それぞれのシーズン   作:四月朔日澪

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水出しコーヒーを作ってみました。浸漬法はそんなに美味しくない...


秋の頃1

天国と地獄-県内一の県立進学校があると思えば、クズの掃きだめのような底辺校が所在する。そのことから岐阜県の西部にある網岡市の高校群はそう呼ばれている。その地獄である拓流大学網岡高等学校(通称・濁流)はいじめ、万引き、暴力沙汰...etcと底辺校の最頂点とも言える高校だった。入学者数の減少を防ぐため、上層部はタレント学科を設立し大手事務所と契約し濁流高校には芸能人が次々と入学した。

 

**************

濁流高校-体育館裏

 

「テメェなめてんちゃうぞオラァ」

金髪の男は体格的にも劣勢の少年に無慈悲に蹴りを入れる。少年は無抵抗に蹴りを受け地面に転がる。

「立てよ。オイこれで済むと思うなよ」

「ごめんなさい....」

「ごめんで済んだら警察要らねぇんだよ」

地面に倒れる少年に金髪の男は鉄砲玉のように蹴りを入れ続ける。少年の視界にはタバコを吸う教師の姿が見えるが教師は目を逸らす。この高校は明らかな暴力があっても事なかれ主義の教師が黙認する無法地帯なのだ。

「俺、昨日言ったよな?涼佳に付きまとうのはやめろって」

「...僕は言いましたけど....その..高木さんが...」

もごもごと話す少年の髪を金髪の男は無造作に鷲掴む

「言い訳はいいんだよ。『分かったな?』」

「はい...」

 

 金髪の男は「涼佳にチクったらタダじゃ置かねぇからな」と脅し文句を置き残し去り、少年-こと佐藤隆之は拷問から解放され、制服に付いた砂を払う。佐藤隆之はこの濁流高校では弱者だ。中学時代から勉強が出来なかったため家が近くという理由もあり濁流高校に入るしかなかったのだ。不良やならず者予備軍だらけの中に入学するなどオオカミの群れに子羊が突入するようなものだ。黒髪に眼鏡、勉強もスポーツも駄目で顔も可でも不可でもない褒めるところが何もない凡庸な少年だが神は過不足の補填なのか試練なのか彼にイチブツを与えた。

 

「あーやっと来た!先に帰ったかと思った」

「ごめんなさい」

校門で携帯片手に隆之に声をかける美少女は高木涼佳(りょうか)、例のタレント学科所属の読者モデルであり隆之の彼女である。オキシドールで脱色した周りのいやらしい茶髪とは違う艶のある栗毛色の長い髪、漆のような黒い瞳と長いまつげ...網岡のような小都市にいることが奇跡的な女子高生だ。そんな彼女の彼が平凡で何のとりえもない男なのだ多くの男は妬むだろう。先ほどの金髪の男もその一人だ、彼はそんな男子により酷い仕打ちを受けてきた、彼女が知らぬところで...

「なんで電話にも出なかったの?鬼電したのにぃ」

涼佳は頬を膨らませて怒る。隆之は携帯を開くと待ち受け画面には「不在着信15件」と乗っていた。

「ごめんなさい...」

「携帯見ないの?」

「見るような用事もないので...」

「見せて見せて~」

涼佳は無邪気に隆之の携帯を取り携帯をいじる

「本当だぁ~何もアプリ入ってない~リュウ君おじいちゃんみたい~あはは」

「携帯は連絡用とか調べものに使うものだと思ってるので...そのゲーム機にしたりするのは..」

「リュウ君まじめくんだもんね。そっか~えへへ。リュウ君のこと許しちゃう~ほら、ニューアクアに行こ~」

 

 涼佳は隆之の腕を組み、ショッピングモールのニューアクアに向かった。駅への連絡橋があり、帰り道の途中にあるニューアクアのフードコートは高校生のたまり場である。ハンバーガーのセットを二人は買い、とりとめのない話をしていた。

「いいアクセサリーを見つけたんだけど~今度リュウ君と一緒に行きたいなぁ♡って買わなかったんだ~」

「じゃあ今度一緒に見に行きましょう」

「やった~リュウ君とデート♡絶対に予定空けておくね!いつがいいかな~」

「僕はいつでも大丈夫ですから....高木さんの空いているときに合わせますよ」

「早くしないとあのアクセサリー無くなっちゃう~再来週とかどうかな!」

「いいですよ」

「うんじゃあ決まり~それでリュウ君は何かあった?」

「え?」「話題~」

「いや....そんな..何も...」

「え~つまんない~私ばっかり聞いてもらってるもん。リュウ君のお話も聞きたいな♪」

家に帰ったら何もせずただ寝るような隆之に話題などあるわけもなく頭を振り絞っても一つも出てこなかった。

 

