東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

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 樹の誕生日会です!


樹ッチンと好きな理由

 一二月七日、樹の誕生日である。

 海斗は、犬吠埼家のキッチンに立っていた。

 

 

「樹ちゃん!違う違う!ラー油なんて入れないから!あと何で炒めるだけなのにフライ返し持ってるの!?」

 

 

「す、スイマセン!」

 風は椅子に座りながら、顔が表現しにくい感情を表していた。

 妹が自分の為に料理をしてくれるのが嬉しい、でも妹の料理を食べて自分は生きていられるのかが不安なのだろう。

 

 

 樹の料理の腕は少しどころか大分残念な感じだ。

 百人に試食を頼んだら、見た目がエグ過ぎて全員に断られる程の残念さである。

 神樹の中の世界ではなく普通の世界の方でも、海斗は樹に料理を教えたことはあるが少しマシになった程度で偶に紫色のうどんを食べさせられる。

 

 

「う~ん、樹ちゃん。もう少し塩コショウ足してくれる?」

 

 

「了解です!……このくらいですか?」

 

 

「そんな感じそんな感じ!」

 今作ってるのは定番料理でもある野菜炒めだ、簡単なので素人でも作れる一品。

 

 

 何せ、野菜を適当な形に切って、塩コショウをして炒めれば形にはなる。

 誰が作っても一定以上の味になるかわりに、作る人によってはもうワンポイント入れてオリジナルの一品を作ることが可能だ。

 今回はシンプルに塩コショウで味付けをしたので、海斗は安心しているが風はまだ安心しきれてないのかさっきの顔のままだ。

 

 

「大丈夫ですよ、風先輩!今回は普通の味付けです、不味くなりようがありませんよ」

 

 

「そうよね、そうよ!自分の妹を信じないで何が姉よ!」

 風は海斗の言葉で復活しいつもの明るい感じに戻った。

 

 

「お姉ちゃんできたよー!」

 そう言って樹が持ってきたのは、先程までとは違い何故かこの数分間の間に紫色になった野菜炒めだった。

 

 

「……海斗……どうしよう?」

 

 

「……俺に聞かれても……」

 樹は犬を思わせるように、期待の眼差しで風を見つめる。

 「褒めて褒めて!」と目が語っていた。

 

 

「えーい!ままよ!」

 風が野菜炒めを食べ始める。

 樹に見られる中、風の一口目の感想は――

 

 

「お、美味しい!美味しいよ樹!」

 

 

「や、やった!やりましたよ、海斗先輩!」

 

 

「良かったね、樹ちゃん!」

 顔色は悪くないので嘘をついている訳ではないのだろう。

 

 

 海斗が安心して使った料理道具を片付けようとした時、椅子がガタリと音お立てて倒れた。

 

 

「お、お姉ちゃん!」

 

 

「やっぱり、今回もダメだったか……」

 海斗は少し物思いに耽った後、風をベットまで運ぶのだった。

 

  -----------

 

「はぁ~、今回もダメでした」

 樹はテーブルに顔を伏せながら呟く。

 

 

「惜しかったんじゃない?結構イイ所までいけてたと思うよ」

 

 

「……そうでしょうか?」

 

 

「うん。次回からは消費期限とかちゃんと確認しようね?」

 

 

「はい!犬吠埼樹、日々精進です!」

 今回の敗因は塩コショウの消費期限切れだ、滅多にそんなことはないので確認しなかった海斗のミスでもある。

 

 

 そこら辺は反省しつつ次回の料理会に向けて、樹は闘志を燃やしていた。

 なお、何故紫色になったのかは未だに判明していない。

 反省会も終わり、今回の料理会はお開きにしようとしたとき。

 海斗は思い出したように、プレゼントが入った包みを樹に渡す。

 

 

「危ない危ない、忘れるところだったよ。はい、Happy Birthday樹ちゃん!」

 

 

「これって!私が好きな歌手のCD!どうやって手に入れたんですか?これ凄く高いし、人気ですぐ売り切れちゃったのに」

 そこは海斗だ、春信に力を借りて極秘ルートで入手したのだ。

 海斗は極秘のルートの真相を春信に聞こうとしたが、春信の暗い顔を見て聞くのを止めた。

 

 

 ちなみにだが、春信のことは夏凛の写真で買収した。

(優しいから、普通にやってくれそうだけど。そこら辺はケジメはつけないとだしな)

 

 

「ありがとうございます!大切に扱いますね」

 

 

「どういたしまして、何かそんな素直に喜んで貰えると嬉しいね」

 その会話の後、少し間が空いた。

 樹が何かを言い淀んでいて、海斗がそれを待っていた。

 

 

「私、最初のころは海斗先輩のこと苦手でした。何人もの女の人と付き合ったことがあるって噂を聞いて、元々男の人が得意じゃないのに何でそんな人が勇者部にいるんだろうって思いました」

 

 

 少し胸に刺さる話だ、海斗自身もあの頃のことはもう黒歴史でしかない。

 付き合った女の子たちには、その後散々謝って何とか許してもらったが、未だにあの時のことは少し話しづらい。

 

 

「お姉ちゃんに聞いても、あいつの心は勇者だから大丈夫!としか言ってくれなくて」

 

 

「まぁ、あの時はどうかしてたと俺も思ってるよ」

 「でも」、と付け足すようにまた口を開く。

 

 

「出会ってから分かったんです!先輩がどれだけ凄いか。いつもみんなのことを考えていて、時には誰かの為に自分自身の命も懸けようとする。そんな先輩のことを、私は好きになれました!」

 海斗はイイ後輩を持ったなぁと思っていた、同時にこんなにも熱く語る樹は珍しいとも思ってた。

 

 

「だから、これからも末永くよろしくお願いします!海斗先輩!」

 

 

「……ああ、こちらこそ樹ちゃん!」

 この日、犬吠埼樹は誕生日を迎えた。

 

 少しだけ、大人の意味が分かった。

 

 彼女は後にそう語っている。




 来週もお楽しみに!

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