他者のちょっとしたものだったら覚えている。

 本当に些細なもの程度だが、昔のことも自分が何をしたのかは覚えてないが他者が何をしたのかは覚えていたりする。

 その後は、特に盛り上がることはなく。

 夏凜が寝たのを皮切りに、電気を消した。

 

 

 美森の怪談が炸裂したが、夏凜の寝言によりあえなく粉砕。

 みんな就寝についた。

 

  -----------

 

 海斗の安眠を打ち破ったのは、他でもないバーテックスたちだった。

 

 

「……おいおい、こんな時間に普通来るか?」

 

 

「まぁしょうがねえだろ、相手が安心した時を狙うってのは案外悪くない作戦だ」

 

 

「まぁ、下種の極みに近い考えだがな。行くぞ海斗、少女の平穏を守る時だ」

 何とか体を起こし樹海化に備える、周囲の時間は止まっており誰も気づかない。

 

 

 数瞬の間に世界は変わり、見慣れた戦場が目に映る。

 勇者装束に着替えて辺りを見渡す、敵の数は星屑が千程度、もっと来てもいいはずだが海斗にとっては嬉しい誤算だ。

 

 

「案外数が少ない、これならすぐに終わりそうだな」

 

 

「ああ、相棒もちゃんと寝ないと身体に不調をきたすからな」

 

 

「眠くなったら言ってくれ、熱いのをやろう」 

 

 

「遠慮しとく……さて、今回もお役目を果たしますか」 

 いつもの刀と火縄銃を構えて、敵を待つ。

 

 

 慣れてきたが、流石に真夜中は辛い。

 時間的には三時過ぎ、最高に眠いタイミング起こされた為少し怒り気味の海斗が星屑を駆逐していく。

 十数分もしない内に戦いは終わり、浴衣姿で布団の上に立っていた。

 結局、この後は一睡もすることが出来ず。

 美森が起きるまで一人で悲しく海を眺めていた。

 

 

 神世紀三〇〇の夏、人が成長し進化するように天の神も変わりつつあった。

 悪い方向に……だが。




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。