『分かったな?』

 

隆之は金髪の男に言われたことを思い出した。隆之は前々からあの男から別れないと酷いぞと脅されていた。しかしここまで来ても別れを告げることが出来ず放課後にリンチに遭うのがここ最近のルーチンになっていた。今がそのチャンスではないか...隆之は声を振り絞り、

「た、高木さん......その.....わ....わ..和歌って誰の句が好きですか?」

自分でも思った。『お前何いってるんだ』涼佳はよく分からない質問に首をかしげていた。

「う~ん。ばしょーさん?」

「いや、松尾芭蕉は俳句なので歌人ではなく俳諧師なんです...」

網岡は松尾芭蕉の奥の細道むすびの地である。網岡に住んでいるものなら皆が知っている偉大な偉人で市のマスコットも「ばしょーさん」というくらいだ。

「え?俳句と和歌って違うの~」

「えっと...俳句は5・7・5の17字で和歌は5・7・5・7・7の31字で...ってそんな話じゃなくて..」

「リュウ君は誰の歌が好きなの~?」

「そうですね。どれも捨てがたいですが正岡子規ですかね..正岡子規は日本の歌壇中興の祖で俳句のイメージが強いですが、和歌も大変秀逸で『松の葉の葉毎に結ぶ白露の置きてはこぼれこぼれては置く』という和歌は松の葉に滴る露を写実的にしたためた子規のセンスは光っています」

「リュウ君、古文の先生みたい~」

「あ、いや...そういう話じゃなくて...わ...」

「あ、いっけな~いもうすぐ撮影だ~これ食べていいよ~」

食べかけのポテトを隆之に渡す。

「片づけお願い~あ、そうだ」

フードコートを小走りして少し離れたところで振り返り、

「また今度お話聞かせてね。リュウ君♡バイバ~イ」

「あ.....じゃあまた明日」

隆之は小さく手を振る。今日もまた言えなかった...またしばかれるなぁ...

 

**************

網岡駅改札-

 

「やっほ~」

「どうだった」

「ん~今日も言えなかったよ~」

「本当にトロいやつだぜ。まぁしばらくはサンドバッグにさせてもらうかな。ったくあいつも馬鹿だよな。お前みたいなやつが涼佳みたいな上玉と付き合えるわけねぇだろって。とんだお笑い草だぜ」

「..うんそうだね~ほら行こ~」

「今日も大須でお前のために俺のビートを響かせてやるぜ」

「キャーカッコイイ~♡」

涼佳は金髪の男の腕を組み二人で改札を抜けた

 

**************

 

「はあ....」

隆之は茫然自失で連絡橋を渡る。今日も別れを告げられなかった。というのも自分から彼女に告白したわけではなく彼女から告白された手前、振ることに躊躇いがあるのだ。彼は二人がグルなことも知らず解決できぬ悩みを抱いていた。

 連絡橋から駅の改札、そして南口に出る。学校とショッピングモールは北口に出てすぐだが、自宅は南口にある。南口は寂れた商店街が続く。そんな寂しい帰り道を歩く...

「ん?」

隆之はあるお店に目を止める。コーヒー専門店とある。商店街には数年前市の『あみおかコーヒー』キャンペーンでコーヒー専門店が乱立したが宇田川榕庵(*1)と網岡市との関連性がイマイチだったことからバタバタと閉店していった。まだその生き残りがあったとは..落ちこんだ気持ちを収めるのに一杯飲んでみるか...

 

隆之の身体はコーヒー専門店に向かっていた。

 

*1)宇田川榕庵...長崎でコーヒーを飲み、コーヒーに「珈琲」と当て字を付けた中津藩藩医。網岡市のモデルとなっている岐阜県大垣市でも実際「おおがき珈琲」プロジェクトがあったが、宇田川榕庵の父が大垣藩の江戸藩邸掛医であった(父もまた大垣藩の出身ではない)という接点だけでまちづくりに使うのはおかしいという意見と岡山県中津市から抗議があったことから事業は凍結した。




閲覧ありがとうございました。
女って怖い...(旦那を熱湯風呂に入れる妻?知らねぇな)
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