「またここか……」
目が覚めて一番最初に見つけたのは、アベルと景夜。
……神樹様の中に居た。
少し驚くも、何でもないように二人に声を掛ける。
「よっ」
「よっ。じゃねぇよ!何死んでんだ!このボケ兄貴!」
「全くだ……。まぁいい、ここに呼ばれた時点で何となく察しは付いてるだろうが……。今、神樹が残った力を使ってここを維持している。
景夜はそう言うと、ある方向に向かって指を指す。
そこに居たのは、二人の若い男女だった。
でも、どこかで見たことのある男女だ。
気弱そうな男性に、快活そうな女性。
何を隠そう、
「父さんに母さん……なんでここに?」
「俺が橋渡し役になって連れて来てやったんだ。……選択肢は二つ。一つは、極楽浄土――分かり易く言うと天国に行ってあの二人と過ごすか。おまけでアベルも付いてくる」
「おまけとか言うな!」
「二つ、神樹に新しい体を作って貰い現世に戻る。さて、どうする」
「なぁ、二人と話していいか?」
「どうぞ」
景夜とアベルの間を通り、両親の下に向かう。
緊張してガチガチになってしまっているが、それでも二人は優しく抱きしめてくれた
母である日守
「久しぶり、父さんに母さん」
「ええ、久しぶり。見ない間に、随分大きくなったわね。うんうん、健太さんにて優しそう」
「それを言うなら、藍子に似て明るい子だよ」
「……俺さ、二人にいっぱい話したいことがあって。ホントは数分じゃなくて一日中話していたい。でも、少ししか時間がないから。一言だけ言わせて欲しい……二人の息子になれて良かった。俺を生んでくれてありがとう!」
「私たちも、あなたみたいな息子を生んで良かった」
「うん。本当によく育ってくれた。陽向が息子に生まれて来てくれてよかったよ」
抱きしめていた腕に、より一層力を籠める。
ここに居られる時間は少ないから、思いを込めて抱きしめた。
二、三分程抱きしめた後。
海斗は二人から離れ、笑顔で言った。
「行ってきます。父さん、母さん」
「「行ってらっしゃい」」
景夜の方に戻り、アベルの顔を見る。
泣いていた。
それが少し悲しくて、アベルの背中を押す。
背中を押されたアベルは、チラチラ後ろを振り返りながら二人の方へ歩いていく。
「景夜……悪いけど。俺はあっちには行けそうにない、みんなの所に戻るよ。アベルの方を頼む」
「良いんだな?」
「大丈夫」
「…そうか、分かったよ。体はもう用意できてる。早く行け……」
「お前と過ごした時間、悪くなかったよ」
「俺もだ」
言葉少なく、海斗は光になって消えていく。
こうして、長かった勇者の歴史は幕を閉じた。
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最後の戦いから二ヶ月以上の時が経った、ある日の部活。
部長は樹が引き継ぎ、今日も今日とて勇者部活動をしていた。
そんな中、銀と海斗が居残り組で暇を持て余していると。
不意に、銀が不思議な体験を話し始めた。
「なぁ海斗?」
「なんだよ?」
「お前は、アタシが片腕失くした時の戦い聞いた事あるっけ?」
「聞いてないし、出来れば聞きたくないな。生々しい話はごめんだ」
「違うんだって、あの時本当はアタシ死ぬ直前だったんだよ」
そんなの病院で嫌と言うほど見た。
銀が実際に生死の境を彷徨っている間、あの病院に定期的に言っていた海斗は知っている。
あの時、どれほど危険な状態だったかを。
「確か、銀髪の男の子が助けてくれたんだ。きもーち、海斗に似てなくもなかった」
銀の言葉に、海斗は座っていた椅子から滑り落ちるほど驚いた。
海斗が思うに、その男の子は十中八九景夜だ。
銀髪で、気持ち海斗と似ている。
それに加え、樹海に入ることの出来る存在。
海斗が知る限り景夜しかいない。
「大丈夫か?!」
「何とかな……。その話、詳しく聞かせてもらって良いか?」
その日、退屈は銀の話で吹き飛んでいった。
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卒業式も終わり春休み。
東郷家は休みを利用して、家族旅行に出かけていた。
神樹様が居なくなってからは資源が高くなったが、それでも貯金は幾らかあるため少しくらいのんびり出来る。
因みに、お隣さんである結城家も同行し、とても賑やかだ。
大人は大人、子供は子供で部屋を取り。
それはそれは穏やかな休日を過ごしていた。
ここ最近は防人と呼ばれる集団が、外の世界の土壌調査や水質調査を行っているらしい。
海斗も、夏休みを利用してそこに加わることが決定した。
事前に防人の者達とも話をしたことがあるが、とても善い人だったのを覚えている。
若干名キャラが濃いものも居たが……
「海斗?どうかしたの?」
「海斗、何かあったの?」
「ううん、特には……。にしても、二人とも似合ってるな。美森ちゃんが着付けしたのか?」
「そうよ♪」
「似合ってるだって!やったね東郷さん」
「そうね!友奈ちゃん!」
二人がじゃれている間に、海斗はスマホである計画の企画書を作っていた。
地域への移住。
もし、土壌に問題がなければ。
作物を耕すことは可能だし、建物だって作り直すことが出来る。
まだまだ、これからが正念場だ。
「アベル……お前との約束。もう少し時間が掛かりそうだ」
空を仰ぐ、光輝く太陽が見えた。
世界は取り戻した、でも本当の世界が戻ったとは到底言うことが出来ない。
人間の物語は終わらない。
「美森ちゃん、友奈。卒業旅行どこ行くか?」
「う~ん……どうせだったら、外に行ってみたいな!」
「そうね、京都や奈良なんか良いわね」
未来を思い描く。
明るくて、楽しくて、きっと苦しいものになる。
それでも、やくそくは守らなければいけない。
「結婚どうするかな~」
人間は歩き続ける、止まることなく。
まだ見ぬ
当初の終わりと少しずれてしましましたが、これにて本編は終わりです。
この後の世界で、海斗たちがどう生きていくかは誰にもわかりません。
勿論、私にも。
最後に、このお話の作品のテーマは「絆」です!
「柊景夜は勇者である」と「東郷海斗は勇者である」のシリーズを通してのテーマを上げるなら「諦めない心」ですかね。
今後もお誕生日回などはちょくちょく投稿します。
この作品が、どうかみなさんの心に少しでも感動を与えられたら嬉しいです!
では~