東郷海斗は勇者である   作:しぃ君

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 最終話!
 


最終話「足りなかったものは(Nexus)

 朝の通学路、ちらほらと同じ場所に向かうであろう人が見えてきた。

 左から、美森・友奈・海斗の順で並んでいるため、真ん中に居る友奈の様子がよく分かる。

 呼吸が激しく、汗もかいている。

 顔色もあまりいい物とは言えないだろう。

 

 

「最近、温かくなってきたね」

 

 

「うん」

 

 

「もうすぐ春だ……」

 

 

「そうね」

 

 

「東郷さん、海斗君。私ね――」

 

 

「うん」

 

 

「なんだ?」

 

 

「結婚する…」

 

 

「「うん……うん?!」」

 

 

 彼女のそんな発言に、内容を知ってるはずの海斗も驚いてしまう。

 二人は急いで友奈に駆け寄った。

 

 

「突然ですが……結城友奈は結婚します」

 

 

「ななな、何を言ってるの友奈ちゃん!まだ中学生なのに!大体相手は?」

 

 

「そうだぞ友奈!」

 

 

「落ち着いてよ二人とも。相手は神樹様だよ」

 

 

 ここでようやく、海斗は神婚の儀の存在を思い出した。

 

  -----------

 

 放課後の部活にて、友奈は話した。

 曰く、神婚の儀をしなくては炎が壁の外から侵入して来て世界が終わること。

 曰く、神婚の儀の以外にも方法はあるが、海斗を犠牲にする生贄の儀しかないこと。

 祟りで死ぬか、神婚の儀を行って死ぬか。

 友奈は決めたのだ、神婚の儀を引き受けるということ。

 

 

「いや、怪しいでしょ。なに引き受けようとしてんの」

 

 

「ゆーゆ」

 

 

「違うと思います」

 

 

「それは違うだろ、友奈」

 

 

「みんな…」

 

 

「今のみんなの反応で分かるでしょ。友奈ちゃんの考えが間違っていることが…」

 

 

「東郷さん……」

 

 

 夏凛も無言ながらも、友奈を心配するような視線を向けている。

 

 

「くぅーー!それにしても大赦め。友奈。私たちも付いて行ってあげるからバシッと断りなさい」

 

 

「神婚なんてする必要ありませんよ」

 

 

「園子、今から大赦に連絡入れられる?」

 

 

「うん、ミノさん」

 

 

「あいよ」

 

 

「もう我慢ならない」

 

 

「行くわよ。一度潰した方が良い組織になるかもね」

 

 

 みんなが大赦本部に向かおうとした時、友奈はそれを止める。

 

 

「待って…。だから、私は神婚を引き受けるって…」

 

 

「その必要はないんだって」

 

 

「だって死ぬんでしょ…」

 

 

「訳わからない。生贄を変わらないじゃない」

 

 

「あと、神樹様と共に生きるって何なのかな?」

 

 

「その、なんかゾクッとくるっていうか…」

 

 

「あんまり良いもんじゃなさそうだよな~」

 

 

「とても幸せなこととは思えないわ」

 

 

 誰もが友奈の意見を否定する。

 友奈の言ってる言葉を説明するとこうだ。

 

 

「みんなの為に私が犠牲になるから、みんなは幸せに生きてね」

 

 

 こんな言葉に賛同する者など、この部室の中には一人も居ない。

 

 

「で、でも、私が神婚しないと。神樹様の寿命がきて、世界が終わっちゃうんだよ?」

 

 

「……なぁ、友奈。お前の神婚=神樹様の寿命回復に繋がるのは知ってる。でも、お前に行って欲しいなんて誰が言った?大赦の連中は言ったかもしれない。けど、俺たちの中でそんなこと言ったヤツ居るか?」

 

 

「海斗の言う通り。友奈がいく必要はない」

 

 

 海斗と風の言葉に、友奈は押し黙る。

 少し頭を俯かせて、痛む胸に手を当てて必死に考えた。

 納得させる方法を。

 みんなが自分の決めたことに、賛成してくれる方法を。

 

 

