謎の空間で、柊景夜を名乗る銀髪の少年に会った海斗。
数分の間、フリーズしていた海斗だったがなんとか正気を取り戻し会話に戻る。
「ええ~っと、景夜でいいか?」
「どうとでも、好きなように呼べばいい」
まだ、驚きの感情が抜けていないのか少し変な喋り方になっている海斗。
そんな海斗を見ながらも、景夜はなんでもないような表情で返事をする。
「質問の続きなんだが、ここは一体どこなんだ?」
海斗の質問に、景夜は間髪を入れず答える。
「ここは神樹の中だ、やけに温かく感じるのも神が近くに居るからだな」
質問していない部分まで答える景夜に引きながらも、質問を続ける。
「じゃあ、二つ目だ。何で俺はここに居るんだ?」
この質問も、景夜は待ってましたと言わんばかりの表情で話し始める。
「実はだな――」
景夜によると、海斗の心身は精霊降ろしによる負荷でボロボロになってしまったらしい。
体は現実世界にあり、神樹の神々による加護で疲労や怪我を回復。
心……魂はこの世界にいることで自然に回復するらしい。
因みに、あっちに居る体は魂が抜けた空っぽな状態らしく抜け殻に近いそうだ。
景夜が海斗にした説明はこの程度の簡単なものだが、本当はもっと複雑な事態である。
「――、てなわけだ。簡単にまとめて話したが、どうだ?理解は出来たか?」
海斗は話を聞きながらも、顎に手を当てて考え込んでいた。
「……美森ちゃんや友奈たちはどうなったんだ?」
「ああ、あいつらの身体は次期に治る……いや治るわけではないんだがな」
景夜の言葉に引っ掛かりを覚える。
(治るのに……治らない?どういうことだ……)
「う~~ん、何て言えばいいのか分からんが。何でも神樹が散華で供物にした部分を、新しく作り直して返してくれるらしい」
「ほ、本当なのか!?だったら、園子の身体やみんなの身体も……」
「ああ、しっかり元通りになるはずだ。……だけど、忘れるなよ。作り直した部分が完璧に馴染むまで時間がかかる、記憶の場合だと少しづつ回復していく感じだ思ってくれ」
喜びをあらわにする海斗に対して、景夜は努めて冷静に話を進める。
「最後に二つ伝えなきゃいけないことがことがある。一つはお前の身体について」
「俺の身体?」
景夜の話し方は穏やかなものではない、相当不味いことなのだろう。
「お前の身体は今、神の加護によって回復している。それは教えたな?」
「ああ、けどそれに何かあるのか?」
段々と深刻化していく空気を感じて海斗は固唾を飲んだ。
次の言葉が恐ろしく感じる。
「加護による影響の所為なのか、お前の神樹との親和性が跳ね上がった。要は、勇者としてのレベルが飛躍的に上昇したってことだ」
「な、なんだ。別にそれだったら良い事じゃないか?」
少し拍子抜けな顔をする海斗に対して、景夜は真剣な顔を変えずに話を続ける。
「馬鹿、話を最後まで聞け。二つ目は神樹の寿命だ、これが厄介になってくる」
拍子抜けさせてからの、特大級の爆弾を放り込む景夜。
海斗はもう、頭の中の情報が大渋滞を引き起こしていた。
「神樹様の寿命?それとさっきの話に何の関係性が……」
恐る恐る尋ねる海斗に、景夜はゆっくり深呼吸をしてから話し始めた。
「これは、三百年前の話だ。まだ、俺が生きていた頃の話」
景夜が語り出したのは、大社が大赦になってすぐの話だ。
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神世紀一年の秋、大赦本部にて――
「……今、何と仰いましたか?」
ひなたの表情は努めて笑顔だ、だがその笑顔から出るオーラは尋常ではない。
「ですから!次世代の勇者候補で一番適性の高い者を、供物として神樹様に捧げればいいのではと言ったのです。壁の結界補強にも繋がりますし、神樹様の寿命問題も改善――」
ある大赦職員が言葉を続けようとした瞬間、ひなたの横に居た華恵が声を荒げた。
「そんなこと!許されると思ってるのですか?!人柱なんてものは――」
そして、声を荒げた華恵をひなたが制する。
「華恵さん、落ち着いて下さい。……あなたは確か、三ノ輪さんでしたか。今すぐにこの場から立ち去りなさい、二度は言いません」
ひなたの言葉に込められた怒気凄まじいもので、その場にいる全員が冷や汗をかいていた。
「か、勝手にしてください‼俺はやりますからね、いずれこの大赦を変えてみせます」
その後、三ノ輪という男を見たものは居なかった。
だが百数十年後に、三ノ輪が言っていた作戦は実現される。
変わってしまった大赦の手によって……
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「つう訳だ。こんな感じで、もしかしたら大赦の一部はお前の事を狙ってくるかもしれない。気を付けろ」
景夜の話を聞いて、まだ半分ほどにしか理解できていない海斗だったが、自分の身や周りに今後危険が訪れるかもしれないということは理解した。
「何となくは分かった……でこの後はどうするんだ?話すことは終わったんだろ?」