「風先輩。勇者部は……人の為になることを勇んで行う部活でしたよね?」

 

 

「友奈これは違う!」

 

 

「でも、これも勇者部だと思うんです。誰も悪くない、世界を守るために他に選択肢がないなら。それしかないなら、私は勇者だから」

 

 

「友奈!ちょっと頭冷やしな」

 

 

「ゆーゆ、それしかないって考えるのやめよう。神樹様の残った寿命で他の方法を考えよう」

 

 

「そ、そうよ」

 

 

「無理だよ!この半月、海斗君は寝る間も惜しんで探してくれたけど何も見つかってない!私にもう時間が……」

 

 

 その言葉の途中で、友奈は口に手を当てて塞いだ。

 見えた、見えてしまった。

 海斗以外の全員に、祟りが。

 

 

「私たち知ってるわ。友奈ちゃんが天の神からの祟りで、体が弱っていることを」

 

 

「その話はもうやめて!私は何も言ってない!」

 

 

「友奈ちゃん大丈夫よ」

 

 

「その件も含めて解決してみせるから…!」

 

 

「大体可笑しいんです!何で友奈さん一人がこんな目に遭わなきゃいけないんですか!」

 

 

 樹の言葉に、早口になりながらも、言葉を口にする。

 

 

「でも、でもね樹ちゃん。私は嫌なんだ。誰かが傷つくこと…辛い思いをすることが。それを今回は私一人が頑張れば……」

 

 

「ダメよ!友奈ちゃんが死んだら、ここに居るみんながどれだけ傷ついて辛い思いをすると思っているの……!私、想像してみたけど。後を追って腹を切ってるかもしれない!」

 

 

「でも、海斗君だって一人でずっと戦ってたし。東郷さんだって、みんなを守るために火の海に行ったんでしょ。あれだって自分一人で世界を救えるならって思ったからでしょ!」

 

 

「そうだな、でもあれは俺のお役目だ。日守にはそういう決まりがある」

 

 

「そうよ、でも壁を壊した私の自業自得でもあるのよ!友奈ちゃんは悪くないじゃない!反対よ!腹を斬るわよ!」

 

 

 二人は確かに自己犠牲をした。

 片方はお役目の為、片方は自分の罪を償う為。

 どちらも、自分一人でなんとか出来るならを思い。

 そのお役目を引き受けた。

 二人とも、みんなの日常を守りたくて自己犠牲を選んだ。

 

 

 でも、どちらも友奈とは違う。

 似ているようで全く違う。

 それしかないから、自分を犠牲にする。

 ……少女は諦めているのだ。

 自分が助かることを、自分の命を。

 

 

「そんなの、ズルいよ。私は、東郷さんの代わりに……」

 

 

「代わりに……なに友奈ちゃん」

 

 

 自分の失言に気付くがもう遅い。

 出てしまった言葉は取り消すことは出来ない。

 世の中はそんなに甘く出来ていないのだ。

 だからこそ、今こんな状況になっている。

 

 

「友奈さん。友奈さんが言うように、勇者はみんなを幸せにするために頑張らなきゃいけないと思うんです」

 

 

「そうだよ、だから私頑張ってるよ」

 

 

「で、でも……」

 

 

「みんなって言うのは、自分自身もそこに含まれているのよ友奈」

 

 

「し、幸せだよ私は……それで、みんな助かるなら……」

 

 

「嘘よ!」

 

 

「勇者部五箇条。なるべく諦めない!私はみんなが生きる可能性に懸けているんだよ!」

 

 

「友奈が生きる事諦めんのはダメだろ!」

 

 

 友奈の五箇条を使った言葉は、銀に正論で言い返される。

 

 

「勇者部五箇条。成せば大抵なんとかなる!成さないと何にもならない!」

 

 

「友奈五箇条をそういう風に使わない!」

 

 

 五箇条を都合のいいように使おうとする友奈を、風が言葉で制す。

 だけど、友奈は止まらない。

 いいや、止まることが出来ない。

 もう、来るところまで来てしまったから。

 

 

「私は、私の時間がある内に。私が出来ることをしたいんです!だから、みんなにキチンと相談しました」

 

 

「これじゃ報告だよゆーゆ。相談しなきゃ」

 

 

「相談してるよ」

 

 

「友奈……その…とにかく無理すんな…」

 

 

「無理してないよ!」

 

 

「ご、ごめん」

 

 

「勇者らしく、私らしくして――」

 

 

 パチン!

 言葉の途中で、そう乾いた音が響いた。

 誰かが友奈を叩いたのだ。

 叩いたのは……

 

 

「海斗……君?」

 

 

「友奈。何で全部一人で抱え込むんだ?何で一人で片付けようとするんだ?俺だって抱え込んだよ、誰にも相談できなくて潰れそうになった」

 

 

 そうだ、海斗だって、美森だって抱え込んだ。

 二人はやっぱり姉弟だ。

 仲間の事を本当に大事に思っていて、その所為で抱え込んでしまう。

 

 

「なら!なんでこんなこと……」

 

 

「俺がお前らを頼らなかったのが何でか分かるか?カッコ悪いからだ。男なのに自分が守りたいって思ってる女の子に頼るなんてカッコ悪いだろ?理由なんてそんなもんだ!」

 

 

「じゃあなんで!」

 

 

「お前が諦めてるからだよ!逃げんのは良い、逃げることは負けじゃねえ。そんなことなら怒りはしない。でも、お前は違う、助けたいとか言ってるだけで自分の命を諦めてる。勇者なんだろ?だったら足掻けよ!命が尽きる最後の一秒まで足掻いて足掻いて、それでも無理だったらしょうがない」

 

 

「そんなの……無理だよ!出来っこない!」

 

 

「じゃあ、俺を頼ればよかっただろ!辛かったら辛いって、苦しかったら苦しいって。そう言ってくれれば俺だって……。頼んのを逃げって言うかもしれないけど、お前の場合は違うよな?負担を掛けたくない?そんなのどうだっていい!俺はお前の仲間で、大切な幼馴染なんだよ!俺はお前のためだったら命懸けたって構わない!」

 

 

「そういう所だよ……そういう所があるから海斗に言えないんだよ!」

 

 

 そう言って、友奈は部屋を出ていった。

 それに続いて、園子と美森も後を追う。

 全てを言い切った海斗はスッキリした顔だった。

 

 

(後は……なんなとかなるか)

 

 

 友奈は最後に海斗に対して、本音で答えた。

 海斗はそれが嬉しかったのだ。

 本音を言い合える関係はまだ崩れていない。

 だったら、まだ何とかなる。

 天の神襲来まで……もう少し。

 

  -----------

 

 英霊之碑、その場所に待ち構えていたのは安芸だった。

 話した、神婚の意義を。

 話した、二年前の銀の活躍を。

 話した、外の炎をどうにかする方法も、友奈の祟りをどうにかする方法もないことを。

 話した、子供を犠牲にしないと続かなかったこの世界の事を。

 

 

「ピーマンが嫌いだったよね?凄く厳しいけど、ふとした時に見せるチャーミングな所が好きだったよ。でも、今は……昔の安芸先生じゃないんだね」

 

 

「アタシも、いっつも怒られてばっかだったけど。先生が私たちのことを思ってくれてるの知ってた」

 

 

「銀の時、一緒に悲しんでくれたのに。その辛さを知ってるのなら!もう一人も犠牲なんて!」

 

 

 恩師だった。

 色々と大切なことを教えて貰った。

 大好きだった人で、変わって欲しくなかった人。

 

 

「あなたたちのクラスメイトは、その友達は、家族は。もうすぐ来る春を待ち遠しく思いながら、家でうどんを食べて。暖かい布団で寝て、今日も平和な日常生活を送っている。少々の犠牲、このやり方で。大部分の方が幸せに暮らしているのです」

 

 

「それなら……あなたたちが人柱になればいいのに」

 

 

「風先輩!それは違います……それだけは言ってはいけません」

 

 

「出来るものなら、そうしています。けれど、私たちでは神樹様が受け入れない。こういうことに行かれるあなたたちだから、受け入れているのか……」

 