海斗の言葉に景夜は少し考えて、渋々と言った表情で言葉を吐く。
「お前の身体が治るまで暇だしな、俺が体験した昔の話でもするか……。どうだ、聞きたいか?」
「聞きたい!」
景夜の言葉に、海斗は目を輝かせながら返事をする。
資料は腐るほど読んで来た海斗だが、実際に話を聞くのは今までなかった(有り得ない)ので鼻息を荒くしている。
「お、おう。なんだか、そういう所はひなたに似てるな……。さぁて、何処から話すか――」
少しだけ昔のことを思い出した景夜だが、今は取りあえず目の前に居る自分の子孫でもある少年の為に時間を使おうと思い、長い長い昔話を語り出した。
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友奈が目覚めた、まだ車イスで行動しているが順調に回復している。
海斗は……
「海斗……ごめんなさい。私たちはあなたにとても酷いことを」
「母さん……もういいの、きっと海斗だって許してくれるわ。それより仕事に戻らないと不味いんでしょう?任せて、この後は友奈ちゃんや勇者部のみんなも来るし」
泣いている美雪を慰めながら、出来るだけ明るい声と笑顔で彼女を見送る。
「…そうね、私は先に出るけど美森ちゃんも早く帰ってくるのよ?」
「うん、早めに帰るようにする」
病室には海斗しかいない、ここは個室なので広いが少し物寂しく感じる。
「ねぇ、海斗。友奈ちゃんね、もう起きて歩けるようになったのよ。文化祭も何とかなりそうで、早く帰ってこないとあなたのやるべき仕事がなくなってしまうわよ……」
海斗はなんの反応もしない、目に生気がなく。
ただただ、吸い込まれるような深淵が瞳に映っていた。
「……それとね、みんなの身体ももう完璧に治ったの。神樹様が供物を返してくださったんですって、記憶も戻ってそのっちや銀に会って来たわ。銀はまだ目が覚めてないけど段々回復の方向に向かってるらしいの」
必死に声を作って、必死に笑顔を作って、心をすり潰すように言葉を紡ぐ。
「……何で、あなただけ目覚めないのよ!罰を受けるなら私じゃない!なんで……どうして……」
耐えきれなくなった美森の感情が、涙になって瞳から零れ落ちた。
怖い、大切な人が遠くに行ってしまったかのような感覚。
辛い、愛する人をこんな状態にしてしまった原因が自分にあることが。
苦しい、こんなにも近くに居るのに、心が全然触れ合うことの出来ない状況が。
「私の味方で居てくれるって言ったじゃない!例え世界を敵に回しても、私の味方であり続けるって言ったじゃない!だったら、だったらずっとそばに居てよ。もう、私を置いてかないでよ!」
自分でも何を言っているのか分からない、でも言わずには居られなかった。
それほどまでに、彼のことを想っていたから。
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「もう、私を置いてかないでよ!」
声が聞こえた、忘れてはいけない人の声が。
「行かなきゃ!」
「まて、海斗!まだ早いっての、もう少し時間を」
「これ以上は無理だ、これ以上ここに居たらまた美森ちゃんを傷つる!それだけは御免だ」
焦っているのだろう、この場所からの出方など分かりもしないのに飛び出そうとしてるのだから。
「だ~か~ら、少し待てって。……若葉~!来てくれ、帰りたいってさ」
景夜が若葉と呼ぶと、青い一羽のカラス……いや八咫烏がどこからか飛んできた。
「そこに居る者だな?」
「そういうこと、誘導頼んだ」
「任された」
景夜が八咫烏を喋ってる光景を見ても驚かない、海斗も景夜の昔話を聞いてある程度耐性は付いたらしい。
「こいつが誘導してくれる、後は勝手にしろ」
「ありがとう景夜、お前の話凄く楽しかった。機会があったらまたして欲しいよ」
二カっと笑う海斗に景夜は苦笑しながら答える。
「まぁ、また今度な……ほら早く行け」
景夜がそう言うと、若葉が飛んでいき海斗は急いでそれを追いかけた。
そして、眩い光が辺りを包むと海斗と若葉の姿は無くなっていた。
「……また、今度か。この世界でお前に会うのは、まだ機会がありそうだな」
景夜の呟きが誰かに聞かれることはなく、ただ静かにその空間に響いていた。
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「東郷さん!大丈夫?やっぱり今日は一回帰った方は」
あの後、少しして来た勇者部のみんなに涙を見られた美森は心配を受けていた。
「大丈夫よ友奈ちゃん。なんでもないわ」
本人はこう言っているが、その目は赤く泣き腫らした痕もある。
「ダメよ東郷、今日ばかりは流石に帰りな――」
風の言葉を遮るように、その人物は声を上げた。
「それはちょっと困るかな~なんて……どうも!東郷海斗、ただいま帰還しました!」
驚きのあまり、みんなの動きが完全に停止した。
夏凛に至っては、ニボシと柿ピーが入ったスーパーの袋を落としている。