 

 安芸がその言葉を言い終わった瞬間、スマホから嫌な警報音が鳴り響く。

 「特別警報発令」、天の神が来た。

 世界が揺れる、結界ごと壊して浸食していくつもりなのだろう。

 

 

「ちょっ!なによこれ!」

 

 

「あなたたちの出番です。天の神は、人間が神の力に近づいた事に怒り、裁きを下したと言われています。人間が神婚するなど以ての外」

 

 

「バーテックスが……来る……!」

 

 

「いいえ」

 

 

 空が焼ける、この比喩のような表現が適格だ。

 空が焼け爛れるとはこういうことを言うのだろう。

 巨大な雲雷が、世界を浸食していこうとする。

 あれが天の神だ。

 

 

「神婚は、友奈様が神樹様の下へ行き。人々の願いの礎になることで契られ、成立します。神婚が成立すれば、人はもう神の一族。人でなければ襲われない。これでみなは、神樹様と共に平穏を得ます。これが最後のお役目。敵の攻撃を神婚成立まで、防ぎ切りなさい」

 

 

「……言われなくてもやってみせますよ……」

 

 

 樹海化が始まり。

 戦いは最終局面に。

 

  -----------

 

 樹海化が終わり、海斗たちの目の前に居たのは……

 

 

「ア……アベル!どうしてここに?!」

 

 

「さぁな、俺が知るかよ。……神樹が俺を防衛機構として復活させたんだよ、死人を蘇らせるとか。良い趣味してるよ、おたくの神様」

 

 

「……海斗?」

 

 

「美森ちゃんと風先輩で友奈の所に、それ以外はデケェ鏡野郎(天の神)の迎撃だ。満開は各自の判断で使ってくれ」

 

 

「……どうせ、何か策があんだろ?そんな顔してるぜ。……時間は稼いでやるから、早くしろよ糞兄貴!」

 

 

「ふん!そっちこそ、簡単に死ぬんじゃねぇぞ!信長!」

 

 

「おう、任せとけ!」

 

 

 また、激しい光に包まれた海斗は一人。

 ある場所に向かった。

 

  -----------

 

 高天原、本来なら霊体しか入れない場所に海斗は居た。

 目の前に居るのは、優しそうな青年。

 慈悲深さが体から溢れ出してるようだ。

 海斗はゆっくりと息を吸い込んで、冷静さを保ちながら――伊邪那岐神に話しかけた。

 

 

「あなたが伊邪那岐神様でしょうか?」

 

 

「はい、ここまでよく来ましたね。東郷海斗……日守陽向でもあったか」

 

 

「……景夜から話は聞いてると思いますが。お願いします、どうかあなたの力を貸してください!」

 

 

 海斗は頭を下げる、綺麗に腰を九十度に曲げて。

 伊邪那岐はそのことに驚き、急いで頭を上げさせる。

 

 

「海斗くん頭を上げて。大丈夫、力は貸すから。条件はあるけどね」

 

 

「条件ですか……一体どんなものでしょうか……?」

 

 

「な~に簡単さ。娘である天照大神が人を殺すのを止めて欲しい。私の力を使ってね」

 

 

「分かりました!任せて下さい!」

 

 

「それと、これは忠告。君たちの……満開ゲージだったか?それに負担を肩代わりさせたところで、持って二分弱。満開ゲージが切れてからは、寿命を代償にしなきゃいけない。景夜だったら一ヶ月寝るくらいで済むんだけど、海斗君は少し私が渡した天津神の力が薄れてるからね」

 

 

 有り難い忠告ではあるが、それに構ってられるほど海斗に……いいや、人間に余裕はない。

 素直に聞きたいが、今回はその忠告を守ることは出来ないだろう。

 

 

「ご忠告ありがとうございます。それでは、仲間が待っていますので」

 

 

 海斗は下半身から徐々に消えていき、数秒の内にいなくなってしまった。

 残ったのは人間体になった景夜だけだ。

 

 

「行かなくていいのかい?」

 

 

「すぐ行くさ……どうだった?俺の子孫?」

 

 

「うむ、中々に良い目をしていたな。お前を……人を信じて良かったと思うよ、本当に」

 

 

「そうかい、それじゃあな。また戦いが終わったら暇つぶしに来てやるよ」

 

 

 景夜も海斗の後を追うように姿を消す。

 伊邪那岐はそれをただ見つめていた。

 彼らが勝つことを祈って。

 

  -----------

 

 元の樹海に帰ると、アベルが血だらけで倒れていた。

 ……一目見ただけで分かる。

 これは致命傷だ。

 腹部には拳大の風穴が空いている。

 もう手遅れだ。

 

 

「……バカだな、こんなになるまで戦って」

 

 

「うるせぇ…こっちの勝手だろうが。それで、どうなん…だ?」

 

 

「お前が稼いでくれた時間のお陰で、何とかなりそうだ。ありがとな愚弟」

 

 

「どういたしまして、糞兄貴」

 

 

 お互い軽く口を言い合ってるが、もう二人に時間は残っていない。

 アベルは、最後に言わなければいけないことを思い出し海斗に伝える。 

 

 

「なぁ、兄貴?俺、勇者になれたかな……?なれてたら良いな」

 

 

「……お前の戦いっぷりは見てなかったけど、誰かの為に戦うことが出来たお前は立派な勇者だったよ……!」

 

 

「ホント、変な兄貴だな。俺が死んで泣くなんて…」

 

 

「うるせぇ、泣いてねぇ」

 

 

 勇者服の袖で涙を拭い、立ち上がる。

 武器を構えてこう言った。

 

 

「アベル、先にあっちで待ってろ。ゆっくりノロノロと行ってやる」

 

 

「……俺が行くのは地獄だよ。ボケ兄貴が……」

 

 

 そんな言葉を最後に、アベルは眠るように息を引き取った。

 涙は流さない、流してはいけない。

 背中を押されてきたから、振り返ってはいけない。

 

 

「景夜。これまでの勇者がなんで天の神に勝てなかったと思う?」

 

 

「あん?俺たちのことバカにしてんのか?」

 

 

「そうじゃねぇよ……。俺が思うに、足りなかったじゃねぇかな?愛と平和を願って戦うだけじゃ」

 

 

「……さぁな、だとしたら。お前はどうするんだよ?」

 

 

「決まってんだろ!愛する人を守りたいという願いと、平和な日常を守りたいという願い。最後に俺は自分が紡いだ絆を持って戦う!」

 

 

「愛と平和を結ぶのは――絆か……。面白いな、流石だよお前は」

 

 

「だろ、行くぞ景夜。俺たちが、勇者の歴史を終わらせる。お前と俺(原点と終点)の力で!」

 

 

「行くぞ、海斗!」

 

 

「変身!」

 

 

 海斗の周りを昼顔の花弁が舞う。

 それと同時並行で、海斗の変身が行われていく。

 これが、きっと最後の変身。

 

 

「降りよ、伊邪那岐神‼」

 

 

 海斗の勇者装束は変わらない、だが纏う雰囲気が先程とは格段に違う。

 神々しいまでの輝きが、海斗の周りを包む。

 これから二分、いや五分は粘らなければいけない。

 

 

「上か!」

 

 

 瞬間移動で移動し、夏凛の隣に海斗が現れる。

 近くには園子や樹も居て、海斗の行動に驚いているようだ。

 けど、海斗はそんな事を気にすう様子はなく。

 夏凛の頬にそっと触れる。

 すると、夏凛の身体が淡く発光しだした。

 

 

「いきなり現れてなんなのよ!?」

 

 

「良いから黙ってろ」

 

 

 神通力を使うのは集中力が必要不可欠。

 景夜はさも当然のようにやっていたと言ったが、海斗からしたら傷を治すだけでも億劫に感じる。

 

 

(おい!景夜!もう少し簡単じゃないのかよ?!)

 

 

(しょうがないだろ!俺とお前じゃ色々スペックが違うんだよ!)