「おっ!柿ピーじゃん、流っ石夏凜。略してさすかり!」
こんな馬鹿みたいなことを言っても、誰も反応しない。
海斗は少し不安に思って、みんなに問かける。
「あ、あれ、俺まだ起きてない?もしかしてこれ夢?」
やはり、誰も反応しない。
自分の頬を抓ってみるが普通に痛い。
「ほ、本当に海斗なの?」
美森が混乱したような顔で尋ねてくる。
「そうだよ、美森ちゃんのことが大好きな東郷海斗で日守陽向ですよ!」
飄々とした言葉遣いで、美森の質問に答える。
「……少し開けた態度になり過ぎだけど海斗ね、間違いないわ」
美森の声を聞いたみんなが、一斉に海斗に話しかける。
「海斗君!良かった~本当にもうダメかと思ったよ」
友奈が泣いてるような笑ってるような表情で言う。
「そうですよ、ホントに心配したんですから!」
樹も嬉しそうに涙を流しながら、海斗の目覚めを祝福する。
「もう~~‼何なのよアンタは、起きてそんな経ってないのにそんな態度取って!今度という今度は許さない、先輩からのキツイお説教をくれてやる!」
怒ってるようで喜んでいる風からの言葉。
「たくっ!海斗はまだまだ修行不足なのよ、これからリハビリがてらミッチリ鍛錬よ」
照れを隠しながらも、それでも心配していたことは隠さない夏凛からの言葉。
「……お帰りなさい、海斗。ずっと待っていたわ」
家族からもらう、お帰りなさい。
それがとても嬉しくて、少年の心ははしゃいでしまう。
「うん、ただいま美森ちゃん!」
少年の物語は、ここで一つ区切りを迎えた。
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日守家にて、
「銀の治療、上手くいきそうだって。お前の方も治ってきたみたいで良かったよ」
海斗は自分の目の前に座る園子の様子を見て、笑顔で語り出す。
「かーくんのお陰だよ~、あれから精霊の負担が軽くなったんだって?」
「うん、そのお陰で銀の回復も上手くいった。そろそろ目が覚める頃らしい、まずは義手の訓練からだな。まぁ、アイツ運動神経良いから簡単にどうにか出来そうだけど」
笑いながら、今後のことを語り合う二人。
以前は出来なかったが、今なら出来る。
未来を思い描くことが出来る、それが園子にとってどれだけ嬉しいことか。
「ねぇ~ねぇ~、わっしーとはどうなの?進展あった?」
園子の言葉に、海斗は笑顔で答える。
「それがさ、人目に付かない所だったらイチャついても良いって言ってくれたんだ!まぁ、そういうことはやくそくが果たされる日まで禁止だけど……」
「あらら~それは辛いね~、良かったら私の方に逃げて来てもいいんよ~」
「止めとく、美森ちゃんの信頼は裏切りたくないし。……そう言えば、転校してくるんだろ讃州中学に」
海斗は話題を変えて、なんとか園子の興味を移す。
「うん、ミノさんが回復したら一緒にね~」
彼女の声はいつも緩く感じてしまうが、それでも嬉しい気持ちは海斗にもヒシヒシと伝わってくる。
「そっか……、やべぇそろそろ夕飯食いに行く時間だ!園子今日の所はここまでだ、またここで秘密のお茶会しような!」
海斗は急ぎの用事を思い出したのか、お喋りを切り上げて園子に帰るよう促す。
「りょ~かい♪またね~」
園子は表に止めていた車に颯爽と乗り込み、すぐさま家に帰っていった。
海斗も自分の家に戻った。
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ご飯を食べ終わった後、海斗はカラオケに行く前に行く場所があると言い大赦が所有している霊園に向かった。
「確か……四列目の……在った在った」
「ここは……そういうことね」
降りて来たのは美森と海斗だけで、両親は車で待っている。
「久しぶり、父さんに母さん」
海斗が手を合わせる、その目の前には「日守家」と書かれた墓があった。
「お久しぶりです、おじさんにおばさん。美森です」
二人して手を合わせること数秒、海斗は少しづつ話し始めた。
今まであったことを断片的にだが伝えていく。
悲しかった話も、嬉しかった話も、苦しかった話も、楽しかった話も。
十分ほど経った頃に、話を止めて立ち上がった。
「二人に願われたことちゃんと出来たよ!それと、俺彼女が出来ました!これからも、俺たちを見守ってくれると嬉しいです」
大切な報告、やっとやくそくが果たせるかもしれないことと二人の願いを叶えられたという報告。
そのことを伝えかった。
「お二人とも、不束者ですがよろしくお願いします」
美森も丁寧に頭を下げる。
「……さて、行こっか美森ちゃん。父さんと母さんを待たせるのも悪いし」
「そうね、行きましょうか」
ゆっくりと車の下に歩いて行く。
強く手を繋ぎながら、二人は歩く。
もう二度、この手を離さないように。
第一章完結!
続く二章をお楽しみに!
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