 

 

 心の中で景夜に愚痴りながらも、天の神への対処も忘れない。

 サジタリアスの小さい矢が繰り出される。

 海斗は神通力を使い、下方にいるキャンサーの反射板を圧縮して壊し。

 次に、優に十万を超える火縄銃を生成。

 神樹に落ちたりダメージがフィードバックするため、全力放火ですべての矢を撃ち落とす。

 

 

「俺たちの街に、落ちんじゃねぇ―‼‼」

 

 

 渾身の攻撃は見事成功。

 海斗はもう一つの秘策を切る。

 これが成功すれば、確実に勝ちへの一歩を踏み出すことが出来るのだ。

 

 

「来い!天逆鉾」

 

 

 どこからともなく、それは飛んできた。

 西暦時代、景夜が武器としていた使っていた神器。

 海斗が思い描く中で、この武器が自分たちが持っている中で最強なのは確かだ。

 

 

「…かーくん、どこまで犠牲にしてるの?」

 

 

「どこまでだろうな?悪いけど、悠長にお喋り出来る程余裕はない」

 

 

 海斗は天逆鉾に神通力で神の力を込めていく。

 その所為で、満開ゲージは後一割の残っていない。

 

 

「ホント、ズルいね~?」

 

 

 園子の問いに答えることはなく、絶技の為の準備を終える。

 絶技とは、天逆鉾の全力開放。

 詠唱が必要な上に一度の戦闘で一回しか使えない秘密兵器。

 その真価は、槍の穂先に日本国土の総質量を載せて放つというもので、日本神話での伊邪那岐神と伊邪那美神の国造りの再現に近い。

 

 

「これは、絆により作られた最高の一撃」

 

 

 握る柄の部分に力を籠める。

 

 

「大切な者を守るため、大切な明日を守るため」

 

 

 ……後はもう、投げるだけ。

 体制を整えて、最後の一節を唱える。

 

 

「花を結った勇者たちの想いを載せて」

 

 

 言い切った、その安堵から力が抜けそうになる。

 天の神も力を貯めているのか、レオの巨大な火球を作っていた。

 

 

(そんなのに!負けてたまるか!)

 

 

(行くぞ海斗!これが、俺とお前の力だ!)

 

 

絆によって作られた、最高の一撃(Nexus the supreme break)!」

 

 

 放たれたの絶技は、景夜が前に使った時とは威力の桁が違った。

 あれを超える攻撃を出来る者は、そうそう居ないだろう。

 レオの火球を切り裂き、そのまま天の神本体(鏡のようなもの)に直撃した。

 鏡は所々ヒビが入ったが、まだ天の神は健在のようだ。

 

 

「嘘、あれを喰らってもピンピンしてんの」

 

 

「そんな、それじゃあ。どうすれば」

 

 

「……かーくん?」

 

 

 こんな状況でも、海斗は笑っていた。

 あと少しなのだ。

 後は叫ぶだけ。

 

 

(景夜、お前も他のみんなみたいに行ってやってくれ)

 

 

(おう!任せときな)

 

 

「友奈―!聞こえてるだろ!俺の話をよく聞け!……諦めるな、目の前にある手を掴み取れ!それと、思い出せ!お前のことを大切に思ってくれてる人たちのことを!」

 

 

 全てを言い終わった海斗は、ゆっくりと敵を睨み返す。

 まだ終わっていないし、終われない。

 

 

「もう少し付き合ってくれよ!天の神!」

 

 

 そこからは、本当に神対神の戦いだった。

 

 

  -----------

 

 あの言葉から五分、どれほどの寿命を持っていかれたのだろうか。

 五感の機能は、残ってはいるが。

 吹いたら飛ぶレベルの残りカス。

 消えるのも時間の問題だろう。

 しかし、間に合った。

 

 

「ごめんね海斗。遅れちゃって」

 

 

「別に待ってなんかねぇよ。早く行け!」

 

 

「うん!」

 

 

 友奈が天の神に向かって行くのを見送り、海斗は地面に向かい自由落下を始める。

 もう既に意識はなく、体も端から砂に変わっていった。

 

 

 その日、空に七枚の花が咲いた。

 




 次回もお楽しみに!

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